第30話 夢見る男の勲章。
悪逆非道のダンジョンマスター格言その12
ダンジョンが終わる時は、全て綺麗サッパリ消える。だがその誇りは、永遠に消えることはない。じゃあうちは消えますわ。
さて、戦争が終了し人の大軍を退けたことで、停滞していた俺の勲章に動きがあったようだ。
『 名前:--
種族:人間
職業:ダンジョンマスター
勲章:異世界の知識を持つ者 ダンジョンの幕開け ダンジョンの波瀾の幕開け 自殺志願者 常軌を逸したマスター 豪胆マスター 初めては固有モンスター 名付け親 命名センス 銘を授けし者 ダンジョンマスター失格ダンジョンマスター 強者殺し 覇者殺し 到達者殺し 超越者殺し ドラゴンスレイヤー殺し 将の器 剣聖の名を継ぎし者 槍聖の名を継ぎし者 密偵狩り 補給潰し 祝踏破者駆逐 大物取り 上級竜を倒せし者 宝物ダンジョン 魔素溜まりダンジョン 美食ダンジョン 魔境の支配者 百の骸を吸いし迷宮 千の骸を吸いし迷宮 万の骸を吸いし迷宮 愛の迷宮 骸の迷宮 死に神の派遣者 情報の暴虐者 汚職の政治家 極悪非道 万の軍を退けしダンジョン 余命宣告を受けし者 節約上手 貯金好き ドケチ P依存者 藁の家 木の家 レンガの家 この豚野郎 性格重視マスター キャラ萌え ド変態 特徴付けマスター シチュエーション萌えマスター 吐き気を催す醜悪なる存在 スキル大好きマスター スキル愛 異常性愛者 ステータス重視マスター 偏屈脳筋 省みぬ挑発野郎 豪運 九死に一生の天運 明日死ぬ Pアホ使用者 ギャンブル依存症 外道 ド外道 登用者 カリスマ イケてるダンジョンマスター 勇者を従えし者 上級風竜を従えし者 魔王 』
悪口はコンプリートした。
俺はそう思っていた。
嘘だろう、と、悪逆の限りを生後89日でほとんど尽くしちまったのか、と。そんなとてもショックを受けた記憶がある。
しかし、それも良いんじゃないかと思った。コンプリートしたならば、これ以上増えることはない。
俺がこれから頑張っていけばきっと減らしていけるはず。悪口が増えないなんて良い事じゃないか、そう思った、いや思えるようになった。
だが現実はどうだっ。
「全然コンプリートと違うやんけっ。めっさ増えてもうてるやんけぇっ」
コンプリートしてしまったことにショックを受けたが前向きで捉え、元気を出したその瞬間、実は全然コンプリートじゃありませんでした、という罠。
1粒で2度俺を懲らしめるというなんともお得な罠。俺がそんなに悪いのかっ?
俺がそんなに悪いことをしたのかっ? しているから付いたんですがねっ。
「ひどい、ひどいや」
前回確認がほんの数時間前なのに何がどうなってここまで増えたんだ。
俺は1つ1つ確認していく。
バキボキに折れていく心をテープで補修しながら。
『 ダンジョンマスター失格ダンジョンマスター
ダンジョンモンスターを庇い死の危機に瀕した馬鹿なダンジョンマスターにでもお前みたいなやつ嫌いじゃないぜ、と授けられる。
・ネームドモンスター魔石心臓変換可能
・階層制限10階層追加
・コスト制限各階層コスト5緩和
・スキルの宝玉を得る
・進化の宝玉を得る 』
ダンジョンマスター失格ダンジョンマスター。これは名称こそ悪口だが、中身は結構褒められている。
へっへっへ、そんな、当然のことっすよ。なんだか恥ずかしいね。
『 美食ダンジョン
食事に並々ならぬ情熱を注ぐダンジョンに授けられる勲章。
・食事生成時消費P減少
・アイテム生成リスト追加 』
俺が情熱を注いでいるわけじゃないんですけどね。まあ生成Pが減るならとってもありがたいです。死活問題なんでね。
ただアイテム生成リストを追加すんじゃねえよ、オーダーが追加されちゃうだろっ。
『 愛の迷宮
ダンジョンが愛により全階層を一瞬にして攻略されたダンジョンマスターの美学に乾杯と授けられる。
・各階層建造物コスト制限解放 』
愛の迷宮。この制限解放系はとってもありがたいね。最強の勲章と言っても良い。これを授かったのは多分、マキナ達が心配して飛んできてくれた時だな、嬉しいなあ。
