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第133話 遺跡迷路の銀と金。

悪逆非道のダンジョンマスター心得その22

ダンジョンの権能に飲み込まれないよう注意しましょう。……権能ってなんだっけ?

「くそうくそうくそうっ、どうなってやがるっ」

 そう悪態をつく彼の名前はヨーゼフ。B級冒険者である。

 といっても、先月B級に上がったばかりで、Lv140。まだ駆け出しであった。


 しかしこのパーティーは今まで様々なダンジョンで成果を得てきた過去を持つ。

 森の中に蜘蛛の巣状に展開する、森蜘蛛ダンジョンでは64階層到達。異空間型ながら塔のように縦長になっている、塔柵ダンジョンでは60階層守護者討伐。

 黒狼のヨーゼフとその仲間5名と言えば、地元では泣く子も黙ると有名で、名を聞けば新人は震え上がり、道を通れば誰だって目を背ける。

 彼等は自身を英雄譚に出てくる勇者と重ね合わせ、そして最強だと信じていた。


 だが、今。

 それはなんの関係もない。


「逃げろっ。逃げろっ」


 彼等はつい二週間前、このダンジョンへとやってきた。


 いくつもの大国が敗北し、手に余ると判断した結果、冒険者ギルドにそのお鉢が回ってきたため、ダンジョンに入る者達が広く公募されたのだ。それにしては入る許可がギルドから降りるまで時間がかかったが、兎にも角にも彼等はオープンと同時にこのダンジョンで冒険を始めた。

 ここに来た理由として大きかったのは、魔石の高級さだと、彼等は言う。


 バタフライサレーヴァ。

 かつて49階層にあったトトナの階層でエリアボスを努めていた、溶岩を蜜として吸う巨大なチョウチョ。フィールドではほとんど見かけることのないその魔物は、自らが仕える主、階層の王によって撃墜され、ドロップアイテムと魔石に変えられると、傍にいた侵入者に持ち帰られ、そして競売にかけられた。

 その魔石の噂を、彼等は聞いたのだ。


 魔石とは、ドロップアイテムと並ぶ冒険者にとって稼ぎの大部分を占める戦利品。

 1等級から100等級まで幅広い種類があり、1等級が最も高く100等級が最も安く買い取られる。


 C級冒険者は大体50階層近辺で、55等級辺りの魔石を集める。

 一個の売値は銀貨3枚近く。

 ただしその辺りで一番弱い魔物はそれ以下、強い魔物はそれ以上と変動するので、同じ階層と言えどエリアボスが落とす魔石はそれらに比べてかなり高い。ダンジョンマスターが好む生成Pのエリアボスならば50階層でも、40等級、銀貨80枚ほどで売れるだろう。


 B級冒険者ならば、大体70階層近辺で、45等級辺りの魔石を集める。

 一個の売値は銀貨30枚ほど。

 B級駆け出しなら、61階層で50等級くらい。ともあれエリアボスの落とす魔石は70階層ならば31等級であり、金貨7枚にはなる。


 凄い額だ、とは思う。

 しかし一攫千金だ、とは思えない。

 なぜならB級冒険者は6名パーティー全体で、月に金貨250枚近くを稼ぐのだ。1回のダンジョンでの稼ぎにしても、金貨120枚ほど。移動日を除けば1日で金貨30枚稼ぐ計算になる。

 もちろんそれはドロップアイテムも含めた稼ぎであるから、そう考えたならエリアボスも1体で金貨14枚になるし、取り巻きの魔物も逃げないので効率良く倒せるし、宝もあるしで、1日に稼ぐ額に近いくらいにはなるだろう。


 ただやはり一攫千金ではない。


 一攫千金を狙うなら、最低でも階層ボスに挑むべきだ。勝利すれば魔石とドロップアイテム合わせて、一ヶ月の稼ぎが一発で手に入る。

 ただ、階層ボスは強く、倒せても武器や防具が壊れれば儲けが少なくなるし、仲間が死ねばやりきれない。

 だからこそ、冒険者をやっていく内に、稼げる額が大体決まっていることに気づく。より多く稼ぎたいなら、より大きく命をはらなければいけないということにも。


 ……しかし。

 しかし、だ。


 ダンジョンによっては同じ階層、同じ魔物を倒しても、魔石の等級が違うことがある。

 こっちのダンジョンは45等級なのに、あっちのダンジョンなら43等級だぞ、なんてことが。


 そんな時、そちらのダンジョンに赴けば、等級が上がった分だけ、稼ぎが増える。

 命をはる分は変わらずに、稼ぎだけが増える。


 だからこそ冒険者にとってその情報は非常に重要視されており、良い魔石が出たならばすぐに遠くへ拡散される。

 よって、彼等の耳にも入ったのだろう。通常30等級で金貨9枚にもならない49階層のエリアボス、バタフライサレーヴァの魔石が、23等級金貨50枚以上で売れたなんてことは、本当にすぐに。


 一攫千金。


 バタフライサレーヴァは900Pの魔物であるから、49階層といえどもC級やB級ではまず勝てないだろう。しかし魔石の等級はダンジョンにいる全ての魔物で上がっている。

 5倍の値段で売れるなどとは、彼等には夢のように思えただろう。

 それだけ稼げればすぐにでもA級相当の装備が手に入る。いやむしろA級にならずとも、5倍の稼ぎで悠々自適に毎日楽しく過ごせること間違い無しだと、彼等は夢見て――。


「ぎゃああああーっ」

「ゴーズーっ」

 何もかもを失うのだ。


 ダンジョン周辺の町にはたくさんの人間や亜人が移動してきた。各地からの大移動だ。乗り合い馬車に同乗していた全員が冒険者で、襲った盗賊が可哀相なことになっていたこともしばしばあったほど。

