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第121話 コロシアム前半、ヘルメス、フィオリカ、ヒストリカ、ハナヲ、ノノヲ。

悪逆非道のダンジョンマスター心得その10

知識と経験の積み重ねが、ダンジョンマスターです。でも特訓をしても成長はしないです。信じて下さい。

 俺を食べ終えたニルは、とても満足した様子のまま、配られるお菓子を食べに行った。

 まだ食べるのかよ、とは思わないでもなかったが、分かっている、ニルはまだ食べる。


 アリス、イーファス、ヴェルティスの3人は、お菓子を後輩達に配った後、ニルと一緒にレジャーシートの上でお茶会を始めた。


「やーだよー。ニル先輩、イーがいじめるー」

「卑怯よアリスっ。ニル先輩を盾にするなんて。待ちなさーいーっ」

「もー、食べる時くらい落ち着きなさいよー。せっかく後輩ができたのに。うふふ、あはは」


 ニルの周りをグルグルと回るアリスとイーファス。それを楽しそうに眺めるヴェルティス。

 なんだかとても良い光景だ。ニルは我関せずで食ってるだけだけど。


 コロシアム後半組の5人は、ヨイコとヤスミが一緒にビーチボールでサッカーをして遊んでいる。

 モアは帽子を被りサングラスをしマスクをし、長袖長ズボンに手袋という完璧な紫外線対策をとって、海の家にいた。酒を飲んでいる。ダンジョンモンスターだから日焼けしないのに。

 メアは水着コンテストに出場したようだ。健康アピールが激しい。

 ムルニスは海の家三号店の店長となった。ドリンクの専門店らしい。タピオカドリンクも販売しており、現在は行列ができていた。


 人数が増えて、なんだかさらに自由に遊ぶようになった気がする。

 まだ三期組は42人中、16人しか生成されていないのに。現在の合計人数は28人+16人だから、44人。ここから1.5倍以上になるんだぞ。このまま残りも生成したら、一体どれほど自由になってしまうのか。


 なんて恐ろしい。

 やはり、彼女達の暴走を止めるような役柄の者を、生成するしかないのではなかろうか。

 うむ、そうに違いない。俺は、まともな子を生成することを、心に決めた。


 まあ、今までもそう決めて生成してきたんだけどね。なんてこったい。

 波の音が、ざざーんと聞こえた。それは、まるで俺を慰めてくれるようだった。


「……ふえーん……、……ふえーん……」

「――ん?」

 しかし、そんな波の音の中に、誰かの泣いている声が混じっているように聞こえた。気のせいだろうか。


「ふえーん。ふえーん」

 いや、気のせいではない。どこかで誰かが泣いていた。

 その泣き声には、大きな大きな悲しみが込められている。どうやら、俺よりも悲しんでいる者がいるらしい。


 侵入者がいない以上、泣いている者がいるのならば、それはすべからくダンジョンモンスターである。ダンジョンマスターとして、その零れる涙を見て見ぬふりすることなどできない。

 俺は、すぐ隣で泣いている子の下へ駆け寄って、隣にしゃがみ、優しく声をかけた。


「ふえーん。ふえーん」

「どうしたんだいお嬢さん、泣くのはおよし。俺に理由を言ってごらん」

「ふえーん。あのですね、特訓がしたいなあと思いまして」


 ローズは顔を上げ、俺にそう言った。

 その目に涙は、一切出ていない。ただただ熱く、そう言うなれば、熱く燃えていた。


「ローズ、すまな――」

「やりましょうっ、主様っ。砂浜は特訓に最適な環境ですよっ」

「ローズ、す――」

「やりましょうっ、主様っ。砂浜は特訓に最適な環境ですよっ」


「ローズ――」

「やりましょうっ、主様っ。砂浜は特訓に最適な環境ですよっ」

「ロ――」

「やりましょうっ、主様っ。砂浜は特訓に最適な環境ですよっ」


「せ、生成が終わったらね……」

「はいっ。お待ち致しますっ」

 ローズは期待に目を輝かせ頷いた。


 ダンジョンモンスターが幸せになることは、ダンジョンマスターの本懐でもある。ああ、俺はとてもダンジョンマスターらしいことをしたよ。

 ただ、その代わり、俺は地獄に叩き落とされることになったが。


 さて、絶対に彼女達の暴走を止めるような子を生成するぞっ。

 次は、55階層から51階層の、コロシアム前半組。


 後半組同様、地形変動や環境変動によって、侵入者が体験したことのない環境を作りだす。

 また、後半組は、五感喪失に魔法物理無効などなど、どちらかというと無力化の環境が主体で、地形自体の変化はそうなかったが、前半組は無力化の環境よりも、特殊な地形を重視している。

