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第17話 ネームドモンスター6人勢揃い。……あれ?

ダンジョンマスター格言その17

ダンジョンマスターであるならば、起こっている出来事から目を逸らしてはいけない。

 マキナ、セラ、オルテ、ローズ、キキョウ、ニル。


 この6人が、現在の戦力の全て。軍隊の侵攻を止める際に必要な、我がダンジョンモンスター。


 ローズ達、後発の3人を作ってから、今日で1ヶ月が経過した。

 今日から丁度、50日後に軍隊が攻めてくることになっているので、これからの50日間もこの6人のメンバーで固定。


 俺達は協力して、この苦難を乗り切ろうと日々邁進する。

 だと言うのに……。


「この馬鹿マキナ」

「だってだってー、ちょ、ちょっと手加減失敗しただけじゃんかっ」

「言い訳無用っ。そこに正座だっ」

「ううぅぅ」

「はあーえっと、消費Pが18000P。ヤバイな」

 今日この日、ローズ殺人事件が発生した。



「いやあ、でもまあ、皆が防御しなかったらコアも壊れてたな。はっはっは」

「はっはっはじゃねえよ。竜因魔法をコアの近くでぶっ放すんじゃありませんっ、どこが手加減失敗だ、これ以上ないほど全力じゃねえかっ」


 マキナとローズが家の外で組み手のようなことを始め、数分後。

 家の中にいたセラオルテキキョウが、バッと立ち上がったと思ったら、すぐさま防御魔法を展開、辺りが光に包まれた。

 青白い光。

 吹き飛ぶ築1週間の我が家、吹き飛ぶみんなのダンジョンマスター。


 一体何度目の光景だろう。天丼にしてもやり過ぎだよ?


 竜因魔法と言えど、直撃を受けなければ、ダンジョンモンスターからダンジョンマスターやコアがダメージを食らうことはない。

 しかし、家を一触れで消失させる一撃が、数秒間継続して行われるのがマキナのブレス。それは俺にも、そして最後の砦である、ふすまに守られたコアにも、直撃を食らわせるに足る一撃。


「粘るローズが悪い」

「ローズは悪くありません。反省っ」

 みんなが防御魔法を展開してくれたおかげで、俺とコアに直撃せずにすんだのだ。

 していたら、もうこの世とはおさらばだったね。


 まあしてなくても、俺はこの地とおさらばしたわけだが。


 直撃を避けられはしたものの、余波の暴風を食らい高々と上空に舞い上げられた俺は、数km飛ばされ墜落。

 セラが迎えにきてくれなければ、魔物に襲われて死んでいたよ。

 この時ばかりは、持ち場の階層を離れ、日夜殺戮を繰り返し、ダンジョン内から魔物を追放してしまった彼女達に感謝する。

 全回復して、服を着替えてきたことには目を瞑ろう。


 しかし、酷い有様だったようだ。

 家は壊滅、セラ、オルテ、キキョウの3人も瀕死の大ダメージを負ったらしい。俺は回復するまで帰れなかったので見ていないが、家の無残さは見たので、きっとそうだったのだろうと思う。

 そしてもちろん、まともに食らったローズは即死。ニルは食事。

 残ったマキナは、やべーやっちまったー、と笑っていたのだとか。


「なーなー、アタシいつまで正座ー?」

「今日1日」

「えーやだやだやだやだー暇過ぎる。暇過ぎるぞー」

 ネームドモンスターは死んでから復活まで、24時間の間を空けなくてはいけない。そのためローズ復活まであと21時間。


「じゃあ反省するまで」

「したした。スゲーしたよ」

「反省したやつは、スゲーした、とか言わないでしょ」


 ただでさえPが足りずカツカツでやりくりしていると言うのに、ここで18000Pの出費は大きすぎる。18000Pって言ったら、上級竜も生成できるんだぞ。さらに中級竜生成しても余るんだぞ。2000P足せば上級竜が2体も生成できるんだぞ。