 そしてオープン当日、なぜか37階層だと誤報が流れていたようだが、44階層に拠点があるという情報も既に流していたので、彼等は一斉にそこ目掛けて進みだす。


 44階層まで我がダンジョンにはボスがおらず、魔物が出現しない安全な街道もあるので、大抵の人はそこを通ったのだが、しかし中には噂を確かめたい者もいたのだろう。早々に道を外れ、魔物を倒す者がそれなりの数いた。

 ゆえに彼等はその手に戦利品を掲げ、町に辿りついては喧伝する。


 であるならば、44階層より先の階層では、一体どんな魔石が落ちるのだろう。誰もがそう思った。もちろん彼等も。


「うあああーリーダーっ」

「ペテローっ、くそうっ、くそうっ」


 遺跡と迷路の組み合わせのダンジョンは、過去にやりつくされている。しかしそれゆえにベテランと呼ばれる冒険者は、若い頃、遺跡と迷路が低階層にあるようなダンジョンで修行をしたものだ。

 最近そんなダンジョンはないと言っても、できてから1000年を越えるような異空間型ダンジョンの1階層は、1000年前にできた階層。当時の流行りがそこにあり、遺跡と迷路は結構多い。


 基本をすっ飛ばした若造達とは違って、彼等は狭い通路にもすぐ適応し、そこで迫り来るゴーレムやミノタウロスのパワーにも対応してみせた。元々B級成り立ての彼等の主戦場は60階層以降であることも大きかった。

 予想以上の強さに手間取ることも確かにあったが、等級の高い魔石に彼等は笑い、ゴキゲンにグングンと進んできた。


 そして壁を越えて進めば良いことにも気づき、遺跡迷路に入り始めてから二週間。

 全ての冒険者に先んじて、45階層に到達した。


「ヨーゼフさん助け――」

「ディノーっ」


 彼等は挑む。

 俺達黒狼団がトップ攻略者だと、猛り、そして気を引き締めて。


「逃げてく……、ヨーゼ……」

「あああああールーっ、ルーっ」


 ……。

 ……。

 ……。

 ……。


 そこは広場になっていた。

 広場は円形であり、端には半分埋もれ崩れたような朽ちた遺跡がグルリと点在する。隠れることも可能だが、そこ以外は平坦になっており、主戦場である広場中央は広く平坦な場所。


 もちろん中央には、ボスがいる。


 彼等が、今まで一度たりとも見たことがないような、美しい女性が。


 女性は笑顔で、清楚で、人懐っこさを感じさせる。だがそれでも、なぜだかドス黒い雰囲気がつきまとうような、恐ろしさを持つ。


 とはいえ美女だ。凄まじい美女だ。ゆえに男であれば当然喜ぶもの。

 彼等も当然そうだった。いつもなら美女を見れば馬鹿になって盛り上がる。しかし彼等のテンションは一向に上がらない。むしろ今は呼吸すらし辛い、なぜなのか、どうしてなのか、彼等はそう疑問に思った。


 今ならその理由も分かるだろう。


 怖かったのだ。

 圧倒的な強者の前で、心が震えあがったのだ。


 美女は彼等に、初めましてと丁寧に名乗る。


「遺跡迷路45階層の守護者。銀錬の迷宮姫バジリスクのヌミスフィアです。お見知りおきはいらないでしょうこれから死ぬのですもんね」


 黒と紫の長い髪。

 右の銀の目と、左の髪と同じ色の左目。高くない背の美女、ヌミスフィア。


「バジリスク――しかもネームドってかあ、ちっ。だが所詮は45階層だろ、腹決めろお前等っ。行くぞーっ」

 ヨーゼフは大きな声で仲間を鼓舞した。

 45階層にいるのなら大した強さではない、そう、後から後悔しても後悔してもしつくせない考えで。


 声の直後に戦形を整え始めたB級冒険者達を前に、ヌミスフィアは微笑み、1本の剣を持った。刀身がうねっている、回復を阻害するタイプの形状の剣。そして砂粒が剣の周囲には浮いていた。

「バジリスクのくせに剣かよっ」

 誰かが言う。


 そしてその声に合わせたかのように、ヌミスフィアは剣を、当たらない距離から振り抜いた。

 さすがはB級冒険者、剣撃が飛んでくることをすぐに看破した。それへの対応をしつつ、中距離を主体とする敵に対する陣形に変えていく。


 だが飛んできたものはただの剣撃ではなく、長い銀色の線だった。


「むっ」

 それを食らったのは大きな盾とフルメイルの鎧を身に付けた男。

 ただの剣撃なら防げただろう。銀色の線がハッキリした形を持つものならば、盾で弾けただろう。


 だが銀色の線の正体は、銀に変化した無数の砂粒。

 全てが独立しているために、盾でガードしても盾で防いだ部分以外止まらない。男は盾でカバーした場所以外を、視界確保の分だけ開けている兜の中を、ズタズタに切り裂かれた。


