第56話 エリン、カノン、ケナンに2000Pずつ。
ダンジョンあるあるその19
見栄を張った生成は身を滅ぼす。
生成Pの高いダンジョンモンスターやアイテムを生成すると、それに見合った侵入者が着てくれるが、逆にその者達に見合うダンジョンでなければ財政破綻しダンジョンが終わってしまうこと。
「いたいっ。叩くことないじゃんイーの馬鹿っ」
「馬鹿はアリスよっ。私の食べるクッキーにワサビ塗ったでしょっ」
「ちょ、ちょっとあんたら喧嘩はやめなさいよ」
「気付かず食べるほうが悪いもーん。ばーかばーかイーの鈍感ー」
「――っ、もう知らない。アリスなんて知らないっ」
「イー、そんなこと言わないでってば。ほらアリス謝んなさいって」
「やだっ。ワタシ悪くないもん、それに叩かれたしっ、謝るならイーだもん。ふんっ」
「アリスが悪いんじゃないっ。……、絶交よ。絶交っ。一緒にクッキーなんて食べなきゃ良かったっ。ふんっ」
「そ、そんな……、ぐすん、ぐすん」
あんなに仲良しであっても喧嘩は起こる。
それは本当に小さなことから起きてしまった諍いだ。しかし意地の張りあいという愚かさで膨れ上がるように大きくなる。
最初に謝っておけば軽い謝罪で済んだのに、最早こうなってしまっては頭を下げるだけでは解決しない。
そう、死をもってしか。
「やめてくれニル。味噌を塗るのはやめてくれ。砂糖を振りかけないでくれ。鍋に火をかけないでくれ。味噌煮でも作るのかい、俺が悪かった、許してくれ」
「しょっくじーをじゃーまさーれたーらー、そーいつーをたーべちゃーおおー」
「ごめんなさい。本当にごめんなさい」
アリス、イーファス、ヴェルティス。
君達3人も早く仲直りしてこういう事態にならないように気をつけて下さいね。
「ふう死ぬかと思った」
巧みな交渉術により、生きる、というその3文字だけを守り通した俺は、新たな仲間である干支の4体目から6体目の生成に入る。
子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥、の卯辰巳。
さてオンリーワンな強さを持つ干支のボス。どんな強さを持たせるか。
まあ構想はある。必要な力を考えれば自ずと決まるのだから。
干支階層は侵入者の成長を目的としている。その成長とは天空城砦の猛者達を相手取れるようになるほどの成長を意味するが、それ以外にもう1つ意味を持つ。
それは初心者を脱却し一人前へ至る成長のこと。
ダンジョンがPを得るには侵入者を倒すことが絶対条件であるが、多くのPを得続けるためには侵入者を育てることも絶対条件となる。
なぜなら低階層にしか入れない弱い者達を倒したところで得られるPはとても少ないのだ。
高階層に入れる強い者達を倒さなければダンジョンとしてあるのは先細りの未来のみ。
だからこそダンジョンとして最も重要なのは、低階層や中階層が侵入者を育てられるようになっているかどうかだと言われている。
我がダンジョンにおいて、この干支階層は最初の場所である。
そんな先細りの未来を避けるためにも、猛者をさらなる猛者へと成長させるだけではなく、初心者を一人前へと成長させるようにもしておかなければならない。
ではどんな試練が必要か。
ひよっこ達は子丑寅の階層で、逃げる魔物を捕まえる術を学んだ、罠に見つけ解除し焦らない術も学んだ、戦術やその大切さを学んだ。
ならば次は何を学ぶべきか。
「まずはウサギ、卯」
干支の中でも4番目に位置する32階層の守護者。
個性は、道に迷わせること。そして仲間とはぐれさせること。
だから侵入者に課される試練は当然、道に迷わないようにすることと、仲間とはぐれないようにすること。
もし道に迷ってしまったならば、仲間とはぐれてしまったならば、生きていられるかどうかの論争は最早無意味である。
32階層守護者の元へ仲間と進めるようになれば、きっとどんな場所でも攻略できるようになるだろう。
