第126話 メイド部隊、ナーヴェ、ニーヴェ、ヌカリエース、ネストラート、ノーヒエ
悪逆非道のダンジョンマスター心得その15
命は大事に使いましょう。大事に、使って……。
裏幼女5人衆は、それぞれ上司にくっついて、一緒に何かをしている。
「伝言を申しつけられたので、お伝えする。ククリ姉様には、ペチャパイ。リリト姉様にはチビ、と。え、いえ、あの、伝言を受け取っただけであるからして、はい。はい、トトナ姉様とナナミ姉様への伝言? 承知した」
「ココロ、ソンナモノ、ソンナモノシラナイ。ナゼワタシニハココロガナイ。ココロ、ココロ、ココロがないと……鬱になっちゃうううっ。どうでしょうか、上手くできてますか?」
「シャーッ、ガルルルルガルルルッ」
「すぅぅぅ、すぅぅぅ、ぐぅぅぅ、ぐぅぅぅ。いやぁぁ、こないでぇ。すぅぅぅ」
「それは何を作っているんでっすか? ……エクステンドGX? え、味見して良いんでっすか? わーいっ。もぐもぐ。――。シャリっ参上っ。なんかシャラが気絶したから出てきたんですけど、何かありましたっすか? え、エクステンドGX? 味見して良いんですかーっ。わーいっ。もぐもぐ。――。トトシャルです。なぜかシャリが気絶したので、え、エクステンドGX? 味見してよろしいんですか? わーい」
でも、なんだろう、引き離した方が良いのかなあ。
なんだか幸せじゃない結果になっている気が。
新しく生成された子達も問題児ばかりなはずなのに、先にいる問題児の方が問題が大きすぎてもう……。特に最後。
実験台にするんじゃないっ。1人で5回も味見してくれるなんて凄く良い子だね、じゃないっ。それは良い子だからじゃないっ。やめなさい。まともだと思ってたのに、全然まともじゃないじゃないかっ。
「どうしてこのダンジョンにはこんな子しかいないんだ」
優しい子を求めて、たくさんのPをかけて生成しているというのに……。
通常1000Pの魔物ならば1500P以下のPをもって生成するところを、俺は1000Pの魔物だろうが800Pの魔物だろうが、1万Pをかけて生成している。
勲章の効果で消費は6割にまで下がっているといっても、それだけのPをかけられ生成されたネームドモンスターなんて、他のダンジョンにはまずいない。しかしだからこそ、どんなダンジョンにもいないような優しい子が生成される、そのはずだった。少なくとも、俺はそう思っていた。
求めた優しさを十二分に持った子達で、このダンジョンはあふれかえるだろう、そう、思っていたのだ。
しかし、現在ここにいるのは、いかれた子のみ。
「高いPをかけて、いかれたメンバーを増やしただけ、そんなの単にPを失うよりもなおヒドイじゃないか」
踏んだり蹴ったりとはまさにこのこと。
「そして今はもう、所有Pが2万Pを切っている。最初は30万Pもあったのに、まだ11体も生成が残っているのに。これじゃあ、あと3体しか生成できないじゃないか、お小遣いをあげるのなら2体だ。この勢力図は変えられない。つまり誰しもが……いかれている」
ダンジョンにおいては全知全能であるダンジョンマスターも、Pがなければ最早どうすることも叶わない。
優しさを求めた俺の冒険は、ここで終わりを迎えた。
「優しさは、俺への優しさは……一体どこに……」
俺はその場に膝をついた。もう立ち上がる気力はない。目を開ける勇気すらもない。
「どうして……、どうして……」
ただただ涙を零し、俺は嘆いた。
「ご主……、優し……、こ……あ…………」
しかしその時、俺の声ではない誰かの声が耳に入ってきた。それは俺の嘆く声に重なり、上手く聞き取れはしなかったが、俺を呼ぶ声のように聞こえた。
「なん、だ……?」
俺は嘆くのをやめ、顔を上げる。声は出さず、耳を澄ませた。すると、もう一度声がした。
「ご主人様。優しさは、ここにあります」
今度はもっとハッキリと聞こえた。
「優しさは、ここにありますよ、ご主人様」
誰かが、俺に語りかけている。
その声には聞き覚えがあった。
それもそのはず。それは俺のダンジョンマスター生の中で、最も多く聞いた声。常に俺の傍に侍り、常に俺を助け、常に俺の道標となってくれる、優しい優しい声なのだから。
「セラ……」
俺は声のする方を向いて、声の主の名を呟く。
「はい」
セラは俺の傍にしゃがむと、愛おしそうにそう返事をして、柔らかく微笑んだ。
セラが身につける、黒く露出の多い水着は、黒いイメージから厳つさや引き締まった印象を与え、その露出の多さにより攻撃的で艶やかな印象を与える。
しかし微笑むセラからは、そんな印象は何一つとして受けない。
また、抱えるように持っている白い紙は、黒にも水着にも正反対のものであるのに妙に似合っていて、俺のとある感情を増幅させた。
