第六話「ブラックドラゴンとゴールデンスライムのハーレムパーティーが最高すぎる件について」
早速ペペロンチーノの用意を始めよう。
フライパンにスライスしたニンニクとオリーブオイルを入れて加熱する。
フローラが茹でてくれた麺をフライパンに入れ、オイルと絡める。
それから皿にスパゲッティを移し、塩と唐辛子と黒コショウを振りかける。
暫く混ぜてから一本だけ試食する。
オリーブオイルの風味と程良い塩の味。
唐辛子と黒コショウが風味を引き出している。
「完成だよ。さぁ食べてみてくれ。フローラはもう一人で食べられるね」
「はい、私は大丈夫ですよ」
「わ……私も一人で食べられるわ!」
「本当?」
「私を誰だと思っているのだ!? Aランクのブラックドラゴンだぞ!? 私に出来ない事はない!」
エリカは強がってみせてから、おもむろにスパゲッティを手で掴んだ。
それから口を限界まで大きく開き、一気にスパゲッティを口に入れた。
あまりにも豪快なドラゴンらしい食事風景に驚きと嬉しさを感じる。
こんなに嬉しそうに料理を食べてくれる人は今まで両親以外に居なかったからだ。
「旨い……! これがペペロンチーノか。ところでフローラ、お前はどうして金属の先端に麺を刺しているんだ?」
「エリカさん、スパゲッティはこうやって食べるんですよ」
「馬鹿な! どうして食事にそんな物を使わなければならないのだ!」
エリカは顎をツンと上げ、自分の考えが正しいと言わんばかりの表情を浮かべた。
俺はエリカのためにフォークに麺を巻くと、彼女は頬を染めて俺を見つめた。
「わ……私に食べさせてくれるのか……?」
「ああ。口を開けてごらん」
「人間は誰にでもこうやって他人に食べ物を食べさせるのか?」
「そんな事はないよ」
「それでは、特別な相手にのみ食事を食べさせるという事だな?」
「そうだね。エリカは俺にとって特別だよ。俺を信じて武器に変化してくれたんだから」
「特別? ずっと私に尽くすと誓うか?」
「ああ。さっき誓ったじゃないか」
「本当に本当だな? 一生私に尽くすのだな? 約束だな……?」
「本当の本当、約束だよ」
エリカは顔を紅潮させ、ルビー色の澄んだ瞳に涙を浮かべた。
それから上目遣いで俺を見上げると、ゆっくりと口を開いた。
彼女の目つきと口の開き方が妙に色っぽく、思わず胸が高鳴る。
ゆっくりとエリカの口の中にフォークを入れる。
エリカは俺を見つめながら微笑み、フォークから麺を引き抜いた。
彼女の唇にソースが付いていたので、ナプキンで綺麗に拭き取る。
エリカは恥ずかしそうに俺を見つめながら口をもぞもぞと動かして麺を噛んでいる。
強がりだが甘えん坊の性格が何とも可愛らしい。
「ラインハルトさん! 私にも食べさせて下さい!」
「フローラはもう一人で食べられるでしょう?」
「食べられません! フォークなんて使えません!」
フローラはそう言うと、わざとらしくフォークを落とした。
それから瞳をうるうるとさせ、チワワ的な表情で俺を見つめた。
フローラは人生で出会ったどんな女性よりも美しい。
彼女と視線が合うと思わず恥ずかしくなる。
「やれやれ……」
「あ、ちょっと待って下さい! 私をゴールデンスライムに戻して下さい」
「どうしたの? 急に」
「私に考えがあるんです」
「わかったよ。フローラ・封印解除」
フローラが人間から小さな金色のスライムに戻ると、俺はフローラを抱き上げた。
体長二十五センチ程。
プルプルした柔らかいゴールデンスライムは見ているだけで心が和む。
「私を膝の上に乗せて下さい」
「こうすればいいの?」
「はい! そのまま私にもペペロンチーノを食べさせて下さい」
フローラが俺の膝に乗った瞬間、エリカが頬を膨らませた。
「ど、どどどどうしてフローラだけラインハルトの膝の上に乗っているのだ!」
「まぁまぁ、エリカの方が大人なんだから大目に見てあげてよ」
「それはそうだ! 私はブラックドラゴンだからな! スライムなんかよりも遥かに寿命が長いのだからな! まぁ……私が大人だから大目に見てやろう! べ、別に羨ましくなんてないんだからなっ!」
エリカは顎を突き上げて自慢げにフローラを見下ろした。
それから俺は小さなゴールデンスライムにペペロンチーノを食べさせた。
半透明な体の中にスパゲッティが吸収されてゆく。
何とも不思議な食事風景だ。
「フローラが食べ終わったら次は私も膝の上に乗るぞ! さぁ私を元の姿に戻すのだ!」
「いや……ブラックドラゴンに乗られたら死ぬから」
「顔だけだ!」
「顔だけでも無理だよ。君は俺には大きすぎるからね」
「じゃあ……今の私のままでいいわ……私をラインハルトの上に乗せてくれ……」
エリカが恥ずかしそうに俺を見つめるので、俺は仕方がなく彼女を膝の上に乗せた。
