第15話 煽るんじゃない、キキョウっ。
ダンジョンマスター格言その15
ダンジョンモンスターを愛せ、さすればダンジョンマスターも愛されん。
精神を落ち着け、現実から目を逸らして、俺は2体目のことを考える。
2体目の役割は、相手に強力な範囲攻撃をさせないこと。
ゴブリン部隊や、魔素溜まりの魔物を向かわせる上で、最もされたくないこととは、ズバリただ1つ。
範囲が広い攻撃。
雑魚魔物を一掃するのに、強力な広域攻撃は有効過ぎるのだ。上位の魔法使いが整列し、一斉に広域攻撃魔法を使ったなら、ものの数分でゴブリン2000体は壊滅するだろう。
いや、それどころか、たった1人が使っただけでも、壊滅に至るかもしれない。
その次の階層に、上級風竜が控えていることは、侵入者も既に周知しているだろうから、ゴブリン相手に、上位者が大量の魔力を使うとは考え辛い。
だが、セラさん曰く、ゴブリンを即座に壊滅させてくる可能性は、決して低くない、とのこと。
義勇兵や奴隷兵は、参加するだけでなく活躍して褒賞を得ようと躍起になっているため、ゴブリン相手なら戦果を挙げるのには丁度良く、高位の奴らは基本的に、攻撃しない。
しかし、ローズ指揮のゴブリン軍勢は、きっと上手く立ち回り、義勇兵や奴隷兵の士気を下げる。魔素溜まり魔物達も、暴れるから、なおのこと。
そうなると、ゴブリン達は、たちまち戦果を挙げるための、戦意を上げる敵から、戦意を下げる敵に早変わり。即座に排除も視野に入る。
だから可能性は低くないんだとさ。
指揮や戦意関連のことになると、俺にはよく分からないが、ともかくゴブリン達は、あっさりと壊滅するかもしれないらしい。
そのため、そういった全体を攻撃する広域攻撃から、守ってもらうために、この2体目がいる。
全て防ぐことはできなくとも、何発かさえ防げるならそれで良い。
強力な範囲攻撃は詠唱に時間もかかるし、撃てる人も少ないので、無駄撃ちは嫌うはず、数発も防げば、撃つのを諦めてくれるだろう。
それ以上撃ってくるのならば仕方ない。敵方の魔力消費と引き換えに、ゴブリン壊滅を受け入れる。どちらにしろ、こちらのメリットは大きくなる寸法だ。
そんな、役立つ防衛の仕方は二通り。
防御するか、攻撃するか。
防御は、放たれた魔法を、防御魔法により受け止めること。もしくは同威力の魔法で相殺すること。
攻撃は、放たれる前に攻撃し相、手に防御させ続けること。要は撃たせないようにすること。ただこちらは、攻撃担当防御担当に分かれられていると、余程強力でなければ、妨害できない可能性がある。
なお、三通り目としてゴブリンを強化して耐えさせる、という手もあるが、これは魔力がいくらあっても足りないので、考慮にいれない。
そのため魔法攻撃か魔法防御か。
どちらにしろ、種族は、魔法を主体に戦う魔物にする。
ちなみに、この魔物は、ちょっと強くしても良い。
なぜなら、強い人の攻撃を受け止める役割である以上、実力がなければ話にならないからだ。
へっへっへ、セラのお墨付きさ。
……にしてもセラさん、もう良いんじゃないか? ローズはもうボロボロよ。
先ほど、セラが俺に暴言と暴力を、いやまあ俺にしか非のない当然の行い、報い? だったので、俺から文句はないけれど、それを見たローズが激昂。
俺を守るために立ち上がり、セラに勝負を挑むも、現在は目も当てられないくらいにボコボコにされている。ゴメン、ゴメンよローズ。俺にはどうすることもできないんだ。こんな弱い主様を許しておくれ。
でも凄いよローズ。まだ心が折れていない、心が折れてないなら、負けじゃないよっ。
俺だってまだ、みんなの殺戮に心折れていない、止めるつもりさっ。
とりあえず、いやしかし、このダンジョンではセラに逆らってはいけない。あのマキナですら、セラに逆らうような真似はしないのだから。
さて、だから俺もセラに逆らわないように、魔物を生成しよう。
「……ん、待てよ?」
俺は、ふと思った。
ローズは、16階層の守護者である。と、同時に、ゴブリンの指揮官である。
2体目は、15階層の守護者である。と、同時に、ゴブリンを守る魔法使いである。
そして、オルテは、17階層の守護者である。と、同時に、ゴブリン達との戦闘中に、影から撃ち殺す役目である。
……。
ゴブリンは19階層に置く予定ですよね、だったら全員19階層にいるってことかい?
