第38話 ゴーレムダンジョンそれいけユキ。
ダンジョンあるあるその1
高階層の実力者による低階層の蹂躙。
高階層の実力者は、お金を稼げず疲労だけが溜まり、ダンジョンマスターは復活にPを余分に使わされるというお互いの損のこと。
ユキはゴーレムの巣食うゴーレムだらけの坑道ダンジョンに突入。
青空の下に広がる超巨大な1階層と、坑道状の2階層以降からなる、炭鉱に作れらた自然型ダンジョン。
面白いのは1本の坑道以外全て、最終階層に届かない完全な行き止まりになっている点。
1階層には何十もの坑道の入り口があり、行き止まりになれば再び1階層に戻って別の坑道に入らなくてはいけない。そんなシステム。
入り口がいきなり30階層になっている坑道や、2階層から急に10階層になる坑道。
途中で合流し普通に進んでいると思ったら別の入り口に着いてしまう坑道や、採掘する性質を持ちせっせと掘り続けダンジョンを拡張せんとする魔物の多い坑道。
様々な特徴を持った数え切れないほどたくさんの坑道が、魔物のほとんどいない1階層で待ち受ける。
もちろんそのどれが最終階層に続いているのかは、行ってみないことには分からない。
そして最終階層まで辿り着いても、他の坑道の行き止まりにあるキーアイテムを入手していなければ、最後の扉を開くことは不可能。
攻略する側はなんとまあ面倒臭いと思うだろうね。
しかしダンジョン側から見れば、自然を上手く使って作られた、やるな、と思ってしまうダンジョン。
真似したくなるダンジョンナンバーワンかもしれない。
坑道ダンジョンが上手いのは自然利用だけじゃなく経営面でも。
細道を手当たり次第進まなければいけない場合、例のダンジョンあるあるが起こる可能性が高い。
実力者による低階層の蹂躙が。
ダンジョン側は復活Pのせいで貧乏になるし、侵入者側も稼げないし強くなれないしでメリットがない。そんな悲しいダンジョンあるある。
これが起こらないよう工夫しつつも、いかに難易度を下げないようにするかが腕の見せどころ。
坑道ダンジョンは当たり前のように細道だし、どこが高階層か分からないように見える。そうなればあるあるは頻発する。
しかし今日まで生きてきた。あ、今日までって言っちゃった。
うん、まあだからこの坑道ダンジョンのダンジョンマスターは良い腕をしている。難易度を変えないまま、あるあるの確率を大幅に下げることに成功したのだ。
誰しもが願うその結果は、ダンジョン攻略とは関係の無い坑道を作ることによってもたらされた。
実力者は攻略と関係ない坑道だと入り口に立った時点で、あれここなんか違うな、と感じることができる。そうなったら入らない、自分の感覚が正しいことは経験で理解しているからね。
中に入るのは、それが分からない実力のない者。つまりその坑道が適性Lvかそれ以下の者だけ。
高階層へ行きたい実力者が入るのは、高階層へ繋がる坑道だけ。
それなら簡単だ。
入り口から既に高階層にしておいたり、入り口は低階層だがすぐに高階層へ繋げたり、発見し辛い直通ルートを用意したりで、低階層に行かせないようにできる。
実力がない者は、攻略とは関係ない低階層しかない坑道に入る。
実力がそこそこの者は、攻略に微妙に関係する中階層に続く坑道に入る。
実力が高い者は、攻略に深い関係を持つ高階層に続く坑道に入る。
小ダンジョンがたくさんあるような形態の坑道ダンジョン。
だから普通のダンジョンよりも細かな適性Lv分けを可能とし、強者に蹂躙される確率を下げつつ、ダンジョン自体の難易度は変えずに作り上げた。
上手いこと考えたねえ、本当に。
それにダンジョンコアの波動を、逆利用している。
ダンジョンコアの波動の利用ってダンジョンマスター的にポイント高いよ。エリートダンジョンマスターって感じ。
俺もそんな風にダンジョンコアの波動を上手く使いたいものだ。
ダンジョンコアの波動とは、ダンジョンコアから発せられる力。正解のルートを示す厄介な力。
実力者達はそれを検知する力が強く、それによって行動指針を決める。
自分の実力以下の階層では正しいルートを辿ることができ、自分の実力に見合った階層では正しいルートが分かり辛いので長く潜り続け、時には騙され罠に嵌る。ということ。
侵入者をダンジョン奥深くまで導き倒すために必要な機能でもあるが、ダンジョンマスターにとって常に悩みの種でもあるコアの波動。
バランスが難しいんです、本当にダンジョン作りは。
だからこそそれを逆に利用できるダンジョンマスターは、尊敬に値する。
ちなみにこの波動がめちゃくちゃ強いと、正解のルートが誰にでもどこまでも分かる。さすがにそうなったらもうヤバイね。
その先にいるダンジョンモンスターの気配だったり罠だったりも分かるようになるし、ダンジョンはてんてこまいさあ。
まあ、ダンジョンコアの波動強化は、ダンジョンの大きさに合わせて行われるものなので常に問題ない域を出ないんですけど。
勲章でその効果を授からない限り。
まあそうそう授かることなんてない。なんてったって授かるには悪逆非道と名高い行為を行わなければならないのだから。
……。
うん、俺は授かってますが、何か?
