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第24話 28階層の守護者、セラ。

悪逆非道のダンジョンマスター格言その6

油断も慢心もすることなかれ、我々は必ず見たこともないような脅威に破れるのだから。

 どの国においても、どの星においても、そしてどの世界においても、格差は存在する。


 格差とは身分や経済。

 それから頭の良さ、足の速さ、顔の良さ、などなど。

 格差は多用な形に姿を変えて、誰しもに深く深く関わる。


 生まれながらの問題も、もちろんあるだろう。自分ではどうしようもない問題が。

 思わず呪ってしまうことも、もちろんあるだろう。自分ではどうしようもないことだ。


 格差があることで、この世には様々な問題が生じた。

 様々な不幸も生まれた。


 しかし、格差があることで、この世は様々な問題を解決した。


 身分格差が無く、誰しもが平等な世界であれば、一丸となって何かを成し遂げることもできなくなる。

 経済格差が無く、誰しもが平等な世界であれば、新たな何かを生みだすこともできなくなる。


 家族単位のグループしか構成できなければ、裸同然のまま暮らしていくしかなければ、一体今頃どうなっていたのか。

 魔物に劣る弱い人種は、きっと、とうの昔に全滅していたことだろう。


 人間種も亜人種も、格差があることによって生き延びた、と言っても過言ではない。


 個々人の幸福や不幸は、格差によって歪められてきたのかもしれない。希望も絶望も、格差がなければ、また違った結果になっていたのかもしれない。

 だから、格差が個人にとって正しいかどうかは分からない。しかし、種族自体が絶滅してしまうという、生物として避けなくてはいけないことを避けるために、格差は絶対に必要なものだった。


 だからこそ、格差はどの国においても、どの星においても、そしてどの世界においても存在する。

 個々の問題を無視してでも、必ず。

 人は有象無象となっても生きていけるほど強くないのだから。


 しかし、そんな格差は、魔物の中にも存在している。


 有象無象となれば生きていけない、弱い魔物にだけではない。

 有象無象となり、単体でいたとしても、これ以上成長することがなくても、それでも生きていけるほど強い魔物の中にもだ。


 それはなぜか。

 理由は単純。

 魔物の世界では、強い者こそが上だからである。


 他の事情は一切関係がない、強ければ何もかもが上になる。

 頭が良いからなんなのだ、足が速いからなんなのだ、顔が良いからなんなのだ。魔物の格差は至極単純、身分があるなら身分格差で、経済があるなら経済格差で、強い者が上に立つ。 

 魔物達はそうやって様々な問題を解決する。


 だからきっと、格差とは、生物にとって切り離せないものなのだ。

 何かの指標をなくしても、そこにはまた別の指標が生まれる。格差を無くすのなら、他者との関わりを一切、失くさなければならない。

 味方も敵もいない世界、友人も仲間もいない世界、そんなのはさすがに、誰もがごめんこうむるだろう。


 格差はやはり多用な形に姿を変えて、誰しもに深く深く関わる。


 しかしそうなると、例えば、違う種族同士の格差はどうなるのか。


 人間と亜人。

 魔物においても、別種の魔物同士。

 そして人と魔物。

 それらの格差はどうなるのだろう。


 人と亜人は似ている。その姿形だけでなく、生活の仕方も考え方も。

 個人個人に意見を聞くなら、考え方が全く違う者や、考え方を理解すらできない者もいるだろう。しかし、外側から見れば個人個人の考えに大差はなく、種族としての考えを比べてみても、やはり大差ない。


 したがって、人と亜人が関わる際の格差は、同種族に用いられるものと変わらない、そう言える。

 種族格差、というものもまた加味されるようになるのだろうが、指標が1つ増えただけのこと。結局は、同種族で使っていた格差とそう変わるものでもない。

 身分が高い者が上で、経済力のある者が上で、


 生活様式が近いため、人と亜人の中においてはいつでもどこでも、ほぼ同様の格差社会が広がっている。

 だから、人間と亜人が関わる際、格差とは通常通りのものを示す。


 では、別種の魔物同士の格差はどうだろうか。

 こちらもやはり、魔物、という括りで同じであるため、同種族の魔物同士と同様の格差が用いられる。至極単純に強い者がやはり上である。

 特に、別種であるならそれは間違いなく敵同士。格差と言って良いのか分からないが、弱い方が死ぬに違いない。


 例外は、共生の関係くらいだ。

 魔物同士においても、殺し合わない、共生する種族は、その間でのみ、強さが格差にはならない。

 お互いがお互いのメリット分だけ相手に尽くす関係が共生。その関係はまるで歯車のようにピッチリと合っている。

 そのため、共生の場合はその魔物同士が同じ種族である、と考えても良いだろう。どちらが欠けてもなりたたないのだから、そこには強さ以外の格差すら存在しないが、不思議はない。