体重は意外にも軽い。
ブラックドラゴンの時は体長五メートルを超える立派な肉体をしていたのだが。
人間の姿でフローラに嫉妬するエリカもまた可愛らしい。
「なかなか座り心地が良いな……暫くお前の上に乗っていてやろう……」
「はいはい、好きなだけどうぞ」
「駄目です! ラインハルトさんの膝には私が座るんです! 大きさ的にも私が丁度良いんです!」
「何を言っているのだ? 人間の時は私の方が体が小さいだろう? 私の方がラインハルトの体に合っているという事なのだ」
「な……私だって元の姿に戻ればラインハルトさんの体に丁度良い大きさになります!」
人間に戻ったフローラが俺からエリカを引き離した。
それから二人はどちらが俺の膝の上に座るか言い争っていた。
部屋の外にはミノタウロスが居る事も忘れ、俺達は楽しいひと時を過ごした。
俺が求めていたのは二人の様な陽気な仲間だったのかもしれない。
弱い俺を、ありのままの俺を受け入れてくれる。
そして俺の料理を喜んで食べてくれる。
こんな仲間が欲しかった。
「二人と出会えて良かったよ。これからも美味しい物を食べさせてあげるからね」
「はい! 私もラインハルトさんと出会えて良かったです!」
「うむ。私のために毎日旨い料理を作るのだぞ」
「だけど、ミノタウロスが外に居るからここから出る訳にもいかないんだ……どうすればいいと思う?」
「ミノタウロス? あの牛なのか人間なのかよく分からん半端者の事か?」
「Bランクの魔物が半端者って……そうだよ。この部屋の外でミノタウロスが待ち伏せしているんだ」
「それなら私を使って倒せば良いだろう?」
「そんな……俺がミノタウロスに勝てる訳ないよ」
「挑戦する前から敗者の思考をしているな。確かに今のラインハルトでは決してミノタウロスを倒す事は出来ないだろう。だが、私がラインハルトを鍛えればミノタウロス程度の魔物は瞬殺出来る様になるぞ」
「それは本当か!?」
「ああ、勿論だとも」
エリカが俺の頭に手を置くと、彼女の強烈な魔力が俺の体内に流れ込んできた。
エリカにミノタウロスを仕留めて貰うという手もある。
だが、俺はやっと強くなる機会を得たのだ。
なるべくなら自分の力でミノタウロスを狩りたい。
強くなって勇者を一発ぶん殴る。
ダンジョン内でパーティーから追放するという事は殺人に等しい行為だ。
国王陛下が勇者の悪行を事を知ったら、きっと勇者の称号をはく奪するだろう。
「食料はあとどれくらい残っているんだ?」
「切り詰めれば十七日分くらいかな。地上に戻るまでに七日掛かるとしても、ここには最長で十日しか居られないよ」
「分かった。それなら十日でヘルファイアをマスターするのだ。ブラックドラゴンのみが扱える炎でミノタウロスを黒焦げにしてやろう」
「十日でAランクのブラックドラゴンの固有魔法をマスター!?」
「旨い料理の礼だ。私が徹底的に鍛えてやる。だから……地上に戻ったら最高の服と最高の料理で私をもてなすのだぞ……良いな? 私に尽くすのなら私がラインハルトに戦い方を教える」
「ああ。自分の召喚獣に尽くすのは主の役目でもあるからね」
フローラは俺の膝の上からエリカを引き離し、再び膝の上に座った。
視線を落とせばシャツの襟首から彼女の豊かな谷間が見える。
透き通る色白の胸は不思議と人間を魅了する力がある様だ。
ノーブラの大きすぎる胸の谷間に釘付けになる。
視線を外そうとしても、彼女の谷間を見続けている自分が恥ずかしい。
十七歳童貞には刺激的すぎるが、今まで勇者の奴隷の様に働いていたのだ。
やっと訪れた青春を謳歌しよう。
「私も応援しています! 三人で地上に出ましょう!」
「そうだな……やってみるか! 十日でヘルファイアの使いなせる様になる! ミノタウロスを倒して素材と魔石を持ち帰れば、最低でも100万ゴールドにはなるだろう! それに、討伐報酬まで貰えるんだ!」
「100万ゴールドとは多い方なのか?」
「ああ。さっき食べたペペロンチーノを店で食べると大体1000ゴールドなんだ」
「ペペロンチーノが1000ゴールドで、ミノタウロスを倒せば100万ゴールド!? 私が好きなペペロンチーノが何度でも食べられるという訳だな!?」
「そうだよ。きな粉餅でもペペロンチーノでも、ミネストローネでも何でも食べられるよ!」
「ますますやる気が出てきた……! すぐに訓練を始めるぞ!」
エリカとフローラはやる気に満ちた表情で俺を見つめた。
二人が居れば頑張れる気がする。
勇者パーティーを追放されたDランクのサポーターがBランクのミノタウロスに挑む。
最高のシチュエーションじゃないか。
圧倒的な力でミノタウロスを討伐して勇者を超える冒険者になってみせる。
早速魔法の訓練を始めるとしよう……。






