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第47部 今までとこれから。

ダンジョンあるあるその10

Pを貯めすぎ、確保したまま踏破される。

Pはまとめて使った方が効率的であるため、少しでも多く貯めようとした結果、Pを貯めることで強まるダンジョンコアの波動がダンジョンの規模を越え、アッサリと踏破されてしまうこと。

「くははははは、よく来たな、愚かな侵入者共よっ」

 俺は嘲笑と歓喜を含んだ笑いを、ダンジョン最終階層に響かせる。

「ここまで来るとは大したものだ、しかし、その幸運もここまでのものと知れっ。いでよ、我が最強の僕っ」

 そして右手を掲げ、高らかにそう宣言した。


 ……。

「うーん、違うな。もっとこう悪な感じがいるか? どうだろう」

 俺は誰もいない玉座の間で腕を組んで考える。

「こんな感じか? くっはっはっはっは、哀れな侵入者共が、自らの無知と弱さを絶望の中で悔いるが良いっ」

 そして再度笑い声と、覇気の轟くセリフを響かせた。


「いや、やっぱり全員やられた後に出てくるべきか? ――ふっ、見事なものだ。我が試練のこと如くを越えるとは、最早打つ手はない。さあその刃、俺に突き刺し栄光を手にするが良いっ」

 こんな感じか。

 中々、良いんじゃないだろうか。

 俺は頷き、今言ったセリフをメモにサラサラと書き込んでいく。


 ここは玉座の間。

 今まで住んでいた掘っ建て小屋とは全く違う、雄大にして荘厳な我が居城の最上部だ。

 階層数自体はマキナが戦う100階層と同じだが、位置取りはその上階に位置する部屋で、ここより高い場所はダンジョンコアが浮かぶ屋上しかない。

 絶望と希望、友情と努力、成功よりも遥かに多い失敗を乗り越え辿り着くのであろう、この玉座の間。侵入者は俺を倒し、後ろにある扉から螺旋階段を上がり、天空城砦全域を眺め、ダンジョンコアを破壊する。なんとも素晴らしい最終章じゃないか。

 

 しかし、だからこそよく考えなければならないことがある。

 それは口上。

 ダンジョンマスターによる、侵入者への最初にして最後の言葉。最終階層守護者との戦闘前か戦闘後に送られる口上は、ダンジョンマスター自身の覚悟を定め、そして侵入者の栄光を喝采する。


 大した事のないダンジョンであれば、口上をいくら装飾したところで意味はない。

 弱弱しいダンジョンのダンジョンマスターに長々と言われてしまえば、むしろ盛り下がる危険性もある。

 ようこそ、俺のダンジョンへ。

 このくらいの短めかつ、あれコイツ実は大物なんじゃ感を出す口上がピッタリ。


 だが、ここまで立派なダンジョンになってしまうと、それでは物足りない。

 ようこそ、俺のダンジョンへ。なんてこの立派な玉座の間で言ったら、え、それで終わり? と思われてしまうだろう。

 侵入者達は苦労して苦労してここまでやってきた。だから俺達私達は凄いことをやったんだと、再認識させるような立派な口上、俺を倒した際に歓喜に震えてしまうような口上が必要になる。


「ふふふ、はははは、はっはっはっは。侵入者よ、よくぞ我が試練を乗り越えた。貴様等の名は最強を冠する者として、永遠に語り継がれるだろう。いや、未来のことなど敗者には関係ないか。敗者は黙しただ去るのみ、これ以上語る口はない。さあ勝者よ……、見事だ、ぐはあ」