……でもマキナ達ってダンジョンモンスターなんだよなあ、攻略されたわけじゃないよなあ。
……もしかして侵入者だった頃のユキが離れないとご飯出せないと言って離れた時かなあ。いや、あれは1階層離れてって言っただけだもんな。うん、きっとマキナ達だよね……。
……。
……多分あの時ユキは、自分が転移で戻りやすいところに戻ったんだろうなあ。元々設定してあるポイントとか。
魔力あるのにダンジョン内なんて相手の攻撃範囲に転移場所を設定するハズはないから、きっとダンジョン外に出てたんだよなあ。
愛か……、何でも良いのかよっ。
『 汚職の政治家
最終階層にて賄賂を使いダンジョンマスターとしての誇りを踏み躙り生き延びた卑怯者のブラックダンジョンに授けられる。
・魔石等級上昇
・ダンジョンコア波動強化
・ネームドモンスター思考力上昇
・トラップ被探知確率制限解放 』
賄賂。ケーキか……確かに渡しました。そんな大事になるとは思わなかったんです。
しかしこのダンジョンは一体どれほどブラックに染まれば良いんだ。漆黒って表現が生ぬるいくらいにもうブラックに染まってますよ。
テープ追加だー。
『 この豚野郎
短期間に複数回、最終階層のコアを守る居城を完膚なきまでに吹き飛ばすこれ以上ないMにもう止めろとの意味を込めて授けられる勲章。
・各建造物生成時P使用制限解放 』
節約上手、貯金好き、ドケチ、P依存者の4段活用勲章と同じやつだね。藁の家、木の家、レンガの家で、この豚野郎。最終的にP使用の制限解放が行われるありがたい勲章さ。
だから例え悪口でも授かったことはとても良い事さ。全然傷ついてない、本当だよ?
ただテープは追加して下さい。
『 ド外道
追撃と報復、そしてコア間近まで招き入れての裏切りと拷問、道を踏み外し尚も悪を貪るド外道に授けられる勲章。
・魔石等級上昇
・魔石等級制限解放
・ダンジョンコア波動強化
・ネームドモンスター自我強化
・ネームドモンスター反乱可能
・ダンジョンバトルリストに自軍情報記載
・ダンジョンバトルにおいて敵対者の取得P上昇
・ダンジョンバトル降参不可 』
しかしド外道。
これにはどう取り繕おうが傷つくよ。
ド外道。ドがついちゃったよえらいこっちゃで。そしてその名前も然ることながら、効果がヒドイ。一難去ってまた一難、明らかにダンジョンバトルで狙われるように仕向けられてます。
ダンジョンバトル断れず、情報が記載されて、降参もできないまま。相手が勝ったときにPをたくさん得られる。一体どんだけの不利益が生じるんだか、ダンジョンすぐ終わっちゃうぜこんなの。
テープじゃ足りないぜこんなの。
ダンジョンがほぼ確実に終わる、それも勲章のことを知らないダンジョン外の人や魔物からではなく、勲章のことを知るダンジョンマスターから狙われて。
絶対優先的に狙われるよね、誇りを穢した的な。
そんな勲章なんだ、取得方法はきっとえげつないんだろう。どういった経緯で授かったのか僕には見当もつかないや。
……なんてこったい。
というか今の情報も書かれるのかしら、家無しと。恥ずかしいな。
『 登用者
ダンジョンモンスターとして魔物を登用した者に授けられる。
・100P獲得 』
『 従業員雇用者
ダンジョンモンスターとして人を登用した変わり者に授けられる。
・100P獲得 』
『 カリスマ
ダンジョンモンスターとして1万P以上消費する強力な魔物を登用した者に授けられる。
・消費P減少 』
この辺りはユキを仲間にしたことでの勲章。基本的に登用は魔物に対して行われるので、文言は魔物となっている、ユキが魔物扱いされているわけじゃない。強さは化け物だが魔物ではない。
消費P減少は嬉しいね。
『 イケてるダンジョンマスター
7名のネームドモンスターに心から慕われているダンジョンマスターに授けられる勲章。
・ネームドモンスター進化解放
・ネームドモンスターステータス上昇
・ネームドモンスター復活時消費P減
・ネームドモンスター取得経験値上昇 』
イケてるダンジョンマスターは嬉しいね、心から慕われているですって。うふふ。テープなんて剥がしちゃいましょう。
ん……7名?
