第129話 マリアンヌ。……マリアンヌ……。
悪逆非道のダンジョンマスター心得その18
頑張りたくなる敵でいましょう。絶望感多めで。
ダンジョンと神様の関係は、複雑そうに見えて簡単だ。
神様がダンジョンマスターを作り、力を与え、そして原生生物の成長に害を成すと判断したのなら、神の力をもって終わらせる。そんな関係。
だから悪辣なるダンジョンに対しては、人間や魔物などに力を与えて神の使徒とし、送り込むこともある。
しかし、直接神自身が乗り込んでくることは、まずあり得ない。
過去、1万年以上遡れば、数度はあった。まだ原生生物が安定すらしていなかったその時期は、ダンジョンマスターも、自身と同種族の生物を繁栄させてやろうと、まだ無茶をしていたから。だが原生生物が安定し始めたここ1万年くらいは、ただの一度もない。
「んー、良い気持ちだわーっ」
にも関わらず俺の目の前には、たくさんの空気を吸いながら、胸を張り、大きく伸びをする神がいた。
愛と勇気の女神、マリアンヌ。神の中でもかなり上位に位置する八大神が1柱。
本体ではなく拠り代であるものの、力や権限に制限がかかっているだけで、在り方は本体と変わらない。正直、神が直接来るのと同じくらい、ただごとではない。
征伐、成敗。俺の脳裏にはそんな言葉が浮かんだ。
嘘だろう?
まさか神は、このダンジョンが悪辣なダンジョンだと思っているのか?
むしろ悪辣を越え、悪逆非道なダンジョンだと思っているのか?
直接成敗するのも当然、そんなダンジョンだと思っているのか?
仰る通りです。
ごめんなさい。
ここは悪逆非道をも越えるダンジョンです。
じゃあダメじゃん……。
そうか、そんなに俺は悪い事をしていたのか。
改めて、思った。
直接降臨できるはずの神が、わざわざダンジョンモンスターとして生成されたというのも、おそらくはそういうことだろう、と。
ダンジョンマスターにとって、ダンジョンモンスターは絶対的な味方である。だからダンジョンモンスターに殺されることは、ダンジョンマスターにとって最もショッキングなこと。
そして、最も悲しく、最も恥ずべき申し訳ないこと。
なぜなら、そのような絶対的な味方に裏切らせてしまうほど、みっともない行いをしていた証明であり、ダンジョンモンスターの本懐であるはずの侵入者の成長さえ、叶えられないということなのだから。せめて神の使徒に殺されていれば、糧になれたというのに。
神ならば、使徒を送り込むのが一番楽だ。
確実性を思うなら、直接来るのが一番だ。そちらの方が簡単で、そして強いのだ。素のままの神ならばダンジョンの破壊など、指先1つで問答無用に行える。
ダンジョンモンスターとして現れるなんぞ、弱体化でしかない。返り討ちにあう可能性だってある。
それでも、苦渋を味わわせるために、わざわざそうしてやって来た。
この事実だけで、俺の悪が一体どれほどのものだったのか、分かってしまう。
「しかしそうか、ならばここが、年貢の納め時ということか……」
俺は呟く。
小さな小さな呟きだった。
だが決意は、固まった。いや、元々固まっていたかな? 多分、それだけは。
「神よ、いや、マリアンヌよ。抵抗はしない」
俺は目の前のふざけた態度の神に言い放つ。その目は先ほどの死んだ目とは違う。決意をした、漢の目だ。
「だが、1つだけお願いがある。悪いのは俺だけだ。このダンジョンにいる全ての者達に一切の責任はない。手を出さないと約束してくれ」
俺は右手を横に伸ばした。通せんぼをするような手は、ネームドモンスター達の元ヘは行かせないという意思を示す。守る意思を示している。
そしてもう片方の手は、言うなれば攻撃の意思を示した。
「もしそれが約束できないのならば。彼女達も同罪だと言うのならば。そこから先にはもう、言葉はない。必要ない」