 男達は息を飲む。

 しかしそれに構うことなく、ヌミスフィアはその場から一歩も動かずに、ひたすらに銀の礫を飛ばす。


 武器では防げない。

 防具の隙間からでも侵入する。

 魔法の詠唱は間に合わない。

 近づこうにも、いつの間にかヌミスフィアの周りには、剣撃以上の威力を持った、銀色の竜巻ができている。


 彼等の戦術は、非常にしっかりしている。個人の技術も優れている。地元では神童と呼ばれていたに違いない。

 だがその銀のつぶては彼等のそんな過去など、軽く削り取っていく。


 ヨーゼフは死んだ男を一度見て、深く目を瞑ってから、逃げろと叫んだ。

 絶対に勝てない。仇を討つこともできない。そう思ったから。


 だがパーティーの中で2番目に硬い男が、殿をするつもりで前に出た瞬間、そこら中に落ちていた銀の礫が急に浮かび上がってズタズタにした。

 いつもいの一番に逃げ出す男は、足がいつの間にか銀色に変色していて、一歩も逃げられずに、その銀の礫に巻きこまれて死んだ。


 中でも特に才能があり、パーティーの魔法事情を一手に引き受けていた男も、幾多の耐性を備えていたにも関らず、全身を銀に染め上げられた。

 一番若い男も同じ。最後に自身を拾ってくれた恩人に逃げろと言い残し、銀に染まった。彼を、まだ少年の彼を、自分達に何があっても家に返してやろうと決めていたのに。


 最後の1人は逃げずに立ち止まり、ボスと向き合う。

 絶対に許さねえ。きっと、そう叫ぼうとした。


 だが、声は出なかった。

 それどころか、息さえ吸えなかった。

 恐怖でではない。


 思えば広場に入った際に、彼は息がし辛いと感じた。それを恐怖のせいだと判断したが、あれもまた、恐怖のせいではなかった。

 最初からあの銀の砂粒は、この広場に舞っていたのだ。あれを吸って、吸って、吸い続けて、彼は体の内側からズタズタにされてしまっていた。


 硬い地面を軽やかに歩いて近づいてくるヌミスフィア目掛けて、彼は無詠唱で魔法を放つ。最期の最後、人生を賭けた一撃。だがその炎は手を離れた瞬間に銀色に染まり、そのまま彼に襲いかかってきた。

 彼の賭けたものに意味など何一つなく、そのまま銀色の炎に焼かれていく。


 なんなんだよと心から、心の中だけで叫ぶ。

「それではこの悠久の時を巡る遺跡と共に過去を巡る不朽の眠りを」

 なんなんだよと心から、心の中だけで叫ぶ。

「おやすみなさい」

 そうして彼の物語は、ここで終わる。



「……ごめんなさい」

 俺の謝罪は、ここで終わらない。

「なんで45階層にそんな強い子がいるんだろうね。……ごめんなさい」

 なんでだよ……、なんでだよ……。せっかく来てくれたB級冒険者が、1人も逃げられずに全滅しちゃったよ……。


「45階層と言えば、彼等のようなB級冒険者がてこずるような場所じゃないのに、攻撃することすらできず敗北って……」

 一体なぜそんなことが起こるのだろうか。

「それはね、反乱と……あと、鍛え過ぎのせいだよ」


『 名前:ヌミスフィア

  種別:ネームドモンスター

  種族:バジリスク

  性別:女

  人間換算年齢:19

  Lv:80

  人間換算ステータスLv:296

  職業:遺跡迷路45階層の守護者

  称号:銀錬の迷宮姫

  固有能力:迷路の創造者 ・地上に迷路を生み出し自由に操る。

      :過去の栄冠 ・HPMPなどのステータスや気力などを最大値まで戻し、一定時間減らなくする。

      :白銀倫理 ・銀を操作でき、持つ性質や状態をも自在に変化させられる。

      :僻事の一撃 ・敵対者が防御していない部位に対する攻撃ダメージを増幅する。

      :幸運暴走 ・幸運の力を増幅させ、何らかを引き起こす。

      :銀界の魔眼 ・右、視界内の対象物を、特性を残したまま銀に変質させる。

      :明朗因果 ・明朗に交わる。

  種族特性:呪傷の象徴 ・自身を見た対象に呪いの傷を与える。以後見る度に重ねて付与する。

      :バジリスクの猛毒 ・通った道筋や干渉した空気に毒を残すことが可能。

      :バジリスクの鱗 ・ダメージを減少させ、毒と石化を無効化する。

      :バジリスクの筋力 ・物理攻撃による衝撃と干渉増加。巻き付く力を上昇する。

      :石化の魔眼 ・視界内の対象を石化させる。

  特殊技能:エネルギードレイン ・生命力と魔力を干渉するたびに吸収する。

      :サウザンキャスト ・魔力を重ねて使用する。

      :ラビリンスケージ ・迷宮の檻を作りだす。

      :シルバーチャーム ・攻撃を銀に変換する。

  存在コスト:3000

  再生P:10000P 』


 銀に変えた砂を操り、防具の隙間から、そして体の内側から切り裂く戦法を得意とするヌミスフィア。また武器や肌に銀を付着させることにより、対象を石化ではなく銀化させてしまう能力も持ち合わせる。


 主には銀の剣撃を使い、中距離での戦闘を行うが、攻撃よりも防御に重点を置いたスタイルであり、竜巻状に旋回する銀の礫や迷路の創造者によって作った壁で近づくことを許さず、また中距離以上に離れた相手からの攻撃もそれらで防ぐ。

 銀化も含め、なんとまあいやらしい戦い方だ。


 しかしそんな戦い方をするというのに、Lvは80階層相当で人間換算ステータスはLv296だし、過去の栄冠なんかの固有能力もあるからそもそもLv以上に実力が高い。

 B級程度の冒険者が、勝てるわけがない。


 鍛え過ぎじゃない?

