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第五十九話「ケットシーの村を救ったらとんでもない加護を授かった件について」

 村長の屋敷に入ると、一仕事終えたケットシー達が近付いてきた。

 視界には一斉にステータスが浮かぶ。

 どのケットシーの好感度も20パーセントを上回っている様だ。


 人間の俺が村に居る事が不思議なのか、ケットシー達は嬉しそうに俺の体を触っている。

 モフモフした小さな手で俺の顔や手に触れ、無邪気に微笑んでいるのだ。

 なんと可愛らしい村だろうか。


「ラインハルト・シュヴァルツ様。今回は私達の村を救って下さり、誠にありがとうございました」

「いいえ、お役に立てて光栄です」

「私はシュターナーの村長、エルフリーデと申します。シュヴァルツ様のお陰でヘルガもこの通り意識を取り戻しました」


 小さな白猫がエルフリーデ村長の背後に隠れている。

 人間に慣れていないから警戒しているのだろう。


「ヘルガ、怪我はない?」

「はい……大丈夫です……」


 警戒しながら俺の問い返事をする。

 二足歩行していなければ本物の猫にしか見えないので、何だか不思議な気分だ。


 それからケットシー達はテーブルに料理を並べ、シーク酒を渡してくれた。

 キラービーの蜜から作り上げた蜂蜜酒にシュルスクを付けて甘みを足したシーク酒。

 琥珀色の液体の中に小さな赤い果実が浮いており、香りもまた豊潤で良い。


 レーネはシーク酒に興味津々といった様子だ。

 レーネは普段、お酒は一切飲まないが、今日はお酒に挑戦してみるつもりなのだろう。


 ギレーヌはシーク酒のボトルを抱え、宴の始まりを楽しそうに待っている。

 ドライアドがゴブレットを持ちながら俺を見つめ、傍に来る様にと手招きをした。


「ラインハルト・シュヴァルツ。イフリートの化身でありながら冒険者としてケットシー族を守りし者よ。見ず知らずのケットシーを助けるだけではなく、私の命まで救ってくれたな」


 二十歳程の美少女が俺を見上げながら微笑んでいる。

 人間にしか見えないが、彼女の木の精霊なのだ。


 よく見てみると彼女の肉体を緑色の魔力が覆っている事が分かる。

 恐らくシュターナーの土地の魔力に守られているのだろう。

 ドライアドは大地から魔力を吸収する事が出来る。

 勿論、ドライアド自身が宿るシュルスク木からも魔力を受け取る事が出来る。


「お前達が今日シュターナーを訪れなかったら、私達は皆命を落としていただろう。私は木の精霊としてラインハルト・シュヴァルツに生命の加護を授ける」

「ドライアドの加護……?」

「そうだ。手をこちらに」


 右手を差し出すと、彼女は跪いてキスをした。

 瞬間、俺の肉体にドライアドの魔力が流れ始めた。

 肉体を覆う様に緑色の光が発生して辺りを鮮やかに照らしている。


 封印以外で加護を授かるのはソロモン王の加護以来だ。

 体に蓄積されていた疲れは取れ、まるで生まれ変わったかの様に気分は爽快だ。


「私はめったに人間には加護を授けない。人間とは共に殺し合い、だまし合い、傷つけ合い、損得でしか動けない生物だと思っているからだ。だが、お前は見ず知らずのエステルを救い、私達全員を救ってくれた。今ならソロモン王がお前に加護を授けた理由もはっきり分かるぞ……きっとお前は迫害されている魔物を守る事が出来る男なのだろうな」


 ドライアドが立ち上がって満面の笑みを浮かべた。

 視界にはステータスが映る。


『Lv.75 Bランク・ドライアド 好感度:70%』


 やけに好感度が高いのは俺に対する評価が高いからだろう。

 やはりケットシー達を救った事は間違いではなかった。


「これが……生命の加護?」

「そうだ。魔法防御力と魔法陣の効果を上昇させ、森林地帯での魔力回復速度を高める。シュターナーの土や木々もラインハルトを受け入れている様だ。大地がラインハルトに魔力を供給している。この地を守り抜いたラインハルトを歓迎しているのだろうな」


