第32話 火山ダンジョンそれいけマキナ。
悪逆非道のダンジョンマスター格言その14
未来とは理屈で語るものではない、愛と夢で語るものなのだ。そして過去とは涙で語るものなのだ。
さて、戦争が終わり、これからは普通のダンジョンマスターとして生きる。
1日目から始まった血で血を洗う闘争の日々も終わりを告げ、華々しい人生、いやダンジョンマスター生が待っているのだ。
そうなると考えなきゃいけないのは、ダンジョンの形。
何をメインに持ってくるか、何を活かすか。地形は、建物は、ボスのタイプは待ちうけか徘徊か。次階層へはボスを倒して行くのかアイテムを取得して行くのか、それとも何もせずに行けるのか。
そんな無限にも思える選択肢の中から、選び抜き自らの世界を作りあげる時期がやってきた。
普通のダンジョンよりも90日くらい遅いと思うが、ついにやってきました。
より良いダンジョン生活、より良いダンジョンマスター生活を目指して頑張りたいと思います。
間違っても今現在のような、フィールドはありのままで建造物もギミックもなし、ダンジョンモンスターは7人で、最終階層以外素通り可能。30階層までボスを倒さなくても簡単に辿りつけるダンジョンコア見学ツアー開催中、だなんて真似をしていてはいけない。
というわけで、俺は学ぶ。
他のダンジョンマスターがどういったダンジョンを作っているのか。
どうやれば強いダンジョンを作りあげることができるのか。
人間が生き残っているのは学べるからに他ならない。俺は人間型ダンジョンマスター、その恩恵をしっかり活かし、より良いダンジョンを作ろうと思います。
マキナは火山のダンジョン。トレニアス火山ダンジョンと呼ばれるダンジョンに突入した。
活火山と周辺の岩石がゴロゴロ転がる地帯を領域としている、自然型ダンジョン。
しかし、ダンジョン深部、活火山の中へと入ればそこはまるで異空間型のような洞窟状の通路。溶岩が時折流れ込むその通路は、まさに天然の要塞。
火山に位置するため、火系や溶岩系の魔物や罠の消費Pがかなり軽減されているのだろう火山ダンジョンは、自然型ながら異空間型風に作られ、その両方のメリットを上手く使っている。なんとも工夫されたダンジョンだ。
勉強になる。
特に罠が面白いね。
通路に上から溶岩が流れ込んだり、途切れた通路を飛ぶ際に落ちれば溶岩一直線だったり。他にもドッパーンと、通路より下に位置していた溶岩が押し寄せるなどの仕掛けも、面白い。
溶岩は自然の溶岩そのままなので温度は非常に高く、その場にいるだけでもかなり大変。浴びてしまったり浸かったりしてしまったなら、大ダメージ間違い無し。
素晴らしいと言える罠の活用。
本来、ダンジョンにとってメインの障害は魔物、罠は補助的な使い方をする。メインで使うことは難しいってのに見事なものだ。
罠は例えば、どう見ても強くなる見込みのない者に使う。
そんな侵入者がいたとしよう。
素質もないし考えもしないし師匠も仲間もいないから実力を向上させられず、Lvに見合わない弱い魔物しか倒せないからLvも上がらず、ずーっと同じ低階層でくすぶるそんな侵入者。
ダンジョンは侵入者に魔物を倒させLvを上げ、いつの日か倒して回収するのが仕事。
そのためLvを上げられない人にずっといられると、復活にかかるPと倒した時のPが見合わなくなる。
低階層でずっとくすぶる侵入者はまさにダンジョンブレイカーと呼んでも差し支えない。大赤字だよ。
こういう人にいかに手早く去って貰うかがダンジョンの経営を上手く回すポイント。
しかし倒そうと思っても1階層近辺の魔物は弱いし、ノーマルモンスターでも命令は聞かないし、弱いしで、自殺に近いことをしてくれない限りは倒せない。
そんな時に活躍するのが罠。
そういう見込みのない者は迂闊で、罠に簡単にかかる。その罠で死んでくれたなら良いし、怪我をして引退してくれても諦めてくれても良い。
補助的とはそういうこと。間引く役目、っていうのかな?
