第12話 貴女の階層は17階層でしたよね。もうダンジョンマスターの胃は限界よ。
ダンジョンマスター格言その12
ダンジョンが終わる時は、全て綺麗サッパリ消える。だがその誇りは、永遠に消えることはない。
「ただいまー」
「……帰った」
「おお2人共おかえりー」
そう思っていたところで、帰ってきた2人。
マキナ、セラ、オルテ。
可愛らしく、綺麗な、我がダンジョンモンスター。そしてこの3人と、まだ見ぬ3体の魔物が、今度の戦争においての、このダンジョンの戦力となる。
彼女達と3体の魔物が、己の役割を全うできれば、きっと進軍してくる5000名の軍隊にも勝てるはずだ。
「おいマスター、将棋しようぜ将棋。色んな手考えたぜ」
「オー、飴。追加、5」
「いや待て待て、今俺忙しいから後にしなさい」
「んじゃあ飯。早く」
「……早く。飴、キャンディーっ」
しかしその役割を全うする前に、ダンジョンモンスターとしてダンジョンマスターに忠義の心を持って欲しい。
「はいはい、ただいま出します出します」
「私も頂きましょう。赤ワインをお願いします」
「……はーい」
これが、倍に増えるのかあ。
ううーん今から憂鬱っ。
『 名前:マキナ
種別:ネームドモンスター
種族:上級風竜
性別:女
人間換算年齢:18
Lv:13
人間換算ステータスLv:376
職業:ダンジョン最終階層ラストボス
称号:ダンジョンの守護者
固有能力:竜王の血脈 ・竜因魔法、竜魔法の威力上昇。状況に応じてステータス上昇。支配の完全無効。
:無限の蓄積 ・思考能力を増加させ、他者の経験を踏襲する。
:時の魔眼 ・右、自身と周囲の時を支配する。
:予知の魔眼 ・左、未来を見る。
種族特性:風竜因魔法 ・風の竜因魔法使用可能。
:竜魔法 ・竜魔法使用可能。
:上級竜の膂力 ・防御能力を無視してダメージを与える。
:上級竜の鎧 ・あらゆる攻撃や変化に高い耐性を有する。
:上級竜の翼 ・質量、重力、慣性を無視し移動可能。
:上級竜の再生力 ・身体の破損欠損を即座に再生できる。HPMP自然回復上昇。
:人化 ・人間形態に変化可能
特殊技能:オーラドレイン ・生命力と魔力を干渉の度に吸収する。
:カタストロフブラスト ・空気と空間を歪ませ存在を無視して座標を破壊する。
存在コスト:30000
再生P:60000P 』
『 名前:セラ
種別:ネームドモンスター
種族:吸血鬼公爵
性別:女
人間換算年齢:22
Lv:15
人間換算ステータスLv:215
職業:ダンジョン最終ボス代理兼メイド
称号:ダンジョンマスターのパートナー
固有能力:真祖返り ・吸血鬼の特性を趣向の範囲に収められる。
:完全無欠の奉仕術 ・一つの欠けもない奉仕が可能になる。
:血脈掌握 ・支配下に置いた血液と同系の血液を魅了する。
:石化の魔眼 ・左、視界内の対象を石化する。
:ダンジョンの知識 ・ダンジョンについての知識を得る。
種族特性:吸血 ・吸血した相手を支配する。定期的に血を飲まなければいけなくなる。
:闇の支配者 ・夜にステータス上昇、太陽が出ている間ステータス低下、太陽に対し脆弱になる。
:公爵の威厳 ・誰の支配下にもない侯爵以下の吸血鬼と、侯爵以下の支配下の吸血鬼を支配する。
:蝙蝠分裂 ・蝙蝠に化けられる。数は自由、化けている最中はステータス低下。
:吸血鬼の再生力 ・損傷や欠損を再生する。
:魅了の魔眼 ・目が合った者を虜にする。
特殊技能:フォールサイト ・未来の事象を予見する。
:マナドレイン ・魔力を干渉の度に吸収する。
:スピリットブレイク ・恐怖により精神体へダメージを与える。
:メルトダウン ・自身を見た者を魅了状態にする。
存在コスト:4500
再生P:30000P 』
『 名前:オルテ
種別:ネームドモンスター
種族:ハイダークエルフ
性別:女
人間換算年齢:16