でもまああれよ、そんなないよ。ちょっとよちょっと。
1個でもあったらバランスが崩れて、実力の見合う階層でも楽になったりするからかなり大変になるんだけど、まあね、あんな生活してたらそりゃあ取っちゃう。仕方ないよ。
でも1個か2個くらいだよ。
えーっと?
10日目までに、死に神の派遣者と情報の暴虐者、それから外道。ああ、3個か。
今日までに、極悪非道に汚職の政治家があって、あとはド外道。ああ、3個か。
ああ、6個か。
うん、そんなないよ。
「……」
我がダンジョンではもう、どんなギミックを作ろうが正解ルートが丸分かり。件の坑道ダンジョンのような面白味溢れるダンジョンは作れない。
どれだけ工夫しても、全員が正解のルートを辿ってくる。
罠や魔物の位置すら見切り、誰しもが……。
「……」
趣向の凝らしコアの波動を利用した美しいダンジョン、ダンジョンマスターとして尊敬に値するそこは、俺の手が届かない世界。
「ははは……」
羨ましく、悲しい。
「あはははは」
そして妬ましい。
「はっはっはっは」
だから、そう。そうさ。
「あーっはっはっはっはっ」
届かないのなら、全て破壊してしまえば良い。
「行くのだ最強の勇者、ユキっ」
俺にはそれだけの力があるっ。
「俺を阻むこんなくだらない世界など、全てを破壊してしまえーっ」
『ユルサヌ、ユルサヌ。コウフク、ムシシテ、ミナゴロシ。アクマメ、ゲドウメ、キサマナド、イズレ、ジゴクヘ、オチルデアロウ』
『あいよー。じゃあ帰ったら飯よろしく。しかし50階層しかないって雑魚ダンジョンだよなあ。あ、うちは30階層か』
納刀した状態からではなく片手にブラブラと刀を持った状態で、ユキは坑道の中を進んだ。
居合いを自身の最高の攻撃手段、いや常用の攻撃手段として用いるユキが抜刀した状態で常にいる、それはすなわち本気で攻撃する気が全くないことを示す。
だが負けない。
それだけ実力の差は開いている。
だから、もう50階層に辿り着いている。
いや、もう50階層の最終階層守護者を倒している。
そして、もうダンジョンコアの前にいる。
『キサマニハ、ホコリ、ナイノカ。ワレワレダンジョンマスター、ニ、トッテ、モットモ、タイセツ、ホコリガ、キサマニハナイノカ』
「……」
『オレモダンジョンマスター、イツデモ、シヌ、カクゴ、デキテイル。ダガソレ、ダレカノ、カテ、ニ、ナル、トイウコト。ホコラシイ、コト』
「……」
『キサマハ、イマノママデハ、イケナイ。カナラズ、フコウ、ニ、ナル。ダカラ、ダンジョンマスタートシテ、ホコリヲ、ムネ、ニ、イキ――』
『よっ』
パキン、とコアが壊れる。
『グアアアアアー』
「ゴーレムせんぱーいっ」
ダンジョンマスターは、魔石もドロップアイテムも、その遺体も残すことなく、自身が作り上げた分身のダンジョンと消えていく。
込めた思いも、最後の言葉も、何一つ彼がいたことの証明になりはしない。
ダンジョンマスターの死とはそういうものだ。
『勝利ー』
……。
……。
……。
「うあああああー、ごめんよーごめんよーっ」
心苦しいったらありゃしない。
「こんな、こんな……どうしてダンジョンマスター同士で殺し合わなければいけないんだーっ」
