第127話 管理人、ハヴワヴテ、ヒルキズ、ファウ、ペヘペエイル、ホウキ。
悪逆非道のダンジョンマスター心得その16
時には諦めも肝心です。うん。
メイド5人を生成し、残すネームドモンスターは6体となった。
101階層から109階層の庭園の管理人。
77階層、海の管理人。
55階層、病院の管理人。
同、刑務所の管理人。
44階層、町の管理人。
11階層、神殿の管理人。
全員、管理人であるため、一度に6体全員生成してしまおうか。俺はそう思ったが、しかしやめた。
忠誠心がないから攻撃されるとか、そんなことでやめたのではない。これまで俺を攻撃してきた者はいなかったから、これからもきっとない。まだ見ぬメンバーのことも、そこだけは信じられる。
だがそれでも、俺は一度に5体を越える数を、決して生成しない。
「なぜならこれ以上一度に受けるショックが増えれば、俺の心が耐えられなくなるからだっ」
俺は先ほど生成した子達を見た。
思い思いの水着に身を包んだ執事やメイド達は、やりたい遊び場へ直行した。ナーヴェとニーヴェはビーチバレー、ヌカリエースとネストラートは砂遊び。それぞれ同じ遊びを選択したというのに、なぜだか喧嘩ばかり。もう少し仲良くしてくれれば良いのに、と思った俺は、やってしまった。
「セラ、あの子達の仲を取りもってあげるんだ」
「かしこまりました。チヒロ、ツバキ、貴女方に任せます。お茶会を開いてあげると良いでしょう。先ほどの料理も完成したようですので、一足早い歓迎会を開いてあげなさい。私は花火の準備に行きます」
「はい、セラ姉さん」
「はい、セラ姉さん」
結果として、今は、それぞれとても仲良くなった。
「大丈夫ですか、ニーヴェ。意識は、保てていますか? 独りにしないで……」
「健在です、ナーヴェこそ。ああ、絶対に、絶対に独りにし……な……ぃ……」
「あううう……、あううう……ですえ。ネストラート、助けて」
「ヌカリエースがお腹一杯みたいですえ。ちょっと風に当たるところに連れてってあげたいですえっ。お願いしますですえー」
ごめんよ……。ごめんよ……。俺があんなことを言ったばかりに、こんな辛い目に……。
なんて大きな罪悪感だ……。こんなのが増えてしまったら、俺はもう耐えられないよ……。
そしてノーヒエ、すまなかった……。
「チヒロ先輩、ツバキ先輩、ひっく、ひっく。どうしたら良いでございませ。ひっく。ノーヒエは水着を生成してるはずなのに、ノーヒエの水着が全然出てこないでございませ。ひっくひっく、帽子とスカーフは出てくるのにでございま――、え? 帽子のこれがパンツで、スカーフのこれがブラでございませ?」
更衣室から泣きながら真っ裸で出てきたノーヒエは、頭と首に水着を巻いて出てきていた。どうやら水着への理解が足りなかったらしい。
もうちょっと賢く生成してあげられたら。すまない……。
「5人を生成しただけでも、こんなに苦しくなるんだ。これ以上多く生成するなんて、俺には到底できやしない」
チヒロとツバキの料理を俺はいつも食べてるし、ノーヒエの裸を見たということで罰金刑を食らったし、苦しめてるのは基本的に初期組か二期組かのどちらかな気がするが、ともあれ、一度に5人が限界です。
だから、残っているのも6体だが、一度に生成はしないことにした。
3体3体ずつか、4体2体ずつか、5体1体ずつかに分けようと思う。
「そうだなあ、普通は3体ずつが一番平和だよな。でも、最後が楽な方が良いからなあ。5体1体にしよう」
最後のネームドモンスターは、一応特殊な役割だからね。
「しかし、優しさを目指しても結局こうなるのか。全然ダメじゃねえか」
俺は惨状を改めて見て、そう思った。
優しくないことはなかったのかもしれないが、優しいわけではなかった。少なくとも、感じることはできておらず、結局いつもと同じ。完全にセラに騙された形だ。
Pをいくらかけても結果は変わらない。
優しさはやばさに変更されてしまう。
「初期組の生成の時も、二期組の生成の時も、俺は優しさを求めていたというのに、唯一求めたものすら手に入らないとは……」
だったら俺は、これから何を目指して生成すればいいんだ。
完全に真逆なのが生成されるのに、一体何を……。
今日何度目か分からない悲嘆に飲み込まれ、俺は砂浜に膝をついた。
「ん? 真逆?」
だが、そう、その時、俺の灰色の脳細胞は、再び閃いた。
脳は急速に回転を始める。
「ということは、ヤバイやつを目指せば、優しい子が来る?」
それは、悪魔のような閃きだった。
「いや、そんなわけはないか。普通にヤバイやつが来て終わりだ。うん」
俺は手を振ってすぐさま考えを打ち消した。
あるわけがないと。
「……」
けれども、一度思いついてしまった以上、それは脳裏にこびりつく。一定の理があるため、なおさら。一抹の可能性。それは本当にほんの一粒。文字通りの一抹。しかし一筋の夢が俺の心の中に広がった。
どうしても、試してみたい。そんな衝動に駆られたのだ。
今回生成するのは、管理人の中でも、侵入者と関わる管理人達である。
