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第7話 貴女の持ち場は20階層よっ、そこは16階層っ。

ダンジョンマスター格言その7

生きるにはPが必要である。しかし生き残るには高潔さが必要である。

「なんだよ、邪魔するならぶっ飛ばすぞマスター」

「マスターをぶっ飛ばしちゃいけません。マキナよ、あそこの軍隊の強さ、分かるだろう?」


「おう、強そうなやつがたくさんいるな。色んな技を知ってそうだ」

「うむ確かに色んな技を知っているでしょうね。でも今のお前じゃただ殺されるだけだ」

「ああん、なんだと?」

 ……凄いタメ口だな。……尊敬は?


「それに、最終階層のボスであるお前が低階層に出張ると、俺の胃がキリキリするので止めて欲しい」

「それは知らねえ」

 そうか、……尊敬は?


 俺の体調を慮る気が一切ない、最終階層の守護者。

 俺はメンチをきってくるマキナに、熱く語りかける。


「マキナ、君は確かに強くなりました。でもダンジョンだと強さに制限がかかるのだよ」

 そもそも、それでも倒せない奴等がいるから、野生の上級風竜も負けてるんだ。


「もちろんマキナはそれでも強い、でもあっちは2万人近くいて、今まで学んできた技が加わるんだぞ?」

「学ぶチャンスだろ」

「復活にかかるPが多すぎて復活させられないから無理」

 もう残るは5万Pだけだからね。いつの間にこんなに減ったんだろう……。


「それに、今の強さじゃ何も分からない内に倒されるぞ」

「むぅ」


「まずは弱い敵と戦って経験を積むのだマキナよ。その中で自分で考え、最大限に戦える技を身につけるのじゃ。それから同格、格上だ」

「マスター、アタシは竜だぞ。んなチマチマした真似できるかっ」

「格下の敵を尊敬できないなど笑止千万っ。誰からも学ぶ姿勢を保てず、最強を名乗れると思うのかっ」

「ぐぬぬぬぬぬ」


 勢いに乗ったテンションのまま説得していると、なんだかいけそうな雰囲気が出てきた。

 単純だなあこの子。


「じゃあそういうことで、最初の命令だ。今20階層にいる魔物を倒して、そうして、今後ともここに近づいてくる魔物を倒してきて下さい。無理はするなよ? 回復のタイミングもしっかり考えろよ」

「分かったよーじゃあここら辺の奴だけにする」

 良し。

 頬をふくらましぶーたれているが、説得の甲斐あって承諾してくれた。


「えっとどこにいんだー? 色んな方にいるから面倒くせえなー」

 マキナはそう言って、改めて敵を探し始める。

 太陽の光から目を隠すように、手でひさしを作ってキョロキョロと。魔物は森の中にいるため、見え辛いと思うが、マキナにはバッチリ見えているようだ、凄いな。


 諸々の設定を変更していない自然型ダンジョンは、1階層1kmずつコアから円状に広がる。デフォルト設定ってやつですね。

 このダンジョンもまさにその形。

 最終20階層が中央の半径1kmの円で、最初の1階層が19kmから20kmのドーナツ型になっている。


 また、ギミック関連も、現状はデフォルト設定。

 ギミックとは、ボスを倒す、キーアイテムを揃える、等々の条件をクリアしなければ次階層に入れないようにするなどのもの。是非やりたいが、まだアイテムもボスもいないので設定不可。

 今現在は、コアがある最終階層まで、どこからでも侵入できる仕様となってしまっている。


 四方八方から敵が来るのは、確かに面倒そうだ。


 最終階層である20階層も円周は6.28km。

 上級風竜であるマキナの機動力と射程距離は凄まじいが、カバーしていくのも大変だろうし、真ん中に陣取るのだとしても360度全方向を警戒しなきゃならない。


 何より迎撃が遅れるということは、俺との距離が縮まるということだ。

 俺との距離が縮まるということは、俺と天国との距離も縮まるということだ。それはいけません。きっとマキナもそうしないことを考えて、そうするのは大変だなあ、とかそんなことを言ってくれたんだろう。


