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第117話 地下都市のキースティー。

悪逆非道のダンジョンマスター心得その6

ダンジョンをしっかり観察しましょう。虐殺が起きないように。

 それでは早速ネームドモンスターの生成にとりかかろう。


「頑張るぞ、エイエイ、オーっ」

「……」

「オーっ」

「……」


「オルテさーん?」

「……飴を食べてる時は?」

「喋らない、喋りかけない」

「……うむ」


 さて、では生成を開始しようか。

 今回生成するネームドモンスターは、全47体。


 まずは階層ボスから。

 階層ボスは23体。


 遺跡迷路の、45階層、50階層を守護する2体。

 コロシアムの51階層から60階層のチャンピオン、10体。

 窪地も倒さなければならないのは1体だけだが、61階層から70階層全てにボスがいる、10体。

 そして最後地下都市の75階層を守護する、最終ボス、1体。


 それから、裏ボス。

 裏ボスは13体。


 全ての階層に登場する自由な徘徊型ボス、3体。

 このボスは、ダンジョンの各所で起こると予想される、ネームドモンスター達による虐殺という名の激しい戦いをごまかすためも含まれる。ああ、たまに全階層徘徊型のボスがいるからね、大きい戦闘はあるよね、と。


 遺跡迷路の遺跡に潜み財宝を守るボス、1体。

 コロシアム北側の裁判所にいるボス、1体。

 窪地の地下、地下水脈にいるボス、1体。

 地下都市から行ける、滝の裏にいるボス、1体。

 海の底の海底火山に潜むボス、1体。

 これらの裏ボスは、とにかく強さを重きに。


 反対に、攻略に有用なものを手に入れられるのがこっち。

 自然階層にある民家でにいるボス、1体。

 遺跡迷路でゴーレム工場にいるボス、1体。

 コロシアムのカジノにいるディーラー、1体。

 窪地の木の上? にいるボス、1体。

 地下都市の墓場を守るボス、1体。


 最後は管理人

 合計11体。


 天空城砦でメイドをする、2人。

 地上部分を管理するメイド、2人。

 隔離迷宮を管理するメイド、1人。


 庭園を管理する管理人、1人。

 海を管理する管理人、1人。

 病院の院長、1人。

 刑務所の所長、1人。

 44階層の都市を管理する、町長? 1人。

 それから11階層の管理人、1人。


 合計で、47体、ピッタシ。


 しかし47体か。現在のネームドモンスターの数は28人なので、新規メンバーの方が多くなってしまう。そこが非常に心配だ。かといって、既にダンジョンはできているから、減らすなんてこともできない。果たして上手くやれるのだろうか、今いる子らと喧嘩しないだろうか。

 今まではどうやってそれを乗り切ってきたっけ。総勢7人しかいないのに、21人増やしたあの時は……。……その時に比べれば、なんてことないか。


 ただ、心配な点と言えばもう1つ。普通とは違って、ここでは反乱が可能だ。ましてや、勲章の効果によって忠誠心もなくなっている。

 反乱はあって当然のものだろう。一度にそれだけ生成してしまって、本当に大丈夫だろうか。俺は大丈夫だろうか。

 今まではどうやってそれを乗り切ってきたっけ。反乱可能忠誠心なしで、総勢7人しかいないのに、21人増やしたあの時は……。……その時に比べれば、なんてことないか。


 というか、反乱できず、忠誠心がある状態でも、攻撃されてた気がする。

 マキナに吹き飛ばされ、セラに罵られ、オルテに強請られ、ローズに訓練され、キキョウに馬鹿と言われ、ニルには食われ、ユキには殺されかけ。……その時に比べれば、なんてことないか。


 いや俺の歴史酷いなっ。

 なんてこったい。


 ま、まあ頑張ろう。ともかくっ、一気に47体作り上げるのだっ。

「腕がなるぜっ」


 さて、最初に決めるべきは、1体にかけるP。

 まあ、これは1万Pで決定だろう。


 普通は1000Pの種族のユニークモンスターなんかでも、1500Pとかそのくらいで十分なのだが、先輩達がみんな1万P以上なのに自分達だけ違うと、なんだか悲しくなってしまうに違いないからね。


