第7話「特訓」
第7話 「特訓」
洞窟の奥から来た道を戻りやっとローシャさんのいる部屋の前の扉まで来た
扉の中で何やら声が聞こえる
「....はよせんと智也が帰って来て....」
ローシャさんのようだ誰かと話しているのだろうか
「ローシャさん戻りました」
扉をノックして声をかける
「あっ智也!中に入って来てええで」
僕は扉を開け中へ入る
「誰かいるんですか?」
ローシャはかぶりを振る
「誰もおらんで今のは独り言や、智也がそろそろ帰って来るんちゃうかと思ってな」
そう言いながらローシャは紅い魔石を手に取って置いてあった木に火をつける
「材料揃ったんやろ?」
「もちろんです」
僕は持って来た材料を手前にあるキッチンのような場所に置く
部屋には料理場にテーブル、本棚にタンスと色々な物が置いてある
「じゃあ今から作るから智也は椅子にでも座って待っといてや」
ローシャは慣れない手つきで宝石キノコを切っている
「手伝いましょうか?」
「じゃあ遠慮なくやってもらおか」
僕は氷の包丁を作り輝き藻を切っていく
その様子を見たローシャは驚いた顔をする
「ちょっと見ない間に随分上達したんやな」
「洞窟で色々大変な目にあったので」
洞窟で起きた出来事をローシャさんと話しながら料理を進めていく
「それにしても智也は料理が上手いんやな」
「両親が小さい頃に亡くなってそれから1人で暮らしてるんです」
「そうだったんか、なんか悪いこと聞いてもうてすまんな」
「いえいえ大丈夫です」
話をしている間にどうやら料理が出来上がったようだ
「これがうちの考えた料理、宝石鍋や!」
見た目はキラキラしていてとても食べ物には見えない、しかも魔石はそのまま入っている
「えっと、魔石も食べるんですか?」
当然というようにローシャがうなづく
「魔力を食べたら強くなれるんちゃう?」
どうやら本人もよく分かっていないようだ
「ローシャは宝石魔術使いだからいいけどキミは食べたらどうなるかわからないよ?」
ユリアが忠告する
「ええやん、一口だけ食べてみ?」
ローシャに押されて青い魔石のかけらを食べる
味についてはノーコメントだが身体に魔力が流れるのを感じる
「上手くいったみたいです」
ローシャは満足気に微笑む
「よかったわ〜、じゃあどんどん食べてな」
その先の記憶は殆ど無い、果たして原因は料理の味か素材かどっちだったのだろうか
「ごちそうさまです」
疲れ果てた声で僕が言う
「美味しく出来てよかったわ、また今度作ったるからな」
僕はなるべく笑顔を保ったまま返事をする
「今度はお返しに僕が作りますよ」
「そっかなら楽しみにしとくで」
食後に隣の小部屋で一息つく
「はー、戦った時よりある意味危なかったかもしれない」
ベットに横になっているとユリアに話しかけられる
「キミは魔力を一体なんだと思ってるの、食べたら強くなるなんて常識外れすぎるよ」
「もしかしたら僕の魔法って魔力をどうにかするものなのかな?」
突然ローシャが扉を開け入ってくる
「多分そうなんやろな、ちょっと来てほしいんやけど大丈夫か?」
突然の来訪にビックリする、どうやら僕のため息は聞こえていなかったようだ
「はい、どこに行くんですか?」
「ちょっと見てもらいたいもんがあってな」
ローシャの後について洞窟を進んで行く、すると先程行った透明な魔石がある場所に出る
「これってさっき僕が魔力を貰った」
「話聞いてこれかと思ったんやけどやっぱりそうやったか、これ本当はうちの隠し部屋の鍵やねん」
ローシャが水晶に手をかざすと水晶が輝き出し僕たちの身体を光が包み込む
目を開けると壁一面に魔石がはびこり地面には宝石が無数に置いてある部屋が見えた
「ローシャここはどこなんだい?」
ユリアが質問する
「ここはうちの宝物庫、宝石の庭と1番近い場所にある洞窟や」
どうやら透明な水晶がある部屋は宝石の庭に1番近いわけではなかったらしい
「宝石魔術でテレポートまで出来るのか」
ユリアが1人で感心している
「それで見てもらいたいのはあれなんやけどな」
ローシャの指差した方向を見ると氷漬けにされた魔獣三匹と炎があった
「これって僕が凍らせた」
「せやで、それでうちが言いたいんはな」
ユリアがローシャの言葉を遮る
