第六十三話「エリカの嫉妬が100%超えそうなので、そろそろ腹を割って話そうと思う」
体にタオルを巻いたエリカと共に湯船に浸かる。
馬車の家の風呂は意外と広いので、仲間達は基本的に一緒に風呂に入る。
俺は時々レーネやエリカと共に風呂に入る事がある。
フローラは恥ずかしいと言って滅多に一緒には入らない。
「ラインハルト……女とイチャイチャしたいなら私とすれば良いだろう? 私では不満なのか? もしかして、胸なのか? お前はギレーヌやアナスタシアの様な巨乳が好きなのか!?」
「エリカとイチャイチャ!? 君は一体何を言ってるんだい?」
「お前は私では満足出来ないのか? 私は他の仲間みたいに優しくもないし、可愛くもないし、戦う事しか知らないが、それでも私は……私はお前の事をいつも想っているぞ!」
「エリカは優しいし可愛いよ」
「か、かかかか可愛い? そ、それは本当か!? 優しい……? お前はまた私をからかっているのではないな!?」
彼女は赤面するや否や、慌てて顔を両手で隠した。
エリカは自分の美貌を知らないのだろう。
街で男とすれ違えば誰もがエリカを凝視する。
時にはナンパする男も居るが、エリカはナンパには一切応じない。
「からかってないよ。エリカは可愛いし優しい。戦う事しか出来ないって言うけど、戦う事以外でもエリカには助けて貰ってるし、これからも一緒に居たいと思うよ。むしろ、エリカの方こそ俺みたいな落ちこぼれで良いの?」
「落ちこぼれ? お前は一体何を言っているんだ? まさか、お前は他人と比較して自分が劣っていると思っているのか?」
「俺はずっと勇者のサポーターをしていたし……特に魔法の才能がある訳でもないし、こんな俺がエリカみたいな高位な魔物と一緒に居て良いのかなって思う時があるんだ」
「馬鹿な事を言うな。私はお前が良いのだ……」
水分を吸ったタオル越しにエリカの豊かな胸が透けて見える。
エリカは自分の容姿に自信がないのだろう。
元々人間として生まれた訳ではないから、人間の美しさというものを知らない。
「私はお前が良い。お前以外の男には興味ない。というか、他の人間には興味がないのだ。以前私は翼を切り落とされたとお前に話したな?」
「ああ、ソロモン王と出会う前の事だよね」
「そうだ……私は同胞を人間に殺され、翼を切り落とされた。確かに以前の私は心底人間が憎かった。皆殺しにしようとも思ってた。だが、ソロモンだけは私に敵意を向けなかった。傷付いた私を癒してくれたのだ。そして私のためを思って壺の中での生活を提供してくれた。あまりにも長い間、私が壺の中で暮らす事になったのは、ソロモン自身が安心して私を任せられる人間が現れなかったからだろう」
彼女は優しい瞳で俺を見つめ、ゆっくりと俺の手を握った。
「ソロモン王はエリカを任せられる人間を見つけられなかった……」
「そうだ。私は永遠にも思える時間を一人で過ごし、孤独の生活を続けているうちに人間に対する怒りも忘れた。今となっては全てソロモンが私の性格を矯正し、憎悪の感情が消えるまでの時間と空間を用意していてくれたと理解している……」
人間に家族や同胞を殺され、翼を切り落とされて飛ぶ事さえ出来なくなった。
そして彼女は千年もの間ソロモンの壺の中で孤独を味わった。
あまりにも長すぎる時間が彼女の性格を変え、彼女自身から憎しみの感情を解き放った。
「私はお前を一目見た時から、お前の中にソロモン王を見出していた。奴も魔物を守るためなら命を捨てる覚悟を持っていた。ちっぽけなお前は私を見ても逃げ出さす、怯えながらもフローラを守ったな」
「あの時は無我夢中だったよ。だけどフローラを守りたいと思ったら、体が勝手に動いたんだ。恐怖よりもフローラを助けたい感情が勝っていた……」
「きっとお前を追放した勇者も、お前がいざという時に最高の力を発揮し、仲間を守るためなら強大な敵にさえも立ち向かえる強さを持っている事に気が付いていたのだろう。そしてお前の力を、お前の才能を伸ばさない様にと、わざと大量の荷物を持たせ、お前自身が落ちこぼれに感じる様に成長を妨げていたのだろう」
「ファッシュが俺の成長を妨げていた……?」
「そうだ。現に私が少し戦い方を教えただけで、お前は飛躍的に戦闘能力が向上した。これはソロモン王から加護を授かっているからという問題ではない。お前自身は本来、戦闘に向いている人間なのだ。全属性の中でも最も破壊力が高い火属性を授かってこの世に生を受けたの意味を考えた事があるか……?」
火属性を授かった意味……。
そんな事は考えた事すらない。
全ての生物は誕生と同時に属性を授かる。
俺が火属性を授かって生まれた意味か。
火属性は防御魔法も少なければ、回復魔法も呪いも無い。
単純に火力に特化しているだけの属性。
「私はケットシーを守るためならデーモンにさえ勝負を挑めるお前の事を落ちこぼれだとは思わない。そして、お前自身が本当に無価値で将来性のない人間なら、ドライアドの様な神聖な精霊が加護を授けたりはしない。お前は本来、勇者の様な民を守る職に就くべき人間なのだ」
「俺が勇者……?」
「そうだ。お前はどういう人生を歩みたいんだ? お前の思い描く未来に私は居るのか……?」
「まだ分からないよ。ファッシュからパーティーを追放されて、目まぐるしく生活が変わっているからね。まずは王都で仲間達と共に暮らせる様に働くつもりだよ。勿論、俺は死ぬまでエリカと共に居るつもりだよ」
「そうかそうか、やはりお前は私が必要という訳か!」
エリカが自慢げに胸を張った。
瞬間、体に巻いていたタオルが外れた。
色白の豊かな胸に思わず目が行く。
エリカは慌ててタオルで体を隠し、頬を染めて俺を見つめた。
ルビー色の瞳には涙を浮かべ、じっと俺を見つめる彼女の美貌に胸が高鳴る。
この胸の高鳴りは決して緊張から来るものではないのだろう。
いつも俺の傍に居てくれるエリカが好きだ。
仲間として好きなのは当然の事。
もしかすると異性として彼女の事が好きなのかもしれない。
「仲間が増えても私だけを見ていてくれるか……?」
「勿論」
「私を好きで居てくれるか? ずっと私の世話をしてくれるか? 毎日私に美味しい物を食べさせてくれるか?」
「ああ、なんでもするよ。エリカのためならね」
「お前は本当に……こういう時だけ恥ずかしい事を当たり前の様に言うんだから……お前という男は全く。これだから私はお前に夢中なのだ……」
「エリカと出会えて良かったと思ってるよ。これからもずっと一緒に居よう」
「そうだな。ラインハルト、お前が居る生活はなかなか面白い。私の専属もちもち係兼サポーターのお前はこれからも私を支えながら生きるのだぞ」
「専属もちもち係ね……」
エリカが俺にもたれかかってくると、彼女は満足気に微笑んだ。
二人きりの時はこうして甘えてくる彼女が愛おしい。
今日はゆっくりとエリカとの時間を過ごす事にしよう……。