 そのため、新しい技を身につけなければならない後半とは違って、今ある技をどう使うかが攻略の鍵である。


 まずは55階層。

 無重力に続くということで、周囲をフワフワさせる。ただしそのフワフワとは、浮かび上がるということではなく、曖昧なものにする、ということ。


 内容は、距離感の狂い。

 種族は、シャドウ。影の魔物。


『 プレゼンスシャドウ

   ユニーク

   性別:女性 ・・・0P

   造形:亜人型 影の薄い美人 影の薄いスタイル 困り顔の破壊力 ・・・1300P

   性格:お人良しで苦労人 苦労を分かってもらえない 八方美人でないが八方から押し付けられる 限界に達すると甘い物を欲する ・・・500P

   特徴:コロシアムのチャンピオン OL 総務 お茶くみ 活きない観察力 怒涛の事務処理 苦労体質 地形変動超長空間 地形変動超短空間 地形変動超広空間 地形変動超狭空間 地形変動ランダム発動 環境変動速度増加 環境変動速度減少 環境変動移動距離増加 環境変動移動距離減少 環境変動目測不能 環境変動遠近法無効化 環境変動距離感知不能 環境変動ランダム発動 ランダム魔眼 ・・・4000P

   適性:棒術 思考 HP吸収 MP吸収 ・・・1000P

   能力値:全能力成長率上昇 ・・・2400P 』


 造形と適性が高い。なぜだろう。まあ、どちらも馬鹿高いほどではないが。

 地形変動や環境変動は、ヨイコと同じく、ランダム発動を組みこんだ。それによって、舞台が広いのか狭いのか、距離が近いのか遠いのか、それらが不規則に変化することとなったと思う。


 また、距離感は、物体の進む速度や角度でも掴むことができるので、そちらもあわせて不可能にしておいた。

 だから相手に届くまでに時間がかかっても1m先にいたり、相手に一瞬で届いても遠く離れた場所にいたりする。遠く離れていると思ったのに、武器が眼前まで伸びてきて斬られる、なんてのは、ここ以外じゃ絶対にできない体験となるだろう。


 そして最も大事な暴走を止める力として、高い事務処理能力と苦労体質をつけておいた。

 これで、俺の苦労を少しは軽減してくれるに違いない。これから生成する子達と合わせれば、俺に被害がこなくなるはずだっ。


 次は54階層。

 距離感を見失わせた後は、それと似ている形で、方向をフワフワさせる。


 内容は、方向の狂い。

 種族は、鏡的な意味合いで、ドッペルゲンガー。


『 ニンジャドッペルゲンガー

   ユニーク

   性別:女 ・・・150P

   造形:人型 生真面目さが滲み出ている 軍人風 どや顔の破壊力 ・・・1600P

   性格:生真面目で役割に忠実 上下関係を重んじ命令は最優先 仕事は必ず完遂させる 融通の効かなさはピカイチ ・・・400P

   特徴:コロシアムのチャンピオン ミリタリー 軍人 コマンドー 卓越した計算能力 跳弾するボウガン 暴走行為は許さない 地形変動壁 地形変動浮遊壁 環境変動反射壁 環境変動前後上下左右反転 環境変動方角感知不能 ランダム魔眼 ・・・4100P

   適性:射撃 弓術 思考 HP吸収 MP吸収 ・・・550P

   能力値:全能力成長率上昇 ・・・2400P 』


 性別にPがかかったし、造形にもなぜか高いPがかかってしまった。ドッペルゲンガーはどんな姿にもなれるのになぜだろう。限定したらいけなかったとかか?

 反対に性格は、ドッペルゲンガーとはほど遠い、自分以外にはなれなさそうな融通の効かない性格だが、安かった。このPの判定は、たまに分からないのがあるよなあ。


 ともあれ、地形変動と環境変動の設定は完璧で、きっと、ここは、目に映るもの全てが逆さまになるのだろう。どうやって戦えば良いのか見当もつかない。

 だからこそ、この力を使えば、暴走した者達をも止めることも可能なのだ。どれだけの企みがあろうとも、暴走を許さない。


 近づいている、近づいているぞ。俺は、平和な日常に。


 次、53階層。

 方向の倒錯の前なので、周囲に気をつけさせる形にしたい。気をつけていなければ、周囲から飛んでくるそれに押し潰される。


 内容は、動く壁。

 種族は、スライム。


『 ヴィシススライム

   ユニーク

   性別:女 ・・・300P

   造形:亜人型 顔形変化 造形変化 泣き顔の破壊力 ・・・800P

   性格:優しく善良 世話好きだが何もできない 性善説を信じ悪い人なんて誰もいない 怒っても全く怖くない ・・・1050P

   特徴:コロシアムのチャンピオン 消防士 レスキュー 救急救命士 モードチェンジ 危険は見逃さない 災いの破壊者 地形変動移動壁 地形変動飛来壁 地形変動出現壁 環境変動壁絶対 環境変動壁触れダメージ ランダム魔眼 ・・・4000P

