表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/139

第39話 最後のダンジョン攻略大作戦、前編。

ダンジョンあるあるその2

出会わず戦わずの階層攻略。

偶然にダンジョンモンスターと遭遇することなくスイスイ次階層へ行ってしまうと、せっかく作ったダンジョンが無駄になったかのように思えて物悲しいこと。

「おらあっ」

 マキナは飛びかかってきた大きなカマキリの魔物を殴り付ける。

 ダンジョン内でなければ暴風が巻き起こるだろうその高速で膨大なエネルギーを秘めた拳は、一撃でもって魔物を物言わぬ魔石へと変貌させた。


 だが、ここにいる魔物はその1体だけでない。見回せば100体以上の魔物がその部屋にひしめいている。

 ここはモンスターハウス。

 数多のダンジョンマスターが好んで使う、処刑部屋だ。


「気配がしたからわざわざ来てみたってのに、期待外れだな」

 しかし、マキナにとってここは処刑部屋になり得ない。ただの障害ですらないのだから。


 襲い来る、カマキリ型など虫系等の魔物の中では戦闘に優れた出で立ちの魔物。まるで単体では勝てないことを悟っているのかのように束になって四方八方から。

 マキナはそれを目の前に頭をポリポリとかく。


 そしてそんなのんびりとした動作のまま、マキナは右の手の平を上に向ける。

 力強く天にかざしたわけではない、まるで雨が降っているのかどうかを確認する程度の日常動作。それでもその手の平には、大多数の生物にとって絶対的な死が宿る。


 緊張も真剣味もないまま浮かび上がった、かすかに青みのある美しい白の球体。

 ガラス、クリスタルガラスのように透き通り煌く、小さな小さな淡く発光する球体。

「よっ」

 マキナはその球体を、無造作に軽く上へ放り投げた。すると、そんな軽い掛け声からは想像がつかない暴風が部屋中に吹き荒れる。


 視覚も聴覚も何一つ役に立たない暴風。

 その時間は一瞬。

 なぜならマキナがその暴風を自身の力でかき消したから。しかしその一瞬でその場にいたマキナ以外の全ての生物は消え失せた。

 返り血どころか、服に埃1つなく髪に乱れすらない、生意気盛りだが大人ぶりクールを目指すわんぱくな美少女1人が、その暴風の中から現れた。


「次次ー」

『いや、次ー、じゃねーよマキナー、マキナさーん』


 モンスターハウスを蹂躙し、次の死地へと赴こうとしたマキナがダンジョンに入って初めて動きを止める。自らのダンジョンマスターから通信が入ったからだ。

「あん? なんだよ」

『なんだよじゃなくてですね。俺は1つ言いたい、心して聞きなさい』

「今時間ないから手短にな」


『任せとけ、一言だ。いくぞ、スーッ、なんだよ早い者勝ちってっ』

 そのダンジョンマスターは、マキナ達のあり方に、渾身の力でツッコミを入れる。


『せっかくの最後のダンジョンだろ? 7人で揃って行ったんだろ? なら全員で行けやーっ』

 難攻不落のはずであるダンジョン。何が起こるか分からないダンジョン。

 ダンジョンマスターが己の生命と誇りにかけて生み出した迷宮。並の者なら力を合わせても踏破できるか分からないそんなダンジョンを、早い者勝ちの競争で攻略しているマキナ達。

