第123話 ダンジョン警察、クリスティーヌ、ケイティーヌ、コウティーヌ。
悪逆非道のダンジョンマスター心得その12
未来永劫を生きるために、倫理を大切にしましょう。……。倫……理?
遺跡迷路の2人。押しに弱いネフスフィアと、押しが強いヌミスフィア。
コロシアムの10人。偉そうな幼女ヨイコ、その保護者ヤスミ、ロリババアモア、健康オタクメア、極道女優ムルニス、軍人フィオリカ、助けてくれないヒストリカ、馬鹿ハナヲ、美少女ノノヲ。あ、ヘルメス。
窪地の10人。ヤバイのその1カエラ、喧嘩してた子その1オフィーエル、喧嘩してた子その2エンジュエラ、音楽家ウリエル、ヤバイのその2イリュキエラ、RDL社アルディエル、手品師ワグナエラ、4番サードレンギエル、恥ずかしがり屋ルイシエラ、それを引っ張るラミエル。
地下都市の1人。よしなにのキースティー。
全ての階層ボスを生成し終え、一段落といったところか。
まあ、見回した感じ、全く一段落ついてはいないが。
遺跡迷路の階層ボス、押しに弱いネフスフィアと、押しが強いヌミスフィアは、2人でビーチバレーの特訓中。
「せいっせやーっとーっ。はあはあ。おいヌミスいい加減にしろ。わたしばっかりこんな……。一旦休憩にしよう――って言ってるそばからとやーっ」
「まだまだ、甘いよー、ネフちゃん。もっと行くよー、声出してー」
コロシアムの階層ボスの内、偉そうな幼女ヨイコと保護者のヤスミは、合流した影の薄い……えーっと……ヘルメスと一緒に今はティータイム。
「これは美味いのだっ。甘いのだっ。こんな甘いの食べたことないのだっ。幸せなのだーっ」
「体に悪いからって禁止されてましたからね。でももうお腹一杯食べて良いですよ。あ、晩ご飯の分は空けておかなければいけませんよ」
「いいんですいいんです。私の前に置かれてないですけど、いいんですいいんです」
窪地の階層ボス、平等にとの精神で他者の何かを切り落とそうとするカエラと、温泉のルールを破れば粛清しようとするイリュキエラと、手品師のワグナエラは、一緒にマジックショー。
「なるほど。お腹回りが太っていて、どうしても嫉妬してしまうと。分かりました、それなら胴を切り裂きましょう。これでもう嫉妬しなくなるはずです。えーい」
「湯船にタオルをつけたまま入ったと。なら、もう首から下はいりませんね、ギロチンで斬首しましょう。そーれ」
「ぐ、ぐあああああああー。首と胴が真っ二つに切られてしまったー、しかーし、くっつけるとー? 見事元通り。驚かれましたのなら、我輩と協力してくれたカエラとイリュキエラに盛大な拍手を。ふっはっはっは。え? 2人共、もう出番は終わったのである。え、あ、違う、あれはマジックショーの導入の話で、実際にそうではなくて。実際に切ったら死んでしまうであろう? ほら、何をしているのであるか、チェーンソーのスイッチを切るのだ、ギロチンの刃を戻す必要はない。なぜ近づいてくる? なぜ近づいてくる? なぜ近づいてくるっ」
地下都市のボス、よしなにキースティーは、水着コンテストの準備中。
「マミーの包帯で作った新しい水着に、スケルトンで作った骨神輿。これをゾンビ共に担がせ、ゴースト共にライトアップさせて、ワイト共がバックダンサー。よしなによしなに。これで余の優勝は間違いなし也や」
これが倍に増えるのか。
どうしよう、不安しかない。
ダンジョンモンスター、特にネームドモンスターの生成なんてのは、俺達ダンジョンマスターにとって、最もワクワクする仕事のはずなのに、こんなにも未来に心躍らない。
「なぜ……」
俺は砂浜に膝をついた。
「どうして……」
砂浜には、俺の拳の痕がつく。
「どうして、ダンジョンマスターがこんなに落ち込んでいるのに、誰1人としてこっちをチラリとも見ないんだ……」
