第五十話「イステルでの用事も済んだので、王都を目指して旅を再開しようと思う」
イステルで最も品揃えが豊富な武具屋に来た。
まずは素材の買い取りを頼もう。
俺はエリカが討伐したキマイラの素材と、ゴブリンロードの魔石を取り出した。
これを全て買い取って貰えば、武具を揃えてもお釣りが来るだろう。
「これはこれは! ゴブリンロードを討伐したシュヴァルツ様ではないですか?」
「はい、冒険者ギルド・レッドストーン所属のラインハルト・シュヴァルツです。実は仲間のための装備を探しておりまして。まずはキマイラの素材とゴブリンロードの魔石を買い取って貰いたいのですが、大丈夫ですか?」
「キマイラの素材!? それにゴブリンロードの魔石を買い取らせて頂けるんですか!?」
「はい」
カウンターに素材を置く。
店主が熱心に素材を見ている間、ギレーヌとサシャが武具を選び始めた。
他の仲間は特に武具は必要ないらしい。
皆自分自身の肉体に自信があるからだろう。
エリカは素手でキマイラを倒せるし、アナスタシアは自在に盾や茨を作り出せる。
ウィンドホースのレーネは武器を使うという概念すらない。
敵が居れば突撃するし、人間の姿では戦わない。
基本的に風の弓となって俺と共に敵を討つ。
「ラインハルトさん、私、杖を使ってみたいです」
「杖か……回復魔法の効果を高める杖なんて売ってないかな」
店主が査定を終え、買い取り金額を教えてくれた。
キマイラの素材と魔石、それからゴブリンロードの魔石。
合計200万ゴールド。
「シュヴァルツ様、杖をお探しでしたら、こちらのユニコーンの杖はいかがでしょうか?」
「ユニコーンの素材を使った杖ですか? 確かにユニコーンは聖属性の魔物ですし、聖属性の魔法効果を高める能力がありそうですね」
「シュヴァルツ様は杖にもお詳しいのですね。是非一度使ってみて下さい」
店主がフローラにユニコーンの杖を渡した。
長さ三十五センチ程。
素材はユニコーンのたてがみと角。
それから銀とミスリル。
フローラが青白い光沢を放つ杖を握った瞬間、金色の魔力が輝いた。
「ラインハルトさん、何だか杖が私に力を貸してくれているみたいです」
「ゴールデンスライムとユニコーンか。同属性だし、相性が良いのかもしれないね」
「はい! 私はこの杖が気に入りました!」
ユニコーンの杖は中級のマジックアイテムらしい。
値段は50万ゴールド。
俺はすぐに杖の購入を決めた。
サシャはショートソードとバックラー、それからライトメイルを選んだ。
武具を身に着けたサシャは新米の冒険者の様で可愛らしい。
「ラインハルト! あたしはこの武器にするぞ」
ギレーヌが楽しそうにメイスを振り回している。
戦士が使用する鋼鉄製のメイスは筋肉質なギレーヌによく似合っている。
棍棒に形状が近いからか、彼女はすっかりメイスが気に入った様だ。
それから防具を一式装備している。
鋼鉄のメイル、ガントレット、フォールド、グリーヴ。
冒険者歴五年の俺でも重量的に身に着ける事を躊躇する重装備。
「お客様……そちらの装備は女性には重量的に厳しいかと……」
「お前さん、もしかしてあたしの正体をしらないな?」
「は……? お客様の正体ですか?」
店主が戸惑うと、ギレーヌは普通の女性に見られた事が嬉しかったのだろう。
嬉しそうに俺を抱きしめると、店主が不思議そうに俺達を見つめた。
「彼女、酒呑童子なんですよ」
「え!? まさか! シュヴァルツ様がソロモン王から授かった力で封印したという事ですか?」
「俺の加護についてお詳しいんですね。その通りです」
「今やイステルでシュヴァルツ様の事を知らない者は居ませんよ。そうでしたか……あなたが酒呑童子でしたか。道理で男性用の装備を身に着けても軽々と動けている訳ですね」
「ああ、このフレイルもあたしの棍棒に比べれば随分軽い。こんなに短い鉄の棒でも魔物は狩れるんだろう?」
「勿論です。酒呑童子が前衛職として戦うパーティーですか……何とも贅沢ですな」
店主が関心しながらギレーヌの姿を眺めた。
それから素材の買い取り代金から商品の代金を支払い、俺達は店を出た。
サシャとギレーヌ、フローラの装備は合計で110万ゴールドだった。
「ラインハルト、俺はこれからビアンカと待ち合わせてるから、また後で会おう」
サシャと別れると、俺達はデニスさんの酒場に入った。
朝まで酒を飲み続けた冒険者達が気だるそうに水を飲んでいる。
「フローラ、朝食の準備を手伝ってくれるかな?」
「はい、任せて下さい!」
「レーネも手伝う」
俺はデニスさんに断って厨房に入り、すぐに朝食の用意を始めた。