4番目に相応しい試練さ。
『ミラーラビット
ユニーク
性別:指定無し
造形:亜人型 年齢大人 ほんわかして優しそう 自在変化 ・・・1300P
性格:鋭くドS 困っているのを見るのが大好き 自分が1番 魔性の女 ・・・600P
特徴:12人の使徒 12の功業 十二単四層目 嫌がらせさせれば天下一品 弱みを握る 愉悦の嗜虐 助けを呼ばせぬ悪魔の所業 受賞ものの涙 透明な悪意 日出強化 ランダム魔眼 ・・・4000P
適性:打撃 槌術 恐怖耐性 察知 思考 学習 交渉 説得 脅迫 暗殺 裁縫 服飾 HP吸収 MP吸収 ・・・2700P
能力値:全能力成長率上昇 ・・・1800P』
合計11000P。
子丑寅と同じく特徴は4000Pだが、性格にかけたPがちょっと多く、造形と適性が少なめ。まあ誤差のようなものだ。
俺にとっては。
普通は600Pの魔物に100P付け加えるだけでも贅沢というか、大冒険というか、中々のことなのだが、まあね、俺もオンリーワンだからね。
しかし性別項目は再び指定無しにしておく、そこだけは設定しない。設定せずともどうせ今回も女性ばかりがくるのだろう、特に卯は性格に魔性の女というのもつけたし確率は高い。
だが俺はこれまでずっと裏切られてきた。ゆえに今回、女性が来る確率を上げておけばその裏切りにより男が来るのではないか、そう思っている。
ふっ、俺を出し抜こうとしたつもりかもしれないが、無駄さ、あまり俺を舐めるなよ。
「次は竜、辰だ」
干支の中でも5番目に位置する33階層の守護者。
個性は、破壊と勇気。
道に迷わず仲間と共に行動した次は、勇気を出して隠れながら進むことを覚えましょう。もし32階層と同じようにはぐれさえしなければ良いと思っていれば、一撃のもとに殺されてしまう、そんな試練。
階層全体が圧倒的な破壊力を持つボスの長い長い射程圏内、そこをずっと進んでいかなければいけないここでは、精神力も鍛えられる。主に勇気が。
33階層守護者に辿り着けるようになれば、きっとどんな逆境でも前に進めるようになるだろう。
5番目に相応しい試練さ。
『ワイバー
ユニーク
性別:指定無し
造形:亜人型 年齢大人 やる気に満ち溢れている 自在変化 ・・・1300P
性格:素直な努力家 豪快で大胆さもあるが几帳面で繊細な部分もある スポ根で青春に憧れる ・・・600P
特徴:12人の使徒 12の功業 十二単五層目 一撃必殺 一球入魂 明鏡止水 努力すればなんでも叶う 小さなことからコツコツと 教育的指導 食時強化 ランダム魔眼 ・・・4000P
適性:射撃 弓術 風魔法 混乱耐性 視覚 聴覚 思考 学習 脅迫 木工 HP吸収 MP吸収 ・・・2700P
能力値:全能力成長率上昇 ・・・1800P』
11000P。
竜なのにこれは安い。
なぜなら種族の括りは竜でなく竜族の方にしたから。
ただの竜は1番安い下級竜ですら3000Pからなので11000Pで抑えるのは無理です。
とは言え竜族も基本1000Pオーバーである最強種族。600Pのワイバーは竜族の中でもほぼ最安値でギリギリ飛べる性質を残しているライン。
マキナに言わせればなんにしろトカゲだが、遭遇すればボス級なのは間違いない。
弓使いということでオルテと被ってしまうが、オルテは隠れての暗殺がメインのスナイパーライフル的な使い手、33階層のボスは隠れず正面からの破壊がメインの戦車的な使い手。
全く別です。
被らないようにするのも大変だよ。
「次はヘビ、巳」
干支の中でも6番目という前半最後に位置する34階層の守護者。
個性は不信。&裏切り。
道に迷わないよう仲間とはぐれないように、そして勇気を出して行動した。しかしその中で不満は溜まらなかっただろうか。