遊びに夢中じゃないですか。
『気のせいだぜ』
『気のせいでしょうね』
マキナ、セラ……。そうか、気のせいだったか……。つまりはみんな俺のことを気にして……いや、そんなわけないねっ。だって今の通信じゃん。近くに来る気すらないじゃんっ。遊ぶ方を優先してるじゃんっ。
「はあー」
俺は立ち上がり、膝についた砂を払う。
こんなことで、俺はめげない。そんな柔な心では、ここのダンジョンマスターは務まらないのだ。頑張ろう、次こそは、次こそは良い子がくることを祈って。
『……丈……よー……任……ちょーだ……』
「ん? 誰かなんか言った?」
どこかから聞こえてきた言葉に、俺は振り返る。しかし、声の主はどこにも見当たらない。気のせいだろうか。
『気のせいじゃないぜー』
『気のせいではありませんね』
そうか気のせいじゃないのか。……いや、俺が何度その言葉に騙されてきたと思う? もう貴女達の気のせいを信用することなどできるものかっ。これは気のせいだっ。
というわけで、俺は生成に入る。
生成するのは、裏ボス達。
裏ボスというだけあって、ダンジョン踏破のために倒さなければならない階層ボスとは違い、倒さずとも先へ進むことができる。しかし、倒せば攻略に非常に役立つ何かが得られる。
それは装備であったり、アイテムであったり、財宝であったり、技術であったり、スキルであったり、はたまた自信であったりと様々だが、いずれも攻略のために得て損はない。
また、裏ボスとは通常、全てをクリアした後に挑戦可能になるという、言わばお楽しみ要素の敵であるが、ダンジョンをクリアするということは俺が死んでしまうということなので、それは不採用。
いつでも挑戦可能な存在にした。
裏ボス達は、1階層から40階層のどこかや、遺跡迷路コロシアム窪地地下都市のどこかを、自分仕様に変えて待ち受けているので、是非探してみて欲しい。
しかし、そんな裏ボス達の中には、自分の場所を持たず、倒しても何も得られない裏ボスがいる。それが今回一番最初に生成する裏ボス。
役割は、不埒者の排除。
例えば、ダンジョン内で破壊活動をする者や、ゴミのポイ捨てや立ちションなどのマナー違反を冒す者、それからサービスエリアで他の人のことを考えず荒らす者、そんな者達のもとへ赴き、天誅を下すのだ。
ゆえにその裏ボスは、ダンジョンの秩序を守る者、ダンジョン警察だと考えても良い。
ダンジョンマスターにとって、侵入者の内、誰を生かし育てるのか、誰を間引くのかを考えることは重要な仕事の一つである。
ゆえに、特定の者の排除を行う専門のダンジョンモンスターは、どこのダンジョンにも存在する。ダンジョンの道理に反することではない。
大方は、自然に発生する魔素溜まり魔物を倒すのと同じダンジョンモンスターを派遣するのだとか。
ここもこれから、侵入者が増えるだろう。そうなれば、色々な者がやってくるはずだ。不埒者と言ったが、中にはそんな言葉じゃ収まらない悪人もいるだろう。
基本的に、侵入者の犯罪は、侵入者同士による取り締まりに任せ、自浄作用でなんとかしていく予定だが、法律で裁けないダンジョンへの迷惑行為は別である。それら悪人を倒すのか、はたまた刑務所に送るのか、それはまだ決めていないが、そんな時にこの裏ボスは絶対に必要だ。ダンジョン警察としての活躍を期待する。
そしてそれはもちろん、私生活においても。
悪逆非道のダンジョンマスターと俺が呼ばれる事態になってしまっているのは、まず間違いなくここに悪逆非道のダンジョンモンスターがいるからだ。
いるというか、勢揃いしているからだ。
まずは彼女達をどうにかしなければ、俺の汚名はすすげない。
ダンジョン警察として、彼女達の違法行為を止める役割も期待する。