そりゃあもう勝てるはずないよ。勇者だぞ、召喚勇者だぞ。
反乱状態だからダンジョンの仕様にあんまり縛られてない、最強の勇者だぞ。
ダンジョンバトルしてたら野生の召喚勇者が入ってきた、みたいなもんだよ。絶対無理だよ、最早犯罪だよ、テロだよ。
50階層程度のダンジョンじゃ抗えるはずがない。
144階層のダンジョンだって踏破したことのあるユキだ。
1000Pの魔物、いや1500Pの魔物でもボスとしてなら十全の実力を発揮できる階層のダンジョンを踏破してるんだ。50階層の1000P魔物を出すのが精一杯のダンジョン程度でどうにかなるはずがない。
そんな低階層で抗いたいならそれこそ、勲章、ド外道が必要になる。
追撃と報復、そしてコア間近まで招き入れての裏切りと拷問、道を踏み外し尚も悪を貪るド外道に授けられる勲章によって得られるのが、ネームドモンスター反乱可能。
これは文字通りネームドモンスターの反乱を可能とする。
そうすることで、ダンジョンモンスター達はダンジョンの仕様に縛られず、くびきから解き放たれ、フィールド同様の力を手にすることができる。
それも、ダンジョンとしてのプラスの要素は残したままで。
死んでも復活可能だし、階層の守護者だったりでプラスの能力を得てたなら解除されるまではその能力のままだし、ダンジョンマスターの勲章で強化されてるならそれも残る。
1500Pくらいの魔物だったら、きっとユキと少しは打ち合えるだろう。
勝敗は変わらないにしても。
しかし、そんなえらいこっちゃな勲章、なんで知っているのかって?
そう、俺こそが人呼んで、悪逆非道のダンジョンマスターだからさっ。
「どうしてぇーっ」
ダンジョンマスターを殺すための力を得るのが反乱。
普通は味方じゃない。
反乱するのは、ダンジョンマスターやダンジョンに対して愛想が尽きて、ダンジョンを壊そうとするか、離れようとするか、そんな時だけ。
味方としての行動は期待できようもない。
それに、ダンジョンマスター自身も反乱された瞬間、敵だって認識に変わる。我が子に裏切られたダンジョンマスターの悲しみたるや、他のやつらには分かりっこない。
もしそのネームドモンスターが反乱後、配下に戻ってくるのだとしても、到底受け入れることはできないだろう。
受け入れられるほど深くそのネームドモンスターを愛しているのなら、そもそも反乱されることなんてない。
なぜならネームドモンスターにとってダンジョンマスターとは文字通りの創造主。それだけ愛されていれば反乱を考えただけで、失望されるかもしれない恐怖や愛に背く罪の意識に苛まれ身動きすらできなくなるからだ。
ましてや反乱したり戻ったりを繰り返すだなんて……。
それにそもそもの話だが、反乱させて戦わせるだなんてダンジョンマスターの風上に置けない。いや風下にすら置けない。
そいつはまさしくド外道に相応しい。
はい、俺です。
それは俺のことさっ。まさしくド外道に相応しい漢です。
彼女達はみんな反乱状態で戦ってました。
戻ってきたら、また配下に戻ります。
反乱は日常生活に溶け込んでおります。お茶だって反乱して入れてるからね。
みんなは神様に向かって唾を吐けるかい?
心の中で悪態をつけても、大声で言ったりできるかい?
