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第五十八話「デーモンが予想以上に話の分かる魔物だったので、協力して真犯人を逮捕しようと思う」

 デーモンとの戦闘を何とか乗り切ると、彼女は俺達に歩み寄ってきた。


「私は人間の依頼でドライアドの殺害を遂行しようとしていた……だが、サイクロプスさえも退けられる魔法の使い手の存在も、馬に乗った狂人の様な女との対決も依頼主からは聞いていない」

「という事は、君はこの村から手を引いてくれるのか?」

「当たり前だ! 私の本気の魔法を受け止める人間と命懸けで戦うなんてまっぴらごめんだからな。そうだ、私に依頼したい仕事があれば何でも言ってくれ。これが私の名刺だ」


 と言って彼女は小さな名刺を寄越した。


『Lv.65 Bランク・デーモン ベアトリクス』

 属性:【闇】

 魔法:ダーク エンチャント・ダーク ブラッドクロス ドレイン 死の呪い


〈仕事の依頼をご希望の方は名刺に魔力を込めて下さい。二十四時間以内に急行します。仕事内容は殺人、誘拐、略奪等。基本的に何でも致します。依頼料は100万ゴールドから(ただし、討伐対象はBランクまでに限る)〉


「随分几帳面なデーモンなんだな」

「デーモンと呼ぶな。私の名前はベアトリクスだ」

「ごめんごめん、俺は冒険者ギルド・レッドストーン所属、Cランクのサポーター、ラインハルト・シュヴァルだ」

「うむ。ラインハルト・シュヴァルツか。よろしく頼むぞ」


 ベアトリクスが握手を求めると、俺は彼女の手を握った。

 俺達のやり取りを見ていたケットシー達は思わず吹き出してしまった様だ。

 楽し気な笑い声が聞こえてくると、ギレーヌが駆け付けてきた。


「おいおい、ラインハルト。一体どうなってるんだ? ブラックベアもサイクロプスをあたしを恐れて逃げ出したのか?」

「いや、ブラックベアとサイクロプスはベアトリクスの指示で退却したんだ」

「ベアトリクスねぇ……また変な奴が出てきたな。おいデーモンよ、あたしのラインハルトに対して攻撃を仕掛けて、このままで逃げられるとでも思ってるのか?」


 ギレーヌがベアトリクスを睨みつけると、彼女は正座をして両手を膝の上に乗せた。


「大変失礼しました……私は争うつもりはありませんので、どうかお見逃し下さい」


 ベアトリクスが土下座をすると、ギレーヌは退屈そうにウィスキーを呷った。


「つまんねぇ奴だな。闇属性の魔物にここまで素直な奴が居るとは思ってもみなかったぞ」

「私は金にならない事には一切興味が無いんでね」


 ドライアドがヘルガの呪いを解くと、ケットシー達が歓喜の声を上げた。

 それからドライアドは再び聖域の魔法陣を村の外に描いた。


 それからアナスタシアは村の外周に石の壁を建てた。

 木の柵では防御力が低いので、今回の様な緊急事態には魔物の攻撃を防ぎ切れない。


 俺はベアトリクスの依頼主を聞き出し、今回の事件の犯人を教えて貰う事にした。

 ベアトリクス自身は依頼主の命令によって村を攻撃していただけだ。

 ケットシー達の中にはベアトリクスを批判する者も居る。


 だが、デーモンという魔物は他者との契約に従って仕事をするだけの悪魔である。

 ベアトリクスに対して愚痴を言う者も居るが、攻撃まではしない。

 勿論、ケットシーが攻撃を仕掛けてもベアトリクスは倒せないだろう。


「ベアトリクス、君にドライアドの殺害を依頼した人間の名前を教えてくれないか?」

「本来なら依頼主の名は死んでも明かさない。だが、今回は特別に教えてやろう。私も奴等の不手際によってお前と戦う事になったしな。名前はカイ・ユルゲン。何のためにドライアドの討伐を目論んでいたかは不明だ。私は契約金として100万ゴールド、成功報酬で200万ゴールド受け取る約束をしていた」

