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第57話 コーリー、サハリー、シェリーに2000Pずつ。

ダンジョンあるあるその20

自分で決めたルールは大体破る。

都度調整が可能な自分だけを縛るルールは、容易く破ってしまい、ダンジョンの発展が遅れてしまうこと。

「さあて、お話合いでもしましょうか。わたし達とーっても気が合いそうだし」

「そうだなっ。2人共中々の根性力、同じ干支年長組として嬉しい限りだ」

「せやなあ、ツーと言ったらカー、そんな仲にならんとなあ」


「何から話そうかしらね、あら? ……あの子達、とっても可愛いわね」

「ん? ああアリス達か、確かに良い根性をしている。しかしどうやら喧嘩をしているようだ」

「そらあかんな。仲直りしてもらわな」


「じゃあそのお手伝いにいかないとダメね。だって仲裁は年長者の役目でしょう? フフ」

「エリン、その通りだ。アタシ達の役目はまさにソレ、根性だっ」

「ほな行こか。あんな手こんな手を使っての仲直り大作戦や。クックック」


 とても楽しそうな顔をしている。


 生き甲斐、そう呼べることをしている者はきっとそんな顔をするのだろう。

 俺はそんな人を幸せ者だと思う。生き甲斐を持てる人なんてそうそういない、ましてやそれをやれている人なんて滅多にいない。


 だから止めることなんてできない。

 俺に言えるのは一つだけだ。


 逃げてくれ。


「さあ行きますよ主様ー。それーっ」

「そして俺を逃がしてくれーっ」


 生き生きとキラキラと、そんな表情でこの子はなんてことをするのかしら。


 エリン、カノン、ケナン。

 君達3人はほどほどにしてこういう事態にならないように気をつけて下さいね。


「ふう死ぬかと思った」

 巧みな交渉術により、生きる、というその3文字だけを守り通した俺は、新たな仲間である干支の7体目から9体目の生成に入る。


 子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥、午未申。


 成長させるという信念と目的を持ってやってきた干支階層だが、それもとうとう後半の部に突入した。


 侵入者達は、逃げる敵を追いかけ、罠を乗り越え、戦術を学び、道に迷いながらも勇気を出し仲間を信じてここまでやってきた。

 最初の頃に比べて随分成長したことだろう。


 もう残り半分、試練を乗り越え一人前に、そして天空城砦でも戦い抜ける強者となって欲しいと思う。

 俺はそんな階層守護者を生成するのだ。


 しかし。

 ここにきてとある1つの懸念が浮かび上がった。


 干支階層の29階層から40階層の配置は、それぞれ自身の干支の方角にされており、自然型ダンジョン従来の階層配置とは異なる。

 従来の階層配置とは、大外から順に29階層30階層31階層となっていく形のこと。


 その形ならば、侵入者は間違いなく29階層の後に30階層に入り、35階層に入る頃には34階層以前の階層の試練を全て達成していることになる。

 だが、干支の各方角にある形、つまり全ての干支階層が28階層に隣接している配置では、どこからでも入ることができてしまう。


 懸念とは、もしかしたら35階層が侵入者達にとって初めての干支階層になるんじゃない? ということだ。


 干支の話こそこの世界にはないが、階層が深ければ深いほどダンジョンモンスターや罠、ギミック等々が手強くなるのはこの世界にとっての当たり前。

 だから28階層の次は29階層を攻略しに行くだろうと当初は思っていたが、よくよく考えるとマズイ気がしてくる。


 侵入者達がやってくるのは住んでいる場所から。人ならば人の町からだ。

 つまり、王国や帝国、そして魔王国から。それらの国は全て南寄りなんですよ。王国は南、帝国は南東、魔王国は南西というように。


 中でも王国は最寄の大きめの町からこのダンジョンまでものの数kmと一番近い、多くの人が入ってくるだろう。

 入ってきたらとりあえず近いところに入るよね。


 29階層までは直線距離ですら子と午は40kmも離れているし、28階層をぐるっと回って行こうとすれば163.28km。行かないでしょうよ。

 それに入ってみないことには階層数も分からないし、28階層以下にダンジョンモンスターがいないから強さの基準も分からない。