「炎がまだ灯っている、いや炎自体が変質しているのか?」
「もう、それはうちのセリフや!」
「えっと、結局これはどうなってるんですか?」
「これは智也が昨日凍らせた炎なんやけどな、まだ燃えとるんよ、正確に言えば氷の炎になっとるいうか、上手く言えへんな」
ローシャがユリアに助けを求める
「炎属性の魔力が氷属性になっているんだ、それも炎としての性質を残したまま属性だけが変化している」
「そや、それが言いたかったんや、それで今度はこっちの魔獣見てほしいんやけどな」
氷漬けになっている魔獣を見るとまるでこちらも見られているような感覚がする
「まだ生きてる」
「そうなんやよ智也を運ぶ前に壊そうと思うたらまだ生きとってな、炎の件もあったし三匹だけ壊さんで持って帰って来たんや」
「つまりキミの魔法の本質は魔力を保ったり変質させる魔法だってことかな」
「古代魔法いわゆるエンシェントスペル言うやつやな」
ローシャがどこからか本を取り出す
「ここの前の所有者が本と関係がある奴でな色んな種類の本が置いてあったんやけどその中に魔法について書いてあるんもあったんや」
ローシャが本をパラパラとめくりあるページを見せてくる
「ここやな」
古代魔法 マジックトランス
魔力を自在に操る魔法、伝承に値する能力である
それは時の水晶の魔力をも制する
「伝承に値するってそんなに凄い魔法なのかな」
いまいち実感が湧かない
「古代魔法なんて久々に聞いたよ、伝承は魔法すらも超える奇跡を起こすものだけど古代魔法は今の魔法では出来ないことが出来るんだ、そう言う意味では伝承に値するのかもね」
どうやらユリアは古代魔法について知っているようだ
「この本に載ってる古代魔法はそれだけじゃないで、他にもあと3つ載っとる」
エンシェントスペル 天恵の光
闇だけを祓い全てを浄化する救済の光
それは伝承の闇すらも浄化する
エンシェントスペル 滅魔の龍炎
魔法を呑み込み滅する古の龍の力
それは龍に認められた者のみが使用出来る
古代魔法 リージョンスフィア
この魔法を纏った者はいかなる魔法も通さない絶対的な守りを手にする
それは魔の神髄である
「古代魔法にも色んな種類があるんですね」
今回の戦争の参加者にも僕以外に古代魔法を使うのもがいるのかもしれない
ローシャが改まった態度でこちらを見てくる
「もし智也の魔法が古代魔法やったら凄いやん、だから今から特訓や!」
「確かにキミはまだ上手く魔法を使えてないみたいだしね、練習は必要だと思うよ」
「練習って何をすればいいのかな」
「普通魔法の練習言うたら実戦やろ」
ローシャが平然と言う
「魔力を変質させる練習なら魔石を使った方がいいんじゃないかな」
ユリアの意見に賛同する
「そうだね、魔石ならこの洞窟に沢山あるし」
実戦しないんか〜とローシャが悲しそうに呟く
「じゃあ練習が終わったら最後に実戦しませんか?」
ローシャの顔が輝く
「そやな!じゃあ練習2日間したら実戦でテストしよか」
晴明さんとの約束もあるし正直2日でも長すぎるくらいだが僕の魔法が古代魔法ならその力を開花させてから戦いに臨んだ方がいいのだろう
「じゃあ早速始めましょうか」
「この部屋はうちの領域外やから宝石の庭でやらん?」
「そうだねここで共鳴したらボク達なんて一瞬で御陀仏だよ」
「せやろ、じゃあ戻ろか」
ローシャが地面に魔法陣を描き始める
「あの魔石は片道だけなんですか?」
「実はあれは元々あったんをうちが偶然見つけただけなんや、それで無属性の魔石に転移の効果を付与したんやよ」
魔石への効果付与、それが出来るのも宝石魔術の力なのだろう
「出来たで、じゃあ行くで<転移魔法-トランス>」
行きと同様身体が光に包まれる
目を開けると目の前に魔石が見えるがそこは最初の魔石があった部屋では無かった
「宝石の庭?」
「一々洞窟から出んのも面倒やろ、宝石の庭にも同じのを作っといたんや、こっちのは宝石やけどな」
「万能の魔法はエレメントだけだと思っていたけど種類だけで言えば宝石魔法の方が段違いなんだな」
ユリアのコメントにローシャが答える
「種類だけやったら負けへんけど一属性の中のバリエーションだったらエレメントの方が圧倒的に上やけどな」
僕は落ちてる魔石を拾って考える