「ご主人様、優しさはここにあります。どうぞ、お嘆きになる前に、こちらをご覧下さい」
セラは持っていた紙を裏返し、文面が書かれた方を俺に見せた。紙は7枚ある。
「セラ、これは?」
俺はそれらを広げながらセラにそう尋ねると、セラはまたしても柔らかく微笑んだ。それを見て、増幅されていた感情は、さらに高まる。
その感情とはもちろん――。
「はい。借用書です。こちらがマキナの借用書。こちらが私の借用書。他5枚も全て、1万Pを無期限で貸し出す、利子は10日で1割、それを書いた借用書です。計7万P、これでまた、ネームドモンスターの生成ができますね」
絶望の感情である。
「優しさはどこにっ?」
「お手間を取らせないよう、ご主人様のサインと押印をこちらでしておいたところです」
「それは優しさじゃない。偽造だっ」
なんてこったいっ。
「強制的過ぎるっ。というかこれを受け入れたら、こんないかれたメンバーしか生成できなかった挙句に、またあの借金地獄が舞い戻ってくることになるのか……」
借金返済のために繰り返される虐殺に怯える、あの日々が。
踏んだり蹴ったりとはまさにこのことだ。
いや、ついさっきも踏んだり蹴ったりはまさにこのこと、って言ったな。
俺は何度踏まれ蹴られているんだろう。ダンジョンの守護者たるネームドモンスター達に囲まれているのに、一体誰に踏まれたり蹴られたりしているんだ。
「7万Pのトイチですので、1年後には216万P、2年後には7358万P。5年後には2兆3909億Pとなります」
答えはそのネームドモンスターにだっ。
なんてこったいっ。
「トニですと、1年後から4961万P、2年後には422億――」
「戸惑ってる隙に利子を増やした例え話をするんじゃないっ。借りるから、借りるからこれ以上利子を増やさないでっ」
裏幼女達よ、助けてあげたい気持ちは山々だが、すまない。俺は俺のことで手一杯のようだ。
というわけで、借金生活2の始まり始まり。
「はあー……」
随分早い再開な気もして、思わずため息も漏れるが、始まってしまったものは仕方ない。1日でも早く返せるように頑張ります。返さないと兆になるからね。
生成せずにそのまま返せたら、話は早いんだけどなあ。
「ついに私の部下ですね。よろしくお願いします」
俺がそう思うと、すぐにセラは待ちわびた様子で言う。初期組は特に俺の心を読んでくるので、このタイミングで言ったということは、そのまま返すことは許さない、と言っているのだろう。
全く我が家のネームドモンスター達はいかれてるぜっ。
まあ、これから生成するネームドモンスター達は重要な役目を担うから、生成しない選択肢はないんだけどさ。
残る11体のネームドモンスターは全て、階層守護者や裏ボスなどといったボスとしての役職を持たない、管理人。ダンジョン運営の裏方である。
このダンジョンだと例えば、コロシアム階層に設置した、病院や刑務所の院長所長に、取り込んだ町の統括などを行う者が、そう呼ばれる。
侵入者の誘導や物の売買くらいであれば、ノーマルモンスターでも十分行えるため、ネームドモンスターが務める仕事は、もっと侵入者と深く関わること。それが上手くいかなければ、ダンジョン運営が上手くいかなくなる、それほど重要なことだ。
ゆえに管理人とは、ボスでこそないものの、ボス以上にダンジョン運営に欠かせない存在のことである。
また我がダンジョンでは、侵入者と関わらず、ネームドモンスターや俺とのみ関わるメイドも、管理人と呼ばれている。
このダンジョンではネームドモンスターがあまりにも自由過ぎるため、彼女達と折衝したりするメイドもまた、ダンジョン運営に欠かせないからだ。
今回生成する5体は、そちらになる。
セラのように階層ボスを兼任する者ではなく、チヒロやツバキのように、ボスとしての役職を持たない、管理人オンリーのメイドだ。
その者達には、倍以上に増えるネームドモンスター達の折衝だけでなく、城内の仕事やこの城以外で発生する仕事。それから、新たに増えた隔離迷宮において、魔素溜まり魔物を管理する仕事に従事してもらう。
ゆえに、セラの部下。
「チヒロもツバキも手を離れ、少し暇を持て余していたところでした。新しい者達が来るのは丁度良いです」
セラは続けて言った。面倒を見てくれるのは良いことだ。良いことだが……。
本来メイドとは、主人である俺のために働く者達のことを指す。
俺の心を癒してくれるというか……、そんな役割を持つのだ。
……大丈夫かい?
借金の甲斐があるほど、俺を癒してくれるのかい? 君が面倒を見てくれる子は、果たしてそんな子に育つのかい?