 そのため俺は、こうやって1人で思案中。


「これもアリだな。候補にいれておこう」

 俺はその言葉をメモ帳に書いていく。1人でやっているのは見られると恥ずかしいから。さすがにちょっとねえ。

 必要な練習だし、大切なことだが、見られたら恥ずかしいものは世の中に多々ある。枕でキスの練習しているのを見つかったら恥ずかしいだろう? そういうことだ。

 それに、こういうのは隠れて練習するのがマナー。ダンジョンマスターはカッコイイのも仕事だからね。

「――んん? ビビっと来たぞ、良いのを思いついたっ」


 ダンジョンマスターの仕事には死ぬことも含まれている。だから死ぬ時も、カッコ良くなければいけない。俺は最上のセリフを求め、今日もまた口上を繰り返す。

「そうか、今日が俺の終わりか……。見事だ侵入者共よ、まさかここが踏破されるとはな。ふっ、貴様等の力を見誤ったと言うことか。さあ俺を倒し、栄光を手にするが良いっ」

 ダンジョンの規模に見合った口上を目指すなら、これだけで終わらない。天空城砦を構えた最高のダンジョンマスターの語気は強まり、最後の盛り上がりへのスパートを見せる。


「だが、ゆめゆめ忘れるな。それが1人で勝ち得た栄光ではないことをっ。仲間の存在をっ。仲間がいたからこそ――」

「ご主人様、今よろしいでしょうか」

「うわあああっ」


 いつの間にか横にいたセラ。

「ビックリしたっ。ええ、ビックリした。うわあ、ビックリした」

 全く気付かなかった。気付かずにテンション高めの口上に入っていた。


「……はっ。い、いつから? もしかして、聞いてた?」

 俺はメモを背に隠す。

「なんのことでしょう」

 良かった、どうやら聞いていなかったようだ。俺はホッと胸を撫で下ろす。

「いやいや、なんでもないよ。それで、何か用件があったの?」

「ええそうです。よくお分かりになられましたね、愚かで哀れで敗者なご主人様にしては、見事なものです。仲間がいないのによくできましたね」

 最初から全部聞いてるじゃないですかっ。あと俺は仲間いるよ、君達が俺の仲間なんだよ。


「入って来る時はノックしてくれって言ってるじゃない。っていうか扉から入ってきなよ、転移陣も玉座の間の扉の前にあるんだからさ」

「転移陣を使うよりも自前での転移の方が速いので」

「そのせいで俺のプライベートがなくなっているんですが」

「そうでしたか。それで本日の用件ですが」

 なんて華麗なスルー。

 俺のプライベート空間……。


 掘っ建て小屋に住んでいる時にプライベートがなかったことは良いんだ。

 ことあるごとにセクハラだと言われ、着替えの最中はどっちが着替えるにしろ俺が家から出ていたが、一部屋しかない家に男女7人で住んでいたんだから当然の話。

 けれどこの城には各々の部屋がある、もう言われるはずがない。そう思っていた。


 しかし現実はどうだ。

 この城に移ってからも俺のプライベートは皆無で、自室で着替えとかしてる最中でもバンバン入られる。そして俺が悪者になる。家族会議で吊るし上げられる。どうして……。

 城にはもちろん風呂も用意した、男湯女湯共にかなり豪華な温泉施設だ。

 男湯の湯船は巨大で電気風呂やジェットバスなどの多種多様な風呂があり、女湯には様々な効能がある温泉を多数配置し、岩盤浴などの施設をたくさん盛りこんだ。しかしその長所がバラバラなためか、気分次第で男湯にもバンバン入られる。そして俺が悪者になる。家族会議で吊るし上げられる。どうして……。


 マキナよ、俺が隠す手をどけようとしてたのは君じゃないか。なぜお風呂から上がった途端泣きながら俺を指差すんだ。口元笑ってるじゃねえか。

 セラよ、俺は服を着たか尋ねただろう、着たって言ったじゃないか。なぜ尋ねた時よりも脱いでいる。1日1セクハラなんて目指してないよ。

 オルテよ、お風呂で飴は食べちゃいけません。でもそこを曲げて俺は生成したじゃないか。なぜ何も弁護してくれないんだ。飴を一旦置いてくれよ……。


 この城、天空城砦に引っ越してからもう2ヶ月。

 俺がダンジョンマスターになったのは春の麗かな4月。戦争が終わり、天空の城を設けたのが夏の日差し煌く7月。

 だから今は9月、秋。

 2ヶ月という短い期間だが、ダンジョンマスター生の40%を占める長い期間でもある。日々は日々で色々なことがあったが、イベントごとに関しても本当に色々なことがあった。