庭園は侵入者にとって、疲弊した体と心を癒す重要な場所であり、海は誰もが楽しめる遊戯の場所。
病院は言わずもがなであるし、刑務所とて厚生を目的とする施設だ。町だって住み良い環境にする必要がある。
配置するネームドモンスターは必ず、常識を強く持った者でなければならない。
やばいやつは絶対にダメだ。
だが、しかし……。
「でも、そうなんだ。今まで通りやったら、結局いかれたメンバーがそれを務めることになるだけ。なら、僅かでも可能性がある方にかけるべきだ」
俺は言い、そして決める。
「良し。俺はやるぞ、めちゃくちゃやばいやつを目指して生成するんだ」
さらにその上で。
「初期組も二期組も影響を避けるために近寄らせない。もちろん携帯電話もこうだっ」
俺はちゃぶ台の上に置かれた携帯電話を手に取ると、電源をOFFにした。
これで、悪影響を受けることもない。
「正直、危険はある。先ほどはないと予想したはずの、忠誠心のなさによって俺が攻撃されるという大きな危険が、やばい子ゆえに再びある可能性を持つことになるからだ。しかし、俺はこのダンジョンを、侵入者と深く関わり、共存共栄していくような関係にしたいと思っている。そのためなら、いくらでも危険なんぞ背負ってやるっ」
覚悟はある。
いくぞっ、ラスト一歩手前の生成だっ。
まずは、101階層から109階層にある、天空城砦の庭園の管理人。
ミロクを見事に打ち倒し、天空城砦へと上がって来たなら、まずここに辿り着く。どこにも魔物の出ない休憩階層だ。
豊かな緑と花々に加え、流れる小川があるここは、誰しもが心癒される階層だろう。もちろん、実際に傷を癒し体力や気力を回復させる効果もあるために、心癒されるとは比喩ではない。
ダンジョンでなければそれらの庭園は、木々が伸びてきたり花が枯れたりなど、様々な手入れが必要だが、ダンジョンは常に最善に保たれるため、そんなものもいらない。
常に完璧な空間となっている。
しかし、それで果たして正解なのだろうか。常に完璧で、常に同じで。
いいや、真に心癒されるとは、そこに人の手が加わっていなければならない。誰かの手が、誰かの想いが、誰かの心が、加わっていなければならない。なぜなら完璧という字の中に、心という字は入っていない。真心こそが、真の心と書き表すのだ。
というわけで、剪定したり、花を植え替えたり、小川の掃除をしたり。そういったことをする者が、ここの管理人。
庭師だ。
庭師なんて真面目で丁寧な仕事が求められるのに、やばいのにしようとしてるとは、なんとも……。
「まあでも決めたんだから、やるしかない。そうだな、木々などに関連がある我が家でやばい子といえば……、オルテかな? 昔はそこかしこを専用の庭にしていたくらい、ガーデニングが好きだし」
というわけで、オルテを踏襲する。
「種族は……、ダークエルフに近い種族として、木を司る種族が良い。確か、トレントはダークエルフと相性が良かったよな。それから飴が好きというように、何か好きなものをつけて。……ただ、食べ物だと永遠に要求されるから、それ以外。で、どうだろう」
『 エルダートレント
ユニーク
性別:女性 ・・・0P
造形:人型 自在変化 タレ目の印象 強面 ・・・1250P
性格:リセット癖がある 自然以外に対しては焼き畑農業を適用したがる お花が好き 花がないと耐えられない ・・・1150P
特徴:華道家 鋏使い 庭園の作り手 心動かす者 常識の破壊者 表裏一体の愛でる 剣山のような女 飾りつけ お花が好き ランダム魔眼 ・・・3500P
適性:斧術 学習 調合 ・・・100P
能力値:全能力成長率上昇 ・・・3000P 』
性格がやばい。
特徴は、まあ、剣山のような女はあるが、剣山っていうのは、花を飾るための道具だから、たくさん飾りつけができるって意味でもあるので、やばさはまだ薄い。いや、薄いか? 薄くはないか。ともあれ性格はやばい。
お花が好きなのが逆にサイコパスに見える。
「で、でもこれが俺の望み通りだし……。ま、まだまだ行くぜっ」
ただ、次はオルテを参考に生成するのはやめておこう。
次は、海の管理人。
このダンジョンでは、海までなら階層ボスを1人も倒さずに辿り着くことができる。
地下鉄が通っているのはコロシアムまでだが、水路を通れば窪地も越えられるし、例えばグリフォン便やロープウェイなんかをこちらで用意すれば、誰もが簡単に海まで来られるようになる。いつかは海も大賑わいになるだろう。だから、楽しい遊びを教えてあげる必要がある。
また、海は本物の海とも繋がっているため、理性のない魔物が入りこんでくることもあれば、船の往来があるかもしれない。
なるべくなら侵入者に対処して欲しいが、いざという時のため、そして海を素晴らしい状態で保つために、やはり必須の部署。
「規律や教育が重要になるんだから、それらに厳しい我が家のやばい子といえば……、ローズかな? 成長しない俺に対しても、成長を促そうとするくらいだ。ローズに似れば、きっと侵入者相手にもそうしてくれるだろう」