 たった半年でどうやってここまで鍛えたんだい? いやその経過を見てたから知ってるんだけどさあ。思い返してみても、鍛え過ぎだよ。三期組は毎日泣いてたもの。二期組だってたまに泣いてたもの。


 もう良いじゃない二期組の訓練は。十分強いよ、そんなに毎日毎日恐ろしい訓練を繰り返さなくたって良いじゃない。簡単に負けることなんてないよ。

 あと死者が続出するから、Pの喪失がえげつないの。君達はその分稼いでくれるけど、訓練の時期ってダンジョンに侵入者がいない時の話だから、全部外から持って来て倒してたでしょ? ダンジョンマスターの胃痛がえげつないの。ダメよ。

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 涙が頬を伝う。


「あと反乱しないで……」

 頬を伝いまくる。


 45階層でそんなボス、即死罠と一緒じゃないか。

「これから来る人、本当にごめんなさい。先に謝っておきます……」

 俺の謝罪は、終わらない。





「50階層に間違いありませんね。天城ダンジョンは階層が分かりやすいので、絶対です」

「ということは情報通り、ここが大迷宮最後のボス、ということか」

 とあるパーティーが、冒険者の間で大迷宮と呼ばれ始めた遺跡迷路最終地点に辿り着いた。


「ようやく、だな」

 45階層のボスを倒してから一週間でここまで辿り着いたが、A級パーティーとしての正直な感想を、リーダーである無手の男が零した。


 このダンジョンに現在在籍している5組のA級パーティーは、どこも非常に強いが、中でも最高到達階層を98階層とするこのパーティーは、どんなダンジョンにも適応できる万能型で、攻略にも積極的だった。

 それゆえに、とあるC級パーティーが50階層のボスの居場所を見つけたと聞き、その情報を購入、最初の攻略者となるべく、ここまでやってきたのだ。


 しかしそんな彼等にとっても、この遺跡迷路の攻略は、非常に厄介なものだった。

 ダンジョン側から発行している、地上部の簡易的な全体像を書いた絵図に、遺跡迷路、という名前がしっかり書いてあるにも関らず、思わず大迷宮と呼んでしまうくらいに。


 A級にもなれば、40階層から50階層というのは、油断こそできないものの、持っている武器や防具、魔道具に経験を活かせば、さしたる障害になりはしないものだ。魔物も、環境も。

 例え、ドロップアイテムと魔石が他のダンジョンよりも高給な分、階層に見合わぬ強さを持っていたとしても。

 そうでなければこれから先、ここを通り道にしてもっと高い階層に通うのが辛過ぎる。


 だが彼等は遺跡上空を飛ぶグリフォンに何度も煮え湯を飲まされた。


 壁を乗り越えることが主要な攻略方法となる遺跡迷路だが、空を飛ぶグリフォン達はそれをトリガーに襲撃を行う。

 グリフォンは1000Pのかなり強力な魔物であるから、40階層50階層であっても侮ることはできない。そのため本格的な戦いになるなら、A級でもそれ相応の対策が必要だ。例えば対空用の魔道具やアイテムといった。

 しかし、遺跡迷路でのグリフォンの襲撃は、たった一瞬のみ。一度か二度攻撃を行った後は、もう何もしてこない。


 だから、本格的な対策が取れないのだ。


 一度か二度の接触では、グリフォンはあまり倒せない。つまりドロップアイテムや魔石が手に入らず、お金にならない。

 また対策せずともA級ならば、守るくらいは片手間でできる。一度や二度の接触で倒すことが難しいのはグリフォンも一緒。ガードに徹すればダメージはない。そもそも壁を越えない限り攻撃して来ない。

 そしてダンジョンの常識として、攻略を妨害する系のギミックは、その区画の最終階層ボスを倒したパーティーには作動しなくなる。


 対策をとっても無駄に終わることが非常に多いために、取れない、取りたくないのだ。


 だがそのせいで、壁を乗り越える最中に攻撃されて落っこちたり、飛行魔法を使って迷路の形状を確認しようとして妨害されたり、散々な目に何度も何度もあった。

 結局防具の一つが壊れたことを切っ掛けに、対空用の魔道具やアイテムを購入していったのだから、先ほどのリーダーが零した、ようやく、とはパーティーの総意だろう。


 また、遺跡迷路の環境にも、彼等は少々苦しんだ。

 砂塵や遺跡から生じる瘴気、有害な水場のトラップに地下遺跡に通ずる落とし穴などは、効かなかった。あれらはいかにもダンジョン的な罠であり、階層に合わせた強度、つまりはC級ならば無策では危険、という程度でしかないからだ。

 しかし、道の固さや迷路としての難易度はABCの括りにとらわれない。


 道はまるで石のように硬く、その上にわずかな砂が乗っているだけのもの。歩き続ければ足への疲労は酷く溜まり、足を痛めた場合は歩くことすらままならない。誤って武器を叩きつけてしまえば、手が痺れ武器を落としてしまうというのに、魔物の足音が聞こえないから接近が分かり辛く、逃走ルートも分からないために、戦いではどうしても力が入る。