 ツッコミを入れずにはいられなかったのだろう。


「今誰が1番?」

『おお、合流してくれるのかい。ユキが今61階層だよ』


「なにぃ、こんなことしてる場合じゃねえ。アタシが勝ーつっ」

『マスターとの会話をこんなことって言――』

 ブツ、とマキナはダンジョンマスターとの会話を終わらせ飛び立つ。


「アタシが1番、ぜってー負けねーっ」

 人の姿のまま恐ろしい速度を叩きだし、階層を、ダンジョンを、まるでサーキットのように攻略していく。


 そうしていると、フ――、と自分のダンジョン側からの監視が切れたことを感じる。

 数々の勲章によりいつの間にか感覚で分かるようになっていた7人のネームドモンスターの内の1人、マキナ。

 マキナは見られていないことを確認し、もう1度確認し、絶対見られていないと確信して、呟く。


「あんなこともう2度とさせねえ。あの馬鹿なマスターにアタシが最強だってこと分からせてやらねえとなっ」




「この配置ですと、階段はあちらでしょうね」

 セラは静かな場所で少し考え、そう言った。


 セラが再び歩きだすと、理性が既に飛んでしまっているはずの虫達はスッと端に寄り、道を開ける。

 高い魅了能力を持つセラには敵対行為を取ることにすら資格が必要だ。持っていないのなら仕方ない、知性があろうとなかろうと、誰もがその場に跪く。


 異空間型ダンジョンであり、蟻の巣状というオーソドックスな形から一歩派生した虫ダンジョンに、コツコツと靴の音だけが鳴り響く。


 しかし、それを妨害する羽音。

 一際巨大な空間。その階層最後の場所。

 徘徊させるのではなく、待ち受けさせることを選んだダンジョンマスターのほとんどが用意する、階層守護者の部屋。


 そこでは一際強力な魔物、巨大な女王バチがお供を連れ立って部屋中を飛び回っていた。

 既に、戦闘の体勢は万全。

 部屋に一歩踏み込んだセラ目掛けて、戦闘に特化し女王に忠誠を捧げた騎士達が降り注ぐ。


 だが、その行軍は一瞬の後に終結した。

 ハチ系等の魔物を従えるのは決まって女王。女王は絶対的な指揮権を有し、配下を手足のように動かす。それは魅了能力であり支配能力。そんな絶対的な力をもって女王を女王たらしめる。


 覆されることなどありえない。それも他種族に。


 忠誠を誓ったハチ達は新たな女王の命に従いかつての女王に牙を向いた。怒り狂った女王は裏切り者達の粛清を幹部に命じる、だが幹部が粛清したのは女王。


 数多のハチが女王を襲う。

 女王は怒り狂い、困惑し、絶望し、そして、この方のために死ねるのならと見下ろす聡明で儚く美しく絶対的な女王を想い、物言わぬ魔石となった。


「なんでしょう、何か言いたいことがあるようですね」

 コツコツ、という音を再び鳴らし始めたセラは、突然そう口にした。

『なぜバレる……』

 そしてその瞬間ダンジョンマスターからの通信が入った。監視の目を感じたゆえの先ほどのセリフ。


「視線がいやらしいからでは?」

『そんなことないよっ、絶対別の理由だね』

 セラは足を止め、1つため息をついた。


『ぐぬぬ。いやというかね、君らね、なぜ各自で進んでいるんだい? そりゃあ確かにボス戦はド安定というかなんかもう申し訳なくなるくらいだったけどさ、一緒に行きなよ。俺の作戦会議はなんだったんだ?』