というわけで、ローズを踏襲する。
「種族は……、人狼は半分人、半分獣の魔物だろ? 人魚と同じだよな。じゃあ、人魚。ローズのように忠誠心や訓練好きをつけて、どうだ」
『 ハルフゥ
ユニーク
性別:女性 ・・・0P
造形:亜人型 色香漂う酔っ払い 潮風パーマ ・・・350P
性格:恩は恩で返させ、仇も恩で返させる 水泡に帰したがる 色々なことを教え込むのが好き お酒が好き 酒に溺れている ・・・1200P
特徴:奇跡の歌姫 海への忠誠 全てを飲み込むもの 海の管理人 歴戦の城 弱者を愛でる 自らに溺れさせる あどけない少年が大好き ランダム魔眼 ・・・3250P
適性:杖術 交渉 説得 経営 演技 HP吸収 MP吸収 ・・・1200P
能力値:全能力成長率上昇 ・・・3000P 』
性格は大丈夫だ。しかし特徴がいけない。
少年が危ない。水着の少年達が危ない。
規律や教育が重要になるからと、教え込むのが好きな性格や特徴をつけてみたが、ブーメランパンツの少年達が危ない。
「ま、まあダンジョンだからね、少年に限らずみんな危ないさ。むしろ少年はダンジョン的な意味では安全さ。うん。行くぜっ」
ただ、次はローズを参考に生成するのはやめておこう。
次は、病院の管理人。院長先生。
侵入者の町を取りこむのだから、医者は既に何人もいるだろう。彼等の仕事を奪うつもりはない。だが、彼等の医療や医学は、まだまだ未発達である。なのでこの病院は、そんな者達に知識を与えることをメインに活動を行う。
医療技術が発展すれば、人間も亜人もさらに増える。そうすれば、ダンジョンに来る者もさらに増える。正しいウィンウィンの関係だ。
ただ、治療行為をしないわけではなく、町の医者では治せない疾患や、感染力が非常に強い流行り病などには対応する。
「だから、医療の知識は必要で、賢くなければならない。賢い我が家のやばい子といえば……、キキョウかな? 最初の頃からずば抜けて頭が良く、我が家の魔法技術はキキョウのおかげで随分発展した。キキョウに似れば、きっと医療も発展させてくれることだろう」
というわけで、キキョウを踏襲する。
「種族は……、妖狐に似た……、狸? 化け狸、妖狸か。キキョウのように、研究する意思とそれに関する知識をつけて。よしっ」
『 千代妖狸
ユニーク
性別:女性 ・・・200P
造形:人型 ナース 白衣の天使 ・・・600P
性格:研究熱心 常ににこやかで温和 元気がないと悲しく、元気が出ると嬉しい 何一つ無駄にしない 命を愛でる 薬好き ・・・1300P
特徴:医学の頂 医術の理 病院の院長 いつの間にか終わる注射 ドーピング 寿命変質 生命変質 生物合成 命の知識 実験大好き ランダム魔眼 ・・・3600P
適性:短剣術 HP吸収 MP吸収 ・・・300P
能力値:全能力成長率上昇 ・・・3000P 』
やばいように見えて、実はやばくないんじゃないかと思えるが、やっぱりどこまでもやばい。
これだけを見れば、何をやりだすかなんて一目瞭然だ。生物を合成してはいけない。生命を冒涜する気満々だ。
しかし、今までの理論から行けば、見るからにやばそうだからこそ、優しい子になるのだ。
「元気がない患者を見れば、どこまでも悲しく思い、その人が元気になれば、どこまでも嬉しく思う、そんな最高のナース院長に、きっとこの子はなるはずなのだ。さあ、まだまだ行くぜっ」
ただ、次はキキョウを参考に生成するのはやめておこう。
次は、刑務所の管理人。所長さん。
どんな町にも警察やそれに準ずる組織や人はいるが、刑務所はないところが多い。なぜならそういった施設は場所を広く取る。魔物が頻出する地域では、場所を確保できないのだ。
ここら一帯は魔境であったのだから、当然の如く存在しない。犯罪を犯した者は、遠く遠くの町にある刑務所まで連行されていくのが常だった。
しかしこれからは、こちらに収監してくれて構わない。
ダンジョン的犯罪を犯した者、侵入者達の種族の法律を犯した者、どちらの更生も、適えられる者が必要だ。
「他人に害を与えてしまうのは、きっと何か知らないことがあるからだ。知ればきっと、二度と犯罪などしない。つまりそこでは、学ぶ、学習が必須。最も学んだことの多い我が家のやばい子と言えば……、ニルかな? ニルだって最初の頃こそ、ダンジョンマスターが食べ物ではないことを知らずにかじってしまっていたが、今は……、今は……」
というわけで、ニルを踏襲する。
「種族は……、ハーピィに似た種族。手が翼だけど鳥じゃない。コウモリだな。ニルのようにお腹ペコペコではなく、食べ物以外に飢えている要素をつけて」
『 レベリオンバット
ユニーク
性別:女性 ・・・0P
造形:亜人型 極上の顔と体 翼は背中 常に目隠し ・・・800P
性格:悲観的 気の向くままに動く 寂しがり屋で恐がり 寂しくて夜な夜なすすり泣く 動けない者を愛でる 束縛好き ・・・1100P