こうしていると旅の生活を思い出す。
朝早くに起きて仲間の食事を用意し、ウィンドホースを走らせて森を進む。
早く旅の生活に戻りたい。
今日の昼にでも出発しようか。
イステルでの用事は済んだ。
必要以上に留まる必要もない。
それから俺はシュルスクを使ってパイを焼いた。
みずみずしい赤い果実を窯で焼き、平行してお稲荷さんとたこ焼きを作る。
フローラは冒険者達に焼きそばを振る舞っている様だ。
レーネはきな粉餅を用意してくれた。
デニスさんは新たな従業員であるオーガ達と雑談をしている。
オーガ達はデニスさんの店で住み込みで働きが決まった様だ。
料理を作り終えてからテーブルに運び、仲間達と共に朝食を頂く事にした。
ギレーヌは迎え酒だと言ってエールを飲み始めた。
俺はアナスタシアと共にお稲荷さんを食べる。
エリカは朝から大量のきな粉餅を食べ、すぐにおかわりを要求する。
口の周りにきな粉を付けながら、嬉しそうにきな粉餅を食べる彼女もまた可愛い。
「べ、別にラインハルトが初めて作ってくれた料理だからきな粉餅が好きだって訳じゃないんだからな! 勘違いするなよ!? 私は単純にもちもちが好きなのだ!」
「はいはい、エリカは素直じゃないんだから」
「お前が『どうしてもきな粉餅を食べて欲しい』と言うから食べてやってるだけなのだ! 心からきな粉餅が好きだって訳じゃないのだからな! 私はミネストローネも好きなのだ!」
「要するに、今晩はミネストローネが食べたいって事?」
エリカが頬を染めながら頷くと、俺は彼女の頭を撫でた。
「食べたい物があるなら素直に言えば良いのに」
「お前に食いしん坊だと思われたくないのだ……」
「いや、どう考えても食いしん坊だよね」
「食いしん坊は嫌いか……? お前は私の事が嫌いか……?」
「だから嫌いじゃないって。沢山食べる女の子も好きだよ」
「そうかそうか! 要するにお前は私の事が好きなのだな」
「そうだよ。俺はみんなの事が好きだ。落ちこぼれだったサポーターの俺を信じて付いて来てくれているんだから」
アナスタシアが俺に抱き着くと、幸せそうに目を瞑った。
「わらわもラインハルトの事が好きじゃ。王都までの旅も楽しみじゃの」
「ありがとう、アナスタシア。ところで皆、今日の昼にでも王都を目指してイステルを発とうと思うんだけど、予定とかは大丈夫?」
仲間達は特にイステルに用事が無いのか、俺達は昼に出発する事が決まった。
ギレーヌはオーガ達に挨拶をして回ると言い、一人で酒場を後にした。
王都ファステンバーグを目指す旅を再開するために、日用品などを買い足そう。
イステルでギレーヌと出会い、ゴブリンロードを討伐した。
この街に来てからあまりにも忙しく過ごしていたが、良い思い出と仲間が出来た。
俺はデニスさんにまた遊びに来ると伝え、仲間達と共に店を出た。
レーネをウィンドホースの姿に戻し、馬車の家に仲間を入れる。
それから市場まで馬車を走らせ、日持ちする食料等を買い込んだ。
固焼きパンや乾燥肉、ソーセージやチーズ。
たこ焼き用の冷凍したクラーケンの足。
減っていた調味料を買い足し、レーネのためのシュルスクの果実を買った。
ギレーヌは旅の間に大量の酒を飲むと思うので、ウィスキーやエールも買い込む。
馬車の家の中が荷物で一杯になった頃、ギレーヌがオーガを従えてやってきた。
オーガ達はギレーヌとの別れが悲しいのか、涙を流しながらギレーヌを抱きしめている。
そして、サシャ、ビアンカ、イザベラ、そして衛兵長のロイスさんも駆け付けてくれた。
「俺達は王都ファステンバーグを目指して旅を再開します。短い間でしたが、皆さんと一緒に戦えて楽しかったです。今度はゆっくり語り合いましょう! 俺はファステンバーグで最高の冒険者を目指します」
ゴブリン軍団との戦いに参加した衛兵や冒険者も集まってきた。
市民達も家から出てくると、俺達の出発を祝福してくれた。
魔法に心得がある者は杖を上空に掲げ、色とりどりの魔法を放った。
まるで美しい花火の様な魔法が、俺達の出発を祝う様に輝いている。
俺達は大勢の人達に見送られ、王都を目指して馬車を走らせた……。
※これにて第一章完結、次話からは第二章が始まります。
ここまで読んで下さった皆様、いつもありがとうございます。
連載開始から毎日平均三話のペースで更新を続けてきましたが、楽しんで頂けましたでしょうか?
「第二章? べ、別に書けたら読んでやってもいいぞ!」という方や、「わらわは続きが気になるぞい」という方は、是非評価をお願いします! 執筆活動の励みになります。