そのために今回も、初期組は近くにいない。
彼女達がいると、間違った常識を教えられてしまうので、そもそも呼んでもいない。遊びに夢中なので、実際に呼んだとしても、来るかどうかは微妙だが。来なかったらショックなので、そういった意味でも、呼びたくない。一石二鳥である。いや、なんか違うな。
とはいえこれできっと、ネームドモンスターとしての、正しい在り方を教えられるはずだ。
さっきはどこかの誰かに電話で先に教えられてしまい、叶わぬ夢と散ったが、今回こそは。
「さて、生成を始めよう」
俺はそう言って颯爽と取りかかった。
全階層移動型の裏ボスは3体。
3という数字に意味はなく、それぞれが何かを司るということはない。ただ、悪人の数がどれだけになるか分からないため、1体では厳しいだろうと思い、増やしただけだ。
少なくとも現段階で、取り締まらなければいけない悪逆非道が28人もいるわけだからね。人数は多くなければいけない。なんなら初期組と二期組を上回る数を、生成したいくらいである。
「まあそれは無理だから、せめて3体、と。運用は3体揃って戦う感じに。力を合わせれば、それが何倍にもなるように、1+1+1が、28を上回るように」
つまりは種族や特徴を揃えて、力をあわせやすくする、と。
「いや待てよ? 揃えすぎてもダメだな。苦手が被るとマズイことになる。1階層から40階層までとか、町の中、遺跡迷路の中、コロシアム、窪地、地下都市、海、サービスエリア、色んな場所で戦うんだから、誰かが苦手でも誰かが得意でカバーできるようにしないといけない」
うーん。
「あ」
なら、五獣のような形態にすれば良いのか。
「玄武、白虎、朱雀、青龍。麒麟……キリン。バラバラな種族で、その性質も真逆といえるくらい違うが、同じ括りに位置する魔物」
それなら、全員が苦手とする地形や環境は存在せず、しかし力を合わせて協力することができる。
どうやら俺は、またしても閃いてしまったようだ。
生成リストを開いて、そんな関係の魔物を探してみた。
中々いないとは思うのだが、案外、それは、あっけなく見つかった。
「君に、君達に決めたーっ」
『 ベヒモス
ユニーク
性別:女性 ・・・0P
造形:亜人型 ミニスカポリス 赤色 ・・・100P
性格:注意力散漫 よく喜ぶ 罪を憎んで人を憎まず ・・・0P
特徴:桃源郷の誓い 攻撃吸収 連射派 三人寄れば文殊の知恵 三位一体 マナーを守る ランダム魔眼 ・・・3000P
適性:杖術 思考 学習 HP吸収 MP吸収 ・・・100P
能力値:全能力成長率上昇 ・・・5100P 』
『 レヴィアタン
ユニーク
性別:女性 ・・・0P
造形:亜人型 ミニスカポリス 青色 ・・・100P
性格:自己中心的 よく怒る 罪を憎まず人を憎む ・・・0P
特徴:桃源郷の誓い 防御吸収 一撃派 三人寄れば文殊の知恵 三位一体 マナーは守る ランダム魔眼 ・・・3000P
適性:杖術 思考 学習 HP吸収 MP吸収 ・・・100P
能力値:全能力成長率上昇 ・・・5100P 』
『 ジズ
ユニーク
性別:女性 ・・・0P
造形:亜人型 ミニスカポリス 黄色 ・・・100P
性格:無口 よく恐れる 罪を憎んで人も憎む ・・・0P
特徴:桃源郷の誓い 補助吸収 散弾派 三人寄れば文殊の知恵 三位一体 マナーが守る ランダム魔眼 ・・・3000P
適性:杖術 思考 学習 HP吸収 MP吸収 ・・・100P
能力値:全能力成長率上昇 ・・・5100P 』
性別はいつも通り。
造形は種族の特徴を少し受継ぐ亜人型。警察ということでポリス、女の子なのでミニスカ。色味はきちんと分けて。
性格はバラバラに。……ジズが少しおかしいか? まあ、大丈夫か。