俺はねー、悪態つかれまくってるし、唾吐かれまくりさ。
もう唾液だらけさ。
ニルに至ってはマジで噛んでくるからそのままの意味でも唾液だらけさ。困ったもんだよ。
「……なんてこったい」
空に吸い込まれる俺の声。
既にこのダンジョンに侵入している魔物も少なくなってしまった。
だって残ってるダンジョンがもう1つだけだから。
そして残ってる1つのダンジョンは誰も攻略してないので、1階層に行ける魔物しか送り込むことはできない。
我がダンジョンのボス達の前にはそんな雑魚、なんの意味もない。静かになっちゃうよそりゃあ。
『降参の申し入れが入りました』
とても静かだよ。何も聞こえない。音なんてどこからも聞こえない。
『降参の申し入れが入りました』
聞こえない。
『降参の申し入れが入りました』
聞こえない。
『降参の申し入れが入りました』
聞こえ……。
『降参の申し入れが入りました』
「うわあああああああ、どうしてーっ」
俺の叫びはどこまでも澄み渡る綺麗な空に吸い込まれ、俺の涙は厳かで力強い雄大な大地に吸い込まれ、そしてまるで何事もなかったかのように消えていった。
『降参の申し入れが入りました』
7つのダンジョンがこの世から消滅した今日この頃。
滅ぼした7人の強者達は、我がダンジョンへと帰ってきた。
「たっだいまー」
「ただいま帰りました」
「おかえり」
俺は屋根も壁もない我が家でそれを迎え入れる。
恨みはない。彼女達のせいで心苦しい思いをしたが、それは全て俺を思ってのこと。恨むのなら俺自身を恨むべきだ。
散っていったダンジョンマスター達もそうしてくれ。ゴーレムせんぱいも。
『降参の申し入れが入りました』
あなたも。イナゴせんぱいも。
いや心苦し過ぎるわっ。
「……。ドンマイ」
「ありがとうオルテ」
「……感謝の印、飴」
「ごめんよもうPないから飴は出せ――」
「殺すぞ」
「殺さないでぇ……」
「主様、今帰還致しました。私の戦いぶり、ご覧になって頂けましたでしょうかっ」
「おう見てたよローズ。ローズも今の俺の状況見てるか? 殺されそうだぞ、助けて」
「主殿、まんじゅう、お、あったった。ふむ。美味い。他の菓子はないのかの」
「美味しいか良かったよキキョウ。でもキキョウ今の状況見てるか? 殺されかけてるのに出せないんだぞ、助けて」
「あるじ様、たっだいまーっ。お腹空いたーお腹空いたー、早く食べたーい」
「そうかいニル。俺も食べさせてあげたいと思っているがニル、助けて」
彼女達は草木も生えない我が家跡地周辺にポツンと存在する、それぞれのお気に入りの椅子に座り、テーブルの上に置かれたおまんじゅうから、1個ずつ取って食べ始める。
家は何度も壊れたが、椅子は一度も壊れていない。お気に入りだからだ。
ダンジョンマスターは何度も飛んだが、椅子は一度も飛んでいない。お気に入りだからだ。
座って談笑し、彼女達は……おまんじゅう。
「たっだいまー」
「おかえり。ところでユキ、君は勇者だったな1つお願いがある」
「なんだ?」
「助けて下さい」
「見返りに飯」
「……、今Pないからご飯は出せ――」
「殺すぞ」
「殺さないでぇ……」
こ、これが、報いというやつか……。
報い。
俺は悪逆非道。人の世の生き血をすすり不埒な悪行三昧で醜い浮きの世の鬼だった。
なら最期が、自分のダンジョンモンスターによってもたらされるだなんて、相応しい報いなんじゃないのか。
いや、それだと少し幸せすぎるか。
彼女達によってこの生が終わると言うのなら、何一つ文句はない。そう、ダンジョンマスターとは死して誰かの糧になる者のことを言うのだ。
愛する者の糧になれるだなんて、この世で最も幸福なことだと俺は思う。
……。
いやお前等が実行犯じゃんっ。
一緒に報い受ける側じゃんっ、百歩譲って責任を俺が取るとしても、なぜ受けさせる側にお前等は回っているんだっ。
「「「「「「「お前?」」」」」」」
「マキナ、セラ、オルテ、ローズ、キキョウ、ニル、ユキ。はい」
なぜニュア……。
お読み頂きありがとうございます。
タイトルを変更致しましたことを、遅ればせながらご報告いたします。
また、全話改稿中ですが、基本的には「と『の前に入っていた空白を消し、? の後ろに空白を追加しただけですので、そう変わってはいません。
もっとゴリゴリに変えようと思っていたのですが、疲れ果て。申し訳ありません。
元気が出た時にまた改稿いたします。とは言ってもストーリーに変化はなく自己満足の域を出ませんので気になさらないで下さい。
改めましてこれからもよろしくお願い申し上げます。