 迷路は壁の位置などがかなりの頻度で変わり、ボスのいる広場までどこかへ消え去ってしまう。今回このパーティーが購入したボスの居場所も、明後日には無駄になる。


 さらに言えば、途中にある遺跡なども、中に入れば小さなダンジョンクラスの規模の広さや罠、宝に魔物がある。入ってみて、きっと驚くだろう。

 もっとも最大の驚きポイントは、広さや難易度の割には、遺跡迷路を攻略することになんの関係もないことだが。……普通はあると思う。もちろん中にはあるものもある。通路として使えるのもある。……でも大体ない。


 面白いんだけどねえ。このパーティーも謎解きとか楽しんでくれてたし……。


 しかしまあそれゆえに、ようやく、とはパーティーの総意だろう。


「ボスを倒せばグリフォンがもう襲ってこなくなるようだから、これで随分楽になる。各自準備を怠るなよ?」

 拳に包帯のようなものを巻きながらリーダーは、仲間である6人のパーティーメンバーにそう言った。

「もちろんですよ。45階層のバジリスクも手強かったですからね、油断はしません」

「それより強い難敵……。ですが我々なら問題ありません」

 パーティーメンバーも各々武器を取り出しながら頷く。


「しかし、あのバジリスクにC級パーティーだけでなく、B級A級パーティーまで負けている、というのが信じられませんね」

「確かにそれはな。あのB級の……なんだったか、10日ほど前、6人の内リーダーを含む4人が死んだパーティーをかわきりに、敗北の報告は絶えなかったな」

「10組ばかし挑んで……、むしろ勝率としてはC級の方が高い気がしますよ、全滅こそ一度もなかったようですが。……油断、でしょうか」


「分からん。しかしなればこそ私達は一層気を引き締めよう。行くぞっ」

 彼等は50階層の最後の広場に足を踏み入れる。

 ……ただその前に、なぜだかリーダーの男は振り返った。

 見つめるは、身長よりも高い壁のさらに上、広く澄み渡った空。

 現在はそちらの方向が、ダンジョン中央なので、きっと彼の目には巨大な天空の城が見えている。壊れていない完璧な姿で、遠く、遠くに。

「このダンジョンは景色が良いなあ」

 そして、ポツリと呟いた。


 それは誰にも聞こえなかったようで、助かったと男は耳を少しばかり赤く染めつつ、広場の中に踏み入った。


 広場は45階層のボスの広場と似た形で、朽ちた遺跡の微かな跡が至る所に点在する。

 しかし、45階層では朽ちた遺跡の一部の壁が銀であったのに対し、50階層では金。


 すると、それを見たリーダーは言う。

「ボスはやはりグリフォンのようだな」

 A級パーティーにとって、ボスの種族を当てることは、簡単だったようだ。


 この遺跡迷路は、グリフォンを特に前面に押し出す構成になっていた。

 主戦場とするのなら、嫌でも対策しなければならない、嫌でも戦いを学ばなければならない、そんな風に。そういう時は大抵、その魔物がその区画の最後のボスとなっていることが多い。


 あくまで予想だったようだが、ここに金があることを見た時点で、それを確信へと変えた。

「グリフォン対策が、活きますねっ。無駄じゃなかった」

「ははは、そうだな」

 仲間の一人の軽口に軽く笑ってそう答えた。もちろん、どんな相手が来ても対処できるよう全身に気を張り巡らせながら。


 しかしだからこそ、背筋が凍りついたことだろう。

「そう、でしょうか?」

 後ろから聞こえた、聞いたことのない、仲間の声ではない、耳に残る甘美な音に。


 振り返れば女性がそこにいる。

 茶色の長い髪、それと同じ色の右の目と金色の左目、左右で目の色が違い、女性にしては高い背丈で、痩せている印象の女性。


 だがそんな印象が吹き飛ぶほど、女性は美しかった。

 神が創ったような完璧な造形美がそこにはあった。どこにも手を加える余地などない、いかなる物事も眉一つ変えるに至らない完璧さ。


 だというのに、ダンジョンという死の満ちた空間と、妙に噛み合っている。まるでダンジョンが彼女のために作られたかのような、そんな荒唐無稽なことが、心の底から湧き上がる。

 しかしその奇妙な感覚は、女性の次の言葉で、完膚なきまでに腑に落ちた。


「中々、強そうな方が、来てくれて、本当に、嬉しいです。遺跡迷路50階層の守護者、金錬の空宮姫、グリフォンの、ネフスフィアと言います。逃げるのであれば、止めはしません。しかし逃げないのであれば、その命、貰い受けましょう」


 ネフスフィア。遺跡迷宮の最後のボス。


「100階層クラスだっ。気を引き締めろっ」

 リーダーが言葉を発したと同時に、周囲の温度が下がったかのように感じられるほどのプレッシャーが、一気に膨れ上がる。

「ネームドモンスターは時折、階層とはかけ離れた力を有していることがあると言うが、これはあんまりだろう……。たかだか50階層に出現するボスがこれほどとは――っ」


 7人のパーティーの内、魔法使いは2人。中距離主体と遠距離主体。

 軽めの盾を持ち味方をカバーする盾が1人で、それから戦闘のバランスを保つ剣士が1人。あとは魔物使いが1人に、戦闘以外で活躍する索敵や鍵開けが得意な者。

 そしてリーダーは、攻撃を受け止めるタンクと回復するヒーラーの二つの役割を担う。


 それゆえ、リーダーと盾がネフスフィアから数mの距離に構え、その後ろにバランサーの剣士。

 剣士の両隣と上には魔物使いの獣と鳥がいて、さらにその後ろに魔法使いの2人。そして魔物使い本人と、大量のアイテムを仲間達に渡すタイミングを見計らうもう1人。


 相手が人型ゆえに攻撃方法の予測がつかない。

 だからこそ、どんな状況にも対応できるこの陣形を7人で自然にとった。紛れもない努力の成果。努力した過去が未来の結果に自信を与える。彼等パーティーには、例え100階層クラスのボスだとしても、負けないという強い気持ちが自然と湧き起こった。

