第13話 10日目の日常。
ダンジョンマスター格言その13
栄光を求めることは悪ではない、それを決めるのがダンジョンマスターなのだから。
マキナとセラを生成した、1日目。
オルテを生成した、2日目。
そして、新たな3人が加わった、3日目。
これは、ダンジョンが誕生してから、10日目の話。
紆余曲折はあったものの、ダンジョン開闢から、今日で実に、10日目を迎えることとなった。
こちらの世界には、1週間、という考え方が、あるにはあるが、基本的には10日や100日が一つの区切りだそうだ。
ダンジョンも、どうやらその区切りを利用する。
ゆえに、10日目を迎えた今日、新たな勲章を授かった。
俺の勲章はさらに増えたのだ、さあて、確認しようじゃないか。
『 名前:--
種族:人間
職業:ダンジョンマスター
勲章:異世界の知識を持つ者 ダンジョンの幕開け ダンジョンの波瀾の幕開け 自殺志願者 常軌を逸したマスター 豪胆マスター 初めては固有モンスター 名付け親 命名センス 銘を授けし者 強者殺し 覇者殺し 到達者殺し 超越者殺し ドラゴンスレイヤー殺し 将の器 剣聖の名を継ぎし者 密偵狩り 祝踏破者駆逐 大物取り 上級竜を倒せし者 宝物ダンジョン 魔素溜まりダンジョン 魔境の支配者 百の骸を吸いし迷宮 千の骸を吸いし迷宮 万の骸を吸いし迷宮 骸の迷宮 死に神の派遣者 情報の暴虐者 万の軍を退けしダンジョン 余命宣告を受けし者 節約上手 貯金好き ドケチ P依存者 性格重視マスター キャラ萌え ド変態 特徴付けマスター シチュエーション萌えマスター 吐き気を催す醜悪なる存在 スキル大好きマスター スキル愛 異常性愛者 ステータス重視マスター 偏屈脳筋 省みぬ挑発野郎 豪運 九死に一生の天運 明日死ぬ Pアホ使用者 ギャンブル依存症 外道 上級風竜を従えし者 』
……それ以外にも、なんだかたくさん増えている気がするけど……、うーん、何が増えたんだろう。
褒められてたりするのかなあ?
『 ダンジョンの幕開け
ダンジョンが繋がってから10日目を迎え生き延びたダンジョンに授けられる。
・100P獲得 』
『 ダンジョンの波瀾の幕開け
ダンジョンが繋がってから10日目まで波乱万丈を繰り返したダンジョンに授けられる。
・100日が経過するまでに1体だけ登用消費Pを肩代わりする 』
『 銘を授けし者
5体のネームドモンスターを作ったダンジョンマスターに授けられる。
・進化の宝玉を得る 』
『 密偵狩り
忍びこんできた密偵を残さず殺した者に授けられる。
・密偵能力向上
・ダンジョンモンスターの密偵行動成功率上昇 』
『 魔素溜まりダンジョン
魔素が濃く自然に魔物が発生してしまうダンジョンを運営する者に授けられる。
・魔素溜まり産出魔物魔石等級上昇 』
『 万の骸を吸いし迷宮
万度死体を吸収した一人前のダンジョンマスターに授けられる。
・階層制限50階層まで解放
・各階層コスト制限を×20まで解放
・魔物総数制限10万まで解放 』
『 情報の暴虐者
情報を集めるためなら倫理を無視するブラックダンジョンに授けられる。
・魔石等級上昇
・ダンジョンコア波動強化
・ネームドモンスター思考力上昇
・トラップコスト制限解放 』
『 外道
ダンジョン外で虐殺を繰り返した最低最悪という言葉では最早言い表せない外道に授けられる勲章。
・魔石等級上昇
・魔石等級制限半解放
・ダンジョンコア波動強化
・ネームドモンスター自我強化
・ダンジョンバトル拒絶不可
・ダンジョンバトルにおいて敵対者の取得P上昇 』
分かってはいたよ。
そんなわけないって。
でも、予想は裏切られたよ。予想以上にヒドかったからさ。
まずはダンジョンの幕開け。幕開けは、普通1日目の話だと思うけれど、10日目だった。
1日目2日目ってのはとても死に易いとかで、敢えて10日目にしているのかもしれない。
俺もひとまずは生き延びたということだ。
そして確かに波瀾でした。
