第99話 34階層の守護者、ケナン。
ダンジョンマスター心得その16
時には諦めも肝心です。
34階層。
干支階層の中で南東微南に位置するそこは、巳、ケナンが守護者を務める、孤独と悪意の洞穴。
侵入者に課される試練は、洞穴を1人で進み、正義の心を保ったまま、道中に襲いかかってくる敵や誘惑をはねのけ味方と合流し、ケナンを倒す、というもの。
フィールドは洞穴なのだから、狭く深い穴の中。
ダンジョンの設定として暗くなっており、暗さへの対応ができなければ、休憩地点か所々にあるモニターの明かり以外に光源はない。
ケナンは階層中央の鎖の真下で待ち受けているが、そこへ至るには階層大外の入口から入るしかなく、攻略には時間がかかる。
洞穴は、半径5kmという階層の広さに加え、上下も大きく活用してあるため、道程の距離だけで言うのなら、干支階層の中で最も長いのだから。
だが、しかし。
それゆえに、34階層ではボスが逃げるわけでも、道程が迷路になっているわけでも、険しく困難なわけでもない。
階層中央に行けばケナンに会えるし、道はほとんど一本道で迷うことはないし、凶悪な罠もなければ凶悪な魔物も出てこない。基本的にはそう強くないヘビだけだ。
干支階層の中で、攻略するのが一番簡単な階層は?
と問われたなら、38階層スノの旅館か、この34階層ケナンの洞穴だと、誰しもが答えるだろう。
38階層では戦う必要はないし、34階層ではただ歩き続けて、最後にボスと戦うだけで良い。
けれどもそれは、心が強い者達にとっての話である。
心が弱い者にとっては、むしろ、最も難しい階層が、38階層か34階層になるに違いない。
試練は、孤独と悪意。
いくら体が強くても、もし心が弱いなら、まず間違いなく、生きて帰ることはできない。
その孤独と悪意は、まさに絶望と言い換えることができるだろう。英雄と呼ばれる者達であっても、抗うことはできなかったのだから。
34階層に侵入してきた魔物は、ワーフェンリル。
生成に1000Pも要する強大な種族であり、ワーウルフ系の最高峰。その戦闘能力はすさまじい。また、集団では単純な足し算以上の力を発揮するため、群による戦いは容易く人の世界を滅ぼすだろう。
魔法は得意ではないが、それを補って余りある肉体能力があり、パワータフネススピード、全て申し分なく、特に持久力については異常とさえ言える。
34階層の洞穴は暗く狭いため、機動力を活かせる場面はない上に、一本道であるため鼻が活きることもない。
しかし機動力は前進することに役立つし、鼻は暗闇を意にも介さない探知力を発揮する。つまりその無限の体力と合わされば、こんな洞穴など、ワーフェンリルにとっては格好の餌食のようなものだった。
この洞穴の構造や設定で、唯一ワーフェンリルに歯向かえている点と言えば、集団行動を許さない、という点だろう。
34階層の洞穴は、10mほど盛り上がった地面の側面に開いており、その数は半径5kmの階層の周囲をぐるりと一周するほど存在する。
穴の大きさはまちまちであるが、1万以上は確実に。
それらの穴には、1人、もしくは1匹ずつしか入ることができない。
誰かが入った後の穴の入口は、腕一本くらいしか入らないような大きさにまで縮んでしまうし、2人3人と一緒になって無理矢理入っても、必ず誰かが押し出されてしまうか全員押し出されてしまう。
孤独の試練であるのだから、設定からしてそうなっている。
そのためワーフェンリルは、50以上のオオカミを召喚していたが、それぞれバラバラに、この洞穴を突き進んでいた。
出会うのは、最後のボス部屋と、途中途中にある休憩地点だけ。
「ちっ、またか。一体誰だっ」
ワーフェンリルは今、その休憩地点にやってきて、そう悪態をついた。
横長の大部屋である休憩地点には、いくつもの洞穴が繋がっている。
ワーフェンリル以外に、何匹ものオオカミがこの部屋にいて、さらに今もまた続々と洞穴から出てきている。
