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第34話 鳥ダンジョンそれいけオルテ。

悪逆非道のダンジョンマスター格言その16

夢の続きを見せるかどうか、ダンジョンマスターにとってはそれが大事だ。代償は己の命なのだから。自分の現実すら直視できないのに他人に夢なんて見せられるはずないだろっ。

 オルテは鳥達が空を飛び回る、ソレイトス大平原と呼ばれるダンジョンに突入。


 平原に広がる自然型ダンジョンで、魔物の密度こそ薄いが敷地は広大。何の妨害にもならない草が風に揺れている、思わず昼寝したくなるようなダンジョン。

 だが、そんな広大な中を徘徊するボスを倒さなければ次階層へ進めないという、迷路よりも厄介なダンジョン。時間をかけてゆっくりと進んで行くしかない。


 自然型ダンジョンの階層の大きさ、いやコアから外への長さは基本1階層1km。

 円形が基本的な形の自然型ダンジョンは新しい階層を追加する場合、外側に1kmのプラスをして階層を追加する。もちろん半径。

 直径で言えば1階層増やすと2km大きくなるのが、自然型ダンジョンのデフォルト設定。


 しかし基本は基本。

 2kmだろうが10kmだろうが100kmだろうが、実際にはどれだけでも増やすことができる。

 ただし、大きく増やせば増やすほど消費するPは多くなる。自然を飲み込むのが自然型ダンジョンだ、大きく飲み込むならそれ相応のPが必要になるのは当然。


 特に、俺のような魔境にあるダンジョンだとそれが顕著。


 ダンジョンを広げるとは支配領域を広げること。ダンジョンコアから円状に広げていくデフォルト設定では、その長さが増える程、領域化する面積は莫大に増える。

 強い魔物や凶悪な植物、珍しい鉱石、危険な地形などがたくさんある地域で領域を広げるのは難しい、と、そんな理由だと思われる。


 ここが魔境だったなんて俺は知らなかったよ。


 魔物のLvが階層数である以上、階層を大きく作っても魔物は強くならない。正直非効率と言わざるを得ないね。

 1階層1kmで作る方、いやむしろさらに狭くするダンジョンの方が多い、それが常識、普通の作り方。

 しかし、この鳥ダンジョンでは、1階層3kmが通常、時には5km、10kmと広げている。

 それが成り立っている。


 理由は2つ。


 1つ目は平原の環境。魔境のような厳しい環境ではなく、周囲に強力な敵も何もいない、のどかでただひたすらに大きな平原だから。とってもお安いね。

 2つ目は階層を新たに作る際の設定。階層を増やす際は、その階層自体を作りこんでから増やすのが一般的。そっちの方が節約ができる、俺のようにただ増やしただけだなんてナンセンスさ。仕方ないじゃないか。

 その際の工夫が、消費Pを減らすことに大きく貢献しているというわけです。


 さてその際の工夫とは何か。どうすれば良いか。

 それは弱く作ることにある。

 魔物を少なくし、罠を少なくし、危険な地形が限りなく少ない平原の草原のままで、コストに制限を強く設け、以後変更できないように確定。

 ダンジョン的単位面積を広く保つことで1階層を薄く延ばす以上に弱い階層にした結果、大きく広げてもP消費を抑えることができているわけだ。


 俺には到底思いつかないやり方。俺のやり方って今のところ超絶脳筋だからね。とにかく強い魔物置いとけやーっていう。


 弱く作るなんて信じられない。

 しかし、それでこの鳥ダンジョンは成り立っている。今まで踏破されずに勝ち続けてきた。その理由が、階層守護者の存在にある。


 階層守護者とはその名の通り、階層を守護する存在。その階層でも最も強く、最も大きな恩恵をダンジョンから授かり、侵入者に最後の壁として立ち塞がる。

 ほとんどのダンジョンは倒さなければ次階層へ進めない設定をしているので、階層守護者は文字通り立ち塞がるわけだ。


 鳥ダンジョンも御多忙にもれず立ち塞がってくる。しかし、そんな階層守護者が、まあ逃げる。侵入者を見つけた途端にきびすを返し逃げ始める。

 ダンジョンモンスターにはウサギや動物系の魔物もいるが、階層守護者の種類は鳥。機動力に優れ大空を舞う鳥が、見敵逃亡していればそりゃあ捕まえられない。


 そうして時間をかけさせることで、侵入者からの攻略を防いでいる、というわけだね。


 ただ普通はそんな風に、すぐ逃げ出す設定にすることなど不可能。


 ダンジョンモンスターはそれぞれ、種族に適した生物らしい行動を取るようになっている。不利になれば逃げ出す状況はよくあるが、階層守護者はその限りではない。

 階層守護者は、その最後の砦。しかも倒されることがキーになっている。

 傷ついたら逃げる設定はデフォルトだが、即座に逃げ出す設定は難しすぎる。


 それこそ、ド変態や吐き気を催す醜悪なる存在の勲章がなければ不可能じゃないだろうか。


 ド変態は、ネームドモンスターに対し卑怯な勝負を挑み屈服させ本意を歪めようとする鬱屈した最低なダンジョンマスターに授けられる勲章だが、性格項目制限が解放され、影響力が大きくなる。

 ノーマルモンスターからは性格設定が可能なので、臆病な性格にしておけば階層守護者であっても、死に物狂いで逃げ回ってくれることだろう。


 吐き気を催す醜悪なる存在は、ネームドモンスターに対し憔悴させた隙に自身の思うように洗脳しようとする下劣で最悪なダンジョンマスターに授けられる勲章だが、特徴項目制限が解放され、影響力が大きくなる。

 ユニークモンスターからは特徴設定が可能なので、逃げ回るような特徴をつけておけば階層守護者であっても、圧巻の逃げを見せつけてくれることだろう。


 なんで知っているかって?

