第14話 逆らっちゃいけない、ローズっ。
ダンジョンマスター格言その14
未来とは理屈で語るものではない、愛と夢で語るものなのだ。
ダンジョンマスターになってから3日目。
つまり、繋がってから3日目の話。
なぜその日付が同じなのかは、優れた頭脳を持つ俺にもサッパリ分からないが、これはローズ、キキョウ、ニル、その3人を生成する日の話。
俺はその日の朝から、掘っ建て小屋の中で頭を悩ませていた。
「どうして家にいながらにして、こんなに情報が入ってくるんだっ。どうして我が家のテレビには、国家の作戦会議の様子が克明に映るんだっ。どうして賄賂や脱税なんかの犯罪をまとめた資料が手元にあるんだーっ」
というか、嘆いていた。
俺の叫びは狭い掘っ建て小屋の中で響き渡り、そして何の反応も得ることなく消えていく。
ダンジョン開闢1日目の、些細な行き違いから戦争をすることになってしまった、ダンジョンと人の国。
戦争には情報が不可欠であるから、多少集めるくらいなら目を瞑ろう。特に前途多難な状況、いや絶対絶命の状況なのだ、絶命を回避するためなら、少々の無茶など構いはしない。
しかし……しかし……これはやりすぎだ。
全ての元凶は、我がダンジョンのメイド。パーフェクトメイドの仕業。
「俺は、みんなの姿を写真に収めたかっただけなのに」
カメラの存在を知ったセラは、俺にたくさん生成して下さいと頼んできた。お願いします、と手を両手で握られ、上目遣いをされ、可愛らしく見つめられ言われた俺は、喜んでカメラを大量に生成した。
もうね、そのカメラは現在、戦争をする相手国の重要機関全部に配置されています。
この世界の人は、カメラなんて道具があることを知らない。隠れている人や魔法での監視盗聴などを警戒するのみで、それがなければ安心して話してしまっている。
異世界からの転生者や転移者、それから召喚者はそれなりの数いるが、カメラのない世界から来た者も多く、何より彼等は良くも悪くも目立つ。国家の中枢のような、権力と謀略渦巻く場所に入ることはあまりない。
結果として、ここにはどんどん情報が集まってくる。その結果として、俺の良心はどんどん痛んでくる。ダンジョンとして……ダンジョンとしてやっちゃいけないことを、俺はどれだけ。
なんてこったい、どうしてこんなことに……。
「やめてくれ、やめてくれー、セラーっ」
俺の慟哭は、再び我が家に響いた。
「どうぞご主人様、粗茶ですが」
セラよ、家にいるなら、俺の叫びに何か反応してくれ……。
そしてご主人様に粗茶を入れるんじゃないよ……。
「ともかくだ、これらの情報により、奴らの作戦や戦術は丸裸。こちらもそれに対応するよう、戦力を整えるのだっ」
音もなく、前に置かれたお茶を、俺は一口飲み、そして威厳ある口調で、そう言った。
というわけで、俺の嘆きから始まる3日目はスタートした。
あー、お茶が美味い。
今日生成する魔物は3体。今から生成する魔物は、その内の1体目。
役割は、指揮官。
攻めてくる軍隊の正確な数は、未だ不明だが、今のところ5000名前後の可能性が濃厚。補給部隊を除けば、4200名かそれくらい、1度に前線に立つのは3000名ほどだろう。
そんな大勢を相手に、たった6名で戦うのはかなり難しい。数の力というのは、覆し辛い力を持つ。
そのためこちらも、魔素溜まり魔物や、復活不能にしたゴブリン達を用意し、数を近づける予定。100体まとめて25Pとお安く生成できるゴブリン達を、現在の予定では2000体。
ゴブリンは弱く、頭も悪い。