 P的にも問題ない。俺は忠誠心がなくなるという悪い勲章もたくさん持っているが、生成Pが割引されるという良い勲章もたくさん持っているのだ。

 生成Pは、大体実質6割にできる。

 1万Pの6割なので、1体6000P。それが47体だと、28万2000P。


 現在の保有Pは、元々336万Pあったところから、ダンジョン生成に300万P使用したため、36万Pだ。

「十分十分。……あれ? 残り、30万Pになってる?」

 一体、なぜ……。


「いや、なぜじゃないな。原因は明白だ」

 ちょっとみんな遊びすぎだよ。色んな遊具を生成しすぎだよ。

 ダンジョン強化費を削って遊んじゃダメよ。そっからP使って遊具生成してるの俺だけどさ。


「ま、俺が遊具の生成をほいほい引き受けていたのも、既にこの計算結果によって、使っても良いPをはじき出していたからだがね。くくく。君達が要求するものを予測するなんて、ダンジョンマスターたる俺からすれば、手に取るように分かるからね。あーっはっはっは。……なあオルテ、分かるだろう?」

「……飴」

「飴だよー」

 残るPは、29万9999Pとなった。


「えーっと、じゃあ誰から生成しようかな。まずは階層ボスからってのは決まってるんだけど」

 45階層から行くか、75階層から行くか……。


「今までは高い方だったからなあ、慣習にならって最後からかなあ」

 でもあえてってのもあるなあ。


「オルテさんはどっちが良いと思います?」

「……飴」

「飴だよー」

 残るPは、29万9998Pとなった。

 早く生成しないとなくなっちゃうっ。


「最後からにしよう」

 ということで、まず一番最初に生成するボスは、71階層から75階層、地下都市のボス。

 500の小エリアが組み合わさった城下町、そこを抜けた先の、地下城で待ち受ける城主だ。


 その魔物は、三期組の階層ボスの中で、最も最後に位置する。ゆえに、三期組の取りまとめのような存在になるはずだ。

 そう、二期組で例えるなら、ティアのような。


「……鬱になりたい、あ、間違えた、……貝になりたい。鬱なのは元々、てへっ」

 ……。


 そこは、御褒美階層に入るための、最後の試練。ゆえに、戦うことで生計を立てる、多くの侵入者にとって、最終目標となるのだろう。

 Lv的にも、75階層はLv170が適性とされている。Lv170に到達できるのは、ひとかどの才がある者の中の一握りなので、最終目標として申し分ない。


 もちろん、勇者とかそういう存在は、もっと上を目指すのだろうが、普通の人は、みんなここ。

 このダンジョンじゃあ、勇者達もそこが最終目標かもしれないけど……。もう既に、Lv200の転生者とか、Lv高い勇者とか、国の最強を倒しちゃってるからね。反乱して戦うからね。


 そういった理由から、それに相応しいボスを、ここには置きたいと考えている。もしも勝てたなら、人生で一番大きな目標を達成した、と、そんな涙を流し打ち震えることができるような。