 持ってるからさ。

 ネームドモンスターに対して卑怯な勝負を挑んで本意を歪めようとし、憔悴させた隙に洗脳しようとしたからさ。


 そんな鬱屈して最低な下劣で最悪なダンジョンマスターがこの俺さっ。それって生誕1日目のことなんだぜ、信じられるかい?


 だが、このダンジョンはそんな勲章を持っていないだろう。

 誇りと矜持と美学と、ひと滲みの悪戯心が感じられる鳥ダンジョン。そんな歪んだ心の持ち主が作れるはずがない。

 つまり、卓越した技1つでそれを成し得ているのだ。


 鳥ダンジョンは階層を弱くするために、ダンジョン的単位面積を引き延ばしている。

 ダンジョン的単位面積とは、コスト制限に引っかかる面積であり、ダンジョンにとっての生成配置すべき範囲である。言葉で説明は難しいね。

 例えばこの鳥ダンジョンの最外1階層、そこはとてつもなく大きい。その円周は1200kmほどあるに違いない。自然型ダンジョンは円形なのだから外側へいくにつれ巨大な階層になっていくのが普通。


 そうした時、1階層には魔物をどれだけ置かねばならないのか。

 1体10Pの魔物を1km間隔に1体ずつ置いただけで1200体、つまり1万2000Pも必要になってしまうことになる。こんなにかかってしまっては、とてもじゃないが成り立たない。


 そこでダンジョン的単位面積の出番。

 1200kmくらいあれば、長さが1kmでもダンジョン的単位面積は最低100個は入っている。多いと1000個近くあるかな?

 その内1つの場所、ダンジョン的単位面積内で、魔物の配置や罠の配置などを設定しておけば、それが同階層の全ての単位面積に適用される。


 つまり1200kmでも100個入っていれば、12体置くだけで1km間隔に魔物を配置できることになる。

 魔物以外にも、植物や鉱石、地形、それから武器防具などアイテム類にも適用されるため、自然型ダンジョンが大きくなってきても無事運営していけるわけだ。

 ちょっと品質と性能ばらけるけど。アイテム類は特に。


 しかしそうなると、ダンジョン的単位面積を引き伸ばすのは悪手だと分かる。

 100個のところ10個にしたなら、1km間隔に配置するにも120体必要になるからだ。階層生成自体は大幅に安くなるだろうが、他で高くつく、普通はやらない。


 だが、鳥ダンジョンはそれを行い新たな力を手にした。


 それが魔物の行動範囲。


 コピーアンドペーストのようなダンジョン的単位面積は、侵入者の行き来こそ可能だが、マスプロモンスターとノーマルモンスターの行き来は不可能になっている。そこが行動限界だ。

 だからそこを広げるとマスプロモンスターの行動可能域は広がる。

 逃げられる範囲が巨大になり、また一箇所に留まる理由も少なくなるため逃げ出しやすくなる、というわけです。


 さらに、ダンジョンモンスターは種族の生活や性質に沿った行動を行うと決まっており、脅威に対しては戦闘行動をそもそも起こさなくなる。

 これは高階層に入れる実力者を低階層で足止めしたりして手間だと思われたり、無駄に魔物が倒されてしまうのを防ぐ機能。戦争などでゴブリンが強制されていない限り向かって行かないとかも、これにあたる。

 鳥ダンジョンは階層を薄く広げ自分の戦力を著しく低下させた。これにより相対的に侵入者の戦力が向上、ダンジョンモンスターは対象を脅威とみなし逃げる確率が上昇する。


 結果として鳥ダンジョンは、次階層へ進むため倒さなければいけない守護者が広範囲を移動し、相対した瞬間に即座その広範囲を逃げ回る、とても時間のかかるダンジョンになった。


