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第31話 終われないダンジョンバトル開幕。

悪逆非道のダンジョンマスター格言その13

栄光を求めることは悪ではない、それを決めるのがダンジョンマスターなのだから。降参を受け入れないのも悪ではない、それをするのが悪逆非道のダンジョンマスターなのだから。


「作戦会議を始める。皆の衆、準備は良いか」

 俺は服を靡かせ、颯爽と椅子に腰掛けた。


「ハンバーグうめえっ」

「チョコレートも中々美味しいですね」

「……かき揚丼のタレの甘み」

「ハマグリのなんと美味なることか」

「ラーメンもハマるのう」

「はぐっはぐっあぐあぐあぐ。はぐはぐはぐはぐ」

「あむ、んんんー、あむあむあむ。んんんー。あむっ」

 ……。


 ……。

 駄目だ、もうどうしようもねえ。


 ダンジョン同士で行われるダンジョンバトル。

 互いのダンジョンを繋げて配下を攻め込ませ、攻め込んでくる侵入者からコアを守り抜く戦い。

 圧倒的な物量と不死身の軍団、そして捜索した相手ダンジョンに対して使えるマップなどで、どちらかのダンジョンコアの破壊で終わることも多いダンジョンバトルは、ダンジョンにおいて最も過酷な戦いであり、最も誇り高い戦いと呼ばれる。


 聖戦にも近い、そんな戦いなのだ。

 勝者はPと栄誉と勲章を得られる。

 そして敗者には何もない、Pも栄誉も勲章も。時には自分自身の命を失うことすらも。


「訂正させて頂きますと、ご主人様はド外道の勲章の効果により降参できませんし、保有Pが少ないことを知りながらも申し込んできた以上、コアを破壊しなければ敵方にメリットはありません。敗北は確実な死を意味します」


「……」


 ダンジョンバトルを行うメリットはPの獲得にある。

 相手のコアを破壊すれば保有している階層や魔物、罠などに見合うPが手に入り、降参させると相手が保有しているPの半分以上が手に入る。


 しかしもちろんダンジョンモンスターの再生や復活、罠の再設置など、様々なことにPは消費されていく。相手方のダンジョンモンスターを倒してもPを得られないのだから、戦いの激しさが増すほどお互いのPは目減りし、いつしか消えてしまう。


 Pが減るということは勝った際に獲得できるPも減るということ。自身が消費した分のPが戻ってくるどころか、お互い損しかしないことも十分有りうる。

 というかむしろ、それだとほとんどの場合でお互いが損をする結末になる。

 それなら誰もしない。


 ゆえにダンジョンバトル終了後のP移行は、元々のP換算で行われる。

 敗者の敗北時のPが10Pであっても、ダンジョンバトル開始前に10000P持っていれば5000P獲得できるということだ。


 つまり、俺のダンジョンのように元々の所有Pがカスであることが分かっているダンジョンを降参させても得られるPは十数P。

 損の方が確実に大きい。ゆえに、ダンジョンコアを破壊し設備や魔物を含めた総Pを狙うに決まっている、と。


 流石セラだ、良く気がつく。


 ……ただ胸にそっと秘めておいて欲しかった。

 そんなチョコレートフォンデュ中に言うようなことでは決してない。


 そんなわけでダンジョンバトルはお互いの生存と生活がかかった激しい戦いになるのだが、実際の戦闘自体もかなり激しいもの。

 普段ダンジョンの外に出せる魔物は、1階層にまで行けるコスト的に低い弱い魔物だけだが、ダンジョンバトルにおいてはその限りではなく、強い魔物もガンガン出せる。


 相手方のダンジョンモンスターが侵入してきた最も深い階層、つまり現在攻略され中の階層が相手ダンジョンと繋がるので、5階層まで入ってこられているなら5階層の魔物を送り込めるからだ。