 それが、人情、いやダンジョンマスター情。


 努力に努力を重ね、才覚がなければ辿りつけないこの階層で、あのしちめんどくさい地下都市を攻略して。

 地下城の階段を下りると出てくる、幾多のエリアボスを撃破し、最後の最後――。侵入者達は、どんな敵が出てくるのだろうかと、ドキドキしているに違いない。


 はてさて何がよろしいか。

 その期待に応えられるボスの能力、そしてその種族は。

 アンデットなのは確定してるんだけどねえ。地下都市に出現するダンジョンモンスターは、ゾンビ、ワイト、スケルトン、マミー、レイスと、全てアンデットだから。


 けどまあ、アンデットの長。

 地下の城がよく似合うボス。

 となると、やっぱり1種しかいないか。


 リッチ。


 最も一般的な、アンデットの最強種。

 もちろん、一般的といっても、普段見かけたりするわけではない。伝記に残るアンデットとして、最も一般的、という意味だ。国を滅ぼしたなど、リッチは逸話に事欠かない。


 ダンジョン産は違うが、野生のリッチは元々人である。そのせいか、人と関わることがほとんど。

 野生の1000Pの魔物が人と関われば、その結果は火を見るよりも明らか。戦いとなり、勝つにせよ負けるにせよ、人は甚大な被害を受けることになる。

 ただ、聖なる力を持った者には弱いなどの、分かり易い弱点があるので、準備さえすればあまり負けることはない。


 つまり、甚大な被害を受けた後に結成される討伐隊には、アッサリ討たれる、ということだ。そのメンバーは大体、勇者とかそういう類の人だろうし。

 そりゃあ、逸話にもバンバン登場するよ。甚大な被害をもたらしたリッチを、勇者が……なんて逸話に。


 少しかませっぽい立ち位置なのかもしれない。


 けれど、アンデットの最上位であることに変わりはない。

 75階層という階層にも合っているし、それに、逸話に出てくるような敵を倒したというのは、それからの人生に色を添えてくれるだろう。


 なにより、おそらく侵入者は、アンデットの階層という時点で、ボスがリッチだと予想しているはず。

 裏をかいても良いのだが、最後は予想通りにいきたい気持ちもある。対策をすることの大切さを学んだだろうし、成功体験をプレゼントしたい。


 じゃあ、やっぱりリッチだな。

 まあ、聖なる力には、簡単にやられないようにしておこう。


『 リッチ

   ユニーク

   性別:女性 ・・・0P

   造形:人型 若干くたびれて気だるそう 肌は真っ白 唇厚め 柔らか巨乳 ・・・1500P

   性格:ズボラ 周囲に人がいないと何もしない 収集癖 縁側でひなたぼっこをして暮らせればそれが一番良い ・・・200P 

   特徴:元女王 二丁拳銃 マジックキャスター 装填 魔法圧縮 女王のヴェール 博学 博識 着衣への拘り 聖水愛好家 除菌 ランダム魔眼 ・・・4300P

   適性:射撃 銃術 学習 ・・・0P

   能力値:全能力成長率上昇 ・・・3000P 』


 種族はリッチ。リッチにも色々あるのだが、一番オーソドックスなリッチ。

 性別は女。当然の如くっ。

 造形は高かった。やっぱり、元々人とは違う種族を人型にするより、元々人だった種族を人型に戻す方が、Pは高いらしい。人により遠いってことかな? 巨乳にしたせいではないと思う。

 性格も案外高かった。色々削ったので現状に収まっているが、しかし、プラスの性格があまりないのにPがかかっている。どうしてこうなったんだろう、ひなたぼっこがいけなかったのか?

 特徴は、女王感を出して、攻撃方法を銃に。そして聖水などの聖なる力が効かないように。

 適性は、HP吸収とMP吸収を自前で持っていたので、無料分に収まった。

 能力値はいつも通り。


 光属性、聖なる力という弱点を克服し。

 強力な前衛を召喚し敵を近づけさせず、遠距離から一方的に攻撃するという強みを、さらに強化し。


 まさに、御褒美階層を目指す者達にとっては、人生で乗り越えるべき最強の壁に。

 そして、さらに上を目指す者達にとっては、銃との戦い方や弱点がない相手との戦い方、これから戦う途方もなく強い敵との戦い方を学べる最善の壁に。

 それぞれなったと思う。


 唯一の懸念は、聖水愛好家か。

 こう……、変な意味にはならないかどうかが心配だ。日本人的な意味にというか。くそう、日本人めっ、一体やつらはどこまで行けば気が済むんだっ。


「ともあれ、良い階層ボスになった。まさに我がダンジョン、最後の階層に相応しい」

 俺は深く深く頷いた。


『これで生成を開始します。よろしいですか?』

「もちろん生成をばっ」


 俺がそう言った瞬間に、白い光の靄が1つ現れた。

 アンデットなのに白い? この白さはどこの部分だ? と少し疑問に思ったが、それは靄と一緒にすぐに晴れた。


 そこには、真っ白の髪、真っ白の肌の美女がいた。美女……というよりも、美魔女か。年齢的に。


「君の名前は、キースティー。よろしくな」

 俺が名付けたその瞬間に、キースティーの白色の瞳に知性が宿る。


「面妖也や。屍として復讐の限りを尽くした果てが、斯様な場所とは」

 だが、なんだろう、ブツブツと呟いて。

 鬱か? 鬱病なのか?


「キースティー? キースティーさん?」

「ああ、しかし、ここは満たされる。貴方様、その名前、確かに受け取り申した。余はキースティー也や。以後、よしなに」

 キースティーは、急に頭を下げた。

 いや、頭は下げてないな、優雅な挨拶だった。手の甲にキスしても良いんだぞ、と言外に表すくらい優雅な挨拶だった。


「こ、こちらこそ、よしなにー」 

 どうやら、女王の特徴を持たせた結果、キースティーはかなり高貴な雰囲気を持ち合わせ生成されたようだ。


 そんなキースティーは、今度は俺の隣にいるオルテに目を向けた。

「オルテ様、ご機嫌麗しゅう」

 どうやらオルテにも挨拶をするらしい。


「名はキースティー、只今より御身にお仕え叶うことと相成りました。国に捧げ、想いに捧げ、郷愁に捨てた我が身でございますれば、今世は此処にて、生きさせて頂きます。以後、御指導御鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます」

「……うむ」

 キースティーは頭を下げた。

 今度は本当に下げた、とても恭しく、深々と。


 あれ? 礼を尽くす相手が間違ってやしないかい?

