第51話 巧みな交渉術で目指せ戦争回避、魔王国編
ダンジョンあるあるその14
侵入者の男女比はダンジョンマスターの性別による。
全力を尽くさなければいけないダンジョン作りでは、どう努力しても、男性のダンジョンマスターは女性の侵入者を男性以上に増やすことが難しく、反対に女性のダンジョンマスターは男性の侵入者を女性以上に増やすことが難しく、ダンジョンマスターの性別によって男性向けか女性向けかダンジョンの性質が決まってしまうこと。
澄み渡る青い空。
高度5000mであるため、上層に位置する雲はまだまだ見受けられるが、地面から見るよりかは断然少ない。
こうして上を見上げているとまるで吸い込まれそうだ。
ああ、本当に綺麗だ。でもなぜだろう。
どこか、滲んで見える気がする。
「ぐぐぐ、まさかドロップアイテムを利用した死んだふりとは……。貴様ら、魔王国に逆らって、無事で済むと思うなよ。うぎゃあああああー」
『侵入者、亜人種・英雄・転移者・個体名バルフストを倒しました。37772Pを獲得しました』
「片付けが終わりました悪逆非道のご主人様」
「……」
……。
「……」
……。
1ヶ月後。
「わーいお手紙が届いたぞー。何かな何かなー?」
『 宣戦布告 』
『 宣戦布告 』
『 宣戦布告 』
「うわああああああーっ」
「それでは戦争編の開幕ですね」
「この間終わったばっかりなのにーっ」
「すみません間違えました。全面戦争編の開幕ですね」
「……。うわああああああーっ」
こうして、ダンジョンと王国、帝国、魔王国による戦争が幕を開けた。
「緊急事態だ。総員、直ちに集合せよっ」
俺はマントをはためかせ、城中に声と威厳を響かせる。
王座の間。王と謁見するためのこの世で最も高貴な場所であり、厳粛な一室。そこでは誰もが緊張と期待に全身を支配されてしまう。
俺はその部屋の最奥に置かれた、王が座るに相応しい椅子に腰掛ける。
威厳を込め呼びかけた結果だろう、俺の眼前には7人の守護者達が全員集合していた。
100階層の守護者、マキナ。わがままさを感じさせる生意気そうな顔をした18歳の美少女だが、王の血を受継ぐ至高の上級風竜。
99階層の守護者、ユキ。冷徹と冷酷さを漂わせる切れ長の目を持つ20歳の美女だが、世界全てをその手で掴める召喚勇者。
98階層の守護者、セラ。知性としたたかさと溢れる魅力をかねそろえた22歳の美女だが、遊び半分で都市を陥落させられる吸血鬼公爵。
97階層の守護者、オルテ。ちんまりと小さく無表情で可愛らしい16歳の美少女だが、暗殺にかけては右に出る者がいない破壊の力を持つハイダークエルフ。
96階層の守護者、ローズ。キリッとした表情と雰囲気、そして精悍さを持つ21歳の美女だが、軍を操り成熟したなら国をも蹂躙するワーフェンリル。
95階層の守護者、キキョウ。幻想と神秘を司りながらも扇情さをかもす19歳の美少女だが、その魔道の一撃は生物全てを薙ぎ払う金華妖狐。
94階層の守護者、ニル。鮮やかな表情の数々で愛くるしさを振りまく15歳の美少女だが、食物連鎖の頂点に位置するハイピュイア。
彼女達は強い。
あまりにも強い。
しかしそんな彼女達にとっても、戦争という事実は重くのしかかるものだ。
それでも俺は戦争が開始されることを彼女達に告げなければならない。なぜなら俺こそが彼女達のダンジョンマスターなのだから。
「諸君、集まってもらったのは他でもない。この度……、3国との戦争が開戦されることとなった」
俺は語りかけ始める。絶望を心に植え付けるような情報を。
「だが怯えることはない。我々は1度王国を退けたのだ、次もまた勝てる。心身を強く持ってくれ、そしてこのダンジョンのトップとしての自覚を、誇りを胸に最後の瞬間まで力を合わせ戦おうっ」
しかしそう、それでも俺から発せられる声は威風がある。
まるで、彼女達を怯えさせるわけにはいかないと、彼女達にはいつでも笑顔でいて欲しいと、そんな願いか込められているかのように。
「よーやく戦争かー。セラばっか強敵と戦ってズリーと思ってたんだよなー。あ、一番強い魔王国の魔王はアタシが貰うからな」
酒樽を抱え肉を頬張るマキナ。
「あの転生者、ワタシがいつかぶっ殺してやろうと思ってたのに。初対面からちゃん付けしてきて気持ち悪いのなんの。思い出しただけでムカツクな、ああワタシは王国と帝国の勇者とか英雄相手にするから魔王はやるよ」
寝転がってスナック菓子を食べながら酒を飲むユキ。
「……、魔王幹部、11」
緑色のカレールーをご飯にかけ、お酒と一緒に味わうオルテ。
「オルテそれ幹部全部じゃないか。まあ良い、なら私は王国の聖騎士団で」
芋焼酎と麦焼酎を飲み比べながら、寿司を次々にたいらげていくローズ。
「わっちは面倒じゃからなあ、倒しやすいのか戦い方が噛み合うのが良いのう。ああ、では帝国の虎の子と言われる魔道騎兵団じゃったか? アレでの」
