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第四十六話「一日で300万ゴールドも稼いだので、冒険者と衛兵にお酒をご馳走しようと思う」

 火の魔石に照らされたイステルの街を進む。

 さっきまでゴブリンの軍団と戦っていた事が嘘の様だ。


 今は大体九時頃だろうか。

 大通りでは一仕事終えた冒険者達が馬鹿騒ぎしている。

 戦闘に参加しなかった市民達もゴブリンロードの死を祝して宴を開いている様だ。


 デニスさんの酒場に入ると、ガチムチの店主が嬉しそうに俺の肩を叩いた。


「ラインハルト! やっぱりお前は偉大な冒険者だったんだな! まさかゴブリンロードの野郎を仕留めちまうとは思わなかったぞ!」

「冒険者と衛兵の力を借りて何とかゴブリン軍団を倒せましたよ。今日は客として飲み食いさせて貰いますね」

「今日もラインハルトに厨房を手伝って貰おうと思ってたが、仕方がねぇな。主役を働かせる訳にもいかん。誰か今日一日バイトしたい奴は居ないか!?」


 デニスさんが問いかけると、酒場に集まったオーガ達が一斉に反応した。

 元オーガ、現在は褐色の美女となった人間達が早速バイトを始めている。


 デニスさんは店の外に貼っていたバイト募集の張り紙を剥がした。

 彼女達はきっとこのままデニスさんの店で働き続けるだろう。


 席に着いてお酒と料理を注文する。

 エリカとギレーヌに挟まれて座り、暫く待っていると、オーガがエールを運んできた。


 ゴブリン軍団との決戦に参加した冒険者や衛兵が俺を見つめている。

 何故か俺が乾杯の音頭を取る雰囲気になっているのだ。


 俺はエールが入ったゴブレットを掲げ、酒場を見渡した。

 宴の開始を楽し気に待つ人達の笑みが眩しい。


「皆さん、今日は力を貸して下さってありがとうございました。皆さんとの出会いと、ゴブリンロードの討伐を祝して、乾杯!」


 乾杯の音頭を当時に歓喜の声が上がると、俺はエールを一気に飲み干した。


「あ、そうだ。今日の酒代は俺が支払いますから、皆さん好きなだけ飲み食いして下さい」


 俺がそう宣言すると、冒険者達が熱狂的な歓声を上げた。

 今回の戦いに参加した者達も、相応の報酬を受け取ったらしい。


 だが、ゴブリンロードを仕留めた俺が最も高額の報酬を受け取っている。

 せめて今日の酒代は俺が払おう。


 貯金は間もなく1000万ゴールドを超える。

 旅の支度で使い込んで仕舞ったが、リヒターを捕らえて500万ゴールド頂いた。

 そしてゴブリンロード討伐の300万ゴールドを受け取り、一気に大金を稼いだ。


 この調子ならレストランを持ちたいというフローラの夢もすぐに叶えられるだろう。

 勿論、まだまだ料理の腕は未熟だ。


 しかし時間ならたっぷりある。

 王都までの旅の間で料理の腕を磨けば良い。

 他人の喜ぶ顔が何よりも好きな彼女なら、きっと良い料理人になるだろう。


「ラインハルト、ゴブリンロードとの戦い、見事だったぞ」

「エリカが合図を送ってくれたから何とか戦いに間に合ったよ」

「それくらいはお安い御用だ。当分は毎日もちもちを作ってくれ。久しぶりに暴れたから疲れたぞ」


 鋭い三白眼を細めながら、口元に笑みを浮かべ、俺を見つめる彼女もまた美しい。

 全く……俺は何度エリカに助けられているのだろうか。

 早く彼女に追い付きたいと思うが、実力はまだまだ遠く及ばない。


「おいラインハルト、仲間を紹介してくれないか?」

「そうだね。まずは自己紹介しようか」


 ギレーヌが仲間を見つめると、フローラが勢い良く立ち上がった。


「私はゴールデンスライムのフローラです! ラインハルトさんとは迷宮都市アドリオンで出会いました。回復魔法が得意ですので、戦闘時には皆さんのサポートを担当しています」


 続いてレーネが立ち上がった。

 幼いレーネはもう睡魔が限界に達したのか、寝ぼけながらギレーヌを見つめた。


「ウィンドホースのレーネ……」


 非常に短い自己紹介を終えると、彼女は立ったまま眠り始めた。

 彼女はウィンドホースとしての特性を引き継いでいるのだろう。

 何とも器用な睡眠方法に仲間達が見とれている。


 アナスタシアがレーネを椅子に座らせ、毛布を掛けた。

 やはり彼女は仲間達の中でも一番面倒見が良い。

 エリカでさえアナスタシアの言いなりになるのだ。


「わらわは九尾の狐。地属性魔法の中でも防御魔法を得意としておる。戦闘時にはラインハルトを守る魔装となり、普段は若いメンバーを支えながら暮らしておる。よろしく頼むぞ、ギレーヌ」