「キ、キースティー。ダンジョンマスターとしても、期待している。ビシバシ指導していくから、こころしておくように」

「よしなに」

 俺にはよしなにだけだぜ?


『 名前:キースティー

  種別:ネームドモンスター

  種族:クイーンリッチ

  性別:女

  人間換算年齢:33

  Lv:0

  人間換算ステータスLv:122

  職業:地下城の守護者

  称号:白城の死霊女王

  固有能力:双手の千撃 ・両手それぞれで攻撃を行なう場合、威力と命中率が上昇する。

      :聖廉結白 ・聖なる力と邪なる力を無効化する。

      :過激な好み ・拘る物事に対し、過激な選択を行うと結果に補正。

      :真祖の思念 ・リッチの趣向や弱点を、趣味の範囲にとどまらせる。

      :潔癖の魔眼 ・両、視界内の汚れ穢れや隠匿隠蔽を取り除く。

  種族特性:闇の支配者 ・夜にステータス上昇、太陽が出ている間ステータス低下。

      :死霊達の長 ・死霊系等の魔物を支配する。死霊系等の魔物を生み出すことができる。

      :魔道の極み ・魔法行使に補正、魔法威力に補正。魔力の回復量上昇。

      :根源生命 ・状態異常に高い耐性を得る。

  特殊技能:エネルギードレイン ・生命力と魔力を干渉するたびに吸収する。

      :フルキャストロー ・魔法を付与した弾丸を乱射する。

      :インプット ・物体に情報を定着させる。

  存在コスト:3000

  再生P:10000 』


 よしなに使いのキースティーは、アンデットなのに、真っ白。両方の瞳も白ければ、腰ほどまである髪の毛も白く、肌までもが一際白い。着ているものは法衣だが、それもまた真っ白。バスローブも驚きの真っ白さだ。不浄さの欠片もない。

 しかしだからこそその白さが、特別な雰囲気を、威厳をかもしだす根源となっている。


 ステータスは、1000Pの魔物にしては少し低めだが、魔法能力で見れば一際高い。それは、分かり易い弱点を抱えてもなお、都市を壊滅させられるほどのもの。そしてもちろんその分かり易い弱点は、キースティーに存在しない。