特徴は協力できるように3人で効果を発揮するものを多くした。
適性と能力値はいつも通り。
そして種族が、陸を統べるベヒモス。
海を統べるレヴィアタン。
空を統べるジズ。
五獣のように、1人だけ表記を漢字からカタカナに変換しないといけないなどもない、丁度良い3種族がいた。
それらは元々の生成Pが1700Pという、森や山の支配者どころか霊獣以上の格、あるいは神獣のような魔物である。土地神としての信仰も、盛んに行われているかもしれない。
理を破壊できるような竜と比べてしまえば、一番安い下級竜の3000Pより劣るものの、竜の眷属のような存在である竜族と比べたなら、上位に位置するハイワイバーン並に高い。もちろん竜や竜族以外の種族と比べれば、最高位と比べても飛び抜けて高い。
そんな魔物が、一体いつの間にリストに加わったんだろうか。自然に加わることはないだろうから、きっとダンジョンで、その種族の魔物を倒したんだろう。勲章のおかげで、ダンジョン内で倒した魔物の種族がリストに追加されるようになってるからね。
しかし俺は、そんな凄い種族が侵入してきたことを知らない。一体いつの間にそんな……、いつの間に引きずりこんで、そんな虐殺を……。よくできたなと俺は言いたい、褒める言葉ではなく、嫌味の言葉として。実力を問う言葉ではなく、良心を問う言葉として。
まあ、ありがたく使いますが。
「とはいえそんな凄い種族だからこそ、初期組二期組と三期組の垣根を越えて、きちんと取り締まりをしてくれるに違いない。罪を犯した者、マナー違反を冒す者、それらは決して許さない、正義こそがこの子達の真髄なのだ」
『これで生成を開始します。よろしいですか?』
「生成してしまうがよろしっ」
俺がそう言うと、3つの光の靄が現れた。
大地のような赤色の靄。
大海のような青色の靄。
大空のような黄色の靄。
そしてそこから、3人の美女が現れた。
「ベヒモスの君が、クリスティーヌ。レヴィアタンの君がケイティーヌ。ジズの君がコウティーヌ」
「はい大王様。クリスティーヌです。名前と役目、ありがとうございます。仰せの通り、悪い人は逮捕しちゃいます」
素直な赤色の髪色ながら、かなりの天然パーマのクリスティーヌは、少し元気に返事をした。
「はい大王様。ケイティーヌです。名前と役目、しかと承りました。仰せの通り、悪い人は逮捕してみます」
素直な青色の髪色ながら、かなりの天然パーマのケイティーヌは、普通に返事をした。
「はい大王様。コウティーヌです。名前と役目を、頂きましてありがとうございます。仰せの通りに、悪い人は逮捕します」
素直な黄色の髪色ながら、かなりの天然パーマのコウティーヌは、少し元気なく返事をした。
3人は同じ髪型、同じ服。
180cmを越える高身長なのに、その身長も体格も同じ。
顔も似ており、違うのはホクロの位置くらい。まるで3つ子のようだった。そっくりで可愛らしい。服装は制服だから一緒なだけだが。
3人は同時に下げた顔を同時に上げると、俺の次の言葉を待つ。
良い子達だ。間違いなく良い子達のようだ。
だが……。
「……、お、おお。よ、よろしく。よろしくね。……お、お小遣いをあげよう」
俺はそんな風に言い淀んでしまった。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
警察3人娘はこんなにも良い子そうだというのに……。
『 名前:クリスティーヌ
種別:ネームドモンスター
種族:ベヒモス
性別:女
人間換算年齢:22
Lv0
人間換算ステータス:160
職業:ダンジョン警察
称号:行儀の守り手
固有能力:前門の盾 ・攻撃を引き寄せ無効化する。任意のタイミングで、味方に同じ能力を付与する。