卯の嫌がらせに動じなかったのか、足を引っ張らなかったか。辰の勇気を誰が乗り越えたのか。ほんの少しでも亀裂があれば、ここ、巳で決別してしまうそんな3段構えの構造。
34階層守護者の前でも信頼し合えるようになれば、きっとどんな状況でも力を合わせられるようになるだろう。
6番目に相応しい試練さ。
『 ネイバースネーク
ユニーク
性別:指定無し
造形:亜人型 年齢大人 糸目でどこか胡散臭い 自在変化 ・・・1300P
性格:お調子者で盛り上げ上手 道化役から宥め役まで幅広くこなし人間関係を円滑に回す 悪巧みを頻繁にする 情にとことん脆い ・・・600P
特徴:12人の使徒 12の功業 十二単六層目 希望と絶望の配分 戦略家 自業自得の証明者 覚り 処刑人 お仕置き名人 遇中強化 ランダム魔眼 ・・・4000P
適性:切断 鎌術 投擲術 雷魔法 回復魔法 召喚魔法 罠工作 逃亡 学習 農業 HP吸収 MP吸収 ・・・2700P
能力値:全能力成長率上昇 ・・・1800P 』
11000P。
干支の中でも年上予定のこの3人には、是非ともまとめ役としての力を発揮してもらいたい。
五獣を見て思ったのだか、グループのトップが俺に対して敬意などを持っていると全体的に大人しくなる気がする。
そりゃあ俺の求めるダンジョン外活動の自粛は叶わないが、私生活は随分と改められるかもしれない。
やってみる価値はある。
是非とも干支にもそうあってもらいたい。
「なるほど。では生意気だった場合は、懲らしめて反省させれば良いわけですね」
「いやそういうことではないんですがねローズさん」
「どうぞ主様、こちら私が焼いた肉になります」
「ありがとう」
卯辰巳の設定を終えたところで、ローズが大皿に肉を携えやってきた。
2,3kgはありそうなステーキが中心にデンと乗っており、周囲には山盛りにされた薄切りの焼肉、串に肉肉肉肉肉と刺された肉の塊。タマネギとかピーマンがどこにも見当たらない肉&ミート。
「これは……、ローズと俺2人の分、いや今から生成する卯辰巳も含めての分ってことでいいのかい?」
「いいえ、もちろん全て主様の物です、私はもう食べてきましたので。たんとありますからね、冷めない内にお食べ下さい。あーん」
……拷問かな?
『これで生成を開始します。よろしいですか?』
「ほががう」
俺の生成という声が響いた瞬間、3つの光が出現した。
黒と白がハッキリと分かれつつ渦を巻く毛っぽいフワフワ。濃い緑色と薄い緑色のザラザラ感があるもの2つ。
そして口の中に肉が16個。
「はいお口を開けて下さい」
「も、もういっぱい」
「あーん」
「あ、あーうぐぐ」
……拷問かな?
光はハッキリと存在を示した後、徐々に収束していき、中からは3人の美女が現れた。
また女の子だ。
どうあがいたところでこのダンジョンは女の子がくるらしい。なんだったんださっきの俺の戦いは。恥ずかしい。
とは言え落ち込んだり呆けたりなどしていてはいけない。
生成した張本人、つまりは親のような存在でもある俺が、また女の子かとかそんな風にガッカリするだなんて子供にとってそんな辛い出来事はない。
そして――。
「おやもう全て飲み込んだのですね。流石です、ではこちらの1.5kgのステーキを次はいきましょう」
口の中に物がない今この瞬間に喋らなければ、今度いつ喋れるようになるか分かったものじゃないからだ。
「あーん」
「卯の君はエリンっ、辰の君がカノンっ、巳の君がケナンっ。――もがあ」
俺は一瞬の隙をついて、3人に名前を授けた。
大人の色気を持つ干支年長組のエリン、カノン、ケナンは、その目に知性を宿す。
「エリンですか、フフ。王様ー、この度は生成して頂きましてありがとうございますー、これから頑張りまーす」
タレ目で黒いウサ耳の美女、エリン。
レースのついたブラウスにロングスカートという清純派もかくや、と言える格好とどこまでもほんわかした口調のエリンだが、その性格は危険極まりない。