特に俺に優しくあるべきポジションなのに、今までのように1体に1万Pをかけた結果いかれたメンバーが増えました、ってだけにならないかい? 凄く心配だ。最早そんな未来しか見えないもの。
……しかし。
そんなことを思ったその時、俺は閃いた。
「――ん? なら、1体に1万Pかけずに生成してみるとか、良いんじゃないか?」
管理人に求められるものは、管理する能力。強さではない。他の子達のように、Pをあれほどかけて強化しなくても良いはずだ。例え他のネームドモンスター達に比べて一際弱くとも、ダンジョン運営になんら支障はない。
「Pを多く残せば残すほど、それを借金返済に充てられて、借金生活は短くなる。もしも3000Pで生成したなら、お小遣いをあげても3万Pちょっとに収まるんだから」
そうだ、Pを今までのようにかけなくても、別に構わないんだ。
懸念される問題としては、自身がみんなと比べて弱いことに落ち込んでしまったりだとかか。
いや、だがそんな問題は、俺の言葉で解決できる。ダンジョンマスターの励ましや賞賛を上回る喜びなど、ネームドモンスターには存在しない。君の価値は強さとは別のところにあるのだと、分かるまでずっと言ってあげれば良いだけだ。
完璧だ。
完璧すぎる案。
他に見落としがなければ、それでいこう。何か見落としはないか、見落としは……。
「――良し、ないな。見落としは何もない。じゃあ、少ないPで生せ――」
「そうでしたご主人様、先ほどジュースを持って来ていたのでした」
俺が結論を出すと、突然セラは手を叩き、ちゃぶ台に乗せていたジュースを俺に差し出した。
「どうぞ、お飲み下さい」
柑橘系の爽やかな香りのするジュースは鮮やかなオレンジ色で、いくつも入れられた氷によって、この夏場に相応しい冷たさを持っていそうに見えた。頭がオーバーヒートしそうだったので、冷たいジュースは素直に嬉しい。
「ありがとう」
だが、俺がそう言って手を伸ばすと、セラはその手を制した。渡してくれない。……もしかして俺のじゃないとか? そんな残酷なフェイント? 俺は一瞬心配になる。しかしその考えは違った。
セラはコップを持ったまま、俺が飲みやすい位置にまで持ってきて、そして片手に持ったストローをジュースの中に入れると、俺の口元へ差し出したのだ。
「どうぞ」
コップはその冷たさゆえに、汗をかいている。
俺が持てば、俺の手が濡れる。
セラはそれを避けるためにあえて俺に渡さず、飲めるように持ってくれていた。
なんて気が利くんだ。なんて素晴らしい配慮だ。
そうだ、これだ、これこそがメイドだ。俺はストローに口をつけ、感動を味わう。
「ご主人様が、私の生成の際に、たくさんPをかけて下さったからこそ、このようにご主人様に尽くすことができます。私は、幸せ者です」
そして顔を赤らめながらの、そんな感謝の言葉を聞いた。
「――っ」
おそらくその言葉を、セラは特に意識せずに言ったのだろう。本心であるがゆえに。
だが、俺にはその言葉が天啓のように聞こえた。そう、再び、俺は閃いたのだ。
「そういうことか。Pが低ければ行動が甘くなり、こういった気の利いた行動ができなくなる。逆に言えば、Pをかけることで、こういったダンジョンマスターに対する敬意や敬愛を表す行動は種類を増し、そして回数も増す」
見落としはないかと探して良かった。俺はどうやら、一番大切なことを見落としていたらしい。
「そうだ。俺がPをたくさんかけていたのは、強さを求めてではない。優しさを求めてのことだった」
つまり、戦う役職でないメイドだから節約できるなんて思ったのは、全くの真逆。戦う役職にないメイドにこそ、優しさが絶対条件となるメイドにこそ、俺はPをかけねばならなかったのだ。
俺は、メニューから生成を開く。
出てきたのは、見慣れた項目。生成にまつわる、様々な項目。
「1万Pをかける。正直、恐怖はある。今まで、優しさを求めてもいかれたメンバーしか生成されてこなかった。今回もそうなのではないかと」
メニューを操作しようとする手は、震えていた。
俺は目を瞑り、今までを思いだす。
よしなに。
チェーンソーとギロチン。
RDL社や手品師。
幼女。
えーっと?