 復活Pでこれだけかかるだなんて。

 一体どこのどいつがこんなにPをぶちこんだんだ。魔物1体に対してのP量じゃないよ。


 大元の生成Pよりも高くなりがちなユニークモンスターだって、普通は特徴を1つ、適性を2つ3つ付ける程度で生成するんだ。

 造形だって、色を変えて特殊な感じを出したりとか、その程度にしか使わないし、性格なんて命令を聞かせるための要素の一つでしかない。

 どうしてこんな……。


 「反省して下さい」

 「はい」

 俺はマキナと2人で、仲良く正座をして反省する。


 普通に生成してたら、ローズの復活は1000Pだったからなあ。18回も復活できるや。そう思うと、ダンジョンって手軽に蘇生出来すぎておかしいですよね。

「暇なんだよなー。なあなあマスター、アタシが戦ったほうがPだって早く溜まるぞ。もう良いんじゃねえか?」

「お前が戦うと周囲の魔物がまた逃げ出すんだよ。せっかく30階層にしたのに、もう魔物ほとんどいないじゃん」

「だってLv上がんねえもん」

「Lv14でも良いじゃん。強いじゃん」


「もっと上げたいんだよ、1人で軍完封できるくらい」

 どんだけだよう。


 Lvを上げるっていうのは、他者の命を奪うってことだぞ? そこら辺この子は、この子達は理解しているのだろうか。

 ダンジョンってそういうもんだし、魔物ってそういうもんだけどさあ。


 強く、そして寿命の長い竜のLvは上がり難い。

 必要とされる経験値が多いからだ。

 当然のことであり、ゆっくり上げていけばいい、と俺は思うのだが、マキナはご不満。我慢強い性格でもないし、何か考えなければいけない。さもないと――。

「もう十分強いって」

「嫌だ。Lv上げしたら駄目なら組み手する。まだキキョウとニルいるし」

 こいつにダンジョンを終わらされてしまう。



「申し訳ありません主様っ。くっ、かくなる上は我が命を以てっ、いざさらばっ」

「止めろっ、死んでもまたP消費して生き返らせるだけだっ、ローーーーゥズっ」


 あれから24時間後、ローズ復活。

 これでようやく6人揃った。揃った瞬間欠けようとするのは止めてくれローズ。


「ぬ、主様。なんとお優しい」

 ローズは俺への忠誠が強すぎる。俺に失望される=死ぬしかない、俺に迷惑をかける=死ぬしかない、という方程式が出来上がっているため、フォローが凄く大変だ。

「まあローズよ。復活に大分Pを使ってしまったから、Lv上げも兼ねて、Pを稼いできてくれ。魔物を誘導するのも得意だろ? あ、追い込むのは止めてね、誘導するだけね」

「はっ、もちろんです」


 誘導はオーケー。

 追い込みは極悪。

 これダンジョンの常識。


 結局反省してなかったマキナに、責任を取ってPを稼げ、と言ったところ、ダンジョン外で大暴れして、大量の魔物をダンジョンに逃げ込ませる、という最悪の策を取りやがった。


 セラはダンジョンのためにと自主的にPを稼ぐのだが、ダンジョン外の魔物を魅了して、ダンジョン内で屠殺するという暴挙を繰り返す。


 オルテに飴を渡して稼ぐようお願いすると、ダンジョン外の魔物に矢を打ち込み、魔力を使って力ずくで引きずり込み、殺している。


 キキョウはあの手この手で交渉した結果、マキナ同様ダンジョン外で大規模魔法を使いまくって、追い込み漁を行う。


 ニルは、ニルは……、何も分かってくれない。ダンジョン外に出ては、そこいらの魔物を食べ漁り、ご満悦の様子。


 俺の心労はエグイ。


 ちなみにローズは以前、Pを稼いで来ます、と言って、召喚した狼をダンジョン外へ放ち、魔物を咥えて持ってこさせる、という暴挙の前科がある。

 キラキラとした良い笑顔でどうですか、と聞いて来るので、俺はグーサインを出すことしかできなかったのだが、顔は引きつっていたので察してくれているはずだ。だから今回は違う。