 つまり結局、例外を除けば、違う種族の魔物同士でも、通常通り、強さが格差として用いられる。


 では、人と魔物はどうだろう。

 どんな格差が用いられるのだろうか、そもそも格差は存在するのだろうか。


 そもそも、格差が姿を見せるのはどういう場合か。

 身分格差が姿を見せるのは、身分が関わる事柄で、他者と関係した際のことである。

 経済格差が姿を見せるのは、経済力が関わる事柄で、他者と関係した際のことである。

 つまり、格差が姿を見せるのは、その格差が関わる事柄で、他者と関係した際のことである。


 それを踏まえて、人と魔物の格差を考える。 

 格差は関わる事柄でしか現れない、だから両者に一体どんな格差が現われるのかは、どんな関わり方をするのかで計ることができる。


 そんなもの、ただ1つだ。

 人と魔物の関わり方は、ほぼ全ての場合においてたった1つしか存在しない。


 戦い。

 生存競争と呼ばれる戦いでしか、人と魔物は関わらない。


 ならば、現われる格差とはすなわち、強さの1点のみである。


 身分格差も経済格差も、人同士で競うもの。

 魔物と争う際に、それらが関与したとしても、それはやはり人間同士によるもので、命令系統も質の良い装備を整えられるかどうかも、全ては人間同士の格差の違い。


 人と魔物における格差は、その強さしか存在しない。

 ――だから。


「ぐあああ」

 そんな叫び声が響く。


「もう無理だ、ローズ、もう無理なんだ、主様はもう無理よー」

 俺の叫びだ。

「いえ、まだまだ行けます。限界を越えることが特訓なのですっ」

「ダンジョンマスターは限界を越えられないの、ぎゃああああーっ」


 人と魔物の格差は、強さしか存在しない、だから、だからなんなんだろう。


 もう2日だ。

 オルテが朝早く帰還してから、ローズ特別コースはスタートした。地獄の、地獄の幕開けさあ。

 1日中、訓練訓練訓練訓練。

 ダンジョンマスターは疲れない、体力は減らない。けど、なんだろうな、魂が減ってるんだよ。


 俺は、87日目を自分が生きているのか死んでいるのかすらも分からないまま過ごし、泥のように眠った。


 そして、ダンジョンマスター生活88日目、つまり今日もまた朝早くから、ローズ特別コースはスタートした。地獄の、地獄の幕開けさあ。

 1日中、訓練訓練訓練訓練。

 俺は、自分がまだ生きていることを実感しながら、しかし死と隣り合わせにいることを実感しながら、特訓を受けている。

 辺りが暗くなっても終わらない、そんな辛い辛い訓練を。


「特別コースの工程はまだ、178ある内の1つ目すら終わっていません、しかし私は決して諦めません、主様が諦めない限りっ」

「俺は諦めてるっ、諦めてるよっ」

「私の主様は、決っして諦めぬお方ですっ、いざっ」

 貴様は、一体俺のどこを見てきたんだっ。


 いや、見てきたからこそ、か……。


 確かに、俺は諦めの悪い男だ。ネームドモンスターである彼女達6人が、守護する階層以外や、ダンジョン外で魔物や人を倒す行為を、何度も止めようと奮闘した。

 止められたことなど一度もないが、今もなお、止めたいと思う気持ちに陰りはなく、誰かが飛び出そうとすれば、俺は身の安全も省みず戦うだろう。

 

 そう、俺は諦めたことなんざ、一度もない。


 そうか、それを見ていたのか。

 ローズよ……。


 だったら君っ、殺戮を止めなさいよっ。見ていたなら、俺の頑張りを見ていたなら、なぜやめてくれなかったんだ……。


「おっと、竜因魔法の効果がそろそろ切れそうですね。マキナ、もう一度」

「あいよー」

「さあ、これでダメージも、まだまだ通りますよっ」

「ああああああーっ」


 俺達はダンジョンマスターとダンジョンモンスターの関係。

 戦い合う関係でない以上、強さが格差にはならない。

 人と魔物のような関係には、決してならないのだ。


 どちらかと言うと、共生のような関係に近いと思う。しかし通常の共生ではない、俺は創造主、絶対的に上の存在なのだ。

 身分が、ここにはある。


 まるで人同士の関係のように、ここにあるのは身分格差だ。

「あああっ、ぐあああっ、うぎゃあああーっ」

 なのにどうして……。

 ダメだ……殺される……。


「主殿、主殿」

「キ、キキョウ……」

 た、助けに来てくれたのかい?