「何の魔物かを隠せることが違う形態を取る利点の一つ。自ら教えたその驕り、敗北をもってつぐなわせてみせようっ」


 その言葉と共に、最後方から魔法が曲線を描くように乱れ飛ぶ。まずは牽制だった。

 回避するか、防御するか、構わず攻撃してくるか、出方を確かめ方針を固めるためだろう。リーダーやメンバーは一挙手一投足を見逃さぬよう目を見開き見張る。そしてそんな監視の中、ネフスフィアの取った行動は、防御だった。


 いつの間にか右手に持っていた槍を、頭上でクルクルと回転させる。

 その恐ろしいまでの回転速度を除けば、槍使いがよくやる防御法である。

「なるほどな」

 リーダーには、ネフスフィアの戦い方が見えたようだ。


 槍を見た際には、グリフォンが槍を使うなどとは、と驚き、このダンジョンはどんな特異なところなんだと、動揺したことだろう。ただし蓋を開けてみれば……戦い方は普通の槍使いだ。

 裏をかいて普通になったというか、奇抜さを狙いすぎたせいで、最も対処しやすい形になっているとは、なんとも皮肉な話。

 武器を持った人型なんぞ、人間や亜人のパーティーにとっては、むしろ一番やりやすいはずだ。なぜならその動きや戦い方を、そして弱点までもを、嫌というほど知っているのだから。


「――は?」

 しかし、見慣れた防御法であるそれによって、もたらされた結果に、誰もがそう口にする。


 ネフスフィアは回転させた槍で攻撃を捌いたのではなく、そこから発生させた霧のようなものによって、魔法の軌道を変えたのだ。

 降り注ぐ魔法は、その霧の中に突っ込むと、まるで目標を見失ったミサイルのように、ネフスフィアに当たることなく硬い地面に着弾し、そこにあった薄い砂だけをどこかへ押しやった。


「なんだ……今のは……」

 牽制に放たれた魔法は、複数あった。しかしそのどれもが同じ結末。

 もちろん、原因はネフスフィアが発生させた霧にある。いや、霧、のようなものにある。それは、ハッキリ霧とは言いきれない。なぜならそれは、太陽の光をキラキラと反射する、金色をしているのだ。


 それにA級パーティーも気付いた頃、ネフスフィアは不敵に笑い、槍を中段に構えリーダーに向かって突きを放った。

 数m離れているために、槍と言えども届く距離ではない。だから代わりに、槍による槍撃が届いた。まるで、霧のような槍撃が。


 リーダーはそれを、腕をクロスさせて防ぐ。


 斬撃とは、生命力か魔力によって構成される一種の魔法である。魔法であるから、存在するためには絶対に遵守しなければならないルールがあり、斬撃にとっては前方へ飛ぶことこそがそれに当たる。つまり一部でも前方へ飛べなくなれば斬撃というのは自然に消滅するのだ。

 槍撃は剣撃とは違って、点の攻撃で躱しやすいが、射程距離が長く威力が高いという特徴がある。だから防御に両手を用い、一瞬でも前方へ飛ばないタイミングを作るという受け方は完璧で、万全なはずだった。