そのため、ちょっと腕に覚えがある程度の人にすらやられてしまい、作戦を立案しても実行など不可能。そしてすぐに逃げ出す。
ダンジョンモンスターは、本物の生物のように、生存本能で動いているわけではないのだが、それに近い行動をするよう設定されているため、割と簡単に逃げるのだ。
相手との強さがかけ離れていると、近づくことすらしないという徹底ぶり。
強さの基準には数もあるため、5000名の軍勢はおろか、3000名の前線に立つ者達にも、ゴブリン達は戦いを挑んだりはしないだろう。
ゆえに、ゴブリン達を戦力として扱う方法はただ1つ。
指揮官の指揮力や支配力による、強制。
1体目の魔物に求められる力は、まさにソレだ。
大した装備ではないものの、武装をした2000体のゴブリン。彼等は、自分の死を恐れない攻撃を、文字通りに死ぬまで繰り出し続ける。
もちろん強者であれば鎧袖一触。その程度の雑魚は、腕の一振りで吹き飛ばせる。武器を指で受けたとしてもカスリ傷一つ負わない。
だが、そうでない者にとっては違う。斬っても尚近づかれる、剣で切られれば肌が切れ、そして肉がこそげ落ちる。噛み付かれれば肉が抉れ、指が食い千切られる、当たり所が悪ければ死ぬかもしれない。
ゴブリン軍勢で、軍に勝てるかと問われれば、それは絶対に否だ。ゴブリン軍勢で、軍にダメージを与えられるかと問われても、やはり否だ。
戦力差はどう考えても圧倒的。敗北は必至。
「だが、戦力的にダメージを与えられずとも、足止めをなんとか、なんとかやって頂きたいっ」
数は力、そう数は足止めの力。
目標は限りなく低いが、まあそんなもんです。
「それに、死兵ならば、恐怖による精神的ダメージも期待できる。ふふふ、セラも悪よのう」
「ご主人様ほどでは」
くっくっく、と俺達は笑う。
そのために生成する、指揮官1体目。
求められる条件はいくつかある。
「まず絶対に指揮能力がいる、と」
「足止めや誘導、それから分断等、して貰わなければいけないことは山ほどありますから、そうですね」
「ふむふむ」
指揮官としての活躍を期待しているのだから、まずは指揮能力が必須。
「それから強制させる力。支配力だね」
「はい。ゴブリンコマンダーも数体混ぜる予定ですが、戦わせるためには必要です」
そして支配し、動かす力も必須だ。
「個人の戦闘能力も、ある程度はいる、と」
「はい。狙い撃たれることは確実ですので、容易くやられない強さが必要です。流れ弾で死ぬような弱い魔物ですと、とれる戦術の幅も狭くなり、不利を招いてしまいます」
「ふむふむ確かに」
そして自身の実力も重要。やられた瞬間にゴブリン全員逃げ出す絵が浮かぶね。
俺はそうならないような魔物を考えつつ、生成リストを開いた。
そこにはいつも通り、膨大な数の魔物の種族が羅列されていた。
異世界の知識を持つ俺には、その魔物達の知識が、一度思い浮かべるまで一切ない。思い浮かべたらスーッと入って来るので、生成する際には問題ないのだが、選ぶ際には手間がかかる。
どんな魔物がいるのか分かっていない、ってことだからね。
暇なときに生成リストを見ては、魔物の知識を得ようと奮闘しているが、中々数が多いと難しいのだ。まあ、そんなことは嬉しい悲鳴だよ、悲しい悲鳴はいつものやつさ。
だから今回のように、指揮官だなんだと、絞る要素があると、とても助かる。
俺は、当初の数よりも大きく減った生成リストを眺め、魔物の知識を仕入れていった。
しかし……、指揮能力と多少の戦闘能力、か。それだけじゃあまだちょっと多いかな?