特徴:武器は鎖と鉄球 人畜飼育 刑務所の所長 性格矯正 人格矯正 あなたの味方 束縛好き 一度見たら忘れられない ランダム魔眼 ・・・3100P
適性:鞭術 思考 学習 HP吸収 MP吸収 ・・・1000P
能力値:全能力成長率上昇 ・・・3000P 』
最早やばいがよく分からなくなってきた。
ともあれ、飢えているのは食事にではなく、他者との触れ合い。何かを生成する必要はないので、ダンジョン的にはやばくない。刑務所的にはどうだろう。多分ダメだ。
「でも、二度と犯罪を犯させないのが目的だからね。この子は別にやばいまま生成されちゃっても構わない。……いや、そんなことはないな。優しい子であれと思う。うん。次行くぜっ」
もちろん次はニルを参考に生成するのはやめておこう。
最後は、44階層の町の管理人。町長さん。
あそこや他の町や村はダンジョンが戦争により接収したことになっているので、町長などはこちらが決めることができる。なので、送り込もうというわけだ。
好き放題できるぜ、といっても、町には侵入者達の拠点として活躍してもらうつもりなので、繁栄する方向での好き放題。プラスの手助けを行う。そのため、ここの管理人は人間や亜人と最も多く関わることになる。
なので、良識のある者が絶対に必要だ。つまり、今まで以上にやばい子を生成しなければならないということだ。
「人間や亜人と関わるのだから、彼等に詳しい必要がある。人間や亜人に詳しい我が家のやばい子と言えば……、ユキかな? 元人間だし。今はよく分かんない存在になってしまったけど」
というわけで、ユキを踏襲する。
「種族は……、人間や亜人に似た種族。なり損ないのフェイクヒューマンとも呼ばれる、ゴブリン。そいつに、ユキのような強さと拘りを持たせて」
『 ゴブリンカルナ
ユニーク
性別:女性 ・・・0P
造形:人型 前髪パッツン 大きな耳飾り 美貌の結晶 ・・・1200P
性格:合理的であることに異様な拘りを持つ 血も涙もない 敗北者が好き 赤字部署は即切り捨てる ・・・1000P
特徴:左利き 居合 透明な刃 見えざる手 弱者と敗者の屍を踏んで歩く そんな自分が大好き 町長 破産宣告 利己を愛でる ランダム魔眼 ・・・3300P
適性:刀術 思考 学習 HP吸収 MP吸収 ・・・500P
能力値:全能力成長率上昇 ・・・3000P 』
およそ町長には向いてない。
権力者がなったら一番困るような性格や特徴をしている。
しかしこれで良い。これこそが良いのだ。
「なぜなら、やばい子ほど優しい子になる。完璧だ。何の問題もない」
この子達が優しく生成されればきっと、いかれたメンバー達は知るだろう。本当の優しさというものを。
そしていかれたメンバー達は思うだろう。自分達が今まで俺に、どれだけひどいことをしていたのかと。
そこで俺は言うのさ。
「良いんだよ。気にすることはないさ。俺は君達のダンジョンマスター、君達がいてくれることが、何よりもの幸せなのさ」
と。
そうして彼女達は自らの罪の大きさを知り、思うのだ。ああ、こんなに素晴らしいダンジョンマスターを今まで苦しめて。これから尽くそう。この素晴らしいダンジョンマスターのために、精一杯尽くそう、と。
「ふふふ、ははははは、あーっはっはっはっは。完璧だ、完璧じゃないかぁっ。ああ、ドキドキしてきた。ついにいかれたメンバーではなく、いかしたメンバーがこのダンジョンにそろうのか」
今までずっと叶わなかった、俺の夢のダンジョンマスター生活が、今、ようやく始まる。
『これで生成を開始します。よろしいですか?』
「やってくれーいっ」
俺がそう言うと、5つの光の靄が現れた。
銀色の木目調の靄。
赤色の鱗のような靄。
金色の毛のような靄。
緑色の靄。
青色の靄。
そこから、1人の美少女と、2人の美女と、1人の美魔女。それから1人の美幼……いや美少女が現れた。
「エルダートレントの君は、ハヴワヴテ」
「ハヴワヴテの名を授かりました、ハヴワヴテと申します、王上様。御身に拝謁賜れましたこと、今生最大の喜びにございます。庭園の管理はお任せ下さい。愚かな侵入者共を、全て花として飾り付けておみせしましょう」
銀色の髪をおさげのように結ぶ、スタイル抜群の和装のハヴワヴテは、洗練された所作で頭を下げた。
「ハルフゥの君は、ヒルキズ」
「ヒルキズの名を頂きました。王上様、このヒルキズ、御身に仕えることができたことが、何よりもの喜びにと、今この幸福を噛み締めております。海の管理はお任せ下さい。愚かな侵入者共は全て堕としきり、見るも楽しい遊園を築いてみせましょう」
赤色のパーマがかった髪を下ろす、はちきれんばかりの体型で既に上半身が水着のヒルキズは、妖艶な所作で頭を下げた。
「妖狸の君は、ファウ」
「名を頂きました、ファウでございます。王上様、御身の偉大さと壮大さは並ぶものなどございません。そのようなお方に仕えられますことを、今この身の歓喜を持って感じております。病院はお任せ下さい。愚かな侵入者共を全て我等に従順な化け物にし、愉悦の限りを味わいましょう」