 マキナが最終階層守護者として君臨する間は、俺に対し、攻撃が届かないようになっているが、怖いものは怖いしな。

 なんて優しい子だ。尊敬してくれてる。嬉しい。


 その気持ちに答えたい。……はっ、そうだっ。


「マップ……の、使用許可とかって出せるのかな」

『200Pを使用し、個体名マキナにマップの使用許可を出します。よろしいですか?』

 お、どうやらいけるようだ。オッケーオッケー。


「マキナ、マップとか言ってみろ」

「あん? マップ。おお、なんかでてきたぞマスター」


「赤色の点が敵な。広げたり狭めたりできるし、点を選択すれば詳細も分かるぞ」

「詳細? ああ、ステータスとか固有とかか。へー、……邪魔だな」


「活かしなさいよ。消すときは、消えろで消える」

「消えろっ、おおー。出ろっ、消えろ。おおー」

 どうやらアホの子で決定のようだ。オッケーオッケー。いやオッケーではないな。

 そんなんじゃ貴女、お父さんは心配よ。


「出ろ。良し、これで敵の居場所もバッチリだ。んじゃあ最強になるため行って来るぜ」

「怪我とかしないようにな。暗くなる前に帰って来るんだぞ。変な奴に騙されないようにな。知らない人に着いて行っちゃダメだよ」


「準備万端っよっしゃー。あ、マスター、帰ったら将棋の続きな」

 盤はもう消え失せちゃったよ貴女、お父さんにまた作れって言うのかい?


 マキナは、白色と水色の美しい竜に姿を変える。荘厳で雄大な、思わず息を飲んでしまう最強の生物。その姿は、暴風と共に消え去った。

「ああっふぁーあああ」

 風が強いと、こんな声出るんだなあ。


「いや本当速いなー。……って20階層から出て行かないでーっ」

 地響きを周囲に伝えるブレスで、ドーンと魔物が大量消滅し、大量のPが入ってくる。


 そこは20階層じゃないよ、16階層よ。やめて、やめてくれえ。

 俺の声も虚しく、惨殺される魔物達。


 高階層に侵入したわけでもない魔物達は、マキナの一撃により粉砕されていく。

 ダンジョンの低階層に、出現するはずもない最強種の一撃、それに耐えられる者など、そこにいるはずなく……。


「プギイィー」

「グギャアー」

「ジュアアアーッ」

 響き渡る断末魔。

『侵入者、力豚種・ビックピッグを倒しました。351Pを獲得しました』

『侵入者、蝙蝠種・アイアンバットを倒しました。120Pを獲得しました』

『侵入者、它蛇種・オセロコブラを倒しました。1407Pを獲得しました』

 鳴り響くP獲得音声。


 やめてくれ、やめてくれ。

 俺のせいじゃない、俺のせいじゃないんだ、マキナが勝手に……。しかしそんなことを言っても、死に行く彼等にはなんの贖罪にも、慰めにもならない。

 安全な場所だったはずのそこは、絶対強者の出現によって、地獄と化した。


 彼等は思うだろう、誰がこんなことをしたのかと。

 彼等は呪うだろう、こんなことをした誰かを。

 悪逆なる誰かを、非道なる誰かを。

 そう、そんな魔物を派遣した、ダンジョンの主、ダンジョンマスターを。


「やめてくれーっ」

「グオオオオオオオーーーーーーーッ」

 しかしやはり、そんな俺の叫びは虚しくも、勝利の雄たけびに塗りつぶされた。


 なんて儚い。

 なんて吐きそう。


 というか階層の出入りが、自由過ぎやしないか。

 普通のダンジョンボスは、階層どころか、指定された自分のエリアからも出られないと思いますよ。ネームドモンスターになったとしても、コストの問題は余計にきつくなるんだから。


 しかし、今気付いたが、最終階層守護者に任命された君が、20階層から出ちゃうと、コアへの攻撃も、ダンジョンマスターへの攻撃も、君が倒される前に届いちゃうようになるよね。


