第21話 25階層の守護者、キキョウ。
悪逆非道のダンジョンマスター格言その3
殺すだけなら誰でもできる、稼ぐだけなら誰でもできる。育ててこそダンジョンであるとあいつらに教えてくれ。
攻撃するための方法は、大別すれば武器と魔法の2つ。
武器を持ち、相手を攻撃する。
魔法を使い、相手を攻撃する。
行われている戦闘の内、99%以上に、これら2つの攻撃方法が盛り込まれているだろう、そんな基本にして主流の攻撃方法。
そして、それらの攻撃方法には、特に重要な要素が2つ存在する。
距離と範囲。
近中遠、と、単複広、だ。
例えば、近中遠だが、武器の中には、剣や斧などの近距離武器に、槍や鞭などの中距離武器、そして弓や投擲器などの遠距離武器が存在しており、同武器でも適性距離の違う攻撃が存在する。
魔法の中にももちろん、近距離に対応した攻撃魔法も、中距離に対応した攻撃魔法も、遠距離に対応した攻撃魔法も存在しており、同魔法でも適性距離の違う攻撃が存在する。
また、単複広だが、武器の中にも魔法の中にも、単体への攻撃、複数への攻撃、広域への攻撃、そんな様々な範囲に対しての攻撃が存在する。
これが距離と範囲。
攻撃方法における要素は、斬撃打撃、属性、状態異常、等々、数え切れないほどあるものの、いつでも関係のある特に重要で考えるべき要素は、距離と範囲、この2つ。
自分がどの武器でいくのか、どの技を中心に鍛えるのか。
自分がどの魔法でいくのか、どの技を中心に鍛えるのか。
攻撃方法の選択は、人の一生においても、魔物の系譜においても、とても大事な選択である。
とは言えその選択も、一人前、と認められる技術を持つようになった者達からすれば、あまり意味を持たなくなる。
なぜなら、それら攻撃方法の本質的な強さは変わらないからだ。
剣VS弓、近距離魔法VS遠距離魔法、単体攻撃VS広域攻撃、そんな、勝負が成り立つのかどうかすら不安な絵面の勝負ですら、数多く、様々な状況において行えば、勝率や戦功はほぼ互角になる。
本質的な強さが変わらないとはそういうこと。
つまり、どんな武器でもどんな魔法でも、要は、状況に即しているかどうかが、強いか弱いかの違いなのであって、剣が弱い、弓が弱い、近距離魔法と遠距離魔法が戦えば、確実に遠距離魔法が勝つ、などと言ったことはないのだ。
したがって、一人前の者にとっては、状況や、相手に応じた取捨選択こそ重要であるものの、距離や範囲の選択は、それだけで自分の人生や魔物生を決める大事な選択には、なり得ない。
属性などを追求する方が、よほど有意義なくらいだろう。
武器や魔法の選択は己の性格や適性、求められている物や求めている物と相談して決めたら良い、その程度である。
だが、一人前以下の者達にとって、距離は全く別の事情があり、とてつもなく重要である。
そして、一人前以上の者達にとって、範囲は全く別の事情があり、とてつもなく重要である。
一人前以下の者達にとって、距離とは、使い易さに大きく関係する。
武器の内、最も使い易い武器は、近距離用の、剣や斧、槌など。
そこから中、遠と、武器の適性距離が、遠くに離れるに連れ、使い易さは落ちていく。
剣を持つ者と弓を持つ者に、同じ実力を発揮せよ、と言っても、初心者には無理な相談だ。
魔法の内、最も使い易い魔法は、遠距離用の、遠くまで届く魔法。
そこから中、近と、魔法の適性距離が、近くに近づくに連れ、使い易さは落ちていく。
近距離をメインで戦う者に、遠距離で戦う者と同じ実力を発揮せよ、と言っても、初心者には無理な相談だ。
熟練していけば、使い易さは変わらなくなり、実力は迫り、いつかは並ぶ。それ以降は、変わらない。
一人前になってから、例えば別の武器に乗り換えても、戦い方が分かっているため、初めからある程度使いこなせるのだが、そうなる前の未熟な者達にとっては死活問題。
剣と弓で戦えば、必ず剣が勝つ。例え戦闘開始時、距離が大きく離れていようとも。
