表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/139

第9話 貴女の持ち場は18階層なんです、そこは14階層なんです。

ダンジョンマスター格言その9

配下はPを得るための道具ではない。

 掘っ建て小屋に備えられた窓から、暖かく優しい光が家の中に差し込んだ。

 ダンジョンマスターとしての、2日目の朝日が昇る。


 2日目か。

 なんだか、それ以上に長い時間が経った気がしてならない。

「えーっと、じゃあ立てた12のプランの内、ひとまずはこれで行くと」

「はい。それで良いかと思われます」


 なぜなら寝てないからね。寝させてなんて貰えないからね。

 24時間交代もなく営業中、通常の3倍稼動さ。確かに我がダンジョンはブラックダンジョンだったようだ。

 繋げてしまった時は、一体どうなることかと思った、が、やっぱり今も変わらず、どうなることかと思っている。


「幸いPには、まだ余裕もございます。調整も容易いかと。町の監視ですが、私の蝙蝠にさせますのでご安心下さい」

 左斜め前に座っていたセラが立ち上がり、テーブルの上に散らばった書類を集め、背を揃える。

 メイド服を着込んだ、まさにクールビューティーと言えるセラは、昨日からも、ずっとテキパキ動き通し。用意した12のプランも、ほとんどセラが作ったようなものだ。


 国の動向が完璧には予測できないため、腹案の腹案まで用意された12のプラン。その立案にも決行にも俺は必要ない。

 ダンジョンマスターの重要な仕事だと言うのに、俺に仕事を、俺に仕事をくれっ。


 しかしセラは優秀、有能だ。

 夜を通して行われた激しい話し合い、舌戦、いや戦いだった。何度冷たい目で見られた事か。


 優しい性格、心を包む慈愛、それらはどこにあるんだろう。確かに選択項目としてはあったはずなのに……。

「優しさや慈愛がなければその顔を、幾度引き裂いていたのか分かりませんので、ちゃんとありましたよ」

 凄くあるようだ。良かった。


 ……、めちゃくちゃ心読まれるし、めちゃくちゃ怖いんですけど、メイドってこれで合ってるのかなあ。教えて、異世界の知識っ。


「んあーーーーー、良く寝た」

 掘っ建て小屋に、太陽の光と仄かな熱が充満した頃、マキナが目を覚ます。

 上半身を起こして、気持ち良さそうに伸びをするマキナは、結局キングサイズの布団を独り占めして眠っていた。

「スッキリだぜ」

 羨ましい、あの子こそ、睡眠必要ないのに。


 セラはティーポットから、暖かく匂いたつ紅茶を注ぎ、俺とマキナと自分の分を、テーブルに置いた後、マキナの近くに行き、ズレて落ちかけていたタンクトップを整える。

 なんてソツのない動きだろうか。

 俺がマキナを見ないようにと、紅茶を俺の席に最初に置いたんだろう。いや、俺が一応主人なわけだから、俺の席に一番最初に置くのが当然か……、うん。まあセラはやはりスーパーメイドだ。


