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第33話 鬼ダンジョンそれいけセラ。

悪逆非道のダンジョンマスター格言その15

ダンジョンモンスターを愛せ、さすればダンジョンマスターも愛されん。本当か? 信じて良いのか?

 セラは鬼の魔物が主に出現する、ボルキア湖鬼人ダンジョンと呼ばれるダンジョンに突入。


 そこは一本の道で作られた異空間型ダンジョン。

 その道は決して迷わない道。しかし、戦闘能力に秀でた鬼系種族と数多く戦わねば進めない、過酷な道。

 打ち破っても打ち破ってもまだ道半ば。道に迷うことはない、進むかどうかで迷うだけ。


 待ち伏せ型のダンジョンは、面白味こそないが非常に強固と相場が決まっている。

 体力の消耗も大きいところに、どんどん強力になっていく魔物達。作ったダンジョンマスターの性格の悪さが伺えるぜ。


 ただ、待ち伏せ型ダンジョンを作るのは案外難しいと言って良い。

 ダンジョンの魔物、特にマスプロモンスターはその種族にとって自然な行動しかできない。生態に見合った活動ということだね。

 身動きせず、そこにジッと突っ立っている、狭い空間にずっと篭っている。そんなことは不可能だ。


 もちろんこのダンジョンのように本当に一本道にしてしまえば、魔物が多少歩きまわったところで必ず相対することになる。

 しかしそうするとダンジョンにとって辛い悪影響が出てしまう。


 高階層で戦える者達も、低階層の一本道を通過するからだ。


 その時起こるのは、数あるダンジョンあるあるの1つ。

 高階層の実力者達による、低階層の蹂躙。


 Lv上げもさせられず倒せる見込みもないただのPが無駄になるだけの戦い。ただの一本道では階層を増やすほど大赤字になるだろう。


 それを回避するためには、5階層毎くらいに転移陣を設置して、攻略済みの者は転移できる、などの方法を取る必要がある。しかしそうしたなら踏破するための難易度がグッと下がってしまうのも必然。

 連続しての戦いで体力や精神力を削るのが待ち伏せ型の特徴なのだ。

 そんなセーブポイントを使うような戦いをされれば、ただ単に迷わず攻略できるだけのダンジョンに成り下がる。


 それでもこの鬼ダンジョンは一本道を貫き通し、転移陣を設置し、曲がりなりにも初心者卒業程度のダンジョンになっている。

 見事としか言いようのない繊細な調整が、それを叶えたのだ。


 鬼ダンジョンは転移陣により何階層か飛ぶシステムを作ることで、侵入者にとってのゴールを用意した。

 すると侵入者は頑張る、階層攻略のために。体力と精神力、生命力に魔力、アイテム類を削りながらも進んで進んで、余力は少ないがあとちょっとだと無理をする。

 そこで、強力な魔物との戦いの場。逃げられない戦いの場。


 この完璧なサイクルが行われていなければ、成長することなんて到底できないだろう。これは本当に難しいことのはずだ。


 ましてや一本道にして必ず相対するようにしたら、ダンジョンの床面積は小さくなる。そうなるとダンジョン的単位面積の総数も少なくなるということ。

 ダンジョン的単位面積は、階層コストと深い関係があり、階層コストが1000ならダンジョン的単位面積辺りにコスト1000が配置できる。

 つまり、その総数が少なくなれば、配置できる魔物の数も少なくなってしまうのだ。


 階層コストを無視して魔者の配置など、到底行えない。

 そんなことができるのは勲章、骸の迷宮、それを授かったダンジョンマスターだけ。


 10年間の間に全階層で各階層累計×1000の死体を吸収した、骸だらけのダンジョンでなければ授かることのできない、骸の迷宮の勲章。 

 これがあれば、各階層の魔物コスト制限が解放される。

 つまり魔物をいくらでも置けるようになるのだ。


 なんで知っているかって?