そしてここから再び、洞穴に入り、34階層最深部を目指すのだ。
ちなみに、自分や他のオオカミが出てきた出口は、全て後ろの壁に、34階層深部へ進む入り口は全て前の壁に集約されている。横長の部屋いっぱいに穴は空いていて、その数は膨大であるため、どこに入るかは迷うものの、逆走する心配はない。
いや、どこに入るかを迷う心配も、実はない。
「左の穴ほど難易度が高く、右の穴ほど難易度が低いのだから、1番の戦力である俺は最も右に行くべきだろう。なぜ、既に右側がほとんど埋まっているっ」
穴によって難易度は違う。
迷う必要など一切なく、一番右の穴に入れば良い。鼻が効くワーフェンリルには、その穴から漂う臭いで難易度が分かっていた。しかし既に右の方の穴は腕一本入るだけの穴を残し塞がっている。
それは、穴に1人しか入れない仕様上、誰かが先に入った後に残る光景。
つまり既に簡単なところに、他のオオカミが入ってしまった、ということだ。
34階層は何度も何度も休憩地点を挟む。
ワーフェンリルは既に5回目の休憩地点。一番右側に入れたことは、未だない。
悪意が、ワーフェンリルを苛む。
休憩所に長くいると、天井や床に空いている小さな穴からヘビが山ほど湧き出てくるため、長居はできないと、ワーフェンリルは空いている中で一番右の穴へ入った。
休憩所で一緒になったオオカミ達には、右側の穴へ入らないよう厳命して。
オオカミは縦の関係を異常なまでに重視する種族であるため、ワーフェンリルが命じれば、それは絶対厳守する。
しかし、次の休憩所でも、ワーフェンリルは一番右の穴へ入れない。
他の穴に入っているオオカミ達へは、この階層の設定として、念話も命令も届かないし指示は不可能。また簡単な穴を進む者の方が速く進めるのは当然であり、休憩所で顔を会わせることもできない。
そもそも自分と全てのオオカミが、同じ休憩所を経由しているわけではない。それぞれ休憩所に空いている穴は10か20程度なのだから、全員合流はそもそも不可能である。
そうして、ワーフェンリルは常に簡単な穴に入ることが許されないまま、面倒な道程を歩ませられる。
悪意が、ワーフェンリルを苛む。
さらに、妙に魔物が増えてきたことにも気付いた。
ダンジョンは、戦いの場であるが、処刑場ではない。
だから、このようにパーティーをバラバラに分割して、1人や1匹を強制した状態で、強敵と戦わせることなどは本来不可能である。
もし6人パーティーをバラけさせたとするならば、6人で戦っていた際に感じていた困難や難易度と、同じくらいのものにしなければならない。
それは転移罠など、避けられるトラップで分断したのであればその限りではないのだが、ここのように設定で強制的にバラけさせた場合ならば、絶対に遵守しなければいけないというか、破れないルールである。
ダンジョン側のルールを熟知しているワーフェンリルは、それゆえにおかしいと疑問を持った。
だがその疑問はすぐに解決する。
洞穴に転々と仕掛けられているモニターを見れば、たちどころに。
モニターには、別の洞穴の様子が写しだされている。
大きな画面が16分割ほどされ、様々な場所が。
そんな中で、大量の魔物と相対するオオカミがいた。
大量とは言ってもそのヘビ魔物達はそう強い種族ではない。ワーフェンリルが召喚したオオカミは強力であり、ダメージなど大して受けずに蹴散らせる。
だが、オオカミは戦わず、壁に仕掛けられていたレバーを引いた。
レバーを引くと、床に大穴が開いた。
落とし穴のような穴だ。空を飛べないヘビ達は、その穴に落ちていく。そしてその時穴の上にいなかったヘビもまた、穴に落ちていくことが正解であるかのように落ちていく。
そして次の瞬間、ワーフェンリルのいる洞穴の天井が開き、大量のヘビ達が落ちてきたのだ。
ワーフェンリルの感じた魔物の増加の理由は非常に簡単だ。
誰かが、自分に魔物を押し付けているのだ。