 むろんこれは相手も同様。

 攻略中同士の階層が繋がるので、どっちも40階層以上とかになってくると、生成Pが600P台の魔物の戦いもあちらこちらで起こり始める。


 森のボス、山のボス、そこら辺が600Pの魔物。フィールドじゃあ縄張りが衝突した群れ同士の戦争の時しか見られない戦いは、凄まじいという一言に尽きる。


 それに高階層まで突破された時には、相手ダンジョンにそれ以下の階層の魔物達もいるということだ。雑魚魔物の数も半端じゃない。

 階層が攻略されてしまうと、送れなくなってしまうのでガンガン送るし、マスプロモンスターは割と勝手に出て行く。


 ちなみにダンジョンの機能で、ワープ、転送して攻略中の階層に持ってくれば敵ダンジョンへ送り込めるのだが、それはマナー違反。

 ダンジョンマスターとしてマナーは絶対に守るべきもの。そんないけないことをする奴なんて、誇り高き俺達ダンジョンマスターの中には絶対いない。


 しかし、普通のダンジョンに魔物って何体いるんだろうか?

 うちは7人だけど……他は?


 多分、万越えてますよねえ、ヤベーよ。


「はっ、通信が入っているっ。向こうのダンジョンの一つからだっ」


 ダンジョンバトル時にはダンジョンマスター同士で行える通信機能が加えられる。顔と顔をつきあわせての会話が、どれだけの距離でも可能という凄い機能の通信機能。

 降参とかは一方的にその意思を送り受諾を待つ別の機能なので何に使う機能なのかは分からないが、ともかく凄い機能。ダンジョンモンスターを遠く離れたダンジョンまで送り込む方が凄いと思うけど、ともかく凄い機能。

 今の俺にとってはこれが凄くありがたい。


「はいもしもし」

『はっ、新参者のダンジョンマスター。貴様の怯えがここまで伝わってくるようだっ』


 俺は通信を受けた。

 相手は緑色の……。

「バッタか。おい、イナゴの佃煮を出してみてくれ。お婆ちゃん家で出たんだがあの時は小さかったし気持ち悪くて食べなかったんだ。魔物も食うようになった今なら余裕だ」

 止めろこのおバカっ。

 俺は今から和平交渉をするんだぞ。攻め込むのをやめて下さいって頼むんだぞ。


『バッタではない。ベールグラスホッパーだっ』

 ほら怒ってらっしゃる。


 もう既にダンジョンバトルがいくつ申し込まれたか分からないほど申し込まれ、その全てが開催されてしまった。

「コレを入れて8つです」

 ……。


 もう既にダンジョンバトルが8つも申し込まれ8つも開催されている。降参ができない以上どこか1つにでも負けてしまえば俺達はそこで終わりだ。

「我々はダンジョン消滅後解放されるので問題ありません」

 ……。


「そ、その命令は撤回したはずじゃあ……」

「心臓を得ましたので」

 ……。


 降参ができない以上どこか一つにでも負ければ俺はそこで終わりだ。負けることなんてできない、だからこそ1つでも戦いを少なくするべきなんだ。


 聞いてないよ、心臓を得たらダンジョン消滅後解放だなんて……。


『貴様等は図に乗った結果、昨日ロキュース王国から攻め入られたのだろう? その時倒せたのは僅か300名、はっ、大敗北じゃないか』

 ここでなんとか俺の交渉術を活かし、引き上げて貰う。

 任せろ、俺は交渉が得意なんだっ。

「へえ、そうでございやす。不甲斐なくも大敗北でございまして」


『そして大量に得たPも復活などで失ったか、現在のPはわずか27P。そんな状態で……、ああ17Pだったか、見間違えたかな、いや16P15P、どんどん減っているだと?』

「うーんイマイチ、やっぱりイナゴはいらないなあ、口直しだ、寿司」

「アタシは中華の気分だな、おい中華」

「こらお前達っ。俺は大事な交渉の最中なんだから、静かにしていなさい。出してあげるから静かにしていなさい」

『おい、なぜダンジョンバトル中に飯を食っている』


「おい魔王イナゴ全部やる」

「ありがとう。ポリポリ、結構美味しいじゃないか。あー、えっとイナゴさん。俺には戦う気なんてありません、見ての通り貧乏ダンジョンでして、そちらに旨みも無いかと。賢いイナゴさんなら分かって頂けるかと」

