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第48話 ダンジョンと戦争。

ダンジョンあるあるその11

難しい言い回しの口上はスベる。

カッコ良さ追求のため、言い回しを特殊にしたり含みを持たせるとイマイチ理解されず、逆にカッコ悪く見えること。


 玉座の間。


 その名の通り、ここには玉座がある。王という最も気高い者のみが座れる椅子。

 とは言え、玉座に座ったからその者が王なのではない、王が座るからこの椅子が玉座なのだ。ゆえに、王とは常に王である。

 だから俺が取り乱すなどもってのほか、ありえないっ。


 俺は悠然と言い放つ。


「王国との戦争か、ふっ、今までの俺なら怯えるばかりだっただろう。だが今なら、こう言える。望むところだっ」

「ただの戦争、ではなく全面戦争の予定です。高Lvの者を3万名は出してくることでしょう」


 俺は悠然と言い放つ。


「王国との全面戦争か、ふっ、今までの俺なら怯えるばかりだっただろう。だが今なら――」

「王国との、ではなく王国と帝国は同盟を結んでおりますので双方が攻めてくる予定です。高Lvの者は合計で5万名を越えるでしょう」


 俺は悠然と言い放つ。


「王国と帝国との全面戦争か、ふっ、今までの――」

「王国と帝国との、ではなく現在24年に渡る戦争中である魔王国も、ここの拠点としての利を渡さないよう攻めてくる予定です。攻めてくるのは実質3国、高Lvの者は合計で10万名を越えるでしょう」


 俺は悠然と――。


「あわわわわ」

「Pを稼ぐ大チャンスですね」

「あわわわわわわわわ」」



「緊急事態であるっ。総員、作戦室へ集合せよっ」

 俺は言葉短にであるが、緊迫しつつも尊大さを醸す声を城に響き渡らせる。城内にいる7人の我が忠実なる配下達にも聞こえたことだろう。


 その言葉と同時に俺は玉座から立ち上がり、扉を開けた先にある転移陣を踏む。すると描かれた模様、魔法陣が光輝き俺の視界を一変させた。


 高い天井、壁までの距離は右も左も前も遠い。

 そこはだだっ広い部屋。


 玉座の間よりは狭いが、物がなくガランとしているからだろうか、とてつもなく広く感じる。俺はそんな部屋の中央にあるテーブルを囲む8つの椅子の内の1つに腰掛けた。

 そして、続々と入って来る我がダンジョンの精鋭達を待つ。


「……」


 この部屋には扉も窓もない。唯一の出入り口が転移陣。しかしここにある転移陣の種類は、直接触れて登録しなければ使用できない類のもの。

 本来は一度行ったことのある階層へショートカットする際に使うもので、入り口が1つもない部屋に置いても全く意味を成さない。誰も使えないのだから。


 そう、俺達ダンジョン側の者以外は。


 ダンジョンの権能は、侵入者がいない限りどこへでも転移させることが可能で、元から使用権限を持たせておくことも可能である。

 ゆえに、ここは侵入者が絶対に入ってこられない部屋だが、俺と彼女達からすれば、どの転移陣からでも入ることのできる入り易い部屋。特別な部屋。

 通称、作戦室。


「……」


 そんな作戦室のテーブルの中央には、地球儀。

 ほんの半年も経たないが、いつか見た懐かしい地球儀。

 拡大の意思を示せば星と同じ大きさにまで巨大化し、表面には地図が描かれているのではなくリアルタイムで撮られる映像が映しだされる。


 生成には10万Pも必要なこの地球儀だが、世界全てをいつでも見られるその機能は破格で、生成すれば勲章、一の世界を知りし迷宮を授かることができる。

 階層制限50階層緩和、各階層コスト制限×25緩和、ユニークモンスター総数制限を100から1000まで引き上げる、そんな効果を持つ最上の勲章を。


 俺は自身の全能さに、ニヤリ、と口角を上げ、椅子に座したまま我が彼女達を待った。


「……」


 ……。

 せめてセラは後ろにいたんだから来て欲しかった……。



「では改めて作戦会議を始める」

「どうぞ」

 俺は自室に戻り、玉座の間の清掃を開始していたセラを召集。作戦会議を始めた。


 巨大なテーブルには俺1人が腰掛け、セラは俺の左斜め後ろで控える。いつもの定位置、そして目の前には拡大された地球儀。

 ダンジョンを中心に表示するようにして、1cmを1kmの縮尺。ゆえに10cmの巨大な大地に建つ三日月型の城がそこにはある。


 いやはや、なんて美しい形だ。7人もデザインに関しては褒めてくれる、まあそこに40万Pも使い込んだんだから当然ですが。

 でもその内の10万Pはこの地球儀だからね。30万Pさ。


 ああ、でも大量にPを使っての生成だから地球儀も安くなってるのか。一緒に生成したし。

 えーっと、10万Pなら白金貨1万枚分で、43万Pなら白金貨18万4900枚分なので、そうだね、うん、ほとんどデザインだね。

 