銘を授けし者は、5体のネームドモンスターを作った証。現在我がダンジョンには、6人のネームドモンスターがいる。
マキナ、セラ、オルテ。
ローズ、キキョウ、ニル、この6人。
密偵狩りというのは、3ヶ月かもう少し先かに攻めてくる人の軍隊が放ったダンジョンの調査、監視員達を1人残らず葬ったからだ。
俺は生きて帰って欲しかった。でもそれは、初めての正式な侵入者だと喜んだ6人には、無理な相談だった。
魔素溜まりダンジョンは、亡くなってしまった密偵達の本隊である軍を撤退させる術の1つ、魔素溜まりを大量に設置したため。
元々、魔境と呼ばれているこの地域は、魔素が濃いのだが、さらに魔素溜まりを設置したことで、この勲章が得られるくらいになったようだ。
万の骸を吸いし迷宮は、今までもあった勲章の進化系。ダンジョンマスターの知識にも、授かる方法やその効果が元々ある、基本的な勲章。
中々良い効果だ。しかし、初日に3000近くの死体を吸収したとは言え、わずか10日で1万に届くとは、一体どれほどの殺戮を犯しているのだろうか……。
10日で7000体なのだから、1日700体。
つまり、1時間29.167体。
だから、1分0.486体。
0.486体かあ。そう考えると少なく感じるね、やったぜ。……そんなわけあるかいっ。
情報の暴虐者は、カメラのせいだよカメラのせい。俺は悪くない、悪くないのに、なんで倫理を無視するという罵倒をされているんだ。
我がダンジョンは、一体どれほど漆黒に染まらなければいけないのだ……。
そして最後、外道。
……、俺は悪くない、悪くないのに……。
「犯人はお前だっ」
俺は食卓で、インスタントラーメンを食べているマキナを、ビシっと指差す。
「だってー、ダンジョンにもう魔物いねーもん」
「お前がグオーグオー吼えるからだろ。上級竜が威嚇しながら殺しまわってたら、そりゃ逃げるわ。つかもうお前Lv上がんないじゃん、何やってるの」
「1上がったぜ1。今14だから」
「上がったのか、やったな。――いや、その1上げるのに一体、何体の魔物を殺したんだ。虐殺を繰り返したって言われてんだぞ」
「え? うーん……、たくさん」
凄い数の、今は亡き魂が、一言でまとめられてしまった。
「……せめてダンジョン内だったらPも貰えるのに。ダンジョン広げるからさあ、次からは出ないで倒して下さい」
「ドンマイドンマイ」
ケラケラと笑いながら、俺の肩を叩くマキナ。
加害者が被害者に対して取る態度かね。本当の被害者は既にいませんがね、言うなれば俺は遺族さ、遺族代表さ。
ただし殺人鬼を送り込んだと、被害者当人から思われておりますが。
嘆き悲しむこともできやしねえ。
「セラさん、セラさんからもなんか言ってやってくれよ」
俺は食卓で、紅茶を優雅に楽しんでいるセラに、そう頼んでみる。
「いえ、特に我々はダンジョンのルールを破ったからと言って、その際のマイナス補正以外、特に何かあるわけではありませんので」
「俺はっ?」
「ご主人様も不都合があるわけではないでしょう? 気分的な問題だけで」
「気分的な問題だけで結構辛いんだよ。こう……、美学というか矜持というか、ダンジョンマスターには大事なんだよ?」
「大軍が攻めてくると言うのに、美学や矜持など不必要です。まずは、生き残ることを第一に考えましょう」
「ぐっ、ぐうの音も出ねえ。でもね、ダンジョンにとってダンジョンマスターにとって、そういうのって大事なんだよ、命よりも優先しようと思えるもんなんだよ」
「今の命よりもですか」
「いいえ、違います」
冷静な表情で俺との会話を終わらせたセラ。
被害者の仲間入りをしかけた俺、すまないみんな、俺はまだそちら側にはいけないんだ。
しかしだからこそ、俺がこの凶行を食い止めるのだ。
「オルテー、オルテよ、お前はダンジョン外に魔物を倒しに行ってたりしないよな」
俺は今度は、食卓で飴をペロペロと舐めるオルテに、そう聞いてみた。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……しないよな」
「……してる」