 むしろ真っ白であるから、聖なる力すら帯びているように見える。実際、帯びているのだろう。

 過激なのを好む理由は不明だが、その強さは計り知れない。望み通り、最高の階層ボスになってくれるに違いない。


「海とはかくも壮大也や。貴方様の命ずるがままに、遊んで参りましょうや」

 ただ、俺の言うことを聞いてくれる、理想のダンジョンモンスターにはなってくれないかもしれない。


「えーっと、はい、大丈夫です。遊んできて良いよ、水着は誰かに生成してもらって」

「よしなによしなに」

 よしなにの意味合い的に、ダンジョンマスターに対して言うのは、ちょっとおかしいような気もするが、このダンジョンではそれが平常運転。

 しかし……つまりはまさか……、キースティーも、いかれたメンバーの1人だというのか……。なんてこったい。


 いや、ちょっと待て。そんなことはない。

 たかだかダンジョンマスターによしなにと言っただけで、このいかれたメンバーになれると思ったら大間違いだ。そこに列席するには、まだまだそんなもんじゃ足りない。


「……オー」

 そんなことを思っていると、オルテに呼ばれた。俺は瞬時に生成リストを開くと、目的のものを生成し、その手に持った。

「飴だよー」

「……違う。……殺すぞ」

 真のいかれたメンバーは、こうだからねっ。殺さないで……。


「……侮辱罪。……だから、お小遣い、……やれ。……1500P」

「え、お小遣い?」

「……やれ」

「はい」


「ありがとうございます、オルテ様。類い稀なる交渉術、感服致し申しました。今後より一層の忠誠を」

「……飴は、貰う」

 1500Pも持っていかれ、飴も奪われた。なんてこったい。


「貴方様、痛み入る。ああ、愉快也や」

 キースティーはそう言って高らかに笑うと、砂浜にポツンと置かれた、更衣室へと向かって行った。

 なお俺は全然愉快ではない。


「……じゃ」

「あ、オルテも着替えてくるのか。そうか、楽しんで」

 すると、キャプテンオルテも更衣室へと向かって行った。

 キャプテンの格好から、水着に着替えるようだ。


 先ほどまで騒がしかったこの場所に静けさが戻ってきた。波の音が聞こえてくる。良い音色だ。

 が、しかし。

「1500Pかー」


 侮辱罪に問われたからとはいえ、お小遣いをキースティーにだけ渡して、他のネームドモンスターに渡さないわけにはいかない。

 だから、1500P×47体=70500。

「30万Pじゃ足りなくなっちゃった……」


 既に赤字が確定してしまった我がダンジョンの経営状態。


「また、借金経営になるのか……。いや、いや、しかし、しかしだ。生成Pが6割になるで計算してるから、赤字になるだけだ。その場合は大体5万Pの赤字なわけだが、もしそれが、この生成中に新たに授かる勲章があって、6割から5割になれば……」

 1万×47×0.5=23.5。借金はほぼ無しと見ても構わない。

 いやまあ、ここにきて、そんなに下がることはまずないんだけど。


「でも、可能性は0じゃない。まだだ、まだ諦めるな、これ以上の、これ以上のP消費がなければ……」

 ダンジョンを広げたその日に借金を背負ってなんてたまるかっ。目指せ、無借金経営っ。


「行くぞ、エイエイオーっ」


「見事也や。この砂、水。余の国ではついぞ……。ああ、よしなによしなに」

 気合を入れ終わった辺りで、更衣室からキースティーが出てきた。


 着ている水着は真っ白、そしてドエロい。


 なぜそんなドエロい水着を? と思うくらいに、ドエロい水着を着ていた。


 水着全体の形はV字。肩あたりが紐なだけで、あとは布だが、全体的に細い布で、大事な場所だけを隠したような、隠しきれてないような、防御力皆無の水着だ。かなりのハイレグであるため、下も大変だが、胸が大きい分、上も大変なことになっている。

 一体なぜそれをチョイスしたのか。そんな水着で、どういった遊びをしようというのか。迂闊に遊べば、大変なことになるぞ、セクハラで変態になるぞ、ダンジョンの経営が借金経営になるぞ、じゃあ大変なの俺じゃねえかっ。


 どうして……。


 まあ、でも似合うと思います。

 年齢が33歳だから、色香も凄いし、ピッタリだと思う。

 とはいえ似合うからといってそれをチョイスするセンス、やはりやつもいかれたメンバーだったか。さすが着衣への拘りを設定された女だ。


 しかしそこで俺は、オルテはどんな水着を着てくるんだろうか、と疑問に思った。

 真のいかれたメンバーは、一体どんな水着を……。


 いや、あんな過激な水着じゃなく、普通の水着だと思うけど。


 1分くらい経って、更衣室からオルテが出てきた。海賊のキャプテンの格好から、水着姿になっている。

 その水着とは……。


 キースティーと、色違いの水着だった。

 V字の形で、ハイレグ。


 ……あれは、大人っぽいキースティーだからこそ似合う水着じゃないだろうか。背がある程度あって、胸やお尻が大きいからこそ。

 オルテは胸こそ大きいが、背は小さいし全体的に華奢だ。……正直あんまり……。


「……。……似合う」

「いや、似合いは……」

「……似合う」

「……その」


「……似合う」

「……」

「……似合う」

「……。似合う」


 似合うかー。

 似合うのかー?


「……似合う。……、……、……けど……、……着替えてくる」

「あ、いや、違う。違うんだオルテ、似合う、似合うよオルテ、凄い似合ってるって」

「……着替える」

「オルテっ、オルテーっ」

 オルテはスタスタと歩いて、再び更衣室の中に入って行ってしまった。


 ……。ちょっと、ちょっと今のは……、ちょっと今のオルテは、ちょっと、ちょっと、あれだったか?