左手はゆっくりと握り締められ、そこには拳ができあがる。
「たかだか拠り代ごときで、ダンジョンマスターに歯向かう愚かさを教えてやろう」
ダンジョンにおいて、ダンジョンマスターは最強である。
確かにPがなければできることは何もない。しかし、ダンジョンが定めたルールを犯す者に対しては、別だ。Pを使わずとも、行使できる力は山のようにある。
そしてそれは少なくとも、拠り代に持たせることのできる神の権能や権限よりも、圧倒的に上。
負けない。負けてなるものか。
それが悪逆な行いだろうが、誇りに背く行いだろうが、そんなことは最早どうでも良い。そんなもの、自分の命より大切な程度でしかない。それよりも大事なものが、俺にはもう75もあるのだっ。
「ふふふ」
マリアンヌは伸びや深呼吸を終えると、そんな風に笑い始める。
「ふふふふふふ。うっふっふっふっふーのふーっ」
ふざけた笑い方だ。
だが、俺は予感する。
――来るっ。
神の拠り代と神に最も近き者の戦いが、今、始まるっ。
「刮目せよっ、変身っ。ダンジョンマスター、第二形――」
「ユキちゃーん、おっひさーっ」
「――態っ。え?」
マリアンヌは、俺が横に伸ばしていた右手の下を、ひょいとくぐり抜けると、頭の上で大きく手を振りながら、砂浜を駆けて行った。
そして晩ご飯の製作会場まで行き、カラオケの順番を待っていたユキに飛びつく。
「おー、マリアンヌ。着いたのか。直接会うのは5年、6年振りくらいか? じゃあ、久しぶりだな」
ユキは座っていたソファーに押し倒され、マリアンヌを見上げそう話し始める。
あれ?
「だねー。元気してたー? って、でもずっと電話してたからそんな感じしないわっ」
マリアンヌの声は随分はしゃいでいる。
電話?
「まあ確かに。ま、じゃあこれから頑張ろうな。目下の目標は、最強決定戦優勝で」
ユキは、マリアンヌが来たことに対し、至って普通に対応している。日常的な会話というか……。少なくとも、神がダンジョンを終わらせにやって来た時の対応ではない。
どちらかといえば、旧友が尋ねてきたような。
「モチのロンよっ。頑張るわっ。ねえねえ、それじゃあね、ユキちゃん聞いて。あたしのここに来るまでの、波乱に満ちた冒険譚をっ」
「え? いや、それは別に。あ、ワタシの番だ、マリアンヌ、ちょっとすまんな。キキョウマイク、パスパスっ」
いや、旧友が尋ねてきたとき以下だな。
ユキはちょっと話しただけで、すぐに歌い始めた。
最近色んな歌を覚えてきたからって、調子良く歌っている。上手くもなった。
でもカラオケを優先するんじゃないっ。
何がなんだか良く分からないけど、久しぶりの再会ならもうちょっと会話を続けなさい、凄い話したさそうにしてたよっ。
「え、うん。そ、そっか」
ほら、マリアンヌが動揺してるよっ。
神様だから無下に扱われたことなんてないだろうに。
そういえば、ユキはマリアンヌから加護を貰っていた。異世界からユキを連れてきたのも、マリアンヌなのかもしれない。だから顔見知りってわけか……。
「しかしつまり、マリアンヌは戦いの前にユキとだけ会話をしに行ったってことかな? ならば会話の終わったこれからが本番ってことか」
ゴクリと俺は生唾を飲み込んだ。
本気の戦いが、今こそ始ま――。
「あ、マキナちゃんおっすー」
――らなかった。
マリアンヌは気を取り直すと、今度はマキナの元ヘ。
「お、マリアンヌ。おっす、やっと来たのか」
どうやらマキナとも顔見知りだったようだ。
「マキナちゃん聞いてーあたしの冒険譚っ」
「ようやく最強決定戦に参加できるな。頑張ろうぜ、んじゃアタシ、火、起こさなきゃなんねえから」
だが、マキナもまたちょっと話した後すぐに火起こしへ。まだ点いてなかったのか。
……いや、マリアンヌって神だから、ちょっとあの、その扱いは……。え、どういうこと?