「ともかく、ここが我等のダンジョンである」

「普通の喋り方で構いませんよ」

「ここが俺のダンジョンじゃん」

「俺の?」


「俺達のダンジョンじゃん」

「俺達の?」

「せめて俺成分はどこかに入れさせてくれっ、ダンジョンマスターなんだ。俺がダンジョン本体なんだっ。と、ともかく、ここがダンジョン。それから王国、帝国、魔王国の位置取りが……」

 紆余曲折はあったものの、作戦会議はつつがなく行われる。


「ダンジョンは3国の丁度中間地点と言えますね。王国が南、帝国が南東から東、そして魔王国が南西ですので」

「それって中間か? 王国の方が挟まれてない?」

「王国と魔王国の間には中級火竜が住む山脈があり……いえ失礼致しました、中級火竜は140日程前に死んでいましたね。ただ山道は変わらず険しいので、越えることは難しいです」

「なるほど」


「よって3国の中間地点とは北か南に大きく迂回するしかありませんが、北には軍事行動など到底できない魔境があり迂回できず、南にはいくつかの小国を緩衝として残していたため直接的な軍事行動は難しく、中間地点は存在しませんでした」

 ……、中級火竜はなぜ死んでしまったのだろう。そう言えばダンジョン開闢10日頃にマキナが中級火竜を倒しに行くって言ってたなあ。きっと関係ないよね。


「しかし現在魔境はダンジョンに置き換わった上に、地上階層のどこにも魔物がおりませんので、軍事行動がとてもし易い中間地点、と呼べるものができたということです」

「分かり易い説明ありがとうセラ」


「恐縮です。ついでと言っては何ですが、ご主人様の疑問にお答えしますと、この中級火竜はダンジョン開闢10日目にマキナが倒した中級火竜です。他にも取り巻きとして下級火竜がいたようですが、討ち漏らしはございません」

「分かり易い説明ありがとうセラ」

「恐縮です」


 俺はなんて血塗られた道を歩んでいるんだろうか。俺は同胞たるダンジョンマスター達に聞きたい、普段どんなことをして過ごしているのかを聞きたい。

 俺と似た様な道を歩んでいると聞いて安心したいっ。そんなダンジョンマスター絶対いないけど。

 あと会話するにはダンジョンバトルをする必要があるから、そのダンジョンマスター絶対死んじゃうけど。


「王国、帝国、魔王国の戦力について説明しますと、王国、魔王国、帝国、の順になります」

 セラからの説明は続く。

 聞けば聞くほど絶望と胃痛の襲う説明だ。


「王国は現在弱体化激しいですが、依然として大国ですので人材は豊富。Lv200以上に限定しましても200人はおりますね。また召喚者はおりませんが、勇者や英雄、転生者に転移者は戦力として多数確認できます」