1マキナ、2セラ、3オルテ、4ローズ、5キキョウ、6ニル、7……ユキ?
「おいユキ」
「うまうまー、ん、なんだ?」
「お前って俺を心から慕ってたりする?」
「食わせてくれるならな」
「……お前めっちゃ簡単だな」
「何だと?」
ご飯あげただけで心から慕うのかよ、そこら辺の野生動物でももうちょっとプライドがあるだろうに。
「そこら辺の野生動物でももうちょっとプライドがあるだろうに、だそうです」
「貴様……死にたいらしいな」
「おいそこっ、なぜ通訳をしたっ。ふっ、しかし貴様は既にダンジョンモンスター、俺にダメージを与えることはもう出来ないのだよっ。ぐはあああっ痛いーっ」
「このド外道め。ネームドモンスター反乱可能の効果を知らないのか? ふっ、もうワタシ達はお前に攻撃し放題なんだよっ」
「な、なんだってーっ?」
「これに懲りたら大人しく毎日美味い飯を出すんだなっ」
ズビシと音が鳴るほどに強く向けられた指。まさかの事態が発生した。下克上である。
「なんてこったい」
「はっはっはっは」
これではいつでもどこでも俺はボコボコにされてしまうじゃないか。言うことを聞かせる立場から聞かされる立場への転落。
俺は未来を想像する。
ダメだ、悲しい未来しか見えない。
すると、ガシッ、と顔を捕まれる。マキナだ。
「ファ、ファキファ」
「そうだぜマスター、美味い飯、これからも出せよな」
挟まれるようにガシリと持たれた顔、口が開いたまま閉じられない俺。
ダンジョンマスターが取ろうとした行動をダンジョンモンスターが妨害することは本来不可能なはず、しかし口は閉じられず上手く話せない、つまり反乱っ。
反乱中はステータスや筋力がそのまま出てしまう、人間では、Lvも上げられないなんちゃって人間では上級竜のパワーに太刀打ちなんぞできるはずがないっ。
「……分かったのか?」
「ふぁ、ふぁい」
俺にはもう情けない声を出すことしかできない。あと料理を出すことしか……。
返事を聞いたマキナは満足そうな笑顔を見せ、俺の顔を左右にブンブン振って手を離した。ううう、なんてこった夢のダンジョンマスター生活がこんな簡単に終わるだなんて。
「セラさん、俺はどうすれば……。ん? セラさん、なぜデコピンの体勢で構えているの?」
ペチン、と可愛らしい音が響く。
……でも普通に痛いよ?
反乱してる、反乱してはるよー。
「ふふふ」
俺が感じた痛みを、おでこを抑えた姿を、とても興味深そうに感じ入るセラ。……、怖いよう、怖いよう。何の感想だい? 何を思っているんだい? 優しい出来事かい? 笑顔に即した想いかい?