魔法同士で戦えば、遠距離メインの者が勝つ。例え戦闘開始時、距離が触れ合えるほど近くとも。
そのため、攻撃距離の選択はとても重要だ。
弱ければ、死んでしまう世界なのだから、使い辛く、強くなり辛い距離でなど、戦いたいはずがない。
パーティーの編成上の問題で、全員を剣にするわけにはいかないと、1人に弓を持たせたら、決まってその1人が最初に戦死する。ネタにもされるほどによくある話。
近距離魔法も同様で、近距離魔法の出番も必ずあるが、しかし、最も弱く、最初に死ぬのは、その者だろう。
一人前以下の者にとっては、戦いの上でもパーティーを組む上でも、攻撃距離の選択は生き死にに関わる重要な選択である。
ゆえに、距離はとてつもなく重要なのだ。
そして一人前以上の実力者達にとって、範囲とは、威力に大きく関係する。
武器の内、最も威力の高い攻撃は、単体への攻撃である。
そこから複数、広域と、武器攻撃の範囲を広げれば広げるほど、威力は落ちていく。
単体と広域で、同じ威力を出せ、と言っても、熟練者には無理な相談だ。
魔法の内、最も威力の高い攻撃は、広域への攻撃である。
そこから複数、単体と、魔法攻撃の範囲を狭めれば狭めるほど、威力は落ちていく。
広域と単体で、同じ威力を出せ、と言っても、熟練者には無理な相談だ。
初心者から一人前まで、威力とは、どれだけ力を込めて攻撃するか、どれだけ魔力を込めて攻撃するか、それだけの問題だった。
しかし一人前を越えると、いくら力を込めようが、いくら魔力を込めようが、武器においては単体の威力を、魔法においては広域への威力を、越えることはおろか、追随することすらできなくなる。
戦いがシビアになっていく中で、威力の大小や、効率は非常に重要なものだ。
熟練するに連れ、以降もどんどん差が開いていくそれらの威力は、実力者達にとって死活問題。
そのため、攻撃範囲の選択はとても重要だ。
強くても、死んでしまう世界なのだから、威力が弱く、役にたち辛い範囲でなど、戦いたいはずがない。
パーティーの編成上の問題で、全員を単体対象にするわけにはいかないと、1人に広域対象を鍛えさせたら、決まってその1人が最初に戦死する。ネタにもされないほどによくある話。
単体魔法も同様で、単体魔法の出番も必ずあるが、しかし、最も弱く、最初に死ぬのは、その者だろう。
一人前以上の者にとっては、戦いの上でもパーティーを組む上でも、攻撃範囲の選択は生き死にに関わる重要な選択である。
ゆえに範囲はとてつもなく重要なのだ。
ただ、もちろん、それらの違いは、神が悪ふざけで作ったような、悪いことではない。
使い易い武器や魔法がある、ということは、戦い始めたばかりの者でもそれなりに戦えるようになる、ということだ。
どの武器も遠距離のように使い辛ければ、どの魔法も近距離のように使い辛ければ、冒険者として生きるにも、兵士として生きるにも、多くの時間がかかり、多くの命が失われてしまうだろう。
威力を出せる攻撃の種類が違う、ということも、高い次元の戦いを行う者は、より高い次元の戦いを行えるようになる、ということだ。
どの範囲の攻撃の威力も変わらないのなら、何かをしても無駄なときには、何をやっても無駄になり、実力に少し差があっただけで、絶望的な結果を生んでしまうのだろう。
違うからこそ、世界は上手く回るのだ。
それら違いは、むしろとても良いことである。
この場にいるおよそ400名の軍勢も、使い易い武器や魔法と、威力の上がる攻撃範囲の恩恵をきちんと受けている。
市民からなる義勇兵や、奴隷からなる奴隷兵は、近距離用の武器を持ち、遠距離用の魔法を覚え、騎士達からなる軍隊は、武器による単体攻撃と、魔法による範囲攻撃を鍛えている。
また、それらの逆を持ち、覚え、鍛えた者達もおり、その体勢はまさに万全と言えるだろう。
しかし、そう、彼等は考えていない。
もちろん、それ自体を知らない者もいるかもしれない。だが、知識として知っている者も、考えてすらいない。