 持ってるからさ。

 1階層しかダンジョンがなかった時点で3000人近くの死体を吸収したからさ。

 1日間、いや1時間、いや1分の間に全階層で各階層累計×3000の死体を吸収したからさっ。……。

 ……、今思い返してもヤバイしか出てきませんね……。

 よく生きてたなあ俺。


 とまあ、そんな勲章もあるが、この鬼ダンジョンは違う。

 各階層でコスト制限に縛られながらも、完璧な計算によりダンジョンを維持し続けている。


 一本道で次々と魔物を戦わせたなら、もちろんその分戦う確率は上がるだろう。ダンジョンあるあるの、魔物とほとんど出会わず階層を攻略できました、という悲しい状態を作らなくて済む。

 しかし、配置できる魔物の最大数が減ったということは、迷って迷って戦う回数が凄くなった、というダンジョンあるあるもなくなる、ということ。

 戦う平均で言えばもしかすると減っているかもしれない。


 そして階層深くまで来る侵入者達は必ず、戦闘から逃げて逃げて辿りついた弱い侵入者ではなく、戦いが好きで戦って戦いまくって辿り着いた強い侵入者になる。


 そんな恐ろしい結果を生んでいるにも関わらず、なおも鬼ダンジョンは強固で健在。


 とても勉強になる。

 どんな凄腕パーティーだろうとどこかで詰まり、ちょっと無理をして次の転移陣に辿り着こうとして死んでしまう。

 やはりダンジョンとして、無理をさせる誘惑は必須だ。


 この誘惑をどう使うかでダンジョンとしての価値が決まると思って良い。倒せる階層まで入ってきてもらうこと、それ以前にまずダンジョンヘ誘うこと。

 それらは決しておざなりにして良いものではない。

 ダンジョン高階層の守護者が低階層に出向くなんて持っての外。ましてやダンジョン外へ出て無理矢理引き摺り込むだなんて。どこのどいつだそんなことをしているダンジョンマスターは、許されんよそんなこと。

 はい僕です。


 良いよねーそういうことできるって。羨ましいっすわ。


 ただしそんな誘惑の上手いダンジョンでも、欠点はもちろんある。

 それは出現する魔物が全て鬼系等という点。


 異空間型ダンジョンは、世界と繋がる扉の位置によって、生成Pが左右されない。

 極端なことを言えば、火山で溶岩ダンジョンを作ろうが、雪山で溶岩ダンジョンを作ろうが、消費Pが同じ、ということだ。

 しかし、それは割引がない、とも言い替えられる。

 割引がないと正直、ダンジョン拡張にかなり響く。大きなダンジョンにするためには割引の獲得が必須となる。その方法は様々だが、その内の1つが鬼ダンジョンもやっている魔物を揃えること。

 鬼ダンジョンは出現する魔物の全てが鬼系の種族。そうすることで、鬼系の魔物を生成する際のP消費が少なくなり、数はより多く、種族はより強いダンジョンに仕上げられる。

 

 だが、種族を統一すれば、弱点も統一される。

 鬼系等により多くのダメージを加えられる武器もあれば、二足歩行の種族に絶対的有利な形態の魔物もいる。弱点が揃っていれば突き放題。

 そのダンジョンをメインの狩り場とするのなら、人も魔物も必ず鬼に有利な何かを持っているに違いない。


 だが、鬼ダンジョンにとってそれは、さしたる問題ではないらしい。

 ボスの種族を変えるなどの対策は取っていない。最後まで鬼系等の種族。

 それで十分。生き残ってきた。


 弱点が突かれるということは、本人の強さ以上に先の階層へ進めるということ。ただそれだけの話で、ダンジョンを最後まで踏破できるとは限らない。

 どこかで詰まれば良い。


 本来30階層で止まる程度の実力の者が、弱点の武器を体を手にすれば40階層まで進めるのかもしれない。

 しかし結局、45階層まで進むためには無理をしなければならないのだ。そこで倒しきれれば良い。

 そのLvに見合わない階層まで侵入されてしまうことになるが、それ以上に種族統一のP軽減は大きいのだろう、対策は完璧。

 考え尽くされ、実験し尽くされてた、見事なダンジョンだ。


 しかしまあ、なんで最後まで鬼系等の種族を貫いたことを知っているかって?