   適性:剣術 思考 学習 MP吸収 ・・・650P

   能力値:全能力成長率上昇 ・・・2400P 』


 性別にPがかかった。やっぱりスライムだから無性なのだろうか。

 しかし性別は置いといても、性格が異様に高い。消費したPこそ、いつもと同じだが、高くなるような質のものをつけたわけではないのに。どちらかといえばマイナスのものもある。ってことはヴィシススライムは、本来そんな性格じゃないのか。怖い子だったか。


 まあ良いさ、重要なのはスライムということ。壁が動き、飛来し、突如現れるこの場所では、常に壁の移動に気をつけなければならない。壁は絶対なのだから。

 多分、飛来する壁に押し潰される以外にも、突如出現する壁の中に埋まってしまうこともあると思う。そうなれば、壁に触れている間ダメージを受け続けるから死んでしまう。しかしどちらもスライムならば、きっと逃れられる。


 そして、俺を助けてくれる。なんて素晴らしいボスだろうか。

 ありがとう。ありがとう。


 さてさて次。52階層。

 コロシアムとしても前半に位置するため、これからの困難が、視覚的にも分かり易い舞台にしたい。

 そして壁が動く前でもあるので、今度は床が動くように。浮島のようないくつものパネルが、前後左右にとバラバラに動くのだ。


 内容は、落ちれば大ダメージの、浮いて動くパネル。

 種族は、飛び跳ねてパネルを飛び移る、ってことで、カンガルー。


『 ハイカンガルー

   ユニーク

   性別:女 ・・・0P

   造形:人型 基本的に目を瞑っている なのに表情豊か 破顔の破壊力 ・・・750P 

   性格:知的を装う 大概は殴ればなんとかなると思っている 暗示に弱い 幽霊が怖いので目を瞑っている 良い意味でも悪い意味でも普通の意味でも馬鹿 ・・・550P

   特徴:コロシアムのチャンピオン ボクシング ボクサー 整体師 いかす拳 活殺自在拳 説法 地形変動移動床 地形変動浮遊床 地形変動狭床 環境変動落下ダメージ 環境変動飛行不能 ランダム魔眼 ・・・4200P

   適性:体術 回復魔法 思考 学習 HP吸収 MP吸収 ・・・1300P

   能力値:全能力成長率上昇 ・・・2400P 』


 マイナスをつければ、やっぱり安くなるな、性格。でも、幽霊が怖いから目を瞑るは少しやり過ぎたか。馬鹿もつけちゃったし。

 ただ、地形変動や環境変動は十分で、活殺自在拳とかいうよく分からないのに高いものもつけた。さらには、説法という、暴走した子達を諌め、再発防止に繋がる特徴もつけた。


 思えば今まで俺は、暴走を止める役目を、1人1人に全て押し付けていた。

 君1人で止めてくれと言い、できなければまた別の子に、君1人で止めてくれ、と。それではできるわけがない。自分と同等の力か、それ以上の力を持つ者達が、軒並み暴走しているのだから。

 ゆえに、今度は5人揃って止められるようにした。これにて暗黒時代は、終焉を迎えるのだ。


 最後、51階層。

 俺への負担軽減、暴走の制止、俺を助ける、再発防止。足りないのは、実際に起こった際に食い止める力。


 内容は、とにかく暴走する大勢を一瞬でも止めて、頭を冷やすことができるような力。

 そう、つまり、ツルツル床で滑らせる。

 種族は、ペンギン。


『 エンプレスハイペンギン

   ユニーク

   性別:女 ・・・0P

   造形:亜人型 愛くるしい妹 若干の幼さ 笑顔の破壊力 ・・・600P

   性格:ナルシスト 注目されると気持ちが良い ヒラヒラした服が好き 影を持つ 死ぬほど努力するが人には見せない ・・・1050P

   特徴:コロシアムのチャンピオン スケーティング フィギュアスケーター エンターテイナー 滑り知らずの曲芸 弱点レーダー 出鼻を挫く 地形変動硬質床 地形変動摩擦消去 環境変動抵抗消去 環境変動転倒ダメージ 環境変動飛行不能 ランダム魔眼 ・・・4000P