誰もが、自分が授かった力を、自分だけの力だと思い込む。
誰もが、自分達の国が持つ力を、自分達の国だけの力だと思い込む。
誰もが、自分達の種族ができる力を、自分達の種族だけの力だと思い込む。
魔法攻撃は、攻撃範囲を拡大すればするほど威力が上昇する、という事実に対して、誰も考え及んでいなかった。
「――、なんだ、この魔力の高まりは……」
「……、防御、……防御だ、防御を、防御を固めろーっ、早くっ」
400名を包みこむように、巨大な土の爆撃が襲った。
一瞬、夜になってしまったかと見間違えるほどの景色の変貌が起こり、地形を変えてしまうほどの超重量が、凄まじい音を立てて、400名に降り注いだのだ。
「ふむ、きちんと守ったか、遅かったから倒してしまったかと心配したではないか」
その場に、ほんの少しだけ楽しみを乗せた声が響く。
土や石がパラパラと、400名の内の何名かが作りあげた巨大な盾から崩れ落ち、魔法特有の残光を残しながら消え去っていく。
降り注いだ石も、防いだ盾も、そして残光が消え去り、衝撃で巻き起こった土煙が、誰かの魔法でスッキリ晴れ、侵入者達は何が起こったのかを確認し合う。
被害は、軽微だった。
400名の隊列であるため、使用した盾の魔法が届ききらなかった部分があり、隅の3,4名は死んでしまったものの、被害はそれだけ。
その近くでは、隣の者が死んでしまったショックや、潰れた手足の痛みで叫ぶ声が聞こえるが、騎士達の中に犠牲者はおらず、戦力的には何も変わらない。
損害は軽微である。
だが、見渡しても、ホッっとしている者はどこにもいない。
今の今で、彼等はようやく理解した。ようやくそこまで考えが及んだのだ。
攻撃方法とはすなわち、自分達だけのものではなく、相手の攻撃方法であることを。
そして魔物が、人間や亜人と比べて、強力な力を有していることも。
「もう一度じゃぞ、次もしっかり耐えよ」
400名を包みこむような、今度は巨大な雷撃。
先ほどとは違う、重量ではない恐怖の音を立て、それは400名を襲った。
「ふむ、今度は全員無事なようじゃな。中々の練度、お見事じゃ」
激しい衝突が終わると、また、声がその場に聞こえる。
もちろん、魔物の方が強力な力を有しているとは言っても、上位の魔物に限られるし、そんな上位の魔物と同じくらいの力を持つ人も、それをさらに越える強い力を持つ人もいる。
特に勇者や英雄といった者達は、単騎で災害にも等しい上級竜を倒し得る、最強の実力を有しているのだ。
魔物の方が人より強い、この方程式は必ずしも当てはまるというわけではない。
今の場にも、当てはまらないだろう。
ただし、400名の内、何十名かにのみ。
400名の内、騎士達は100名程。戦い慣れた者はその内70名程。同じ位に戦い慣れた者が、義勇兵や奴隷兵の中に数名いるものの、80名には届かない。だから今戦える者はそれだけだ。
他の者は理解した。
心の底から理解した。
ここでの。戦場での自分の命は、誰かが守ってくれるのをやめた、その瞬間に潰えることを。
そう、強力な魔物が、広域への攻撃魔法を放つ戦場では、弱い者の命なんぞ数に入らない。どうせ他の強者を倒すために強くした一撃で、まとめて死ぬのだから。
そこにいる魔物はキキョウ。
固有能力、魔道を極めし者により、魔法をさらに効果的なものとし、大規模な魔法の威力をさらに向上させることができる、ダンジョン内で唯一、広域攻撃魔法を主体に戦う者である。
2度の大規模攻撃により、そこにいる大半が、正しく自分の死に方を理解した。自分の死に何の意味もないことを理解してしまった。
ただし――。
「行くぞーっ、もう魔法を撃たせるなーっ」
「相手は一体だ、隙を与えなければ必ず勝てるっ」
一部の猛者にはそれが希望にも見えた。
強大な全体攻撃魔法から、1人でも身を守れる戦闘能力に優れた者達である。
攻撃には予備動作が必要である。