その階層その階層によってのそこそこ実力者、中の下には効果を見出せないが、下の上には効果抜群。それが罠。
しかし、この火山ダンジョンは違う。
至るところに罠を張り巡らせ、上の上ですら罠で撃退することを考えて作られている、罠がメインのダンジョンだ。
それは難しい。
罠をどんな侵入者でも撃退させるくらいに用意しようと思うと、至るところに張り巡らせる必要がある。それは通常不可能。
ダンジョンにはルールというものがある。罠はこの間隔で1つ、もし2つ置くなら他の罠はもっと間隔広げて、3つ置くならさらに広げて。到底、撃退には至らない。
それをするなら勲章、極悪非道、が必要。
ダンジョン外で平和に暮らしていた者達を無慈悲にもPに変える極悪な非道を繰り返し行わなければ授かることのできない極悪非道の勲章。
これがあれば、トラップ単位面積数解放、という効果が発動される。
つまり間隔を空けなければ設置できない罠を、密集させていくつもいくつも置くことができるようなるというわけだ。
なんで知っているかって?
持ってるからさ。
ダンジョン外で平和に暮らしていた者達を無慈悲にもPに変え続けたからさ。極悪非道に相応しい行いをしたからさっ。……。
……。
しかし、この火山ダンジョンは違う。
そんな極悪非道な行為なんて絶対していないだろうに、至るところに罠が張り巡らされている。
どうしてそんなことができるのか。
それこそが、ダンジョンマスターの腕の見せどころ。
答えは、火山にダンジョンを作ったから。
火山である以上、溶岩は罠に当てはまらない。普通にあるものの一種、土や岩と同義。そこらかしこにあって当然の物となる。
それを上手く利用することで、溶岩が八面六臂の大活躍、罠で撃退を可能とするダンジョンに至ったわけだ。
通路に流れ込む溶岩。飛び移らなければいけない通路の狭間で吹きだす溶岩。ダンジョンの力により壁が丸々溶岩へと変わった灼熱の通路。
とても良く考えられている。
考えられているじゃないか。
ただ、一応欠点もある。
火山には当たり前にあるものということは、すなわち、火山で活動する者達にとっても当たり前にあるものだということ。
火山ダンジョンへ侵入する者は必ずと言って良い程、火山に対しての適性を持つだろう。
元々火山に住んでいた魔物や、耐火に特化した人だったりね。
そんな彼等に対して溶岩の罠をいくら並べたところで、優れた効果はそうそう発揮できない。一番多いであろう侵入者に対して効果が薄い、というのは正直とても大きな欠点だ。
だが、それが分かっていれば十分対処可能。
火系溶岩系でまとめ、ダンジョン深部まで来られる侵入者を火に適性のある者に限定する。それは同時に消費Pを安く済ませる効果も生む。
そしてダンジョン深部まで来た時に、全く別系等の魔物を用意する。
地下水脈を利用した、水氷系等の魔物が闊歩する階層。
消費Pは大きくなり、授かった火系や溶岩系に対しての勲章による恩恵を受けられず強化は無いが、それでも相性は抜群に有利。
そう、溶岩などの罠のみで撃退できるに至った、罠を前面に押しだすこの火山ダンジョン。
ここは、その高階層で止めを刺すため、低、中階層を攻略できる侵入者を火属性に限定するという、罠で構成されたダンジョンなのだっ。
つまり、超超トラップダンジョン。
凄く考えられている。
しかしやっぱり最終階層の守護者は、強化も大きくなる火系にするようですね。
そりゃそうか。侵入者を倒してP稼ぐ用階層を最終階層にするのはダンジョンマスターとして心労が大きいし、5階層手前だった。5の倍数階層はボスの補正が大きいから5階層手前にしたのかな?
水系等種族のユニークモンスターを倒した後は、火系等種族のユニークモンスター。
ふむふむ、勉強になる。
なんで最終階層の守護者を知っているかって?