ツンツン。
俺が怯えていると、後ろからそんな風につつかれた。
振り向けばオルテ、つついた指をくるりとひっくり返し、手を広げて俺に見せる。
「……飴」
うん。この子はいつも通りだ。飴製造機と悩んだこともあったが、まさかこれに安心させられるとは。
「はい飴だよー」
俺はオルテに飴をあげ、これからの境遇改善に悩む。どうすればダンジョンマスターとしての地位が保たれるのか。
うーん。
おや、なにやらまだ背中にツンツンの感覚が残っている。今までと違うねえ。普通はすぐに消えるのに、まるで俺の体が普通の体になったようだ。
……え、もしかして反乱してツンツンしたの? 飴食べたいって言うためだけに反乱したの? 気軽過ぎるよっ。
日常に潜り込みそうな反乱。一体どうやって防げば。
「主様大丈夫ですかっ?」
と、そこへローズ参上。
「主様のことは私が守りますっ。なぜなら主様は私にとって最上のお方であり主様に仕えるということは――」
ローズ、いつもなら疲れる君の口上と尊敬も、今は嬉しい限りでならない。
「吸血鬼に触れられた場所はここですか? 綺麗に致しましょう」
そしてそう言って俺の顔をハンカチで拭き始めるローズ。いつもなら別にそこまでしなくてもと思う君の行動と尊敬も、今は嬉しい限りでならない。
「ありがとうローズ。……でもなんだろう、力、入れてる?」
「はい、綺麗にするためにっ」
そ、そうかい。……力、凄い入れてるな、動かし方も速い、なんか、なんか痛い、痛いってことはつまり……、こいつも反乱しているっ。
反乱は既に日常へ溶け込んでいたっ。
「あと摩擦で熱いぃぃっ」
「ふう綺麗になりました」
まさか、熱さを感じさせられるのもネームドモンスターが初だとは。君達は僕の初めてをいくつ奪えば気が済むんだ。
「熱いのか、じゃあ冷やしてやろうかの」
キキョウが俺に指を向ける。魔法の氷が出現する。
「予想通り冷た過ぎるっ」
確かに冷やすのならまた反乱しなければいけませんが。
なんだ、反乱された跡を拭くために反乱され、反乱された熱を取るために反乱され。裏切りが裏切りを呼んでいるじゃないか、一体どこの真っ黒な地下組織だ、ここはダンジョンよ。ブラックと呼ばれてはいるけどっ。
貰った氷を布で包み、おでこに当てる。はあ気持ち良い。反乱されて出された氷だから冷気がとても伝わるねえ。
それにしても熱いに加えて冷たいまで、また初めてを奪われた俺、一体これからど――。
「あるじ様がぶーっ」
「ぐあああ痛いーっ、けどこれは慣れ親しんだ痛みっ」
俺はこの痛みを知っていた。
「一体、なぜ?」
反乱できるようになる前から、俺はどうして痛みを知っている。ダンジョンマスターはダンジョンモンスターからダメージを受けないはずじゃなかったのか?
……もしかしてだが、俺の夢のダンジョンマスター生活は元から成り立っていなかったんじゃなかろうか。
毅然として彼女達に命令を下し、指示通りに動いてもらう。彼女達は俺を崇拝し、自らの階層を守るために戦う、そんなダンジョンマスター生活は。
俺は過去を思い返す。
ダメだ、悲しい過去しか見えない。
何一つ変わっていなかった。
今までと今、何一つ変わっていなかった。
……変われよっ。
どこか変わってろよっ。
裏切り可能になって実際に裏切られてて前と全然変わってないって、一番嫌だよ、悲し過ぎるだろうっ。
い、いや、一応変わっているはずだ。
なんてったって反乱したらダメージを与えられるわけだから、俺を殺せるわけだよ。そういう可能性が常につきまとうことになったんだ、状況は悪化している。
よしよし良いぞ。
反乱可能になっちまったよもう最悪って感じさ、へっへっへ。
今までは良かったなあ、安全安心だったのに。
状況が悪くなっちまったよ、こんな勲章なけりゃあ、もっと良い生活が送れてたってのに。へっへっへ。