武器なら振りかぶる、魔法なら詠唱。
それらは熟練の者なら、とても小さく付け入ることができるような隙ではないが、威力を極限まで高めた攻撃であるなら別である。
武器にしろ魔法にしろ、予備動作はとても大きく、行った後の反動もまた大きい。
ましてや相手は1体。
とても美しい女性の容貌と衣をまとった、1体の魔物のみ。対して自分達は400名、動ける者だけを数えたとしても80名はいる。
確かに先ほどの攻撃は強かった、しかしだからこそ、絶え間ない攻撃の合間であの威力の攻撃を行うことは不可能であり、それを経験で知っている者達が、今キキョウに襲いかかる。
「うおおおおおーっ」
「ぐああーっ」
「せああああっ」
最初に斬りかかった者達は、魔法で撃ち落とされる。後方から魔法で攻撃した者達の攻撃もまた、魔法で撃ち落とされる。
大規模な魔法攻撃はできずとも、細やかな魔法攻撃は高速戦闘の最中でも存分に使える。まるで教科書のような魔法使いの戦闘。
その洗練された技法に騎士達は思わず感嘆の声を漏らしそうになったが、しかし迎撃されること自体は予定通り。
こうしている間は大規模攻撃に移れず、また防戦一方にさせることができる。そしてこのまま行けば、必ず自分達が勝つ。そのレールに乗せることができたと、彼等は思った。
そうして激戦は進む。
一進一退。
倒れる者は出る、しかし騎士達は大きな犠牲を出すこともなく攻撃を仕掛け続け、ついに。
キキョウに剣を突き入れた。
一人前以上の者達の攻撃の内、武器での攻撃は範囲を絞る方が威力の高い攻撃となる。キキョウへ攻撃を加えられる者は、もちろん一人前以上の実力者の中においても、上位の実力者。
その者が武器で、単体へと攻撃したのだ。一撃必殺の意思を込めて。
ダメージは甚大。
そう、誰もが思った。
しかし、ダメージを受けたはずのキキョウの姿は、その瞬間に、まるで幻であったかのように掻き消える。
「……幻影……?」
攻撃を加えた者の後ろにいた指揮官が、1番早くに気付いた。幻影であることにも、その意図にも。
「攻撃が来るぞっ。防御だ、防御を固めろーっ」
続けて叫ばれた号令。
それに気づく速度は、さすがの一言に尽きる。誰しもがその恐怖を思い出し、それぞれ必死で防御を固める。
各々の強力な防御魔法。
防御魔法も攻撃魔法と同様だ、範囲を広げれば広げるほど、その防御威力は向上する。
もちろん範囲を広げるほど、威力を上げるほど、魔力の消費は大きくなるが、命には代えられない。
そうして、キキョウの攻撃が視界を覆う直前に、防御は完成した。
襲い来る、400名を包みこむ水の奔流、それは400名を包みこむ強大な盾と衝突し――、またしても、まるで幻であったかのように掻き消えた。
「幻影、だと?」
恐怖の残り香が漂う。
死んでしまうという根本的な恐怖にさらされた400名は、自分達を死に追いやる可能性のあった攻撃が、音もなく消えたその事実にホッと胸を撫で下ろした。
そしてその瞬間、ドン、と、小さな音が鳴る。
そのすぐ後、ドサ、と再び音が鳴る。
人が、倒れていた。
「え?」
先ほどの攻撃が、幻影だったことに多くの者が胸を撫で下ろしたが、撫で下ろさなかった者もいた。
それが、さらなる攻撃の予兆だと気付いた者達、つまりこの400名の中において、真の強者たる者達だ。
彼等は、次の攻撃を警戒した。
しかし、残念なことに、彼等は真の強者であり、残念なことに、彼等以外は真の強者でなかった。
キキョウの魔法を防ぐ際は、複数人で行う大規模な防御を行わなければいけない。
1人でも可能だが、急ごしらえの魔法で防御するには、魔力の消費が大きいからだ。
しかし、範囲の大きな魔法威力を向上させることができるのは、一人前以上に位置する者達だけ。そこに達する者が、果たしてこの中に何人いるのか。
そんな少人数で何度も何度も防いで、余力が残るのか。
彼等は真の強者だ、だからこそ、毎度誰よりも大きな防御を発動させ、誰よりも攻撃に参加し、奥深くまで食い込み、今回も誰よりも大きく強い防御を構築した。