 そう、スーパーメイドなんだ、心を読んだりするのも朝飯前だろう。

 理由が分からないのは、怖いのだけだ。


 大きく伸びをしながら歩いてきたマキナは、俺の右斜め前の席に、ドカッ、と腰掛ける。

「どっこらせっと。あ、飯」

「いらないだろ」

「いるよ」

「いるのかよ」

 そんなマキナに、俺はポンポンとPを使って料理を出す。

 惣菜パンと、インスタントの粉スープ。どうせどっか行く時に持って行くんだろうから、ちょっと多めに生成してみた。


「では私も頂きます」

 あ、セラも食べるんだ、そう。じゃあ俺も食べよ。


「いりませんよね」

「い、いるよ」

「昨日お菓子を内緒で食べてましたよね?」

 食べられなかった……。まあダンジョンマスターには食欲も睡眠欲も何もないんだけどさあ。お菓子はまあアレだよ、そういうんじゃない。


 しかし、そうだな……。

「次すれば今度こそ、その顔を引き裂きますよ」

 慈愛があって本当に良かった。


 冷酷さと微笑が似合う、クールビューティーセラ。決して逆らってはいけない。公爵だが、まるで女王様のような、逆らってはいけない威圧感、カリスマ性を出してくる。

 王より威圧感のあるメイドってどうよ。

 ていうか俺はダンジョンマスターなんだから王じゃねえか、創造主じゃねえか。そんなのを顎で動かすメイドってどうよ。

 どこの国の野郎だ、異世界の知識にメイドは良いものだなんて情報を入れたのはっ、許さんぞ日本人。


「黙って菓子食うとか最低だな」

「すみません」

「次したらコアぶっ壊すぞ」

「すみません」


 情熱と笑顔が似合う美少女マキナ。決して逆らってはいけない。死ぬから。

 コアは破壊しちゃいかんよ……。


 用意した朝食を、2人が綺麗に食べていくのを眺めていると、マップ上で動きがあった。ダンジョン内で夜営をしていた軍が、再び動きだしたようだ。

 もう数百mでダンジョンを出る、という位置で夜営をしていたので、軍は朝食が終わる頃にはダンジョンの外へ出ていく。


『17566名パーティーを撃退しました。5400Pを獲得しました』

 すると、そんなアナウンスが。


「おお、マキナの咆哮のおかげかなあ、Pが入ってきたよ」

 Pを得る方法は、侵入者を倒す他に、侵入者を追いだす、というものがある。

 しかし、微々たるものだ。先ほども1人1Pも獲得できていない。そのため、普段は全く気にすることのないもの。


 それなのに、5400P。

 なんとまあ。


 それに、撃退時にPを得るための条件である、相当量のダメージも、死んだ上級竜が与えたものと、マキナが階層外から与えたもの。

 なんとまあ、誇りの欠片もない。


「あー、落ち着くー」

 しかし気分は晴れやかだ。


 手に負えない侵入者がダンジョン内にいると、ダンジョンマスターには、結構ストレスがかかる。

 1人1人でも強いのに、戦争は基本的に全員でパーティーを組む。尋常じゃないストレスで胃はずっとキリキリキリキリ。

 勇者だとか、そんな存在がいなかったため、まだマシと言えるのかもしれないが、さすがにLv200が二桁もいると、非常に辛い。

 ただでさえマキナのアンポンタンが、最終階層のボスのくせに低階層まで出撃して、殺戮活動を行っているから胃が痛むというのに。


 いやはや、これで気分良く今日も活動できるぜ。

 

「んで、どんくらいしたらまた来んだ? あいつら」

「予測でしかありませんが、3ヶ月後、といったところでしょう」

「ふーん、結構空くな」

「再編成にも手間取るでしょうからね。ただ、その3ヶ月までに何度か、先遣隊のような冒険者パーティーが来ることは、予想されます」

「ほうほう」

 食後のお茶を飲みながら、マキナとセラは今後の情勢を話し合っている。切迫しているというのに、なぜこんな優雅なひと時を過ごしているのかは分からないが、まあ感心なことだ。