Lv:21
人間換算ステータスLv:171
職業:ダンジョンの暗殺者
称号:右党のシリアルキラー
固有能力:無音の暗殺者 ・暗殺行動時全ての成功率が上昇する。
:必中必殺の射手 ・遠距離から放つ射撃攻撃に対し補正。
:殺戮制御 ・攻撃威力上昇
:千里の魔眼 ・左右、障害物明度関係なく全方位を遠くまで見通す。
種族特性:森魔法 ・森魔法使用可能
:森の恵み ・森からの恵みを受けることができる。
:森地同化 ・森や大地と同化できる。
:太古の知恵 ・脈々と受け継がれてきた知恵を授かる。
:半精神体化 ・体の少しを精神体へと変換できる。
特殊技能:カラミティアロー ・地脈に干渉し物理現象を曲げる。
:エナジードレイン ・生命力と魔力に干渉するたび吸収する。
存在コスト:3000
再生P:20000P 』
「マキナも、Lv上がらなくなってきたな」
「上級竜だからな、この辺りからはもう、何年かで1くらいしか上がらなくなるんだろ? 特にLv15からは大変みたいだな、成長率も下がるしよ。けど、Lvが上がんなくても、強くなれねえわけじゃねえからな、これからもぶっ殺し続けてやるよ」
「いや、他のやつに少しは譲ってくれ。ぶっ殺し続けるのはよさないかい。セラは上がり辛くなるの、Lv36からだっけ?」
「はい。ですが、上がるまで倒し続ければ問題ありません。すぐにLv100になります」
「いや、他のやつに少しは譲ってくれ。Lv100には、ダンジョン内の魔物全部狩ってもならないだろ、一体どこで倒す気だい。オルテはLv53からだっけ?」
「……」
「いや、他のやつに少し――喋れよ」
この3人はみな、最高位の種族だ。マキナは特にだが、オルテですら1000Pの種族。
Lvを1あげるために必要な経験値は、莫大の一言に尽きる。相当な数の、魔物や人を倒さなければ、Lvは一切上がらない。
強い魔物の宿命とも言えるが、中々辛いものだ。
しかしそれを、なんとまあ、1日2日で凄い上げて来てるじゃないですか。
ええ、本当に。
周囲20km圏内に、魔物いなくなっちゃうんじゃないの?
魔境じゃなくて、死の森みたいに言われるんじゃないの?
当然のように自分の守護階層から飛び出すし……。
マキナ、貴女は20階層から出てはいけないの。住む世界が違うのよ。
セラ、貴女は18階層から出てはいけないの。いけないってことはないけど、行った先で殺戮はいけないの。
オルテ、貴女は17階層に一体何秒くらいいましたか? 多分17階層で1回も戦ってないよね、なのにそのLvはなんだい? どこで経験を積んできたんだい、このおませさんめ。
胃も痛ければ、頭も痛い。
でも1番痛いのはこの心、張り裂けそうなこの心。ああ、私の気持ちいつか届くのかしら。
「美味い美味い」
「食事も良いものですね」
「デザートは?」
どうやら届く日は、今日じゃないようだ。明日死んでしまうのに、今日じゃないのか。
さあて、元気出していこう。
美味しかったご飯は、あっと言う間に終了。
もう就寝の時間だ。
ちゃんと歯磨きをしたかい? 体は洗ったかい? 俺はしてるよ。そもそも汗もかかないんだから、ダンジョンマスターは臭くならないんだけどね。ならないんだよ、本当だよ? 僕は臭くないよ、臭く……。
「ダーイブっ。フカフカだぜー」
「……ナイス布団」
マキナは布団に飛び込み、オルテはいつの間にか潜り込んでいた。
この子達はダンジョンモンスター。もちろん、食事をとる必要も、睡眠をとる必要もない。どうして眠るんだっ、マキナっオルテっ。
「さあ始めましょう」
セラは机の上に資料を広げて、話し合いの準備を始めた。
この子はダンジョンモンスター。もちろん、お酒を飲んでも、状態異常はすぐに回復する。どうして眠らないんだっ、セラっ。
「ご主人様が頼りになるなら、眠ります」
なんだい、それは。俺が頼りにならないって?