 なにせローズはこれまでも色々なことを察してく……、察して……。


 なぜ魔物コスト制限解放なんて勲章があるんだっ。

 あれがなければみんな1階層にまで行けないから、ダンジョン外に出られなかったのにっ。


 ……ああでもあれがないと弱い魔物しか置けなかったのか。どっちみちダメだった。どうあっても地獄だった。


「そ、それでその、主様」

 キリキリするお腹を宥めていると、ローズに声をかけられた。まだ行ってなかったのか。

 しかし、なぜ顔を赤くしてモジモジしている。


「私の、その、あれは……」

「あれ?」

「あれです、あれ。魔石です。ドロップアイテムの、もしかしてご覧になられましたか?」


 ダンジョンモンスターは倒されると、ドロップアイテムを残して消える。

 ダンジョンで生成された、もしくは生まれた魔物の体内に、心臓の代わりとして必ず存在する、魔石と呼ばれる結晶。それと、種族による特徴的な部位、いずれかのアイテム。

 ドロップアイテムと言うと、その2つを指すのだが、一般的にはそのアイテムの方を指す。魔石は魔石。


 ワーフェンリルのローズが残すドロップアイテムは、爪や牙や毛だ。


「見たけど。コレ、魔石と爪。爪って言ってもローズの爪っぽくないよね、赤くもないし長くてゴツイし」

 俺は正直な感想を伝える、けれど考えてみればそれは当然。

 ワーウルフ系などのドロップアイテムとして、人型状態の爪を残されても何にも使えない。牙も爪も小さいし。なので残されるドロップアイテムは、狼化している際の牙や爪になる。

 亜人型のキキョウや人間型のニルも同様の理由から、ドロップアイテムは本来の種族の形態のものが排出されるらしい。


「は、はうぅ」

「……どうした?」

 俺がダンジョンの機能で回収していた、ローズの魔石やドロップアイテムを取り出すと、なぜか赤い顔でクネクネしだしたローズ。さっきからコイツは一体どうしたのだろう。


「ま、魔石、魔石は……」

「魔石? ああ、綺麗だよね。赤くて透き通ってて。さすがローズの魔せ――」

「あああ主様のエッチーっ、やっぱり駄目ですっ」

 俺が魔石を太陽の光にかざしたその時、ローズは俺が持つ魔石を分捕り、俺にビンタをかます。


「あだっ、ええっ」

「魔石をそうジロジロ見られるのは、は、恥ずかしいのです。こんなものーっ」

 そしてローズ、魔石を粉砕。

「ええっ」

「……ふうー」

 驚く俺、落ち着くローズ。


『ご主人様、魔石は我々の心臓。ジロジロと見るのはセクハラです』

「セクハラなのっ?」

 驚く俺、蔑むセラ。

「ア、アイテムは?」

『本人の形態と違う物なら別物なので良いですが、同じ物ならセクハラです』

「ええ……」


『私のドロップアイテムは爪、牙、瞳に血。造形に人型設定がありますので、私の物ではありませんが、それでも気分的に、セクハラです』

「ええ……」

 ダンジョンモンスターの意外な真実が分かった、今日この頃。



 人の軍の進軍まで、あと1ヶ月を切った。

 6人となってから、もう随分長い時間が過ぎた。

 とても穏やかな日々が続く。

 しかしそんな穏やかな日々を過ごしながらも、軍への対処は着々と進んでいる。

 カメラは既に町の至るところに設置され、なぜか王都にまでその手が伸びている。なんてこったい、その一言に尽きます。そんなわけで、軍隊の受け入れ準備は、既に万端。


 6人の我が軍にかかれば、人の軍など紙くずにも等しい。

 なんてこったい、その一言にどうしても尽きる。


 しかし少し待って欲しい、そんな彼女達を俺は今、1人で相手にしているわけだ。


 マキナには、自分の階層以外で侵入者を倒さないで、というかダンジョン外にいる、侵入してない奴等を倒さないで、と言い。

 セラには、自分の階層以外で侵入者を倒さないで、というかダンジョン外にいる、侵入してない奴等を倒さないで、と言い。

 オルテには、自分の階層以外で侵入者を倒さないで、というかダンジョン外にいる、侵入してない奴等を倒さないで、と言い。


 ローズには、自分の階層以外で侵入者を倒さないで、というかダンジョン外にいる、侵入してない奴等を倒さないで、と言い。

 キキョウには、自分の階層以外で侵入者を倒さないで、というかダンジョン外にいる、侵入してない奴等を倒さないで、と言い。

 ニルには、自分の階層以外で侵入者を倒さないで、というかダンジョン外にいる、侵入してない奴等を倒さないで、と言い。


 ……。

 全員に同じ事を言っているのに、誰1人として聞きいれてくれていない。

 そんな恐ろしい現実が、今此処にある。


 侵入者を苦しめるためにと期待を込めて、我がダンジョン繁栄のためにと希望を込めて、輝かしい未来を想像しながら生成した彼女達は今、侵入者以外を苦しめるどころか、俺すら苦しめている。

