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第五十五話「ケットシーの村に馬車を走らせていたら意外な犯人像が浮かび上がった件について」

 パーティーには一時的にエステルが加入した。

 シュターナーのブラックベア問題が解決するまでは行動を共にする事を決めたのだ。


「ラインハルト君って、旅の途中で出会う魔物を救ってるんだよね? だから僕の事も助けてくれるのかな?」


 黒猫にしか見えないエステルが首を傾げて俺を見つめる。

 身長百三十センチ程のエステルはパーティーで最も体が小さい。

 猫目の青い瞳が可愛らしく、形の整った耳と長い尻尾もチャーミングだ。


「そうだね……困っている魔物が居れば助けるのって冒険者として役目だと思うんだよ。俺はソロモン王から授かった加護によって全ての魔物の言語が理解出来るんだ。だからこの力を活用して俺にしか出来ない事がしたいんだ」

「全ての魔物の言葉を理解出来る力……?」

「ああ。エステルはクロノ大陸語が話せるから人間に助けを求める事も出来るけど、ギレーヌの時なんて結構大変だったんだよ」


 クロノ大陸で最も話者が多いクロノ大陸語。

 主に獣人や人間が使用する。

 どうやらケットシー族もクロノ大陸語を使用するらしい。


 酒呑童子とオーガは人間の言葉を理解出来なかった。

 人間と言葉が交わせれば、イステルの人達との誤解も生まれなかっただろう。


「ギレーヌは人間の事を好いていたし、困っている人間が居れば常に助けていた。だけど言葉が分からないから誤解されていたんだ。そこで鬼語が分かる俺がイステルの人達との仲を取り持って、オーガ達はイステルでの生活を始める事が出来た」

「それは魔物の言葉が理解出来るラインハルト君にしか出来ない事だね」

「そうだね。だから俺はこの力を使って窮地に陥っている魔物を救ったり、迫害されている魔物を救うつもりだよ」

「本当にラインハルト君は立派な冒険者だよ。僕みたいなケットシーに親身になってくれるんだから」


 エステルが手綱を握る俺の手に触れた。

 彼女の柔らかい肉球が手の甲に当たる。

 ぷにぷにしていて何とも心地良い。


 暫く馬車を走らせると、レーネが立ち止まって周囲を見渡した。

 また敵襲という訳か。


 深い森の中からゴブリンの群れが現れると、俺は瞬時に御者台に立った。

 四体のゴブリンに対して両手を向ける。


「ソーンバインド!」


 地面から茨を伸ばし、ゴブリン達の足を縛り上げる。

 移動が阻害されたゴブリンは腰に差していたダガーを引き抜き、茨を断ち切った。


 久しぶりにサシャの得意魔法を使おう。

 両手に火の魔力を集め、一気に放出する。


「ファイアボルト!」


 炎の矢でゴブリンの心臓を射貫き、続いて風の魔力を放出する。


「ウィンドショット!」


 風の塊を放ってゴブリンの腹部を強打。

 悶絶するゴブリンに対して駄目押しの一撃を放つ。


「サンダー!」


 手の平から雷撃を放ってゴブリンを吹き飛ばすと、エステルが呆然と俺を見つめた。


「ラインハルト君……? 今四属性も魔法使ったよね?」

「ああ、そうだよ」

「ラインハルト君ってサポーターなんだよね? 熟練の魔術師でも四属性もの魔法は使えないのに……本当に凄いよ!」

「俺は封印した魔物の属性と魔法を習得出来るんだ。俺自身が鍛錬を積んで習得した訳ではないよ」

「それでもゴブリンの群れを簡単に倒せるんだから、君は魔術師の素質を持っているんだね。確か、六属性の魔法が使えたら大魔術師の称号を得られるんだよね」

「俺は火、聖、地、風、雷が使えるから、あと一属性で大魔術師の称号が得られるのか。何だが不思議な気分だよ」


 ゴブリンの群れを討伐すると、俺はエステルと雑談をしながらひたすら馬車を進めた。

 ケットシーの村までは半日も馬車を走らせれば到着するとの事らしい。


「ラインハルト君、シュターナーは以前からブラックベアの襲撃を受けていたけど、最近は何者かが村に魔物をけしかけているのか、ブラックベア以外にもサイクロプスが村を襲う事もあるんだ」