謎の電話。
謎の電話パート2。
うるさい竜妹。
チェンジ推奨の先輩達。
惨状だ。それは惨状と言えた。
しかし、開けた俺の目には、炎が灯っている。
「だが、問おう。俺の種族はなんだ? そう、人間種族だ。俺は人間種族のダンジョンマスター、学習を武器とする唯一のダンジョンマスター。ゆえに、今までの失敗がなんだ。俺はその全ての失敗から学んでいる。ならば掴みとれるはずだ。今度こそ、優しさがっ」
手の震えは今、完全に止まった。
「セラっ、任せてくれ。最高の部下達を、生成してみせるぜっ」
「流石はご主人様です。楽しみにしておりますっ」
待ってろよ? 優しさにあふれたダンジョンよっ。行くぜっ。
まずは、天空城砦で働くメイド、いや執事2人。
『 下級光竜
ユニーク
性別:女性 ・・・0P
造形:人型 竜形態双頭型 執事 眼鏡 ・・・0P
性格:講和を重んじる クール ・・・0P
特徴:光明 聖竜の末裔 料理上手 ランダム魔眼 ・・・900P
適性:槍術 HP吸収 MP吸収 ・・・0P
能力値:全能力成長率上昇 ・・・9000P 』
『 下級闇竜
ユニーク
性別:女性 ・・・0P
造形:人型 竜形態双頭型 執事 眼鏡 ・・・0P
性格:講和を重んじる クール ・・・0P
特徴:暗闇 邪竜の末裔 料理上手 ランダム魔眼 ・・・900P
適性:斧術 HP吸収 MP吸収 ・・・0P
能力値:全能力成長率上昇 ・・・9000P 』
裏ボスの時に使わなかった光と闇の竜。彼女達が城で働く。
メイドだろうが執事だろうが、我が家での仕事はおそらく変わらないため、メイドでも良かったが、執事。
特徴に執事をつけると、Pが予算オーバーになってしまうため、造形の方につけたのだが、0Pっていうのは驚きだな。造形も造形で、人型ってだけで無料分を越えるかと思ったのに。眼鏡もあるし。
もしかして竜形態双頭型は、マイナスになるようなものなのか? それで0Pに収まったとか……。どうなんだろうか。眼鏡がマイナス要因という線もありうるが……。
まあ、構いはしない。求めるのは優しさ。
講和を重んじるクールなのだから、悪い事は絶対にしない。そしてチヒロやツバキのように、似たもの種族にすることで、仲が良く幸せな関係を作ることができる。
良いぞ、過去から学んでいる。優しい子が来る予感しかしないっ。
続いて、地上部分の管理を行うメイド2人。
『 クイーンフェアリー
ユニーク
性別:女性 ・・・0P
造形:亜人型 幼女 知的で冷血 光の羽 ・・・800P
性格:大人の対応ができる 常に泰然としているが、見られていると緊張する 仕事に一生懸命 仕える心意気 ・・・1000P
特徴:星の導き 星降り 一発必中 精神一到何事か成らざらん メイドの天才 ランダム魔眼 ・・・3400P
適性:投擲術 学習 気品 HP吸収 ・・・400P
能力値:全能力成長率上昇 ・・・3300P 』
『 クイーンピクシー
ユニーク
性別:女性 ・・・0P
造形:亜人型 幼女 冷血で知的 光の羽 ・・・800P
性格:子供の対応ができる 常に泰然としているが、急に声をかけられるとビックリする 仕事に一生懸命 仕える心意気 ・・・1000P
特徴:星の導き 星詠み 百発百中 天網恢恢疎にして漏らさず メイドの天才 ランダム魔眼 ・・・3400P
適性:投擲術 学習 気品 HP吸収 ・・・400P
能力値:全能力成長率上昇 ・・・3300P 』
似ているようで違うフェアリー種とピクシー種。
こちらもきっとチヒロやツバキのようなペアになる。しかしながら、造形や性格特徴も僅かに違うように設定したため、きっとお互いの得意は全くバラバラのことになるだろう。ペアでありながら、様々な分野で活躍を見せてくれるはずだ。
そう、様々な分野で、俺に優しさを見せてくれるはずだ。共通して、仕える心意気や一生懸命さがあるのだから。
地上部分の管理がメインの仕事なので、俺と一緒にいる機会はそう多くないだろうからね、様々な分野で優しさがあるっていうのは、良いことだよ。全く、俺の生成能力の上昇スピードには舌を巻くぜ。
では最後。隔離迷宮の魔素溜まり魔物の管理を行うメイド。
『 ガーディアンタートル
ユニーク
性別:女性 ・・・0P
造形:人型 未成熟な果実 軽い 甲羅はオーラ ・・・1000P
性格:色々とゆるい 頭はからっぽ 落ち込まない 落ち込んでいてもすぐ元気になる 話している人も元気になる 生きてりゃ良いことあるさ ・・・1500P
特徴:前途の守り手 前途の送り手 応援 1人で起き上がれる 追いつかれない 数は数えられる 計算はできる 飼育上手 発育上手 予想外の成長 ランダム魔眼 ・・・3300P
適性:杖術 思考 学習 ・・・600P
能力値:全能力成長率上昇 ・・・2700P』
隔離迷宮とは、魔素溜まり魔物を発生させまくる、侵入者禁制のネームドモンスター達専用のLv上げ場のこと。
出入りのための出入り口や方法が存在しないことから、隔離迷宮と名前をつけたが、要は天空城砦地下にあった水晶迷宮と同じ目的のものだ。
魔素溜まり魔物を逃がさないようにして戦わせ、強くなったところを倒す狩り場。水晶迷宮と違うところは、侵入者が入って来られないことと、規模の大きさだけ。隔離迷宮は超でかい。
28人もの戦闘狂がいると水晶迷宮くらいのサイズでは、魔物が増えるスピードよりも狩るスピードの方が早くなってしまっていた。そのせいで、ダンジョン外へのLv上げの遠征を全く止められなかったのだ。今回、さらにネームドモンスターが増えるのでなおのこと止められなくなる。なので、規模を大きくして新たに用意した。