 確かにダンジョンの繁栄はその方が近づくのかもしれない、しかし、しかしだ。


「ダンジョンってのはなあ、ただPを稼ぐだけのシステムじゃないんだ、心なんだよっ、ダンジョンに大事なのは心なんだっ。規律、誇り、それを守ってようやく得られるのが繁栄なんだ、それを伴わない繁栄に、一体なんの意味がある」

 俺の声は掘っ建て小屋に響き渡る。


「ねえ、コアさんや」

 俺とコアしかいない、掘っ建て小屋に……。


 いつもいつも押し入れに入れられたままで、辛かったろう、ふすまを開けておいてやるからね。

 みんなには内緒だぞ。帰ってきた時に開いてたら、赤い光がイラつく、ってダンジョンマスター怒られちゃうからね。

 みんな人間換算年齢的に、お父さんと洗濯物を別々に洗う時期だからね、思春期なのかなあ、ダンジョンマスター怒られちゃうからね。

「なんでやねーん」

 俺は1人、ツッコミを入れた。


 ともかくそんな寂しい毎日を過ごしているわけだが、彼女達とてこのダンジョンのために一生懸命頑張っているのを知っているから、元気は湧いてくる。


 刻一刻と迫る戦争、その日に向けてLv上げや研鑽に余念がない彼女達。

 確かにルールなんてなんのそのと、天上天下唯我独尊状態だが、それもこれもダンジョンが戦争を乗り切るためにしていること。


『うらあーっ、よっしゃー新技完成だぜっ。早くこねえかなあ、試してえなあ』

『なるほど軍はそう動くと。面白いですね、私の裏をかけると思ったことを、後悔させてあげましょう』

『軟い敵……、つまんない。早く硬い敵……来い来い』

『1つ倒しては主様のため、2つ倒しては主様のため。しかしまばらでは数が伸びんな、戦争はまだか』

『消え失せよ。……はあ、面倒じゃ面倒じゃ、さっさと終わらせて寝たいもんじゃの』

『いっぱい食べれるー、もうすぐいっぱい食べられるー』


 多分。


 2割くらいはそんな感じがあるはずだ。

 8割くらいが自分の欲だとかそんなんだとしても、2割くらいはきっとある。その2割を彼女達の全てだと思おう。


 戦争を乗り切るために、新技開発という壁をマキナは乗り越えたのだ。

 戦争を乗り切るために、情報の戦争というルール違反をセラは犯すのだ。

 戦争を乗り切るために、軟くつまらない敵でもオルテは倒し続けるのだ。

 戦争を乗り切るために、ローズは自らを鼓舞するのだ。

 戦争を乗り切るために、キキョウは辛い体と心を動かすのだ。

 戦争を乗り切るために、ニルは食べ続けるのだ。


 なんて凄い良い子達だ。

 彼女達こそ、最高のダンジョンモンスター、最高のネームドモンスターさ。


 すっごく可愛く見えてくるだろう?

 2割が10割になるだなんて、ほとんど誤差みたいなもんさ、つまり彼女達は最高で、すっごく可愛い良い子達なのさ。


 ほうら目を瞑れば見えてくる。

 彼女達が笑顔で俺を呼ぶ姿が。


 マスター。

 ご主人様。

 オー。

 主様。

 主殿。

 あるじ様。


 ……。


 ……。


 ダメだどうしても笑顔にならない。血にまみれている。頑張れ俺の想像力、頑張れ。

 ちなみに記憶力の方では、どう頑張っても無駄だった。

 なんてこったい。

次の話で第一章終了となり、戦争編が始まりますが、第一章よりは少し短い程度の長さの章です。宜しければまたお付き合いして頂けると嬉しく思います。


感想、評価等、辛口でも良いのでどんどん仰って下さい。

よりよいダンジョン生活を送るため、改善致します。

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― 新着の感想 ―
[一言] これだけ、主人公に言わせて欲しいです。 「自分が生み出した命すら軽んじ、美学だなんだと無碍にするお前が、人の事を言えるのか?」と。 それだけです、はい。
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