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第六十一話「ヘルガも回復したので、ゆっくり語り合ってお互いの事を知ろうと思う」

 突然エリカが俺の膝の上に座るので、思わず困惑する。

 もしかしてアナスタシアに嫉妬しているのだろうか。


「エリカ……? どうして俺の膝の上に座っているのかな?」

「特に深い意味はない。ただ、女狐が発情している様なので座っているだけなのだ」

「は、発情……!?」

「さっきから黙って見ていれば、私が傍に居ないとすぐに他の女とイチャイチャイチャイチャして、全くラインハルトはとんだ女好きだな! 全くお前はけしからん男だ!」


 イチャイチャというよりは、アナスタシアにからかわれていたのだと思う。

 嫉妬しながらも結局は傍に居てくれるエリカの性格が好きだ。


 戦いの時もいつもエリカは俺に的確なアドバイスをくれる。

 彼女の厳しい戦闘訓練を受け続けていたから今日もデーモン相手に互角に戦えたのだ。


「エリカや、発情した女狐とは何かの……?」

「おいおい、アナスタシア。お前は言葉も理解出来なくなったのか? さっきからラインハルトを独り占めしようとしているではないか」

「独り占め……確かに、出来る事ならラインハルトはわらわだけのものにしたいと思っておるぞ。じゃが、ラインハルトはわらわ達全員の主じゃからの。わらわもラインハルトを独り占めしようとはせん」

「そうだ、よく分かってるではないか。くれぐれも勘違いするなよ? ラインハルトは火属性を持って生まれた。最も相性が良いのは私なのだからな!」

「すぐに嫉妬するお主もまた可愛いの。よしよし、エリカはわらわとラインハルトの仲が良いから嫉妬してしまったのじゃな。良い子じゃ良い子じゃ」


 アナスタシアがエリカの頭を撫でると、エリカは顔を真っ赤にしてエールを一気飲み。

 アナスタシアの手に掛かればエリカも言いなりになってしまうのだ。

 流石に千年生きた妖狐は手ごわいという訳だろう。

 エリカは黙り込んでサイクロプスのステーキを食べ始めた。


「ラインハルト、今日はこの村に泊まるの?」

「そうだね、村に宿があるみたいだから、今日から一週間この村に滞在しようと思うんだけど、皆はどう思う?」


 ギレーヌとの約束もあるので、出来る事ならシュターナーで骨休めしたいと思う。


「私は別に構わないぞ」

「わらわもじゃ。何だかケットシー達を見ていると心が和む様じゃ。きっとわらわに近い生物だからじゃの」

「レーネはずっとこの村に居ても良いよ! だってシュルスクが食べ放題なんだもん。それに、ケットシーって可愛いし」


 三人ともシュターナーを気に入った様だ。

 ギレーヌは俺達の会話を聞いていたのか、ウィンクと共にサムズアップのポーズ。


 フローラは宴の会場で忙しく料理を運んでいる。

 どうやら彼女もシュターナーが気に入った様だ。


「私はラインハルトさんと一緒ならどこでも構いません……」


 と言って恥ずかしそうに去って行った。

 それから暫くシーク酒を飲み続けていると、遂に熊鍋が完成した。


 どうやら子供達は遊び疲れたのだろう。

 フローラやギレーヌの膝に頭を乗せて眠っている。

 ギレーヌはそんな子供達を抱き上げ、家に送りに行った。

 やはりギレーヌもアナスタシアと同様に面倒見が良いのだろう。

 流石にオーガ達を従えていただけの事はある。

 鬼らしい? 口調からは考えられない程、他人思いの優しい女性なのだ。


 子供達を家に帰すと、改めて大人だけでゆっくりと語り合う事にした。

 完成した熊鍋を食べていると、ドライアドが俺の隣に座った。


 改めて彼女を見ていると、普通の年上の女性にしか見えない。

 身長百五十センチ程、緑色の鮮やかな髪にエメラルドの瞳。

 長く伸びた髪はリボンで結んでポニーテールにしている。

 彼女はすっかり酔いが回っているのか、俺にもたれかかって熊鍋を食べている。


「ラインハルト・シュヴァルツ。お前は誠に不思議な男だ。人間がイフリートに変化出来るのだからな……」

「俺もいつも不思議に思ってますよ。どうしてイフリートに変化出来るのかと」

「恐らく、ラインハルトが高位の精霊の姿を借りられるのは、創造神イリスがラインハルトなら精霊として民を守る事が出来る、と判断したからに違いない」

「それは九尾の狐であるアナスタシアも同じ事を言っていました」

「九尾の狐、ブラックドラゴン、酒呑童子、ゴールデンスライム等、通常の人間では従える事が困難な魔物をよく手懐けたものだな。ソロモン王と創造神イリスはラインハルトに人類の未来を託しているのだろうか……」

「仲間達の主として相応しい男になりたいものです」


 ドライアドは柔らかい笑みを浮かべて俺の頭に手を置いた。

 暖かい魔力が体内に流れ込み、不思議な心地良さを感じる。


「私は以前から、高い知能を持つ生物は使命を持って生まれると考えている。ラインハルト・シュヴァルツという男はサポーターとして五年間下積み生活を送り、遂に使命に目覚めたという訳だろう」

「ソロモン王から指輪を授かり、俺は魔物と会話する力や、魔物を封印する力を手に入れました。この力は迫害されている魔物のために使おうと思っていた時、イフリートの姿に変化出来たのです」

「イフリートとして王都で民を守りながら暮らすのだ。お前にはその力がある。私の加護もきっと上手く使いこなせる筈だ。お前との今日の出会い、私の長い人生の中で大切な思い出になった」


 ドライアドがシーク酒を飲み干すと、俺はすぐにお酒を注いだ。


「またこの村に遊びに来ても良いですか?」

「いつでも来るが良い。私には寿命の概念はないからな。私が宿るシュルスクの大木が枯れない限りは生き続ける。何か人生で困った事があれば相談に来るが良い。私はこの土地から移動する事は出来ないが、離れていてもお前の事を想っているぞ……」


 ドライアドが俺を優しく抱きしめてくると、俺は何故か涙が溢れてきた。

 人間を守る存在である精霊が俺を認めてくれているのだ。


 また今日も新しい力を手に入れた。

 木の精霊・ドライアドの加護である生命の加護。

 新たな力を授かる度に、この力で魔物娘達を幸せにしてやりたいと思う。


 ドライアドは席を立ち、今度はエリカの隣に座った。

 きっと彼女は俺達パーティーの事をよく知ろうとしてくれているのだろう。


 ヘルガが恥ずかしそうに近付いてくると、俺の隣の席に座った。

 白い体毛に青い瞳。

 身長はエステルよりも低い。

 百三十センチ程だろう。


「ラインハルトさん、私はラインハルトさんが居なければ今頃命を落としていました。この恩はどうやって返せば良いですか?」

「恩だなんて思わないでくれよ。俺は当たり前の事をしただけなんだし」

「ラインハルト・シュヴァルツという冒険者の名は知っていましたが、まさか無償で我々を救って下さるとは思いませんでした。本当に欲の無いお方なんですね」

「俺はいつも魔物達に救われて生きているからね。だから俺は魔物を救うのは当然の事だと思ってるよ」

「そうですか……ラインハルトさん、一つお願いがあるんですが……」

「何でも言ってごらん、ヘルガ」


 彼女は白いフワフワした尻尾を振りながら猫目の瞳で俺を見つめた。

 それから小さな手を俺の左手の上に置くと、決心した様な表情を浮かべた……。

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