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第三十九話「アナスタシアが意外な過去を打ち明けてくれたので、これからも俺はアナスタシアを守ろうと思う」

 森で出会ったオーガに導かれ、雷山を目指して歩く。

 どうやら彼は俺達をオーガの村に招待してくれる様だ。

 まずは仲間の武装を解除しよう。


「フローラ、レーネ、アナスタシア・武装解除」


 瞬間、闇払いの盾と風の弓、妖狐の魔装が輝いて人間の姿に戻った。

 オーガは腰を抜かして俺を見つめ、二人の冒険者も愕然とした表情を浮かべている。


「あの……さっきは助けてくれてありがとうございます」


 黒髪ロングの魔術師が俺に頭を下げた。

 サシャはどうやらこの子の事が気になっている様だ。

 さっきから何度も見つめて恥ずかしそうにしている。


「お礼ならサシャに言ってくれるかな? 彼は君を守るために敵の攻撃を受けたんだよ」

「そうですね……ガーゴイルさん、私のために攻撃を受けてくれてありがとう」


 サシャは恥ずかしそうに俺の肩に飛び乗った。


「ラインハルト。俺、一目ぼれしたみたい……」

「本当? ガーゴイルの君が人間を好きになるなんて」

「種族なんて関係ないだろう? 今までは毎日爺さんの相手をしてたけど、これからは人間と恋愛をしてみたいな」

「人間の姿に戻そうか?」

「それも良いと思うけど……俺は人間になったら空を飛べなくなるからな」

「ゆっくり考えてみなよ。俺は君の恋愛を応援するよ」

「ラインハルトは本当に良い奴だな。今日も一緒に風呂に入って、フルーツ牛乳飲もうな! 勿論ラインハルトのおごりで」

「ああ、そうしようか」


 確かに種族なんて関係ない。

 俺は人間だが、魔物娘達の事が大好きだ。

 時には命懸けで俺を守ってくれ、俺を励ましてくれる彼女達が何よりも大切だと思う。


「ガーゴイルが君と出会えて嬉しいって言ってるよ。この子の名前はサシャ」

「本当ですか? 私も会えて嬉しいです。私は冒険者ギルド・ラサラス所属、Dランクの魔術師、ビアンカ・ルッツと申します」

「俺は冒険者ギルド・レッドストーン所属、Cランクのサポーター、ラインハルト・シュヴァルツだよ」


 ビアンカに対して握手を求めると、彼女は驚愕とした表情を浮かべた。

 それからゆっくりと俺の手を握ると、彼女は嬉しそうに俺を見上げた。


「シュヴァルツ様って迷宮都市アドリオンでソロモン王の宝物庫に到達した冒険者様ですよね!? 私、新聞でシュヴァルツ様の記事を見た時から憧れていたんです!」

「え? 新聞で?」

「はい! イステルではシュヴァルツ様の話題で持ちきりですよ! 確かノイラート王国の第一王女から直々にギルドに勧誘されて、レッドストーンに加入を決めたんですよね!」

「そうそう。俺の事をよく知ってるんだね」

「はい! 冒険者なら誰でもシュヴァルツ様の事を知ってると思いますよ。千年間も開かずの間になっていたソロモン王の宝物庫を発見、そして死のダンジョンでBランクのミノタウロスを単独で討伐! ずっと憧れていたシュヴァルツ様にお会い出来るなんて夢のようです!」