   適性:投擲術 魔力操作 思考 学習 HP吸収 MP吸収 ・・・1150P

   能力値:全能力成長率上昇 ・・・2400P 』


 コロシアムでは、侵入者を立つこともままならないツルツルの床の上で転倒させる役目を、日常生活では、走り出した誰かを滑らせ食い止める役目を担う。

 滑って転んだ程度のことで、ボスやその役目が務められるのかと疑問に思う者もいるだろう。だが、案外転ぶってのは恥ずかしく、痛いもんだ。人間や亜人が人生で最も多く泣いた事柄は、誰かに怒られたことや、誰かを失ったことでもなく、転んだことなのだから。


 ここ51階層は、自由な順番で戦えるコロシアムといえども、多くの者が一番最初としてチョイスするだろう階層である。

 コロシアムにおいて、最も多くの者が挑む階層、基本の階層と言い換えても良い。ゆえに、ここはコロシアムの困難さや方向性を伝えるための重要な役割を担っている。きっと、その役目は、十全に果たすことができるだろう。


 だからこそ、本当に素晴らしい5階層になった。

 コロシアムにとっても、そして、ダンジョンにとっても。

「ふっ」

 俺はニヒルに笑った。


「ふっ、ふっ」

 ローズは槍を振って、準備運動をしていた。

 ニヒルな笑いは、すぐに消えてしまった。本当に大丈夫なのか? この5人は本当にちゃんとやってくれるのか?


『これで生成を開始します。よろしいですか?』

「どうしようかなあ、もっと色々変えた方が良いかなあ。なんかそんな気がするなあ。まだまだ、生成は終わらないような気がするなあ。うーん、どこを変えようかなあ……」

「考えがまとまらないのなら主様。頭をほぐす体の運動はいかがでしょうか」

「これで決めたーっ」


 俺の力強い言葉に、5つの光が出現した。


 薄い灰色の靄。これがOL。

 薄い水色の靄。これが軍人。

 紫色の水面のような靄。これが救ってくれる子。

 薄い桃色の毛のような靄。これが幽霊怖い馬鹿。

 灰色に近い濃い銀色の毛のような靄。これが妹。


 現れた光が消えると、そこには5人の女性が立っていた。

 身長も体格も年齢もバラバラで、もちろん性格だってバラバラ。しかし、5人全員が、思わず呼吸を止めてしまうほどに美しい。


「なるほど。肺活量が不足……と。訓練に追加ですね」

 ローズのその言葉には、心臓が止まりそうだったが。そういう意味じゃないよっ。

 早く名付けをしましょう、名付けをっ。えーっと誰からだ?


「えーっと? あ、君か、ニンジャドッペルゲンガーの君が、フィオリカ」

「はっ。フィオリカ着任いたしましたっ。任務に忠実に、命を賭けてお尽くし致します」

 水色のポニーテールながら、帽子を被る美女フィオリカは、ビシッと音がなるほどの勢いで敬礼を行う。


「ヴィシススライムの君は、ヒストリカ」

「ヒストリカ。良い名前をありがとうございます。御門様、これからどうぞよろしくお願いします。お困りの際には是非お声かけ下さい。精一杯お世話させて頂きます」

 胸ほどまである長い紫髪の美少女ヒストリカは、嬉しいことを言ってくれた。俺を救ってくれる気満々だ、これは期待できるぞっ。


「ハイカンガルーの君は、ハナヲ」

「名を賜りまして、誠に感謝して、あー致して、ん? 賜りって何? んー、はい、そういうことですね。とにかくぶん殴って頑張りますっ」

 桃色の短い髪の毛の美女ハナヲは、目を瞑ったまま拳を握り締め言った。


「エンプレスハイペンギンの君は、ノノヲ」

「素敵なお名前ありがとうございます、御門様。全世界の妹として、人気を集められるよう頑張りまっす」

 銀色のサイドテールに、黄色のアホ毛をつけた美少女ノノヲは、なにやらダンジョンとは関係ないものについて、ウインクしながら頑張る宣言をする。


 これが、俺のこの苦境を変えてくれる5人か。

 頼もしい……ような、そうでもないような……。あれ? 5人? フィオリカ、ヒストリカ、ハナヲ、ノノヲ。4人だ……、あれ……、4人しか名前つけてねえ。残り1人は……。