 肉体には使い切れない程の魔力を感じる。

 まるでグラスから水が溢れる様な、常に魔力が回復して零れ落ちる感覚だ。


 既に俺はソロモンの指輪の効果により魔力回復速度が上昇している。

 そして、アナスタシアを武装すれば、妖狐の魔装でも魔力回復速度を高める事が出来る。

 もしかすると、今の俺は魔法を使用した瞬間に魔力が全回復するのではないだろうか。


「ラインハルト・シュヴァルツのパーティーとケットシー族の友好に乾杯!」


 ドライアドがゴブレットを掲げると、俺は一気にシーク酒を飲み干した。

 蜜の香りと、シュルスクの酸味と柔らかいが心地良い。

 これは何杯でも飲めそうだ。


 アルコール度数は10パーセントらしい。

 決して甘ったるい感じではなく、シュルスク特有の清涼感が爽快だ。


 エリカが一度村長の家を出ると、ブラックベアを解体して肉を運んできた。

 ギレーヌもエリカを手伝い、大量の肉を厨房に運び入れる。

 まさか、今日の宴でも熊鍋を食べようと言うのだろうか。


「ラインハルト! 熊鍋を作ってくれ! それから、ミネストローネも頼む。久しぶりにお前のミネストローネが飲みたいのだ!」

「そうだな、あたしもエリカと同感だ。熊鍋を食いながらシーク酒を浴びる程飲んでやる」

「やれやれ……熊鍋は時間が掛かるからすぐには出来ないよ」

「急いでいる訳じゃないからな。ラインハルト、あたしは一週間酒を飲み続けると言っただろう? だからお前さんがあたしのために肴を作るんだ。サイクロプスの肉もあるからステーキにしてくれ」

「そいつはいい考えだ!」


 エリカが相槌を打ってギレーヌを見上げた。

 二人とも戦闘中に獰猛になる所が良く似ている。


 パーティーで性格が近いのは、レーネとフローラ。

 ギレーヌとエリカ。

 俺とアナスタシアだろうか。


 基本的にアナスタシアとフローラは誰とでも合わせる事が出来る。

 反対に、エリカとギレーヌは空気を読まない。

 だが、そういう性格も魅力的だと思う。


 レーネは常に自分のペースを乱さない。

 そして物静かに俺の傍に居てくれる。

 そういう彼女はフローラやアナスタシアと居る時間が楽しい様だ。


 性格も種族も異なる仲間達に支えられ、今日も何とか勝利を収める事が出来た。

 やはり仕事の後の酒は格別だ。

 シーク酒を飲みながら厨房に立つと、ケットシー達が俺を静止した。


「ラインハルトさんは今日の主役なんですから、料理なんてせずにお酒でも飲んで下さい!」

「そうです! どうしてラインハルトさんが料理をするんです?」


 二本の足で立つ小さな猫達が俺を見上げると、思わず俺は抱きしめたくなった。

 俺は決してケモナーではないが、猫や犬は好きだ。

 そして最近は狐も好きになりつつある……。


「ラインハルトや、わらわも手伝うぞい」

「ありがとう、アナスタシア」

「ラインハルトさん! 私も料理を手伝いますよ」

「それじゃ、フローラはサイクロプスのステーキを任せても良いかな? アナスタシアはミネストローネの用意を頼むよ」

「任せるのじゃ」

「はい! 私、ラインハルトさんと料理するのが大好きなので、何でも手伝いますよ」

「ありがとう、二人とも。いつも助かってるよ」


 俺は二人の頭を撫でると、アナスタシアが上目遣いで俺を見つめた。

 何度見ても透き通る赤と緑の瞳は美しい。

 いつも柔和な表情を浮かべ、時には幼い仲間達を優しく叱る彼女は魅力に溢れている。


 それから俺達は早速仲間達のために料理を始める事にした……。

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