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第40話 最後のダンジョン攻略大作戦、中編。

ダンジョンあるあるその3

成長を目の当たりにしてのアイテムプレゼント。

目立ったこともしていなかった侵入者がある日突然開花したような活躍を見せると、すごく気に入ってしまい、通る通路通る通路にアイテムを置いてしまう現象のこと。

「そりゃあっ」

 ローズは、貫かれたことを理解すらさせない速さをもって、魔物の束を蹴散らしていく。


 階層守護者を瞬きの間に倒し、新たな階層へ辿り着いたローズ。

 その後ろには狼、ローズの髪色と同じ鮮血と業火が入り混じった赤色の毛を持った何十、何百の軍狼。


 グルルルル、と、彼等の士気を表すような唸り声は何重にも重なりながら、そこにいる全ての生物を威圧する。

 そして彼等は、振った槍を合図に一斉に駆け出した。


 ここは蟻の巣状のダンジョン。

 道は前後左右だけでなく、上下に繋がっている箇所もある。だから狼達は文字通り縦横無尽に駆けている。

 メインルートである石造りの床を壁を天井を。サブルートである土肌露な床を壁を天井を。


 狼達はあまりにも強い。

 圧倒的な数と組織的な戦術が武器であるはずなのに、ただ1体の爪と牙の前に虫系魔物達は成す術なくやられていった。

 どんな場所にいようがその鼻と足からは逃れられない。

 愚かにも歯向かった者共の喉笛を食い千切らんと、狼達はダンジョン中を駆け巡る。


 無論、その先頭はローズ。


 どの狼よりも速く強く。今も何体もの群れで行動する虫系魔物達の真っ只中に1人で突っ込み、武勇を見せつけた。

「でやあっ、と、むむ。主様、どうなさいました?」

 しかし、突如として急停止。


『あ、はい』

 己が主、ダンジョンマスターからの監視に気付いたからだ。


「おおお、私の戦いぶりを見に来て下さったのですね。あまり強い敵はおりませんが、見て下さい、私のこの槍捌きをっ」

 槍が駆け抜ける。

 まるで邪魔するものなど何もなかったかのように、力感なくも綺麗な軌道を描いた槍はしかし、幾重にも重なった生物の機構を切り裂いた。

 ローズにとってその程度の魔物の外殻、空気を切るのと変わらない。


『うん凄い、さすがローズだ』

「ありがとうございます。不肖ローズ、幸せの限りでございます。これからも益々励み、また主様に褒めていただけるよう邁進して行きたいと思っております。主様におかれましては――」

『ローズ、ローズ、ローゥズっ』

「は、はいっ。なんでございましょうかっ」


 ダンジョンマスターとの通信を始めたローズは、基本直立不動の姿勢。

 厳しくも凛々しい、勇猛ながらも妖艶な赤髪を靡かせる狼耳の美女は、魔物との戦いの中においても主との会話を優先させる。

『実は1つお願いがある――、いや貴女噛まれてる、噛まれてるやないか、大丈夫? 大丈夫なの?』

 そのため、動きを止め無防備になったローズ目掛け虫達は今も襲いかかっている。


「御心配して下さっているのですね。ありがとうございます、こんなに嬉しいことはありません。この程度主様のためであれば問題ありませんとも。主様におかれましては――」

『ローズ、ローズ、ローゥズっ』

「はい」


 魔物の攻撃も全く意に介さず、ローズは不動のままダンジョンマスターとの会話を楽しむ。もちろん不動と言っても尻尾は大きく振られているが。

 ダンジョンマスターは、必殺技のようなものを放たれるもニコニコとしているローズを見て少し頭を悩ませるが、まあ良いか、と開きなおり、さきほどしようとしたお願いを再び切りだす。