「不肖カノン、これから一生懸命に邁進していく覚悟です。見ていて下さいっ、アタシはやりますよーっ。王様、燃えてきましたー根性ーっ」
頭から曲がりくねった歪な角を生やしている美女、カノン。
作った拳を勢いよく振り上げ雄叫びをあげるカノンは、上はブラウスだが下はジャージというよく分からない格好のスポーツマン。
「ケナンな。王様、うちもほんま感謝してるで。ちゅーか反乱可能やのに即名付けって頭大丈夫かいな、いやせーへんけどな。多分、ナハハ」
舌がにょろんと長く肘辺りに鱗のある糸目の美女、ケナン。
ブラウスにタイトなスカートでスーツっぽい服装なのは良いのだが、なぜか訛っている。生まれたばかりだろう、胡散臭いからだろうか。
「まあキャラ付けの一環やな。気にしないで下さいね王様」
普通にも喋れるのか。なんて胡散臭い。
「ローズ先輩もよろしくお願いしまーす。がんばりまーす」
「根性根性ド根性でこのカノン、粉骨砕身頑張りますっ」
「よろしくお願いしますわーローズ先輩。お手柔らに」
「うむ。3人共、これからも私達と一緒にダンジョンを盛り上げていこうではないか。ビシバシ行くからそのつもりでな」
さらに3人はローズへも挨拶を行なう。
ローズは良い顔良い声で挨拶を返した。
仲は大丈夫そうで何よりだ。俺はダンジョンマスターとしてそう思う。
だがローズよ、人の口の中に絶対に入りきらない物を無理矢理突っ込んでいる最中によくそんな堂々とした挨拶ができるな。俺は人としてそう思う。
「おーいローズー、追加が焼けたぞー」
「ユキ、ありがとう感謝する。では主様、追加を取ってきますね」
ただ、その思いが届くことはなかった。肉の追加は届くのにね。
「お、上手いですね主様。流石です、ですがこの肉も負けず劣らず美味いですよ。ふふ」
「はははローズこそ上手いなあ――もがあ」
新たな仲間となった干支年長組は、大人の色気を持っている。
特にエリンは体つきも妖艶そのもの。
顔立ちに強い特徴はなく地味なのだが、その分清純さがあり、白いウサ耳や黒く長い髪の毛もそれを大きく手伝う。
しかし髪留めを使い束ねられた髪や真っ赤な口紅が塗られた唇は、清純さを邪魔しないものの、女という性を強く発信する。
さらに決して細くない体型なのだが、男が好み易い体格であり、綺麗ながらもお高くとまっていない届きそうな高嶺の花。
自分でも付き合えるのかもしれない、自分に好意を抱いているのかもしれない、そんなことを何度も何度も思わせ虜にしてしまうのだろう。そんな美女がエリンだ。
なんてあざとい。あざとすぎる。
今のような若い間はこれで全然いけるだろうが、婚期を逃しずるずると30代40代になれば若い子を嫌うお局タイプのおばさんになるのではなかろうか。
嫌がらせをして、いじめて、そのいじめが最終的にばれて会社にいられなくなるような。
……いや、こいつはそんなたまじゃない。
こいつは例え50代になろうが若い男を手練手管で落とし、若い女を駆逐する派閥のトップに立ち続ける。そしてゆくゆくは将来性のある若い男を強引に落として結婚生活を送りながらも、多数の男を虜にし遊び続ける、そんな女。
そう、魔女だ。
こいつは魔女だっ。
『 名前:エリン
種別:ネームドモンスター
種族:ミラーラビット
性別:女
人間換算年齢:24
Lv:0
人間換算ステータスLv:105
職業:第四の鎖の番人
称号:到達不能の案内人
固有能力:敵意なき侵略 ・行動に敵意を感じ取らせない。対象は行動に善意を感じる。
:依存の従者 ・対象の言動のコントロールに成功する度、支配を強める。
:日出の彷徨い ・5時から7時の間、全ての行動に対し補正が入る。
:兎化 ・兎の姿になることができる。
:不音の魔眼 ・左右、周囲の対象の音、特定の種類の音、特定の意味を持つ音を鳴らさない。