「なんてこったい」
どうして気付かなかった、それは、ダンジョンのルールを激しく逸脱している。階層守護者が、その階層から移動し、侵入者と戦っているということなのだから。
というかそれ以前に、19階層に入ってきた時点で、オルテもローズも2体目も3体目も負けてるからね。そうしないと階層通過できないんだから。
負けてるのに19階層で戦うのかい?
いや、ネームドモンスターは死ぬと、24時間復活できない。死んだ後の24時間は、ネームドモンスターと同種族のマスプロモンスターが自動生成され、ボスの代理を務める。
それは侵入者側にとっても常識だから、行く時は一気に行くだろう。
自然型ダンジョンは、残り階層数も分かり易い。特にこのダンジョンはコアさんの波動が強すぎて開けっ広げだ。その辺りをきちんと計算し、準備して、1日で最終階層までやって来るはずだ。
だから負けていたら戦えない、つまり素通りさせるってこと。
……それはダメよ、素通りさせてのバックアタックはダメよ。
ダンジョンにとって大事なのは、決して生き残ることじゃないんだ。
生き残るだけなら、見つからないところで、ひっそりひっそり暮らしていけば良いだけなんだから。大事なのは、矜持と共に在ること。
生きる時も、死ぬ時も。己の、そしてダンジョンマスターとしての矜持を大切にし、勝ち、生き残り、負け、殉じる。
だから、そんな矜持を踏み躙るような行いを、俺は断じて認めてはいけないのだっ。
作戦を立案した時に、俺はなぜ気づけなかった。セラは思考誘導が上手過ぎる。
しかし気付いた、今からでも遅くない。
いい加減、セラにもビシっと言ってやらなくてはいけない。ダンジョンマスターにとって誇りが、どれだけ大事なのかを。いつも説教されているが、今日という今日こそは説教し返し、そうして、それぞれが各階層で侵入者と戦うようにしてもらおう。
「よしっ」
俺はそう心に決めて、椅子から勢いよく立ち上がり、マップを使用して、セラに連絡を取る。
「話があるっ、セ――」
……。
……。
……。
ロ、ローズ……、お、お前……、ボロボロじゃないか。それでも立ち向かうのか、お前は凄いよ。
……俺にはできない、俺には。
俺は、マップで表示した外の様子を、そっと閉じた。
19階層で全員集合して戦う。
まあね、うん。うちは、コスト制限がないからさ、別に一箇所に集合してたって、ダメなことはないもんね。うんうん、問題ないさあ、あっはっは。
「さーてじゃあ、セラに逆らわないように、魔物を生成しよう」
というわけで俺は、前向きに魔物を生成することにする。
どんな種族にするか。
「魔法が得意ならダークエルフがいるけど、でもそれは被るから止めておいて。他に魔法の種族、魔法の種族」
ダンジョンモンスターは、勲章を授かることができるように、種族や属性を揃えた方が強くなる。その上、環境を変えるなどの運用もしやすくなるため、被れば被るほど、良いことが増える、のだが、俺は嫌だ。
マキナとセラを、違う種族違う属性で生成した時点で、もう全員バラバラでないと気が済まなくなった。どうやら俺は几帳面な性格らしい。
ルールを激しく逸脱していて、何を几帳面だとほざいているのか、という意見はあるかもしれないが、しかし俺は、そこに几帳面さを出せない分、こういったところに出したいと思いましたっ。
被害者のみな様には……、なんと……。
「えーっと、生成しやすいのは、俺と同じ人型の魔物。それから、この魔境に元々いるような魔物。森にいるような、動物系の魔物だな」