「セ、セラちゃん、来たわー。あたしが来たわーっ」
「こうして顔を合わせるのは初めてですね、マリアンヌ。石像よりもお美しいですよ」
マリアンヌは今度はセラに話しかけた。
「いやいやそんなー。もうセラちゃん上手ー。でね、聞いて、あたしの冒険譚をっ。まずねー」
「ありがとうございます。それでは私は盛りつけがありますので、では」
しかしやはりけんもほろろ。セラ、盛り付けは後でも良いんじゃないか? もう少しお話し……。
というか、戦わないの? 戦いが、……いやもうそこはどうでも良いよ、もう少しお話ししてあげて……。
「オ、オルテちゃん、オルテちゃん、あたしが来たわ」
「……」
「オルテちゃん……」
「……飴、舐めてるが?」
「ごめんちゃい……」
オルテ……。
「ロ、ローズちゃんっ」
「おやマリアンヌ。有言実行ですね、これから一緒に頑張りましょう。では、私は肉をかき集めて来ますので、これで」
ローズ……。
「キキョウちゃん」
「マリアンヌ、初めましてじゃの。これから共――おいユキ、2曲連続は駄目じゃぞ、交代じゃっ」
キキョウ……。
「ニルちゃん……」
「パクパクパクパクモグモグモグモグモグバクバクバクバク」
ニル……。
……。
……。
「……あたしが、来たよー……。凄く色んなことして、ここに来られたの……。だから、これから、一緒に、その……。たくさん……遊ぼう、ねー……。……」
…………。
マリアンヌは、ユキを異世界からこっちの世界に連れてきた張本人。といっても選んだわけではないが、力を与えたりしたのはマリアンヌだった。
その関係で加護を与えたところ、ユキ自身の能力が高かったこともあり、神託よりも身近な会話ができていたらしい。最初の頃は教会でしか話せなかったが、ユキが人間から半神に進化してからは、さらに身近に話せるようになり、たくさんの会話をしていた、と。
また、ユキや、神性を持つニルを介してだが、マキナやセラ達とも会話が可能であった。
城が空に浮かび上がったことと、俺が数々の勲章を得たことで、そちらもどんどん繋がり易くなっていったようだ。
だからこそ、もっと話したくて、良い勲章はないかと聞かれればアレが良いコレが良いとすかさず答え、このダンジョンを強固にしていくことにも、貢献していた。
電話ができてからは、神性を持つ者を通さずとも話せるようになっていたので、毎日電話をしていたんだとか。
自然な会話は新鮮で、とても楽しかったそうだ。それに二期組の生成前から、つまりユキが加わった頃からダンジョンのことをずっと見ていて、その様子をとても快く思っていたから、余計に。思わず電話が長電話になってしまうほど。
そうして過ごした時間は、神として過ごした悠久の時間に比べて非常に短いものではあったものの、気持ちはどんどん大きくなっていった。
ダンジョンに混ざりたいと思う気持ちが。
「それでね、色々話を聞いて回って、神殿があったらあたし降りれるんじゃないかなと思って……、それで神殿作ってってお願いしたら凄いの作ってくれたから、本当に降りれるようになって……」
そんなことを、マリアンヌは語っている。
「うんうん」
俺の隣まで戻ってきて、背中をさすられながら。
「だから、もうすんごい嬉しくて来たの……」
「そうかあー」
俺はマリアンヌの言葉に相槌を打ちながら話を聞き、遅ればせながら現状を理解した。