 いた、端っこに。

 というか、最初に名前をつけるはずだった位置に……。

「ご、ごめん、えーっと、プレゼンスシャドウの君が、ヘルメス」

「いいんですいいんです。全然気になさらないで下さい、ほんと私影が薄くて、いいんですいいんです。全然いいんです」

 薄い灰色の髪をおさげにして眼鏡をかけた美魔女のヘルメスは、美人なのに影が薄く、存在感がない。いや、本当に申し訳ない。おかしいなあ、俺、ダンジョンマスターなのに。


「いいんですいいんです。ヨイコ様にもよく言われてましたんで……」

 ヘルメスは、薄っすら頬笑みを浮かべ、こちらを気遣いながら言う。なんだか、幸が薄そうな雰囲気だなあ。俺に言われたくないかもしれないが。


 そう思っていると、5人はローズに対して、ひざまずくように頭を垂れた。

「「「「「ヘルメス、フィオリカ、ヒストリカ、ハナヲ、ノノヲ、コロシアム前半階層守護者、ただいま御身の前に。今は名ばかりの女王ですが、少しでもその格に迫れるよう粉骨砕身努力致します。是非とも忠義をお受けとり下さい」」」」」

「厳しく指導することもあると思うが、頑張るように」


 ローズの言葉に、5人は力強くはいと答えた。相変わらず尊敬が俺の方に向いてないよなあ。

 しかし、構わない。彼女達は、俺を救ってくれるのだから。


 おそらく、お小遣いを渡した後、ローズは特訓を開始しようとしてくるはずだ。

 その時がこの子達のデビュー戦。見事、ローズの特訓をなかったことにしてくれるだろう。ああ、楽しみだ。


「それじゃあ、お小遣いをあげるから、ローズや、ちょっと待っててね」

「はいっ、主様っ」

「良い返事だ。じゃあ最初はフィオリ――、ヘルメス」


『 名前:ヘルメス

  種別:ネームドモンスター

  種族:プレゼンスシャドウ

  性別:女

  人間換算年齢:30

  Lv:0

  人間換算ステータス:120

  職業:コロシアムのチャンピオン

  称号:虚無の闘姫

  固有能力:闘技女王 ・闘技場内において全ての行動に補正。闘技場外での戦闘行動において全てに補正。

      :遠近喪失 ・支配領域内のありとあらゆる距離を認識できなくする。

      :分身監査 ・事務処理能力が本体と同性能の分身をいくつも作りだせる。

      :三次元の肉体 ・HPMP上昇、HPMP吸収量上昇。

      :正否の魔眼 ・左右、視界内の対象が、正しいか否かを見極められる。

      :忍耐因果 ・忍耐に交わる。

  種族特性:這い寄る影 ・接近や存在が気取られない。

      :映し身の影 ・対象の動きを捉える。

      :同一の存在 ・存在を感知されず、対象の能力の内、自身にない能力を使用できる。

  特殊技能:エナジードレイン ・生命力と魔力に干渉するたび吸収する。

      :パーフェクトコピー ・思考を踏襲する。

      :バランスバトル ・一時的にいかなる武器と戦闘方法をも使いこなせるようになる。

  存在コスト:2400

  再生P:10000P 』


「いいんですいいんです。御門様、ありがとうございます。がんばります。それでは、私はこれで」

 灰色の髪とはまた別な、黒と白が混在する左右の瞳のヘルメスは、お小遣いを貰うや否や、さっさと更衣室へ向かって行ってしまった。あれ、止めるのは……。

 まあ、でもヘルメスの役割は、事後処理がメインだからな。あとは俺の苦労を分かち合うとか。

 だから今は、関係ないのかな? そういうことだよな。


「主様。あと、4人ですね」

 そういうことだよなっ? 大丈夫だよなっ?