 上手いことやるもんだねえ。

 勲章なんてなくても、みんな総意工夫でやれてるのか。悪口を言われないでも同じことができるだなんて、羨ましいよ。


 しかし、弱点もある。

 Lvを上げさせ辛いこと、そして弱いことだ。

 魔物が逃げ回っていては倒させてLvを上げさせることができなくなる。倒した時に得られるPが減ってしまう。

 即座に逃げ出すには階層守護者までもが弱くなければいけない。しかしそれでは侵入者に勝つことなんてできない。


 もちろん、鳥ダンジョンは想定、対処済みだ。

 Lvが上がらないことは結構どうでも良い。倒される魔物が少ないことが理由なので、ダンジョン側の消費Pも少なくて済む。利益さえ出ていれば問題ないのだ。

 侵入者の人や魔物の生活だが、ウサギなど食べられるドロップアイテムを落とす魔物を多く置けば、一定数の確保もできる。


 そして弱いことは、むしろ利点。

 弱ければ油断する。

 侵入者達は、毎階層距離が長いからと外に出るのが億劫になり、時間もかかって疲弊し、ダンジョン内で休もうかとなったところで強襲を受けるのだろう。

 疲れ果て、でも階層守護者は弱いからと追い掛け回した結果、その階層ボスよりも強いエリアボスの領域に入り倒されるのだろう。


 上手いこと考える。

 ちょっと考えすぎじゃないかみんな。場所とか魔物の特性を活かし過ぎじゃないか?

 俺は頭を使う人間種族だぜ?

 まるで俺がただの馬鹿みたいじゃないか。

  

 鳥ダンジョンは、そんな巧妙なダンジョン作りを、その最終階層まで続け、多くの侵入者をゆったりゆったり討ち取ってきた。


 なんで知っているかって?

 もう行っちゃってるからさ

 オルテさん……。


 遠くから魔物達が暴れ回る音が聞こえる中で、俺は震えながらお茶をすする。

 反乱しながらいれてくれたようで、熱さが舌に伝わって意識が冴えてくるよ。何この反乱の使い方。


『……運動後の一服には飴』

 俺がお茶をすすって一服していると、オルテも座って一服しだす。飴をペロ、ペロ、とゆっくり味わうように。

 果たしてオルテはそこが敵地と分かっているのだろうか。敵地では一瞬の油断もしてはならないと知っているのだろうか。貴女の考えは飴よりも甘いぜっ。


『飴より甘いものなどこの世に存在しないっ。糖度の話じゃない、概念の話っ。貴様とは一度ゆっくり話をしないといけないっ』

 すごい喋るやん、すごい喋るやつやん。

 怖いからその急に喋るの止めてくれよ、誰か分からなくなっちゃうよ。


『……悪いと思ってるなら、……城、玉座、1』

「そ、そんな飴の注文のように言われましても……」

『……一緒じゃない。飴の方が……真剣』

「えぇ……」


 オルテはペロペロと幸せそうに飴を舐め続けている。

 戦闘時間より休憩時間の方が多いと思うのは俺だけだろうか。

 いや、そうだね、飴は休憩時間じゃないね。名付けるなら飴時間だろうか、うんうん。概念の話はちょっと分かんないけど。


 広大でただ真直ぐコアに向かうだけでも距離が長く、実力的に弱いが広範囲を逃げ回る厄介な階層守護者が守る、鳥ダンジョン。しかし、オルテとの相性は最悪の一言に尽きる。


 千里の魔眼という、長距離の視界と異常な探査力を持つオルテの目は、反乱し本来に近い力を発揮できるようになったことで、数十kmから数百kmほど見通せるようになった。詳しくは知らない。

 つまり、階層に入った瞬間に、ボスを発見する。

 そしてその弓の射程距離は、千里の魔眼ほど長くないが、鳥ダンジョンの広げたダンジョン的単位面積を遥かに凌駕する。

 つまり、階層に入った瞬間に、ボスは射抜かれる。弱いボスは一撃だ。


 またダークエルフ系等の種族特性である森魔法により、自然の距離を歪められるオルテはたった一歩で大きな距離を進む。

 攻略には膨大な時間がかかるはずの鳥ダンジョンを、まるで散歩するかのようなペースのまま、最終階層に到着した。


 50階層。

 そこはやはり草原。しかし空に浮かぶは怪鳥と呼ぶに相応しいグランドイーグル。

 全てを振り絞り新たに生成されたグランドイーグルは、特徴に矢避けなどを追加され、対オルテ用の魔物となっている。

 そしてその元々の生成Pは1050P、1000Pのハイダークエルフを上回る超強力な種族。


 おかげでその階層に他の魔物を配置することはできなくなっている、が、戦力は今までと比べものにならない。

 最後の最終決戦で、甘い考えのオルテに試練が訪れる。


 だが、そんな試練はあっけなく終了した。

 本来の生成Pで言えば下のはずだったハイダークエルフのオルテが、今まで同じように矢を放った。ただそれだけで。


 オルテは座りこむ。

『……歩いたから、飴』

 全ての戦闘時間を合わせたよりも長い飴時間を終え、オルテは再び歩き出す。

『美味しかった』


 1つのダンジョンの命運が、今、尽きた。

毎度お付き合い頂きありがとうございます。

思えば随分長いことやってきました。


長いことやってきたというのに、全然話が進んでいない……。

もう24万字以上書いてきたというのに……。


諦めず頑張ってまた書いていきたいと思います。

なお、字数はまた5000を越えました。おそらくもう2度と下回ることはないと思います。

どうやったら1話を短くまとめられるのか、アドバイスは常に募集しております。どうぞよろしくお願いします。


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