 そんな馬鹿な。

 それが事実だとするならば、魔物が1体、ここに辿り着いただけで俺は死んでしまうではないか。

 なんなら辿り着かなくとも、どこかから飛んできた流れ弾で、死んでしまうではないか。


 あの優しいマキナが、どうしてそんなことを……。

 ……、薄々は、優しくないんじゃないかと思っていたけれど……。


「……、うん、もう1体作ろう」

 俺は、魔物の生成リストを改めて閲覧していく。


 白い部屋で見ていた際には、1ページしかなかった魔物の種族が羅列された生成リストだが、今やその総ページ数は、100を軽く越える。

 徐々に増えたなら、把握もできるが、こんなにも一気に増えられると、目を通すだけでもひと苦労だ。


「全部に目を通すとか、そんな悠長な時間もないし、種族を揃えるか、属性を揃えるかで、見る魔物を少なくしよう」

 そのため、俺はそう思い立ち、100ページを越える生成リストを、ソート機能を使用し、20ページ以下に抑えた。

 これで、大分楽になった。


 それに、この方が、ダンジョンとしても強くなる。


 ダンジョンではダンジョンモンスターの強さに、制限が、要はマイナスの補正がかかってしまう。しかし、反対に、プラスの補正をかけることもできる。

 それの最たるものが、最終階層ダンジョンコアの守護者だ。任命したなら、そのダンジョンモンスターの強さは、膨れ上がるように強くなる。同種族のコモン魔物と比べれば、圧倒的な力を見せることだろう。


 最終階層守護者は、我がダンジョンではマキナのことですね。

 今ちょっとお留守なんですが。


 最終階層守護者は、当然1体のみだが、階層守護者であれば、階層毎に用意可能で、エリアボスであれば、さらにたくさん用意可能である。


 ただ、それは生成する魔物自体には何も関係ない。

 俺がしようとしているのは、また別のプラス補正を与える方法。それは、ボスのような、単体への補正ではなく、集団への補正。なんなら、全てのダンジョンモンスターへの補正である。


 それが、勲章を、授かること。


 勲章を多く授かれば授かる程、ダンジョンモンスターは強化されていくのだ。

 とは言え、勲章の効果は様々で、俺が今まで授かった勲章は数あれど、魔物の能力が上昇するような勲章はそう多くない。


 割合的にもそんなものだろう。

 それゆえに、強化したいのなら、適当な生き方をしていてはいけない。欲しい勲章は狙って授かりに行くために、自身の生き方を、特化させるのだ。

 ダンジョンマスター達に与えられた知識には、基本となるような数種類の勲章のみだが、授かる方法も入っている。


 それが、今実効しようとした方法。

 ダンジョンモンスターの、種族や、属性を揃えるというのは、最も基本的な、魔物強化の勲章を授かる方法だ。

 俺で言えば、マキナに揃えるので全員を、竜や風属性にしたり。

 授かった勲章は、その種族や属性、全てにプラスの補正を与える効果を持つ。1つ1つの勲章は微々たる強化しかしないが、そういった細々とした強化が、ダンジョン運営には欠かせないのだ。


 俺も是非狙っていきたい。

 中でも、1番狙いやすくて効果が大きいのは、ダンジョンマスター自身の種族と揃えることかな?


