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第116話 平和なダンジョン。

悪逆非道のダンジョンマスター心得その5

いつも勇気を持ちましょう。少しでも、繰り広げられる虐殺を止めるために。

 ビーチでは、ダンジョンを守護するネームドモンスター達が、楽しく遊んでいる。

 ダンジョンモンスターなので、常にダンジョンの守人として活動することも可能だが、たまにはこうやって羽を休めることも、俺は必要だと考えている。ダンジョンマスターでその発想は、少数派かもしれないが、改めるつもりはない。

 楽しそうで、何よりである。


 ただ、色んな物を生成しすぎではないかな?


 それってちゃんと自分達のお小遣いでやってる? 結構俺にねだってない?

 大丈夫ですか? ダンジョンの経営は大丈夫ですか? 俺は大丈夫ですか?


 まあ……楽しいんなら良いけどさ。

 俺は海で遊ぶ、いかれたメンバーに目をやった。


「大丈夫じゃない……、鬱。こんな広い海に比べて、わらわのなんて小さいことか。わらわは矮小、あまりにも矮小、そして卑猥。ああ、なんて価値のない……」

 上下一体型ながらエキゾチックで露出の激しい、紫色の水着を着たティアは、砂浜に倒れ伏しながら、そう言っていた。

 なぜか手には、餌のついていない釣竿が握られている。……釣れなかったんだろうか。


「どうですティアさん。わたくしが作ったお城は。まさにティアさんが住まうにピッタリの城となりましたわ」

 布面積の少ない黄緑色のビキニを着たホリィは、砂の城を見上げて、満足気にしている。

 高さ3mほどの巨大な城、サンドアートと言えるそれを、1人で作り上げたらしい。スコップやバケツなど、様々なアイテムがかたわらには転がっているが、たったそれだけで。……凄いなっ、なにその才能っ。ダンジョンモンスターなのにいつその技能を磨いたのっ?


「ああ、貝になって生きられたら……。鬱、鬱、鬱って漢字はどう書くの……」

「ここのディティールに拘りましたの。とても良い出来ですわ」

「どれだけ書いても波にさらわれる。世界の全てに嫌われている。鬱、鬱になっちゃううううっ」

「やはり虚飾を生まれ持った者として、装飾は欠かせないと思ったのですわ。おーっほっほっほっほ」


 あとやっぱり会話が成立してない。

 相変わらず聞いてるだけで頭がおかしくなりそうな会話だ。そして笑い方がうるせえ。


「おかしいって言われた、鬱……」

「うるせえって言われましたわ、嘘……。まあ、陛下なんてどうでも良いですわ。ティアさん、海と城をバックに写真を撮りましょうか。インカメラにして、はい、チーズ」

「ニコっ」

「良い写真が撮れましたわ」


 あ、自撮りには応じるのね。ホリィが持っている携帯には、ニッコリと笑顔を見せるティアが映っている。そうか……笑顔か。はいはい可愛い可愛い。

 2人は海にあまり入っていないようだが、楽しんでいると思う。


 五獣はどうしているんだろう。

「ダンジョンマスター様、カキ氷をどうぞ」

「あ、ありがとう」

 そう思って探したところ、丁度良くミロクがやってきた。着ている水着は、黄色に水玉模様が描かれたワンピースタイプだが、首元でクロスするホルターネックの水着で、ヘソや谷間の露出はかなり大きく、視線のやり場に困る。

 ミロクは大人しく優しい性格と違い、服装はかなり大胆で露出面積が広い服を好む。なにゆえに。


「セクハラです」

「すみません」

「許します。どうぞお食べ下さい」

 許してくれた、本当に優しいなあミロクは。怒ると恐いけど。

 でも、だったら黄色に水玉模様のワンピースはやめてくれよ。なんで水玉の色が茶色なんだ。どうして指摘されると怒るのに、毎度その配色を選んでくるんだ。


「なにか?」

「なんでも。カキ氷美味しいねえ」

「セラ姉さんから引き継いだカキ氷屋ですから、スノさんの焼きそば屋には負けませんよ」

 ミロクは優しく微笑んだ。

 怒りの微笑みでなくて本当に良かった。危ないところだった。


 そうして俺はカキ氷を食べながら、他の四獣を探してみる。

 ククリとリリトはビーチバレーのチームを組んで大会に出場していた。以前のスイカ柄やヤンキー柄とは違う、黒に近い色の競技用水着を着たククリと、白に近い色のフリルのついた水着を着たリリト。身長もスタイルも凸凹コンビであるが、さすがは姉妹、息ピッタリで、見事決勝に進出したようだ。