自然型ダンジョンだから、周囲の環境に影響されやすい魔物生成P。
生成リストに載っており、消費Pも軽減される魔物はその辺りだ。リストに載る数字は変わらないが、実際に生成した場合には割引などが行われるため、消費Pは変わってくる。割引がどの程度になるのかが、不透明であるため、中々毎回頭を悩まされる。
嬉しい悲鳴だよ。悲しい悲鳴はもう簡単には出ません。
さて、誰が良いだろうか。
「あ、そうだ。幻影を使えるってのはどうだろう」
幻で攻撃して、相手に防御させる。
これで、攻撃担当防御担当に分かれられていても、相手からの攻撃をきちんと防御できる余力を、持つことができるのではないだろうか。……完璧な案じゃないか。
「ということは、幻影の魔法が得意な魔物。……妖狐か」
『 妖狐
金華妖狐・・・1100P
金輪七尾・・・900P
七尾・・・800P
五尾・・・・550P
・・・
・・ 』
ふむなるほど。
「まあ、金華妖狐だな」
一択でしょう。どうやら金華妖狐も、七尾系と同じく尻尾は7本。九尾もいるんだろうから、最強種族ではないけれど、1100Pはかなりの高位種族だ。
『 金華妖狐
ユニーク
性別:指定無し
造形:亜人型 妖艶 美しい毛並み 反射する毛並み 幻想的 手足スラリ 胸大きめ 金色の乙女 大人びている 全てを振り向かせる妖艶な出で立ち 呆けさせる妖艶な振る舞い ・・・2100P
性格:仲間思いではあるが悦楽的で興味対象以外に関心薄い 研究熱心 時折優しいが2度目は期待できない 基本的に柔和だがところにより頑固 ・・・1350P
特徴:魔道の頂 魔法の理 魔道王 七色の魔法を操りし鬼才 金色の輝き 幻影の申し子 陽炎の支配者 天国の休養 サラサラお肌 研究者 高貴 魔法言語翻訳 詠唱改変 ランダム魔眼 ・・・6300P
適性:杖術 水魔法 木魔法 雷魔法 闇魔法 空間魔法 回復魔法 支配魔法 召喚魔法 毒耐性 索敵 察知 直感 教授 HP吸収 MP吸収 ・・・3850P
能力値:全能力成長率上昇 ・・・3300P 』
計18000P。
造形はきちんと美しく。
性格は研究を意識して。
特徴は魔法を強化するように、幻影も。あとは魔眼。
適性もそれなり。
能力値もいつも通り。
なんとローズより、元々の生成Pが上回っているにも関わらず、同じPで生成することができた。
いやはや、俺も節約上手になったものだ。
……。
……。
……。
『これで生成を開始します。よろしいですか?』
……。
……。
……。
「……オッケーっ」
金色の靄が出現する。
それと同時に、ガチャリと扉が開く。
俺はスッと振り返り――。
「すいませんでしたーっ」
土下座した。
「まあ、もう分かっておりましたが」
呆れてため息をつくセラと。
そんなセラに向かって土下座する俺と。
そんな俺の後ろで、麦穂のような毛並みの霧から現れた、魅力的で妖艶で、幻想的な美女のような美少女。
「君の名はキキョウだ、これからよろしくな」
俺は土下座の体勢のまま、脇の下から覗き見つつ、そう名前を付けた。
「……もう良いですよ、また作戦を練り直せば良いだけですので」
「セ、セラさん」
「ただ一発殴らせていただきますけれど。マキナに竜因魔法で強化して貰ってから」
「いや竜因魔法使われると、ダンジョンのルール無視で俺にダメージが……、すんませんでしたーっ」
俺は再び土下座した後、椅子に座ったセラの前に、綺麗なグラスと高級ワインを置き、そのワインに合う高級な料理を用意した。