「あああの。確かに頑張っておられましたね、素晴らしかったです。ただ、案自体は考慮するほどのものでもなかったので」

『頑張ってたと認めたうえでっ?』

「メイドですから」

『メイドってそんなんだったかな……』


 ダンジョンマスターの疑問にセラはすまし顔で、ツン、と答えていく。

『……というかセラさん、なんだか前にも増して当たりきつくない?』

「気のせいでは?」

 セラは再び歩き始める。通信を横目に、コツコツという規則正しい音が響く。


『いや絶対気のせいじゃないよ。……なんか……不機嫌?』

「なるほど、そうですね。思い当たる可能性としては、残り少ないPでおやつを生成され、私が沸かしたお茶も大半が零され、いやらしい目で見られているからでしょうね」

『最後のは濡れ衣だっ、いやらしくないよっ、健全だよっ』

「全く、微塵も?」


『そ、そりゃあみんな可愛いし綺麗だと思うよ。世界一可愛いし綺麗だよ。けど、ほら、娘みたいなもんだからさ』

「なるほど。行き過ぎた家族愛に歪んだフェチズムと」

『根が深いっ』

 焦り手を振るダンジョンマスターをチラリと見て、また前を向き、スン、というすまし顔。


「これ以上見られていると妊娠するかもしれませんので通信終わります」

『そんな理由で通信切られるダンジョンマスター初めてじゃないですかっ?』

「冗談です」

『なんだ冗談か』

「では」

『通信は切るんかいっ』

 ブツ、とセラはダンジョンマスターが映る画面を消し、再び歩く。ほんの数秒後、監視の目もフ――と消えた。


 そしてまた数秒後、コツコツ、という規則正しかった音は急に乱れる。

 いや、音が全て消えた。

 セラは己のダンジョンマスターを油断させるためにわざと鳴らしている足音を消し、全速力でひた走っている。もっと早く、もっと大きく、セラは駆ける。


「全く、あのようなこと2度とさせません。進言を無視できないよう、私が有能であることをこれでもかと分からせてあげますっ」




「……」

 オルテの目が魔物を捉える。


 曲がり角の向こう、扉の裏側、自らの後ろ。全ての魔物を捉える。

 そしてその内自分の行動の邪魔になりそうな位置にいる魔物目掛け矢を放った。放ったのはたったの1本。


 矢は思わず耳を塞いでしまいそうな高い音を轟かせ飛んでいく。角を曲がり、扉を貫き、方向を180度変え。

 1本だった矢は飛んでいる最中に2本に分かれ、4本に分かれ、8本に分かれ、狙いを定めた全ての魔物に着弾する。

 大きくくり抜かれ、完膚なきまでにズタズタにされ、魔物達は自らの姿を魔石へと強制的に変えられた。


 時には生き残る魔物もいる。

 扉の裏にいれば威力は大きく減衰する。自身の防御力も合わさ死なない結果を生み出した魔物もいた。

 しかし、既に戦える余力を残してはいない。


 オルテはその隣を一瞥することもなく通り過ぎる。全てを捉えたはずのその瞳にはもう、倒れ伏した魔物は映っていなかった。


「……。飴、追加。……5セット」

『5セットって500だから、食いすぎだから。あ。高級なやつですか、はい』

 と、そんなオルテが顔の向きを変え、急に話し始める。内容は飴の注文。


『なんでみんな見てるの分かるんだろう、そんないやらしいかなあ』

「……用は?」

 自らのダンジョンマスターからの監視を感じたからだ。飴を要求するいつもの会話。

 普段はその要求が終われば用無しとばかりに、会話を終わらせるのだが、今回はダンジョンマスターの監視が終わらなかったため会話は続く。


『ああ、えっとですね。今一人一人バラバラに進んでいるじゃないですか』

「……」

『戦力的に不足がないことは分かってるんだ』

「……」

『でもダンジョンマスター的には一緒に進んで欲しい、と思っていてね』

「……」

『……』

「……」


『……、心配でもあるしさ』

「……」

『仲良いと安心するしさ』

「……」

『……』


「……」

『……』

「……」

『……』

「……切る」

『はい』


 ブツ、と通信が終了し、フ――、と監視も終わる。


 次階層へ移動するための階段へ辿り着いたオルテは、進まず段差に腰掛け、空間魔法でいつも複数保管してある飴を取りだす。

 何かあれば糖分補給、いや飴分補給を行うオルテ。それはことあるごとに行いたい至福の時間。


 それを想像しただけで、冷淡で微笑すらない無表情の鉄仮面は、この世で最も愛され育つ赤子のように無垢な笑顔へと変わる。


 しかしオルテは長い長考の末、飴を再び収納した。


「……許せない」

 それは誰に向けての言葉か。


 オルテは駆け出し、再び弓に矢を番え、放つ。


「自分を犠牲にするなんて許せない、あり得ない、もうさせない。だからそんなことしたら怒るってちゃんと分からせるっ。……飴はそれまで我慢」

読んで頂き本当にありがとうございます。

ブックマークありがとうございます。毎日の励みになっております。


今回の第38話ですが、とても短いです。

本当は、次話と次々話が一緒な話だったのですが、文字数が1万3千くらいになってしまい分けることを選びました。

そのため中途半端なところで途切れております、申し訳ありません。


第39話と第40話は、皆様の心の中でまとまったなら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=546221195&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