ポツリと、無口ゆえに口数少なく、間が空く口ぶりで、罪悪感を全く感じていないオルテは言う。
俺に、俺に味方はいないのか。
「おい吸血鬼。貴様、主様のことを悪く言うな、私が許さんぞ。主様、私は主様に強く作っていただいたことを、心より感謝し、誇りに思っております」
ああ、いた。ここにいたよ俺の味方が。
「そうか、ありがとうローズ、嬉しいよ」
「主様は素晴らしい慧眼の持ち主です。主様こそ最上のお方。仕えることができたことは、我が今生の喜びでございます」
「ありがとうローズ、嬉しいよ」
「主様のお役に立てることに、私は身を震わせ喜んでおります、なんでもお申し付け下さい。命に代えても叶えてみせます」
「そうかいありがとう、嬉しいよローズ」
「主様が――」
「分かった、分かってるよローズ。凄くよく分かってる、ありがとう」
「いえ」
満足そうな表情で頷く美女。赤く長い少しクセのある髪を揺らす、狼耳の美女、ローズ。
俺のことを全く崇拝していない、他の5人のネームドモンスターとは違い、俺のことを強く強く崇拝してくれているローズ。
まるで他の5人の分も一まとめにして崇拝してきているようだ。
とてもとても可愛い。
多少疲れないでもないけれど。
「では主様、私は今日もLv上げに行って参ります」
「お、おうそうか。ダンジョンを10階層、10km分も広げたから、魔物も結構入ってくるだろうし、26階層で頑張ってな」
「はいお任せ下さい。吸血鬼、不本意だが、貴様に主様の護衛を任せる。傷1つつけてみろ、その心臓に杭を打ちつけてやる」
「私がコレの護衛?」
セラよ、コレ呼ばわりは止めるんだ。
「まあ良いでしょう、さっさと行きなさい。弱者にはサボっている時間なぞ、ありませんよ」
「ぬかせっ。では主様、少しでも力を身につけ、主様のお役に立てるよう、この不肖ローズ、ダンジョンを越えてどこまでも行って参ります」
俺とセラ相手に声色を全く変えるローズは、俺の行ってらっしゃいの声に、狼の尻尾を左右に大きく振りながら、家を出て行った。
え、ダンジョンを越えるんですか?
「それで主殿。わっちもまたLv上げかのう、そろそろ飽きた頃合じゃ。もう行きとうない」
ローズを見送ったところで俺は後ろから話しかけられる。
「いや、そこは行ってくれキキョウ。Lvもまだ上がり易い時期だろう?」
「面倒じゃのう。マキナのアホが辺りの魔物を殲滅してしもうたからもう近場にはおらぬし。面倒で仕方ない」
「ダンジョン広げたから入ってくるって。25階層までは、空間魔法で行ったらすぐじゃないか」
「断る。面倒じゃ」
「で、でもほら、魔物はマップで見つけられるんだし、無駄はないだろう?」
「嫌じゃ」
「け、研究室だっけ? 戦いが終わったら作るから、凄いの作るから」
「はあー面倒じゃのう」
やれやれ、とため息をつく美女。おかっぱの長い金髪をサラリと揺らす、狐耳の美女、キキョウ。
未だに布団から起き上がらないキキョウは、やはり俺のことを崇拝していない。マキナやセラやオルテよりかは俺のことをまだ上位者として見ているのかもしれないが、普通の関係とは程遠い。
サボり魔で、何ごとに対してもほとんどやる気がなく、あの手この手でやる気を引き出さねば一向に動いてくれない。
手のかかる子もまた可愛い。
しかし疲れる……。
「まあ研究室をくれると言うのであれば、少しくらい動くとするかのう」
「おお良かった。まあなるべくLvは高い方が良いから頑張ってね」
「行くとするかのう」
「おい帰ってきたら将棋するぞ。コレじゃもう相手になんねえからな」
マキナよコレ呼ばわりは止めるんだ。
「さっさと倒してさっさと戻って来いよな」
「面倒じゃのう、じゃがまあ、ダンジョンのトップにそう言われてしまえば仕方ない。早く戻るとするか。では効率的にの、ダンジョン内には魔物がまばらじゃし、外へ行こうかの」
サボる口実を手に入れたキキョウは、それでも面倒そうにしながら、金色に棚引く髪と尻尾をこちらに見せながら、家を出て行った。
え、ダンジョンの外へ行くんですか?