 第1回ダンジョン最強決定戦があったり。海水浴と言う名の殺戮があったり。

 第2回ダンジョン最強決定戦があったり。夏祭りと言う名の殺戮があったり。

 第3回ダンジョン最強決定戦があったり。お盆と言う名の殺戮があったり。

 第4回ダンジョン最強決定戦があったり。秋祭りと言う名の殺戮があったり。

 第5回ダンジョン最強決定戦があったり。お月見と言う名の殺戮があったり。


 マキナは遠く遠くまで飛んで行き、魔境にはいないだろう魔物をたくさん持ち帰ってきてくれたり。

 セラは写真付きで他ダンジョンの1階層から最終階層までを教えてくれたり。

 オルテはお花に水をあげたり。


 ローズは炉と武器防具と、魔道具を動かす原料となる魔石を大量に持ち帰ってきてくれたり。

 キキョウは研究所の施設を取り揃えたらこのくらいかかるからここまでは頑張ると計算して教えてくれたり。

 ニルはお城を召し上がったり。


 ユキは、何をしてくれたんだったかな。


「それでは用件ですが、ユキが王国の王を殴り飛ばしてきたことにより、王国帝国同盟軍が戦争状態にあります魔王国と一時休戦し、その矛先をこちらに向けました。よって再び戦争が開始されます」

 ああそうそう、ユキはムカツク王様を殴りつけて、ダンジョンのアピールをしてたくさんの侵入者を誘いこもうとしてくれたり。


「……」

 ……。

 ……

「何か?」


 ……。

「……ちょっともしもし半神さん」

『もしもしなんだい、魔神さん』

 俺はユキに呼びかける。


 人間から半神へ進化したユキ。

 魔物なら成した偉業で進化先が追加され、Lv100以上且つそれぞれの進化先におけるステータスや固有能力、種族特性等の進化条件を満たしていると進化可能となるが、人と亜人は通常進化しない。

 それこそ、Lv100を越えていれば、進化条件を無視し選択肢にある進化先へ進化させてくれたり、進化しない種族でも無理矢理進化の切欠を与えてくれる進化の宝玉を使わなければならない。


 はい、使ったそうです。

 ダンジョンバトルが始まってすぐに使ったそうです。セラが渡したそうです。

 聖者と修羅、その2つは割とメジャーと言えばメジャーだが、他にも下位天使、下位悪魔、そして半神があったそうで、迷うことなく半神にしたそうです。

 迷えよ、と思う。だが、それはもう良い。

 大事なのは今だ。


「貴女の母国が攻めてくるらしいんですが」

『そうだな』

「確かにムカつくやつをぶっ飛ばしてくると言っていましたが、王様とか偉い人にはダンジョン有利な情報を伝えてくれたんじゃないの? ワタシが見張る、とか」

『? ムカつくやつって王のことだったんだが。あと大臣とか』


 迷えよ、と思う。凄く思う。

 まさかの宣戦布告をしていました。

 王様とそれに近い役職の人を殴り飛ばされてたらもう何の余地もないじゃん。むしろその後よく生きて国出られたな。

『大立回りだったさ』

 ……半端じゃなく危険だよこの人。いや俺とダンジョンの危険さは大立回りしてもしてなくても変わらないんだけどユキがもう超危険人物になってるよ、ヤバイ女だよ。


『ニルも大活躍だったな』

『食べ物いっぱいあったよー』

 食料強奪事件も起こしてやがるしこりゃあもう戦争編再突入は不可避だ。うちにはヤバイ女しかいないのか。


「なんだこの忙しいダンジョンマスター生活は。普通はもっと釣り人のように垂らした糸に食いつくのを待つんじゃないのか? 経営者のように仕掛けて流行るのを待つんじゃないのか?」

 生後六ヶ月目。ダンジョンマスター生活150何日目か。

 戦争しかした記憶ないぞ。一体全体どうなっているっ。

「何を仰っているのですか。ご主人様が糸を垂らし、仕掛けた結果ではありませんか。自信を持って下さい」

 ……俺そんなことしたかなあ。


 どうやら落ち着いた日々が来ることはまだまだないようです。

お読み頂きありがとうございます。


更新が少しずつ遅く、そして文字数が少なくなっております。

根性を振り絞り、頑張ります。

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