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第八話「ミノタウロスを討伐して魔物娘達とスローライフを始めようと思う」

 扉を開けると、俺達を待ち伏せていたミノタウロスが爆発的な咆哮を上げた。

 今回の戦いではエリカはブラックドラゴンの姿には戻らない。

 ミノタウロスの住処は巨体のブラックドラゴンには小さすぎるからだ。


 赤い体毛に包まれた体長三メートルを超える魔物。

 手には両刃の斧を持っており、俺を見降ろしながら不敵な笑みを浮かべている。

 エリカ相手に十日間も戦闘訓練を積んだからか、ミノタウロスに対する恐怖はない。

 激高したエリカに比べればミノタウロスはまだ優しく見える。


 ミノタウロスが両刃の斧を振り下ろした瞬間、俺は咄嗟に後方に飛んで攻撃を避けた。

 黒竜刀に火の魔力を込める。


「エンチャント・ファイア!」


 炎が刀に纏わりつく様に燃え上がると、ミノタウロスもエンチャントを掛けた。

 ミノタウロスが再び斧を振り下ろすと、俺は黒竜刀で攻撃を受けた。


 あまりにも強烈な一撃に思わず膝を着く。

 全身の骨と筋肉が悲鳴を上げている。

 これがBランクの魔物の攻撃力なのか。

 途方もない攻撃力だ。


 膝を着いた瞬間、ミノタウロスが強烈な蹴りを放った。

 咄嗟に盾で攻撃を防御する。

 闇払いの盾が吹き飛び、俺の体がダンジョンの壁に激突した。


 これが勇者すら逃げ出す魔物の力か。

 緊張で体が震え、壁に背中を強打したからか鋭い痛みを感じる。

 人生で経験した事が無い圧倒的な恐怖。


 鼻息を荒くしたミノタウロスが俺を見下ろした。

 まずは離れてしまったフローラの武器化を解除しなければならない。


「フローラ・武装解除!」


 ミノタウロスはまさか盾が人間に変わるとは思ってもみなかったのだろう。

 呆然とフローラを見つめた時、フローラがミノタウロスに両手を向けた。


「ホーリー!」


 ホーリーの魔法は本来なら闇属性を討つ手段として用いる。

 しかし、眩い光で一時的に視界を奪う事も出来る様だ。

 金色の光が雷光のごとく輝きを放つと、ミノタウロスは咄嗟に目を瞑った。


『ラインハルト! 今だ!』

「ヘルファイア!」


 エリカの声が脳内に響くと同時に左手をミノタウロスに向ける。

 禍々しい黒い炎が手から飛び出すと、ミノタウロスの左肩を捉えた。


 強烈な黒い炎がミノタウロスの左半身を焼き尽くす。

 皮膚と筋肉を一瞬で消滅させる常識外れの火力。

 これがブラックドラゴンの固有魔法か……。

 勇者ですら恐れたミノタウロスを一撃でここまで追い込んだのだ。


「最後は剣でとどめを刺す……!」


 ミノタウロスに殺された冒険者も多い。

 ここで俺が引導を渡さなければならない。

 エリカとフローラが誇れる主になるために。

 俺を信じて加護を授けてくれたソロモン王のために……。


 炎を纏わせた黒竜刀を握り、一気にミノタウロスの間合いに飛び込む。

 瞬間、ミノタウロスが右手をフローラに向けた。


「エクスプロージョン!」


 ミノタウロスの固有魔法、エクスプロージョンが炸裂した。

 巨大な炎の球が宙を飛ぶと、俺は咄嗟にフローラを突き飛ばした。


「危ない……!」


 炎の球が体に触れた刹那、耐えがたい激痛が全身を駆け巡った。

 俺は死んだのだろうか……?