「読んどった雑誌の続きがないぞ、早う」

 うううう……。


「あるじ様、あるじ様ー」

「ニ、ニル……」

 た、助けに来てくれたのかい?

「冷蔵庫の中身がないよ、早くー」

 うううう……。


 俺は本と食料を生成し、それを固く握り締めて立ち上がる。

 その顔はきっと、人間らしい、悪意に満ちた顔をしていることだろう。


「これが、これが、欲しければキキョウ、ニルよ。共に戦うのです、ふふふ、ローズよ卑怯とは言うまにね、これがダンジョンマスターの戦いさ。ダンジョンマスターの強さとは、すなわちそのダンジョンの強さ。見よこの戦力格――」

「おおこれじゃこれじゃ、ではの」

「わーい美味しそー」

 喋り終える前に、もう、俺の手元には何も残っていなかった。

「差を……」


 ……。


「……主様、休憩にしますか?」

 肩に置かれた手と優しさが、心に染みる……。


「ううん頑張るぅ」

 俺は崩れ落ちた膝に力を込めて、俺は立ち上がる。

「いつか、あの2人にも、俺が強いのだと言うことを教え込んでやる。そう、魔物の世界では、強い者こそ正義、頂点に君臨する存在なのだっ」

「その意気です主様っ」

 俺は諦めの悪い男。


 今日も今日とて全力で、どうにもならないことに挑み続ける。

「ぎゃあああああーっ」

 挑み続け――。

「あああああああーっ」

 挑み――。

「じゅああああーっ」

 い――。

「でゅうううううーっ」

 ダメよ、ローズ、もう限界よ。

 お前は、でゅううー、って叫ぶやつ見たことあるのかい?