どのくらい大きいかというと、奥行き1km高さ1kmの建造物で、その横幅が半径100km地点を、つまりダンジョン最外をぐるっと一周しているくらい。
自然型ダンジョンで最大の広さを誇る階層は1階層だが、それと同じ広さと形。ただし高さ1kmの中には高低様々な通路や部屋が、ところによっては100階建てくらいに重ねられているため、述べ床面積でいえば隔離迷宮の方が何十倍もでかい。
もちろん、そんな建造物を地上に設置すると、1階層が完全に占領されてしまうので、隔離迷宮は上空5000mに浮かんでいる。丁度、1階層の真上だ。
外観も内観も、ダンジョンとしては最もポピュラーな、均一な大きさの石が並べられて造られた石造りだが、そのでかさだけで、異様に見えてしまう。
侵入者達からすれば、なんだあの浮かぶ馬鹿でかい謎の建造物は、いつかはあそこに行くのか、全くこのダンジョンは予想不能で楽しいぜ、と思うかもしれないが、すまない、そこは関係ない。
まあ、隔離迷宮とはそんなところ。
このメイドはその隔離迷宮で、魔素溜まり魔物が強くなる手助けやら、強い種族の魔物が生まれたら死に難いように保護したりする。
広いので狩りつくされる心配はないが、歯ごたえのある相手が多くならなければ、結局意味がないので。
守る系の能力と、強い魔物の最適な数を算出する能力と、育てる能力。
性格は俺への優しさを重視して、あまり俺に対して厳しくしないように、俺の教えを受け入れてくれるようにした。
「完璧だ」
俺は呟く。
「見落としは、ない」
今度こそ俺に優しいネームドモンスターが生成される。長かった、今まで、本当に長かった。
しかし、その長きに渡る経験が、今回の完璧な生成に役立ったのだろう。それを思えば、過ぎ去った時も、随分懐かしく楽しかったように思う。
「いやあ、完璧なネームドモンスターを考えた結果、頭がかなり疲れてしまった、オーバーヒートしそうだよ。ダンジョンマスターだから、そんなことはないんだけど。でも、ここいらでちょっと冷たいジュースが飲みたいな。あー、飲みたいなー」
俺は昔を思い返しながら、そう言ってみる。
するとすぐさま俺の元にジュースが運ばれ……。
……。
「飲みたいなー」
……。
……あれ?
俺はセラをチラリと見る。
「セラ、あの、ジュース」
「ジュースでしたら、そちらのちゃぶ台に置いておきましたので、ご自由にどうぞ」
「え、あの、飲ませてはくれないのかい?」
「申し訳ございません。何を仰っているのかよく分かりません」
『これで生成を開始します。よろしいですか?』
「え、あ、うん。はい。お願いします」
あれー?
予想外の出来事に首を捻っていると、5つの光の靄が現れた。
橙色の鱗の靄。
紫色の鱗の靄。
桃色の光の靄。
水色の光の靄。
灰色の甲殻のような靄。
そこから、2人の美女と、2人の美幼女と、1人の美少女が現れる。
「下級光竜の君は、ナーヴェ。下級闇竜の君は、ニーヴェ」
「初めましてお館様。聖竜の末裔であるこのナーヴェ、栄誉ある執事としての役割を得た歓喜に、身を震わせております。身命を賭してお尽くししますことを誓います。そこの自分勝手な者よりも」
「初めましてお館様。邪竜の末裔であるこのニーヴェ、栄名たる執事としての役割を得た喜悦に、身を震わせております。挺身をもってお尽くししますことを契ります。そこの身勝手な者よりも」
短めの髪の2人の美女は、白い手袋をした手を体の前で90度に曲げると、気品ある動作で一礼する。
「クイーンフェアリーの君は、ヌカリエース。クイーンピクシーの君は、ネストラート」
「初めましてお館様。ヌカリエースの名を頂きました、ヌカリエースですえ。地上のメイドのトップとしての役目を下さり、非常に光栄ですえ。頑張りますえ。そっちの裏切り者よりも」
「初めましてお館様。ネストラートの名を頂きました、ネストラートですえ。地上のメイドの超トップとしての役目を下さり、非常に光栄ですえ。頑張りますえ。そっちの裏切り者よりも」
長い髪の2人の美幼女は、見慣れたメイド服とは少し違うメイド服姿で、スカートの裾をちょいとあげて優雅に挨拶をする。
「ガーディアンタートルの君は、ノーヒエ」
「あ、はーい。ノーヒエでございませ。隔離迷宮の管理は任せてお下さいませっ。足し算と引き算と九九は完璧です、数も10まで数えられるので、大丈夫でございませっ」
ミドルの髪をちょんまげのように結んだ美少女は、元気良く挨拶をする。
……なんだかちょっと、それぞれに疑問を持つ挨拶だった。
「ナーヴェとニーヴェはあれかい? 仲が悪いのかい?」
「お館様。邪竜の末裔などを配下に加えるのはいかがなものかと。邪竜は自分勝手で、災いを巻き散らすことになんの罪悪感も持たない悪徳なる者のことですので」
「お館様。聖竜の末裔などを自陣に加えるのはいかがなものかと。聖竜は身勝手で、災いを巻き散らしてもなんら気づかない背徳なる者のことですので」
「ヌカリエースとネストラートもあれかい? 仲が悪いのかい?」
「お館様。ピクシー共は、かつての大戦中に敵に寝返った者達ですえ。女王である此方が仲良くできようもありませぬ」
「お館様。フェアリー共は、かつての大戦中に味方を裏切った者達ですえ。女王である此方が仲良くできようもありませぬ」
「そしてノーヒエ。数が10までしか数えられないって、本当に計算はできるのか? 九九なんてほとんど10越えてると思うけど……」
「もちろんできますでございませっ」
「3×4は?」
「ちょっと自信がございませんが、サンシガヨンでございませっ」
「……違うなあ、……ちょっとだけだけどね。けど3×4が4なら、2×2は?」
「それなら自信がございませっ。ニニンガゴっ」
「……おしいっ」
あれー? 俺の舌を巻く生成テクニックは?
