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第三十八話「魔物を武装する加護と変化魔法の相性が良すぎる件について」

 冒険者の声が聞こえた方向に走り出す。

 深い森をウィンドホースで駆け回る事は困難なので、まずはレーネを武装する。


「レーネ・武装!」


 瞬間、ウィンドホースの体が穏やかな風に包まれた。

 ロングボウの形状をした風の弓を持ち、サシャの封印を解除する。


「サシャ・封印解除!」


 レイピアとマンゴーシュが炎に包まれ、サシャがガーゴイル姿に戻る。

 サシャは自分の体を不思議そうに触り、一気に飛び上がって俺達を先導した。


「ラインハルトさん! 私も武装して下さい!」

「わかった! フローラ・武装!」


 フローラの体が金色の魔力に包まれ、闇払いの盾に変化した。

 盾を背負うと、妖狐の魔装が闇払いの盾を包み込む様に固定した。

 自由自在に変化する魔装がバックラーの形状をした闇払いの盾をホールドしている。


 左手に風の弓を持ち、サシャの後を追うと、そこには凄惨な光景が広がっていた。

 ゴブリンの死骸が散乱しており、若い冒険者が二人、敵に囲まれて退路を失っている。


 六体のゴブリンと一体のグレートゴブリン。

 それから何故かオーガとグレートゴブリンを睨み合っている。


「なんだよ……この状況」

「サシャ、俺は冒険者を救うために攻撃を仕掛けるが、サシャはどうしたい?」

「俺は……逃げ出したいけど、人間が襲われているなら俺も戦う!」

「よく決意したね。それじゃ俺の攻撃に合わせてくれ」

「ああ!」


 風の弓をグレートゴブリンに向け、弓を引く。

 風の魔力から作り上げた矢を放ち、グレートゴブリンの肩を貫く。

 瞬間、サシャは炎の矢をゴブリンの眉間に打ち込んだ。


 十二歳程の男女。

 きっと冒険者登録をして間もない新米冒険者だろう。


 男の方は剣士なのか、震えながらロングソードを握りしめている。

 女は魔術師なのだろう、グレーのローブに金属製の短い杖を持っている。

 どうやら火属性の使い手なのか、杖の先端に炎を灯し、ゴブリンに向けて警戒している。


 体長二メートルを超えるグレートゴブリンは俺の存在に気が付いた様だ。

 緑色の皮膚をした巨体のゴブリン。

 オーガは俺が攻撃に合わせる様に、グレートゴブリンの顔面を殴った。


 もしかしてこの状況は、オーガが人間を助けようとしていたのではないだろうか?