 そもそもそれが1番安くなっている上に、運用だってラクチン。強さも、一々自分の種族の換算ステータスに変換しなくて済むから、分かり易いしね。

 まあ、ダンジョンじゃ人間生成できないし、俺には無理だけど。


 ……でも、あれさ、竜で揃えれば良いのさ。属性を全て揃えれば良いのさ。

 俺はまず、生成できる竜の一覧を改めて見てみる。


『竜

   上級風竜・・・10000P

   中級竜・・・6000P

   下級竜・・・3000P 』


 他の種族は、一枠に10種以上いるのに、竜は3種。しかも一番安くて、他の種族の最高値の3倍以上。

 えーっと、今5万Pだから、16体生成できるってことか。


 ……これは無理ですわ。

 いくらPがあっても足りない。


 それに、俺だと置けるのは所詮20階層までになるので、勿体ない。

 せっかく強い魔物を置いても、マイナス補正だけが大きくなる。おそらく、種族を揃えたところで得られるプラス補正なぞ、それに比べれば雀の涙だ。


 それでも、弱い種族よりかは強いんだろうけど……。


 竜族ならどうだろう。


『 竜族

   バーストドレイク・・・2000P

   ドレイク・・・1800P

   ハイワイバーン・・・1700P

   トルネードワイバーン・・・1620P

   レッサードレイク・・・1600P

   ワイバーン・・・1500P

   ・・・・

   ・・・

   ・・ 』


 こっちも高いなあ。


 ならば、風の属性か。

 こっちならピンキリあるし、安いのをたくさん生成できるぞ。


 ……あっ。


「揃えたらダメなんじゃないかっ? あの軍隊、上級風竜を倒せるような、対竜、対風の装備持ってるんだ」

 マキナの咆哮や、魔物への攻撃方法で、上級竜がいることも、風の属性だと言うこともバレているだろうし、次の戦いにもそれらは持ってくるはず。


「弱点モロ出しで戦うところだったのか。危ねえ。けど、そしたら竜でも風でも揃えられないのか……。なら、それはもう良いや、気にしないで強そうな魔物を作っていこう」


 俺は、生成リストを再び100ページに戻す。

 多い……。


 が、頑張って絞っていこう。マキナの弱点を埋めるような魔物と考えれば、きっと思い付く。


 マキナの弱点と言えば……、アホな子?


 学習能力は凄いハズだが、性格が単純っぽいところだな。

 じゃあ大人で、力は劣るが卓越した何かを持っている奴が良いか。


「そうなると知能が高い種族……。良し、吸血鬼にしようっ」


『 吸血鬼

   吸血鬼公爵・・・1500P

   吸血鬼伯爵・・・1000P

   吸血鬼貴族・・・600P

   ・・・・

   ・・・

   ・・ 』


 なんと、最大が1500P。他の種族よりは随分強い。


 公爵なので、きっとより上位に、王や始祖? などがいるのだろうが、1500Pとは、最強の部類に含んで良い強さだ。


 俺は早速、生成の項目へ。

 もちろん、ユニーク個体。


『 吸血鬼公爵

   ユニーク

   性別:女性 ・・・0P

   造形:指定無し

   性格:指定無し

   特徴:メイド ・・・0P

   適性:指定無し

   能力値:指定無し 』


 ううーん、どういう感じにしようか悩むなあ。ここまでは既に決定なんだが……。


 造形は人型、それから美人で聡明そうで仕事できそうな感じ? メイドだからな、重要だろう。


 性格はそうだな、冷静で真面目で忠義に厚い感じ?

 マキナみたいにお前を認めねえとか言われたらマズイ、賢いやつに敵対されたら勝てないからね。あとは世話好きとかも必要だろう。


 特徴は……、お、ダンジョン経営知識とかあるんだ。これを持たせよう。あと魔眼と。


 適性は色々。大量に持たせてみよう、なんだか結構持たせられるし。


 能力値も追加追加追加っ。上級竜より種族の格は大分劣るから、強化しまくって丁度良いくらいだろう。


「良し、どうだっ」


『 吸血鬼公爵

   ユニーク

   性別:女性 ・・・0P

   造形:人型 爪短い牙短い 大人 容姿端麗 聡明さに富み笑顔が素敵 クール系ながら佇まいは優しさと癒し溢れる 抜群のプロポーション 異次元の愛しさと異次元の美しさ ・・・3500P 

   性格:冷静で真面目で忠義に厚い 思慮深く淡々としているが優しく世話好き 駄目なところをフォローしいけないことは叱ってくれる ・・・2300P

   特徴:スーパーメイド ダンジョン経営知識 完全無欠の吸血鬼 血の支配者 異質な威圧感 溢れる魅力 神に感謝してしまう魅力 心服の女教皇 良妻賢母 心包む慈愛 完璧な礼儀 心揺れる礼節 ランダム魔眼 ・・・9700P