彼等以外の、真の強者ではない者達を守るために。
だからこそ、真の強者たる彼等は、自らを守れなかった。
彼等は、彼等にしか防げない、広範囲の強大な魔法を警戒しており、極小範囲の威力が上がり辛い魔法を、全くと言って言いほど警戒していなかった。
そんな攻撃を警戒するのは、真の強者よりも劣る者達の務めであったのだから。
しかしその者達は、恐怖の残り香に惑わされ、自分を守ってくれた誰かを守ることを忘れ、自らの命のみを守った。
だからこそ、真の強者たる彼等を、守ってくれる者はいなかった。
武器や魔法の使い易さが違うのは、悪いことではない。
むしろそれは良いことだ。
武器や魔法の攻撃範囲毎の威力が違うのは、悪いことではない。
むしろそれは良いことだ。
だが、それを誰も理解していなかった。
良いこと、というのは、誰かと誰かの戦いにおいて、必ず相対する者にとっての、悪いことであるということを。
強者に対して、自らの刃が届きうるという最良の法則は、自らの命を奪うという最悪の法則になった。
倒れ伏した数名。
それを呆気に取られたように見る数十名数百名。
これでもう、次の攻撃がくればキキョウの攻撃は防げない。
さっきまで防いでくれた者達が死んでしまったのだから。自らの命大事に守った彼等は、その手で自分の命を捨ててしまった。
「改めてじゃが、一応名乗ろうかの」
恐怖をハッキリと思いだす。
「25階層、魔道を極めし姫、キキョウと申します。良い余興になりましたじゃろ? それではまたごゆるりと。楽しんでいただくとしますかのう」
恐怖は加速し、未体験の光景を作りだす。
そこには最早、戦えるものなぞ存在しない。
「あああ、ああ、うわあああああー」
残ったのはただの恐怖。彼等が再び立ち上がるまでには、これから長い月日がかかる。
「あああ、ああ、うわあああああー」
「うるさいですよご主人様」
「だって、だってあそこは6階層じゃない。どこが25階層守護者だよ、そこは6階層だよーっ」
『 名前:キキョウ
種別:ネームドモンスター
種族:金華妖狐
性別:女
人間換算年齢:19
Lv:48
人間換算ステータスLv:250
職業:ダンジョンの研究者
称号:魔道を極めし姫
固有能力:言語翻訳 ・全言語を理解できる。
:魔道を極めし者 ・魔法を使用する際の魔力減少、魔法効果上昇、魔法成功率上昇、魔法解析力上昇。
:幻想回帰 ・解析した事象を幻想化、解析した幻想を事象化する。
:高貴なる矜持 ・回復力上昇。状態異常状態変化に耐性。
:溢れる知識 ・研究や開発に補正。
:解析眼 ・左、対象を解析、看破する。
種族特性:七命七魂 ・生命力と魔力、失われた損失を7度再生する。
:朧変化 ・人型から姿形を自在に変化させられる。狐型ならステータス変化なし。
:領域化 ・周囲の領域の所有者を自身に変えることができる。
:金妖の大過 ・敵対者のステータス減少。戦意減少。金に囚われる者に対しさらに補正。
特殊技能:マナドレイン ・魔力を干渉する度に吸収する。
:マジックバースト ・魔法効果領域を拡大する。
:クアドロマジック ・四重に魔法を重ねられる。
存在コスト:3300
再生P:18000P 』
ほらあ、ほらあ、強いんだよう。どうしてそんな低階層に行くんだ。
「低階層に行っちゃうと制限がかかるっていうのに、なんで行くんだ。嫌だろう制限かかるの、どうして、どうして……」
「普段から、低階層やダンジョン外で活動しておりますので、制限には慣れておりますし、その状態でも戦える技法を、日夜修練しておりますので」
「元の階層で戦えば制限も……いやあるだろうけど、何をしているんだ……。それってダンジョンモンスターに必要なのかね?」
「はい」
必要だったのか……。俺は知らないことばかりだ。
「今帰ったぞ、主殿、礼を言っても良いのじゃぞ」
「……ありがとうございました」