 予想外だったのは、その重さ、そして柔らかさ。


「――ぐうっ、お、重いっ、」

 リーダーの両手が押し戻される。両足で踏ん張っているというのに、体は後方へズルズル動かされる。

 気合を込めて後退を止めても、槍撃は止まらなかった。

 しかしそれはなおも押されたということではなく、驚くべきことに、槍撃はリーダーの前で二股に分かれたのだ。まるで動かない石を避ける川の流――。

「何っ、二股に? まるで柔らかなパン生地が棒で形を変えるようだっ」

 まるで柔らかなパン生地が棒で形を変えるように。


 リーダーの横を取って槍撃は前進し、そして後ろの方で地面と衝突した。


 きっと何が起こったのか意味が分からないだろう。

 だが、分からなくなるのは、ここからだ。


 槍撃は動きを止めた。普通ならば消える。

 しかし消えない。その場に残ったのだ。


 それも――。


「手が――、動かんっ」

 リーダーがクロスして受けた手を拘束して。


 腕はその状態のまま金色の何かの付着によって、全く解けなくなっていた。さらに味方の後ろに避難しようにも、移動することすらできない。

 見れば、腕についた金色の枷の先端は、後ろの方で地面に突き刺さった部分と同一固体となることで、地面に固定されているのだった。


「うおおおおおおーっ」

 リーダーは気合を入れて体を動かし、腕を捻った。

 金色は、バキッとは折れずに、ゆっくり伸びる。まるで――。

「折れないっ、まるで硬いパン生地を千切ろうと格闘している時のようだっ」

 まるで硬いパン生地のようにゆっくり伸びて、ようやくブツッと千切れた。


「はあ、はあ、これは……」

 その場をすぐ離れ、自身の腕に残った残骸や、さきほどまでいた場所にあるソレを見てみると、それは紛れもない……。

「黄、金、だと?」


「お見事。凄まじい、パワーですね。そして、御明察。私は、金を用い、戦います。ゆえに、私に勝つことができたなら、莫大な富を、お約束しますよ」

 ネフスフィアは嬉しそうに笑う。


 普通なら50階層でこんな風に黄金が撒かれるようなボスがいれば、きっと誰しもが歓喜するだろう。

 しかし彼等が今思ったことは、命を捨てて黄金をとりに行く者などどこにいる、それだけだろう。


 ネフスフィアの突きや薙ぎによる槍撃は、全て黄金の霧を伴っていた。そして霧状のまま当たり、霧ゆえに分散。そこから一気に、金属としての形を持ち始める。

 拘束に次ぐ拘束。

 構成を破壊すれば、繋がっている部分全てを破壊できるために、黄金となってからでも対処できるが、どうしても一手送れてしまう。


 選択肢としては躱すしかないが、躱すと黄金は霧状のまま空中に舞い散ることになる。バラバラになっているため、構成を破壊しても効果は得られないというのに、それを吸い込んでしまうと、非常に危険だ。

 A級であるのだから、おそらく体内への干渉などは余程の実力差が無い限り許さないだろう。

 しかしネフスフィアは格上で、それも金に特化している。その時の状態によっては、分からない。


 また黄金は防御にも用いられた。

 魔法に対して金は、触媒として優秀な素材であるために、軌道上に置くだけで簡単にコースを狂わせることが可能で、広範囲の攻撃であっても威力を減衰させられる。

 さらに打撃に対しては、金属の中では柔らかい部類であるため滅法強い。拳を専門とする者からすれば、無敵の防御を誇るだろう。代わりに斬撃への耐性が低いのだが、しかし、その点の対策は万全。剣士の剣は刃が通りこそするものの、完全に切り裂けたことは一度もない。


 味方を守るはずのタンクが拘束され、攻撃に専念するはずのアタッカーが攻撃され、攻撃に専念するはずのアタッカーが拘束され、味方を守るはずのタンクが攻撃され。


 彼等の陣形は、対中距離の防御型の相手と戦う際のものである、全員が自然とその陣形を選んだのだ。

 それはまさしく、過去の努力の成果。だが今度は、自信を与えてくれなかった。

 目の前には黄金郷が見えているというのに、未来に見えるものはすべからく真っ暗だった。


 戦いは進む。

 進むということを、仲間が倒されていく、と定義するのならばだが。


 最後に一矢報いるためにと、仲間は自ら攻撃に突っ込み、リーダーが進む道を作った。

 リーダーの攻撃方法は打撃であるから、ネフスフィアとは相性が良くない。それでも、彼等はそういうパーティーだ。仲間が未来に馳せた思いを乗せ、リーダーは拳を握り締め、汗をほとばしらせながら走った。