「実際のところ反乱できずとも、不意をついて魔物の元へ転移させる、もしくは階層守護者がいないタイミングで魔物を転移させる、などで可能でしたから、同じことですね」
「……」
……。
イケてるダンジョンマスターは効果が良いよね、ネームドモンスターに対して結構な恩恵がある。良い勲章さあ、ありがとう。
『 勇者を従えし者
勇者を従えるというダンジョンマスターとして何だか良く分からないことになった者になんだか良く分からないが授けられる勲章。
・勇者のステータス上昇
・魔物生成時勇者称号確率上昇 』
勇者を従えし者は、なるほど、勇者が生成できる可能性もあるのか。……夢がある是非狙わねば。
「まあ、魔物を連れてくる面倒や連れ出す手間がなくなった分、気分次第でしてしまえるようになったのは確かですが。これからもよろしくお願いしますご主人様」
「はいっ。心機一転頑張る所存でありますっ」
「よろしい」
冷静に考えたらいつでも死ねるって怖いよね。
どっちにしろ最悪だった。考えないようにしよう、テープじゃあもう俺の心は支えられないからね。
『 魔王
ダンジョンモンスターの総数が100万を越えるか、勇者を討ち滅ぼしたダンジョンマスターに授けられる。
・全生成リスト増加
・消費P減
・取得P増
・ダンジョンモンスターステータス上昇
・全選択肢増加
・破壊した種族建物罠アイテム等が一部を除き生成リストに追加される 』
最後の勲章、魔王は、まあユキを討ち滅ぼしたわけじゃないけど手に入った。普通のダンジョンなら手に入れるのにどれだけ時間がかかるのだろう勲章。
効果もその通りに、めちゃくちゃ強い。やるねえ。
「ともかく結構良い勲章が多かったんじゃない? 消費P軽減とかもあって、建物関係を充実させたいこれからにはピッタリだ。今度はせめて、今度こそはもう吹き飛ばない建物にしたいからね」
「それについては同感です」
人間型ダンジョンマスターなのだからやはり屋敷、いや城と相場は決まっている。
巨大な城を作ったなら、いかにマキナと言えども破壊は不可能だろう。……ダメだ、吹き飛ばし甲斐が増えたぜって言ってる姿しか思い浮かばない。
凄いのを作ろう。
今のPじゃちょっとだけ足りないけど。
「あ、そうだ、一つ分からない効果があるんだけど」
気を取り直して俺はセラさんに質問。
「どれでしょうか」
「このダンジョンマスター失格ダンジョンマスターの、ネームドモンスターの心臓と魔石を交換するってやつ。良い効果なんだとは思うけど、何?」
心臓と魔石の交換。
意味としては分かるが、やって何が起こるのかが不明。押しても説明は心臓を魔石と交換するとしか出ないし、ダンジョンの知識でも浮かんでこない。
というか最近、知識の浮かびが悪いんだよなあ。
普通ダンジョンマスターってダンジョンのことについて考えれば、それに対応する知識がフワーっと浮かんでくるんだけど、なんだろう、最近かなり鈍い。
もしかして使用期限みたいなのがあるのかなあ。
それまでにたくさん考えて知識つけとかないとそれ以降分からないよ、みたいな。全然勉強時間取れなかったもんなあ、振り回されっぱなしさ。
「心臓と魔石を交換すると、通常の魔物と似た様な形態になります」
「ほう」
しかし、それならばどうしてセラは分かるのだろう。確かに生成時にダンジョン経営知識を特徴として付けたが、俺以上にはならないはずだ。……うーん、分からぬ。
「そのため、食事睡眠排泄が必要になりますし、肉体的精神的疲労が蓄積するようにもなります」
「あれ、マイナス効果?」
考えることを止めて、俺は効果の説明を受ける。
「その部分はマイナス効果ですね。しかし自身のダンジョンモンスターではないダンジョン産の魔物、例えば魔素溜まりの魔物を倒した際にも経験値を取得できるようになりますので、Lvが上昇しやすくなります」
「ほう、Lvが」
ネームドモンスターが多くて魔素溜まりが発生しまくる後遺症が根強い我がダンジョンには適した能力じゃないか。
