第四十七話「温厚なフローラがギレーヌに勝負を挑むなんて誰が想像出来た?」
フローラがゴブレットにエールを注いでくれたので、一気に飲み干す。
仕事の後の酒は格別だ。
酒場の雰囲気が良いからか、普段よりもお酒が随分美味しく感じる。
「ところでラインハルトや、ギレーヌを武器化した時、何やら不思議な力を持つハンマーに変化していたが、あれはどんな性質の武器なのじゃ?」
「俺もよく分からないな。一度武器化してからギルドカードで効果を確かめようか」
ギレーヌが俺の手を握ると、ルビー色の瞳を輝かせて俺を見つめた。
「ギレーヌ・武装」
瞬間、彼女の肉体が強い光を放った。
俺の手には赤い金属から出来たハンマーが握られている。
武器化の力とは何度使っても不思議なものだ。
まずはギルドカードで武器の名称と効果を確認する。
『Lv.35 Cランク サポーター ラインハルト・シュヴァルツ』
属性:【火】【聖】【地】【風】【雷】
魔法:ファイア ファイアショット エンチャント・ファイア ファイアボルト ファイアボール フレイム ヘルファイア ヒール ホーリー キュア リジェネレーション アース アースウォール エンチャント・アース ストーン ストーンウォール ストーンシールド ロックストライク ソーンバインド メタモールファシス ウィンド ウィンドショット エンチャント・ウィンド サンダー エンチャント・サンダー サンダーボルト
召喚獣:Aランク・ブラックドラゴン Aランク・九尾の弧 Bランク・酒呑童子 Cランク・ゴールデンスライム Dランク・ウィンドホース Dランク・ガーゴイル
加護:ソロモン王の加護(言語理解・魔法習得・魔物封印・武器化・全属性魔法効果上昇・全属性魔法耐性上昇・呪い無効) 黒竜の加護(火属性魔法効果上昇) 妖狐の加護(地属性魔法効果上昇) 鬼の加護(毒無効・麻痺無効・自己再生)
装備:国宝級・ソロモンの指輪(魔力回復速度上昇) 上級・鬼鎚(攻撃速度上昇・雷属性攻撃力上昇)
酒呑童子の固有魔法、サンダーボルトを習得している。
そして新たな加護も得た。
鬼の加護により、毒と麻痺を無効化し、自己再生の力を得た様だ。
自己再生とは酒呑童子の様な瞬間的に傷を癒す力だろう。
試しにナイフで指を切ってみる。
痛みを感じた瞬間、傷口が瞬時に塞がった。
これは便利な力だ……。
武器の名称は鬼鎚。
攻撃速度と雷属性の攻撃力を上昇させる効果がある。
鬼鎚は巨大な見た目とは裏腹に、魔力を込めると重量が軽くなる。
「ギレーヌ・武装解除」
ギレーヌは人間の姿に戻ると、エールを一気の飲み干した。
酒呑童子の彼女は兎に角酒が強い。
酒場に来て一時間も経過していないが、既に大量のエールを飲んでいる。
エリカが俺のギルドカードを手に取り、不思議そうに見つめた。
カードの表には俺自身のステータスが表示されている。
裏側には仲間のステータスが表示されているのだ。
久しぶりに仲間のステータスも確認しておこう。
『Lv.40 Cランク・ゴールデンスライム フローラ』
属性:【聖】
魔法:ヒール ホーリー キュア リジェネレーション
『Lv.80 Aランク・ブラックドラゴン エリカ』
属性:【火】
魔法:ファイア ファイアショット エンチャント・ファイア ファイアボール フレイム ヘルファイア
『Lv.82 Aランク・九尾の弧 アナスタシア』
属性:【地】
魔法:アース アースウォール エンチャント・アース ストーン ストーンウォール ストーンシールド ロックストライク ソーンバインド メタモールファシス
『Lv.25 Dランク・ウィンドホース レーネ』
属性:【風】
魔法:ウィンド ウィンドショット エンチャント・ウィンド
『Lv.63 Bランク・酒呑童子 ギレーヌ』
属性:【雷】
魔法:サンダー エンチャント・サンダー サンダーボルト
『Lv.21 Dランク・ガーゴイル サシャ』
属性:【火】
魔法:ファイア ファイアショット ファイアボルト
やはりアナスタシアの魔法能力は驚異的だ。
魔力もパーティーで最も高い。
戦い方の幅が最も広いのはアナスタシアだが、破壊力が高いのはエリカだ。
「私よりアナスタシアの方がレベルが高いとはな。いつかはアナスタシアに追いつきたいものだ」
「エリカはわらわよりも高い攻撃力をもっておる。今のままでも十分強いではないか……?」
「それはそうだが……私はまだ自分の実力に満足はしていない」
「わらわは今の自分に満足しておるぞ。勿論、この生活にもじゃ。わらわがこうして幸せに暮らせるのも全てラインハルトのお陰じゃ。いつも感謝しておるぞ」
「どういたしまして」
アナスタシアが柔和な笑みを浮かべると、俺は思わず胸が高鳴った。
彼女の優しさにはいつも支えられている。
精神的にも戦闘能力的にも常に余裕があるアナスタシアは俺の心の拠り所でもある。
「レーネも寝ちゃったし、そろそろ宿に戻ろうか」
「おいおい、お前さん。夜はこれからだってのにもう帰っちまうのか……?」
すっかり酔いが回ったギレーヌが俺を抱き寄せる。
物凄い力で引き寄せられ、俺の顔が彼女の豊かな胸の谷間に嵌る。
驚く程柔らかくて暖かい。
「ギレーヌさん、ラインハルトさんもお疲れみたいなので、私達は先に失礼しますね」
フローラが俺の手を握り、無理やりギレーヌから引き離した。
時々強引になるフローラの性格は嫌いではない。
普段はおしとやかだが、主張する時ははっきりと意見を言う。
「フローラ、あたしからラインハルトを奪おうってのか?」
「そうですね……奪います。だって今日は私と一緒に夜を過ごすんですから」
「おいおい、ゴールデンスライムが酒呑童子であるあたしに盾突こうってのか?」
「はい。ギレーヌさん、私と勝負しませんか?」
「おうおう、良いじゃねぇか。それで、どんな勝負だ?」
「そうですね……お酒の飲み比べでどうですか?」
「そいつは良い! おいマスター! 今すぐ追加の酒を持って来い!」
ギレーヌはオーガを束ねる頭らしく、荒々しい口調でデニスさんに指示をした。
デニスさんはフローラを心配そうに見つめ、テーブルにお酒を並べた。
ゴブレットになみなみと注がれたエールが三杯。
それからウィスキーが入ったグラスが一つずつ。
最後に葡萄酒が一杯ずつ。
これらをすべて立て続けに飲み、先に飲み干した方が勝ちなのだとか。
流石に人間ではこの量を短時間で飲み切る事は不可能。
俺が挑戦すれば二杯目のエールでギブアップするだろう。
ゆっくり飲むなら全て飲み切れるが、ウィスキーが難関だ。
「フローラ、あたしが勝ったらラインハルトは朝まであたしと酒を飲む。いいな?」
「はい。望むところです、ギレーヌさん」
フローラはやる気に満ちた表情を浮かべ、レーネは寝ぼけながらフローラを応援した。
ギレーヌが腕まくりしてエールが入ったゴブレットを持つ。
デニスさんが勝負の開始の合図をした瞬間、フローラが俺の手を握った。
「ラインハルトさん、私を元の姿に戻して下さい!」
「え……? 分かった! フローラ・封印解除!」
瞬間、フローラの肉体が金色の光で包まれた……。




