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第六十九話「第一王女が意外と気さくて話しやすい女性だった件について」

 上機嫌の第一王女とギルドを出ると、市民達が一斉に俺達に注目した。

 果たして隣に居る貧相な男は何者なのだろうと。

 どうしてあんなに普通の男が第一王女と共に居るのかとの声も聞こえている。


 だが俺自身、市民達と全く同じ事を考えている。

 どうしてクラウディア殿下は平民の俺と一緒に食事等に行こうとするのか。


 冒険歴は五年を超えているが、まだBランクに昇格したばかりのサポーター。

 剣士でも魔術師でもなく、冒険者を支えるだけの存在である俺が王女と食事?

 夢でも見ているのだろうか。


 ちなみに、ギルドに到着してすぐに第一王女がギルドカードを更新してくれた。

 小さな銀色のカードにはBランクの文字が明記されている。


 冒険者はBランクを超えるとギルドを設立する権限を得る。

 Bランクはギルドマスタークラスとも呼ばれ、その数は非常に少ない。

 イステルにもアドリオンにもBランクの冒険者は数人しか居なかったのだ。


 大半の冒険者はBランクに昇格するまでに命を落とす。

 それか昇格を諦め、Cランク辺りで冒険者人生を終える。

 Dランクから瞬く間にランクが上がり、遂に俺はギルドマスタークラスまで昇格してしまった。


 だが最高ランクはSランクなのだ。

 まだAランクにもなっていない。

 どうせならSランクを目指して活動しよう。


「クラウディア殿下、私の様な平民と食事をしても大丈夫なのでしょうか? その、殿下の品位を落とす行為ではないのでしょうか?」

「私の品位ですか……むしろ、ソロモン王の加護を授かりし冒険者様と共に食事出来る事を光栄に感じております。シュヴァルツ様はもしかすると、自分に自信がないのではありませんか?」

「まだ自信を持てる程、冒険者として活躍した訳でもありませんので……」

「何を仰っているんですか? シュヴァルツ様はドーマクから木の精霊とシュターナーの村を防衛したではありませんか。それに、イステルではゴブリンロードの襲撃に悩む地域の人々を守るために奮闘したと聞きました。とても私と同い年の冒険者様の活躍とは思えませんでしたよ」

「仲間達の協力のお陰で何とかここまで生きて来られたんです。全て私一人の力で成し遂げた訳ではありません」


 相変わらず俺の手を握り、楽し気に微笑むクラウディア殿下の笑みに思わず胸が高鳴る。

 何と美しい女性なのだろうか。

 しかし、平民の俺とは住む世界が異なる住人との会話に緊張を覚える。


 それから俺達は商業区という区画に入った。

 どうやらここには王都中の商人が集まっている様だ。

 武具の店やマジックアイテムの専門店、魔法の杖の店や、魔導書の店。

 それに魔石だけを取り扱う店もある。

 外から店内を覗き込むと、綺麗に磨かれた色とりどりの魔石が展示されていた。


「シュヴァルツ様と離れ、王都に帰還してからの私は、いつもシュヴァルツ様の事が気になっていました。あなたと言う人は恐らく……とても善良で他人思い、そして騙されやすい方だと思っていました。再会の時をずっと楽しみにしておりました」

「どうしてクラウディア殿下はそこまで私の事を想って下さっていたんですか……?」

「それは……私の人生を、世界を変えてくれる人だと確信しているからです。あらゆる悪魔や魔物を従えた偉大なるソロモン王が唯一指輪と加護を授けた冒険者様ですから」

「冒険者の力で世界を変える事が出来るのでしょうか」

「自分自身の力で民を襲う魔物を狩るだけでも世界は変えられます。勿論、その力が強ければ強い程、シュヴァルツ様が世界に対して与える影響も大きくなるでしょう」

「強さを身に着ければ戦う力を持たない者達がより安全に暮らせる世界を作れると……?」

「はい、私は王族として、一人の冒険者として国民と王国を守るために働いております。どうかこれからも王国に貢献して下さい。シュヴァルツ様にはその力があります」

「お任せ下さい。これからもクラウディア殿下のため、王国のために働くつもりです」


 殿下が俺の手にキスをすると、満面の笑みを浮かべて再び歩き始めた。

 市民の中には殿下に近付こうとする者も多く居るが、不審な人物が接近した瞬間、どこからともなく騎士が現れて殿下を守った。


「クラウディア殿下、こうして私と二人で外を歩いても危険はありませんか?」

「大丈夫ですよ、三人の騎士が常に私を守ってくれていますから」

「アドリオンでは四人の騎士と共に行動されていましたね。今日は三人なんですか?」

「はい。騎士団長のロイにはギルドの仕事を任せているので、ロイを除いた三人が私の警護を担当しているのです。そして今日は特別にシュヴァルツ様も私を守って下さっている……」