 ちょっと……、マズかったかもしれない。


「……」

 うん、マズかった。だって、キースティーが、俺をゴミを見るような目で見てくるもん。


 あと、今、俺に向かって、釣竿と、砂場にあったはずの砂のお城が飛んできてるもん。

「ごばはあーっ」

 俺は頭からそれを被った。水でしっかり固めてあるから、普通に痛い。


 崩れた城に埋もれ、砂浜に倒れ伏した俺は、それらが飛んできた方向、飛ばした犯人を見る。


「憂鬱を教えてあげましょうか? 陛下」

「虚飾を教えてさしあげねばならないようですわね、陛下」

 ぶち切れ状態の2人が、にらみつけながら近寄ってきていた。ティアとホリィは横たわる俺の頭の横に立つと、ゴミを見るような目で、俺を見下ろす。


 今回ばかりは、俺も何も言えません。


「ど、どうしたら良いですか……」

 むしろ俺は2人に助けを求めた。


「ティア先輩、ホリィ先輩、面目ありません。余を見て、オルテ様はお気に召されたようでございました。余は、いかが致しますればよろしいでしょうか」


「キースティー、大丈夫ですよ。ホリィさん。行ってきます」

「行ってらっしゃいですわ。ティアさん」

 すると、ティアはタタタと走り、更衣室の中へ。


「オルテ姉さん、とても似合ってましたよさっきの水着。エロ可愛かったですっ、陛下は見る目ないですねー。いや、もしかすると恥ずかしかったのかもなあ。きっとそうですよー」

 そんな声が聞こえた。


「陛下、わたくしの後に続けて喋って下さいませ」

「はい」


「僕は」

「……僕は」

「さっきの水着はとても似合ってると思ったけど」

「さっきの水着はとても似合ってると思ったけど」

「本当はオルテに着て欲しかった水着があったので」

「本当はオルテに着て欲しかった水着があったので」

「思わず男子小学生が言うようなことを口ばしってしまった」

「思わず男子小学生が言うようなことを口ばしってしまった」

「ごめん。可愛かったよ」

「ごめん。可愛かったよ」

「凄く」

「凄く」


「では、水着を。オルテ姉さんに、陛下が似合うと思っていらっしゃる水着を、生成して下さいませ。わたくしが渡しに行きます」

「……はい」

 俺は水着を生成して、ホリィに渡した。

 オーソドックスな上下の分かれた水着だ。


「ちっ。ここはさっきと同じ形で、露出を控えめにしたのを渡すのが最善でしょうに。まあ、よろしいですわ、渡してきます。今度は――」

「はい」

 念を押され、俺は頷く。

 ホリィは更衣室の中に走って行った。

「オルテ姉さん、陛下の本当のお気持ちを聞いてきましたわ。驚かずにお聞きくださいね、本当は――」


 それから数分、俺は生きている心地がしないまま、更衣室を眺めた。


 出てきたオルテは、俺が渡した水着を着ていた。


 声をかけようとしたが、オルテは俺に一瞬目をやると、そっぽを向いて歩き出す。俺の足は、そこで止まってしまった。

 だが、一緒に出てきたティアとホリィは、俺に向かってジェスチャーを出している。それは、声を出せ、喋れ、というジェスチャー。


「オルテーっ。似合ってる、可愛いよー。さっきの水着も本当は可愛かったよーっ」

「……」

 結果は、無視。


 しかし、隣を歩くティアとホリィは、オルテの顔を覗きこんだ後、片手で小さく丸を作るジェスチャーを行った。

「ささ、オルテ姉さん、何して遊びます? 貝になりたいごっこですか?」

「やはり砂でお城を作る遊びが良いと思いますわ。おーっほっほっほっほ」


 ……。


 ……。


 ……。


「……良かった。良かった、本当に良かった。どうなることかと……」

 俺は膝から崩れ落ち、そんな安堵の声をもらした。


「やっぱり新しいネームドモンスターを生成するってのは、色々問題が発生するもんなんだなあ」

 俺はしみじみと呟いた。

 まあ、今の問題はそれに何の関係もないけど。


 ありがとう、ありがとうティア、ありがとうホリィ。頭がおかしいなんて言ってごめんなさい、二度と言いません。

 本当に頼りになるなあ。


 キースティーさんも、これから、よろしくお願いします。

「よしなによしなに」

お読み頂きありがとうございます。


ここからは、ステータスなどの関係上、文字数が凄く増えます。

特に、一度に5人ほど増える時は、文字数が膨大になります。場面転換も多くなってしまうので、飽きてしまうかもしれません。しかし、書きたいので書きます。

終わるまで、少々お待ち下さい。


どうぞ、よろしくお願いします。

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