「あるじ様ーあるじ様ー、わたしはーわたしはーわたしはどうー?」
キキョウを見送ったところ俺は横から突撃される。
「ぐへあっ。ニ、ニルも24階層で、Lv上げ頑張ってくれ」
「頑張るー、食べる食べるー」
「いや、倒した魔物はなるべく食べないでくれ。お弁当は用意するから」
「お弁当っ、お弁当食べるー」
「ダンジョン内の魔物を倒して、死体はそのままPに変換するからな。魔物をそのまま食べるより、Pでお弁当を出した方が安上がりなんだ、分かったかニル」
「お弁当っ、お弁当っ。食べたい食べたい」
「俺の言ったことが分かったかな、ニル君」
「お弁当、お弁当。お腹空いたー」
ニンマリと明るい声をあげる美少女。明るい、緑色の短い髪の毛を背中の翼とともにファサリと揺らす美少女、ニル。
俺の上にまたがり腹の虫を鳴らすニルは、腹減り少女。おそらくは俺のことを、ご飯をくれる人としか理解しておらず、間違いなく崇拝はしていない。
いやむしろ俺のことを、ご飯をくれる人としてより、ご飯として認識している可能性の方が高い。なぜなら今、食われようとしているから。
その姿はくちばしこそないが、まるで餌を求めるひな鳥のようでとても可愛い、わけがない。
つ、突かれるっ。
「お腹空いたあー」
「分かった。ほうらご飯よ。お食べなさい」
「わーい、たくさん食べるー。美味しいーっ」
「……飴」
オルテよコレ呼ばわり……はしてないけど、君は一体俺を何と認識しているんだい? 飴排出マシーンかい?
「……ニルは、いる? 飴、1本」
「だだだだ大丈夫ーっ。飴は全部オルテのだからーっ。わたしは向こうの山で、ご飯食べるよっ行ってきますっ」
慌てて立ち上がったニルは、翼と足を一生懸命に動かしながら逃げるように、家を出て行った。凄く急いで逃げるように出て行った。
ああ、こいつももうマップの捜索範囲にいないじゃないですか。
この3人を生成したのは、ダンジョン開闢から3日目、つまりオルテを作った次の日。
それぞれが軍の侵略に対し、重要な役割を持っている超戦力。誰が欠けても成功せず、誰が失敗しても成功しない作戦を遂行するため、この3人は強い種族である。
狼耳のローズは、ワーフェンリル。生成にかかるPは、1000P。
狐耳のキキョウは、金華妖狐。生成にかかるPは、1100P。
翼の生えたニルは、ハイピュイア。生成にかかるPは、900P。
上級竜の10000Pと比べれば、圧倒的に少ないPで、吸血鬼公爵の1500Pと比べても、まだ低いPである。しかし、そもそもダンジョンでは、600P出せばかなり上位の魔物を呼ぶことができる。
600Pの魔物が、そこそこの階層でのボスと思って良い。
フィールドにおいても、森の主だったりするのはこのくらいの種族だ。
1000Pの魔物なんてのは、50階層はあるダンジョンの最終階層守護者レベルの絶対強者で、フィールドにおいては、人が及ばない災害とも言える種族だ。勝てるのは人の中でも、Lv150を越えているような絶対強者が徒党を組んだ場合のみ。
……だからかなあ、なんだか、アクが強いんですよねえ。
他のダンジョンマスターは、このレベルのアクの強さを、一体どうやって従えているのだろうか。
何かで中和できるのかな?