ダンジョンでは、もし6人パーティーをバラけさせたとするならば、6人で戦っていた際に感じていた困難や難易度と、同じくらいのものにしなければならない。
しかし、その内の誰かが自らの意思でパーティーメンバーに困難や難易度を押し付けたのなら、その限りではない。
それは仲間内での離反や造反やサボリや策略であって、ダンジョンが介入することではないのだから。
ダンジョン側のルールを熟知しているワーフェンリルは、熟知しているからこそ、すぐさま気付いた。
「奴ら――、配下の分際で、何をっ」
悪意が、ワーフェンリルを苛む。
洞穴には、他者に負担を押し付ける仕組みが、盛りだくさんに仕掛けられている。
わざわざレバーを操作せずとも、スルーすれば誰かのところへ行くものや、分岐する道の選択によって魔物の強さや出現数を抑え他に押し付けるもの。
他にも自分の敵を弱体化させる代わりに誰かの敵が強化される仕掛けや、回復アイテムを得られる代わりに誰かのところに魔物を出す仕掛けもある。
だから楽をしようと思えば、洞穴は1匹の魔物も出てこないような、そんなただの薄暗い道になる。
「俺が主戦力だっ、俺を消耗させるなっ。貴様等が全て戦えっ」
ワーフェンリルはそう言って、そんなただの薄暗い道を、ひたすらに進み続けた。
ワーフェンリルの進む洞穴の、困難や難易度は、最早ないに等しい。ボスの居場所まで、ただの一本道だ。
だが、しかし、そう。
ダンジョンでは、もし6人パーティーをバラけさせたとするならば、6人で戦っていた際に感じていた困難や難易度と、同じくらいのものにしなければならない。
つまり裏を返せば、6人で戦っていた際に感じていた困難や難易度と、同じくらいの困難や難易度にしても良い、ということである。
例え、他者へ困難や難易度を押し付けたとしても、だ。
自分の道の責任を負うのは、いつだって自分である。
他者へいくら押し付けようとも、歩む道の困難や難易度は何一つ変わらない。変えられない。
10の困難や難易度が、10度与えられる道で、9度も他者へ送りつけたなら、最後の1回に100の困難や難易度がくるだけの話である。
さて、では果たして、100の困難や難易度とは一体何だろうか。
もちろんそれは、もうどこにもやれない。
悪意が、ワーフェンリルに襲いかかる。
「奇遇やなあ、こんなところで。でも、よろしゅう。34階層、第六の鎖の番人、ケナンや。同じダンジョンモンスターなんやし、敬語はいらんやろ? けど、同じとは思われたないしなあ。ま、ええか、死にや」
階層中心ではない、仲間と合流してもいない。
この階層に存在する、最大の困難、最大の難易度が、ただの敵として洞穴に出現した。
ジャラジャラという鎖の音の直後、ワーフェンリルへ分銅が飛来する。
道の幅はたった1mほど。高さこそ4mと、ワーフェンリルの身長である2m50cmを大きく越えているが、横幅はいっぱいいっぱいだ。避けることは不可能。
「ぐうっ」
ワーフェンリルは腕を交差し、分銅を受け止めた。
しかし衝撃は大きく、ほんの一歩後退する。そしてその瞬間、追撃と言わんばかりに目の前に明かりを反射する鎌が振られた。
小さな草刈鎌は、この狭い中でも取り回しに優れており、ワーフェンリルの命を刈り取るのに少しの制約もない。
ケナンの武器は、鎖鎌。
もっと広い場所で活躍するように思える武器であるが、隠し武器として栄えた歴史を持ち、狭い通路における超接近戦でこそ、真骨頂を発揮する。
「ぐう、こ、このおっ」
ワーフェンリルは腕を振るおうとしたが、壁に腕が擦れ、威力も速度も減衰。
ケナンには当たらない。
ワーフェンリルは大柄で、こんな場所では満足に動けない。
対するケナンは、女性にしては高い身長を持つがしかし小柄だ。そして元がヘビなだけあって、狭い場所をスイスイ移動する器用さを持つ。
こんな場所でも機動力は失われない。
ワーフェンリルにとって、あまりに不利過ぎる状況である。