「うるさいですよご主人様」

「セ、セラさん」

 セラ、ついに帰還。


『 名前:セラ

  種別:ネームドモンスター

  種族:吸血鬼公爵

  性別:女

  人間換算年齢:22

  Lv:38

  人間換算ステータスLv:303

  職業:ダンジョン最終ボス代理兼メイド

  称号:ダンジョンマスターのパートナー

  固有能力:真祖返り ・吸血鬼の特性を趣向の範囲に収められる。

      :完全無欠の奉仕術 ・一つの欠けもないメイド奉仕が可能になる。

      :血脈掌握 ・支配下に置いた血液と同種系の血液を魅了する。

      :死灰の波紋 ・支配干渉した生物から支配干渉を広げる。

      :石化の魔眼 ・左、視界内の対象を石化する。

      :ダンジョンの知識 ・ダンジョンについての知識を得る。ダンジョンについての権限を得る。

  種族特性:吸血 ・吸血した相手を支配し変貌させることができる。

      :闇の支配者 ・夜にステータス上昇、太陽が出ている間ステータス低下。

      :公爵の威厳 ・誰の支配下にもない侯爵以下の吸血鬼と、侯爵以下の支配下の吸血鬼を支配する。

      :蝙蝠分裂 ・蝙蝠に化けられる。数は自由、化けている最中はステータス低下。

      :吸血鬼の蘇生力 ・損傷や欠損を再生する。夜に近いほど効果向上。

      :魅了の魔眼 ・目が合った者を虜にする。

  特殊技能:ライフドレイン ・体力を干渉の度に吸収する。

      :マナドレイン ・魔力を干渉の度に吸収する。

      :フォールサイト ・未来の事象を予見する。

      :スピリットドレイン ・恐怖を与えた者から精神体能力を吸収する。

      :メルトダウン ・自身を見た者を魅了状態にする。

  存在コスト:4500

  再生P:30000P 』


 情報収集に行ってくる、と陽が沈みかけた頃出かけ、やっとこさ戻ってきたのだ。

 そうか、もうそんな時間かい。

 そりゃあ、でゅうう、も出るよ、出ちゃうよでゅううも。

 お帰りなさい。


 しかし情報収集か。

 一体全体、その強い力で何をしてきたんだろう。


「そんな叫び声はもう、聞き飽きましたよ」

「君達が叫ばすからじゃないか。というかずっと聞いてたのかい?」

 なら助けてくれよ……。


「いえ、私が聞いていた叫び声は、ご主人様のものではありませんでしたので。ただ、今日はもう聞き飽きましたね」

 そうか、それなら助けられないね。

 俺以外の叫び声かあ……。

 一体全体、その強い力で何をしてきたんだろう。


「貴女、情報を聞きに行くだけとか言ってなかったっけ?」

「そうですが?」

 キョトンとした顔のセラ。

 あれ、俺が間違っているのか? 情報を聞きに行くだけで、叫び声を聞き飽きるものなのか?


 教えてくれ、異世界の常識っ。


「その様子だと、上手くいったようだな吸血鬼」

「ええ、これで明日、軍は29階層へ攻め込みます。予定通りに奴隷を前面に押し出して。勝利はほぼ確定と言えるでしょう」

「ふん。我々が戦うのだからな、当然だ」

「明日の、侵入者の驚愕に滲む表情が楽しみですね」


 セラとローズの会話が始まる、2人の会話はそこそこ珍しい。相性悪いからね。

 仲良くしてくれるのならこんなにも嬉しいことはないのだが、俺には今、それよりも大事なことがある。それを考えなきゃいけないんだ。

 俺は意識を集中させ、その答えを導き出す。


 うん、情報を聞きに行くだけで、叫び声は聞き飽きません。


 一体全体、その強い力で何をしてきたんだろうか、それを俺が聞くことはない。

「では詳しく説明しましょう」

「やめてっ、絶対に聞きたくないっ。ローズ、ローズ早く再開するんだっ行くぞーっ」

「なんと見事なやる気。ご所望に応え、この不肖ローズ、全力全開で鍛えてみせます」


 俺は地獄から逃れるため、地獄に逃げ込む。

 なんてこったい、ここは地獄だったのか。

 ダンジョンは、ダンジョンマスターにとって家であり、領地であり、安住の地であるはずなのに。

 ネームドモンスターは、ダンジョンマスターにとって仲間であり、相棒であり、安住を与えてくれる存在であるはずなのに。


 槍が俺に向かって迫る。

 その速度は、目で捉えることなど不可能。

 ドス、ドス、ドゴオ、とそんな音だけが俺の体に響く。

 槍はもちろん刃の方ではない。たまに刃の方だが、基本的には石突の方。まあどっちにしてもヤバイよね。


 というかあれだ、訓練開始1日目から、特別コース2日目の今日まで、ずっと槍は目に映らない。

 成長している感がゼロ。

 再度繰り出される槍、もちろん目には映らない。ダンジョンマスターは成長しないのだから、1度見えなかったものが、見えるようになるはずもなく、ただただ顔面に思い切り重い一撃を食らった。