 入らざるを得ない、旅せざるを得ない。


 そして、死ぬのだろう。


 ……。

 ……。


「重大な欠陥じゃないか……」

 29階層から順々に試練を攻略して行けばその分強くなれて死ななかったというのに……。


「……いやそんなこともないな。どこから始めても試練で成長してってもボスが本気出したら結局死ぬわ」


 どうやら問題はなかったようだ。

 懸念される問題は俺の杞憂であった。良かった良かった。


「じゃあ何もかもがおかしいんやないかーいっ」

 30階層は冒険者の等級で言えばF級からE級の初心者に毛が生えた連中がメインにするとこだぞ。30階層が攻略できたらじゃあE級に昇格です、みたいなとこだぞ。

 冒険者に初めて登録したG級でもちょっと才能があるなら行ける階層だぞ。


 なぜLv200倒せる戦力が整おうしているんだ。


 ダメじゃない。

 違うじゃない。

「重大な欠陥じゃないか……。どうして、どうして、いつからこんなことになってしまったんだ……」

「ここもここで騒々しいのう。カラオケで歌い続ける奴らを避け、せっかく静かな場所を求めてやって来たというのに」


 俺が頭を抱え嘆いていると、玉座の隣にキキョウがやってきた。

 キキョウは次々に絨毯やコタツなどくつろぐために必要な物をそこへ置いていく。


「キキョウ……、このダンジョンはもうお終いだ。ダンジョンに最も重要な侵入者を育てるということができないんだ。このままではPを稼ぐことはおろか、入って来る者すらいなくなるだろう」

 キキョウは穏やかさを満喫している。


 しかし、そんな平和ももう長くないかもしれない。俺は思わずダンジョンモンスターに言うべきではない愚痴を漏らし、そしてダンジョンとしての警鐘を鳴らしてしまった。


「安心せい主殿」

 だがキキョウは優しく微笑むと、そんな俺にミカンを渡してこう言った。


「Pは引きずり込んで倒せば得られる。戦争をすれば侵入者も入って来る。何の問題もない。じゃからミカンの皮を剥け」


 俺は泣きながら頷き、ミカンの皮を剥き始めた。

 涙の理由を、誰も知らない。


「ちゃんと白い筋は取るんじゃぞ。全く美味い物ほど手間がかかる、なんたる矛盾じゃ。おい早くせい主殿、わっちは今が丁度ミカンの気分なんじゃ」


 一体いつからこんなことになってしまったんだろう。

 それはダンジョン創生にまで遡る。


 つまり初めからってこったよ。なってこったい。

 

 これからはそんな未来を変えていきたい。

 筋をとり終えたミカンを横たわるキキョウの口へ1つずつ放り込み、そんなことを考えながら俺は干支の生成に着手した。


「まずはウマ、午からだな」

 干支の中でも7番目に位置する5の倍数の35階層の守護者。


 個性は、災害。そして強襲。


 だから侵入者に課される試練は当然災害、それに類する悪天候を乗り切ることと、その中で行われる強襲に耐え抜くこと。

 もし厳しい自然に飲み込まれたならば、強襲に打ち負けたならば、どちらにせよ、抗う術なく死んでいくだけである。


 35階層守護者と渡りあえるようになれば、きっとどんな状況でも生き延びられるようになるだろう。

 7番目に相応しい試練さ。


『 フルアーマーホース

   ユニーク

   性別:女性 ・・・0P

   造形:亜人型 年齢若め 高身長 爽やかな王子様風 女にモテる 自在変化 ・・・1400P

   性格:クールで器用 何事にも余裕を持って対応 案外不器用でコンプレックスも多い 人辺り爽やかで表も裏も良いやつ ・・・500P

   特徴:12人の使徒 12の功業 十二単七層目 晴れ女 雨女 大自然の厳しさ 過酷な生存競争 多重の自然災害 秀才 走攻守3拍子揃った選手 日中強化 ランダム魔眼 ・・・4000P

   適性:魔力操作 火魔法 回復魔法 疲労耐性 直感 思考 学習 採掘 HP吸収 MP吸収 ・・・2700P

   能力値:全能力成長率上昇 ・・・1800P 』


 合計11000P。


 造形多めで性格適性普通。そして性別を指定してみた。

 もう必ず女性が来るんだから仕方ない。こうなったら俺は全員女の子で行くのさ。ダンジョンでは何かしらでも統一していればそれに対して勲章を授かる。授かってやろうじゃないかっ。