選ぶのには、まだまだ時間がかかりそうだ、他の条件も欲しい。
「セラ、他に欲しい力ってある? 召喚とか回復とか、あと、普通に自分でもガンガン戦えるとか。そういうのもあった方が良いっちゃ良いよね」
「その通りではありますが、キリがありませんので。必要最低限あれば問題ございません、間違えても、我々の時のようにはしないよう、お願い致します」
しかしこれ以上はいらない、と念を押されてしまった。分かった。抑え目、控え目でね。
任せておけ、俺は人間種族のダンジョンマスター。常に学び工夫していくことを強さに繋げる種族さ。
さて、どの種族でいこうかなあ。
Pを抑えるなら、求めている能力を、元から持っている魔物が1番良いよな。
「指揮能力を元から持っているような魔物、上下関係がハッキリしてる魔物。……犬、いや、狼」
犬も狼も縦社会だからな。
主人と定めた者には忠実で、決して裏切らない。
まさに今の状況にピッタリじゃないか、俺のこの、敬われていないこの現状にっ。
ただ指揮能力を中心に考えた場合、ゴブリンは犬でも狼でもないから、そこまで派生するのかが疑問である。
……うーん、ならまあ、犬とか狼を人型にしておけば、そっちもカバーできるかな?
しかし人型か……、そうだ、人狼がいるじゃないか。
狼という、上下関係がハッキリした魔物でありながら、人型である人狼。まさに今、俺が求めている種族っ。
『 人狼
ワーフェンリル・・・1000P
ムーンウルフ・・・600P
ワーウルフコマンダー・・・300P
ワーウルフナイト・・・200P
・・・・
・・・
・・ 』
最大が1000P。
やっぱり竜も竜族も吸血鬼もPが異常だな。普通は、強い括りでもこのくらいだよね。ならきっと、凄く強く、そして普通の、アクが強くない子になってくれるはずさ。
いや、オルテは1000Pだったな。
「……人狼ですか?」
俺がそんなことを思っていると、セラさんは、なんだか嫌そうな顔をしてそう言ってきた。
「……人狼はお嫌?」
そう言えば、吸血鬼と人狼って仲悪いんだっけ? 敵同士とかなんとか。
「私は真祖返りですから構いませんが。そうですか、家が狼臭くなりそうですね」
スゲー嫌そうだな。
人狼はダメか。
……。
ならワーフェンリルにしとくか。ウルフじゃないから狼じゃない、それに名前が1番カッコ良い。
『 ワーフェンリル
ユニーク
性別:女性 ・・・0P
造形:亜人型 赤髪 ・・・0P
性格:自分を強く持ち精神的にタフ ・・・0P
特徴:良い匂い ・・・0P
適性:直感 学習 ・・・10P
能力値:全能力成長率上昇 ・・・3000P 』
それに、これで良い匂いになるだろう、赤い髪の毛で血の色っぽくしておけばセラ的にポイントもUPのはず。精神的にタフだから、もし苛められても安心だ。
「そういう意味ではなかったのですが」
「ええーっとここから……」
「ご主人様? ……聞こえていないようですね。ご主人様、ご主人様、節約していますか? 操作が多いように思えますが」
『 ワーフェンリル
ユニーク
性別:女性 ・・・0P
造形:亜人型 赤髪 クセ毛 挑発的な美人 モデル体型 健康的で抜群のプロポーション 筋肉質 強そう 鋭く挑戦的で色鮮やかな美貌 ・・・1750P
性格:忠誠心の塊で義に厚く信頼を貫き通す 正義感強く弱者を慮る 自分を強く持ち精神的にタフ 諦めずへこたれない 全身全霊の進歩 ・・・2300P
特徴:歴戦の大将軍 統括のカリスマ 平伏す威圧感 鮮血赤色 ド根性 欠かさぬ自己鍛錬 破竹の成長 高い拘り 卓越した槍捌き 地獄の猛特訓 狼の軍勢 全てを踏破する群狼 良い匂い ランダム魔眼 ・・・6200P
適性:槍術 魔力操作 火魔法 空間魔法 回復魔法 魅了耐性 恐怖耐性 騎乗 直感 思考 学習 教授 快眠 HP吸収 MP吸収 ・・・3750P
能力値:全能力成長率上昇 ・・・3000P 』
計18000P。
性別は女性で、セラと同性、お友達になれるように。
造形はセラの好感度UPを狙いつつ、将軍として振舞えるカッコよさを。
性格は無論、俺を敬ってくれるようにだ。
特徴は、将軍に必要なものを詰め込んだ、それと魔眼。
適性は、だいたいこんなもんだろ。
能力値はいつも通り。
18000Pだなんて、オルテより2000Pも少ないじゃないか。
2000Pって言ったら、吸血鬼公爵以上のPだよ、めちゃくちゃ節約できたよ。
『これで生成を開始します。よろしいですか?』
「お願いしますっ」
色鮮やかな、赤色の靄がかかる。
血の色っぽいぞ、これは喜ばれるんじゃないかっ?