:違反察知 ・自身の定めた規定への違反を察知できる。
:認知の魔眼 ・左、視界内の対象に、物事を認知させる。
種族特性:完璧な獣 ・状態異常に対しての完全耐性を有する。
:陸地の怪物 ・陸にいる間、行動に補正。
:巨大化 ・自らのサイズと重量を自在に操る。
:豊穣の象徴 ・周囲を豊かにする。
特殊技能:エナジードレイン ・生命力と魔力に干渉するたび吸収する。
:ラビットファイア ・魔法の威力を減衰させ、連続で放つことができる。
存在コスト:5100
再生P:10000P 』
「1500P確かに頂きました。とても嬉しいです、ご満足頂けるように活用します」
髪色と同じ赤色の右目と、髪色とは違う黄色の左目のクリスティーヌは、綺麗な所作でお小遣いを受け取った。Pは、形あるものではないので、微動だにせずとも受け取れるのだが、さすがは、行儀の守り手。行儀が良い。
だがしかし……。
しかし……。
『 名前:ケイティーヌ
種別:ネームドモンスター
種族:レヴィアタン
性別:女
人間換算年齢:22
Lv0
人間換算ステータス:160
職業:ダンジョン警察
称号:礼儀の守り手
固有能力:中門の剣 ・防御を引き寄せ無効化する。任意のタイミングで、味方に同じ能力を付与する。
:違反感知 ・自身の定めた規定への違反を感知できる。
:理解の魔眼 ・左、視界内の対象に、物事を理解させる。
種族特性:最強の獣 ・与えるダメージ上昇、受けるダメージ減少。与える影響上昇、受ける影響減少。
:海洋の怪物 ・海にいる間、行動に補正。
:巨大化 ・自らのサイズと重量を自在に操る。
:防衛の象徴 ・周囲を堅固にする。
特殊技能:エナジードレイン ・生命力と魔力に干渉するたび吸収する。
:ストロングファイア ・魔法の速射性を減衰させ、威力を高めることができる。
存在コスト:5100
再生P:10000P』
「1500P確かに頂戴致しました。喜ばしく思います、御納得頂けるよう、善処します」
髪色と同じ青色の右目と、髪色とは違う赤色の左目のケイティーヌは、これまた丁寧にお小遣いを受け取った。さすがは礼儀の守り手。礼儀が良い。
だが……。
だがしかし……。
『 名前:コウティーヌ
種別:ネームドモンスター
種族:ジズ
性別:女
人間換算年齢:22
Lv0
人間換算ステータス:160
職業:ダンジョン警察
称号:作法の守り手
固有能力:後門の弓 ・補助を引き寄せ無力化する。任意のタイミングで、味方に同じ能力を付与する。
:違反探知 ・自身の定めた規定への違反を探知できる。
:承諾の魔眼 ・左、視界内の対象に、物事を承諾させる。
種族特性:最大の獣 ・与えられる影響やダメージを遅延し、与える影響やダメージを即座に反映する。
:空想の怪物 ・空にいる間、行動に補正。
:巨大化 ・自らのサイズと重量を自在に操る。
:平和の象徴 ・周囲を穏やかにする。
特殊技能:エナジードレイン ・生命力と魔力に干渉するたび吸収する。
:ショットファイア ・魔法の威力と速射性を減衰させ、広範囲に放つことができる。
存在コスト:5100
再生P:10000P 』
「1500P確かに受け取りました。ありがたき幸せです、ダンジョンの役に立つよう、しかと使わせて頂きます」
髪色と同じ黄色の右目と、髪色とは違う青色の左目のコウティーヌは、上品な所作でお小遣いを受け取った。さすがは作法の守り手。作法が良い。
どうやらこの子達は、マナー違反を取り締まる存在として、自分達がまずマナーを守るようだ。
良い子達だ。まさに俺が求めていた正義の心を持っている。
でも……、なんか……。
なんか……、そう、言うなれば……。
普通だ。
凄く普通なんだ……。
いや、普通が悪いわけじゃない。むしろ俺は普通を求めていたのだから、普通が最高だ。