金色の髪を肩にかからない程度で切り揃える、スリムな体型でナース服を着たファウは、丁寧な所作で頭を下げた。
「レベリオンバットの君は、ペヘペエイル」
「ペヘペエイルの名を授かりました。王上様、いと素晴らしきお方、御身のために存在できること、素晴らしく思います。刑務所はお任せ下さい。愚かな侵入者共を懺悔と後悔の中に閉じ込め、げに面白き見世物をお作り致しましょう」
緑色の髪を地面につきそうなほど伸ばす、細く柔らかなスタイルだがカッチリした格好のペヘペエイルは、黒い目隠しをしたまま、崇めるような所作で頭を下げた。
「ゴブリンカルナの君は、ホウキ」
「ホウキと申します。名を授けていただいたこと、心よりの感謝を。御身のお役に立てますことに、至極の歓喜を得ております。町の管理はお任せ下さい。愚かな侵入者共に、死こそが救いと、ダンジョンの糧となれる栄誉を与えて差し上げましょう」
青色の髪をおかっぱのようにする、幼い歳ながらも背が高くスリムで、大人びた洋装のホウキは、洒落た所作で頭を下げた。
5人共その挨拶に、俺への尊敬や務める仕事への意欲が滲み出ていた。
そう、今までの子達のように、職務放棄をする子など、ここには1人もいない。全員が全員、俺の与えた仕事を全うする気満々である。
さらに、それぞれの挨拶を終え、下げた頭を上げた5人は、一言も喋らずに俺を見つめていた。
その目を見れば誰もが分かる。尊敬の念がこれでもかと込められていることに。
そう、今までの子達のように、挨拶が遅れましたと他へ挨拶せず、喧嘩もせず、次に俺が話す言葉を聞き漏らさないように待っているのだ。
なんという……なんという尊敬。
「よろしく頼むよ」
「はい。侵入者共の怨嗟が花咲く庭園だなんて、想像しただけで楽しそう」
「はい。ああ、侵入者共の憐憫に墜ちた海辺だなんて、想像しただけで涎が出ちゃいます」
「はい。王上様のために、慟哭の木霊する感慨深い病院を。想像しただけで血湧き肉踊ります」
「はい。王上様、懺悔の輪廻が巡る面白き刑務所を楽しみにしていて下さい。想像しただけで笑ってしまいますよね」
「はい。愚かな侵入者共に、首をかき切りながらも歓喜に染まる、幸福の町を作り上げます」
そしてなんという……なんという献身。
誰しもがその言葉の後に、完成したら案内させて下さいとつけくわえた。つまり、5人共口を揃えて、全ては俺のためにやるのだと言っている。
俺のために、俺を喜ばすためにそれを作り、そして俺に見て貰いたいのだと、そう言っている。
ダンジョンモンスターにとってダンジョンマスターは、自らを作った創造主、神と同等の存在。ゆえに、ダンジョンマスターのために生き、ダンジョンマスターのために働き、ダンジョンマスターの喜びを我が喜びとする。
この5人はまさにダンジョンモンスター。ダンジョンマスターの右手と評される、ネームドモンスターの鑑である。
5人は目を輝かせ、俺の言葉を待つ。
そして俺が改めて頷くと、5人は自らの言葉や気持ちが上位者に届いたことにホッと安堵し、胸を撫で下ろした。そんな些細な動作もまた、ダンジョンマスターを絶対とするネームドモンスターらしい。
しかし。
しかし俺は思った。
凄く思った。
「ちょっと、用事を思い出したから、ね。お小遣いの前に、ちょっとね、通信するねー」
「「「「「はい」」」」」
俺は5人に背を向け、とある者達に通信を飛ばした。
「もしもし、俺だけど」
その者達とは。
『……なに?』
『なんでしょうか』
『なんじゃ』
『なになにー?』
『なんだ』
オルテ、ローズ、キキョウ、ニル、ユキ。奇しくも今回生成された5人の元になった者達。
「実は君達に、頼みがあるんだ」
俺は彼女達に言う。
「めっちゃやばい子がきました」
そして告げる。
「優しい子が良いなと思ってたら優しくないやばい子ばかりが生成されたので、やばい子が良いなって思ったら優しい子が生成されるんじゃないかなって思ってそうしたら、ものすごくやばい子が生成されました。侵入者と共存を目指そうとしているのに、完全に皆殺しにしようとしています」
さらに最後に。
「助けてぇ……」
助けを求めた。
誰だ、やばい子を生成したら優しさが生まれるなんて言ったのは。ただただやばさが増加しただけじゃねえかっ。
なんだ、首をかき切りながらも歓喜に染まる幸福の町、って。やばいよ、何よりもやばいよ。
俺からのSOSを受けた彼女達はため息をつきながらも、俺達の元ヘやってきた。そうして、我が家流の教育が始まった。
「え? 怨嗟を抱くのは、侵入者ではなく王上様なのですか?」
「……うむ。……ざっつらいと」
「え? 憐憫を味わうのは、侵入者ではなく王上様なのですか?」
「そうなのだ。まあ、追々分かるさ」
「え? 慟哭を叫ぶのは、侵入者ではなく王上様なのですか?」
「そうじゃの。思う存分叫ばせてやるがよい」
「え? 懺悔をするのは、侵入者ではなく王上様なのですか?」
「残念だけどねー。こう、がぶっとねー」
「え? 奪うのは侵入者の命ではなく、王上様のPなのですか?」
「ああ。奪え。全てを」