1000Pの魔物っていうのは、ダンジョンマスターにとって、最終目標である、夢のような存在だ。
そんな存在を生成する、つまり夢を叶えるには、もちろん様々な苦労がある。
ダンジョンはPを使用し、拡大拡張強化していくものだが、Pとは楽に稼げるものではない。
なぜならPを稼ぐには、侵入者を殺すか撤退させるかの二通りしかなく、どちらも戦闘が前提になるからだ。
特に初期のダンジョンは大変だ。
1000Pを初期Pととして貰えるが、それは、ダンジョンの位置だったり、階層を増やすためであったり、環境の変更、ギミック追加、罠、宝、色々なものに使わなければいけない。
戦力の拡充は必須ながら、魔物にかけられるPは、1000Pの内の一部でしかないのだ。それに、最初に生成できる魔物は、ゴブリンやスライムといった弱い種族ばかり。そんな弱い魔物で倒せる侵入者なぞ、たかが知れている。
なのに、侵入者を倒さなければ、Pは得られないし、それどころか、1回倒せないことがあっただけで、ダンジョンマスターとダンジョンは死んでしまう。
最初の頃のダンジョンは、とても弱い。
それこそ大して強くない侵入者でも、壊す意思さえあればすぐに終わらせてしまえるくらいだ。
だから初期のダンジョンは、見つからないように隠れ潜み、侵入してきた弱い魔物や人を、確実に殺しひっそりと稼ぎ続ける。
もしくは、侵入者をなるべく生かして帰し、危険の少ない安全なダンジョンですよと、強い者が乗り込み潰す必要はないですよと証明する。
それら2つのどちらかの方法を取り、徐々に徐々に強くなっていくしかない。
本当に徐々に徐々にだ。
そしてそうして、初期の状態を脱出して、さあ、侵入者を倒せるダンジョンを、侵入者にダンジョンモンスターを倒させてLvを上げられるようなダンジョンを。
ダンジョン経営を始めよう。
そう思っても、Pは一向に稼げない。
マスプロモンスターで生成した弱い魔物の復活には、Pをあまり必要としない。生成Pの1000分の1だ。
ノーマルモンスターが100分の1で、ユニークモンスターが10分の1。そして、ネームドモンスターが1分の1で等倍なのだから、非常に安いと言える。
その安さゆえに、マスプロモンスターは、倒させる前提の魔物で、侵入者のLvを上げるために使う。
だが、やはり無料ではないのだ。
10Pのゴブリンであれば、1000匹倒されてしまえば復活に10Pかかる。
20Pの魔物であれば、1000匹で20P。
1階層や2階層のゴブリンと、互角の戦いを演じる人や魔物は、倒しても5Pか10Pか、それくらいにしかならない。
Lvを上げさせてやって、倒せば200Pか、そのくらいは獲得できるようなLvにしてから倒そう、と思い鍛えても、それには一体どのくらい魔物を倒させてやらねばならないか。
どのくらいの期間がかかるのか。
それに、もしかしたら、途中で負けるかもしれない。怪我をして入ってこなくなるかもしれない。他のダンジョンに行ってしまう者だっている。さらには、そういったことに気をつけていても、病気で死ぬことや、人ならば結婚して職を変えてたから入ってこなくなる、なんてこともあるだろう。
様々な理由で、育てている者は減ってしまう。
魔物でも人でも、9人か10の内、1人を、きちんと育てて回収できれば、それが成功と呼べてしまうくらい。
つまり、例えば、倒して200P獲得できるまで、育てられるのが、10人に1人とした場合、それぞれに20P以上かけてしまうと、ダンジョンは赤字になってしまうということ。
ダンジョンモンスターの再生復活のP、誘いこむための宝。
階層を増やしたり環境を変えたりを、設備投資と考え除外しても、とても厳しい数値だ。
それにもちろん、あまりに温いことをやっていてダンジョンを攻略されてもいけない。
厳し過ぎても、甘くても、どこかで失敗すれば、そこでダンジョンの破壊か、経営の失敗かで、終了する。
こちらに原因がなくても、時には終了するのに、成功しても、得られるPは極小。
そんな分の悪い賭けを何年、何十年、何百年と繰り返すのがダンジョンのPの稼ぎ方だ。だからPは簡単に貯まるようなもんじゃない。
1000Pが貯まって、その1000P全てをダンジョンモンスターの生成に費やせる、それが、夢と言われる理由も分かるだろう。
初期のダンジョンから見れば、1000Pなんてのは、夢のまた夢さ。
もし不意に貰えたなら、飛び跳ねて喜ぶよ。
コストの面から見ても、やはり1000Pとは、夢のまた夢。
コスト制限を階層数×20を解放する、という効果を持つ勲章、万の骸を吸いし迷宮を獲得した頃、1000Pの魔物が置けるようになる。
1000Pで生成する魔物のコストは、マスプロモンスターで500、ノーマルモンスターで1000、ユニークモンスターで2000、ネームドモンスターで3000。
そのため、×20で解放してくれる、万の骸の勲章があってようやく、50階層で1000Pの魔物が置けるのだ。
もちろん、他にも、コストを解放するための勲章は様々ある。
階層を、ボス部屋オンリーにするなどの工夫によって、コスト制限を引き上げるテクニックもある。
それらを組み合わせたなら、もっと早く1000Pの魔物を配置できるだろう。
しかし、それでも、とてもとても大変だ。
それこそ、気が遠くなるような遠い年月と、そして苦労がある。
だから、1000Pのダンジョンモンスターとは、ダンジョンにとって、夢のような存在なのだ。
努力して努力して、休まず、楽しまず、とにかく頑張って、幾多の苦難を乗り越え、運が悪ければ、いや運が良くなければ死んでいた、そんな絶望の中を走り抜けて、ようやく手に入れられる、1000Pクラスの最強の魔物。
……そんな夢の果ての存在が、こんなにアクが強かったら、皆さんどうよ。どう思うよ。
「おいマスター、てめえ変なこと考えてやがんな?」
「いえ全然。良い部下に恵まれて幸せだなーって思ってたところですよ」
てめえって呼ばれてるんですよ僕。そんなことあり得るのかい?