ローシャさんの魔法は魔法を宝石に変える力、僕の魔法は魔力を別の魔力に変える力、やっていることは違えど原理は似ているはずだ
意識を集中させる、右手に炎の魔力を感じるこれを氷の魔力に変えようとする
「やっぱり一回じゃ上手く行くはずないか」
手に持った魔石に変化はない
無意識ながらも一度は成功したのだ練習すればきっと出来るようになるはず
ローシャが何かを思いついたように手を打つ
「爆発した時と同じ状況なら上手くいくんとちゃうか?」
「あのレベルの爆発なんてしたらここ一帯吹き飛ぶんじゃ」
「そこはうちが上手く調整したるから、早速いくで〜」
ローシャの手に2つの紅色の宝石が生み出される
「ちょっとまだ心の準備が、、」
「あの時もそうやったんやろ、なら問題無いはずや」
ローシャの持つ宝石が輝く
「業火よ共鳴せよ<爆炎輝宝-フレアストーン>」
宝石は互いに輝き共鳴している、これは魔物との戦いでローシャが見せた宝石魔法の1つ、少ない宝石で限界を超えた共鳴を起こすものだ
ローシャの手から宝石が放たれ僕との間で爆発する
あの時と同じならやる事は1つだ、爆発を氷漬けにすればいい
「凍り付け!」
爆発に向けて全力で魔法を放つ、そして魔力を変化させるとこだけに集中する
「<マジックトランス氷魔>!」
爆発と氷がぶつかり合い辺り一帯が水蒸気の霧で覆われる
霧が晴れるとそこには凍り付けになり水色に輝く炎があった
「やった成功した!」
「まさかとは思っとったけどほんまに出来てまうとはな、おめでとう智也」
「ありがとうございます、それにしても何で今は成功出来たんだろう」
「智也は追い詰められたら強くなるタイプなんやない?」
「キミ、もう一度魔石の魔力を変質出来るか試してもらえないかい?」
ユリアが割って入る
「今のでコツが掴めた気がするし出来るんじゃ無いかな」
魔石を持ち意識を集中する
「<マジックトランス氷魔>」
だが魔石に変化はない
「あれっ何で出来ないんだろう」
「やっぱりね、今度はその魔石を凍らせてからやってもらえるかい?」
ユリアの指示通り魔石を凍りつかせてからやってみる
「凍り付け<マジックトランス氷魔>!」
今度は魔石の魔力が氷に変化した
「出来た!」
「つまりユリアが言いたいんは魔力を変質させるのには凍らせないとあかんってことなんか?」
「そうだね、おそらくキミの本来の魔法はマジックトランスなんだろう、だけどその魔法自体が何らかの原因で使えなくなっているその代わりに氷の魔法が発現した、そしてマジックトランスは氷の魔法を介さないと効果を発揮出来なくなったんじゃないかな」
ユリアの考察を聞き頭を悩ませる
「つまり僕の魔法は半分封印されてるようなものって事?」
「そうだろうね」
「それでも智也の魔法がわかっただけ収穫はやったんちゃうかな、今後は氷の魔法の練習もせんとあかんってことやろ」
「そうですね、少し練習に付き合ってもらってもいいですか?」
「もちろんや、じゃあ最初はうちが出す宝石を的確に凍らせるなんてどうや?」
「いいですね、早速お願いします!」
その後はローシャさんとの練習を終え洞窟に戻りまた例のご飯を食べた
「ごちそうさまやね、うちはこの後まだやりたい事があるから起きとるけど智也はもう寝るか?」
まだ眠くは無いが魔力の使いすぎで少し疲れているのでゆっくりしたい気分だ
「もう寝ますね」
「じゃあ智也はそっちにある部屋使うてええで」
ローシャが指差した場所は朝休憩していた部屋だった
「そこ使っていいんですか?」
「うちはここで寝るからええで、おやすみな〜」
そう言ってローシャは奥の部屋に入っていった
僕は寝室に行ってベッドに寝っ転がる
今日あった出来事を考えていると意識がベッドに吸い込まれていく
次話「霧の森」
第7話いかがだったでしょうか
本に書いてあった4種の古代魔法、それは智也が何者であるかと関係しているのか、はたまた偶然古代魔法の使い手だっただけなのか
そしてローシャに近づく謎の影、それは混沌の始まりかそれとも希望の光か
では次の物語で
更新は基本作者が朝起きたらします
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