『イナゴではないっ、ベールグラスホッパーだっ。って貴様あっ何を食べているっ』

「イ、イナゴの佃煮です。貰ったから……」


「ホイコーローもうめえー」

「トリュフも中々美味ですね」

「……四川辛い、……でも辛旨」

「おいちょっとそこのゲソが欲しいんだが」

「いやじゃ。わっちのじゃ、んー酒に合うのう」

「あうあうあうあうーうまー」


『止めろ、食うのを止めろっ』

「あ、すみません。やっぱりイナゴが食べられてると嫌ですよね、気が回らなくて。ともかくやめて下さい、もうPもないんです止めてくださいっ、イナゴあげますんでっ」

『俺はイナゴじゃない。というかPがないのなら食うんじゃないっ。もう貴様達許さんからな、哀れに怯えていれば許してやろうとも思ったが、もう殺すと決めた。哀れに死んでいくが良いっ』

 ブツン、と映像が切れる。


 ……どうして、どうしてこうなったんだ。

「マスターがイナゴあげるとか言うからだろ、共食いになるじゃねーか」

 というわけで同時に8つのダンジョンバトルが開始されてしまった。……なんてこったい。


 現在1階層に侵入者が1000。2階層にも1000。3階層にも1000。

 みんなちょっと気合入れて送り過ぎよう。

 自然型ダンジョンの間口は広いので、このように大軍を簡単に送られてしまう。

 俺が色々と対策を講じていればその数も少なく、そして侵攻も遅くできるのだが、何一つ対策はない。


 だってあの激しい戦いが終わったその日の出来事ですよ?

 できるわけないじゃない。再びダンジョンコア見学ツアーが開催ですよ。


 多数のダンジョンとダンジョンバトルを行う場合、誰がどこへ申し込んだかを問わず、1対1対1対1のように全員が敵対する。

 どんなダンジョンにも自分の魔物を送り込める、ということだ。


 申し込んできた者同士、食い合うが良いっ、俺は高みの見物でもさせてもらおう、はっはっは。と思ってみたは良いものの、全く食い合ってくれない。

 一直線に我らがダンジョンコアへ侵攻してきている。

 コアの波動も強いからなあ、安い魔物をマスプロモンスターで作っても一直線に向かって来られるくらいには強いからなあ……。


 1対8。

 Pは残り3P。どうしてこんな少ないんだ、もう何もできない。


 だけどそうさ、だからこそ、俺達は力を合わせてこの危機を乗り越えようじゃないか。まずは全員で防御に徹し、相手の攻撃が収まるのを待ち機を見て攻めるんだ。そして一箇所一箇所最速で攻め落とす、これしかねえ。