「ええそうなりますね。またスキルも身につきやすくなりますので強くなるには良い効果でしょう。ちなみに倒された際には魔石を代替として排出しますのでドロップアイテムは変わりません」
結構良い効果のようだ。
代替品になるから魔石を見てもセクハラと言われない。それは重要。
しかしセラめっちゃ詳しいな。
やっぱり頭に浮かんでくるのかなあ。……さすがダンジョン運営知識、最高のアドバイザーだぜ。
「恐縮です」
そしてめっちゃ読んでくる。
頭に浮かんでくるんですかねえ、俺の頭に浮かんでるのが。
「また階層ボスのようなダンジョンの役割を担ったネームドモンスターは通常、倒されなければ代わりのボスが召喚されませんが、心臓を持つ場合その場から離れるだけでも召喚されるようになります」
「え、それ良いね。でもなんで?」
「疲労や眠気が溜まると休憩が必要になりますので、それをカバーするためでしょう」
「ああ、なるほど」
「倒された場合と同じくマスプロモンスターが召喚されますので、ダンジョンの制約を強く受けてしまいますし、性別や造形、性格などもなくなります。ですが、心臓を持つ場合のみ、特徴や適性がそのままとなります」
「ほうほうつまり」
「はい。特徴や適性を引き継ぐということは、それらを多く頂いた我々の代わりであるならそれなりに強い、ということになりますね」
「うちにピッタリだよねその機能、凄くいる」
階層外へ出張されてしまうと、ボスとしての役割を設定していても無効になってしまう。
倒さないと次の階層へ進めない、宝箱が開けない、ダンジョンコアやマスターにダメージを与えられない。そんなダンジョンにおける絶対的な設定が、ボスがいないというだけで消え去ってしまうわけだ。
だが、魔石を心臓に交換すれば、階層外へ出張してしまった時でも、代わりにボスがそこへ生成され派遣召喚される。もちろん無料で。
俺は、彼女達が階層外へ行くことや、ダンジョン外へ行くことを許容するわけじゃない。これからだって一生懸命止めるさ。
しかし、それはそれとして、この機能は凄く重要です。
だって止められないんだもん。誰もいなくなるんだもん。
ダンジョンで1人取り残されてしまった、侵入してくる魔物の1匹にすら勝てない哀れな俺。そんな俺の気持ちが分かるのか?
どうせ危なくなったら帰ってきてくれるんだろうなー、と思って魔物を目の前にしても余裕こいてたら全然帰ってきてくれなかった時の俺の気持ちは分かるのか?
帰ってきたと思ったら、座って応援を始められた時の俺の気持ちが分かるのか? 手で大きくバツを作ってもマルが返ってくるんだぜ?
頑張ったよ俺は、負けたけどさ。
つまりこれをすることによって、そんな悲しい毎日が消えるというわけさっ。
「それと、これもこのダンジョンだけのメリットですが、満腹感を得られますので食費にかかるP消費が少なくなります」
「しよう。絶対しよう」
俺は心に誓った。
「心臓に交換反対ー、反対だー、認めねえーっ」
「ワタシも反対だー。満腹を奪うなー」
「はんたーいっ、食べたーい」
しかし反対運動が起こる。
「節約は必要でしょうね」
「私は主様に従います」
賛成は2人。
「……飴があれば良い」
「どっちにしろそこまで食わんからわっちは構わん」
どちらでも良い派が2人。
「くっ、数の上で負けている。だが俺はダンジョンマスター。説得ならお手のものさっ、任せてくれセラっ」
「行ってらっしゃいませ」
俺は反対派の3人の前に出た。これからのダンジョンマスター生全ての命運がかかっているのだ、俺のこの決意と覚悟を見ては、誰も文句など言えるはずがないっ。
「あん? こらぁ、やんのか?」
「何をしようとしているのか分かってやっているのか? 舐めてるのか?」
「あるじ様ー食べるよー食べ切るよー」
……。
もちろん予想済みさ。だが、ダンジョンマスターの説得術を舐めるなよっ?