彼女達の教育によって、侵入者との共存に重要な5人の管理人達は、みるみる内に侵入者を皆殺しにする心を捨て、常識を身に付けていく。ただしその常識とは、ダンジョンマスターを苦しめる、我が家の歪んだ常識だ。
「え、待って。その教育方針はおかしくない? え、俺のPを奪っちゃダメよ」
「魔王、さっき言ってたじゃないか。――俺はこのダンジョンを、侵入者と深く関わり、共存共栄していくような関係にしたいと思っている。そのためなら、いくらでも危険なんぞ背負ってやるっ――、って」
「なんでモノマネしながら……。言いましたけど」
「なら、受け入れろ。コイツらを教育するには、その方法しかないんだ」
「ええ……嘘でしょう……」
俺の、俺の夢の生活が……。
悲嘆に俺は膝から崩れ落ちる。そしてその時に気づいた。
初期メンバーを生成した際、俺は優しさをそこまで意識していなかった。そりゃあ多少はあったが、一番は強くなることを願っていたのだ。なのに、一番やばいいかれたメンバーは初期組である。
そう、優しくするとか、優しくしないとか、そんなことはやばさに何一つ関係がなかったのだ。
「関係があったのは、俺が生成するか、しないかだけ……。つまり」
俺が生成する子は、必ずやばい子になる。
初期組7人の内ユキを除く6人、二期組21人、三期組46人を生成して初めて気づいた、新事実、いや真の事実。
なんてこったい。
「ほら魔王。教育終了だ。お小遣いをやれ」
「膝から崩れ落ちているのに、心配されずにお小遣いを要求されてる。貴女は俺に生成されてないのに一番やばいじゃん……」
なんてこったい。
『 名前:ハヴワヴテ
種別:ネームドモンスター
種族:エルダートレント
性別:女
人間換算年齢18
Lv:0
人間換算ステータス:135
職業:庭園の管理者
称号:楽園の仕掛け人
固有能力:独立生命体 ・体の状態が内的要因で変化しない。外的要因に対してのみ回復の変化が行われる。
:遍く断絶 ・切断した箇所を、物質的な切断以上に分かつ。
:花への情念 ・花が咲いているとステータス上昇。全ての花から愛される。
:花冠の魔眼 ・左、視界内の対象を花に変化させる。
種族特性:古の権能 ・魔法能力上昇、祈りに鎮魂作用を持たせる。死霊系等に耐性と支配を得る。
:古の記憶 ・古の記憶を有し、自在に取り出すことができる。
:養分吸収 ・触れている箇所から活動に必要な養分を得られる。
:触手 ・体の一部又は全体を自由に伸び縮みさせたり可動させたりできる。
特殊技能:エナジードレイン ・生命力と魔力を干渉の度に吸収する。
:シザーズスクロール ・一度切ったことがあれば、それに触れずとも切ることができる。
存在コスト:3000
再生P:10000 』
「ありがとうございます。庭園が王上様の怨嗟でいっぱいになるように頑張ります」
「ハヴワヴテ。そんなことをしなくても良いんだぞ。綺麗な庭を造ってくれるだけで俺は――」
「……よく……言った。……期待してる」
「ありがとうございますっ。オルテ様っ」
銀色の髪と同じ右の瞳と、髪色とは違う桃色の左の瞳のハヴワヴテは、花びらが舞うような可憐な笑顔で、オルテの言葉に微笑むと、ご機嫌に更衣室へ向かって行った。
『 名前:ヒルキズ
種別:ネームドモンスター
種族:ハルフゥ
性別:女
人間換算年齢:26
Lv:0
人間換算ステータス:125
職業:海原の管理者
称号:楽園の仕掛け人
固有能力:全てを手に入れし人魚 ・水と陸を自由に行き来でき、声を失わない。歌声によって確率を変動させる。
:遍く嚥下 ・水の中にあらゆるものを収納できる。
:溺水の魔眼 ・右、視界内の対象を何もなくとも溺れさせる。
種族特性:高速遊泳 ・水中を素早く移動できる。
:水陸生活 ・水中と陸上の両方で同じ体の機能を使って同じ効果を発揮できる。
:奇跡の歌声 ・歌声を聞いた者の心を掴むことができる。
:代償の歩行 ・代償を支払うことで見合った時間、望む種族に変化できる。
特殊技能:エナジードレイン ・生命力と魔力を干渉の度に吸収する。
:オペレートスイング ・物事の風向きを変えられる。
:ボーイズデバート ・指定した対象を簡単に篭絡できるようにする。
存在コスト:3000
再生P:10000 』
「ありがとうございます。海で王上様が憐憫を思う存分味わえるよう頑張ります」
「憐憫なんていらないよヒルキズ。みんなが楽しく遊べる海があれ――」
「ああ。しっかりな」
「ありがとうございますっ。ローズ様っ」
髪色とは違う藍色の右目と髪色と同じ赤色の左目のヒルキズは、ローズの言葉に自分の道を見つけた、と言わんばかりに大きな返事をし、更衣室に向かって行った。
『 名前:ファウ
種別:ネームドモンスター
種族:妖狸
性別:女
人間換算年齢:26
Lv:0
人間換算ステータス:121
職業:病院の管理者
称号:楽園の仕掛け人
固有能力:補完されし異能 ・捨てた能力と同等の効力を発揮できる能力を、新たに得られる。