香りを楽しんでから、優雅に一杯飲むと、その途端、ほんの少し笑顔になるセラ。
いやあ、セラが吸血鬼で良かった。
異世界の知識で、美味しいワインが安く手に入って良かった。30Pも出せば、最高級のワインが買えるからね。いやあ、俺の幸運に乾杯。
「酒かーっ」
すると、匂いを嗅ぎ付けたのか帰って来たマキナ。
こいつは本当に酒だと早い……。
「わっちにはないのかえ、主殿?」
すると後ろからそんな声。
喋り方が、また特殊。
しかし、なんだか普通に要求してきたなキキョウよ、生成したばかりだと言うのに。仕方ないのう。
いやあ、みんな酒好きだねえ。
オルテは右党なので酒にあまり興味なく、帰って来ないからみんなじゃないし、ローズも外でぶっ倒れていて、帰って来られないからみんなじゃないけど。
『 名前:キキョウ
種別:ネームドモンスター
種族:金華妖狐
性別:女
人間換算年齢:19
Lv:0
人間換算ステータスLv:130
職業:ダンジョンの研究者
称号:魔道を極めし姫
固有能力:言語翻訳 ・全言語を理解できる。
:魔道を極めし者 ・魔法を使用する際の魔力減少、魔法効果上昇、魔法解析力上昇。
:幻想回帰 ・解析した事象を幻想化、解析した幻想を事象化する。
:高貴なる矜持 ・回復力上昇。状態異常状態変化に耐性。
:解析眼 ・左、対象を解析する。
種族特性:七命七魂 ・生命力と魔力を7度回復する。
:朧変化 ・自身の姿形を自在に変化させられる。狐型ならステータス変化なし。
:領域化 ・周囲を自らの領域に変えることができる。
:金妖の大過 ・敵対者のステータス減少。戦意減少。金に囚われる者に対しさらに補正。
特殊技能:マナドレイン ・魔力を干渉する度に吸収する。
:マジックバースト ・魔法領域を拡大する。
存在コスト:3300
再生P:18000P 』
金色に輝く髪。サラサラと長いその髪は、真直ぐに伸び、体や頭が動くたび、同じ方向にハラリと揺れる。
上まぶたと、ほぼ同じ高さで切りそろえられた前髪の下には、碧眼の瞳と、同色をどこまでも深くしたような色の左の瞳。
頭につけた簪と、菫に朱の入り混じった下地に、イチョウの葉が幾枚も描かれた、見ようによっては奇抜な着物が、和の趣を醸し出すも、金色の長い髪は全てを破壊し、新たな調和を生み出す。
年齢的には、美女と言うよりも美少女であるのに、色っぽく艶やか。そして色気と艶美を醸し出しながらも、清楚で淑やか。しかし、ひと滲みの毒を持つ、狐の耳と尻尾を生やしたキキョウ。
「ふう、ごちそうさまでした」
「もう良いのかいセラ。ワインのお代わりもまだまだあるよ」
「大丈夫です。お気遣いありがとうございます。お礼と言ってはなんですが、優しくして差し上げましょう。ではそこに、正座して下さい」
「……はい……」
高Lvの侵入者の、魔法に対抗する、という役割のキキョウには、相応の強さを持たせる必要があった。
だが、それは高位の種族なら、当然持っている程度の力で良かった。
元々生成Pの多い魔物なら、一切の強化がなくとも、必須条件を満たしていたのだ。
「はい、はい、いえ。はい、はい、すみません」
俺は、こんこんと怒られていた。狐だけに。
「反省が足りていないようですね」
「いえそんなことは。いえ口ごたえじゃなく、はい、すみません」
俺がこんなことになっているのに、家の中にいる他の2人、マキナとキキョウは、無邪気に遊んでいる。
「ほら、コレで詰み。私の勝ちだな」