「凸凹なのは、身長だけだよなあ。なあ、リリト」

「なに言ってんだクク姉。凸凹なのはスタイルだけだろ?」


 トトナとナナミは海に入っている。

 とはいえ一緒にはおらず、トトナは赤いセパレートタイプの水着でフロートイルカに乗りサーフィンを、ナナミはウェットスーツにボンベを背負いダイビングをしていた。

 なぜサーフボードではなくフロートイルカを使うのか、なぜ水中でも全然活動できるのにウェットスーツやボンベを使うのかは、謎である。フル装備じゃないですか、360°カメラ頭につけて、防水タブレット使って。フル装備じゃないですか。いくらかかったの。


「あー、やっぱインドアの方が良いなあ。他人の趣味にケチつける人いないし」

「水中から生配信、VR……。良いかも、タイトルは、私と海、どっちを見るの? ダンマス様もさぞや楽しみだろう、ムフフタイムも――、そ、それはしない、絶対しない、もうしない、しません、はい」


 なんか……ごめんなさい。

 俺はカキ氷を一口食べた。イチゴのシロップがかかったカキ氷は氷がフワフワだ。口どけは、まさに完璧。


「うまっ」

 思わず俺はそう言って、バクバクと勢いよく食べ進めた。

 ダンジョンマスターだから、ダンジョンモンスターが作った食べ物なら、いくら食べてもお腹痛くならないし、頭もキーンとならない。まさにカキ氷を食べるためにある能力であるっ。


「美味い美味い――あ、いたたたた」

 いや、キーンとならないのは嘘だった。なった。キーンってなってる、痛い。

 そうか、ダンジョンマスターでも、カキ氷を食べて頭がキーンとなることはあるのか。知らなかったよ。俺はてっきり、ダンジョンモンスターから料理で痛みを受けるには、反乱されて作られていなければならないと思っていたから。


「なあミロク」

「うふふ」

「……うふふ」


 うふふ、だってさ。超怖い。


 えーっと干支はどこだ干支は。

 ――あ、いた。


「やめてー来ないでー」

 怯えるアリス。


「これ以上近づいたら、いやーこれ以上近づかないでー」

 追い詰められているイーファス。


「やだっ、このクズ、変態っ」

 涙ながらに叫ぶヴェルティス。


 スクール水着で逃げ惑う3人。なぜスクール水着なのかは置いといて、どこかで見た事聞いた事のある光景だな。一体何から逃げているのか、俺は3人の視線の先を追う……。

「えっへっへっへ、可愛い、かわゆいねえ。もっと罵って、もっと殴って蹴って踏んでぇーっ」

 そこにはタキノ。リボンのついた水着だけはまともだが、それ以外は全くまともではないタキノ。

 凄く見た事のある光景だった。


「あっ」

 すると、砂に足を取られたイーファスが、ドテっとこけてしまう。


「ぐっへっへ、チャァーンスだにゃああああーっ」

 そこへ迫りくるタキノ。


「ひっ、――アリス、ヴェル先に逃げ――」

「「イーっ、今助けるっ」」

 先に逃げろと言ったイーファス、しかしアリスとヴェルティスは助けるためにすぐさま戻る。逃げてと言った方にも、助けると言った方にも、一瞬の逡巡も見られなかった。いつも喧嘩ばかりの彼女達だが、しかしそれは、喧嘩するほど仲が良い、そんな言葉を体現しているから。彼女達の絆は、とてつもなく強く結ばれている。


 ――だが。

「ぬえっへっへっへ、なら3人まとめて――、踏んづけてもらうにゃああああーっ」

 迫りくる化け物には、その絆なんぞ、美味しい餌にしかならない。

 涙を浮かべ、3人は抱き合い顔を伏せた。


「はいはいストップストップ、もう」

「「「スノっ」」」

 そこへスノ推参。上下一体型の桃色の水着の上からエプロンをつけ頭巾を被り鎧とし、手には2本のヘラを武器として持ったスノが、タキノの前に立ちはだかった。

 さっきまで焼きそば作りに精を出していたというのに、いつの間に。

 しかし、これでひと安心だ。


「えっへっへっへ。今日もまた良いところで邪魔しにきてくれっちゃったね、スノちゃんっ。でも、今日のタキノちゃんはひと味違うのにゃっ、誰にも止められない。今日のタキノちゃんは、誰にも止められなあーいっ」

