第五話「ブラックドラゴンを封印したら黒髪姫カットのロリ巨乳になるなんて誰が想像出来た?」
今更だがエリカに切り裂かれた胸の痛みを思い出した。
ぱっくりと裂けた胸部からは大量の血が滴り落ちている。
「ラインハルトさん! すぐに回復をします!」
「頼むよ……」
力なく膝を着いてフローラを見上げる。
フローラはエメラルド色の瞳に涙を浮かべ、俺の傷に両手を向けた。
フローラの両手に金色の魔力が発生すると、何とも言えない心地良さを感じた。
「ヒール!」
強い魔力が胸部に触れると、瞬く間に傷が癒えた。
しかし、失った血は戻らない。
気分は優れないままだが、なんとかブラックドラゴンを餌付け出来た事が嬉しい。
「ラインハルトさん、エリカさんのための服はありますか?」
「ああ、鞄を開けてくれるかな? 俺はちょっと動けそうにないよ……」
フローラが鞄を開けると、俺は気分の悪さを堪えながら男物の服を取り出した。
それから服をフローラに渡すと、彼女はエリカに服を着せた。
「これがソロモンの力か。ラインハルト、お前はソロモンから加護を授かり、私を封印したのだな」
「封印?」
「そうだ。魔物を人間化する事を封印と言う」
エリカが心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。
近くで見ると改めて彼女の美しさに気が付いた。
黒髪姫カットのロリ巨乳。
釣り目気味の三白眼に輝く赤い瞳は人間とは異なる幻想的な美しさがある。
フローラはどちらかと言えばたれ目だが、エリカは釣り目なのだ。
「封印を解除したければ、封印解除と言えば良いとソロモンが言っていたぞ。さぁ、私を武器に変えてみるんだ。この私がお前の力になろう」
「良いのかい? 君を武装しても」
「ああ。力がなければ私を守れないだろう? それに、私はお前の力になりたいのだ。私が唯一信頼出来ると思った人間だからな」
「わかったよ。エリカ・武装」
瞬間、エリカの肉体が強い炎に包まれた。
炎の中から黒い金属から出来た刀が姿を現した。
空中に漂っている刀に右手を向けると、刀が近付いてきた。
爆発的な火の魔力を秘める刀を手にすると、エリカの力が体内に流れてきた。
勇者等とは比較にならない程の力強い魔力を感じる。
この剣は間違いなく上級以上のマジックアイテムだろう。
「ラインハルトさん、私も一緒に使って下さい」
「わかったよ。フローラ・武装!」
フローラの肉体が金色の光に包まれ、光の中から金色に輝くバックラーが現れた。
フローラは俺を守るための盾になり、エリカは俺に力を与えるために剣になった。
魔物によって変化する武器が異なるのだろうか。
それとも、俺に対する感情によって武器の形状が変わるのだろうか。
一度ギルドカードを確認しておこう。
『Lv.15 Dランク サポーター ラインハルト・シュヴァルツ』
属性:【火】【聖】
魔法:ファイア ファイアショット エンチャント・ファイア ファイアボール フレイム ヘルファイア ヒール ホーリー キュア リジェネレーション
召喚獣:Aランク・ブラックドラゴン Cランク・ゴールデンスライム
加護:ソロモン王の加護(言語理解・魔法習得・魔物封印・武器化・全属性魔法効果上昇) 黒竜の加護(火属性魔法効果上昇)
装備:国宝級・ソロモンの指輪(魔力回復速度上昇) 上級・闇払いの盾(闇属性魔法耐性上昇) 支配者級・黒竜刀(火属性魔法攻撃力上昇)
刀の名前は黒竜刀。
支配者級のマジックアイテムが秘める途方もない力に思わず胸が高鳴る。
勇者でも手に入れる事すら出来ない極めて強い力を持つ武器。
こんな武器があれば冒険者としてすぐに成り上がれるだろう。
Aランク・ブラックドラゴンの固有魔法であるヘルファイアの魔法が表示されている。
Bランク以上の魔物は全て固有魔法を持つ。
魔物の固有魔法は、決して人間では習得出来ない。
どんなに偉大な魔術師でも魔物の固有魔法は使用出来ない。
だが、俺はエリカを封印する事によってブラックドラゴンの固有魔法を習得した。
一体で一国を滅ぼす事が出来るAランクのブラックドラゴンの魔法を使えるのだ。
今の俺は勇者よりも遥かに高度な魔法が使用出来る。
これは大変な事になった……。
『ラインハルト、私の力を使うのだ。お前はまだまだ強くならなければならないからな』
「ああ。二人の力を借りるよ」
ギルドカードにはエリカが授けてくれた加護が表示されている。
Bランク以上の魔物は人間に加護を与えられるのだ。
そして、ソロモン王の様に並外れた魔法能力を持つ者も加護を授ける事が出来る。
黒竜の加護。
火属性魔法の効果が上昇するのだろう。
試しに黒竜刀に火の魔力を込めてみる。
「エンチャント・ファイア!」
瞬間、黒い金属から出来た黒竜刀が燃え上がり、殺人的な炎が武器を包み込んだ。
俺がエンチャントまで使いこなせるとは……。
