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第九話「常識知らずのエリカとフローラが可愛すぎる件について」

 心地良い眠りから覚めると、エリカとフローラがミノタウロスの素材を回収していた。

 角や牙、爪や魔石等を剥いでいるのだ。


「ラインハルトさん、よく眠れましたか?」

「ああ、体調もすっかり良くなったよ」

「それは良かったです。実はラインハルトさんが眠っていた間、私がリジェネレーションを掛けたんですよ。戦闘で出来た傷も完治していると思います!」

「いつもありがとう、フローラ」


 フローラの頭を撫でる。

 彼女は嬉しそうにたれ目気味の瞳を細めた。

 金色の髪とエメラルド色の瞳が美しく、見ているだけで不思議な嬉しさを覚える。


 これが異性に恋するという事なのだろうか?

 いや、まだ俺達は出会ったばかりだ。

 恋をしているという事ではないだろう。


 サラサラしたフローラの細い髪は驚く程触り心地が良い。

 フローラが恍惚とした表情で俺を見つめている。

 シャツの胸元がはだけており、彼女の豊かな胸の谷間が見える。

 透明感がある白い豊かな胸は、十七歳の童貞を釘付けにするには十分すぎる魅力がある。

 いつまでもこうして見ていたいが、エリカが鋭い目つきで俺を見ている事に気が付いた。


「ラインハルト、私はそろそろ外に出たいぞ」

「そうだね。魔物との戦闘を避けて進めば五日で地上に出られると思う。魔物を狩りながら進んでも七日程度だろう」

「勇者パーティーに居た時は地下七階に降りるまで七日掛かったと言っていたな?」

「そうだよ。まぁ、勇者よりも遥かに強いエリカが居るから危険はないと思うけど」

「ラインハルトをパーティーから追放した愚か者の顔が見てみたいものだ」

「すぐに会わせてあげるよ。俺を放置して帰還するなんて……一発ぶん殴らないと気が済まないからな」


 ダンジョン内に仲間を放置して帰還する勇者なんて聞いた事が無い。

 殺人未遂といっても間違いではないだろう。


 パーティーから仲間を外すという事は別に珍しくはない。

 ただ、魔物が巣食う場所に仲間を放置して自分達だけで帰還する人間は居ない。

 勇者、ミヒャエル・ファッシュの悪行を暴かなければならないな。



 それから俺達は地上を目指して進み続けた。

 エリカが俺を鍛えるためと言って、遭遇した魔物は率先して俺が討伐する事になった。

 流石にブラックドラゴンの戦闘指南は厳しい。

 魔力は日に日に上昇し、黒竜刀と悪魔祓いの盾を使いこなせる様になった。


 途中で闇属性のスケルトンの群れと遭遇したが、フローラがホーリーの魔法で殲滅した。

 闇属性を討つ攻撃魔法として最も有効なホーリーの魔法。

 エリカはスケルトンをいとも簡単に叩き潰した。

 ブラックドラゴンの肉体に戻れる場所では、本来の体で大暴れする。

 そして体の大きさの関係上、人間の姿で過ごす時は俺が魔物を狩る様にしている。


 そんな生活を七日間も続け、俺達は遂に地上に繋がる階段を一気に駆け上がった。

 数十日ぶりに地上に出ると、心地良い春の風が頬を撫でた。


「やっと戻って来られた! 生きてダンジョンを出られたんだ!」

「千年ぶりの地上という訳か。そしてここが人間の街……」

「ラインハルトさん! 私、生まれて初めて外に出たんですよ!」


 ダンジョンの入り口前で思わず大はしゃぎする。

 迷宮都市アドリオンは地下にダンジョンがある都市である。

 都市のあらゆる場所にダンジョンに続く階段がある。

 魔物がダンジョンから出てきてはいけないので、衛兵が常に入り口を監視しているのだ。


 鋼鉄の鎧に身を包んだ二人の衛兵が俺達を不思議そうに見た。

 フローラとエリカという並外れた美少女に見とれているのだろう。


「ラインハルトさん! 人間はあんな小さな家で暮らしているんですね! もっと大きな家で暮らしているのかと思いました!」

「馬鹿だな、これでも随分大きくなった方だ。私が外に居た時代の街はこんなに綺麗じゃなかった。人口も随分多いみたいだしな。たまに街を上空から見下ろして人間の暮らしぶりを監視していたが、千年間で人間の暮らしも随分進歩した様だ」