 不意にグレートゴブリンと遭遇した人間を守るためにオーガが現れた。

 そう考えるとこの状況も不思議ではない。


 若い剣士がオーガに対して剣を振り上げた。

 剣士がオーガの足を切り裂くと、オーガは涙を流しながら膝を着いた。

 瞬間、グレートゴブリンが口を大きく開け、オーガに対して火炎を吐いた。


「危ない……!」


 慌てて飛び出し、闇払いの盾を構えてグレートゴブリンの火炎を受ける。

 赤い皮膚をした、グレートゴブリンよりも僅かに背が高いオーガが咆哮を上げた。

 全身の筋肉は発達しており、頭部からは二本の角が生えている。


 近くで見ると恐ろしいが、俺の事を敵ではないと判断したのだろう。

 口元に笑みを浮かべながら俺の肩に手を置いた。


「ありがとう……人間」


 彼が呟くと、五体のゴブリンが一斉に俺達を取り囲んだ。


「オーガ! 俺に力を貸してくれ。グレートゴブリンを仕留める!」

「お前は鬼語が分かるのか!?」

「そうだ、今は説明している暇はない!」

「いいだろう。忌々しいゴブリン族を駆逐してやる……」


 俺はオーガの足に右手を向けた。

 何度もフローラから教わり続けていた魔法でオーガを癒す。


「リジェネレーション!」


 金色の魔力がオーガを包み込むと、彼は完全に回復し、背負っていた棍棒を振り上げた。

 金属製の巨大な棍棒を振り回すと、三体のゴブリンを遥か彼方まで吹き飛ばした。


 剣士は不満気にロングソードを俺に向け、挑発する様に俺を睨みつけた。

 自分よりも遥かに若い少年に剣を向けられる日が来るとは……。


「おい! お前はどうしてオーガの味方するんだ! オーガはイステルを襲撃する魔物だぞ!」

「俺は自分の正義に従って行動しているまでだ。君はこの状況でグレートゴブリンが有利に戦える様にオーガを傷付けたいのか!?」

「オーガもグレートゴブリンも俺達人間の敵だろうが! どっちから先に倒しても良いんだよ!」


 剣士が吠えた瞬間、グレートゴブリンが剣士の体を持ち上げた。


「た、助けてくれ……! こんなところで死にたくない!」


 グレートゴブリンが口を大きく開き、剣士を喰らおうとした瞬間。

 俺は右手を地面に向け、地属性の魔力を込めた。


「ソーンバインド!」


 グレートゴブリンの足元から茨が伸び、剣士を持つ右腕に絡み付く。

 地面から伸びる茨がグレートゴブリンの行動を阻害している。


 魔術師の女が涙を浮かべながら後ずさりをすると、サシャが彼女の前に着地した。

 残る二体のゴブリンが魔術師に攻撃を仕掛けるや否や、サシャが炎を放った。

 魔術師を守る様にゴブリンを退ける彼の勇士に思わず胸が高鳴る。


「オーガ、君は剣士を奪還してくれ!」

「任せておけ。人間に手出しはさせん!」


 オーガが棍棒を振り上げ、グレートゴブリンの右肩に振り下ろした。

 静かな森に骨が砕ける音が響くと、グレートゴブリンが激昂して火炎を吐いた。


 瞬間的に右手をグレートゴブリンに向ける。

 借りるぞ……ブラックドラゴンの魔法。


「ヘルファイア!」


 禍々しい黒い炎を放出し、グレートゴブリンの火炎を掻き消す。

 グレートゴブリンは剣士を地面に落とすと、オーガが瞬時に剣士をキャッチ。

 オーガは剣士を地面に置くと、グレートゴブリンの背後に回った。


 棍棒でグレートゴブリンを殴りつけると、俺は留めの一撃を放つ事にした。


「メタモールファシス!」


 瞬間、肉体が炎に包まれ、イフリートの姿に変化した。

 武装は解除されておらず、体長三メートルを超えるイフリートサイズに変化している。


 以前から一度試してみようと思っていた。

 イフリートとしてどこまで戦えるのかを。

 エリカでは強すぎて自分の実力が測れない。


「イ、イフリートがどうしてここに……!」


 剣士が震えながらを俺を見上げている。

 サシャは遂にゴブリンを仕留めた様だ。

 若い魔術師を守り抜き、体中から血を流している。

 彼はやはり人間を守れる清い心を持つ魔物なのだろう。


 右の拳に炎を纏わせ、魔力と体重を乗せたボディブローを放つ。

 拳が敵の皮膚を貫き、強烈な炎が肉体を炎上させる。


 グレートゴブリンの体を殴り上げると、周囲に熱風が吹き、敵の体が消滅した。


「え……? なんだ……この威力は……」


 これがイフリートの力なのか?

 俺はこんなに強かったのか!?


 エリカ相手に本気で攻撃を仕掛けても、攻撃の効果が無い様に感じた。

 イフリートの体は少し力が強い程度だろうと思っていた。

 だが、俺は一撃でCランクのグレートゴブリンを爆死させたのだ。


『良い戦いじゃった。イフリートの体を使いこなせる様になったのじゃな』

『ああ、やっぱりオーガは人間を襲う魔物じゃなかったみたいだね』

『そうみたいじゃの。ラインハルトや、若い人間達が怯えているから変化を解除するのじゃ』


 メタモールファシスの魔法を解除し、本来の姿に戻る。

 人間の俺がイフリートになった事に驚いているのだろう。

 サシャもオーガも、若い二人も呆然と俺を見つめている。


 オーガが動揺しながら俺の肩に手を置いた。

 力強い雷属性の魔力を感じる。


「お前は……炎の精霊なのか?」

「俺は人間だよ。ただ、イフリートの姿を借りて戦う事が出来るんだ」

「信じられない男だな……俺達の頭以上の力を持ってやがる……」

「酒呑童子にも会わせてくれるかな。どうやら君達は人間を襲うつもりはないみたいだし」

「俺達が人間を襲う訳がないだろう? 道で迷っている人間が居ればイステルまでの帰り道を教え、腹が減った人間が居ればゴブリンの肉を食わせる。居場所がない人間は俺達の村に歓迎して、手厚くもてなす。なぜ俺達が人間を襲わなければならんのだ」

「オーガがそこまで人間好きだとは知らなかったよ」


 オーガが握手を求めるので、俺は彼の大きな手を握った。

 遂にオーガが人間の敵ではないと判明したのだ。


 まずはオーガを束ねる酒呑童子に会いに行こう……。

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