聞き捨てならないぜ、セラっ。
「これから頑張らせて頂きやすっ」
「期待しています」
「えっと、とりあえず、Lvのことだけど、もうマキナはほとんど上がらない、セラもこれからどんどん上がり辛くなるんだよな」
「はい。この魔境にいる魔物は、どの魔物も経験値が多く貰える、強い種族且つ高Lvですが、我々の方が遥かに格の高い種族ですので、低Lvでこうなることは予想済みです。そうですよね?」
「……もももももちろんさあ。ととということはあれですね、進化するのって、まだ大分時間がかかるんですよね」
「そうですね、幸い我々は高いステータスと、多様な特性や適性を頂きましたので、Lv100丁度でも進化できるでしょうが、しかし、そこまでにかかる時間すら莫大なものです」
「普通はどれくらい?」
「ダンジョンモンスターではない私の種族ですと、戦い続けても、400年500年、といったところでしょうか。オルテの種族ですともう少し短く、200年から400年、マキナの種族ですと大幅に長く、1000年はかかります」
「うわお、戦争には絶対に間に合わない。というか戦争終わっても、できるかどうか分からないね」
「ダンジョンモンスターですから、復活できますし寿命もありません。常に最盛期でもありますし、ダンジョンが存続する限りは、いずれできますよ」
「ああそうか」
「それに、通常のダンジョンでは、戦うためには侵入者を待ち受けなければいけないため、先ほど提示させて頂いた年数より遥かに伸びてしまいますが、我々は違います。侵入者を待たずとも、自由に戦いに行けますので、遥かに短い年数で進化できるでしょう」
「いやそこは一緒であって欲しいんですけど」
「しかし反対に、我々には、ダンジョンの魔物である優位性がありませんので、慎重にならざるを得ませんが」
「え、優位性がない?」
一体どういうことだ。
まさか俺の知らない何かが――。
「ダンジョンモンスターは死んでも復活が可能ですので、格上相手にも臆せず向かっていけます。しかし私達は、復活にかかるPが大き過ぎるため、死ぬことはできません」
「……はいごめんなさい」
俺のせいだった。
Lvの上がるネームドモンスターの復活には、生成時に使ったP分が、そっくりそのまま必要になる。
マキナが6万、セラが3万、オルテが2万。
「オ、オルテならなんとか捻出……」
「2万Pあれば、上級竜が2体も生成できますね、驚きです」
ぐうの音もでない正論だ。
セラは俺の問いに答えながら、文字や絵がところせましと書かれた紙をファイリングしていく。
それはダンジョン防衛に関してや、今後の方向性をまとめた企画書で、パソコンで作りコピー機で印刷した。
もちろんこれらは、こちらの世界に存在しない。
この世界の紙は、木の繊維を叩いて固めたものであったり、動物の皮で作ったものであったりが主流。
表面がツルツルな紙は、間違いなくどこを見回しても存在しないし、家電なんかももちろんない。
文章は手書きで、活版印刷すら影も形もない。いや活版印刷はあるか? ちょっとこの世界のことはよく知らない。
ダンジョンで生成できるアイテムは普通、ダンジョン外と時代背景を併せた物のみである。
しかし俺には異世界の知識があり、生産できる品の中には、異世界の時代背景に併せられた物も多く存在する。
他のダンジョンマスターなら出せるのに、俺のリストには無い。なんて物も、おそらくはたくさんあるのだろうが、しかし、これは大きなメリットだ。
誰もが手に入れられる物に貴重さなど、欠片もないからね。
そして、これらは、俺以外手に入れることができない、間違いなく貴重なもの。メリットの方が断然大きい。異世界の知識があって良かったー。
技術を何度も何度も革新しないと手に入らないような、ツルツルのコピー用紙1万枚がたった1P。
ファイルにクリップボード、ペンに消しゴム定規、テープに付箋など、様々なものがある文房具セットだって1P。
パソコンは10Pだしコピー機も30Pくらい。
電力は、使用分だけが、ダンジョンの維持費として差っぴかれるようになっているが、ガンガン使っても、まだ1Pかかっていない。
リストを色々と見た感じでは、100$や1万円が1P換算。そして俺の知識にある、ありとあらゆるものが揃っている。金さえ払えば手に入らない物なんてない、って感じだね。
いやはや全く。
なぜこんなにも凄い技術があるのに、それが役に立たないダンジョン街道をひた走っているのだろうか、戦争しか予定にないじゃねえか。
ただの人類の敵じゃねえか。
魔物に対しても虐殺しかしてないから、むしろ魔物の天敵でもあるじゃねえか。
なんて茨の道。
なんて血塗られた道。
兵器も生成可能だから、全く違うって訳でもないのかもしれないけど。
一応、異世界の知識による兵器武器、例えば銃は、1Pからでも生成できるし、戦闘機だって、10000Pもあれば生成できる。
しかし、機関銃でマキナを撃ってみたところで、避けられ、あるいはキャッチされ、さらには当たっても傷1つつかない始末。本気で飛べば、戦闘機にも追いつける速度を出せるみたいだし、役に立つかどうかははなはだ疑問。
利点が全く活かせてない。
ああ、きのこ雲が目に浮かぶ……。
そうして、会議が進むこと、数時間。
机の上に散乱していた紙束を。セラはどんどんまとめていく。
書類を集めてトントンと、机の上でその背を整えている姿は、仕事ができそうなクールビューティーそのもの。
生成時に超絶美人設定にしただけあって、その姿は見惚れるほどに綺麗だ。
「って、片付けるの?」
「はい。仕方ありませんから、今日くらいは休んでも良いですよ」
「本当に?」
「明日、新たな魔物を生成して頂くのですから、不安定な状態でされても困りますので」
「わーいっ」
俺はキングサイズの布団にダイブっ。
「――チッ」
「……邪魔……」
あ、お、起こしちゃった? ゴメンネ……、ってすげえ邪険にされてやいないか? 創造主ですよ?