「ぐべらあああっ」

 俺は倒れる。


「さあ、まだまだですよ主様。特別コース178の工程の内の、1つ目の一章すら終わっていないのですから。早く立ち上がって下さいっもう1本」

 終わる気配はゼロ。


 どこを見ても地獄だ。


 倒れ上を見ていると言うのに、景色は変わらずの地獄。ここは地獄の底だったらしい。


 だがしかし、それなら俺も覚悟が決まるというものだ。この地獄を生き抜いてやるという覚悟が。


 だがしかし、だがしかし、超辛い。


 辛いよ……。


 俺はセラさんに目線を送る。

 目が合う。

 アイコンタクトだ。

 俺達は、既に思っただけでも伝わるツーカーの中。

 完全に俺からの一方通行で、セラが何を考えているのかは分からないが、ともかく大事なのは、俺からの思いが伝わるということだ。


 汲み取ってくれる、セラならば。

 俺を、この地獄から連れだしてくれるはずだっ。

 さっきは、これよりも酷い地獄を作りだそうとしたセラだが、俺はそう信じている。


 ワイン、100Pのやつでも生成するよ。

 これをキーワードにすれば、きっと救いだしてくれるっ。


 届けこの思い。

 100Pのワインと共に届けっ。

「……はあ、仕方ありませんねえ」

 セラっ。


「ローズ、ちょっと良いですか?」

「なんだ?」


 俺の思いは、無事届いたようだ、ああ、良かった。安心したからか、全身から力が抜、俺はその場にへたり込んだ。

 へへ、情けねえ、でも、今だけは許してくれ。


「特別コース、178の工程を見させて頂きましたよローズ」

「ほう。これは自信作だ、文句のつけようもあるまい」

「確かに見事なものでした。私には到底思いつかない、将軍の名に恥じぬ訓練内容だと、正直感服致しました」

「そうだろう?」

「が、しかし。考えが甘い、としか言いようがありません」


 へたり込んだ体勢から、バタリ、と俺は全身の力を抜き、大地に五体を全てくっつける。

 ああ、周りの音もなんだか上手く聞こえない。疲れた時って、こんな風になるんだなあ。


「……ほう。戦闘技術や戦闘指導に秀でたわけでもない貴様が言うか。それだけの大言、きちんとした理由があるのだろうな」

「ええもちろん。貴女は。ご主人様のことを何一つ分かっていません」

「主様の、ことを?」


 風が辺りを駆け巡る。こんなに心地良い風があるとは。

 やはり知識だけがあっても、経験が伴わなければ。知らないままなんだ。それを改めて知ることができた、地獄にも乾杯ってやつさ。


 はは、終わると思えば、今は全てが懐かしい……。


「ご主人様は何ですか? ダンジョンマスターです」

「そんなこと、言われずとも知っている。私を侮辱するのなら許さんぞ」

「最後まで聞きなさい。特別コース、確かに優れていました。非才の常人でも、擦り切れることなく大成できるよう、細部まで作りこまれています。だからこそ、貴女はご主人様のことを分かっていないのです」

「……、まさかっ」


 俺は目を瞑る。


 ダンジョンマスターは成長しない。決して。

 そして、マイナス要素を受け付けない。だから、眠りに落ちるなんてこともできない。

 しかし、自ら意識を切り離し、眠りに近い状態に落ちることはできる。本来の睡眠とは違うが、それがダンジョンマスターにできる唯一の睡眠。


 まさかそれが、こんなにも気持ち良いものになるとは、予想していなかったよ。

 ローズに感謝だな。


「はい。ダンジョンマスターには、肉体的疲労も、精神的疲労も、存在しないのです」

「常人ならば擦り切れる訓練も、ダンジョンマスターたる主様ならこなせる、ということか」

「これで、考えが甘い、と言った理由が分かりましたか」

「……すまなかったセラ、私のミスだ」

「構いません、我々は絶対強者と言えど、ご主人様の配下。何もミスをしないなど、到底無理なのですから」

「ああ、そうだな」


 肌を心地よく撫でてくれる風。優しい風。


「さあ、ここからは貴女の領分です。存分にどうぞ」

「感謝する。訓練工程を組み直そう、凡人でもこなせる訓練ではない、まさしく主様しかこなせぬ、主様専用の訓練に」


 夜風がこんなに心地良いものだとはねえ。

 その心地良さに、俺は身を委ね、うつらうつらとしていた。


 すると、肩を優しく叩かれ、俺はほんの少し意識を覚醒させる。


「ご主人様、ローズの説得が終わりました」


 そこには、俺の横に膝をつき、優しく微笑んでいるセラが。

 見事、大任を果たしてくれたようだ。


 俺はリストからワインを選択し、生成した。

「ありがとうセラ、これ、報酬のワインだ。大切に飲んでくれ」

「ありがたく頂きます」


「それからみんなにも、これを」

 俺はもう1つ、作っておいた物を渡す。

「これは?」


「メニューさ、一応考えておいたんだ、美味しい物が食べたいって言うから、お菓子とお酒のリストだけ作っておいた。各々食べたい物を見繕っておいてくれ」

「そうでしたか。皆も喜びます」


「戦争が終わったら、みんなで食べて、みんなで飲もう。きっと、美味しいし、楽しいぞ」

「かしこまりました。では、しばしおやすみなさいませ、ご主人様」

「ああ、おやすみ」


 俺は、眠る。

 地獄から解放され、まさに天国に昇るような心地で。

お読み下さってありがとうございます。

戦争編も残すところあと少し。一先ずのオチです。


感想、質問、評価、楽しみにしています。

忌憚なき御意見よろしくお願いします。

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