 それに今更男を生成したとしても、肩身が狭すぎる。

 ティアにホリィ、それから五獣や干支前半を見た感じ、マキナやセラ達とは圧倒的な上下関係が構築されている。覆しようのない圧倒的な上下関係が。

 となればそこに男を放り込んでしまったなら、一体どう扱われてしまうのか分かったものではない。


 同性であり彼女達よりも立場が上である俺が強く言って聞かせられれば良いのだが。

「今度は薄皮も向くやつか。任せておきなさい」

 ちょっと難しいだろう。ちょっとだけね。


「次はヒヅジ、未さんだな」

 干支の中でも8番目に位置する36階層の守護者。


 個性は、状態異常と病気。


 悪天候から生き長らえる術を学んだなら、今度は生物の競争に対し生き長らえる術を学びましょう。もし自然よりも甘いと考えていれば、耐える事など絶対に不可能、そんな試練。

 眠り、麻痺、毒、3大状態異常とも言えるその3つを基本に様々な病原菌が渦巻くここでは、精神力も鍛えられる。かどうかは分からない。


 36階層守護者と相対できるまで健康でいられれば、きっとどんな悪意に対しても負けないようになるだろう。

 8番目に相応しい試練さ。


『 スリープシープ

   ユニーク

   性別:女性 ・・・0P

   造形:亜人型 年齢若め だらしない科学者風 寝ぼけ眼 眼鏡 サラサラヘアー 自在変化 ・・・1400P

   性格:超受身体勢で自分から何かしようとしない 基本的に眠く何もしたくない 案外意地っ張りでこだわり強いがそう思われるのは恥ずかしい ・・・500P

   特徴:12人の使徒 12の功業 十二単八層目 睡眠導入 誘眠 科学者 新たなる開発 状態異常付与 眠ったら死ぬぞ 感染拡大 日テツ強化 ランダム魔眼 ・・・4000P 

   適性:斧術 投擲術 風魔法 呪詛魔法 毒耐性 麻痺耐性 罠工作 直感 学習 調合 研究 HP吸収 MP吸収 ・・・2700P

   能力値:全能力成長率上昇 ・・・1800P 』


 11000P。


 近くに置いておくだけで眠りを誘発する最高の入眠剤。ただし眠ったら死ぬらしい。怖いよ。

 科学者ということでキキョウと被りそうではあるが、戦闘方法は全く別物。キキョウは魔法で、こっちは斧を投げつける。怖いよ。

 なので被っているのは趣味の分野。意気統合して欲しいね、科学とか魔法とか、病気とか、遺伝子とか。……怖いよ。


 果たして俺はそれを止められるのだろうか。

「なんだい今度はアイス食べるのかい。ポッキンしてあげるから待ってなさい」

 おそらくだがちょっと難しいだろう。おそらくではあるがね。


「そしてサル、申」

 干支の中でも9番目に位置する37階層の守護者。


 個性は真似。&真似。


 猿真似という言葉があるように、ここでは侵入者をそっくりそのまま真似する。

 侵入者達はこれまでの試練を通して様々なことを学んだ、しかし果たしてそれらは自分の血肉となり力となっているだろうか。

 ならば確かめよう、同じことをして。自分の血肉になっていなければ打ち負ける。そして己の限界を越えなければ打ち勝てない、そんな試練。


 37階層守護者の前でも戦えるようになれば、きっとどんなことでも自分の力にしていけるようになるだろう。

 9番目という一桁番号最後に相応しい試練さ。


『 ラーニングモンキー

   ユニーク

   性別:女性 ・・・0P

   造形:亜人型 年齢若め 元気印少女風 男友達多そう 愛され笑顔 愛されキャラ 自在変化 ・・・1400P

   性格:素直で純粋 純真無垢 好奇心旺盛で何ごとにも熱心で貪欲 何でも一生懸命になれる 知りたがり ・・・500P

   特徴:12人の使徒 12の功業 十二単九層目 万能 天才 器用 物真似 基礎があるからこその応用 考え抜く頭と根気 テンションマックス ホ時強化 ランダム魔眼 ・・・4000P