どうやら俺を成敗しにやってきたわけではないらしい。
むしろ、内容的には真逆で、遊びにやってきていた。
「来るのはすんごい大変で、許可をいっぱいとらないといけなかったんだけど、でもあたしそういうのが苦手で」
「うんうん」
「だから全部無視しちゃったら凄い怒られて。でも行きたかったからもうすんごい頑張ったの。頑張ったの……」
「そうだったんだ。頑張ったんだねえ」
過程には色々な苦労があったようで、だからこそ、歓迎されると思っていた。
いらっしゃい、いや、おかえり、かな? そんな風に迎えられ、久しぶり、初めまして、大変だったね、と、電話越しではない直接の会話が待っている、そう思っていた。だが実際に待っていたのは、ごくごく普通の対応。家族が出先から帰ってきたくらいのもの。マリアンヌからすれば期待を裏切られたと言っても過言ではなかった。
「分かってくれる?」
「ああ、分かるとも」
俺は上目遣いで目を潤ませ見つめてくるマリアンヌに、柔らかい微笑みを浮かべながら頷いた。
分かるとも。
よく分かるさ。
凄くよく分かるさ。
けど……、でも、ちょっと待って、俺まだついていけてない……。
項垂れながら戻ってきたから、思わず話を聞いちゃったし、話は分かったんだけど、受け入れられるかどうかはまだ別だ。
生成しようとしたら乗っ取られました。犯人は神様で、神様が生成されました。
その神様の登場は、俺以外にとっては周知の事実でした。神様の目的は遊びです。
神様はとても楽しみにしていましたがしかし、挨拶したところ諸手を挙げての歓迎はなく、ごく普通の冷めた挨拶のみで、神様はとても落ち込んでしまいました。今は俺の隣で涙ぐみながらずっと喋りかけてきてます。
ここまで何一つ予想が当たってないもの。
神様の登場だなんて、一大事もいいとこだ。
まずダンジョンモンスターとしてやってきたことが、予想外の予想外だ。
さらにその目的が遊びだったなんてことにも驚きだ。天地がひっくり返るほど驚いた。
そしてそれがまさか、歓迎されてないなんて……。歓迎されてないことに、神様がここまで落ち込むだなんて……。
「やっぱり歓迎……、されてなかった?」
見ろこの落ち込みようを。
さっきまであんなにも明るく、いえーい、なんて言っていたのに、その面影はどこへやら。
表情は尋常ではなく暗くなり、俯き、肩も視線も落ちきっている。
砂浜にある足跡も、みんなのところへ行った時には一歩の間隔が広く軽快だったのに、こちらへ戻ってきた時のものは、同一人物とは思えないほど狭い。きっとその差がそのまま、マリアンヌの感情の落差なのだろう。どんだけ……。
「いやそんなことない、そんなことないよ。歓迎されてる。歓迎されてるよ」
「だって、ダンちゃん、今歓迎されてないって……」
マリアンヌは顔をさらに暗くした。
予想外の方向過ぎるぜ何もかも。何一つ予想通りでありゃしねえっ。
せめて、せめてみんな、もうちょっと話聞いてあげてっ。
そこが仲良かったら1つ予想通りだよ。俺ももうちょっと受け入れられたよっ。なのにそこが違うんだもん。
裏切られ続けてもう何を信じて良いのか分からない。
俺は一体どこからツッコミを入れれば良いんだ。
あと、今更だけど、生成に21万Pかかってるんだよ。所持P全然足りないじゃんっ。
借金7万Pだったのに、今や28万Pくらいに膨れ上がってるよ。どうして、どうしてっ?