『 名前:フィオリカ

  種別:ネームドモンスター

  種族:ニンジャドッペルゲンガー

  性別:女

  人間換算年齢:25

  Lv:0

  人間換算ステータス:125

  職業:コロシアムのチャンピオン

  称号:界虚の闘姫

  固有能力:闘技女王 ・闘技場内において全ての行動に補正。闘技場外での戦闘行動において全てに補正。

      :方向霍乱 ・支配領域内にあらゆる物を反射する壁を出現させ、それに映る者の前後上下左右を反転させる。

      :完全制御 ・対象の物体に干渉できる場合、動きや状態を制御する。

      :真祖の心 ・自らの姿を失わない。自在に姿を変えられるが、どの姿でも自らの精神と能力を保てる。

      :標的の魔眼 ・右、視界内に標的を定め、攻撃を命中させる。

  種族特性:不定の変態 ・対象の身体と精神と能力と同等の存在になる。

      :記憶の呼び声 ・対象の記憶を読み取ることができる。

      :忍びの技術 ・特定範囲の変態時、隠密行動に補正。

  特殊技能:エナジードレイン ・生命力と魔力に干渉するたび吸収する。

      :レーザーショット ・光の弓撃を放つ。

      :アングルパルス ・跳弾による攻撃を精密化し、威力を保全する。

  存在コスト:2400

  再生P:10000P 』


「頂戴致します御門様っ。ではっ、失礼しますっ」

 赤色の右の瞳、髪色と同じ薄い水色の左の瞳のフィオリカは、敬礼するとやはり更衣室へ向かって行った。


 あれあれ、フィオリカ君は暴走を諌める役割なんだから、いなきゃならないんじゃないのかな? どうして早歩きで更衣室へ向かうのかな?

「あと、3人ですね」

 その行動は正しいのか? 合っているのか? 今の俺の状況は合っているのか?


『 名前:ヒストリカ

  種別:ネームドモンスター

  種族:ヴィシススライム

  性別:女

  人間換算年齢:17

  Lv:0

  人間換算ステータス:121

  職業:コロシアムのチャンピオン

  称号:巡界の闘姫

  固有能力:闘技女王 ・闘技場内において全ての行動に補正。闘技場外での戦闘行動において全てに補正。

      :移動壁 ・支配領域内に突如現れる壁や移動する壁を出現させる。壁に対しての衝撃や攻撃を全て無効化する。壁に触れた場合、その触れ方に応じてダメージを与える。

      :無害の水質 ・液体を害なすものを無力化させる水質に変化させる。

      :剣呑の魔眼 ・右、視界内の武器を消失させ、その度にステータスを上昇させる。

  種族特性:悪性液 ・体液が付着した者は何らかの状態異常を発祥する。

      :スライムの体 ・斬撃に対し高い耐性を得る。どのような形になっても行動に支障をきたさない。

      :スライムの消化液 ・体内に取り込んだ物の毒性を無視し栄養として消化する。

  特殊技能:エナジードレイン ・生命力と魔力に干渉するたび吸収する。

      :ブレイドドライブ ・水を剣に変換する。

      :ブレイブブレイド ・一撃に全力を込められる。

  存在コスト:2400

  再生P:10000P 』


「感謝致します御門様。病める時も健やかなる時も、必ずお助けすることを誓います。それでは」

 髪色とは違う銀色の右目、髪色と同じ紫色の左目のヒストリカは、やはりみなと同様にそそくさと立ち去ってしまった。


 必ず助けると誓ったのに行ってしまったが、本当に助けてくれるのだろうか。俺は今は健やかだし、これから病むんですが?

「あと、2人」

 怖いよ。怖いよ……。


『 名前:ハナヲ

  種別:ネームドモンスター

  種族:ハイカンガルー

  性別:女

  人間換算年齢:21

  Lv:0

  人間換算ステータス:123

  職業:コロシアムのチャンピオン

  称号:転巡の闘姫

  固有能力:闘技女王 ・闘技場内において全ての行動に補正。闘技場外での戦闘行動において全てに補正。

      :浮遊床 ・支配領域内の床の一部を浮遊させ、干渉し合わないように移動させる。床に対しての衝撃や攻撃を全て無効化する。浮遊していない床に触れた場合、耐性を無視しダメージを与える。全ての飛行が不可となる。

      :再生殴殺 ・打撃を回復に、回復を打撃に変換できる。

      :撲痕の魔眼 ・左、視界内の攻撃箇所に痕をつけ、その箇所の内部行動、外部挙動を妨害する。

  種族特性:跳ねるの王道 ・跳ねた際、空中や着地時の隙がなくなる。

      :跳ねるの肉弾戦 ・格闘能力向上、跳びながらの格闘能力向上。

      :安全な子育て ・指定した対象の防御力上昇。

  特殊技能:エナジードレイン ・生命力と魔力に干渉するたび吸収する。

      :ボックスファイト ・拳による攻撃のダメージを上昇する。

      :プロフェッショナルディスタンス ・対象と適切な距離を保ち続けられる。

  存在コスト:2400

  再生P:10000P 』


「ありがとうございます御門様。ありがたく頂戴いたしもうします。いたしもうします? ……はい、では」

 髪色と同じ薄い桃色の右目、髪色とは違う赤色の左目のハナヲは、首をかしげながら、更衣室へ向かった。


 いたしもうします、が、違うかなと思ったんなら、なんか言い直しなさいよ。

 あの子は大丈夫なのか?

「あと、1人」

 そして俺は大丈夫なのか? 大丈夫なんですか?