   適性:棒術 水魔法 光魔法 空間魔法 回復魔法 起床耐性 指揮 察知 思考 算術 学習 教授 教育 運搬 料理 清掃 裁縫 服飾 細工 洗浄 医療 快眠 威圧 神託 手加減 HP吸収 MP吸収 ・・・7000P

   能力値:全能力成長率上昇 ・・・6000P 』


 たっぷりつけてみた。

 マキナは、少ししかつけていないのに各項目10000Pに達したが、この子はこれだけつけても数千で収まる。


 ユニークモンスターに行えるこれらの追加は、魔物の種族によって、無料の幅が決まっており、追加する設定いかんによって、魔物と合う合わないなどから、P消費の高い安いがあるのだが、大元の生成Pが、非常に大きく関係する。

 この子はマキナの10000Pに比べ、1500Pと、元が8分の1くらいであるため、同じだけ追加しても8分の1、ということ。

 厳密には違うが、大体そんなもんだ。


 しかしあれだ。

 マキナの時は、能力値以外、生成P分しかPを振れなかったのに、今は振り放題だったな。……また何か、変な勲章をゲットしてしまったのだろうか、後で確認しておこう。


 悪口じゃありませんように。


「ええっと合計が、1500と、3500と2300と……、30000Pか。まあまあ、そんなもんかな?」

 マキナの半分だなんて、なんて安上がりな子かしら。


『これで生成を開始します。よろしいですか?』


「オッケイ」

 俺は元気良く答えた。


 この子は、俺を守る絶対守護者。

 普段の生活もさることながら、マキナがどこかに行ってしまったときには、最終階層守護者代理となり、そして俺のキリキリする胃を慰めてくれる、心の守護者。

 さらには、ダンジョンの経営アドバイザーであり、これからの部下たちの教育者でもある。


 俺の許可に応じて、黒のような紫のような闇が現れた。


 体がピリピリするくらいの威圧感を持つ闇、マキナの時は周囲が吹き飛ぶ暴風だったので、生成される種族によるエフェクトだろう。マキナが風で、吸血鬼は闇だね。


 迷惑さ、と言うか激しさは、消費したPかな?

 これが倍の威力になったら、コアがまたしてもボコボコになりそうな雰囲気はある。実際、今もコアは微振動を食らっている。ビリビリ言ってる、怖い……。


「おおぉ」


 闇が晴れると、そこには飛びっきりの美女が立っていた。


 パチ、パチ、と何度か瞬きをして、自分の体を確認している美女。魅力溢れる尋常ならざる美女。

 知能の高い種族なので、ネームドモンスターになる前から思考する能力を有しているのか。それにしても綺麗だ。素晴らしい、やっぱり傍に置くんなら落ち着いた大人の美女だよね。

 マキナも美少女だけどさ、怖いし。


「君の名は、セラ。これからよろしく頼む」

 考えておいた名前をつけると、赤と灰色の瞳が俺に合い、そして小さく紅い唇が動く。

「ご主人様」

 凄い、メイドだっ。ご主人様ですって、うひょう、ビバ、メイドっ。


 誰だ異世界の知識にメイドの良さを叩きこんだのは、一体どこの国の民族だね、ありがとうっ。

「ご主人様は馬鹿ですか?」

 ……あれ?


 ……。

 ……。

 ……聞き間違い、かな?


「えっと……セラ?」

「ご主人様、今、私にどれほどのPを御使用になられましたか?」

「P? 30000Pです」

「――3ま……」

 手を額に当てて難しい表情をするセラ。チラリ、と俺の方を見たが、なぜだろう、その目がとても呆れた目のように見える。


 あれえ、なんだかマキナの時と違うような、結局一緒なような。


 俺は、セラの設定内容を思い返す。


 うんうん。

 真面目で忠義に厚くて、優しくて世話好き、駄目なところをフォローしてくれて、時には叱ってくれる良妻賢母。心を包んでくれるような慈愛の心を持っている、パーフェクトメイドだ。


「えーと……セラ?」

「なんでしょうか、ご主人様」


 美しい顔立ち、美しい声、美しいプロポーション、そこから生み出されるそのセリフは、男として一度は言われてみたいセリフ。


 が、しかし。

「お馬鹿なご主人様」

 ……ふ、不具合かな?