「……ごめんなさい……」
「違うよ、マリアンヌには言っていないよ。落ち込まないで」
これまでも激動のダンジョンマスター生を歩んできたと自負しているが、これまでの激動を越える激動が今訪れているんじゃなかろうか。
俺はツッコミを入れたい気持ちを飲み込んで、マリアンヌの背中をさする手にさらに優しさを込め、言う。
「歓迎してないわけじゃないと思うよ。あの子達は、自分勝手で自由気ままだから、何か熱中してるときはあんな感じなんだ。本心では間違いなく喜んでいるさ」
マリアンヌを慰め元気付ける言葉を。
「俺は嬉しいよ。マリアンヌが来てくれて。待っていたよ、ずっと待っていたね、実は」
元気になってくれと、神様ではない誰かに祈りながら。
ああ、そうだ、ともかくマリアンヌに元気になってもらおう。
まず、元気付ける。
ここのおかしさを直すのだ。
マリアンヌの、このもの凄い落ち込みようがなくなれば、次の問題に着手できる。
うんうん。
問題を一気に解決するなんてこと、俺にはできっこない。今までの経験から、俺はそれを知っている。
だから、1つ1つ解決するのだ。
マリアンヌがやってきたこと、みんなが知っていたこと、俺の借金。それらの問題は一先ずさて置いて、今はマリアンヌを元気付けるのだ。まずはそこを解決する。
任せろ、俺が今までどんなダンジョンマスター生を歩んできたと思っている。
仮にもマリアンヌは俺のネームドモンスター。元気付けるなんて、容易いことさ。
「マリアンヌや。言葉での凄い歓迎はなかったかもしれない。でもね、それで心までがなかったとは限らないんだよ」
「え?」
マリアンヌはその言葉に、項垂れた顔を上げ、再び俺を上目遣いで見つめる。
「俺はこのダンジョンで、見ようによっては虐げられているように見える。マリアンヌも見ていたから分かるだろう」
「うん」
「しかし、だからと言って、彼女達は俺のことを嫌っているわけではない。むしろ好いていてくれている、俺はそう思う。ひしひしと、愛が伝わってくるのさ。マリアンヌも、見ていたから分かるだろう?」
「……」
「分かるだろう?」
「え、あ、うん」
「彼女達の心の中身というのはそんな風に、行動と必ずしも一致するわけじゃないんだ。今回も行動で歓迎は表されていなかったかもしれない。でもね、きっとその心は、マリアンヌを歓迎する気持ちでいっぱいだった。俺は、そう思うよ」
「ダンちゃん……」
マリアンヌの目は、俺の言葉で潤んでいるように見えた。
「少なくとも俺は、マリアンヌを歓迎しているよ。初めましてマリアンヌ、そしてお帰り、マリアンヌっ」
そうして俺は背中をさするのをやめて、その手をマリアンヌの前に差し出した。握手の構えである。
「ダン、ちゃん……」
マリアンヌはその手をしばし見つめると、おもむろに握り締めた。
「ううう、ひっく。ありがとう、ありがとうダンちゃん。あたしのこと、こんなに考えてくれるのね。ダンちゃん優しい。ううう、優しいっ、ううう、ひっく」
その手をそのまま抱え込むように胸に当てると、涙を流し縋りついてきた。
「よーしよし、もう大丈夫だマリアンヌ。よくきてくれた、力を合わせて頑張ろう。神様が味方についてくれたなんて心強いさ」
「ダンちゃん好きぃぃぃ。ありがとおぉぉぉ」
「いいってことよ。これから仲良くやっていこう、マリアンヌっ」
マキナ達7人は、後輩達に対してはある程度面倒見が良い。7人共、それぞれの形で。色々と世話を焼いてくれることだってある。二期組がああも強く逞しくなったのは、そのおかげとも言えるだろう。
だがおそらく、マリアンヌは同格なのだ。
ユキと同時期にダンジョンに関わっているから、扱いとしては初期組。後輩ではないので、世話を焼く必要も気を遣う必要もなく、言葉を飾るようなこともしない。
また、そういった相手を歓迎するというのは、気恥ずかしいものがある。
彼女達はみな恥ずかしがりやなので、素っ気無い対応になったのもきっとそれが原因だろう。
「だから、言葉や態度はそうでも、歓迎してるはずさ。俺には分かる。マリアンヌも今までずっと見てきたんじゃないか? なら、分かるだろう? 元気だそうぜ」
「そうよね。歓迎してくれているわ。だって、毎日5時間くらい電話してたんだもの」
「だろう? 凄く仲良いじゃないか。……5時間?」
「あ、そうだ、冒険譚の内容とか、もう話しちゃってるから、それで聞かなくて良いと思ったのね。なーんだ。最近は皆、あたしが話してるのに途中で切るから、嫌われちゃったのかと思ったわ」
5時間……。
5時間は長くない?