「「「「「セラ様。ご挨拶が遅れまして、申し訳ございません。忠実なる部下、遅ればせながら御身の元に到着致しました。戦う席次にはありませんが、他の同期達にも負けぬよう、ダンジョン最強決定戦でも結果を残したいと考えております。是非、手ほどきを頂ければと思います。誠心誠意、やり遂げてみせます」」」」でございませ」
「期待していますよ。これから頑張りましょう」
5人はいつも通り絶対的上位者に、俺よりも丁寧な言葉で挨拶を行う。
なんだか、嫌な予感がしてきた。
ま、まあ、不仲でも計算ができなくても、優しさだけはあるはずだ。それは絶対に大丈夫だ。
なにせ、様々な経験を積んだ俺が、1万Pしっかりかけているのだ。Pをきちんとかけたなら優しさが生まれることは、先ほどのセラの行動や言葉によって、立証済みである。間違いなくあるはずだ。
「なあセラ、そうだよな? セラ、ジュースをもう一度だけで良い、それで俺は信じるから、もう一度だけジュースを飲ませてくれっ」
「やはり太陽の下で飲むトマトジュースは最高ですね。はて、何か仰いましたか? ご主人様」
……なんだか嫌な予感がしてきたぞっ。
騙されたっ。詐欺じゃないですかそんなのっ。
「ふふふ。はいはいご主人様、そんなことよりも早くお小遣いをあげてください」
『 名前:ナーヴェ
種別:ネームドモンスター
種族:下級光竜
性別:女
人間換算年齢:28
Lv:0
人間換算ステータス:175
職業:天空の執事
称号:聖なる仕事人
固有能力:聖竜の血脈 ・竜因魔法、光魔法の威力上昇。上昇に応じてステータス上昇。
:光を当てる執事 ・どんな行動にもプラスを生み出す。
:闇壊の魔眼 ・右、視界内の闇を自壊させる。
種族特性:光竜因魔法 ・光の竜因魔法1段階目を使用可能。
:竜魔法 ・竜魔法使用可能。
:下級竜の翼 ・質量、重力、慣性を無視し移動可能。
:下級竜の再生力 ・身体の破壊欠損を再生できる。HPMP自然回復上昇。
:竜双化 ・2体揃えば竜形態に変化可能。
特殊技能:エナジードレイン ・生命力と魔力に干渉するたび吸収する。
存在コスト:9000
再生P:13000P 』
「ありがとうございますお館様。敬意を忘れずに使わせて頂きます」
髪色とは違う、紫色の右の瞳と、髪色と同じ橙色の左の瞳を持つナーヴェは、お小遣いを貰うとニーヴェに向けてニヤリと笑みを作る。
「私の方が先でしたね」
そしてセラに頭を下げると、ゆっくり更衣室の方へ向かって行った。
『 名前:ニーヴェ
種別:ネームドモンスター
種族:下級闇竜
性別:女
人間換算年齢:28
Lv:0
人間換算ステータス:175
職業:天空の執事
称号:邪なる仕事人
固有能力:邪竜の血脈 ・竜因魔法、闇魔法の威力上昇。上昇に応じてステータス上昇。
:闇で覆う執事 ・どんな行動でもマイナスを打ち消す。
:光壊の魔眼 ・左、視界内の光を自壊させる。
種族特性:闇竜因魔法 ・闇の竜因魔法1段階目を使用可能。
:竜魔法 ・竜魔法使用可能。
:下級竜の膂力 ・防御性能を無視したダメージを与えられる。
:下級竜の鎧 ・物理魔法ダメージ減少、異常への高い耐性を有する。
:竜双化 ・2体揃えば竜形態に変化可能。
特殊技能:エナジードレイン ・生命力と魔力に干渉するたび吸収する。
存在コスト:9000
再生P:13000P 』
「ありがとうございますお館様。畏敬の念を持って使わせて頂きます」
髪色と同じ、紫色の右の瞳と、髪色とは違う橙色の左の瞳を持つニーヴェは、クールな表情のまま、お小遣いを貰う。
そしてセラに頭を下げると、急いで更衣室の方へ向かって行った。
「それではお先に」
そう言いながら、ゆっくり歩いていたナーヴェを追い越して。
ナーヴェは余裕綽々な態度で、どうぞ、と先に行かせたが、追いかけるかのように早歩きに歩みを変えた。おそらく今度は、どちらが更衣室から先に出てきたかで争うのだろう。
性格に設定した、講和を重んじるクールは一体どこに行ったのか。
なお、造形が安かった理由だが、竜形態の双竜型が原因だったらしい。どうやらナーヴェニーヴェは2人揃わないと竜化できなくなっている。元々の種族の姿に戻る種族特性は案外有用で、みんな使いこなしていたりするので、それの使い勝手が悪くなれば、確かにそれはマイナスだ。眼鏡じゃなかったんだな。
だが、そうか、竜化すると、お互いがそれぞれの頭になるのか。……今のままじゃその瞬間に殺し合いを始めそうな気がする。仲良くしようよ。
『 名前:ヌカリエース
種別:ネームドモンスター
種族:クイーンフェアリー
性別:女
人間換算年齢:8
Lv:0
人間換算ステータス:120
職業:大地のメイド
