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第四十二話「遂に決戦の時が来たので、酒呑童子と共にゴブリンロードに引導を渡そうと思う」

 人生で初めてオーガに囲まれて酒を飲む。

 冒険者を目指して田舎を出て五年。

 俺はどうしてオーガ達と楽し気に酒を飲んでいるのか。


 だがこんな状況も悪くない。

 ソロモン王の加護により、オーガ達の言葉も分かる。


 こんなに愉快な事はない。

 他種族とも気軽に交流出来るのだ。

 心から冒険者になって良かったと感じた……。


「ラインハルト。お前さんは不思議な力を持ってるんだな。魔物を人間に変える事が出来るとは」

「ああ。俺はソロモン王から加護を授かっているんだ」

「ソロモン!? あらゆる悪魔を従えたという人間の王か!」

「そうだよ」


 左手の中指に嵌めたソロモンの指輪を見せる。

 ヴィルフリートとイザベラは相変わらずイチャ付いている。

 剣士とビアンカは部屋の隅でサシャと共に雑談をしている様だ。


 アナスタシアはデニスさんから頂いたエプロンドレスを身に着けた様だ。

 オーガが丸焼きにしたゴブリンを綺麗に捌き、オーガ達に与えている。

 まるでオーガ達の母親の様だ。


 フローラは酒呑童子のキッチンを借り、得意料理であるチャーハンを作っている。

 ゴールデンスライムのチャーハンはオーガ達に人気がある様だ。


 オーガ達は普段あまり料理をしないのだろう。

 涙を流しながらフローラのチャーハンを食べている。


 レーネは俺にべったりをくっつき、楽し気に俺の話を聞いている。

 俺は酒呑童子からエールを注いで貰い、ゴブレットに注がれたエールを飲み干した。

 爽やかな喉越しと麦の風味が何とも旨い。


 こんな時にエリカが居れば宴をもっと楽しめたのだが……。

 少し離れただけですぐにエリカに会いたくなる。


 俺は異性としてエリカを好きになっているのだろうか。

 それとも他の魔物娘と同様に、仲間として好意を抱いているのだろうか。


「子分共が人間になる事を望んでいるが、全て人間化する事は出来るのか?」

「ああ。問題ないよ」

「人間としてイステルで暮らすか……ヴィルフリートの奴も幸せそうだし、俺達みたいにゴブリンからも人間からも狙われる種族は、人間にでも姿を変えて暮らした方が楽って事なんだろうな」

「それもそうだろうけど、みんなオーガとしての人生に未練はないのだろうか……」

「無いだろう。お前は何もわかってない。人間を救うために行動しても人間は俺達を執拗に襲う。きっとあそこの剣士や魔術師も俺達を狩りに来たんだろう? この間もゴブリンロードからイステルを守ってやったのに、イステルの衛兵は礼も言わずに俺達に矢を放ちやがった……」

「城壁にサンダーボルトを落としたのは何かのミスなんだろう?」

「当たり前だろうが。俺達は昔から人間を守って暮らしていたんだ。イステルの温泉だって俺達が掘り当てたんだ。昔は俺もイステルで暮らしていた。だが、人間はイステルを温泉街として開発しちまった。すっかり人間の街になったイステルに俺の居場所はなかった……」


 酒呑童子が元々イステルで暮らしていた?

 エリカは酒呑童子が俺に危害を加える魔物ではないと確信していたのだろう。

 彼女の読みは正しかった。


「俺がイステルで暮らしていた時、ゴブリンロードの奴がイステルを襲撃してな。あいつは人間を人質に取りやがったんだ。そしてゴブリンロードはイステルを去った。俺は人間を守れなかった魔物として人々から批判され続けた。俺は批判に耐えきれなくなり、逃げる様にイステルを出て雷山で暮らし始めた……」

「そんな過去があったのか。だけど、ゴブリンロードはどうしてイステルを狙ってたんだ?」

「ラインハルトはイステルの泉質を知ってるのか?」

「確か、硫酸塩泉……?」

「そうだ。硫酸塩泉は傷を癒す効能がある。魔物同士の戦いではいかに早く傷を治し、次の戦いに備えるかが勝敗を決める。ゴブリンロードはこの辺り一帯を支配するためにイステルの温泉を手に入れようとしているのだろう」