「カイ・ユルゲン……」


 まさか。

 昨日一緒に熊鍋を食べた冒険者が今回の事件の犯人だったのだ。

 まるで通りすがりの冒険者の様に振る舞っていたが、奴らが犯人だったとは……。


「たった300万でドライアドの討伐? ベアトリクスは随分親切なデーモンなんだな」

「何を言ってるんだ? 300万は適正な価格だろう」

「いや、君はドライアドの価値を知らないんだろうね。そして冒険者達が何故デーモンの様な魔物を雇ってまでシュターナーを壊滅させたかったのかも」

「どういう事だ? 私は騙されていたのか?」


 ベアトリクスが頭を抱えると、ギレーヌがエールを差し出した。


「まぁ飲めよ」

「すまないな」


 ベアトリクスはエールを飲み干してから俺の肩に手を置いた。

 カイ・ユルゲンは王都に向かう前に捕まえておこう。

 デーモンに討伐禁止種の精霊の殺害を依頼したのだ。

 デーモンが王都でユルゲンの悪行を証言すれば、たちまちユルゲンを逮捕出来る。


「それで、ドライアドの価値とは何だ? ラインハルト・シュヴァルツ」

「ラインハルトで良いよ。俺が情報を提供したら、君はユルゲン達の居場所を教えてくれるのか?」

「私は他人との契約を守れない人間は何よりも嫌いだ。だからユルゲン達の居場所を教えてやる。一歩間違えれば私はラインハルトかそこの赤髪の女に殺されていただろう。それに、石の壁を作り上げている女も相当の手練れだ。こんな化け物揃いのパーティーと戦う事になったのはユルゲンのせいだからな」


 俺はドライアドの血が生命の秘薬の材料になる事をベアトリクスに教えた。

 勿論、アドリオンのオークションでの落札額も伝えた。


「5億ゴールド!? あの人間は私を300万ゴールドで働かせて自分達は5億ゴールドも稼ごうとしていた、という事なのか!?」

「そうだよ。だから君は足元を見られていたんだ。全く……Bランクのデーモン相手によくやるよ」

「5億……それじゃ、私が今すぐドライアドを殺せば、私は一夜にして大金持ちになれるな!」


 ベアトリクスの不用意な発言に対し、エリカが両手を向けた。

 黒い炎を溜めてベアトリクスを見上げ、鋭い三白眼を輝かせている。

 エリカの殺意を込めた禍々しい魔法に、ケットシー達が震え上がった。


「待て待て! 冗談だ……! ドライアドを狙ったりはしない!」

「冗談だと?」

「そうだ! 5億ゴールドのためにお前みたいな奴に恨まれたくないからな!」

「お前はなかなか相手の強さが分かる悪魔なのだな」

「今日は全くとんでもない日だ……ブラックドラゴンの固有魔法を操る少女とサンダーボルトを落とす女。そしてソロモン王から加護を授かった冒険者。お前達相手に無茶をやる程私は馬鹿じゃないんでね」


 ベアトリクスは恐れおののいた表情でエリカを見下ろしている。

 きっと金にならない事はしない主義なのだろう。


「5億ゴールドは稼げなくても、ユルゲン達を捕まえて王都の衛兵に引き渡せばまとまったお金を貰えると思うよ」

「それは本当か? いや、デーモンである私が王都の衛兵に人間を引き渡せる訳がないだろう?」

「それは俺に任せてくれ。ユルゲン達を捕まえて来てくれたら、俺が衛兵に引き渡すよ。勿論、報酬は全てベアトリクスの物で良い」

「何だって!? それではお前は何の得があるんだ?」

「別に得はないけど、人間を救うデーモンが居ても面白いだろう?」

「それはそうだな! 分かった、今すぐユルゲン達を捕らえて来よう」


 カイ・ユルゲンがハンナ・リヒター級の犯罪者なら懸賞金が掛かっているだろう。

 きっと日常的に犯罪を犯している冒険者に違いない。

 大金欲しさに出来心でケットシーの皆殺しをデーモンに依頼する者は居ないだろう。

 これは計画的犯罪なのだ。


 たまたま俺達がエステルと出会ったから犯行を防ぐ事が出来た。

 だが、俺達がシュターナーに居なかったら、今頃この村は壊滅していただろう。


 シュターナーの村長とエステルがやってくると、宴の準備が整ったと言ってくれた。

 どうやら俺達パーティーを歓迎する宴を開いてくれるらしい。


 ベアトリクス程の悪魔ならユルゲン達を捕まえる事は訳ないだろう。

 ユルゲン達は恐らくベアトリクスがこちら側に寝返ったとは考えてもいない筈だ。


「ラインハルトさん、ケットシー達の宴、楽しみですね!」

「そうだね。ユルゲンの方はベアトリクスに任せておけば大丈夫だと思うし、俺達は先に宴を楽しもうか」


 それから俺達は村長の自宅に招待され、ケットシー達と交流する事にした……。

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