「自分の召喚した配下に負担を強いて、自分は楽して。あかんわあ、そんなんは悪やで。逆やったらうちも感動して、もしかしたら負けてやろうかと思ったかもしれんのに。悪は許されへんわ」
しかし、この状況を招いたのは、自分自身。
「それに後輩に無理矢理厳しい思いをさせるなんて、そんなんは許されへんに決まってるやろ。悪やで悪。めっちゃ極悪や。分かるか? そこんとこほんまに。あかんで?」
それと、ワーフェンリルにとって見知らぬ誰か。
「食らっときいや」
ケナンは鎌によるフェイントを入れ、ワーフェンリルのみぞおち辺りを蹴り飛ばした。
ワーフェンリルは壁に爪を立て堪えるも、数m吹き飛ぶほどの衝撃と、ハッキリしたダメージを受けた。
だが、同時に、何かを思いついた様子でもあった。
「配下。そうか。ククク、俺は誇り高きワーフェンリル。オオカミ共を召喚することなど造作もない。貴様のようなネイバースネーク如きとは格が違うのだっ」
そして、ワーフェンリルは壁に突き立てた手に、そのまま魔力を込めた。
瞬時にそこには魔法陣が描かれ、暗い洞穴内を照らす。
「出でよ、オオカミ共っ、コイツを食い殺せっ」
しかし、そこからは1匹足りともオオカミは出てこなかった。
「は?」
「無理に決まっとるやん。1人しか入れんて言うてるやろ。ダンジョンのルールは絶対やで」
目を見開くワーフェンリル。
そこに追い討ちをかけるように、ケナンは言う。
「ま、うちはできるけどな。応えて顕現せよ、スネークウォーズ」
すると、壁面から、おびただしいほどの数のヘビが出現した。
中には大蛇と呼んでも差し支えない巨大なヘビや、強力な種族のヘビもいる。
ヘビ達は次々にワーフェンリルを襲う。
もちろんその大半は噛み付く前に一撃で粉砕されたが、何匹かは噛み付くことに成功した。蛇毒に対して耐性の高いワーフェンリルとは言え、影響は出る。またダメージ自体もある。
さらにヘビ達に気を取られれば、真正面にいる最も恐ろしいヘビ、ケナンから強烈な攻撃を食らう。
いや、既に食らってしまった。
それも、先ほどの鎖とも鎌とも蹴りとも一線を隔す異様な威力の一撃を。
「しっかし今、おもろいこと言っとったな。ネイバースネーク如きやて。如き。如き。クックック。――、苦痛と後悔に溺れて、死んでいきなさい」
目を見開き、捕食者の目を覗かせ、ケナンはダメージに膝をつくワーフェンリルへ向けて、さらに踏み込んだ。
ワーフェンリルの後ろにはヘビが多数おり、退路は既に塞がれていた。諦めてその場で迎え撃つも、まともに身動きもできない中では、勝つことなど不可能だった。
鎌で切られ、切られ、そして首に鎖が巻きつけられる。
「竿」
ケナンが短くそう言うと、ヘビの1匹が天井付近の壁から顔を出し、そして反対側の壁に頭を突っ込んだ。その姿は、確かに物干し竿のよう。
そこに鎌を上に放り投げる形で、鎖を引っ掛ける。
「引きぃ」
そしてその鎌側の鎖を、大蛇にくわえさせ引っ張らせた。
「うお、貴様、がああ、ああ」
ワーフェンリルは首に巻きつけられた鎖に引っ張られ、徐々に徐々に地面から離れていく。
両手で必死に鎖を外そうとしているが、一向に外れる様子はない。
自らの体重で、ワーフェンリルの首は絞まっていく。もちろん魔物である以上、その体に備わる防御力は凄まじいもので、本来は体重程度の力で首は絞まらない。
しかし、既に呼吸の1つもできていない。
暗さの中でも分かるほど顔は酸欠を表すように赤に染まっていく。
「首輪のついたわんこちゃん如きがなんやって? って、喋られへんかあ。よっこいせっと」
ケナンはそう言って、それを近くの岩に腰掛け眺める。
足を組み、頬杖をついて、目が細いので分かり辛いが、とても楽しそうにニコニコと。
ワーフェンリルはもがき、時折魔法を放った。
だが元々魔法が苦手な種族であるため、それに大した威力も発動速度もなく、無情にも打ち消される。
「しっかしこれ、ステ低い上に魔法が苦手な相手にしか決められへんかもなあ。あかん。実戦じゃ使えそうにもないわ」