 最後頼むぞっ、ノノヲっ。


『 名前:ノノヲ

  種別:ネームドモンスター

  種族:エンプレスハイペンギン

  性別:女

  人間換算年齢:15

  Lv:0

  人間換算ステータス:115

  職業:コロシアムのチャンピオン

  称号:遊転の闘姫

  固有能力:闘技女王 ・闘技場内において全ての行動に補正。闘技場外での戦闘行動において全てに補正。

      :滑走床 ・支配領域内の床を止まれない床にし、攻撃や干渉を完全に受け付けなくする。床から受けた衝撃は全てダメージに換算。全ての飛行が不可となる。

      :プロの意地 ・初心者にも分かりやすい凄さを発揮できる。

      :回転の魔眼 ・左、直線の力を回転に換え、回転の力を直線に換える。

  種族特性:複環適応 ・複数の環境に同時に適応できる。水中での機動力上昇、低温での行動力上昇。

      :人鳥の帝王 ・ペンギン種に対する支配力を得る。

      :不安定な行軍 ・不安定な体勢や状態でも、長距離を移動でき、疲れない。

  特殊技能:エナジードレイン ・生命力と魔力に干渉するたび吸収する。

      :クイッククレバー ・思考能力を加速する。

      :キューティーコロシアム ・死闘を可憐さで中断する。

  存在コスト:2400

  再生P:10000P 』


「生成されたばかりで頂けるなんて、光栄です。Pは貴重なもの、本当にありがとうございます御門様」

 髪色と同じ濃い銀色の右の瞳と、澄み渡る水色の左の瞳のノノヲは、そう言って深々と頭を下げた。

 俺はその様子を不安そうに見ていた。顔を上げたらすぐにどこかに行くと思って。しかし、ノノヲは顔を上げた後、俺がそう見ているのに気づくと、ニコっと優しく笑った。


 良かった、この子はどこにも行かな――。

「それでは、遊んで来ます」

 行くんかーい。


 5人揃って暴走を止められるようにしたのに、5人揃ってどっか行っちゃったよ。


「いつも通りじゃねえかっ」

「さて、では、始めましょう。主様っ」

 そして、いつも通りに特訓が始まった。


「行きますよー、避けて下さいねっ。せや」

「ぷげらああっ」

「せい」

「でばああーっ」

「えや」

「でゅうううーっ」


 結果もまた、いつも通りだった。

 でゅううが出ちゃダメよ。

 ダンジョンマスターは成長しないんだよ? ローズさん……。


「まだまだーっ。えい」

「くっ、――うらあああーっ」

「てい」

「どうらあああーっ」

「やあ」

「でゅうううーっ」


 やっぱりダメだ。なんかやる気だけ出してみたけどやっぱりダメだった。でゅううが出ちゃうよ。


「ぐはあ……」

 俺は倒れ伏した。


 辛い……。

 いや、ダンジョンマスターには疲労なんてないんだけど、気分的にキツイ。いや、ダンジョンマスターだから気分も変わらないんだけど。でもキツイ。魂が磨り減っている気がする。


 ローズは、俺への忠誠心がとても厚い子だ。別に俺が憎いからこんなことをやっているわけではない。

 おそらく、俺に強くなって欲しいから、というよりも、自分が得意な戦闘教育を、俺に見てもらいたいからやっているのだ。

 私はこんなことができるんです、と、俺に分かって貰いたい、そして、褒めてもらいたい。槍の一振り一振りから、言葉の端々から、それはひしひしと伝わってくる。


 我が家のネームドモンスターは、みんなそういうところがある。

 だから、いつもいつも色々なことをやられ、大変さや辛さや悲しみや苦しみや理不尽さや不甲斐なさや大変さや驚きや大変さを感じているが、同時に嬉しさや楽しさも感じてしまうのだ。


 でも、でもね。

 でゅううーが出ちゃダメ。


「ロ、ローズや、俺は、頑張ったよ……」

 途切れ途切れに、俺はローズに言う。


「そう、ですね」

 すると、ローズもまた途切れ途切れに返してきた。ローズも疲れたのか? いや、そんなわけはない。一体どうしたんだろうか。

「主様はこれほど頑張っているというのに……。なぜ私は、主様を成長させられないのか……」

 なんだか、落ち込んでいるようだ。


「私の組んだメニューが間違っているんだ。そうでなければ説明がつかない」

 いや、ダンジョンマスターが成長しないからだよ。

「2年以上特訓し続け、こうまで成長しないとは、私の教え方に問題があるのだ」

 いや、ダンジョンマスターが成長しないからだよ。


「これでは、主様に私の実力が何も伝わらない。こんなにも成長したのですと、面と向かって言うことができない。何が教育係だっ。何が大将軍だっ。主様を成長させられぬそれに、一体何の意味があるのかっ」