   適性:打撃 斬撃 射撃 水魔法 召喚魔法 打撃耐性 斬撃耐性 射撃耐性 直感 細工 HP吸収 MP吸収 ・・・2700P

   能力値:全能力成長率上昇 ・・・1800P 』


 11000P。


 目指したのは真似のオンリーワンだが、何でも真似しなければならない以上、万能の力が必要だったのでこうなった。

 言うなれば万能のオンリーワン、万能特化。そんな言葉などないと仰るのであれば、テンション特化だっ。


「次は鍋か。あ、火は危ないから主殿に任せなさい。お豆腐は食べる? しめじもちゃんと食べるのよ」


 土鍋に食材とだしを入れ、カセットコンロに火をつける。

 グツグツグツと鍋が煮えていき、野菜がしんなりしてきた。良い匂いが鼻に届き、美味しそうな色合いが目に届く。今度はその味が舌に届くのだ。そして、俺は思った。


「お母さんかっ」


 ミカンの筋とってアイスポッキンして鍋作って。

「幼い子持ちのお母さんかっ」

「後半は主殿が勝手にやっただけじゃろ。ほれ、もう煮えておる、早くよそうんじゃ」


「そんでテンション特化ってなんだよっ」


『これで生成を開始します。よろしいですか?』


「ええい生成してしまええっ」


 橙色と水色、そして黄土色の靄が現れる。

 それぞれ見慣れた大きさ、見慣れた感覚。


「今回は3人共女の子だろうね。全員性別を女性にしたから」

 お椀に白菜などをよそいながら俺は、光の靄が消えていくのを見てそんなことを呟く。


 だが、靄の中から現れたのは――。

「ん? ……男?」

 まさか指定無しで女性が、女性指定で男性が出てくるシステムなのか? なんという天邪鬼。


「いやどう見ても女じゃろ」

「え? どう見ても王子様風のイケメン君じゃないか」

「どう見ても女学校で同性に言い寄られ人の良さから断りきれずズルズルとそんな関係に持ち込まれる女じゃろ」

「なんだその詳細設定は」

 女の子なのはダンジョンのシステムが正しいということで安心できるが、ダンジョンマスターとして安心できない情報が出てきちゃったよ。


「えーっと気を取り直して。午の君はコーリー、未の君はサハリー、申の君はシェリー」


「コーリー。ありがとうございます、でもボクは男じゃありませんからね王様。それからそこまで流されやすくも押しに弱くもないですよキキョウ先輩」

 頭の上に馬の耳をぴょこんと生やした短髪の王子様風爽やかイケメンのコーリーが笑顔で挨拶をしてくる。

 一人称がボクだから余計にそう思えてしまう。


「サハリーですぅ。眠い、よろしくお願いしま……、す……。……あー、キキョウ先輩」

 太くぐるぐる渦巻く角を耳の上から生やしたおかっぱ頭のサハリーが、俺とキキョウどっちに挨拶するかをキョロキョロしながら考えキキョウにだけ挨拶をする。

 眠いからってどっちを省くか考えるんじゃないよ。そして俺を省くんじゃない。


「シェリーでーっす。はい頑張りますっ。たくさん学びますよー王様っキキョウ先輩っ。ブイっ」

 黄土色の肩にかからない程度の髪を頭の両側で括っているシェリー。サルの耳ってなんで横に広がるイメージなんだろう、あれってチンパンジーだよな。シェリーの耳はとても普通。