ウイスキーを色々な割り方で飲みながら、たくさんの小鉢を1つ1つ味わうキキョウ。
「んー、美味しそうなのが良いけど、量も欲しいなー。Lv200以上ので我慢しよっ」
節操のないニル。
……。
「全く皆さん。欲張りすぎですよ、私の分が残っていないではありませんか」
赤ワインを片手にソファーに座り、DVDの再生ボタンを押しながらプリプリ怒るセラ。
……。
……。
一体どういうことだろう。
なぜ戦争が開幕したという事実を告げる場で宴会が行われているのだろう。
なぜ玉座の間という世界で最も厳粛な場で宴会が行われているのだろう。
確かに会話は戦争についてだ。戦争開幕を告げた場での会話としておかしくないのかもしれない。
そして彼女達がいる一帯には絨毯が敷かれテレビが置かれソファーが並べられ、開いたお菓子の袋がいくつかあり、大量の食材と酒がある。宴会が行われていておかしくないのかもしれない。
だったらこの光景もおかしくないのかもしれ……ダメだ。自分をごまかそうとしても無理だ。おかしいよこんなの。
どうして……。
作戦会議では集まりが悪く、召集の名目を宴会に変更したのがマズかったのだろうか。
彼女達は玉座の間に着くなり、せっせと居住空間を作り始めた。
食べ物類や酒類を俺にねだり、生成しないと言うと即座に帰ろうとしたので、今はもうテーブルにたくさんの料理が並び、酒は絨毯の一辺に聳え立つ城壁のように置かれている。
あの1つ1つが、俺の引き止めるための努力の結晶だ。
そして、引き止めた結果がこの惨状だ。
俺の話は聞いていたのか聞いていないのか。
……聞いていてこれだととても悲しいので、是非聞いていないことにして欲しい。
「聞いてないぜー」
そう思っていると、フードの付いた暖かめのパーカーを着て、ダボッとしたズボンを穿くマキナが俺を気遣ってかそんなことを言ってくれた。
嬉しいが、それはそれでとても悲しい。
「やっとここでの宴会かー。広いしだらけるのに丁度良いんだよな」
薄いTシャツの上に、丈が太腿まである長いジャケットをボタンを留めないまま着て、一定のリズムで足を振りスリッパを揺らすユキが、俺を気遣ってか……いや気遣ってないね。
玉座の間はだらけるところではありませんっ。
今までの宴会は食堂か俺の部屋で行うのが通例で、玉座の間で行ったことはなかった。というか俺が死守していた。
しかし今回召集したことでOKとみなされてしまったのかもしれない。
でもやるなよっ。分かるじゃんっ。
玉座の間にリビング作っちゃダメだって普通分かるじゃん。俺はこんな環境の場所でどういう顔をして侵入者を待っていれば良いんだっ?
そうか、今日が俺の終わりか……。見事だ侵入者共よ、まさかここが踏破されるとはな。ふっ、貴様等の力を見誤ったと言うことか。さあ俺を倒し、栄光を手にするが良いっ。
ってどういう顔で言えば良いんだ俺は。
コタツはいかんよ。まだ10月じゃない、冬じゃないじゃない。冬になったら良いってわけでもないけどさあ。
7人ともだらけた雰囲気で、いつもはあれだけカッチリしているセラも今はセーターに着替え、用意したフットバスで足を温めながらピザと恋愛物の映画を楽しんでいる。
「はあ……」
俺は深い深いため息をついた。
料理や酒は確かに生成したが、こんなリビングセットや洋服は知らない。
だが、あれらはダンジョンから生成されたアイテムだ。
ダンジョンマスターやPの意味が分からない馬鹿、という悪口たっぷりの勲章を授かったことで、ネームドモンスターはダンジョンの権能や権限を獲得してしまった。
つまり、自らPを使用しての生成が可能になったということだ。
既にこの城内には俺の知らないアイテムがたくさん存在している。だって俺のお小遣いよりも彼女達のお小遣いの方が多いからね。
全員が生成可能となったことでPの分配方法は1対7という圧倒的な差の多数決を以て変更された。
倒した侵入者から得られるPの75%を、倒した者に与える、と決まったのだ。
そのため彼女達はせっせとPを稼ぐ。
俺の取り分が5%なのだから、勲章を授かってから得たPを7で割って15かければ平均値が出るため、おおよそのPが分かる。彼女達の熱心さや勤勉さには毎日驚かされっぱなし。
一体いつの間にそんなに侵入者が入ってきたのだろう。
彼女達が待ち受ける94階層以降に侵入者が来ていたなんて俺は知らなかったよ。ダンジョン内で生きている姿を見たこともなかったよ。
それに本来獲得したPは、復活や罠の再装填にかかるPなどのダンジョン運営費とダンジョン強化費に全て使われるはず。しかしここではダンジョン運営費が20%、強化費が俺のお小遣いと合わせて5%。
そして運営費のほとんどが毎日の食費に消える。