『いやね、できればみんな一緒になったダンジョン踏破をして欲しいと思ってるんだけどさ』

 とても自信なく小さな声で。


「なるほど……。分かりましたっ」

 ローズはそんなダンジョンマスターの様子を見て、自分は大丈夫だと胸を張って答える。敬愛するダンジョンマスターの願いを叶えることはローズにとって一番の喜びだ。


『おお、分かってくれるのかね?』

 ダンジョンマスターにもその思いが伝わったのか、さっきの声とはまるで違う、大きな明るい声。


「はい、つまりトップに追いつけということですね? お任せ下さいっ」

『いや違う違うっ、追いつけっていうか……、あれ、そういうことなのか? ……、ええっと、うん、じゃあ頑張って追いついて?』


「ご期待に応え、見事私がダンジョンをトップで踏破してみせます。見ていて下さい主様っ」

『あ、うん。応援してます』

 主からの激励を貰ったローズは、すぐさま駆け出す。

 噛み付いてきていた魔物達をほんの数瞬で蹴散らして。


 ダンジョンマスターとの通信は自然と終わり、そして監視も終わる。

「なるほど、見ておらずとも私がやれると信じてくれているのですね? ありがとうございます、主様っ」


 ローズは赤く巨大な狼を召喚し騎乗すると、階層を全速力で駆け抜ける。

 魔物の殲滅は配下の狼に任せ、自身は最短の道を。その思いはたった一つ。


「主様の期待ならばどんなものでも応えて見せる。そうすればきっと、あんな真似をされることもない、絶対に、2度とさせるものか」




「ほれ、耐えるでないぞ」

 キキョウがそう言うと、どこからともなく大量の木々が濁流のように押し寄せた。


 普通の生物であれば、恐怖に怯え逃げ惑っていただろう。だから虫達はダンジョンモンスターで良かった、少なくとも恐怖だけは味わわずに済むのだから。

 木々の荒波にもまれ消えていく命。


 たった一撃の魔法で階層全ての生命が消え去った。残ったのはキキョウただ1人。

 

「この階層の魔物の弱点は木、基本に忠実じゃの。家とは大違いじゃ、見ておるんじゃろ?」

 しかしそんな誰もいなくなった階層で、キキョウは誰かに話しかけた。

『みんな分かるのな。なんでだろう』

 相手はダンジョンマスター。


『でも、うちだってダンジョンのそういう属性を揃える基本は守ってるぜ。なぜなら階層につき1人しか魔物がいないから』

「アホの極みじゃの」


 キキョウはその答えが予想外だったのか、予定調和だったのか、くくくと笑い、階段までの距離を空間魔法で潰し、1歩で階層を踏破する。

 そして階層守護者との戦いも、実にアッサリと終わらせた。


『俺だって普通のダンジョンみたいにいっぱい工夫したいんだ』

「ならわっちらをもっと少ないPで生成すれば良かろうに」

『……どうしてこんな風に俺はなってしまったんだろう。やっぱり最初に大量P獲得したのが悪いね、人間大金を手に入れちゃったら性格変わるっていうからね』

「ほう。では主殿は大金を手に入れ、豪胆な性格になったと?」


 何もかも一撃。

 ダンジョンモンスター達も、階層の構造も、階層守護者も。そのダンジョンを作ったダンジョンマスターからすればなんともやるせないことだろう。

 特に、階層を一瞬で攻略するのならダンジョンモンスターを倒す意味はなく、ダンジョンモンスターを一撃で一掃しているなら階層を一瞬で攻略する必要もない。

 何とも無駄なことをされている。


『……。どうしてこんな風に俺はなってしまたんだろう。ってそれはもう置いといて、キキョウさんや。もうちょっと急いでみんなに合流するって選択肢はありませんかね』

「ないの」

 キキョウは次階層への道もゆっくり進みながら、そう答えた。


 金色の切りそろえられた長い髪と艶やかな着物に身を包む、どこか神秘的でしかし毒々しい美女。清と濁を合わせ持つその立ち振舞いは誰もが心震わす。

『まあなんて我侭っ』

 地下にはそぐわないような、ピタリと合うような、そんな雰囲気。


「わっちは魔法を遠慮なく撃てて、尚且つLv上げをいつもより効率良くできるから、こうやっておるんじゃ急ぐつもりはない」

『ああ、だから1回1回殲滅……。でも貴女ローズが階層に残してった狼ごとやってますよ』

「アレが弱いのが悪いんじゃ」

『……まあなんて我侭っ』

 そんなキキョウは、素っ頓狂な声をあげ頭を抱えたダンジョンマスターに、含むような笑いを少し堪え損ねる。

 