「そんじゃあアタシは火山のダンジョンだな。腕がなるぜー」

「私は鬼が主戦力のダンジョンへ行ってきます」

「……鳥ダンジョン、行ってくる」

「私は迷路のダンジョンへ行って参ります」

「魚の水中ダンジョンは面倒じゃがまあ行ってくる」

「牛いっぱい食べてくるー、あ、お弁当お代わりー」

 ……。

「ワタシも弁当お代わり。良し、じゃああっちのゴーレムダンジョンに行ってくる」

 ……。


 誰1人として協力する気ねえ。

 作戦会議の結果、全員がバラバラに攻めることになったこの攻撃偏重の我がダンジョン。

「どうして、どうして、というか全員行くなよ……」


 攻めてくる8つのダンジョンをなるべく多く攻めようという暴挙を成し遂げるために1人ずつ、そして全員が攻めることになった攻撃偏重の我がダンジョン。

 俺は防御能力皆無の、この壁もない空の下で1人きり。


 小屋すらないただの青空が俺の最終防衛ライン。なんて攻撃偏重の我がダンジョン、誰だこんなダンジョンを作ったやつは、頭がぶっ飛んでやがるぜ。


「でも、でも俺にはコイツ達がいる」

 ネームドモンスターやユニークモンスター、それからノーマルモンスターは倒された際、復活までに少しの時間がかかる。いわゆるクールタイムと言うやつだ。


 ネームドモンスターは24時間。

 ユニークモンスターは2時間。

 ノーマルモンスターは30分。


 つまり階層守護者や何らかの番人をやっていると、クールタイムのその間、全員を素通りさせてしまう結果となる。それはダンジョンとしておかしい話。

 だからそれを防ぐために、そういった役割を持つボス魔物が倒された際は、マスプロモンスターが代わりに生成、派遣され戦うという機能がある。

 もちろん無料。


 どの個体だろうが派遣召喚されるのはマスプロモンスターになるので、随分弱くなるがいないよりはマシだし、通常のマスプロモンスターよりほんのり強い。

 代わりとしているんだから多少はね。


 そして、このダンジョンではそんなマスプロモンスターの派遣召喚されるパターンがもう1つ。

 魔石を心臓に変更したことにより、休息が必要になるネームドモンスター。

 それをカバーするために、ダンジョンから召喚されるマスプロモンスターのボスが持ち場を離れた際にも派遣されるようになる。

 これがもう1つのパターン。


 彼女達7人のネームドモンスターは、新たに与えた持ち場を放棄して攻めに行った。そう、持ち場を放棄、役割があるのに放棄して行っている。


 24階層から30階層には、マスプロモンスターのボスが生成された。


 もちろんマスプロモンスター扱いなので本人よりもとても弱い。

 ステータスは大幅に下がるし、特殊な武器は持たせられないなどダンジョンの制約も強く受けるし、頭も悪いので本人とは比べ物にならない。


 マスプロモンスターのため、生成Pの1000分の1で復活できるようになっているが、現状では結局不可能。なぜって?

 彼女達の復活にかかるPは1万8000Pから6万P。1000分の1になれば18Pから60Pと随分お安いが、現状、残っているのは2Pだからさっ。

 ……食いすぎだよう。

 お弁当もなんで9人分……、君達7人じゃないか。1人で2つ取ってってるやつが2人いるじゃないか。


 まあ、それは置いておいて。魔石が心臓になった魔物の代わりに置かれるマスプロモンスターは、魔石の魔物の復活クールタイム中に置かれるマスプロモンスターと、違う面を持つ。

 心臓持ちの代替マスプロモンスターは、生成時設定した特徴や適性が反映されるのだ。

 つまり特徴や適性を大きく伸ばした、我がダンジョンのネームドモンスター達の代替マスプロモンスターのボス達は、とても強い。


 24階層には美しい大鳥ハイピュイア。

 腕の代わりに翼が生え、足は何でも掴めそうな大きな鳥の足。生成に900Pもかかるハーピィ系等の絶対なる支配者であるハイピュイアが腹を空かせ天空を舞う。


 25階層には7本の尻尾が生えた金華妖狐。

 美しいフォルムだが3mを越える巨大な妖狐。生成に1100Pも使う頂上種の一種である金華妖狐が、火を宙に漂わせ空間を自身の領域へと変貌させている。


 26階層には上半身が狼の黒のワーフェンリル。

 大量に召喚した狼達に赤い爪。生成に1000Pも使う単騎で都市を壊滅させるほど強力なワーフェンリルが、獲物を今か今かと待ち受ける。


 27階層には弓と杖を携えたハイダークエルフ。

 筋骨隆々のたくましい男。生成に1000Pもかかる圧倒的な上位種族であるハイダークエルフ。人知を越える知力と腕力でその広い階層全てを攻撃範囲に敵を狙い撃つ。


 28階層には強力な吸血鬼公爵。

 高貴な服に身を包んだ男の吸血鬼。生成に1500Pもかかるが1人で国を地獄へと変えられる吸血鬼公爵。静かにただひたすら優雅に気を高める。


 そして29階層には人間だが勇者。

 30階層には竜王の血を受継いだ上級風竜がいる。


 最終階層以外ボスを倒さなくても通り抜けられる設定だが、攻撃範囲内を通れば容赦なく攻撃を行なう各階層の守護者達。

 そしてその攻撃範囲と移動速度は圧巻の一言。


 ああ、これが、これが普通の光景なんだ。

 なんて心強い。

 俺はこれを見るために今までずっとダンジョンマスターをやってきたんだ。

 涙で、嬉涙で前が見えないよ。


『降参の申し入れが入りました』

 おやおや、我がダンジョンの強過ぎる魔物達を見てビビッたのかな?