「こうで、こうでこう、なるほど25手詰めだったようじゃのう。わっちの負けじゃ」
「もう一局打つか?」
オルテはLv上げに、ローズは体力回復に勤しんでいると言うのに。
ローズはセラに戦い方を教わった。教わったというか、一方的に甚振られ、結果的に戦い方を覚えた形。
なので、キキョウはマキナに戦い方を教えてもらえば良いのでは、と思い、そう言ったところ、なぜだか将棋を始めてしまった。
マキナ曰く、これも戦いだ、と。
まあ両人が良いんなら、別に文句はないけどさ。
「しかし、そろそろ飽きてきたのう」
「面白くないか?」
ただ驚いたのは、案外本当に面倒見が良かったマキナ。
後輩であるローズとキキョウに対しては、中々きちんと相手をしてやっている。
同格と思わしきセラと、同格ではないが後輩というほどでもないオルテ、そして創造主である俺に対しては、面倒見の良さが発動していなかったが、あの時した設定は、しっかりと反映されているらしい。
……たまに反映されていない設定もあると思うんですけどね。
「いや、勝てそうじゃし、飽きてきたんじゃ」
「……ほう、私に勝つって言ったか今」
そんなマキナ、だがしかし、反乱を許すほど優しくはない。空気は、一瞬にして不穏なものに。
「アタシはあっちのアホと違って、弱くないぜ?」
「わっちもあのアホと違って、馬鹿ではない」
おいおい、そのアホってのは、まさかとは思うが、俺のことかい?
「セラ、待ってくれ。俺のプライドがいたく傷ついた。説教の続きは、奴等を潰してから聞こう」
「かしこまりました。お待ちしております」
セラに許可を貰い、俺は2人に対峙する。
「マキナ、キキョウ、1対1対1だ。全員2面差しなら同時に戦えるだろう? お前ら2人、叩き潰してやるよ」
10分後。
「では続きを開始しますので、こちらで正座して下さい」
「……はい」
六十手もいかず、2人に敗北した俺。意気消沈した俺を、セラさんは慰めるでもなく、再び説教を始めた。。鬼や、鬼がここにおるでっ。あ、吸血鬼だった。鬼がおるでっ。
俺が正座している横で、2人の戦いは白熱していく。
マキナは百面相。
盤面を見ずとも、優勢か劣勢か、手を思いついたか、思いつかないか、全てハッキリと見てとれる。
反対にキキョウは、ずっと同じ表情。
涼やかな顔のままなので、盤面をどう見ているのか全く分からない。
勝負はノータイムで指し続けられた俺との戦いとは違い、持ち時間10分を使いきり、30秒将棋にまでもつれ込む。
セラからの説教が終わってもなお続く戦い。そして百五十手を越える激戦は終了し、ついに決着がついた。
「なん……だと……」
とは、マキナ談。
そう、キキョウの勝利。
「これでわっちがダンジョン最強、ということよのう。ほっほっほ、このように生まれてすぐに最強に至れるとは、強う生成してくれた主殿に感謝せねばの」
「負けた。アタシが、負けた」
マキナはショックを受け、キキョウは高らかに笑う。
「さ、酒を飲んでたからだ。アタシめちゃくちゃ強いやつ飲んでるからな。度数も96%だし、お前のやつの3倍だぞ3倍。もう1回。もう1回だ、やるぞっ」
「ん? もう面倒じゃ、やりとうない」
「な、なら今度はチェスだ。これはまたちょっとルール違うからな、ほらやるぞ早く」
「面倒じゃと言うのに。まあ先輩には逆らえん、ふむふむ駒の動かし方は……」
「俺にもやらせてくれ、将棋では負けたがチェスなら負けんっ。セラ、行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