称号:妖精の女王
固有能力:星霊干渉 ・彼方のエネルギーに干渉し、操ることができる。
:隕石魔法 ・空から巨大な隕石を降らせることができる。
:密度の魔眼 ・右、視界内の物質の密度を変更することができる。
種族特性:亜精霊 ・精神体になることができる。
:浮遊飛行 ・羽がなくとも羽ばたかずとも空中移動が可能。
:魔力感光 ・魔力を帯びると羽が属性色に光る。ステータス上昇。
:妖精種の女王 ・妖精種の個体を増やすことができる。
特殊技能:エナジードレイン ・生命力と魔力を干渉の度に吸収する。
存在コスト:3300
再生P:10000P 』
「頂戴しますえ、お館様。しっかりと考えて計画的に使いますえ」
髪色とは違う緑色の右目と、髪色と同じ桃色の左目のヌカリエースは、そう言ってお小遣いを受け取った。
小さな体には似つかない、隕石を降らせるという豪胆な技と、お小遣いを計画的に使うという堅実な発想を持つヌカリエース。
お小遣いを計画的に使うのは重要だよね。俺も見習いたいものだ。いつの間にか借金が増えているもの。
『 名前:ネストラート
種別:ネームドモンスター
種族:クイーンピクシー
性別:女
人間換算年齢:8
Lv:0
人間換算ステータス:120
職業:大地のメイド
称号:妖霊の女王
固有能力:星霊干渉 ・彼方のエネルギーに干渉し、操ることができる。
:隕石魔法 ・空から隕石を大量に呼び寄せることができる。
:比重の魔眼 ・左、視界内の物質の比重を変更することができる。
種族特性:亜精霊 ・精神体になることができる。
:浮遊飛行 ・羽がなくとも羽ばたかずとも空中移動が可能。
:魔力感光 ・魔力を帯びると羽が属性色に光る。ステータス上昇。
:妖霊種の女王 ・妖霊種の個体を増やすことができる。
特殊技能:エナジードレイン ・生命力と魔力を干渉の度に吸収する。
存在コスト:3300
再生P:10000P 』
「頂戴しますえ、お館様。ちゃんと必要なものだけに使いますえ」
髪色と同じ水色の右目と、髪色とは違う薄い緑の左目のネストラートは、そう言ってお小遣いを受け取った。
舌足らずな喋りには似つかない、隕石を呼び寄せるという豪胆な技と、お小遣いを必要な物だけに使うという発想を持つ堅実な発想を持つネストラート。
お小遣いを必要なものだけに使うのは重要だよね。俺も見習いたいものだ。必要なものしか生成してないつもりなんだけどなあ。
「それではお館様、セラ様。失礼しますえ」
「それではお館様、セラ様。失礼しますえ」
フェアリーのヌカリエースとピクシーのネストラートの2人は、種族特性だけでなく、固有能力も似通っており、お互いに同じような隕石魔法と魔眼を持っている。
もちろん相性は抜群で、一緒に戦うのなら相乗効果によって、力は1+1よりもさらに大きくなるに違いない。しかしおそらく、一緒に戦う時は来ない。
「真似はしないで欲しいですえ」
「真似はしないで欲しいですえ」
「だから真似するなですえっ」
「だから真似するなですえっ。ぷぷぷ」
「ふんっ。もう良いですえっ」
「ふん、もう良いですえ」
「……」
「ふん、もう良いですえぇえぇ」
「きーっ。このーっ」
「すぐ怒るなんて、子供子供。大人の対応はどこですえ? やっぱりフェアリーは、考えが足りないですえ」
仲が悪いから。
「えーっと、最後、ノーヒエ。お小遣いの1500Pだよー。あ、いや、15Pだよー。0は何もないって意味だからねー」
『 名前:ノーヒエ
種別:ネームドモンスター
種族:ガーディアンタートル
性別:女
人間換算年齢:18
Lv:0
人間換算ステータス:133
職業:隔離迷宮の管理人
称号:狂奔を酪農する者
固有能力:強制進化 ・対象を一時的に進化させる。
:真祖返り ・亀の欠点を全て趣向の範囲に抑えられる。
:発育の魔眼 ・右、領域内の対象の発育を変更できる。
種族特性:硬い甲羅 ・防御力上昇、衝撃を軽減する。
:緊急避難 ・一定時間攻撃によるダメージを受け付けない。
:三界適応 ・特殊な環境に対しても、適応できる。
特殊技能:エナジードレイン ・生命力と魔力を干渉の度に吸収する。
:スタディ ・物事を1つ学ぶことができる。
存在コスト:2700
再生P:10000P 』
「ありがとうでございませっ」
灰色の髪色とは違う黄色の右目と、髪色と同じ灰色の左目のノーヒエは、俺から15Pを受け取ると満面の笑顔でお礼を言った。
そしてこいつは馬鹿だ。
10以上の数字は数えられないらしいので、試しに1500と15は同じだよ、だって0は何もないってことだからという理論を駆使し、15Pだけをお小遣いとしてあげてみたのだが、何一つとして問題がなかった。