種族特性:繁殖力 ・1度に何匹も生むことができ、また妊娠の期間も短い。
:寂しがり屋 ・仲間がいるとステータス上昇。
:映し身 ・見た者の姿形思考に変身することが可能。
特殊技能:マインドドレイン ・気力を干渉するたびに吸収できる。
:ウィークサイン ・弱点を見抜くことができる。
:アサルトブレイク ・強烈な一撃を放つ。
:コンヴィンスデッド ・何でも納得させることができる。
存在コスト:1800
再生P:11000P 』
黒い瞳だが赤い血のような色が混じった黒。
清純な見た目ただよわせる色気、しかしその内は悪意の塊。美しい薔薇にはトゲがある、それを教えてくれるそんな美女。
どんな会社に入っても彼女は天辺を取るのだろう。そして全てを支配する。まさに甚振るために生まれてきたような子だ。
俺はなんて恐ろしい子を生成してしまったのだろうか。
けれどもカノンは違う。正反対と言っていい。
どこまでも真直ぐな性格をしているのがカノンだ。
よじれながら三叉に分かれ登る角をこめかみから生やしているものの、髪の毛は性格同様まっすぐサラサラ。そんなストレートの深い緑色の髪の毛は尻尾の短いポニーテール。
大人っぽさは確かにあるが、スポーツが好きそうで若さはまだまだ抜けない様子。
例えるなら運動部の新任顧問だろうか。
からかわれそうな雰囲気を持つものの、時折張り詰めた美女の佇まいを見せるカノンは、学校でも一番の人気教師となるだろう。
尻尾が出る部分だけ切り取られたジャージがまた、抜けていて可愛らしく、これから若さや青さが抜けて大人の色気を手に入れるのだろう、そんな道中にいるカノン。
『 名前:カノン
種別:ネームドモンスター
種族:ワイバー
性別:女
人間換算年齢:24
Lv:0
人間換算ステータスLv:119
職業:第五の鎖の番人
称号:前進不能の狙撃手
固有能力:静寂からの激動 ・待機している間徐々に攻撃能力上昇。待機している間徐々に集中力向上。
:全てを穿つ心意気 ・対象の防御耐性を徐々に減少させる。
:食時の破壊 ・7時から9時の間、全ての行動に対し補正が入る。
:竜化 ・竜族の姿になることができる。
:脆弱の魔眼 ・左、視界内の対象を脆く弱くする。
種族特性:竜魔法 ・竜魔法使用可能。
:竜族の翼 ・空を飛ぶことができる。
:竜族の鱗 ・物理攻撃のダメージを減少させる。
特殊技能:マインドドレイン ・気力を干渉するたびに吸収できる。
:スナイピング ・遠距離攻撃の命中率が向上する。
:ウイングショット ・風の力を使い強烈な一撃を放つ。
:フィアーズサイト ・攻撃力に応じ、恐怖を与える。
存在コスト:1800
再生P:11000P 』
髪色と同じ深い緑の右目と、深い紫の左目。
可愛さを同居させたその顔立ちはしかし、真剣な表情になった瞬間一気に美女へと移り変わる。そのギャップにはきっとどんな男もコロリと落ちてしまう。
ただ、きっと彼女の目に男は映っていない。真剣の意味を教えてくれるそんな真直ぐな美女。
けれどもケナンは違う。正反対と言っていい。
どこまでもひねくれた性格をしているのがケナンだ。
薄い色合いで白に近い緑の長くない髪を全体的に左へ流しているケナンは、前髪をピンで止めた爽やかな髪型だが、本人はどこまでも胡散臭い。
細く吊り上がっている開いているのか分からない目も、どこか悪巧みをしていそうな雰囲気を手伝っている。
とは言え道化のようなおちゃらけた雰囲気も持ち合わせており、初対面の人はこちらを強く感じるのかもしれない。
格好は上着を脱いだスカートスーツ。それと黒いタイツ。ビジネスマンのような風体でもあるが、細く長い手足と形の良い腰つきを強調するような艶やかな服装。
だからこそきっと騙される。
騙された後でようやくケナンを思い知るのだ。
『 名前:ケナン
種別:ネームドモンスター