普通のネームドモンスター。普通の態度。普通の行い。普通の生活。普通こそが、至高である。
だが、これまでずっと普通じゃないやつが生成され続けた結果、俺は普通じゃないやつに慣れきってしまっていた。普通じゃないやつを待ってしまっていた。今度はどんなツッコミを入れなきゃいけないんだろうと、新たなツッコミを考えながら待っていた。
だから今、物足りない気持ちになってしまっている。
求めている存在が現れたというのに、拍子抜けというか、あれ? と。
この3人は、今までの子達と違って、明らかにクセが弱い。
髪の毛のクセは強そうなんだけど、性格や行動のクセが弱い。
髪の毛のクセはすんごく強そうなんだけど……、くるっくるだし。
天然パーマというには、くるくる過ぎるほどくるくるだ。鳥の巣、いやそれは、もはや竜の巣と呼べるほどのくるくる具合である。しかし、それだけだ……。
3人は、お小遣いを貰ったというのにどこにも行かず、俺の前にいる。
初期組への挨拶もしに行かない。携帯電話を生成しようともしない。続く俺の言葉を待っているのだ。
ダンジョンモンスターやネームドモンスターとしての心得を語る、俺の言葉を。
なんて、なんて普通なんだ。
クセが弱い……。
「?」
「?」
「?」
3人は俺を見て、くるくるの髪の毛を揺らしながら首を傾げた。
何も喋らないことに疑問を持ったのだろう。何か反応しなくてはいけない。俺の求めに応じて、この子達は生成されたのだ。ならば、俺が歓迎してあげなくて誰がする。俺が声をかけずに誰がかける。俺が教えてあげずに誰が教える。
「……あ、……あ、……あ」
だが、俺には分からない。
今までずっと、ロクに慕ってくれない無法者の相手しかしてこなかったからか、普通の子との接し方が、俺には分からないのだ。こんな時、一体どんな風に声をかければ良いんだろうか……。
さっきみたいに、ネームドモンスターとしての心得を説いて、その通りにされてしまったら、俺は今後この子達とどういう風に接すれば良いんだ……。
俺は、必死に考え、そして……。
「……あ、あのー、携帯電話、使う?」
ネフスフィアやヌミスフィアが置いていった携帯電話をさしだした。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
3人は携帯電話を受け取ると、早速どこかへ電話をかけた。
そして、ネフスフィアやヌミスフィアと同様、丁寧な挨拶の後、リーク情報により、ネームドモンスターとしての振る舞いを学んでいった。
「そうでしたか。大王様に対しては、そうするのが行儀と」
もしかすると、俺に従順な子達がくるチャンスは、もしかすると今回が最後だったのかもしれない。
「そうでしたか。大王様に対しては、そうするのが礼儀と」
最後って、最初はいつだよ、とツッコミたいが、そんな予感がした。
「そうでしたか。大王様に対しては、そうするのが作法と」
しかし、これで良い。これで良いんだ。俺はそう思った。
「え? 私達の髪の毛のことを、くるっくるだと言っていた……?」
「え? 私達の髪の毛のことを、天パと呼ぶにもほどがあると言っていた……?」
「え? 私達の髪の毛のことを、鳥の巣ではなく竜の巣だと言っていた……?」
3人は電話相手に何かを言われたのか、俺を見ながら、それそれで手錠を生成した。
その目は、主に向ける目ではない。犯罪者に向ける目である。
なんて目を向けるんだ……。しかし、そう、これで良いんだ。
これくらいクセが強くて良いんだ。
クリスティーヌや、そんな風に手錠をじゃらじゃらさせて、行儀は一体どこへ行ったんだい?
ケイティーヌや、そんな風に手錠をかちゃかちゃ鳴らして、礼儀は一体どこへ行ったんだい?