 いや、まだかろうじて生きている。

 即死ではないし、肉体の損傷もない。

 強烈すぎる魔法攻撃を受けても即死しないのはソロモン王の加護のお陰だろう。

 ここで形勢逆転出来なければ俺達に未来はない。


「ラインハルトさん! 私のためにミノタウロスの一撃を受けるなんて……」

「フローラは早く逃げろ!」

「嫌です! ラインハルトさんと一緒に居るんです!」

「そんな事言ってる場合か!? 俺は君を死なせたくないんだ!」


 フローラが俺の傍に駆け寄ってくると、両手を俺に向けて聖属性の魔力を放った。

 金色の魔力が俺の体を包み込むと、瞬く間に活力に満ち溢れた。

 これが回復魔法に特化したゴールデンスライムの力か。


「俺がフローラとエリカを守るんだ……!」


 黒竜刀を構えて炎を纏わせ、一気にミノタウロスの懐に飛び込む。

 この一撃に人生を賭ける。

 もう俺は勇者に守られていた頃の俺ではない。

 エリカから戦い方を学び、フローラから回復魔法を学んだ。

 地上に戻り、二人と共に幸せに暮らす未来のために、全力の剣で最強の敵を討つ。


 体内から掻き集めた全魔力を黒竜刀に込め、全身全霊の水平切りを放つ。

 黒竜刀がミノタウロスの皮膚を切り裂き、筋肉と骨を絶った。

 ミノタウロスが咆哮を上げながら地面に倒れると、俺は勝利を実感した。


「勝ったのか……!? Dランクの俺がBランクのミノタウロスを倒したのか!?」

『よくやったな、ラインハルト』

「ありがとう、エリカ、フローラ……」


 すぐにエリカの武器化を解除する。

 エリカは黒竜刀から人間の姿に戻るや否や、大粒の涙を流して俺を見上げた。

 十日間も出来の悪い俺を鍛え続けてくれた。

 俺を信じて人間の体になり、武器になってくれた。

 今ならはっきりと二人がかけがえのない仲間だと理解できる。


 エリカが背伸びをして俺の頬にキスをしてくれた。

 人生で初めて女性からキスをされた。

 フローラは俺を優しく抱きしめてくれた。

 二人の気持ちが何よりも嬉しい。


「何とか勝てたね……」

「よくここまで成長したな、ラインハルト。Dランクのお前がBランクのミノタウロスを討伐するとはな。正直、私もここまで強くなるとは思ってなかったぞ」

「ラインハルトさん、私を守ってくれてありがとうございます……また命を救って貰いましたね。私はこれからもラインハルトさんと一緒に居ます。ラインハルトさんと出会えて本当に嬉しいです!」

「二人共、怪我がなくて良かったよ。少し休んだら魔石と素材を持ち帰ろう」


 全ての魔物は体内に魔石を秘めている。

 市場に出回る事のないミノタウロスの魔石と素材を売り捌けば、一日で大金を作れる。

 魔石は金属に溶かして加工すればマジックアイテムになる。

 分解すれば魔導書作りの素材にもなる。


 魔石には様々な使い方があるが、高ランクの魔物の魔石を求める者は多い。

 魔法道具の専門店や武具屋、魔導書の専門店等。

 買い手はいくらでも居るのだ。


 まずは二人と共に迷宮都市アドリオンでの生活を楽しもう。

 これから俺達の新たな生活が始まるのだ。

 沢山美味しい物を食べさせたいし、綺麗な服を買ってあげたい。

 二人の美しさを引き出す最高の服を買おう。


 勇者パーティーを追放された落ちこぼれのサポーターがソロモン王の秘宝を発見。

 そして仲間と共にBランクのミノタウロスの討伐に成功。

 この快挙は瞬く間に街中に轟くだろう。


「少し魔力と体力を使いすぎたよ。休ませて貰ってもいいかな?」

「はい、ラインハルトさん。今はゆっくり休んで下さい」

「ラインハルト……私を外に出してくれた礼として、私が膝枕をしてやろう」

「そんな……! ラインハルトさんは私の膝で眠るんです! 人間はゴールデンスライムの体に触れていると体力の回復が早まるんですから!」

「それがどうしたのだ? ラインハルトは元々火属性の使い手。生まれた時から私と相性が良いのだ! さぁラインハルト、私の膝の上に頭を乗せるのだ!」

「駄目です! エリカさん! 私の方が早くラインハルトさんと出会ったんですから!」


 こうしていつも通り俺を奪い合う二人を見ていると何だか噴き出してしまう。

 ついさっきまで命懸けでミノタウロスと戦っていた筈なのだが……。


「俺は一人で眠るからね。二人とも喧嘩しないで仲良くするんだよ」

「私達の仲はいいが、フローラがラインハルトを独り占めしようとするのだ!」

「だって……私はラインハルトさんの盾ですから、常に傍に居てラインハルトさんを守るんです!」

「そういう理屈なら私はラインハルトの剣だ。常に傍に居ても良いのだろう?」

「やれやれ……」


 俺はミノタウロスの死体から離れた場所で横になり、目を瞑った。

 半日程休んでからミノタウロスの素材を回収し、地上に向けて出発しよう。

 仲間達との新たな生活を想像していると、俺はいつの間にか眠りに落ちていた……。

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