 エプロンドレスを着た銀髪ミディアムボブのオッドアイ狐。

 エリカ程ではないが彼女も属性を盛りすぎている。


 サシャは酒場の隅でビアンカと共にジュースを飲んでいる。

 十二歳のビアンカはまだ未成年なのでお酒は飲めない。

 結局名前すら聞かなかった剣士は家にでも帰ったのだろうか。


 ヴィルフリートとイザベラは相変わらず仲良さげに手を握り合っている。

 イザベラもイステルでの生活を再開するらしい。

 勿論、ヴィルフリートと共に暮らすのだろう。


 サシャと視線が合うと、彼は嬉しそうにウィンクをした。

 後で一緒に温泉に入り、フルーツ牛乳をご馳走する約束をしている。


 続いてエリカが立ち上がると、彼女はギレーヌを見下ろした。

 いつも通り、両手を腰に添え、例の偉そうな表情を浮かべているのだ。


「私はブラックドラゴンのエリカだ。ソロモン王に封印され、千年間壺の中で暮らしていたが、ラインハルトに開放して貰った。ギレーヌよ、くれぐれもラインハルトに対して変な気を起こすなよ。ラインハルトは私を一生養う、一生私を愛すると誓ったのだからな」

「な……お前さんは何を言ってるんだ?」


 ギレーヌが困惑しながらエリカを見上げる。


「べ、別に私がお前にラインハルトを取られると思っている訳ではないぞ……! ただ、ラインハルトは私のものだと言っているのだ! くれぐれも私のラインハルトに手を出すなよ!」

「おいおい、あたしが出会ったばかりのラインハルトに手を出すって? まぁラインハルトは良い男だと思うし、これからあたしがラインハルトに惚れるかも知れねぇが、あたしは狙った獲物は力尽くでも奪わなきゃ気が済まねぇんだ」

「ほう……私からラインハルトを奪えるとでも思ってるのか?」

「おう。なんなら今から力比べでもするか? 勝った方がラインハルトを自分のものに出来るってのはどうだ?」

「いいだろう! 表に出ろ、格の違いを見せつけてやる」


 ギレーヌが立ち上がり、腕を組んでエリカを見下ろした。

 今まではエリカに対して真っ向から立ち向かう者は居なかった。


 アナスタシアはエリカが突っかかっても優雅に受け流す大人の余裕を持っている。

 フローラはエリカとは喧嘩にすらならない。

 レーネは誰とも一切争わないので、エリカと言い合いになった事も無い。


 だが、ギレーヌはエリカに近い性格をしているだろう。

 流石に長年オーガ達を従えていただけの事はある。

 エリカに睨まれても視線を逸らさず、禍々しい殺気を放っている。


「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。俺は酒の席で喧嘩を始める様な子には興味ないからね」

「え……? ラインハルトは私の事が嫌いなのか……? 興味がないのか……?」


 エリカは露骨に落ち込み、力なく椅子に座った。


「エリカの事は好きだし、尊敬もしているけど、お酒の席で暴れる様なら、俺は君を嫌いになるかもしれないよ」


 勿論、俺はそんな事ではエリカの事を嫌いになったりはしない。

 だが、彼女は場をわきまえずに我を通そうとする節がある。

 この機会にもう少し雰囲気を読む事を覚えて貰いたい。


「人間はこういう時、殴り合いとかしないのか? ブラックドラゴンのオスは力比べをしてメスを奪い合ったものだが……」

「しないよ」

「そうか……ラインハルトは私の事が好きなんだな? 嫌いになんてなってないよな……?」

「当たり前じゃないか」

「そうかそうか! やはりラインハルトは私のものという訳だな。どうだギレーヌ? 争う必要すらなかったぞ」


 ギレーヌはやれやれといった感じに肩をすくめた。

 新たな仲間が加わり、パーティーもますます充実してきた。


 そして何より嬉しいのが、俺の攻撃がゴブリンロードに通用したという事だ。

 もう勇者を支えていた頃の俺とは違う。


 この勢いのまま仲間を増やし続け、王都を目指して旅をしよう。

 だが今は仲間達との宴を存分に満喫したい……。

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