:医学を極めし者 ・医学を発揮する際の能力上昇、効果上昇。結果に補正。
:命の砕片 ・命を物質として認識することができる。
:嵌合の魔眼 ・右、視界内の対象をはめ合わせる。
種族特性:六命六魂 ・生命力と魔力を6度回復する。
:狸変化 ・姿形を自在に変化させられる。狸型ならステータス変化なし。
:葉っぱの代償 ・代償を伴う行為の代償を、限りなく小さくすることができる。
特殊技能:エナジードレイン ・生命力と魔力を干渉の度に吸収する。
:インジェクトセオリー ・攻撃した対象に好きな状態異常を付与する。
存在コスト:3000
再生P:10000 』
「ありがとうございます。病院で王上様が慟哭を叫ばれるように、精一杯努めますっ」
「よろしく頼むよ。しかしファウや。俺を慟哭さ――」
「期待しておるぞ」
「ありがとうございますっ。キキョウ様っ」
髪色とは違う鉛色の右目と髪色と同じ金色の左目を持つファウは、キキョウの言葉に天使のような笑顔を見せると、更衣室に向かって行った。
『 名前:ペヘペエイル
種別:ネームドモンスター
種族:レベリオンバット
性別:女
人間換算年齢:32
Lv:0
人間換算ステータス:123
職業:刑務所の管理者
称号:楽園の仕掛け人
固有能力:恣意的な改造 ・対象の精神を自在に変更することができる。
:心離封殺 ・自身から逃げることと、指定したことを禁止する。
:私刻の魔眼 ・両、視界内の対象に、自身を刻みこみ忘れられなくする。
種族特性:裏切りの蝙蝠 ・身体器官の特徴を、自在に強化誇張できる。
:あべこべの休息 ・無理な体勢でいる方が体が休まる。
:吸血 ・血を吸うことで、自身のステータスを強化、敵対者のステータスを弱化できる。
特殊技能:エナジードレイン ・生命力と魔力を干渉の度に吸収する。
:フェッタードレス ・攻撃した対象に枷を付与する。
:ミスルート ・正解の逃走ルートを隠匿する。
:ミスコレクト ・正解の逃走ルートを不正解に変更できる。
存在コスト:3000
再生P:10000 』
「ありがとうございます。刑務所で王上様が懺悔なさる日を、げに楽しみにしております」
「おいおいペヘペエイル。俺は刑――」
「頑張ってー」
「ありがとうございますっ。ニル様っ」
黒い布状の目隠しを外し、緑の髪色とは違う、常に蠢く模様が描かれた紫の瞳をあらわにしたペヘペエイルは、ニルの言葉に嬉しそうに笑うと、更衣室に向かった。
『 名前:ホウキ
種別:ネームドモンスター
種族:ゴブリンカルナ
性別:女
人間換算年齢:12
Lv:0
人間換算ステータス:141
職業:町の管理者
称号:楽園の仕掛け人
固有能力:理解されぬ暴虐 ・起こした行動や起こす行動を認知されない。
:終わりの兆し ・マイナスの結果を予見できる。
:神性 ・神威魔法使用許可、精神体変化可能。
:破産の魔眼 ・左、視界内の対象の貯蔵しているものの量の正負を逆転させる。
種族特性:群雄 ・同種族でまとまることでステータスを上昇させる。
:一個繁栄 ・他種族と交わっても子を残せる。
:武の真骨頂 ・戦闘に関することに補正。
:天賦の鎧 ・防御していない際の攻撃や防御不可能な攻撃に対して、防御相当のダメージを減少させる。
特殊技能:エナジードレイン ・生命力と魔力を干渉の度に吸収する。
:ブレイドジャーク ・刀を時間経過で加速させる。
存在コスト:3000
再生P:10000 』
「ありがとうございます。町を発展させるために、王上様のPをたくさん使って頑張ります」
「ホウ――」
「ホウキ。道場にも顔を出せよ。ソヴレーノと並んで鍛えてやる」
「ありがとうございますっ。ユキ様っ」
髪色と同じ青色の右目と、髪色とは違う赤色の左目のホウキは、鍛えてやるとの言葉に興奮しつつ返事をし、更衣室に向かった。
俺の声は、最後まで届かなかった……。
5人の管理人は、更衣室で各々に似合った水着に着替えると、各々がやりたい遊びの場に赴いた。
ダンジョンを裏から支える者達であるのに、ダンジョンマスターの傍から颯爽と離れていってしまった。もうこっちをチラリとも見ないや。
そしてそんな5人とは対象的に、こちらの5人は俺の傍から離れず、俺を見て言う。
「……オー。……助けた。御褒美。……飴」
「飴だよー」
「……ナイス心がけ」
「主様、特訓の第二部を開催致しましょう。強くなれば、誰からも軽んじられることなどなくなります。さあ、強くなりましょうっ」
「ローズ、ああ俺もやりたいところだが、そろそろ日が暮れるからね、今日はやめておこう」
「では明日の朝3時から、開始致しましょう。お待ちしておりますっ」
「主殿。人数が増え、色々なものが手狭になるのではないか? 新しい研究所がいるじゃろう」
「今回設備を増やしただろう? 既に成果はたくさん出てるんだから良いじゃないか」
「いいや必要になる気しかせんの。決まりじゃ。ではわっちは眠る。とんとんするがよい」
「あるじ様ー、かじって良い?」
「……ちょっとだけだよ」
「わーい。がぶーっ」