種族:ネイバースネーク
性別:女
人間換算年齢:24
Lv:0
人間換算ステータスLv:112
職業:第六の鎖の番人
称号:疑心暗鬼の支配者
固有能力:陥る地獄 ・不道徳な行いをする者のステータスを減少させる。不道徳な行いをする者に対しての言動に補正。
:巡る運命 ・対象が他者に対し行った事柄によるプラスとマイナスを対象も受ける。
:遇中の裏切り ・9時から11時の間、全ての行動に対し補正が入る。
:蛇化 ・蛇の姿になることができる。
:悪意の魔眼 ・右、視界内の対象の悪意を増幅する。
種族特性:捕食者 ・獲物を攻撃すると獲物のステータス減少。威圧力に補正。
:熱源感知 ・温度の差を視覚的に感じ取ることができる。
:寄り添い ・気付かれない間に傍に寄れる。
特殊技能:マインドドレイン ・気力を干渉するたびに吸収できる。
:プレデターロード ・自身の通った道を通った者のステータスを減少させられる。
:スネークハインド ・大量の蛇を隠せる。
:キューティープランター ・植物が上手く育つ。
存在コスト:1800
再生P:11000P 』
左目は髪色と同じ白に近い緑、しかし右目はハッキリと濃い金色。
普段はその色をなんとなくでしか知ることはないが、知らない方が幸せだろう。
なぜなら亜人型に設定された造形は、耳や尻尾がない分、舌と肘や膝の鱗と、目に集約された。ケナンの目は捕食者の目だ。侵入者がそれを知るのは、殺される時に他ならない。
冷淡さの見え隠れする道化の仮面は、おそらく情で容易に崩れるのだろう。しかし悪意には敏感な悪意の捕食者。
女は全て魔女であることを教えてくれる、こいつも魔女やでっ。
いやはや。
なんだか恐ろしい。恐ろしいよ。
32階層、33階層、34階層は、心に訴えかける戦闘方法や試練であり、戦闘能力に関しては1番弱い。
だが心を折りしゃぶり尽くすような、おそらく1番強い3人組だ。
是非ともお友達にはなりたくない。
「それでは王様とローズ先輩への挨拶が済んだところで、お2人にも。同じ鎖の番人として年長者としてよろしくお願いしますねー。……」
「こちらこそよろしくっ。根性で乗り切ろうっ」
「仲ようやろうな。よろしゅう。……」
いや、カノンだけは仲良くして良いと思う。だから逃げてっカノンっ。
「……食えないわねえ」
「? 肉がか?」
「……食えんなあ」
何も考えてないのお前だけだぞっ。
食われる、食われちまうぜっ。
「一体どうすれ――もがあ」
「追加、持って来ますね」
そして俺はどうすれば。食わされちまうぜっ。
と、その時俺の灰色の脳細胞が脈動する。非の打ち所のない完璧な策を思いついたのだっ。
「もぐもぐ。ローズっ、君に頼みた――もがあ。もぐもぐ。頼みたいことがあ――もがあ。もぐもぐ。あるんだっ。聞いてく――もがあ」
追加に持ってくるのも入れるのも早いっ。
「頼み事ですか? なんでしょう、主様の頼みとあれば火の中海の中。あーん」
「あーん。もぐもぐ。実はね。干支の年長エリンカノンケナンの3人組のことがどうにも心配なんだ。問題が起きないよう見ていて貰って良いかな?」
「なんと、そういうことでしたか。お任せ下さい、私が全て上手く取りしきってみせましょう」
「おお、そうかい頼むぞ」
ローズは俺に頭を下げ、3人の下へと向かう。
俺の完璧な作戦勝ちだ。これでカノンが食われることも俺が食わされることもない。
俺はホッと一息つき、玉座に深く座り直した。
お茶を飲むと、口の中の油がなんとも見事に洗い流されていく。
なにからも解放された至福のこの時間。こんな時間がいつまでも続けば良いのに。
「全く、貴様等のせいで主様が心を痛めている。主様の心を痛めるものはただの害虫だ、そして当然敵だ。本来なら鍛え直したいところだが、既に敵となった貴様等には慈悲なぞありえん。今ここで手ずから葬ってやろう」
……?