そんなことをぼやかれながら。
「ああ、くる、ぐるじ、ああ、ああ、あああアアアアア、チカラ、チカラアアアー」
そんな時、ワーフェンリルの力が跳ね上がった。
狂化という禁断の力によって。
防御力が上がった結果、首を締める力が足りなくなり、攻撃力が上がった結果、鎖を外す力が備わった。
形成は逆転の兆しを見せる。
しかし。
「プレデターロード」
相手のステータスを減少させるケナンの得意技によって、見えた逆転の兆しは、即座に沈黙する。
ケナンは岩に腰掛け足を組んだまま、頬杖をついたその手の、人差し指、中指、薬指、小指、それぞれ1本ずつ順に、ペタリペタリと顔に付けたり離したりしながら、ワーフェンリルが沈黙するまでの様子をニコニコと眺め続けた。
「ガアアア、グオオオ、ガアアアアアアアア、ググ、グ……、……」
「悪は退治され、これでめでたしめでたし、と」
34階層に挑んだ迷宮ダンジョンのワーフェンリルは、ボスに勝利すること叶わず、敗退した。
『 名前:ケナン
種別:ネームドモンスター
種族:ネイバースネーク
性別:女
人間換算年齢:24
Lv:207
人間換算ステータスLv:295
職業:第六の鎖の番人
称号:疑心暗鬼の支配者
固有能力:陥る地獄 ・不道徳な行いをする者を衰弱させ、不道徳な行いをする者に対して言動に補正。
:巡る運命 ・対象が他者に対し行った事柄による成否や恩恵と負荷を、対象も同程度に受ける。
:絶望への階段 ・支配領域内で特定の行動を積み重ねた者に対し、全ての行動に補正。
:遇中の裏切り ・9時から11時の間、全ての行動に対し補正が入る。12人の味方の内最も南東微南にいるとさらに補正。
:蛇化 ・蛇の姿になることができる。
:悪意の魔眼 ・右、視界内の対象の悪意を増幅し、悪辣な行動に対しての罪悪感を減少させる。
種族特性:捕食者 ・獲物を攻撃すると獲物のステータスが減少し、回復し辛くする。威圧力に補正。
:熱源感知 ・温度の差を視覚的に感じ取ることができる。
:寄り添い ・気配を遮断できる。
:立体機動 ・立体的な起動能力を有し、狭い場所でも通り抜けられる。
特殊技能:スタミナドレイン ・体力を干渉するたびに吸収できる。
:ヘルスドレイン ・魔力を干渉するたびに吸収する。
:プレデターロード ・自身の通った道を通った者のステータスを減少させ、自身が開拓した道を通った者のステータスをさらに減少させる。
:スネークウォーズ ・大量の蛇を隠せる。
:クオリティープランター ・植物が上手く育つ。
存在コスト:1800
再生P:11000P 』
色々言いたいことがある。
これだけは言わせて欲しい。
「倒し方、こわあ……」
怖いよ……。
色々言いたいんだ。
その、難易度どうこうの話ね。
ワーフェンリルの下へ出向いたことは良いんだ。そういうルールを利用して作った階層だから、むしろそれが正しい戦い方だ。
しかし、いかんよ。
休憩地点から入れる、右側の簡単なルートを、あたかも誰かが入ったかのように予め塞いでおくのはいかんよ。
支配した魔物を一箇所に集中的に送り込んで、他から送られたんじゃないかって勘違いさせるのはいかんよ。
合成映像をモニターに映して、やっていないことをやったように見せちゃうのはいかんよ。
オオカミさん達は頑張ってたじゃない。
ワーフェンリルに楽をさせようと、どの休憩地点でも、空いている一番右側には絶対に入らなかったし、魔物を送り込んだりも1回もしなかったじゃない。
そのせいでたくさんダメージを受けて、ワーフェンリルから追加で魔物が送られて、死にかけても送り返さなかったじゃない。回復アイテムを取ったりもしなかったじゃない。
ワーフェンリルがオオカミに対してついた悪態が、モニターを通して筒抜けになってたけど、それでも頑張ってたじゃない。
本当に、色々言いたいんだ。
なのに……。
「倒し方怖い……」
実戦って何……。本番は今だよ。一体誰に使う予定なんだい?