 いや、ダンジョンマスターは成長しないよ。特訓に意味がないとは、俺は最初から言ってたよ。


「ううう、うううう。えーん、えーん」

 泣いてる……。俺の、俺のせいでダンジョンモンスターが泣いている……。俺はダンジョンモンスターの幸せのために、何でもすると決めている。なのに泣かせてしまうとは……。そんなの、俺は俺が許せない。

 なら、どうする? 決まっている、特訓を、特訓をもっと頑張るんだっ。俺がっ。


「えーん、えーん。良しっ。えーん、えーん」

 今、途中で良しって挟まなかった……? というか、確かローズは泣くとき、ふえーん、って泣き方だったはず。えーんは……なんだ?

「……ふえーん。ふえーん」

 変えたっ。変えやがったよっ。ってことは完全に嘘泣きじゃないかっ。


 俺はそれを見破り、特訓を絶対にしない強固な姿勢を示した。しかし、どうやらそれが嘘泣きだと見破っているのは、俺だけのようだ。

 ローズの泣き声に引き寄せられるように、あいつらが、やってきた。


「あらあらローズ先輩、誰に泣かされてしまったんですかぁ?」

「根性で、根性で、なんとか泣きやんで下さい」

「どないしよかー。さてさて」

 ドS兎と、元祖馬鹿と、悪だく巳が。


「ドSって心外ねえ。わたしほど優しい人はおりませんよ、王様」

「元祖馬鹿? どうやら王様には根性が伝わっていなかったようですね」

「んなアホな。ウチが悪巧みなんてするはずないやん。いっつも皆の幸せを願っとるんやで?」

 絶対に、何かヤバイことが起こる。間違いないっ。


「それで、どうしたんですローズ先輩。ふむふむ、……なるほど、……なるほど。なるほどぉー。分かりました。ズバリそれは……、特訓時間の不足ですね」

「ええ。根性っ、根性ですよ。根性が足りておりませんっ」

「せやなあ。そしたら間違いなく成長するはずやで。やっぱり量より質って言う前に、最低限の量ってのがあるんちゃいます?」

 いまもうこれ、起こったね。絶対ヤバイことが起こったね。


 しかし、そう、だからこそ――。

 今だっ。今が出番だコロシアム前半組。今こそ君達に授けた、暴走を食い止める力を使うのだっ。

 俺は、更衣室から、各々の水着に着替えて出てきた5人に向かって念を送った。


「ヨイコ様ー。え? 誰って……。生まれた時からお仕えしてるヘルメスで……。いいんですいいんです、どうせ私なんて。影が薄いんですよ。でも同僚だったヤスミさんなら覚えててくれてますよね、ヤスミさん? え、誰って……。いいんですいいんです……」

「はっ。焼きそば2人前、生ビール2つでございますね。かしこまりましたであります。焼きそー2、生2頂きましたでありまーす」


「ピッピー。そこの水上バイクさん、少し海水浴場に近いので離れて下さーい。監視員からのお願いでーす」

「うひゃああああ、掴まれた。海の中っ、掴まれたっ。手? 手? お盆前なのにっ? 南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏、怖い、うやあ、いやあああ、怖いよおお、あ、ワカメか。……ふぅ、漏らしちゃった」

「皆ー、今日はわたしのライブに来てくれてありがとー。精一杯頑張るねっ、じゃあ1曲目、いっくよーっ」


 ダメだ。誰にも届いてない。

 いや、何してんのっ。ライブしてるやつと漏らしたやつっ。


「そうか。ありがとうエリン、カノン、ケナン。おかげで悩みが晴れた。私はこれで、どこまでも突き進んでいけそうだ」

「良かったです。そうだ、今日はお手伝いしますよ。わたし達も。どうやら、王様はわたし達のこと誤解してるようなので」

「うむ。根性ですっ」

「せやなあせやなあ。エリンは良いコト言ったわ」


 尊敬ってなんだろう。

 助けてくれるってなんだろう。


 それはね、俺が決して味わえないものさ。

「はははは。……なんてこったいっ」

お読み頂きありがとうございます。

また、ブックマークや評価、感想、誠にありがとうございます。所用で少し投稿が止まっていました、なるべく早く投稿すると言った舌の根も乾かぬうちに、すみません。

次回はおそらく金曜日辺りに投稿できるかと思います。


読んで下さる方のためにも、早い投稿を心がけます。

これからもどうぞよろしくお願いします。

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