「いや、殺したところで蘇るのだから、意味はないか。ならば封印し、未来永劫思考以外何一つ動かせぬようにしてやるっ」
「ローズっ」
「もう少々お待ち下さい主様。今すぐにそのお心を乱す原因を排除致しますので」
「ローズっ」
槍を手に持ち、3人へと無造作に近寄っていくローズ。
かつてこのダンジョンではローズ殺害事件が発生したが、今回はローズが犯人のローズ殺害事件が発生しそうではないか。
違うんだローズ俺はそんなことを望んじゃいない。
卯辰巳の恨みがましい目がこちらを見ている。どうすれば、一体どうすれば。
「ローズ先輩、どうやら王様はお肉を食べたいようですよ」
「は、はい。根性です」
「ローズ先輩、王様が一刻も早く食べたいゆうてますわ」
俺が灰色の脳細胞を必死にひねっていると、3人からそんな案が出てきた。
……確かにそれなら3人は救われるかもしれない。だがそうなると俺が救われないじゃないかっ。やめるんだ。
「はあ。今の主様のお声が聞こえなかったのか? やめてくれと仰っているではないか、そんな嘘で私を騙そうとするとは片腹痛い。貴様等にはただの封印なぞまだ甘いようだな、殺してくれと嘆願してくる痛みを伴う封印を施してやろう」
「ローズっ、俺に肉を、肉を食わせてくれーっ」
「はいただいま。さあどうぞ主様」
俺は戻ってきた。
そう地獄へと舞い戻ってきた。あの3人を、エリンカノンケナンという、可愛い可愛い我がダンジョンモンスターを救うために。
だからエリン、カノン、ケナン、早く行くんだ。
「これ使えそうね。うーん、ローズ先輩、王様がわたし達にどうしてもお小遣いをあげたいそうなのですが」
「え? そうだったんですか王様っ、ありがとうございます」
「いやあ、すんませんなあ王様。ありがたくもろときますわ」
「エリン、そんな嘘で騙されると思うのか? 主様がそんなことを思っていれば私にもたちどころに伝わるはずだ。どうやら貴様だけは別枠で殺されたいようだな」
「ローズっ、お小遣いを、俺にお小遣いをあげさせてくれーっ」
「はいただいま。では各人に2000Pとしておきましょう」
「ありがとうございます王様」
「何に使おうかなー。スポーツウェアかな?」
「それは経費でいけるんとちゃう? もっと趣味に使うべきや」
そんな、ひどい、ひどいや。
俺は君達を救いたいという一心でこの地獄に落ちたというのに。
またもや裏切られたダンジョンマスター、もう誰も、もう何も信じることなんてできない。
ひび割れていた心はもうボロボロに崩れ落ちていった。
「さあ行きましょうか」
「そだな」
「待て待てあかんやろ。最後にちゃんと感謝をしめさな」
え?
今、何か聞こえたぞ。まさか……まさか……。
「ああ、それもそうね」
「義理人情は大切だからなあ。流石ケナン、グッジョブ」
そうだ、ケナンには情にとことん脆いという設定をした。それが活きるのか? 性格に設定したものがとうとう俺のために活きる時が来るのか?
俺は口いっぱいに放り込まれた肉にひたりながら、次の言葉を待つ。
「ローズ先輩。どうやら王様は特訓したいみたいですわ」
「……もが?」
「ケナン、主様がそう思っていれば真っ先に私が気づく、それは嘘だ。私や主様を陥れようとした罪は重いぞ、万死に値するっ」
ローズは再び槍を取り出し3人へと近づいていく。
「さあどのように苦痛を与えてやろうか。封印を施してやろうか」
俺の方をチラチラ振り返りながら。
……。
「ローズ……、特訓……しよう」
「はい主様っ。3日ぶり、75度目のローズ特別主様コースですね。楽しみです。今日こそ1章を乗り越えましょうっ」
「感謝の心ってやっぱり大事ね。見逃して下さってありがとうございましたローズ先輩」
「これからもよろしくお願いします」
「魔女だとか目ぇ細いだとか言った悪い奴は懲らしめられ、これでめでたしめでたし、やな」
感謝ってローズへかいっ。
「行きますよーっ」
「うわああああああーっ」
お読み頂きまして誠にありがとうございます。
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