「き、聞くんだ皆の衆、こういう諺を俺の配下なら知っているだろう、空腹は最高のスパイス、と」
「しゃらくせえっ」
「消え失せろ」
「がぶーっ」
……。
「……ただいま」
「お帰りなさいませご主人様」
「……よろしくお願いします」
「行って参ります」
「行ってらっしゃーい」
……。
5分後。
「なるほど、空腹は最高のスパイスね、良い言葉だぜ」
「全くだ、昔の人は良い事を言う」
「お腹一杯って幸せー」
……俺とセラで一体何が違うんだっ。
「ともかくこれで食費にかかるPを抑えられるし、マキナのLvも皆のLvも上がるようになるだろう。そして俺もようやく怯える毎日から解放される」
それぞれの階層に巨大な魔素溜まりを作って置いたら、みんなも階層外へ出る頻度が下がるだろうし。
俺のダンジョンマスター生活は順風満帆間違い無し。
「では、いけーいっ」
『ネームドモンスター、個体名マキナ、セラ、オルテ、ローズ、キキョウ、ニル、ユキ、の魔石を心臓に変換します。よろしいですか?』
「オッケー」
「お、なんかドクドク言ってんぜ」
「慣れ親しんだ心音だな。まあ無くなってもしばらく気付かなかったが」
俺の夢のあるダンジョンマスター生活は、まだ始まったばかり。
「これできたるダンジョンバトルでもLv上げが出来ますね」
「ん? ダンジョンバトルがどーしたって?」
『ダンジョンバトルが申し込まれました』
「え?」
『ダンジョンバトルが開催されました』
「マジで?」
『ダンジョンバトルが申し込まれました』
「あれ、さっき聞いたよ?」
『ダンジョンバトルが開催されました』
「聞いたって」
なり続ける音声。
『ダンジョンバトルが申し込まれました』
全くもって止まる気配がない。
「セラさーんこれってどういうこと?」
『ダンジョンバトルが開催されました』
「バグかなあ?」
「いえ、複数のダンジョンから同時にダンジョンバトルを申し込まれた、ということです。勲章の効果でダンジョンの情報が知れ渡ってしまいましたから、挑んでくるダンジョンは多いでしょう」
『ダンジョンバトルが申し込まれました』
「ええっとつまり?」
『ダンジョンバトルが開催されました』
「Pの稼ぎ時ということですね」
「……」
『ダンジョンバトルが申し込まれました』
「他のダンジョン産の魔物を倒してもLvは上がりません、しかし心臓になっていれば他ダンジョン産の魔物を倒せば倒す程Lvは上がります」
「ま、まさかそのために。いやというか疲れるんじゃないの? 心臓になったら」
「全員回復魔法を高いレベルで覚えていますから疲労は有り得ません。……それに、我々を疲弊させるほど上位のダンジョンが30階層魔物7体居城なし残り27Pというダンジョンを狙ってわざわざ挑んでくるとも思いません」
なんだその凄く悲しい情報は、本当にここのことか?
俺はPと周囲を見てみる、どうやらここのことのようだ。
「さあ皆さん、Pの稼ぎ時ですよ」
「ええ……」
『ダンジョンバトルが開催されました』
「おしゃあーやったるぜー。ま、その前に腹ごしらえだな」
「そうですね」
「……ケーキ大盛り。ホールで5個」
「おい知っていたかキキョウ、ニル。カツ丼のカツは勝つという意味だ、こんなに相応しいものはない、美味だっ」
「言語翻訳があるわっちに偉そうに語るのうローズ。おい、おいニルや、それはわっちのじゃ、勝手に食うでないっ」
「美味しいのにーキキョウ意地悪もぐもぐ。じゃあローズの食べるあーむ。んー、美味しいー」
「はううぅー、幸せ」
……。
『ダンジョンバトルが申し込まれました』
……。
……。
『ダンジョンバトルが開催されました』
「えーっと皆さん? もう開催されてるんですけど」
「「「「「「「おかわり」」」」」」」
「……はい」
お読み頂きありがとうございます。
投稿日、11月19日でタイトルの変更を行いました。
おそらくこれからも色々タイトルを変更していくことがあると思いますが、悪逆非道?のダンジョンマスターの部分は変わりませんので、これからも悪逆非道のダンジョンマスターをよろしくお願いします。
それにしても1話が長い。
勲章があったりステータスがあったりするとストーリー部分が少なくなるので、ちょっと文字数多めに、と考えているんですが、1万文字越え……。
どうでしょう、読みやすいでしょうか。ほのぼのした作品らしく気軽に読めますでしょうか。
質問や感想、またお待ちしております。
これからもどうぞよろしくお願いします。