 そうして、ネフスフィアが黄金を作っていたのではなく、水を黄金に変換していたのだと気づいた。


 ボスを見て感じた寒気、あれは霧状の水分が体に付着したからだ。

 汗がほとばしるのは、霧状の水分が体に付着しているからだ。

 体の中身の水分を金に変えることは防げても、体の表面についた水分を、しかもネフスフィアが発生させた水分を金に変えることは、弱った状態では防げない。


 パンチを繰り出そうとするその瞬間、体は徐々に徐々に金に変わり、拳があと数センチ伸びれば当たるというところで、首から下全てが金に変えられてしまった。


「くう、すまない――」

 リーダーは僅かに動く口と頭で、最後の最後にそう言った。

「それでは、この、悠久の時を巡る、遺跡と共に、未来を巡る、不朽の眠りを。おやすみなさい」

 そうして彼の新たな物語は、ここから始まる。


「……ごめんなさい。パート2」

 俺の新たな謝罪も、ここから始まる。

「せっかくあの地獄の45階層を抜けてきたのに、なんでここにもこんな強い子がいるんだろうね。……ごめんなさい」

 5組しかいないA級パーティーの一角が、50階層でいなくなっちゃったよ……。


「50階層と言えば、A級になれるくらいの人ならLv60くらいでもいける階層だよ。なのにA級になっててLv180後半くらいの人達がああも一方的に敗北って……」

 一体なぜそんなことが起こるのだろうか。

「それはね、反乱と……あと、下調べのせいだよ」


『 名前:ネフスフィア

  種別:ネームドモンスター

  種族:グリフォン

  性別:女

  人間換算年齢:19

  Lv:80

  人間換算ステータスLv:295

  職業:遺跡迷路50階層の守護者

  称号:金錬の空宮姫

  固有能力:空路の創造者 ・空中に迷路を生み出し自在に操る。

      :未来の栄冠 ・HPMPなどのステータスや気力などを最大値より上昇させ、一定時間減らなくする。

      :黄金倫理 ・金を操作でき、持つ性質や状態をも自在に変化させられる。

      :道理の一撃 ・敵対者が防御している部位に対する拘束効果を増幅する。

      :幸運暴走 ・幸運の力を増幅させ、何らかを引き起こす。

      :金界の魔眼 ・左、視界内の対象物を、特性を残したまま金に変質させる。

      :純粋因果 ・純粋に交わる。

  種族特性:黄金の守り手 ・黄金と関わる際ステータス上昇。行動と結果に補正。

      :グリフォンの翼 ・空を自在に飛ぶことができる。嵐を無効化する。

      :象徴 ・威圧に補正が入る。状態異常への耐性上昇。

      :獰猛な巨躯 ・物理攻撃ダメージ上昇。物理防御ダメージ減少。

      :鷲の目 ・視界の一部を拡大する。

  特殊技能:エネルギードレイン ・生命力と魔力を干渉するたびに吸収する。

      :アシッドカウンター ・残り生命力残り魔力が少ない程強力な一撃を繰り出せる。

      :ゴールドカード ・攻撃を金に変換する。

  存在コスト:3000

  再生P:10000P 』


 金に変えた霧を操り、防具の上から、そして体表から拘束する戦法を得意とするネフスフィア。また吸入させることにより、対象を金化させてしまう能力も持ち合わせる。

 主には金の槍撃を使い、中距離での戦闘を行うものの、攻撃よりも防御に重点を置いたスタイルであり、霧状に浮遊する金で魔法を、盾のような形状の金で物理攻撃を無力化し、果てにはそれで包んで本人すらも無力化する。

 金化も含め、なんとまあいやらしい戦い方だ。


 そしてもちろん、実力も高い。

 ……でも、A級冒険者を圧倒できるほどじゃない。普通は負ける可能性をはらんだ危ない戦いになるはずだ。A級ってのはそのくらい常軌を逸したヤバイやつらなのだ。


 だが、予めそのA級冒険者への対策を練りに練っていれば、圧倒できるかもしれない。

 他のダンジョンでの戦いも聞き込みして、万全の状態で待っていれば、あるいは……。


 ダンジョンモンスターがそんなことやっちゃいかんよ……。例えこのダンジョンの伝統だとしても……。え、なにその伝統……。

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 涙が頬を伝う。


「あと反乱しないで……」

 頬を伝いまくる。


「というか、前にヌミスフィアと戦ったパーティーって全滅してなかったんだねえ」

 6名中4名が亡くなったって言ってたから、定義的には全滅だが、6名全員亡くなったと思ってたよ。

『強くなりそうなのは残しておけということだったので生かして返した者もいます。心折れるか復讐心に燃えるかは分かりませんけど』

 そう考えていると、ヌミスフィアから通信が来た。……こいつ、心を読んでいるっ。


『読んで、おりません。ちなみに、今回の、A級パーティーですが、強くなる見込みを、感じたため、誰も殺しておりません。しかし、どうやらリーダーは、パン屋に、転職するようです』

 そう考えていると、ネフスフィアからも通信が来た。……やっぱり心読んでるじゃないっ。


 ん? A級冒険者からパン屋になるのかい? ええー……、あ、でも驚きはないな、なんか例えが毎回パン生地だったし……。

「あ、というかヌミスフィアや。このパーティーもそうだけど、45階層でヌミスフィアと戦ってないパーティー多くない? 45階層に10組辿り着いて、その内貴女が戦ったのって最初のB級と、あともう1組だけでしょ? あと全部マスプロモンスターのバジリスクじゃん……。どうして戦ってないの……」


『風呂入ってたりご飯食べてたり眠ってたりあとはトレーニングしてたり遊んでたり忙しいんです』

『わたしも本日、勝ちましたので、これから二週間ほど、バカンス休暇を、申請しています』

『そうなのっ? なんで言ってくれなかったのっ? わたしも行く行く行く行く行く行く行くどこ行くのっ? 行く行く行くぅーっ』

『ええええーい、うるさい、うるさい、うるさいっ。分かった、分かった、分かった、分かったから、分かったから。……はあー、ということです。それでは』

 ……。

 ……。


 頬をおおぉ。


「はーいダンちゃんっ。呼ばれて飛びでてじゃじゃじゃじゃじゃーん」

 と、その時、玉座の間にマリアンヌが飛び込んできた。

「じゃ多くない?」

「今日もまたたくさんお喋りしましょーっ、ふふふふダーンちゃーんっ」

 マリアンヌは女の子らしく、腕を曲げながら可愛く走り寄ってくると、玉座に座る俺の目の前で膝をついて、太もも辺りに顔を埋め上目使いに見つめてくる。

「えへっ」


 最近俺は侵入者を見るために玉座にいることが多いので、マリアンヌもここに来るようになった。そしてその時には、こういった体勢でお喋りをすることが多い。

 しかし丁度良かった、ヌミスフィアとネフスフィアはマリアンヌの部下である。彼女達に叱責と改善をして貰うため、俺はマリアンヌに2人の素行不良を伝えることにした。

「マリアンヌさん、マリアンヌさん……。これは別に告げ口ってわけじゃないんだけど、貴女の部下がね、ヌミスフィアとネフスフィ――」


「――あたしの前で他の女の話をしないでえええええーっ」

「えええええっ」

「ああああああああーっ」

 マリアンヌは立ち上がってどこからともなく包丁を取り出し、俺に向けて構える。


 忘れていたっ。我がダンジョンでは関わる時期が早いほどいかれていて、そして、マリアンヌもご多分に洩れないことをっ。


「ああああああーっ」

「ああああああああーっ」

「ああああああ、包丁を持ったまま大きい声出さないでえええ」

「あああああああああーっ」

「ああああああーっ」


 なんてこったいっ。


お読み頂きありがとうございます。

またブックマークや評価、ありがとうございます。


この話は非常に長くなっております。すみません。ただ、分割はしません。すみません。

これからの話も、もしかするとこのくらい長くなるかもしれません。ただ、分割はしません。本当にすみません……。せめて1万字程度で収められるよう、がんばります。

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