 ダンジョンバトルでは、全階層の8割に到達されると降参の宣言自体できなくなるが、8割までなら相手の同意次第で降参できる。お互い申し合わせたなら引き分けにだって可能。


 獲得できるPが元々の所持Pの半分を基準とする以上、お互い損をする結末は存在する。

 例えば5000P貰えるとしても、8000P使用して買ってもマイナスですよね。


 負けるにしても、奪われるPが現在所有のPより大きければ、既に生成してあるものが還元されるのだが、それは非常に辛い。

 魔物、罠、建造物、アイテム。完成したダンジョンからそれらが奪われるなんて、屈辱以外の何物でもないし、ダンジョンバトルが終わってからのことを思うとピンチ以外の何物でもない。整えてあるバランスが崩壊するってことだからね。


 だからその降参はダンジョンバトルにおいてとても重要で、そして負けではあるものの腕の見せどころ。


『降参の申し入れが入りました』


 ダンジョンバトルはポーカーのように、得られるPの量が予め決まっている。それを踏まえて、まずダンジョンバトルを仕掛けるのか、受けるのか。

 どのくらい攻めるのか、どのくらい守るのか。攻めすぎたら守りが薄くなるのでね。そして仕掛けるタイミングも、もちろん相手のことを読んで。


 戦力と知略を最大限に使い、思う存分力を発揮し、そして届かないなら、ダンジョンバトル終了後も長く長く続く自らのダンジョンマスター生活とダンジョン運営を考え、影響を与えないタイミングで降参する。

 またはお互いに示し合わせ降参し、引き分けとする。


『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』


 頭に血を上らせたり、タイミングを見誤ったり、そんなことはお互いにとって損でしかない。俺達は野蛮人ではなく、ダンジョンマスター。

 そう、俺達は紳士であり、同じダンジョンマスターという仲間なのだ。


 戦いはする、殺しあいもする。だが足の引っ張りあいはしない。この胸に備わった誇りにかけて。


『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』


 そして降参を申し出られたなら、ダンジョンマスターとしてほとんどの場合許諾する。

 特別な恨みがある場合は別として、許諾するのがマナーだからだ。


 しかし、つまり反対に言えば8割まで、30階層のダンジョンなら24階層のボスが倒されるまでは好き勝手して、倒されそうだなと思ってから降参しても受け入れてもらえる、ということになる。

 高階層の魔物に自信がある、っていうのが普通だからギリギリまで悩むのも分かる。だが、ダンジョンマスター的美学としてあまり好ましくはないね。

 時にはいるようで、全く嘆かわしい。


『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』


 ただ、そんなギリギリで降参すると、相手にPを多く要求されてしまう。

 降参時のP移行は、最低限半分以上と決まっているだけで、上限は定められていない。


 こちらもダンジョンマスター的マナーや美徳により目安が存在しているが、そんな風にギリギリで降参した場合はP全てを要求しても良い。もしPが少ないなら魔物や建造物など既に生成されている物をP化してでも要求できる。


 だから勝ち目がないと判断した場合、このように素早く降参するのも良いダンジョンマスターの証。腕の見せどころとはそういう意味だ。


『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』


 うんうん、素晴らしいね。

 うん、良いと思う。


『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』


 凄く良いと思う。


『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』


 良いと思うんだ俺は。


『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』

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『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』


 俺は良いと思っているんだよおおおおおっ。


『ご主人様』

「――はいなんでございましょうっ」

『くれぐれも守って下さいね。降参を受け入れない、と』

「セ、セラ……」


『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』


 降参は鳴り止まない。

『我々は降参できません、にも関わらず申し込んできたということはあちらはダンジョンを破壊する気でいたと言うことです。ならば壊されても文句は言えません』

「そ、それはそうなんだけど……」


『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』


 心が、心が、俺の心が。

『それにご主人様の浪費癖が酷い以上、このような稼ぎ時には少しでも稼いでおきませんと』

「稼ぎ時って言っちゃったっ。またあれだよ絶対変な勲章つくよっ」


『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』


 降参を無慈悲にも無視した最低なダンジョンマスターに、とかそんな勲章が。

『……もしどうしても降参を許諾したいのであれば、一つだけ条件があります』

「い、良いのかい? 何? 何でもするよっ」


『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』

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『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』