「メールも毎日300通くらい送ってたし、ダンスタのコメントも100コメくらい書いてたし、もう直接話してるみたいな感覚だったのかもっ」
300通……。多いか? いや多いよなあ。
原因……こっちか?
本当に歓迎……。
ま、まあ元気付けは見事成功した。
オッケーでしょう。うん。……ん? ダンスタってなに?
「ダンスタは写真を載せるSNSだわ」
知らないのが出てきた。あとさっきから心の中をナチュラルに読んでくる……。
「え、嫌? 嫌なの? あたし、嫌なことしちゃった……? ダンちゃん嫌いにならないで……、ううう、ひっく」
「いや全然、全然大丈夫。泣かないで大丈夫だよ。ダンちゃんはそんなことでマリアンヌを嫌いにならないよ」
「本当に? ……ダンちゃん……好きぃぃ」
「ありがとうありがとう。俺もマリアンヌが好きだよ。これから仲良く――、いや、ずっと一緒だったんだよな。なら、これからも仲良くやっていこう」
「――うんっ」
マリアンヌは俺が言い直した、これからも、の言葉が嬉しかったようで、涙を吹き飛ばすくらいの最高の笑顔で笑った。
「これからダンちゃんにも毎日電話するからねっ」
「……」
「メールいっぱいするからね。やってるSNS全部教えてね、更新したらすぐコメントするからっ」
「……」
「毎日会いに行くから、いっぱい話すわ。あ、でも大丈夫、ダンちゃんもダンジョンマスターのお仕事があるんだし、直接話すのは4時間くらいにするわっ」
「……うん。了解」
……。
……。
……なんか、依存の速度おかしくない? 大丈夫?
「もうダンちゃん無しじゃ生きていけないと思うわ。ううん、思うじゃない、絶対だわ」
大丈夫じゃないな。
俺が生成したらやばくなるルールって、神様にも適応されるの?
あれー?
珍しく作戦が成功したと思ったら……、これ実質失敗じゃない?
だって、問題の数が変わってないもの。
生成しようとしたら乗っ取られました。犯人は神様で、神様が生成されました。
その神様の登場は、俺以外にとっては周知の事実でした。神様の目的は遊びです。
神様はとても楽しみにしていましたがしかし、挨拶したところ諸手を挙げての歓迎はなく、ごく普通の冷めた挨拶のみで、神様はとても落ち込んでしまいました。
それを慰めたところ、神様は依存が激しく、これから毎日俺に電話とメールと会話を超絶行ってくる予定です。
減ってないもの。
落ち込んでいるという問題を解決したと思ったら、別の問題が追加されてるもの。
嘘でしょ? こんなの永遠に解決できないじゃん……。
「つまり、あたし達の関係は、永遠ってことだわっ。やったわっ。嬉しいっ、ダンちゃんっ。好きっ」
両手を繋いで、くるくる回るように踊りだした俺達。
「ありがとう」
果たして、そう答えた俺の目は、生きているのだろうか。
「と、いうわけでー、ネームドモンスター勢揃いっ。さあ、レッツパーリーっ、いえーい。はい、ダンちゃん。いえーい」
「……いえーい」
答えは、目の前のマリアンヌだけが知っている。
なんてこったいっ。
お読み頂きありがとうございます。
また、ブックマークや感想、誤字脱字の御報告、ありがとうございます。
モチベーションにして頑張らせていただきます。
前回、これで誤字脱字はゼロだっ、と意気込み投稿しましたが、結局ありました。私の目は節穴です。
ちなみに、それら○○、のところを、それらは○○、にした方が良いとのご指摘に関しましては、それら○○の方が、語呂が良いかなと思い、そのままにしております。ご指摘下さったのに申し訳ございません。
しかしそれら以外の部分は、そうさせて頂きました。ありがとうございます。
ただ、今回こそは、誤字がないのではないかな、と思わないでもないです。
頑張って確認しました。あったら、本当にすみません。
ともあれお読み頂きありがとうございました。