ローズ、一体何をしたんだ……。
「帰ったでー。ってあれ、まだ帰ってきてへんやん。結構のんびりしとった思ったんやけどな」
すると、玉座の間にケナンが戻ってきた。
白に近い緑の髪を左へ流している美女は、先ほどまで激しい戦闘を行っていたとは思えないような風体と、胡散臭い顔をしている。
ケナンは何かを思いついた表情をして、俺の元までやってくると、しな垂れかかってくるように俺の肩に手や顔を置いて、俺が何の映像を見ていたかを確認して、言う。
「うちはほんまはあんなに酷いことでけへんねん。ただあの犬っころがめっちゃわっるい男でな、仕方なかってん。王様なら分かってくれるやろ?」
そんな風に、甘えた声で。
そう言った後は、もう何も言わず、しかしどこにも行かず、たまに俺の耳に息を吹きかけ、王様あ、と語尾に悩ましい音色をつけて呼び、たまに笑って。
「あー……ケナン」
「なんや?」
数秒の沈黙で、顔にほんの少しクエスチョンマークを浮かべたケナンだったが、俺が声をかけた途端、続きを聞かせろとでも言うような目に変わる。
肩にさらなる重みがかかるように、さらにしな垂れかかって。
だから、俺は、こう言った。
「あ、当たり前だろ。最高の戦いだったぜ、ケナン」
この子にあんなことをさせてしまったのは、あんなことをしてやろうと思わせてしまったのは、元を辿れば俺なのだ。俺は全てを受け入れなければいけない。
「クックック。王様はえー男やなあ。なんでやねーん。クックック」
ケナンは俺の答えを聞いて嬉しそうに笑うと、俺の頭を一度スパーンと叩いて、またしな垂れかかってきた。
……こんな、……こんな。
こんな……今、もしかして、ツッコミをしてくれたのか? もしや、ケナン、君もツッコミ志望かい? こっちの世界に来るのかい?
「ただいま帰りました。はあー、案外楽しかったわ。お肌つやつやよ」
「根性帰りましたっ。いやあ、良い勝負だったからか、時間がかかってしまった。ケナン、風呂だっ」
ツッコミ軍に誘おうという画策を、なんでやねーんと一蹴したケナンに、戦闘を終え玉座の間へと帰ってきたエリンとカノンが声をかける。
するとケナンも、俺に別れを告げ、リラックスした表情で2人の方へ向かって行く。
「案外魔物相手も楽しかったわ。そっちは?」
「さあ、風呂で体力回復だっ」
「中々やったでー。楽しかったわ」
「なんか、妙にゴキゲンね。別の要素がありそう、……まあ、貴女は割とチョロイものね」
「そして、ダンジョン踏破だっ」
「えーチョロイか? んなことないやろ、めっちゃガード固いで? 心に貞操帯つけてんで」
「ゆるゆるよ。情に脆い時点でそうでしょ?」
「行くぞーっ」
「……確かに。ちゅーことはつまり、うちは口説かれてたってことやな。……浮気や、報告せな」
3人は、パーソナルスペースなどどこ吹く風とでも言うような距離にまで近づいて、ニコニコ笑ってお喋りしながら、玉座の間から出て行った。
うんうん、勝って良かった。
あんな笑顔が見れるんなら、本当に勝って良かったと思う。
心からそう思います。
ただ、なんだか不穏な言葉が聞こえたぞ? 浮気?
俺は、目の前に出しているいくつかの映像の内、現在戦闘中の干支階層の映像に目を移す。
干支階層への侵入は、時間差で行われているため、エリン、カノン、ケナンの3人は終わってしまったが、残る6人の所はまだまだ終わっていない。
だから俺は――。
「次に見る子は、怖いことしてませんように。憎しみに囚われていませんように」
そう祈って、次の子の戦いを見守る。
それが、まさか叶わない願いだとは、昔から知っていました。
だって家の子、全員怖いもの。
お読み頂きありがとうございます。
0話をいれればついに100話になりました。
ここまでお付き合いいただきまして、ほんとうにありがとうございます。まさかこんなに長くなるとは思っていませんでした。
しかし、実はどちらかと言うと、未だ自己紹介の物語です。エピローグですね。本編が始まっておりません。どうしましょう。
ともかくこれからも頑張ります。
ありがとうございました。