そして、チェス勝負が始まる。
初戦はもちろんマキナの圧勝。それを踏まえて次戦、またもマキナの圧勝。だが3戦目、キキョウがマキナを射程距離に捉えたかのような善戦。
そして4戦目、キキョウがマキナを下した。
「つ、次は囲碁だっ」
「はあ、そろそろ解放して欲しいのう」
「俺にもやらせてくれ、将棋でもチェスでも負けたが、囲碁なら負けん」
「雑魚はすっこんでろ」
「時間の無駄じゃ」
「セラー、うえーん」
「よしよし」
そして囲碁勝負が始まる。
初戦はもちろんマキナの圧勝。それを踏まえて次戦、またもマキナの圧勝。だが3勝目、キキョウがマキナを射程距離に捉える。
「次あたりで勝てそうじゃ」
「なんだと?」
「しかし、じゃから、もうそろそろ飽きてきた。やる気も起きん」
「んだと、やるぞ。早く握れっ」
「なんだかのう。これで勝っても、またもう一勝負、と、次は違うものでと言われると思うとのう。これで最後なら良いが」
「分かったよ、最後にしてやるよっ」
「それだけかの?」
「それだけ? なんだよ」
「いやなに、わっちはの、自分より阿呆に何かを教わるつもりはないからの。勝ったなら、自分のやり方で戦い方を身につけたいと思っての。無論、わっちより賢い者の意見ならば聞くが」
マキナとキキョウの戦いは、なんだか白熱……いや怖いよ。
煽らないで、あんまり。
「良いぜ、勝てたらなっ」
キキョウの提案に、マキナは了承。煽られたらマキナさんは、コロコロ引っかかるからなあ。
ここはダンジョンマスターである俺が、冷静さを取り戻させてあげようじゃないか。
「いやいやちょっとお待ち、ちゃんと教わりなさいキキョウ、マキナも教えなさい」
「うるせえっ」
「わっちより賢い者の意見なら聞くがの」
「うえーんセラー」
「よしよし、仕方ないことですよ、お馬鹿様」
そして4戦目、10分の考慮時間と30秒の秒読みの一局。
秒読みになってから、100手は続いた大決戦は、コミを入れて半目差という僅差で、キキョウがマキナを下した。
「ぬ、ぬぐぐぐぐぐぐぐ」
「ほっほっほ。ではそろそろLv上げに行くとするかの、主殿、行って参る」
「あ、うん気をつけて」
キキョウは1人で家を出て行った。
「ぐぬぬぬぬぬぬ」
良く分からない声を上げ続けるマキナ。なんて言っているかは分からないが、篭っている感情は分かる。悔しさだ。
「マキナ、これをバネに――」
「うるせえアホっ。1番アホっ、バーカ」
「――頑張、ええっ? セ、セラーうえーん」
「私も一先ずキキョウに付いて、フォローしつつLv上げを手伝って来ます」
「うえー――、し、締めるのか?」
「違います。死なないように見ておくだけです。ついでに、外で転がっている馬鹿犬も連れて行きますので」
「お、お手柔らにね」
「もちろんです」
パタリ、とセラが扉を閉めて出て行った。
……残されたのは俺と、マキナ。
「ぐぬぬぬうううううがあああっ」
悔しさから、怒り狂ったマキナ。
セラめっ、逃げやがったなっ。
俺は部屋の隅でなんとか逆鱗に触れないよう、最後の1体にとりかかる。
「うがあああああっ」
「ひいいっ」
悲しみの悲鳴は、収まるところを知らない。
お付き合い頂きありがとうございます。
これからも随分長く続きますが、呆れず飽きずお読み下さると嬉しいです。
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