俺は、今のセラの顔を見たくて、隣に立っているセラの顔を覗きこむように見た。その瞬間、ぶたれた。……なぜだっ、もしや、ワーフェンリルもお嫌いでしたか?
その霧が晴れると同時に、鮮血の赤色をしたワーフェンリルが現れた。耳と尻尾、という狼としての特性を有しながらも、その姿は狼ではなく、人を模った美しい女性。
「君の名前はローズだ」
ぶたれ、地面に転がったまま、俺は彼女に名前をつけた。
『 名前:ローズ
種別:ネームドモンスター
種族:ワーフェンリル
性別:女
人間換算年齢:21
Lv:0
人間換算ステータスLv:133
職業:ダンジョンの軍団総指揮
称号:忠義を誓う大将軍
固有能力:大将軍の威風 ・味方士気、ステータス上昇。味方に一時的な、自身に永続的な戦場の加護を与える。
:鮮血色の彩り ・敵対者士気、ステータス減少。吸血鬼に対し補正。
:同じ手は食わぬ ・1度受けた行動による効果を、次回から減少させる。
:軍狼召喚 ・狼の軍勢を召喚できる。
:空虚の魔眼 ・右、全ての性質から1つだけ吸収可能、吸収した内容の魔眼になる。吸収量により使用回数が決まる。
種族特性:縦の絶対服従 ・自分より弱い配下を服従させることが可能。狼種に近ければ近い程さらに服従させる。
:狼化 ・完全な狼に変化できる。
:月下の騎士 ・月が満ちているほど色濃いほどに強くなる。
:俊敏 ・移動や反応が早くなる。
特殊技能:ヴァイタルドレイン ・生命力を干渉するたびに吸収する。
:ランサートラッシュ ・槍攻撃に追加ダメージを付与する。
存在コスト:3000
再生P:18000P 』
わーい将軍にピッタリだ。
あんなに抑えて生成したというのに、ここまで強くなるとは。いやはや、俺も上手く――。
「ご主人様」
「なんだいセラ――ぶへえっ」
蹴りっ。
蹴りっ?
蹴られたっ。
「ご主人様は、馬鹿でございますか?」
なじられた。
赤く長い髪の毛。外にハネるその髪の毛は、まるで燃え盛る炎のよう。
それと同じ赤色の左の瞳、右の瞳は澄み渡るような空色。
挑発的な目つき、澄ました顔つき。凛として、清純さをかもしだしながらも、妖艶な雰囲気を見に纏う美女。
体は筋肉質だが太くはなく、運動能力に秀でた体型。
頭には狼の耳、お尻からは狼の尻尾。甲冑を着込み、マントを羽織るその姿は、まさに大将軍。
「ほ、ほら見て、凄く将軍っぽい。将軍として凄く強いんだよ」
「でしょうね。上級竜1体と中級竜を1体生成して、尚余るPを注ぎ込みましたから、弱いはずがありません」
「大将軍の威風で指揮と、それから狼を召喚できるし、狼で強い人を足止めできれば、ゴブリンの軍勢ももっと役立つかも」
種族特性だけ見ると1000Pの魔物としては物足りないくらいなのだが、それを補う高いステータスと、肉体強度を誇るワーフェンリル。
そこへ数々の固有能力が加われば、きっと無類の強さになる。
また、期待していた指揮官としての能力は随一、そして自身の強さも十分過ぎるほどにあり、数々の適性は、どんな場面でも彼女を輝かせてくれるだろう。
「それにオルテよりも随分安いよ。なんてったって吸血鬼公爵分以上に消費P少ないからね」
「ええそうですね。元々のPは吸血鬼公爵の7割以下で、現状の生成Pは吸血鬼公爵の12倍ですが」
「……あれ?」
……。
「ど、どうしてこうなったんだろう」
「なぜでしょうね、お馬鹿様」
ぐうの音も……出ませんっ。
ちょっと強化するだけのつもりだったのに、あれもこれもと付けていったらいつのまにかこんなPに。