 赤と灰色のオッドアイ。

 綺麗な黒髪は後ろでまとめられ、小さな顔をさらに引き締めている。


 透き通るような白い肌、真直ぐと筋の通った細い鼻、小さいがプックリとし肌の白さから際立つ明るい紅い唇。


 体は繊細で細くスラッとしているが、分厚いメイド服の上から出も分かる程の胸の膨らみと腰のくびれ。


 物語に登場するような、黒を貴重とした長いスカートのメイド服がよく似合う、絶世の美女。


「お分かりだと思いますが、Pとは、とても貴重で重要なもの。本来なら、100P稼ぐことすら、命をすり減らして、成しうるものです」

「はい……」


「ご主人様はマキナ様を使役なさっておいでですので、強者を倒すことも無論、可能でしょう、しかしそうであっても、節約すべきものであることは、お分かりになって頂けていることと思います」

「はい……」


「私の本来の消費Pは1500、ですからその20倍。私1人にそれだけPを使うなぞ、正気の沙汰ではありません」

「はい……」


 しかし、俺はそんな美女に、こんこんと怒られている。

 目と目を合わせながらも、決して声を荒らげず、淡々と俺の悪いところだけが羅列されていく。反論の余地もない。

 

「それにこの序盤にメイドが必要でしょうか。家すらありませんが?」

「ごもっともです……」


 確かに現状、家はない。俺の膝小僧に石がめり込むなどの現象も起きてしまっているほどだ。

 見上げる俺、見下ろすセラ。


 ダンジョンマスターとネームドモンスターの構図としては、逆ではないのかと思う。だが現状、覆しようはありませんっ。

 どうしてこんなことにっ。俺のせいだけれどもっ。

 

「ふう。こうやって言っていても仕方ありませんね。ご主人様、私もPに見合った働きができるよう、努力致しますので、以後よろしくお願い致します」

 とはいえセラはやはり大人。マキナのようなわがまま放題ではない。

 自身の置かれた環境を素早く理解し、その中で最善を尽くそうとしてくれる。つまりは俺に尽くそうとしてくれる。


 なんて優しい。


「ではご主人様。これからダンジョンをどうお作りになられるご予定なのでしょう」

 正座する俺と目の高さをあわせ、優しく、心が蕩けそうなくらいの癒される声で、そんな風に語りかけてきたセラ。ああ、これが俺の求めていた癒し。


「ダンジョン経営の知識は、ご主人様の配慮にて、得ておりますので、微力ながら力になれます。今の現状をお教え願えますか?」

「任せてくれ」


 俺は嬉しくなって、ニコリと返事をすると、セラもまた、ニコリと笑ってくれる。

 10万P以上使って、ようやく手に入った……、これが、ダンジョンマスターとしての幸せか。


「今の現状だけど、ああ、マップ権限渡した方が早いな」

「――頂けるのですか?」

「おうよ」


 途端に華やいだ顔をしたセラに、俺は自信満々に頷く。


『200Pを使用し、個体名セラにマップの使用許可を出します。よろしいですか?』

「オッケー」


「ありがとうございますご主人様」

 ダンジョンモンスターにとって、ダンジョンマスターの権能の一部でも与えられる、ということは、とても嬉しいものなのだ。

 俺達はとても良いコンビ。セラが、心から、嬉しそうな表情で笑っているのを見ると、俺もとても嬉しくなる。

 セラは年齢に見合わない、まるで少女のような無垢な笑顔で、たった今、権限を得たマップを使用した。


「……、は?」

「向こうにいる2万人くらいの大軍が、いつかは分からないけど、近々このダンジョンを踏破しにやってくるから、それに対抗できるようにしたいんだよねー」


「……」


 あれ、どうしてだろう、セラ。目が凄く冷たいよ……。

ブックマークありがとうございます。

ダンジョンの存続を目指してこれからも頑張る所存です。


感想や質問等、お待ちしております、また誤字脱字や表現不足等の指摘もよろしくお願い致します。

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