 しかしまあともかく良い子っぽそうだ。サハリーショックなんて一瞬で吹き飛んでしまった。


「こちらこそよろしく」

「うむ、よしなに。ではまずコーリーは肩をもんでくれ」


「肩ですか? ははは、良いですよ」


 コーリーは男と間違えそうになるような顔と髪型、そして体型。

 高身長で凹凸少なく、短髪でとても中性的だ。レザー生地のベストを着ているその格好も雰囲気を手伝っている。最早女学校での悪い未来しか見えない。


 橙色の短髪は実は後ろ側だけ長く、編みこんだ髪の毛がお尻近くまで伸びている。

 小顔でキレ長の目なのでそんな髪型も実によく似合っており、やはり女学校での悪い未来しか見えない。

 女性だと思って見ればモデルでも通用する美人に早変わりだが、未来からは逃れられない。


『 名前:コーリー

  種別:ネームドモンスター

  種族:フルアーマーホース

  性別:女

  人間換算年齢:16

  Lv:0

  人間換算ステータスLv:115

  職業:第七の鎖の番人

  称号:生存不能の豪傑

  固有能力:存在維持の重税 ・領域内で起こした事柄を防がれるとその耐性を減少させる。領域内で起こした事柄を防がれると次回同様の効果を上昇させる。

      :並列事象 ・重ならない事象を合わせて発揮できる。

      :日中の災害 ・11時から13時の間、全ての行動に対し補正が入る。

      :馬化 ・馬の姿になることができる。

      :乱流の魔眼 ・左、視界内の流れを乱すことができる。

  種族特性:健脚 ・長距離の移動に補正。

      :堅牢な鎧 ・物理攻撃のダメージを軽減する。

      :愛馬の誇り ・主人が優れていれば優れている程ステータス上昇。

  特殊技能:スタミナドレイン ・体力を干渉するたびに吸収できる。

      :シリーズナーヴ ・単純行動に対して補正を入れる。

      :オーバーヒール ・過剰に回復した余剰分のダメージを軽減する。

  存在コスト:1800

  再生P:11000P 』


 橙色の右側の瞳、それと水色と灰色が混ざったような左側の瞳。

 サラサラな髪の毛の下にはそんな瞳が光っており、クールさと優しさを同居させている。


 しかしそれは誰しもを受け入れる懐深さに見えるものの、一定以上は踏み込ませないそんなミステリアスさも同時に感じさせる。

 だからその分魅力も多くなり、そしてその分受け入れた者相手にはとても甘く優しくなるのだろう。ああ、悪い未来が……。


「しつこいですよ王様、そんなことないですから」

「次は手じゃ」

「はい分かりましたよ。本当にそんなことないですからね、……、多分」

 キキョウの手を揉んでいるその姿からは説得力がまるで感じられない、そんなコーリー。


「サハリーは椀をよそっとくれ」

「……すぅ、すぅ――はっ。……はーい」


 サハリーはおかっぱ頭に瓶底眼鏡。そしてレザーのジャケット。

 キューティクルとレンズはキラリと光を反射するのに、ジャケットに光沢はなく一切の光を反射しない。というか君そんなカッチリしたもん着てるのによくそれだけ眠くなれるな。


 少し低めな身長に似合った水色のストレートの髪の毛。

 おそらく私生活はだらしないのだろうが、ダンジョンモンスターであるから汚れない。キューティクルは損なわれず、体が臭くなったりもしない。なんとこいつに都合が良い。


『 名前:サハリー

  種別:ネームドモンスター

  種族:スリープシープ

  性別:女

  人間換算年齢:16

  Lv:0

  人間換算ステータスLv:107

  職業:第八の鎖の番人

  称号:抵抗不能の感染源

  固有能力:緩やかな崩壊 ・敵対者への状態異常への耐性を緩め眠りに誘う。睡眠状態に陥らせると徐々にHPMPが減少する。

      :科学の開拓者 ・状態異常への耐性を一時的に無効化する。科学的な物事に関して補正。

      :日テツの睡眠剤 ・13時から15時の間、全ての行動に対し補正が入る。

      :羊化 ・羊の姿になることができる。

      :発症の魔眼 ・右、視界内の対象を感染症の病気にする。病気の内容は知識にあるもののみ。

  種族特性:眠りへの誘い ・見た者、聞いた者、呼んだ者、触れた者を眠りに誘う。

      :上質な羊毛 ・触れると心が癒される。HPMP自動回復量上昇。

      :平和の心 ・戦闘状態に入られ辛く、維持され辛い。

  特殊技能:スタミナドレイン ・体力を干渉するたびに吸収できる。

      :デンジャラスウォーター ・水に状態異常効果を付与する。

      :パーフェクトガード ・状態異常効果を無力化する。

      :ランダムエフェクト ・一定確率で可能性の低い事態を引き起こす。

  存在コスト:1800

  再生P:11000P 』


 髪の毛と同じ水色の左の瞳、そして深い紺色の右の瞳。

 瓶底眼鏡によって隠されていたそんな目が、眼鏡がズレて落ちかけたことで現れた。おそらく鍋をよそう途中、湯気で眼鏡がくもり前が見えなくなったことで眠くなり、そうなったのだろう。