「1、2、3、4、5、数え切れないでございませ。なにを買いませ。こんなにたくさんあったら、ノーヒエはなんでも買えちゃうませ」
何かあれよっ。気づけよっ。気づいてくれよっ。それで一体どうやって隔離迷宮の管理をするんだっ。
「隔離迷宮がちゃんと機能しないと、Lv上げに支障が出るんだ。そうしたらみんなダンジョン外でLvを上げようと思ってしまうかもしれない。だからノーヒエ、君の肩にダンジョンの未来がかかっているんだ。頼むぞっ」
「お任せ下さいませっ。こんなにたくさんお小遣いを頂いたので、精一杯頑張るでございませ」
こんなに元気の良い返事なのに、信頼が1つもできないっ。
ノーヒエが更衣室へ向かおうとしたので、それを止めて1485Pを渡したが、その際ずっと、何が起こったんだろう、変わってないのに、無駄なことをどうしてさせられたんだろう、そんな顔をされていた。
「どうして、どうしてこんなことに……」
それぞれに1万P、いやそれ以上かけて、感じられた優しさは0だ。いや、それどころか、安心すらできない。そんな次元じゃない。大丈夫なのか、大丈夫なのかこれから。ダンジョン運営に携わる管理人がアレで本当に大丈夫なのか俺は。
もしも運営が上手くいかなければ、借金が返せる日が遠のくんだぞ。
そんなことになったら、どれほど膨れ上がるか。
7万Pのトイチは、1年で216万P、2年後には7358万P、5年後には2兆3909億P。そして10年後には……。
「どれほどの数字になるのか、想像もできない」
「10年後には、8983京1390億6219億3468万Pになっておりますよ。ご主人様」
想像させられたっ。強制的にっ。
セラはあっけらかんと、全てのダンジョンが稼ぐPをあわせても足りないような天文学的数字を口にする。
京って貴女。
京はダメよ。いや、億からもうダメだけどね。もう絶対に返せないけどね。
「利息分を毎回支払えたら、そこまで膨らむことはないけど、でも、それでも……」
10日で1割だもんなあ。
前回の借金も、毎日コツコツ返済していたのに、結局返せたのは戦争が始まってからだ。戦争のおかげで、なんて言い方はしたくないが、あれがあったからこそPを一気にドカンと稼げて返せた。なければ、永遠に返せなかったかもしれない。
俺は今回の借金を、きちんと返せるんだろうか。
そう悩んでいると、セラが言う。
「ご主人様。ご安心下さい。計算上、10年と少しで返せる予定です」
どうやら、セラの中で、返済の目処は立っているらしい。
「なんだ。随分先だけど、できるんなら良かった。いやあ、心配が1つ減ったよ」
……。
……。
「だから10年後に何があるんだっ」
怖いよ10年後。
心配が1つ増えたよっ。
「どうして……絶対戦争じゃないか。Pをドカンと稼ぐ出来事じゃないか。一体どことの……期間が短過ぎるよう……」
「落ち込まないで下さいご主人様」
「いや、だって、だってさ」
「元気をお出し下さい」
そんなことを言われても、元気が出るはずないだろう? だって、だって。
「仕方ありませんね。そんなこともあろうかと、ご主人様が元気が出る催しを企画しておりますので。ご安心下さいご主人様。まだ夕刻にもなっていませんが、日が暮れて夜になれば、空に花火を上げる予定です。その時には一緒に見て、心を癒しましょう」
「ああ、そんな催しが。うん分か――、その花火、城の爆発っ」
「ご安心下さい。3万発の花火ですから、とても綺麗ですよ」
「不安なのはそこじゃないっ。3万発って城コナゴナになっちゃうっ」
「ふふふ」
セラは笑う。
相変わらずセラさんのご安心下さいは安心できない。今まで一回も安心したことないんじゃないか?
「一緒に見ましょうね、約束ですよ」
「……うん、見るよ、見るよ……。城の最後の輝きだもの」
小指を絡ませた俺達。
ああ、俺がPを計画的に使えるようになるには。必要な物以外に使わなくて済むようになるには。
一体どうしたら良いんだろう。
我が家のメイド達よ、どうか教えてくれ。
「お館様ー、セラ様ー、更衣室ってどこでございませ? ノーヒエは迷ってしまったでございませ」
……。多分、無理だろうなあ。
お読み頂きありがとうございます。
更新と更新の間が大きく空いてしまっており、大変見苦しいこととなっております。本当にすみません。ゴタゴタしているため、中々書けない状況が続いています。
今月はなるべく書こうと思っておりますが、まだまだどうなるか分かりません。ただ、頑張ります。これからもよろしければ、どうぞ読んで頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。