 爽やかな笑みを浮かべる殿下の美貌に見とれながら、俺達は一軒のレストランに入った。

 どうやらここは貴族御用達の店らしい。

 希少価値の高い魔物の肉や卵を使った料理が食べられる様だとか。


 メニューには当たり前の様にドラゴンの肉と書かれている。

 何だがエリカの肉が店内にある様で、悲しさがこみ上げてくる。


「この店ではドラゴンの肉も食べられるんですか?」

「はい、地属性のアースドラゴンの肉ですね。王都の北部にはアースドラゴンが巣食う山があるんですが、時折人間を捕食しようと王都を襲撃する事があるんです」

「アースドラゴンの襲撃を受けても王都は耐えられるんですね」

「はい。アースドラゴンはCランクの魔物の中ですし、一般の衛兵でも十分に対処出来ます」

「Cランクのドラゴンが居たんですね。私の仲間のエリカはAランクのブラックドラゴンなので、ドラゴンという魔物は全て高ランクだと思っていました」

「エリカさん……ですか」


 俺がエリカの名前を出した途端、クラウディア殿下は寂しそうに俯いた。

 それから殿下が適当に料理を注文し、テーブルの上には瞬く間に大量の料理が並んだ。


「シュヴァルツ様、今アースドラゴンの肉を切って差し上げますので、少々お待ち下さい」

「いいえ、自分でやりますから……」

「全くシュヴァルツ様は女心が分からないお方ですね。私がシュヴァルツ様のために肉を切りたいのです」

「女心が分からないとはよく言われますよ」


 クラウディア殿下がテーブルの上に乗った巨大な肉塊をナイフでそぎ落とした。

 それからパンの上にアースドラゴンの肉、チーズ、レタス、トマトを乗せ、皿の上に置く。


「初めて殿方のために料理を作ってみたのですが、満足して頂けるでしょうか……」

「クラウディア殿下が用意して下さった物なら何でも嬉しいですよ。それでは頂きます」


 王族特製、アースドラゴンのサンドイッチに齧り付く。

 柔らかな肉とチーズの風味がよく合っており、新鮮なレタスとトマトも旨い。


「殿下に会えるだけではなく、こうして食事まで出来て、今日は本当に幸せな日です」

「私も、シュヴァルツ様と再会出来て心から嬉しいんですよ。シュヴァルツ様がファッシュの悪行を暴いて下さらなかったら、あの忌々しい男が次期国王になっていた筈ですから……」

「奴が国王ですか。ところで、ファッシュ達三人はあれからどうなったんですか?」

「王都に帰還後、殺人未遂の容疑ですぐにファステンバーグ監獄に投獄されましたよ。ファッシュ以外の二人は既に命を落とした様です」

「え? それは何故ですか?」

「実は、脱獄を図って看守を殺害し、監獄から飛び出したところを衛兵に見つかり、衛兵との戦闘で命を落としたと報告を受けております」

「そうでしたか……すみません、食事中にこの様な話をして頂いて」

「本当ですよ。折角再会出来たんですから、シュヴァルツ様の旅の話を聞かせて下さい」


 クラウディア殿下は常に柔和な笑みを浮かべ、時々何故か俺の手に触れている。

 椅子は随分近く、俺のすぐ左隣に座っているのだ。 


 俺が食べ物を口に運ぶたびに、にこやかに微笑みながら俺を見つめている。

 よくフローラが言う「ラインハルトさん……そんなに見つめられては困ります」状態なのだ。


 俺はアドリオンでクラウディア殿下と別れてからの出来事を全て話した。

 アドリオンからイステルに向かう途中で九尾の狐・アナスタシアと出会った事。

 それからイステルでゴブリンロードと酒呑童子の戦に参加した事。

 その後、旅の途中にシュターナーに立ち寄ってベアトリクス率いる軍団と一戦交えた事。


「本当に……シュヴァルツ様は行く先々で争いに巻き込まれる方なんですね」

「巻き込まれるというのか、私自身が問題を解決するために自ら首を突っ込んでいる気がします」

「それがシュヴァルツ様の美徳でもありますね。九尾の狐や酒呑童子だって助ける義理は無かった訳じゃないですか。でもシュヴァルツ様は迫害されていたり、生きづらい思いをしている魔物を救う事を心に誓っていたんですね」

「はい。それがソロモン王から授かった加護の正しい使い方だと思っておりますので」

「やはりシュヴァルツ様は……いいえ、ラインハルト様は私が見込んだ冒険者です。これからもラインハルト様の活躍に期待しておりますよ」

「はい! 殿下のご期待に応えられる様、これからも積極的に魔物との戦いに参加しようと思います」


 食事を終えると、彼女は寂しそうに俺を見つめた。

 ウェーブが掛かった銀色の長い髪をクルクルと指で回し、まるでこの時間が終わる事を寂しがっている様に見える。


 第一王女との食事という夢の様なひと時が終わると、無性に寂しさを感じた。

 せっかく再会出来たのにまた暫く会えなくなるのだ。

 もっと一緒に居たいと感じるのはどうしてだろうか。


 まさか彼女に恋をしている訳でもないだろう。

 平民の俺が第一王女に恋心を抱くとは恐れ多い。


「ラインハルト様、また一緒に食事をして頂けますか?」

「はい、いつでもお供します」

「そうですか! あの……もし良かったら最後に一つだけ質問に答えて欲しい事があるんですが」

「はい、何でも仰って下さい」

「それでは……ラインハルト様は今特定の女性は居ますか?」


 悲しい質問をされてしまった。

 今も昔も交際などは一度もした事が無い。

 彼女居ない歴イコール年齢、残念すぎる非モテの俺にこんな酷な質問をするのか……。

 一体クラウディア殿下は何を考えているのだろうか。


「いいえ……実はまだ一度も恋人が出来た事がありません……」

「そうだったんですね。それは安心しました。という事は、私にもチャンスがあるという事なんですね……!」

「え? 何の話ですか?」

「あ……今のは気にしないで下さい! 兎に角、私はフリーですよ。ラインハルト様」

「は、はぁ……そうですか。クラウディア殿下の様な美貌と社会的地位をお持ちの方なら、きっと素敵な貴族や王族から沢山言い寄られる事でしょう。心配しなくてもファッシュ以上に良い相手が必ず現れると思いますよ」

「いいえ……その必要はありません。私はもう心に決めた人が居ますから……」


 クラウディア殿下が俺を見つめながら、ゆっくりと俺の手に触れた。

 きっと誰か好きな相手が居るのだろう。

 彼女の恋が次こそは良いものになる様に応援したいものだ……。

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