「お、おい魔王、ところで今日は何時に風呂に入るんだ?」
「何時って、いつも通りの……」
「その時間は込んでるだろっ。三期組も入るんだぞっ、合わせてくるに決まってるだろっ。だ、だからきょ、今日は時間を少し変えた方が良いんじゃないか? 良いに決まってるっ。いや、むしろあれだ、変えないと殺すぞっ踏破するぞっ」
5人は輪になり、いつも通り四方八方から自分勝手にワイワイと、俺に色々なことを仕掛けてくる。
もちろんそれは、俺が困ることばかり。
「マスター、あいつらがさ、技見せてーって言ってきたから技見せたらよ、なんか分かんねーけどダンジョン壊れたわ。アタシじゃないと思うんだけどなー、ま、直しといてくれー」
「ご主人様、花火の準備が終わりました。また、花火の鑑賞の際、ご主人様を立たせたままにするのは心苦しいので、椅子をご用意致しました。どうぞ、玉座の間にあった玉座です」
輪の中にいつの間にか加わっていた、マキナとセラも同じ。
「マキナ、なんか分かんねーけどじゃなくて、絶対自分で壊したろっ。反省しなさいっ。そしてセラ、玉座は玉座の間に固定されてるんだから、持って来ちゃダメよ。もう俺の玉座は27代目だぜっ?」
2人もまた、いつも通り自分勝手にワイワイと俺を困らせる。
ダンジョンマスターを困らせるだなんて、ネームドモンスターの風上に置けない。なのにここでは、ネームドモンスターの代表達がそれだ。むしろ率先して行っている。なんてダンジョンだっ。
一体いつからこんなダンジョンになってしまったんだ。
普通のダンジョンだったら、あり得ない光景だ。ダンジョンマスターがこんなに雑な扱いだなんて。
ダンジョンマスターに嫌われてしまえば、それはネームドモンスターにとって、死を意味する。ダンジョンマスターが全てだという精神的な面でもそうだし、復活させて貰えないという物理的な面でもそうだ。だから普通は、媚を売る、とまではいかないかもしれないが、従順であり、少なくともこんな雑な扱いはしない。
全く……。怖いもの知らずだな、この子達は。
まあ、どれだけ困らされようが、俺が彼女達を嫌うことなどありえないが。
どんな扱いをされようとも、生成したその瞬間からずっと、俺の愛は変わらない。100%だ。俺の持てる全てで、初期組も二期組も三期組も、それぞれ全員を愛している。それは決して減ることのない、未来永劫のもの。
ああ、もしかすると、彼女達もそれを分かっているから、俺を困らせるのが楽しいのかもしれない。
困らせれば困らせるほど、それでも嫌われないという、大きな大きな愛情に包まれていることを、再認識できるから。
それを思うと、とある感情が浮かんでくる。
それは、可愛いな、と思う感じ――。
「ちげーけど? 全然ちげー、全然ちげーけど。バーカバーカ。なんかあれだから、ダンジョンもっと壊してこよ。海の底に穴開けて地下都市と繋げて水没させよ」
「全然違いますね。見当違いも甚だしいです。もう全く違いますね。ええ。そんな勘違いなさるようでしたら、こんな玉座は灰にして、十字架に磔にされて見ればよいのです」
「違う違う全く違う。全然違うそんなわけない。……飴、1万。……食え」
「い、いらぬことに頭を働かせておられるようですので、特訓の開始を1時間早めますっ。そして終了を1ヶ月遅らせますっ」
「眠っておったからの、何一つとして聞こえんかったわ。あー、あー。これは、核実験場が必要じゃの」
「がじがぶがぶがじ、が、がぶり……。がぶりがぶり。がじがじ」
「いや待てよ? 誰もいない時間だと――、や、やっぱり多少はいる時間の方が良いか? う、うん、だって、そりゃあ誰もいない時間は……」
と思ったら、なんだかめちゃくちゃ否定された。
「……あれ? ち、違うんですか?」
思わず俺は聞く。
「当たり前だろっ。ダンジョン壊して欲しくなきゃ謝れっ」
「28代目の玉座にしたくないのであれば謝って下さい」
「……謝罪要求」
「すみませんが主様、一つここは誠意を」
「そうじゃの。誠意じゃ誠意」
「そうだよそうだよー、かじらせてー」
「だな、うんっ。そうだ。そうに決まってる。分かったか魔王っ」
「え、ご、ごめんなさい……」
俺がそう言うと、7人は納得したのか、その場でそれぞれまた勝手なことをし始める。
ふと視線を感じ、俺は今回生成した管理人の5人を見た。5人は、なるほどーとでも言いたげに見ていた。
いや、5人だけではない。二期組も三期組も、全員がそんな目で見ていた。
……なんだか、凄く恥ずかしい。
お読み頂きありがとうございます。
長らくお付き合い頂いた新キャラ増殖も、次話で終わります。
おそらく誰が誰だか分からないと思います。私も大半がどんなキャラだったっけ? となります。皆様はそれ以上でしょう。
これから、多少紐付けができるとは思いますが、あくまで話のメインは初期組、次点で二期組、となりますので、多少、です。しかしそれでも面白いと思って頂けるように頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。