「数々の勲章で、消費したPも、少しは軽減されますので、実際にかかったのは1万6千Pほどですが、それでも予定していたPの20倍以上は、かかっておりますね」
セラが、冷たい目で、見下しながら言ってくる。
でも、でもでもだって、強い子にしたいじゃないか。
色んな状況が想定できるから、それをクリアできる子にしておきたいじゃないか。ダンジョンモンスター達は、言うなれば俺の子供、我が子には良い思いをさせてやりたいじゃないか。
「言い訳をしないで頂けますか?」
言ってない、まだ言ってないよ。思っただけだよ。
「同罪です」
厳しいっ。
「今求めているのは、全能力が高く対応力のある者ではなく、一点のみに特化した者です。何度も何度も言ったはずですが……、頭に刻み込めば忘れませんか?」
普段は綺麗に短く切り揃えられた綺麗な爪が、まるで吸血鬼の爪のようにギラリと伸びる。そしてそれは俺の首筋をスーっと、ああ吸血鬼だったこの子、こえええええっ。
だ、誰か。
誰か助けてっ。
「おいっ」
と、そこへ待ったがかかる。
「ロ、ローズっ」
綺麗なよく通る声で、ローズはセラに呼びかけ、俺達の方へ歩いてくる。
その表情は怒りに満ちていた。
……まさかコイツも俺に怒るのか? そういえばセラも生成された瞬間から俺に怒ってたからな。ううう俺に味方はいないのか。
「たかだか吸血鬼風情が、主様を愚弄するとは……」
え、まさか。まさかローズ、お前。
「大丈夫でしたか主様。このローズが来たからには、主様を全てからお守りします」
俺の近くでしゃがみ、抱きしめてくれたローズ。凄く良い匂いがする。
は、初めてだ。マキナ、セラ、オルテ。これまで生成してきた3人から得られなかった何かが、満たされていく。
俺はローズの背に腕を伸ばし、そしてそのまま右手を頭の方に上げ、その頭を撫でた。
「ああ、お優しい主様。こんな主様に対しての無礼の数々、到底許すことはできん。やはり吸血鬼は下賎な生き物だ、忠義というものがまるでない」
撫でられ嬉しそうな声をあげたローズ、だが次の瞬間には、その反動とでも言うような、深い怒りに満ち溢れた声を、絞りだす。
ローズは立ち上がり、セラを正面に立ち睨みつけた。
「あらあら、私の言葉は忠義があるからこそ、でしたのに」
……いや、それならもうちょっと優しく。というか待て、待つんだローズ。
「やはり下等な犬畜生に、高度なやり取りは難しいようですね」
ローズよ、そいつにだけは逆らっちゃいけない。そいつにだけは逆らっちゃいけないんだ。
マキナとオルテに逆らっても殺されるだけだろうが、そいつには殺されるだけじゃ済まないぞっ。
「そいつ?」
ああ、すみませんセラねセラ、セラさん。どうやらそいつ呼ばわりにイラついたらしいご様子。え、心の中のそんなニュアンスまで読み取れるんですか?
「なんだとこの薄汚い蝙蝠が」
「囀るのはおやめなさい、耳障りですよ駄犬」
一触即発。いやむしろ既に爆発。
ううーん、吸血鬼と人狼。相性は最悪のようだ。ウルフじゃなくてフェンリルでも、人狼には変わりないですもんね。
それに性格も合わなかったのかなあ。
特徴も良かれと思ってやった色味のせいで、ローズの固有能力には吸血鬼のステータスを下げる能力ができちゃったし、本能部分で敵対しているのかもしれない。
「そんなカス犬は、このアホにはピッタリですが、私の仲間としては相応しくありませんね。調教して差し上げましょうか?」
いやいやカス犬って、お前言い過ぎだよ止めなさい。アホとかもさあ……、アホって俺に言ってんの? 忠義に厚いとか今さっき自分で言ってたのにっ?