 だが、今日のタキノの気迫は凄まじい。いつもならここで諦めているのに。

 戦争の時よりも覇気を感じるぞっ。


「水着、生足。これはもう、踏んで貰うしかないのにゃーっ」

 戦争はそんなものに負けたのか……。

 吼えるタキノは、ジリジリと近づき、スノの後ろに隠れる3人との距離を詰めていく。3人の表情には、また怯えが戻ってきた。

 一体、一体どうなってしまうんだ。


「ふっふっふ」

 しかし、なんだかスノは余裕そうだ。

「タキノ、あれを見ても、まだ同じ事が言えるのかな?」

「あれ……? あ、あれは――まさかっ」

 スノが指差した方向を、タキノは見たその瞬間、先ほどまでの変態性をかなぐり捨て、愕然とした表情で立ちすくんだ。


 あれってなんだ? 気になって、俺も、スノの指差した方を見る。

 そこは焼きそば屋。スノが受け持つ海の家。その店内に敷かれたゴザの上で、ニルとユキが談笑していた。


「やっきっそば。やっきっそば。まだかなまだかなー」

「海の家と言えば焼きそば。だが実は食べたことないんだ、楽しみだなあ」

 どうやら焼きそばができあがるのを待っているらしい。しかしその焼きそばを焼くスノは、今ここにいる。


「わたしはさっき食べたけどねー、とっても美味しかったよー」

「なにっ、くうう、腹が減ってきたぞ。スノっ、焼きそばはまだかっ。……あれ? スノがいない」

「嘘ー。ほんとだー。あ、あそこにいるよ、タキノ達と何かやってるみたい」

 2人も、それに気づいた。


「……なあ、もしかして、タキノがまたなんかやったせいで、作るのが遅れてるのか?」

「そーかもー。……そっかー、邪魔、するんだ」

「……そうみたいだなあ、本当に、どうしてくれようか」

 ……。


 タキノ、大ピンチっ。

「……やばい、助けてスノちゃん。タキノちゃん、もう、死にたくない……」

 タキノは、先ほどのアリス、イーファス、ヴェルティスのように、泣きながらスノに縋りついた。


「はいはい。違いますよお2人共ー。実はタキノには、カレー作りを手伝ってもらおうと思ってましてーっ」


「なんだーびっくりしたー。カレーも良いよね、早く早くー」

「海の家と言えばカレー。心得ているじゃないか、スノ、タキノ。危うく勘違いするところだった」


「……良かった、本当に良かった、グスン、グスン」

「これに懲りたら、変なことは控えめにね。それじゃあ行くわよタキノ。貴女達は遊んでいらっしゃい」

「ありがとうです、スノっ」

「ありがとうございました、スノっ」

「べ、別に感謝なんて……すっごいしてるんだからね、スノっ」


 ダンジョンには平和が訪れた。


 ……、いや、平和なのかなあ、これって。


 そうして、スノとタキノは海の家に行き、焼きそばとカレーに着手する。

 アリスとイーファスとヴェルティスは海へ。泳げないイーファスの特訓をするようだ。手を繋いでバタ足をしながら、たまに顔をつけて……たまに手を離して、たまに溺れて、喧嘩して。


 エリンはパラソルの下で、パーカーを着て、サングラスをかけたまま読書。日焼け止めなどもバッチリのようだ。ダンジョンモンスターなので日焼けしないけど。

 カノンはなぜかふんどし姿で、ローズの運転するジェットスキーに牽引され、ウェイクボードを楽しんでいる。

 長袖長ズボンの水着姿のケナンもまたジェットスキー。ただし運転する側で、パラシュートを着けたシェリーを引っ張って上げている。ワンピースタイプの水着姿のシェリーは空を飛んで大喜び。ケナンは案外優しいところがある。


 ビキニを披露したコーリーは、上下一体型で露出控えめな水着のソヴレーノと組んで、ビーチバレー。相当はまっているようだ。現在のチャンピオンはこの2人。

 サハリーは……どこだ? あ、いた。スノの焼きそば屋に入り、そのゴザの上で寝ているようだ。短パンとパーカーって泳ぐ気ゼロだな。


「旦那様、キッチンが欲しいです」

「材料はもう取って来ました、旦那様」

 チヒロとツバキもビキ二の上から羽織りものをして、クラーケンを引き摺りながらやってきた。キッチンを生成すると、元気良く料理を始める。


 ……平和じゃないな、これ。


「第二弾、ビックウェーブっ」

 ほうら、やっぱり平和じゃない。


「セラさん助けてーっ」

「やはり採れたてのアワビは濃厚で美味しいですね」

「キキョウさん助けてーっ」

「バーベキューは案外楽しいのう、おやいかん、波から守らねば、火が消える」


「ぎゃああああー」

 沖合いを回遊中、偶然通りかかった世界を股にかけるキャプテンオルテの船、オルテ号にサルベージされ、俺は恥ずかしながら帰ってまいりました。

 みんな、俺はダンジョンマスターだよ。確かにどれだけ雑に扱っても、心も体も傷つきやしないが、しかし、このダンジョン内で最も大切に扱うべきものなんだよ。


「……長年連れ添えば……、大体こうなる」

「熟年夫婦の悲しき末路だねえ。いや、夫婦ではないけど」


 しかし、だからこそ、新しいメンバーの生成にも力が入るというもの。

 どうか、そんなマンネリ化した空気に新しい空気を送り込む、新風になってくれ。期せずしてやる気が出てきたぞー。


「オー」

「そうだな、オルテ、頑張るよ。行くぞ、エイエイ、オ――」

「……飴」

「飴だよー」

お読みいただきありがとうございます。


次回から、新しいメンバーが増えます。ぼんやりとでも覚えて頂ければ嬉しいです。

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