黒竜刀を壁に向けて魔力を放出する。
「ファイアボール!」
魔法の詠唱と同時に切っ先から炎の球が飛び出し、超高速で壁に激突した。
炎の球が爆発すると、強すぎる攻撃魔法の威力に震え上がった。
魔法が自由自在に使えるとはこんなに爽快なのか。
『ラインハルト、魔法を使い続けてレベルを上げろ。私の魔法は高レベルになればなるほど効果が増す。強烈な攻撃魔法で一方的に敵を焼く尽くすのが私の戦い方だ』
『そうです、ラインハルトさん。魔力を鍛えましょう!』
レベルとは魔力を数値化したもの。
ランクは冒険者としての実力を表す。
クエストをこなし続ければランクを上げる事が出来るのだ。
俺は冒険者登録をしてから五年間、雑用ばかりしていた。
荷物持ちに料理係。
だから勇者と共に居てもランクは上がらなかった。
これから最高の冒険者を目指すのも良いかもしれない。
血を流して気分は優れないが、それでも自由自在に魔法を使える事に喜びを感じる。
俺は十七歳までファイアとファイアショットの魔法しか使えなかった。
だが、俺は全ての魔物の魔法を習得出来る可能性を得た。
黒竜刀を鞘に戻し、両手に魔力を込める。
借りるぞ……ブラックドラゴンの魔法。
「ヘルファイア!」
瞬間、途方もない大きさの炎が炸裂した。
人間では扱う事が出来ない黒い炎。
ブラックドラゴンのみが扱える、火属性魔法の中でも特に破壊力が高いヘルファイア。
Aランクの魔物の固有魔法を、Dランクの俺が自在に扱えるのだ。
魔力さえ上がれば本来の魔法の威力を引き出せる。
まずは徹底的にファイアボールを使い込もう。
それから俺は体力が尽きるまで延々とファイアボールを放った。
エリカに何度もダメ出しをされながら魔法の使用を続ける。
ブラックドラゴンから直々に魔法を教われるとはなんと光栄な事だろうか。
『ラインハルト! そろそろ魔法の稽古は良い。私にもスパゲッティとやらを食べさせてくれ』
『ラインハルトさん、私もお腹が空きました! スパゲッティが食べたいです!』
「わかったよ。フローラ、エリカ・武装解除」
瞬間、黒竜刀と闇払いの盾が輝いて人間化した。
魔物が人間になり、武器や防具になる。
ソロモン王の加護とは何と偉大なのだろうか。
「ペペロンチーノを作ろうか」
「ペペロン? それは何なのだ? 旨いのか? いや……旨いのだな? お前が作る料理はきっと全て私を感動させられる物なのだろう!」
「きっと気に入って貰えると思うよ」
「そうかそうか! それならすぐに作ってくれ! さぁ私のためにぺペロンとやらを作るのだ!」
「わかったよ」
エリカとやり合った後に魔法の訓練をしたからか、全身にひどい疲れを感じる。
それでも二人の美少女に囲まれて気分は高揚している。
「フローラ、スパゲッティを茹でてくれるかな?」
「はい! 任せて下さい!」
「ラインハルト……私には何か出来る事がないのか?」
元ブラックドラゴン、現在は身長百四十センチのロリ巨乳。
激しいギャップに萌えながらも俺はエリカの頭を撫でた。
「久しぶりに壺の外に出たんだろう? 手伝いなんてしなくて良いから休んでいてくれよ」
「そうか。まぁ……お前がそう言うなら私は休ませて貰おう」
「料理はすぐに出来るからね」
「うむ。それにしても人間が着る服とは随分苦しいのだな」
「男物の服だからかな」
「ブラックドラゴンである私に服は必要ないぞ」
エリカがおもむろに服を脱ぎ始めると、俺は彼女の裸体に目を奪われた。
魔物の時は服を着る習慣が無かったから、裸が恥ずかしいとは思わないのだろう。
だがフローラは自分が裸で居る事を恥ずかしがった。
魔物によっても性格が違うという事なのだろう。
形の良い豊かな胸に目が行く。
幼い見た目とは裏腹に、成熟した肉体が美しい。
恥じらいもせずに俺を見上げるエリカの美貌に見とれた。
勇者パーティーを追放されて良かった……。
「エリカ……服を着て貰っても良いかな?」
「どうしてだ? もしかして、私の体を見て興奮しているのか?」
「いや……興奮しない男とか居ないから。人間は服を着るものなんだよ」
「だが、この様な安っぽい服では私の美貌は引き出せないだろう?」
「今は我慢してくれよ。ダンジョンから出られたらきっと君に似合う服を用意するからさ」
「そうかそうか。そういう事なら暫くはこの服で我慢してやろう。せっかく人間になれたのだから、人間らしい振る舞いでも学んでみるか」
エリカは豊かな胸を隠しもせず、再びフローラに服を着せて貰った。
胸の大きさはフローラの方が大きいが、エリカもかなり大きい方だ。
少なくとも勇者パーティーに居た魔術師よりは大きい。
彼女はいつも胸の大きさばかり気にしていた。
勇者が巨乳好きだったからだ。
「料理を始めようか」
まずは二人に料理を食べて貰おう。
仲を深めるには一緒に食事をするに限るからな。
それから俺は早速ペペロンチーノ作りを始めた……。