「ごちそうさまー、んじゃあ行ってくるー」

「お気をつけて」

 そして紅茶を飲み終えたマキナは、元気良く家から飛び出し、まるで、地震と台風が一度に来たのか、と思うほどの衝撃と共に飛んでいく。

「行ってらっしゃーい、20階層から出ちゃだめよー」

 ……。


 ……。

 ……はいもう出た。

 出ちゃった。

 俺の言うこと何にも聞いてない。


 ストレスの原因はダンジョンから出たはずなのに、どうして胃のキリキリが収まらないんだ。


 勝負して勝ったら従うって約束してんだけどなあ。

 記憶をすぐに取り出せるのがダンジョンの住人、すなわちダンジョンマスターの俺の長所なのだが、そこに疑問を持ってしまうくらい、簡単に階層から出て行ってしまった。


 凄い勢いで飛び周り、隠れても無駄だと言わんばかりにマップで探し出し、魔物をボコスカ倒しているマキナさん。

 階層を跨いでの殺戮は、止めて下さい。僕の胃が持ちません。

 せめてマップがなければ……誰だあんなものを与えたやつはっ。


 にしてもグッスリ寝たからか知らないけど、元気だなあ、暴れまくりだよ。俺も寝たい、寝て胃の辛さを忘れたい。

「ご主人様」

「はい、準備しまーす」

 しかしそれは許されない。


 我が家のメイドの察知スキルは半端じゃないのだ。寝たいという俺の、心の感情を読み取ったのだろう。今後メイドを作るときは、察知適性をつけないようにしよう。

 俺は、怪しくなっている自分の記憶力に強く刻む。


「では私もLv上げを兼ねて、行って参ります」

「うん行ってらっしゃい」

 セラは家の中に空間のひずみを作り出す。そのひずみはスクスクと大きくなり、中に自然豊かな景色を映す。その段階で、セラは入って、マップを一気に移動した。


「え、Lv上げって言いました? 貴女18階層の守護者なんだから18階層以外で戦っちゃダメよー」

 セラが通った空間のひずみは、消えて行く。

 それから少し経ち、魔物を倒したアナウンスは2倍に。

 ……。


 魔物が出す断末魔も2倍に。

 ……。


「ギシャアアーッ」

「グルアアアアーッ」

「ブルルルルゥー」


『侵入者、甲殻蜥蜴種・グロンドリザードを倒しました。443Pを獲得しました』

『侵入者、虎種・タイガーアーガイルを倒しました。510Pを獲得しました』

『侵入者、牙豚種・バーニングボア・個体名レバプロを倒しました。1055Pを獲得しました』


 やめてくれ、やめてくれ。


 俺のせいじゃない、俺のせいじゃないんだ、セラが勝手に……。しかしそんなことを言っても、死に行く彼等にはなんの贖罪にも、慰めにもならない。


 安全な場所だったはずのそこは、絶対強者の出現によって、地獄と化した。


 彼等は思うだろう、誰がこんなことをしたのかと。

 彼等は呪うだろう、こんなことをした誰かを。

 悪逆なる誰かを、非道なる誰かを。

 そう、そんな魔物を派遣した、ダンジョンの主、ダンジョンマスターを。


「やめてくれーっ」

『すみません、うるさいので通信切りますね』


「めちゃくちゃ聞こえてるじゃねーかっ」

 だったらやめなさいよっ。


 というか、マキナが留守にするからセラを生成したはずなのに、2人共階層外でLv上げに勤しむって、それってどうよ。

 20階層のマキナがどこかへ行っても、19階層からこっちへ入って来られないようにと、セラさんを18階層の守護者にしたはずなのだが、セラよ、今そこは14階層じゃないか。

 魔物が1匹でも来たら俺が死んでしまうことを、この2人は分からないのだろうか。

 分かってたら、とっても怖いなあ。


「セラ、もしもし、セラさん」

『なんでしょう』

 全く悪びれる様子のない、いつも通りの透き通る声。どうしてここまで普通の精神状態でいられるのか。ダンジョンモンスターからしても、自らの階層外で戦うというのは、忌避感があるはずなのに。


「そこのところどうなんです?」

『忌避感はありますが、ダンジョンの変更を行うためには仕方ありません。そこに侵入者がいては変更できないのですから。敬愛するご主人様の勅命と思えば、なんのそのです』

「なんていう使命感でやってくれているんだ。……だったらもうちょっとご主人様を思いやってくれませんか?」

『では、ご主人様を敬愛するのをやめましょう』

「そっちやめちゃったかー」


 立てたプランにおいて、重要な役割を持つ変更を、俺達は今から順次行っていく。

 これをできるだけ早く行うことが、今後の勝敗を担う、と言っても過言ではない。だが、まさかそんな一大事が、殺戮の理由になってしまうとはっ。

「いや、追い払うってことでも大丈夫だからね。それに場所はどこでも良いんだから、いないところでも……。これからはそっちでお願いできませんかね」


『すみません、少々電波が悪いようです。なんと仰いました?』

「これって電波で繋がってるんでしたっけっ? えっと、まあはい、倒すんじゃなく追い払――」

『しかし……、もしご主人様が、追い払うようにと仰ったならば、大変ですね。時間が多くかかってしまいますので、ご主人様の方へ魔物が向かった場合、助けに行くのが遅れます。場合によっては、間に合わないこともあるかもしれません』

「え……」


『おや、そう言っている間に、魔物が17階層に入ったようです。しかし、追い払うのであれば時間がかかります。変更は一刻も早く行いたいですし、そちらを優先しましょう』

「もしもーし、セラさーんっ」

『それにしても追い払う、ですか。どちらへ追い払いましょう。うーん、やはり内側へ追い払うべきですかね』


「セラよ、命令だ。邪魔するやつは全てなぎ払えっ、我がダンジョンに侵入してきた愚か者など、全て滅ぼしてしまえっ」

『かしこまりました、仰せのままに。マキナ、聞いていましたか?』

『おー、聞いてた聞いてた。そう思ってたんなら早く言ってくれよな、任せとけよマスター』


「……」


 ……。


 マキナは面倒見良く、認めた者に従順。

 セラは真面目で忠義に厚く、優しく世話好き。


 ダンジョンの住人、ダンジョンモンスターやダンジョンマスターの記憶は決して失われず、思い出したいと思ったときには、必ず思い出すことができる。

 だから、俺には、彼女達を生成したその時のことをよく思いだせるし、性格項目に付けたその設定も、忘れちゃいない。


 ダンジョンの設定が間違えるはずないので、それらは彼女等に確実に反映された。

 彼女達は優しく、そして俺に忠実。


 ゆえに、俺の命令に今従っているのだろう。


『うらあ、死ねえ、カタストロフブラストーっ。あっはっは、アタシ最強っ』

『メルトダウン。さあ、同族同士食い合いなさい。ふふふ、醜いですね』

 必殺技で魔物の群れを、周囲の自然ごと一瞬にして塵へと変え、魅了し侵入者同士で殺し合わせ、2人は、俺の命令を叶えられた喜びで、笑っているのだ。


 だからそう、悪いのは彼女達ではない。

 そう、それこそがこの俺、ダンジョンマスターさっ。


「……」


 ……。


「なんてこっ……」


 ……。


「……」


 ……。


「なん……」


 ……。


「……」


 ……。


「…………」

お読み下さりありがとうございます。


一生懸命ダンジョン運営頑張ります。

質問感想や御指摘等々いつでもお待ちしております、よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=546221195&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