 全面戦争とは、存亡をかけた戦い。

 持ちうる戦力の大半を注ぎ込んでくるに違いない。


「魔王国は常備軍を確保しており、鍛えられた軍を5万以上確実に動かせます。また新たな魔王として擁立された者は勇者としてLv200を越える逸材です」

 そして人間や亜人の中には、尋常ならざる者もいる。

 ユキのような者こそ少ないが、勇者や英雄、転生者に転移者なんかはそれなりにおり、みな特殊な力を有している。


「最後に帝国ですが、国力自体も然ることながら、ユキと双璧を成すと言われていた英雄の転生者がおります。大陸を見回しても3本の指に入る強者ですね」

 特に、勇者で召喚者だったユキのように、勇者の転生者や英雄の転生者のような者は飛び抜けて強い。

 王国にも魔王国にも帝国にも、そんな者達が何名かいる。


 聞けば聞くほど絶望と胃痛の襲う説明だった。

 ああ、セラよ。どうしてそんなに詳しいんだ、一体どうやって調べたんだ。カメラだけでそんな情報が仕入れられるのかい? スパイが一体何人いるんだ……。


「メイドですから」

 メイドなら仕方ないかあ。……とはならないぜっ。


 この絶望と胃痛を、俺はどこに持って行けばいい。どう抑えればいい。

 彼女達のこれ以上の暴虐を止める方法はどこかにないのかっ。

「ございませんね」

 ないようだ。


 ならせめて、せめてこれから起こる戦争を止める方法はどこかにないのかっ。

「そちらならございます」

 ないようだ――。

「えっ?」

「可能です」


 セラはニッコリと笑う。

「と言うよりも、王国、帝国、魔王国の3国共、こちらに使者を送る心積もりのようです。ダンジョンの協力を得られれば休憩はもちろんのこと、戦力の拡充や装備、食料、日常品などの補給が受けられますから」


 俺は先ほどのような詳しい説明を受ける。

「ダンジョンと和平条約を結ぶことはよくあります。安全な寝泊りが可能な中継点を持てるだけで国力は大きく上がりますから」

 だが、今回の説明はこれまでと全く違う、絶望し胃が痛くなる説明ではない、聞けば聞くほど嬉しくなる説明だ。


「これで、これで戦争を、食い止められる。王様を殴った上に食料強奪してるのに、戦争を食い止められるのかっ」

「はい。数年がかりで倒した上級風竜の素材も、国一番の将軍もLv200を越える逸材も、先代の魔王国の魔王を討ち取り数々の偉業を成した召喚勇者も奪われておりますが、王国も使者を送ってくるようです」


 なんて度量の深さだっ。

 申し訳なさすぎて心が折れそうだよっ。


「王国は今弱体化していますからね、止む得ないのでしょう」

「その原因の8割は俺のせいっぽいが、まあ戦争が回避されると言うのなら良かった」


「ただ、王国と帝国側、魔王国側、この双方共に協力するということはできません。そもそもが戦争を行っていますので」

「まあそれはそうか。じゃあどっちかだけに協力する形になるのかな?」

「いえ、不干渉でも構わないと思われます。干渉せずとも自ずと戦場は戦い易いダンジョン内になるでしょうから、Pは稼げます」


「ほうほう、それは中々悪い考えだねえ。まさしくダンジョンマスターに相応しい」


「恐縮です。それと反対に双方共に敵対するという選択肢もありますね。攻め込ませ多数を討ち取ればさらに多くのPを稼げます」

「……それは中々極悪な考えだねえ」


「恐縮です。まさしく悪逆非道のダンジョンマスターに相応しいかと」

「……」


 俺は立ち上がる。

「作戦会議を終了しますっ」

「お疲れ様でした」


 結局ほとんど使わなかった地球儀を縮小し、俺達は部屋を後にする。

 あの地球儀が一番使われたのが、四獣を探す時かな? あれで見てれば強い魔物ならすぐに見つけられちゃいますよねー、特殊な環境に住んでたり、住んでる場所の環境が変わっちゃうからさ。

 俺はなぜあんなものを生成してしまったんだ。


「しかし、良い会議だったよ。是非とも3国とは不干渉を貫き、場所だけを提供してPだけを頂こう」

 俺とセラは転移陣を起動させ玉座の間に戻ってきた。

 ここが自室、というわけではないのだが、ダンジョンマスターとして常に威厳を高く持ちたいからね。王が座るから玉座なんじゃない、玉座に座るから王なのさ。


「では使者ともそのような交渉を行うということでよろしいですか?」

「もちろんさ」

 俺はセラの問いに笑顔で答える。

「かしこまりました。交渉は私が行いますか? それともご主人様が行いますか?」


「セラ、そう言った交渉事はダンジョンマスターの重要な仕事だ。もちろん俺がやるに決まっているだろう」

「そうですね。差し出がましいことを申しました」

「いや、仕方ないさ。確かに今までを考えれば仕方ない。だがセラよ」

「なんでしょう」


「安心してくれ。なんて言ったって俺は人間種族のダンジョンマスター。交渉は得意なものさっ」

 セラはニッコリと俺の答えに頷き、俺もニッコリと返す。

 なんだかんだ言って俺達は良いコンビ。


「Pの稼ぎ時ですね」

「ああ、Pの稼ぎ時だな」

 しかし、この時の俺達の考えに齟齬があったことは間違いない。

次々話くらいで、登場人物が増えます。

どんどん増えます。


7人のことを可愛いと思って下さっているのか、新キャラに期待して下さっているのか、不安ですが、頑張りますのでよろしくお願い致します。

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