 確かに、傷の湯とも言われているイステルの温泉を支配出来れば戦いは有利になる。

 単純に、ゴブリンは人間の肉を好んで食べるからイステルを襲っている可能性もある。


 仕事を終えたアナスタシアとフローラが俺の傍に座り込んだ。

 アナスタシアはすっかりエプロンドレスが気に入った様だ。

 九尾の狐のメイドとは贅沢なものだ……。


「ラインハルトさん、ここに居る全員を封印するんですか?」

「オーガ達が望むなら封印しようと思ってるよ」


 室内を見渡すと、視界に無数のステータスが浮かんだ。

 好感度の平均値は60パーセントを上回っている。


 自ら人間になりたいと望んでいるからだろうか。

 それとも俺達パーティーに心を許しているからだろうか。

 この調子なら数日中には封印出来そうだ。


 暫くお酒を飲んでいると、イステルの方角から巨大な爆発的な炎が上がった。

 人間の炎とは異なる黒い炎。

 あれは間違いなくエリカのヘルファイアだ。

 きっとエリカが俺に合図をしているのだろう。


「酒呑童子! 俺は一度イステルに戻るが、戦いの用意をしておいてくれ!」

「今日もゴブリンロードの野郎がイステルを襲撃してるってのか?」

「それはまだ分からない! ゴブリンロードがイステルを襲撃していたら、上空に炎の球を二回飛ばす! 異常がなければ三回だ」

「わかった。お前の合図を待とう。野郎共! 武器を持ってラインハルトの指示を待て!」


 サシャはここに残ってビアンカを守る事を決めたらしい。

 剣士は怯えてサシャの手を握っている。


 ヴィルフリートは棍棒を持ってイザベラの腰に手を回している。 

 流石に元オーガのヴィルフリートは戦いを前にしても動揺すらしない。


 俺達は慌てて外に出た。

 雷山からではイステルの様子は分からない。

 イステルに急行し、エリカが俺を呼んだ理由を確認しなければならない。


「フローラ、レーネ、アナスタシア・武装!」


 フローラの体が金色の光を放ち、闇払いの盾に変化した。

 そしてレーネは穏やかな風に包まれ、風の弓に変化した。

 最後にアナスタシアが妖狐の魔装に変化すると、魔装が俺の体を覆った。

 闇払いの盾を背負い、左手に風の弓を持つ。


「メタモールファシス!」


 九尾の狐の固有魔法を使用し、イフリートの姿に変化する。

 俺は創造神イリスからイフリートに変化する事を許可されたのだろう。

 世界を創造し、魔法と魔物を生み出した創造神が俺に力を与えてくれている。

 炎の精霊の姿に恥じない行動を取りたいものだ。


 巨大な翼を広げ、一気に飛び上がると、酒呑童子が地上から歓喜の声を上げた。

 彼は俺がイフリートに変化出来る事を知らなかったのだ。

 オーガ達も俺の姿を愕然とした表情を浮かべている。


 夜の空を飛び、エリカが待つイステルを目指す。

 暫く空を飛ぶと、地上にゴブリンの群れを発見した。


 グレートゴブリンが十四体、そして数えきれない程のゴブリンの群れ。

 軍団の先頭にはひと際体の大きいゴブリンが居る。

 あれがBランク、火属性のゴブリンロードか。

 黒い鎧を全身に纏い、クレイモアを担いでいる。


 慌てて上空に炎の球を二回放つ。

 雷山の方角から酒呑童子が返事をする様に雷撃を落とした。


 ゴブリンロードは上空に居る俺に気が付いたのか、両手を頭上高く掲げた。

 瞬間、炎の嵐が吹き荒れ、瞬く間に木々を燃やした。

 これがゴブリンロードの固有魔法、ファイアストームか。


 それから俺に対して地上に降りる様にジェスチャーをすると、俺は右手を敵に向けた。

 借りるぞ……ブラックドラゴンの魔法。


「ヘルファイア!」


 ゴブリンロードに向けて黒い炎を放つ。

 敵は俺の炎に狼狽しながら、クレイモアに火のエンチャントを掛けた。

 そしてヘルファイアに対して突きを放つと、俺が放った炎が一瞬で消滅した。


 これがBランクの魔物として生まれたゴブリンロードと俺の実力差か……。

 遠距離からでは仕留められそうにない。

 今はエリカとの合流を急ごう。


 イステル方面に進行するゴブリンの軍団を邪魔する様に、石の壁を作り上げる。

 こうすれば時間を稼げるだろう。


『ソーンバインドを使うのじゃ!』


 脳内にアナスタシアの声が響くと、俺はゴブリン達の足元に茨を作り上げた。

 敵の足に茨を絡ませ、更に攻撃を仕掛ける。


「ロックストライク!」


 ソーンバインドからのロックストライクはアナスタシアが得意とする戦い方だ。

 移動を阻害された状態で大岩を脳天に直撃して命を落とすゴブリンが数体。

 地上に居るゴブリンロードが怒り狂ってファイアボールを連発してきた。


 瞬間的に風の弓を構え、ファイアボールに向けて矢を放つ。

 必中の効果を持つ風の矢が飛ぶと、巨大な炎の球を貫いた。

 でたらめに矢を放っても地上に居るゴブリンの眉間を射貫く事が出来る。

 風の弓がこんなに使い勝手の良いマジックアイテムだとは思わなかった。


 まずはイステルに急行しよう。

 今は敵を足止めするだけで良い。


 街の冒険者を集めて衛兵に状況を伝え、ゴブリン軍団を駆逐する準備を始めよう……。

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