 もう行っちゃってるからさ。

 セラがもう最終階層に行っちゃってるからさっ。


 晴天の眩しい空の下、俺は怯えている。

 俺はなんて子達を生成してしまったのだろうと。なんて子達をこの世に送りだしてしまったのだろうと。


『恐縮です』

 その怯えに礼節を以て応えてくれるセラ。俺の苦悩は増していくばかり……。

 こんな読まれてたら、俺もう逆らえないじゃい、勝手なことできないじゃない。いやダンジョンマスターが俺なんだから、どっちかと言うと俺が本筋で逆らうのがあっちなんだけど……。

『あっち?』

 なぜニュアンスの伝わりがこんなに凄いのか。


『ところで私の階層ですが、やはり吸血鬼としては城が欲しいですね』

「城2つ目じゃねえか」

『玉座を』

「なぜ座りたがるっ」


 反乱されているというのに、俺の方がまるで間違っているような錯覚を起こしちゃうぜ。

 俺の操縦テクニックが凄まじい、我がダンジョンの重鎮、セラ。

 鬼が待ち伏せをし、戦い抜かねばならない鬼ダンジョンだが、セラに戦闘はほとんどなかった。


 セラは直接戦闘能力こそ7人の中で一番下なんだろうが、補助的な能力は凄まじい。特にその中で特筆すべきは魅了の力だ。

 吸血鬼が元来持っている魅了の魔眼に加え、俺が特徴にこれでもかとてんこ盛りにしたセラの魅了能力は、息をするように格下の生物を魅了していく。

 鬼は基本的に肉体性能こそ高いが、思考能力や毒麻痺睡眠以外の状態異常耐性に劣る。魅了の力に抗うことなんて全くできず、容易く頭も心も埋め尽くされた。

 なら、その道を邪魔する者などいない。


 全ての魔物と戦わざるを得ない一本の道は、セラにとってただひたすらに真直ぐなだけの道だった。

 まさしく格が違う。

 階層守護者ですら、吸血鬼公爵であり、上級竜の3倍のPを以て生成されたセラに近い格を持てやしない。


 40階層を越え、時折抗うことができる者も現れた。

 鬼系の種族にもたくさんの種族がいる。吸血鬼とて鬼系の種族。吸血鬼は直接戦闘に関わる肉体性能こそ他の鬼系種族に劣るものの、状態異常への耐性は高い。

 が、抗えただけだ、息をする程度で発揮できる魅了能力に。

 ほんの少し意識を割いただけ、それで彼等は意思も誇りも全て容易く手放した。


 ダンジョン最終階層、50階層。

 豪勢な調度品が置かれた最奥の部屋。

 そこで待ち受けるは、吸血鬼。貴族の中でも上位に位置する吸血鬼伯爵。生成には1000Pもかかる強力無比な魔物。フィールドにおいても時折人里に降りてきては町1つを支配下に変える恐るべき上位者。


 さらに、度重なる降伏宣言を一笑に付されたダンジョンマスターは、誇りを無視する相手のダンジョンマスターとの作法に則るように、最終階層全体に魅了無効の力を使った。

 本来してはいけないこと。

 だが、先に相手が誇りを無視した行いをしてきたならその限りではない。誇りの大切さを教え込む、それもまたダンジョンバトルの法則。

 吸血鬼伯爵は、このダンジョンで初めてセラと魅了無しで対峙した。

 真正面からの激突――。


 は、しかし、起こらない。

『出迎えご苦労様』

 セラはその横を通りすぎ、伯爵は頭を垂れ続けた。同じ吸血鬼では伯爵と公爵の差を覆すことなどできない。それも相手は始祖にもなりうる器。

 知恵があるからこそ恐怖は凄まじく、殺されてもなお目を合わすことすらできず、戦いは終了した。


『こんな下等な吸血鬼で勝てると思われただなんて心外ですね。間違っていたことを教えて差し上げましょう』

 1つのダンジョンの命運が、今、尽きた。

御愛読ありがとうございます。


再び5000字を切る話を書くことができました。みなみなさまが粘り強くお付き合いいただいて下さったおかげでございます。

これからも読みやすい文章と面白いストーリーを目指して邁進して参ります。


質問感想お待ちしております。

次話もよろしくお願いします。

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