もう行っちゃってるからさ。
マキナがもう最終階層に行っちゃってるからさっ。
掘っ建てられても小屋でもない青空の下で、俺は各ダンジョンに侵入した7人のネームドモンスターの様子を映している。
その内の1つ、マキナが今、トレニアス火山ダンジョンの最終階層守護者と相対した。
早い、早いよ。
『まあな』
グーサインで応えるマキナ。思考が読まれるだけでなく、まさか映像を映しているのもばれるのかっ、察知スゲエ。
ダンジョンバトルでは相手ダンジョン内もマップなどで見ることができる。もちろんこちらのダンジョンモンスターが通った箇所やその周辺、出会った魔物くらいしか表示されないし、罠も不明だが、見えるところはもうバッチリ。
こうやって見られるのは凄いよね。見ちゃいられないぜ、っていう俺の感想は置いといて。
火山らしい罠が豊富にあった火山ダンジョンだが、その程度の火力、上級竜からすればほんのり暖かい程度としか感じない。
溶岩を直接抱いてもなんか温い、くらいの感想しかないだろう。
それが理不尽で圧倒的な上位種族、上級竜。反乱し一個体となった上級風竜、マキナの力。
溶岩がかかってもものともせず、むしろマキナの侵攻を止めるために出てきた魔物を掴んで一緒に溶岩の中へダイブし、そっちを溶岩で倒すという意味の分からない遊びをしながら進んだマキナ。
『アタシの階層はそうだなー、こういうチャチなやつじゃなくてもっと凄い罠が欲しいなあ。あと城が良い』
途中途中で自分の階層についての進言が入る。
『玉座が良い』
「ダンジョンマスターがいるのに玉座に座ろうとするんじゃありません」
1階層から30階層辺りはまるで無人の野を行くが如く。階層守護者たるボスと相対したところで、一撃で粉砕。
大元の生成Pが1000Pを越える魔物であれば一撃じゃ終わらなかった可能性もあるが、30階層の450Pの魔物に耐えろと言う方が酷な話。
450PでLv30の魔物なんて、人間換算ステータスで言うならLv130くらいしかないからね。
強いけどさ、人間換算ステータスLv400を越えるマキナにかかればボスで強化されてたとしても、そりゃあ一撃。
31階層以降も、興味をそそる者以外に関わることもせず飛んで進んだマキナ。
ギュンギュンギュンギュン。
大型魔物が通れないくらいの通路もあったがそこは人化しひとっとび。人化状態でも溶岩の中へダイブ、しかし服が汚れることすらない。
そうしてまたまたギュンギュンギュンギュン。
降参を申し込んでいるのにそれは全くもって応答もなく、自分のダンジョンの中を圧倒的に強いのがギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュン。
一体どういう気持ちだったのだろう。俺にはそれを想像することしかできない。あと謝ること。ごめんなさい。凄く思ってます。届け、この思いっ。まず家の子らに届けっ。
そして50階層。
ダンジョン最終階層。
ただ一室のみ作られた大部屋。床も壁も全て溶岩で作られ、部屋の気温は鉄をも融解させるほどの高温。
ダンジョン最強の魔物が占領する、ボスの鎮座する部屋。
そこにいたのは、レッドサラマンドラ。
火系の竜族種で生成Pは1050。
火への耐性が高く、この溶岩漂う部屋でもなんら意に介さない。むしろその魔物から漂う熱気は、溶岩部屋の温度をさらに高めるほどの熱量。
かつてレッドサラマンドラを従えた魔法使いが、都市を2つ灰に変えのは有名な逸話。
それほどに強力な魔物が、50階層の最終守護者という任の元、マキナの前に立ち塞がる。
だが――。
『んだよ、雑魚くらいならいるかと思ったのに、ただのトカゲか』
そんな呟きの直後、手の平から発せられる暴風。
それは巨大で硬い炎の鱗で覆われたレッドサラマンドラを一瞬にしてズタボロにし、ただの魔石とドロップアイテムに変えた。
上級風竜であるマキナにとって、中級竜と下級竜のみが戦いになる相手、つまり雑魚であり、それ以外は雑魚以前の存在。相手ですらない。
『さーってっと、ダンジョンコアダンジョンコア、もしくはダンジョンマスター』
1つのダンジョンの命運が、今、尽きた。
毎度お付き合いありがとうございます。
とうとう少し短めで1話を書ききることができました。
5000字きるなんて中々ないことだと思います。
これからも作者やダンジョンマスターの成長をお楽しみ下さい。
ありがとうございました。