「そうだったんですね。ラインハルトさん、私とエリカさんは早く料理を食べたいです!」

「そうだね、まずは宿でも取って風呂に入ろうか。綺麗に体を洗ったら服を買いに行くんだ。暫く風呂なんて入ってなかったからね……」

「お風呂ですか? 確か人間はお湯に浸かるんですよね」


 エリカとフローラには人間としての暮らし方を教えなければならない。

 まずは熱い湯に浸かって体を汚れを落としたい。

 風呂なんてずっと入っていなかったのだ。

 途中で石鹸と水の魔石で体を洗ったが、やはり湯船に浸かりたい。


 石畳が敷かれた美しい街をゆっくりと歩く。

 エリカとフローラは不思議そうに街を見上げ、分からない事がある度に質問をする。

 というよりも、フローラは外に出た事が初めてなので、全てが分からないのだ。

 エリカは流石に長く外で暮らしていたからか、人間の社会をよく知っている。


 露店が立ち並ぶ通りに入ると、エリカが目を輝かせた。

 ここは冒険者達がクエストの帰りに立ち寄って食事をする通りなのだ。

 冒険者向けに安くてボリュームがある料理を売る露店が多い。


「ラインハルト! 旨そうな肉の匂いがするぞ! 何かご馳走してくれ!」

「私も早く美味しい物を食べたいです! ラインハルトさん……ここで売られている物はお金があれば買えるんですよね? ラインハルトさんはお金って持っているんですか?」

「ああ。いくらかは持ってるよ」


 俺は財布から1000ゴールドずつ取り出して二人に持たせた。

 二人にはまず買い物を学んで貰おう。


 エリカは焼き鳥の屋台で有り金全て使い果たした。

 フローラはサンドイッチを一つ、それからチーズと乾燥肉を買った。

 フローラはいくらかお金を残した様だ。

 エリカはブラックウルフという魔物の肉を焼いた物を美味しそうに食べている。

 フローラはサンドイッチを裂いて二つに分けると、片方を俺に渡してくれた。


「はい、ラインハルトさん。はんぶんこですよ」

「貰ってもいいの?」

「はい! 一緒に食べるから美味しいんですよ。私は何でもラインハルトさんと共有したいんです。思い出も、経験も、どんな楽しみも……」

「ありがとう、それじゃ頂くよ」


 フローラが可愛らしい笑みを浮かべると、街の男達が一斉に彼女に魅了された。

 腰まで伸びた金髪に透き通る白い肌。

 服は俺のおさがりを着ているが、それでも彼女の美しさははっきりと伝わってくる。

 人間とは異なる魅力を持つフローラに見とれる者は随分多い。


 エリカは一人で焼き鳥を全て食べた事が悲しかったのか、余った串を俺に寄越した。

 それからいつも通り顎をツンと上げて俺を見上げている。

 串があれば十分だろうとでも言いたげな表情だ。


「これから俺が二人にお金を渡したら、俺の事は気にせずに自分達が欲しい物を買っていからね。まずは相場を覚えよう。この露店では冒険者相手にぼったくる店もないし、安心して買い物が出来るよ」


 俺の言葉を聞いた露店達が嬉しそうに頷いた。

 悲しい事に、この街には観光客相手にぼったくる店も多い。

 だが、冒険者相手に商売をしている露天商達は極めて適正な価格で商品を販売している。

 都市を防衛する冒険者相手にペテンを働く者は極めて少ない。


 俺はエリカとフローラが迷子にならない様に手を繋いだ。

 フローラの手からは神聖な魔力を感じ、エリカの手からは強烈な火の魔力を感じる。

 性格も種族も違う二人だが、俺はそんな二人と一緒に居られる事が何よりも嬉しい。


 まずはこれから滞在するための宿を決めなければならない。

 露店が立ち並ぶ通りを抜けた俺達は宿が密集するエリアに入った。

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