「俺はそんなに立派な人間じゃないけど……俺も会えて嬉しいよ。ビアンカ」


 ビアンカが俺の手を握って放さない。

 サシャは不機嫌そうに俺の耳に噛みついている。

 耳がちくちくと痛むが、甘噛をしているだけなのだろう。


「ラインハルト! どうしてお前の方がビアンカに好かれてるんだよ! 俺は命がけでゴブリンからビアンカを守ったのに!」

「まぁまぁ、嫉妬されても困るよ。それよりサシャ、怪我は大丈夫か?」


 サシャの体にはゴブリンの攻撃を受けて出来た傷がいくつも付いている。

 見ず知らずのビアンカを守るために、ゴブリンの攻撃を全身で受けた勇敢な男。


「シュヴァルツ様、その子は私を守るために怪我をしたので、私に治療させて下さい。傷薬もたっぷり持って来たんです」

「それじゃ、ビアンカにサシャを任せるよ」


 サシャは嬉しそうに俺の肩から飛び上がり、ビアンカの肩に飛び乗った。

 フローラは俺の手を握り、柔和な笑みを浮かべた。


「ラインハルトさんがヒールの魔法を使えば一発でサシャさんを癒せたのに、わざとビアンカさんに任せたんですか?」

「そうだよ」

「もしかして、サシャさんってビアンカさんの事が好きなんですか?」

「そうみたいだね。俺はサシャの恋を応援してるよ」


 先を歩いていたアナスタシアが振り返り、美しいオッドアイを輝かせて俺を見上げた。


「ラインハルトや、わらわはお主に恋をしているのじゃろうか? 一日中ラインハルトの事を考えている気がするのじゃ」

「……」

「これこれ、照れて黙り込まれてはわらわも恥ずかしいぞ。ラインハルトや、やはりお主は魔物を守れる人間じゃったな。ソロモン王が加護を授け、天界に住む創造神がイフリートの体を使う事を許可した理由も分かったかもしれぬ」

「俺はどうしてイフリートに変化出来るんだろうか……確かに俺はブラックドラゴンに変化するつもりでメタモールファシスを使用したんだけど」

「創造神イリスはお主はAランクのブラックドラゴンよりも、Sランクのイフリートに変化する事を許可したという事じゃろうな。変化魔法とは相手の容姿に変わる魔法。わらわが人間に憧れても人間になれなかった事にも理由があるのじゃ……」


 アナスタシアが寂しそうに俺の胸に顔を埋めた。

 オーガは道の先で立ち止まり、不思議そうに俺を見つめている。

 レーネは周囲を見渡し、道に生えている草を食べ始めた。


「いつかは告白しようと思っておった。ラインハルトや、わらわは過去に人間を殺めておる。じゃから、わらわがいくら望んでも、いくら憧れても人間にはなれんかったのじゃろう」

「アナスタシアが人間を……?」

「そうじゃ。わらわがまだ幼かった頃、冒険者の集団に囲まれた事があっての。わらわは生きるために必死じゃった。わらわを殺して名声を得ようとする冒険者を返り討ちにしたのじゃ……わらわは生きるために人間を殺めた……」

「それは仕方がない事だよ」

「うむ……どうしても人間から逃げられなかったのじゃ。恐らく、人間の間ではわらわは攻撃しても反撃すらしてこない魔物だと認知されていたのじゃろう。それ故わらわを狙う人間は随分多かったのじゃ」


 九尾の狐よりも格下のリヒター盗賊団がアナスタシアを狙っていた理由も理解出来る。

 アナスタシアは人間を極力殺したくなかった。

 だから人間から傷付けられても反撃しなかった。


 だが、人間はそんなアナスタシアの優しさに漬け込み、アナスタシアを追い詰めた。

 そしてアナスタシアは遂に反撃をし、初めて人間を殺めた。


「九尾の狐に勝てる筈もないリヒター達がアナスタシアを狙っていた理由も分かったかもしれない」

「うむ。わらわは甘く見られていたのじゃろう。わらわらは魔物じゃが、人間を襲う事は無かった。わらわは平和が好きじゃ。魔物達の笑顔が好きじゃ。わらわは争わずに暮らしていたいのじゃ……」

「これからは俺がアナスタシアを守るよ」

「ラインハルト……わらわはお主のものじゃ……」


 アナスタシアの言葉を聞いたフローラが俺からアナスタシアを引き離した。


「アナスタシアさん! ラインハルトさんを独り占めしてはいけませんよ」

「勿論じゃ。そんなつもりは毛頭ないぞ」

「それなら良いんですが……」


 暫く森を歩き続けると、俺達は遂にオーガと酒呑童子が暮らす村に到着した……。

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