「サイクロプスって確か、Cランク、地属性の魔物だったよね」

「そうだよ。ブラックベアと共に僕達の村を襲うんだ。どうやらサイクロプスはブラックベアを手懐けている様で、ブラックベアを引き連れて僕達の村を襲撃するんだ」

「エステルは何者かが意図的にシュターナーに魔物を襲撃させていると考えているんだね?」

「そうだよ。以前はブラックベアの襲撃なんて月に一度も無かった。だけど最近は毎日の様に村を襲うんだ。それに、サイクロプスの様な忌々しい魔物はこの辺りには生息していなかった。きっと誰かがサイクロプスを放ってシュターナーを壊滅させようとしているのだろうね」


 エステルが寂しそうに俯くと、俺は彼女の手を握った。

 馬車の家の扉が開き、俺達の会話を聞いていたエリカがエステルの隣に座った。

 今日は赤いドレスを身に着けており、優しい表情を浮かべてエステルを見つめている。


「エステル、これからどんな敵がお前に立ちはだかったとしても、ラインハルトならきっと解決出来る筈だ。私の主はまだ未熟で幼いが、他人を守る時には最高の力を発揮する」

「僕も、ラインハルト君ならシュターナーを救ってくれると信じているよ。まだ出会ったばかりだけど、君は将来、大魔術師になる男だ。いや、八属性を習得して賢者の称号だって得られるだろう」


 六属性を習得すれば大魔術師、八属性を習得すれば賢者の称号を得られる。

 属性は全部で八種類。

 火、水、地、風、雷、氷、聖、闇。


 俺はあと一属性で大魔術師の称号を得られるのだ。

 所属する冒険者ギルドで属性魔法を披露すれば、ギルドカードに称号が記入される。

 高位の魔術師は魔法学校の教員や王族の魔法顧問等の職に就く。

 だが俺は魔術師として活動するつもりはない。


「もし人間がサイクロプスにシュターナーを襲撃させていたとして、シュターナーを崩壊させるメリットはあるのだろうか」

「多分、ドライアドを殺すつもりなんだと思うよ」

「ドライアドの血液から生命の秘薬を作るつもりなのだろうか」


 エステルは首を傾げ、可愛らしく俺を見つめた。


「人間が求める生命の秘薬って、そんなに価値がある物なのかな。僕には若返りたいなんて欲求は無いから理解出来ないよ」

「以前は貴族連中が腕利きの冒険者を雇ってドライアドとドラゴンの討伐をさせていたらしい。魔物保護法でドライアドの討伐が禁止される前の話だけど」

「確か、現在ではドライアドの討伐は法律で禁止されているんだよね」

「そうだよ。討伐禁止種に制定されているから、ドライアドは保護対象の魔物なんだけど、それでもドライアドを狙う人間が後を絶たない」

「生命の秘薬を作るために僕達ケットシーを皆殺しにして、ドライアドを殺すつもりなんだね」

「恐らくは……」


 以前アドリオンで開催されたオークションでは生命の秘薬は5億ゴールドで落札された。

 5億ゴールドのためにケットシー達の村を落とそうとする者が居るのか……。


「ラインハルト君! 村が見えてきたよ……!」


 あれがケットシーの村か。

 小さな木造に住宅が立ち並ぶ田舎の村といった感じた。


 ブラックベアの襲撃を受けたのだろうか、村の外で倒れるケットシーの姿もある。

 それでも村自体は崩壊していない。

 まだサイクロプスとブラックベアは本格的に侵略を始めていないという事だろう。


「急いで村に入るぞ!」


 それから俺達はすぐにシュターナーの内部に入った……。

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