あと、シャンプーとか化粧水とかそういうの。それって運営費なのかしら。
また、彼女達が破壊した分のダンジョン補修は、運営費に含まれない。そりゃそうだ、侵入者が壊したのならそれは運営費、維持費として扱うべきだが自分達で壊したものは自分達で支払うべき。
お小遣いで払いなさい、と、俺はそう言ったのだが、彼女達の言い分はダンジョンを破壊するのは自分達が強くなるための修行の過程における事故。つまりダンジョン強化費である、とのこと。
その決着は、1対7という圧倒的な差の多数決を以て定められた。
また、普段の食事は運営費と決まっていたのだが、宴会等は俺のお小遣いから、という案が浮上した。
もちろん俺は反対した。多数決など認めないという強い姿勢で、最後まで戦うと心に決めて立ち向かった。
すると驚くべきことに、宴会なんかは自分達のお小遣いを持ち寄って開催しよう、という意見が出たのだ。他にも運営費から出すべきという意見や、持ち回りで負担すべきという意見。
俺は彼女達が慮ってくれたこと、そしてその成長に思わず目頭が熱くなった。
だがぐっと堪え、どんな方法が良いかの話し合いを徐々にヒートアップさせる彼女達に多数決を提案した。
その決着は、1対0対0対0対0対0対0対7という圧倒的な差の多数決を以て定められた。
女子会も俺のお小遣いから出さなければいけない。俺は泣いた。
ふと目をテーブルに映せば凄い高級な料理や酒がズラリ。
それから目を逸らそうと絨毯の向こう側に映せば、凄い高級な料理が乗っていたであろう皿や凄い高級な酒が入っていたであろう瓶がズラリ。
「嘘だろう? 交渉のためにあれだけ胃を痛めて集めたPがもう0Pに……」
その犯人達に目をやれば、さっきまで無かったアクセサリーを身につけていた。
うん、似合ってる似合ってる。
「嘘だろう? 交渉のためにあれだけ胃を痛めて集めたPをもう0Pに……」
これじゃあいつまで経っても新たなダンジョンモンスターを生成できない。
天空城砦の玄関の門番と水晶迷宮の門番、そして五獣、干支、メイド。合わせて21体も俺はこれから生成しなければならないと言うのに。
膝から崩れ落ちる俺。
すると、ポン、と肩に手が置かれた。
顔を上げるとそこにはマキナ。
いつものように適当なドンマイだろうか。
「仕方ねえなあマスター。アタシのP貸してやるよ」
だが、その予想は良い意味で裏切られた。
「マキナ……。良いのかい?」
俺の言葉を聞いて、マキナはニッコリと微笑み頷く。俺から見えるPが、0Pから一気に3万Pにまで増えた。
「仕方ありませんねご主人様。私のPをお貸ししますよ」
「セラ……。良いのかい?」
そして3万Pから6万Pに。俺の目頭は熱くなる。
「仕方ないオー。P貸す」
「オルテ……」
9万P。それはPが増えていることにではない。
「主様、足りぬのなら私のPをお貸し致します」
「ローズ……」
12万P。彼女達がめちゃくちゃに稼いでいたことにでもない。
「主殿、わっちのPも貸そうではないか」
「キキョウ……」
15万P。彼女達が俺を慮ってくれたことや、その成長にだ。
「あるじ様ー、わたしのP貸すよー」
「ニル……」
18万。まるで、俺のこれまでの苦労が全て報われたような、そんな感覚も受けてしまう。
「特別だぞ魔王、P、貸しておいてやるよ」
「ユキ……」
21万。ああ、みんなのダンジョンマスターで本当に良かった。
「これだけあれば……。ありがとう、ありがとうみんな。俺頑張るよ、必ずこのダンジョンを最強にする。みんなに相応しいダンジョンを作り上げて、いつか必ず返すよっ」
目頭を熱くし、鼻をすすりながら俺は立ち上がり、そう宣言した。
その言葉に7人の美しい彼女達は1人1人ニッコリ微笑み、こう宣言した。
「「「「「「「利子はトイチで」」」」」」」
よーしPがたくさん手に入った。これで強いダンジョンモンスターを生成するぞーっ。そしてダンジョンを強化して、ダンジョンを最強に強化して。いつの日か――。
借金を返すんだっ。
「ってなんでやねーん。はっはっは、みんな冗談キツイぜー。」
「「「「「「「……」」」」」」」
「……」
「「「「「「「……」」」」」」」
「……」
「「「「「「「……」」」」」」」
「……あ」
熱くなった目頭から、今、何かが流れ落ちる。
お読み頂きありがとうございます。
評価やブックマークして下さっている方々、本当にありがとうございます。みなさまのおかげで書き続けることができていると言っても過言ではございません。
寒くなってきましたが、明日はクリスマスイヴです、温めあってお休み下さい。
私も温めてもらう予定です。真っ白な肌で綺麗好きでよく掃除してくれ、直接風を当てないようになどたくさんの優しさを持つ、クーラー、白くまくんに。
次話でようやく新キャラ登場です。これからよろしくお願いします。