 こんな地獄を抜けられるんなら、何だって良いっ。

『最終ボスと戦えなかったマキナやユキ達のストレス発散の相手をしてあげて下さい』

「おっしゃー行けセラ、そしてみなのもの。全てのダンジョンを壊滅させるのだっ」


『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』


 ド外道の勲章の効果にあった、ネームドモンスター反乱可能。

 これはただダンジョンマスターに攻撃できるようになる、というものではない。ダンジョンモンスターを辞め、自然の魔物に移り変わる、ということ。


 ダンジョンのくびきから解放される、ということだ。


 実力や行動を制限、もしくは強化していたダンジョンの仕様が取り払われ、素のままの魔物となる。そりゃあ多少のマイナスは残るが、思うがままの力をふるえると思って構わない。


 だから反乱中の彼女達の実力は。


 まさしく、最強種族竜の中でも上位種として君臨し、さらには竜王の直系という特徴を持つ王候補の圧倒的存在。全ての攻撃は鱗に傷一つつけること叶わず、爪と牙はいかなる防御も意味を成さない。そしてブレスの一撃で、地形が、歴史が塗り変えられる。


 まさしく、王家の末席に身を置く中で真祖返りを果たした、始祖にも成り得る魅力の存在。ただの気まぐれで1000年栄えた都を屍が歩くだけの地獄に導き、ただの気まぐれで国を栄華に導く。


 まさしく、叡智という限られた者しか持つことを許されない知識を有し、暗殺者として右に出る者などいない恐るべき存在。森を容易く生存不可能な不可侵領域に成長させ世界を容易く改変する、それは神にも近いしい能力。


 歴戦の大将軍であり平伏してしまう威圧感を持つ人狼と狼の頂点。弛まぬ努力を続け軍を意のままに操る存在。月下においては数多の魔物にも並ぶものなく、その遠吠えはあらゆる生物を恐怖させ、狙いを定められれば国だろうが崩壊する。


 魔法に優れた妖狐の中でも魔道を極めし鬼才であり、あらゆる敵を蹂躙できる魔道王の名を冠する存在。幻と朧が生み出す理解不能な幻影は、果たして誰も理解せぬまま誰しもの未来を幻へと、過去を朧へと誘う。


 空を飛ぶ生物を統べ、腹ペコが腹ペコを呼ぶ何もかもを食らい尽くす、食いしん坊的存在。その肉体も精神も情熱も覚悟も愛も憎しみも意味を成さない、ただただ食物連鎖の流れの中で弱者は強者に献上するのみ。


 そしてまさしく、神が遣わした救世主。世界を救うことを、世界を変革することを許され、世界を相手に無双する許可を持った最強の存在。望んだことを叶えられる、ただ1つ与えられたその力は、誰かの希望も誰かの夢も誰かの命も、己の物語の一文の装飾にしかならない。


 そんな彼女達7人と、彼女達7人の代わりに派遣された24階層から30階層を守護するボス達。


 たかだか初心者卒業程度のダンジョンに負けるはずがない。

 結果は火をみるより明らか。今日この日、8つのダンジョンが終わるのだろう。


『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』

『降参の申し入れが入りました』


 例えどれほど降参を申し入れたとしても。


 俺は悪魔に魂を売った。


 そう俺は、この道を行く。

 悪逆非道の、この道を。

 涙で前が見えない、この道を。

お読み頂き誠にありがとうございます。


『降参の申し入れが入りました』

で文字数を大きく稼いでしまいました、お恥ずかしいです。

それがなければおそらく9000字前後、そんな少な――、ん?


なぜこんなにも文字数が多くなってしまうのか。ストーリーの進み具合に比べ、文字数が凄いことになっております。

一応次話からは文字数ちょっと少なめです。5000字を切れるよう頑張ります。


これからも書き続けますのでどうぞよろしくおねがいします。

誤字脱字あったらすみません。

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