「ま、何事も研究所が建ってからじゃな」

『ですよねえ』

 和やかな会話。しかし行動はそれと正反対。

 次階層でも再び、階層全ての魔物を壊滅させる威力の魔法を放ち、反論しようもないほど壊滅させた。


「ああそうじゃ、昼寝用のベットとクッションと抱き枕を用意せい」

 和やかな会話は続く。

 キキョウにとってそれは戦闘行為ではない、ただの実験、スッキリするための方法、日常の域を出ない行為。だからこうやって和やかにいることができるのだ。


『あばばばばば』

 ちなみにダンジョンマスターにとっては域を出る。


『ま、まあ、うんほら、みんな一緒に戦うってことも良い事なんじゃないかなーとマスター的には思うわけですよ』

「わっちは思わん」

『そこはほら、うん、きっとさ。いや俺も良く分からないけど、うん、ともかくそうなのさっ』

「下手糞じゃのう。まあ良い、ならばほんのちーっとだけ急いでやるとしよう。ちーっとだけな。面倒じゃ、ああ面倒じゃ」


 キキョウはそう言ってまた先ほど同様、階層の始まりから終わりまでをショートカットし、次階層で大規模魔法を放った。

『本当にありがとうございます』

 どこが急いでいるのか全く分からないダンジョンマスターは頭をかしげているが、なぜか礼を言う。

 普段のクセなのだろう。


「ま、朗報を待っておれ、ではの」

『はい、頑張って下さーい』

「……はあ、面倒じゃのう」

そんな言葉を聞こえるギリギリのタイミングを狙って言ったキキョウは、監視の目が切れても態度を変えない。ただし速度だけは大幅に上げた。


「わっちの主殿はアホじゃ、頼りのうて情けない。全く。じゃから仕方ない、ああ仕方ない仕方ないのう」




「うーーーーん」

 右の道と左の道、交互に見比べ首を体ごと大きく横に倒す。

 そして、ふと下を見る。


「下かな?」

 ニルはそう言うと、次階層へ飛ぶ。下方向へと作られているこのダンジョンの、まだ行ったこともない次階層へ、階段を使わずに。

 本来それは不可能なこと。ダンジョンのルール、絶対不変のその条項が吹き飛んでしまう異様なことだ。

 しかし神威魔法を使いこなすニルにとって、それは普段通りの行動と変わらない。


「ここにもいない……。あ、あるじ様ー、ご飯が、ご飯がないよーっ」

『他の人から食べ物貰っちゃダメっていつも言ってるでしょ。いやそうじゃない、そういうことじゃないんだニルよ』


 ニルはどれだけ階層を進んでも魔物と出会えない悲しみを、監視していたダンジョンマスターに伝え助けを求める。

「お弁当もう1個ー」


 ユキが駆け抜け、マキナが強者を倒し蹂躙する。

 セラは通り抜け、オルテは邪魔な魔物を数体倒す。この時点ではまだ魔物も多い。

 しかしローズは莫大な物量で階層を制圧し復活した魔物を倒す用の狼まで置いていく周到さで殲滅。

 そしてキキョウがその狼ごと全ての魔物を殲滅。


 このダンジョンにあるPは既に度重なる復活などで底を尽き、所有しているアイテム類などを換金し賄っている状態。

 マスプロモンスターは通常自動的にPを使用し復活するが、Pが足りない状態であれば任意となる。2度も壊滅させられてしまっては、もうダンジョンマスターもそこへPを割り振らないのだろう。

 だからニルはまだ1度も魔物と出会っていない。


『さっき食べに帰ってきて追加で持ってったじゃん、あれは?』

「もうないよー」

『凄い量あったんだけどなあ』


 ニルのお腹はいつでも空腹。

 右手に持つナイフと、左手に持つフォークと、音を鳴らすお腹は獲物を今か今かと待ち受けている。

 特に、お弁当の味を思い出してしまった今は、ジュルリと涎を垂らす口元までもが準備万端。


 しかしこのダンジョンで魔物を食べられないことを思い出して再び悲しい顔に。チラリ、とニルはダンジョンマスターの顔を見る。困った悲しそうな顔のまま。

『分かった、分かったよ。まあ、じゃあみんなに追いついて合流して、一緒にダンジョンのボスを倒してきたらたくさんご飯を作ろうじゃないか。ごちそうだよごちそう』

「ホントーっ やったーっ」

 ニルはバンザイしながら何度も飛び跳ねる。


 カールのかかった柔らかい髪は揺れ、コロコロと表情が移り変わる幼さを残すも綺麗な顔は、今、先程までと全然違う、見る者全てを思わず笑顔にしてしまうようなとびっきりの笑顔になった。


「ごちそうっ、ごちそう。あっ、あるじ様もごちそう?」

『……それは、あるじ様もごちそうを食べるのか、って意味かな。それならそうさ、俺だって食べるよ』

「あるじ様はごちそう?」


『……。あるじ様はごちそうに入らないかなー』

「ダメ?」

 ニルはしゅんとした、悲しそうな顔でダンジョンマスターの顔を見る。


『……かじるくらいなら……』

「わーい」

 ニルはまたとびっきりの笑顔で、飛び跳ねて喜び一気に何階層も深い階層へと飛ぶ。


「じゃあ頑張るー」

『うむ、頑張れ』

 そしてまた深い階層へ。


 ダンジョンからの監視がなくなったことを悟ったニルは、一瞬だけ不安になったが、再び深い階層へと移動を続ける。

 ちょっと涎を垂らすが、それはキュッキュと綺麗に拭いて。


「またいないお腹空いたーお弁当欲しいなー。でも我慢。あるじ様死んじゃやだから我慢する。それで、いっぱいかじるーかじるー。たくさんかじるーっ」

お付き合い頂きありがとうございます。


3話に分けた中の2話目です。

第3章ダンジョンバトル編は、話数はそこそこありますが、全体的に文字数が少ないですね。ただ読み返しているとそのくらいの方が読みやすいと自分でも思います。

悲しい。


これからも頑張ります。おそらく平均は7000字を下回りません。

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