「貴様こそ、その品のない言動。仕えている主の器が知れるわ」
仕えている主、俺です、主は貴女の主様だよっ。
「主様への数々の暴言、到底見過ごすことは出来ん。成敗してくれるっ、表へ出ろ」
「良いでしょう。頭の足りない後輩には、体に教え込むことも重要ですから。しかしこれは調教ですので、泣いても乞うても終わるとは思わぬように。分かりましたね」
ローズとセラは俺を傷つける舌戦の末、小屋から順々に出て行く。
……。
「あ、あのセラさん、や、優しくね」
俺は弱弱しい声で、扉から出て行こうとするセラの背中に、そう声をかけた。
「もちろんです。アホな主人に溜めさせられたストレスを、少し発散するだけですよ」
……。
「ああ、それと。次は、貴方です」
パタン、と扉が閉まる。
「あわわわわわわ」
俺に直接見に行く勇気はなかったが、戦いの原因が完全に俺なので、見ないわけにもいかず、家の中から、マップの映像を表示して、戦いを見守った。
ああ、ローズ、生きることを諦めないで。そして、できればセラのストレスを、最大限発散させて、俺に矛先が向かわないようにしてくれ……。
小屋の外で、ダンジョン史上、最も壮絶な戦いが始まった。
味方同士でっ。
戦いの模様は、完全にセラの手の平の上。
ステータスが明らかに違うから、仕方ない。固有能力などによって、己自身の力を異常なまでに強化はできても、Lv差とて大きいのだ。
それに、種族的な強さはセラの方が上。かかったPもセラの方が倍近く多い。さらに、生まれてから様々なことを学んだのだから、経験でも上回る、戦力差は圧倒的。
ほら、もう関節技を完璧に決められている。
骨を折られ、関節を外され。
ローズは回復魔法で治療するが、そこに足払い。わざと立たせて、左のジャブジャブ右ストレート。からの左ボディ左フック、これでフィニッシュかと思いきや追い討ちの左ハイキック。それでフィニッシュかと思いきや回復魔法。
エクスヒール。じゃねえよ。
わざわざローズの体を治療し、立たせ再びボコボコに。
ああ、回復魔法を、まさか甚振るために使うなんて……。
格闘戦で勝ち目がないと見たローズは、魔法戦に移行するため距離を取った。魔力操作や火魔法を覚えているローズは、種族的に得意ではない魔法戦も、得意分野の一つにしている。
だが、それももちろん勝ち目がない。
光と闇の魔法を使いこなすセラに死角はない。ああ、あと回復魔法。
極悪過ぎるよセラさん。
「助け舟として槍を出してあげよう」
誰のか分からないが、回収してあったそこそこ強い槍を、ローズの近くに出してあげた。ローズは槍が大得意。セラは棒術が得意なのだが、現在は素手。差はほんの少し埋まるはずさ。
その目論見は当たり、攻めていたセラの動きが一瞬止まる。
そこへ、目にも止まらぬ速さで槍が繰り出される、それは終わらない。風を切り裂く音は、次第にその間隔を狭め、セラの体に浅い傷をつけていく。
『ありがとうございます主様。ご期待に応え、必ずやこの悪鬼を殲滅してご覧にいれます』
やめてくれローズ。俺はセラと敵対したくないよ。
ほら、威圧が、家の壁を乗り越えて飛んできてるから。俺の罪が深くなってるから。
しかし、Lv差によるステータス差や、経験の差は大きい。
徐々にローズは追い込まれ、セラにボッコボコにされていく。
見ているだけで、俺の心は罪悪感にまみれていく。
だから……。見ていられなかったので、俺は2体目の魔物の生成に、取りかかることにした。
質問感想等々心よりお待ちしております。
誤字脱字、減らしていく所存でありますが見落としは必ずと言って良い程ございます。
御目汚し申し訳ございません、ですが今後ともよろしくお願い致します。