 船を漕ぐその頭の揺れで眼鏡はどんどんずり落ちていく。


 鍋の近くで眠ると危ないよ。強い魔物だから沸騰したお湯に浸かったくらいで火傷はしないが、もし顔を突っ込んだりしてしまったら鍋が食べられなくなり……。


「すぅ、すぅ、すぅ」

「……。アトミックバース――」

「は――っ。命の危機。どうぞキキョウ先輩、しいたけ多めでございます」

 危うく死ぬところだった、そんなサハリー。


「シェリーは足をもんでくれ」

「かしこまりましたーっ」


 シェリーは短めのツインテール。カールしたテールは全然テール感ないがよく似合っている。まあ今さっきズボっとコタツの中に上半身を突っ込んだので見えないが。

 ……コタツで足を揉ませるんじゃないよ。


「ほら出てきなさい。コタツの中でそんなことをしてたら火傷するから」

 俺はレザー生地のパンツしか見えていないシェリーにそう声をかける。……一向に返事はない。死んでるんじゃないか、そう思い俺は足を持って引っ張った。


「ぬぬぬぬぬ」

 一切動かない。

「甘いですね王様っ。私はそんな程度の力じゃ動きませんよーっ。まだまだ私に真似される領域には達していないようですねっ」

 コタツの中からくぐもったそんな声が聞こえてくる。何の対抗だ。

 まあ生きてるなら良いんです、良い子が真似しない内に出て下さい。


『 名前:シェリー

  種別:ネームドモンスター

  種族:ラーニングモンキー

  性別:女

  人間換算年齢:16

  Lv:0

  人間換算ステータスLv:111

  職業:第九の鎖の番人

  称号:対抗不能の何でも屋

  固有能力:本物を越える模倣 ・他者の行いや結果や効果を模倣した際、補正が入る。

      :弛まぬ天才 ・行動の全てに補正。

      :ホ時の思い出 ・15時から17時の間、全ての行動に対し補正が入る。

      :猿化 ・猿の姿になることができる。

      :複写の魔眼 ・左右、発動した、もしくは発動されている固有能力や種族特性などを一時的に発動する。

  種族特性:高い学習能力 ・学ぶことに補正。

      :立体機動 ・木等の障害物が有っても移動が楽に行なえる。

      :秩序 ・制定されたルールに従う際ステータス上昇。

  特殊技能:スタミナドレイン ・体力を干渉するたびに吸収できる。

      :エニシングアップ ・攻撃力と防御力を上昇させる。

      :シックスセンス ・発動中、未来予測に匹敵する勘を手に入れる。

      :トリックアート ・綺麗な細工を施すことができる。

  存在コスト:1800

  再生P:11000P 』


 髪色とは違う鮮やかな灰色の2つの瞳。

 それが見えたのはキキョウが満足した頃。キキョウはコタツや絨毯をもう一度魔法で持ち上げ、みんなのところへ戻って今度は自分がカラオケのマイクを握った。結局参加するんかいっ。


「ええーっと。とりあえず他の子達にあげてるので、2000Pのお小遣いをあげましょう。まあ、それとは関係なしで、ともかくこれからよろしくお願いします」

 俺は取り残された3人に改めてそう言った。


「はいこちらこそ。ボクが守ってあげますからね」

 コーリーは……そんなことを言ってくれる。見た目だけじゃなく言動まで男前だ。惚れちゃうだろ。


「守ってくれるのありがとう。……ぐぅぐぅ」

「いやサハリーに言ったんじゃ、あれ、寝てる。寝てる? 早いなっ」

 サハリーは……寝た。


「その眠る技、素晴らしいですっ。真似する価値がありますねっ。教えて下さいっ、どうやってやるんですかっ、教えて下さいーっ」

「あ、あ、う、う、うが、う」

「そこに食いつくのっ? あ、いや、こらっ。あんまり揺らしちゃ駄目だよ、首がガクガクなってるから。君も起きてっ、起きようよっ」

 シェリーは……予想以上に好奇心旺盛だった。


「教えてーっ、教えて下さーいっ」

「あ、あ、い、あが、ぐ」

「危ない危ないからっ。一体何が君をそこまで駆り立てるんだシェリーっ。あとサハリー、君も起きてっ、起きてるでしょ? 流石にここまで揺らされたら起きるでしょっ?」

 ……。


 干支は性格をそこまで求めていなかったのに、みんなそれなりに良い子だった。

 特にこの干支若手組は良い子ばかりだ。コーリーを筆頭に。


「寝てるぅ、あ、あ、あ、あああ、あああ」

「うりゃああああーっ」

「もう趣旨が変わっちゃってるよっ、どういうルール? どういうルールなのこれっ?」

 なんて言ったって貴重なツッコミさ。


「良いぞコーリー、もっとツッコミを、ツッコミを入れるんだっ」

「変な人が増えたっ」


「あああああああ、あああああああ、あああああああ」

「ラストスパートーっ」

「ゴールは何っ? ほら離れなさい、離れ、離れ――、力強いなっ」


「良いぞコーリーっ、ナイスツッコミだっ。ほらもっと色んなツッコミをくれ、俺にもっとポテンシャルを見せてくれ。そうだ、例えツッコミを入れるん――」

「わっちの歌の最中に騒ぐとは良い度胸じゃの。そこのアホもろとも吹き飛ぶが良い、アトミックバーストっ」

「ぎゃああああああっ」

毎度お読み頂きまして誠にありがとうございます。


10万PVを達成致しました。これも単に皆様のおかげです。

これからもその数字を伸ばして行けるように頑張ります。


今後ともお世話になります。

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