「構わん」
……。
……。
でも、でももう大丈夫さ。
なんてったって次はローズだぜ? 俺の言うことをしっかり聞いて……はくれないこともあるローズだが、6人の中では1番話を聞いてくれて、俺を尊敬してくれるローズだ。
そんなことはもうない、と言って良いだろう。
それに、役目で考えたとしても、その可能性はない。
ローズの役目は、29階層の時にはゴブリン部隊の指揮を執り足止めを行い、自分の26階層の時には自身で召喚した狼を使い、戦線を広げさせることにある。
いくら彼女達が強くても、軍がまとまった場所とかち合えば勝機は薄い。
29階層において、彼女達はボスでも何でもない上に、29階層という数字に見合わない強い種族の魔物だ。制限は非常に大きく圧し掛かる。
だからこそ、相手の軍勢を広げ一箇所一箇所を薄くしておく必要がある。
ローズは狼を使い、多方向から仕掛ける。
集団で戦う際囲まれるというのは避けたい事態。一度でもそうやっておけば周囲を警戒するため、囲まれないために軍は広く展開を始めるに違いない。
狙い通りだ。
もしその一部で激しい戦いが巻き起こったとしても、伏兵を気にさせておけば集まっても来ないだろう。
こちらが出せる戦力は決まっている、元々伏兵なんかできる兵力はないのだから、警戒させて対応させておくことがとても重要だ。
そういうわけでローズが出るのは、26階層。
あんまり早い段階から警戒させると、伏兵がいないってことがバレるかもしれないし、1番脅威を感じさせられるのは、やはり自分がボスをする階層だ。
その強さを以て、存分に無駄な警戒をさせてやるぜ。
「頼んだぞローズ」
「お任せ下さい主様、この不肖ローズ必ずやご期待以上の戦果を挙げてみせます」
「いや期待以内で良いからね、あまり張りきり過ぎないように」
「なんとお優しいっ。流石は主様、ではお言葉に甘え明日に備えて力を溜めておきますっ」
「おう――、って待ていっ」
「どうなさいました?」
まさかこいつも明日出て行こうとしているとは。
明日じゃ、まだ絶対26階層まで入って来ないよ。
兵站もまだ来てないのに、本格的な進軍に入るわけないじゃないかっ。なぜ日替わりで襲おうとするんだっ。
「ローズ、そんな今から気張っても、ほら、遊ぼうじゃないか、一緒に遊ぼうじゃないか」
「主様――、はいっ」
俺はそれからローズと遊んだ。
その日は、鬼ごっこやキャッチボールなどの軽い運動。
鬼ごっこはスタートの瞬間に捕まえらていたので、ただ数を数えるだけだったし、キャッチボールは球が見えないくらい速いので、ただのデットボールだったが、狼形態の背中に乗せてもらって走ったのは楽しかった。木の枝ガンガン当たったけど。
そして次の日は武器を持たされ、稽古をした。
ダンジョンマスターは劣化しない代わりに成長もしないので、全く意味の無い稽古。愛の鞭って恐ろしいよね、ってのが改めて分かるスパルタにより、俺はボロボロ。
しかし――。
「あ、明日も……やろうね……」
「――はいっ、もちろんでございます。主様がこれほどに私を思って下さるとは、感激ですっ。明日は今日以上に頑張りますっ」
俺は明日の約束もした。
これで、これで、ローズは明日も戦いに行くことはない。
これを明後日、明々後日と続けてやれば、26階層に侵入者が入ってくるまで、ローズを引きとめられるはずさ。
そう、俺は知略に優れた人間種族のダンジョンマスター。
これでちゃんと、ちゃんとボスが自分の階層で戦う、普通のダンジョンに……。
「では主様、私はこれから夜襲に行って来ますが、明日に疲れを残さないよう、しっかりお休み下さい」
……。
……。
俺は、泣いた。
ついに20話になりました。
読んでいただきありがとうございます。
20話になりました。
読んでいただけてとても嬉しいです、ありがとうございます。
感想質問評価ブックマーク等、よろしくお願いします。して頂けたなら幸いです。
次話もよろしくどうぞ。