涙が出ちゃう。
「では、おやすみなさいませご主人様」
「う、うん。おやすみー。セラさんは?」
「私は活動の主流が夜ですし、Lvを上げてこようかと」
「え、あ、そっか。苦労をかけるねえ」
「全くです」
建前ってこの世界になかったっけ?
「18階層以外の魔物は、倒しちゃダメよー」
セラはニッコリと頷いて家から出て行き、俺はマキナとオルテの間で眠る。そして、夢を見た。
夢とは、記憶を整理するためのもの。
しかし俺には、たくさんの知識があっても、記憶はここ2日間の記憶しかない。だから夢の内容は、最近のことばかり。この3人のことばかり。
なぜ夢の中でも、胃を痛めなければならないのか……。
まあ、これはこれで、面白いものだ。
どうなることやらと始まった俺のダンジョンマスター生活は、やはりどうなることやらと思いやられているままだが、案外充実した毎日だ。
――だが。
「ぬおっ」
俺は目を開ける。何かがあった。何かを知覚した。
危機感? 違和感? 一体、何が起こった?
「ぐー」
「……ねむねむ……」
隣では、マキナもオルテも、ぐっすり眠っている。2人共とても可愛い、幸せ空間。しかし、だからこそ、何かがあったのならば、守らなくてはいけない。それがこの俺、ダンジョンマスター。
「マップには異常なし、コアは……」
部屋の隅に作られた押入れの扉の隙間から、その赤い光を薄っすらと部屋に届かせているコア。赤く光って迷惑だから、という理由で、押入れの中に入れられてしまった可哀相なコアも無事だ。
コアは、コアはもうちょっと良い扱いして下さい……、僕の1番大事な物なんですぅ。
「けどじゃあ何があったんだ一体……」
俺はそう呟いて周囲を見回す。
そして、それに気付いた。
ブオンッ、と手が迫り来る。
それは体を起こしていた俺の肩に当たり、俺はその手の動きのまま、高速の勢いで床に叩きつけられた。反動で足が天高く伸び上がる。
「ぐーぐー。むにゃあ」
マキナからの一撃。
痛くはない、痛くはないが。
ブオンッ、と今度は足の一撃。俺は再び床へと押し付けられる。
痛くはないけどめっちゃ怖い。
――これかああっ。
何この威力、寝相でこれなのっ? 危機感半端ない、そりゃあ飛び起きるよっ。
というかマキナさん、この手足、俺がいなかったらオルテに当たってない? ダンジョンモンスター同士のフレンドリーファイアは有りなんだから、これオルテ死んじゃうよ?
「はぐはっ」
そんなことを思っていると、今度は上から下へではなく、横から蹴られた。
俺は吹き飛び、壁に叩きつけられる。
ダンジョンモンスターからダンジョンマスターへの攻撃は、ダメージこそ通らないが、動かすことはできる。だから布団や床に押し付けられるし、こんな風に壁に叩きつけられたりもする。
「んー、むにゃむにゃ」
「えええー……」
ともかく俺はオルテを避難させる。このままだと死んじゃうからね。
布団セットをもう一組出して、眠るオルテを抱きかかえ――。
「ひいいっ」
するとその瞬間、俺の首に矢尻が、もの凄い勢いで押し付けられた。いや押し付けられたどころか、俺じゃなかったら完全に貫通していた勢いだ。なぜだか今も、凄いグリグリしてきてる、……なんかこの矢尻、濡れてるな……これ毒だっ。
「……ねむねむ。……ねむねむ……」
こいつ、眠っているのに殺しにくるのか。さすがは森の暗殺者。やべえよ、というかここで寝てる以上殺す相手って俺かマキナかセラじゃねえか、何を準備しているんだコイツは。
あと、ねむねむってなんだ……。
ともかくこの2人はとにかくやばい奴だよ。
結局俺は、ベットに入れず椅子に座り、セラが帰ってくるのを待っていた。
日が昇る少し前、4階層辺りから、ようやく帰って来たセラに、俺は縋りつき、怖かったようと泣きついた。
セラはそんな俺の頭を撫で、ニコリと笑顔を見せながらこう言った。これからは私と一緒に眠りましょう、と。
俺はとてもとても、なぜだか分からないけれど、涙が出そうだった。
「まあ私は眠りませんが」
なぜだか分からないけれど、涙が出ました。
お楽しみいただけると幸いです。
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