コウティーヌや、そんな風に手錠を俺にかけようとして、作法は一体どこへ行ったんだい? さすがに本当にかけるのはおやめなさい。
こんな風にツッコミを入れる関係が、俺達には丁度良い。
クセの強い面々に振り回され、右往左往しているのが心地良い。はちゃめちゃな子らと一緒にいるのが心地良い。それが一番自然体でいられるのだ。
俺は、優しさを手にいれられそうになり、れにようやく気づいた。
まさか、手錠をかけられた後で気づくことがあるだなんて。
ああ……そうか、俺は……。
「いや、悲しすぎるわっ。なんだその呪われた運命はっ。慣れたくないよこんなのにっ。普通に戻ってっ。というか、もうちょっと中間の扱いってないのかい? 普通から一気に犯罪者扱いって、ふり幅がエグイよっ。どうして優しさは0か100なんだっ。いや、普通だから優しさは100じゃなかったけどさっ。0か……20くらい? なんてハイリスクローリターン。せめて片方が0なら100あれよっ。っていうか本当に手錠かけちゃダメって言ったじゃないっ。鍵はっ? 外してええーっ」
「髪のことは言わないで下さい」
「髪のことは言わないで下さい」
「髪のことは言わないで下さい」
「外し――、はい。すみません」
……そんなに気にしてたのか。
三つ子警察3人娘は俺の手錠を外した後も、少し電話をしていた。
そして、では後ほど、と再会の約束をして電話を切ると、手持ち無沙汰になった手で、髪の毛を触り始めた。
毛先を人差し指で、くるくると回すように。
無意識の癖なのかな? でもそうやってると、余計にくるくるになりそうじゃない?
「あ、電話がかかってきた、はいもしもし、なんでございましょうか」
「え? それはつまり、指でくるくる回してると、髪の毛もくるくるになると仰っているということですか?」
「しかも、余計に、と仰っている、ということですか」
3人は俺を見る。
「そそそそんなこと思っ――、いいえ。すみません」
俺は謝った。
元の普通の3人娘に戻って……。
「あーっと、じゃあ遊びに行って来て良いよ。他の面々とも仲良くね。それから、ダンジョン警察としてもね」
俺は言う。
「はい。ダンジョン警察として、他人の悪口を言う罪は償わせます」
「はい。ダンジョン警察として、他人の見た目を揶揄しからかうような人は償わせます」
「はい。ダンジョン警察として、他人の髪の毛がくるくるだという罪も人も償わせます」
すると、その言葉に元気良く答え、3人は遊びに行った。
なんだか、えらく限定的な警察だったような……。
まあ、良いだろう。
3人は更衣室に入って行く。中で遊んでいたのだろうか、出てくるまでには随分時間がかかった。着ていた水着はもちろん色違いの同じデザインで、ワンピースタイプの露出が少ないタイプ。
出てくるや否や、手を繋いで円になってくるくる回って遊び始める。凄く仲が良さそうで、凄く楽しそう。表情を色々なものにくるくると変え、くるくる、くるくると。
くるくる……。
俺はふと、テーブルの上に置かれた携帯電話に目をやった。くるくると考えたので、また電話がかかってくるんじゃないかと思って。
幸い、電話はかかってきていない。
「……そういえば、さっきも頭の中でしか考えていないのに、俺が考えていたことが分かったみたいにかけてきてたな。くるくるだとか、天然パーマだとか、竜の巣だとかもそうだ」
俺の思考を読むのは、基本的に初期組達。
最近は二期組も完全に読んでくるが。どちらにせよ、この電話の主はやっぱりダンジョンのメンバーなのだろう。ただあの頃のことを知っている面々は、初期組だけに限られるし、そんな彼女達は遊びに真っ最中で、誰も電話などしていないはず。
「……」
俺は携帯電話を手に取った。
履歴を見てみると、2回の発信と1回の着信は、全て同じ番号だった。俺は、恐る恐るその番号にかけてみる。
一体誰が出るんだろう。……なんだか、ドキドキする。
……お、呼びだし音がかかった。
ドキドキ。
誰が来るんだろう……。
ドキドキ。
……。
ドキドキ……。
……。
……ドキ……。
……。
「……」
……。
俺は携帯電話を置いた。
「まあ、うん、こういう扱いが、一番落ち着くし……、落ち着くし……」
……優しさチャンスをもう一度下さい、神様……。
お読み頂きありがとうございます。
ブックマーク、評価ありがとうございます。励みになります。
それから、誤字報告もありがとうございます。気をつけてはいるのですが、毎度毎度どこかしらにあります。お恥ずかしい限りです。今回も3度のチェックを行いましたが、もしかすると、その3度のチェックをくぐり抜けた猛者が、まだいるかもしれません。
大変申し訳ございません。