「ご主人様、我々のアクが強い理由は、ご主人様の勲章にある自我強化や思考強化によって、ご主人様が生成時設定した様々な性格や特徴が、より発揮されるからです。つまり、自業自得です」
「……なるほどねえ」
ご主人様って呼ばれてても、庇ったり慰めたりしてもらえないのよ?
「飴、追加」
「……なるほどねえ」
全ては俺から始まっている、確かにそれはそうなんだろう。
しかし聞いてくれ、生まれてから行った作業の中で、飴を生成するという作業が最も多い気がするんだ。
それは果たしてダンジョンマスターとして正しい姿なのだろうか。
ネームドモンスターに尽くす、ネームドモンスターを想う、それはダンジョンマスターとして在るべき姿、いや理想の姿。
だから飴を生成し喜ばせることは、それらに合致する行動かもしれない。
絶対に違うねっ。
そんなもんが理想であってたまるかっ。
はあ。
しかし、俺の生成履歴が表示できたら多分酷いことになってるよねえ。飴飴飴飴って。
『50Pを消費しP使用履歴閲覧機能を追加します。よろしいですか?』
よろしくないですっ。
「あの3人も、生成時にあれほどPを振らなければ、もっと無難な。ご主人様を主と、普通に認める魔物になっていたことでしょう」
「普通に認めるって、貴女じゃあ今、主と認めていないってことですかい? 聞き捨てならないぜっ」
「おう」
「はい」
「そう」
「……」
Pかあ、振ったなあ。
ついついねえ。
俺は椅子にちょこんと座って、あの3人を作った日のことを思い返す。ギシリ、と椅子から響いた乾いた音は、どこか俺の心の悲しみを表現しているようだ。
「そんじゃあアタシもLv上げ行ってくんぜー。向こうの活火山に竜がいるっぽいんだよな、火竜だし中級竜だけど、あいつぶっ殺してくるわ」
「え、そこダンジョン外じゃんっ。やめてもうダンジョン外で殺戮はしないでえ」
「行ってきまーす」
「ではご主人様、私もLv上げに行ってきます。消費P分を稼がねばなりませんので、私はきちんとダンジョン内で魔物を倒しますよ。魅了してダンジョン内まで誘導してしまえば良いわけですから」
「それもやめてえ。自作自演じゃん、むしろ尚悪いよ。絶対変な勲章授かっちゃうよ」
「行って参ります」
「マキナーっセラーっ、やめるんだ。はっ、そうだ、オルテ、オルテっ、2人を止めてくれ2人を止められるのは同期のお前だけだ、オルテっ。オルテ……。オルテ?」
オルテは、もういなかった。
「誰もいない。ダンジョンなのに最終階層どころかどの階層にも、誰も。誰か侵入してきたら俺死んじゃう。というかセラさん、ローズに俺の護衛任されてたじゃん……」
どうしてこうなったのか。
俺は現実逃避も兼ねて、あの3人を生成した日のことを改めて思い返す。
今日から7日前。
ダンジョン開闢から3日目のことを。
もちろんマキナ、セラ、オルテじゃない。あの3人のことはもう思い返しても仕方ないから……。
御愛読頂き誠にありがとうございます。
質問感想、一言、お待ちしております。
どうぞ末永くお付き合い下さい。




