第三十七話「雷山を目指していたら新たな魔法とマジックアイテムを入手出来た件について」
イステルの西口を出て雷山を目指す。
破壊された城壁は地属性魔法に長けた魔術師が修復している様だ。
この調子なら数日中には修復出来るだろう。
イステルに残ったエリカはゴブリンロードの襲撃に警戒してくれている。
まずは酒呑童子の根城を偵察し、誘拐されている人間が居るなら奪還する。
「ラインハルト、もう一度言っておくけど、酒呑童子とオーガには決して手を出すなよ」「大丈夫。今日は偵察するだけだよ」
サシャが上空から俺達を見下ろし、ガーゴイル語で話しかける。
俺達の会話を理解出来ないフローラは不思議そうに首を傾げている。
フローラを抱きしめる要領で手綱を握り、ウィンドホースを走らせる。
「ラインハルトさん、危なくなったらすぐ私を武装して下さいね。私は闇払いの盾としてラインハルトさんを守りますから」
「レーネもラインハルトを守る。いつでもレーネを使ってね」
「ありがとう、二人とも。オーガを見つけたらすぐに武装して相手の出方を伺うよ。もし今日もイステルを襲撃するつもりなら、風の弓で先手を仕掛ける」
俺の言葉を聞いたサシャが慌てて俺の肩の上に着地した。
「おいおい、オーガに攻撃を仕掛けるって本気なのか?」
「ああ。もしイステルを襲撃するつもりなら、オーガと酒呑童子がイステルに到着する前に叩くよ」
「本気かよ……というより、ラインハルトは魔物と話せるんだから、オーガと話しをしてみたら良いんじゃないのか? ウィンドホースの言葉も理解出来てるみたいだし……」
「相手が対話を望むなら話はするよ。だけど、イステルの城壁を破壊する様な魔物が果たして俺との対話を望むかはわからない……」
オーガの足跡が付いた道を進み、雷山を目指す。
普段は常にエリカが傍に居てくれるが、今日はエリカが居ない。
彼女が居ないだけで何故か不安を感じる自分自身の弱さに気が付く。
やはり俺はどこかでエリカに依存していたのだろう。
エリカが居ればどんな敵にも負けないと思っている。
エリカに頼り切っている自分を変えるために、酒呑童子は俺が食い止めてみせる。
『ラインハルトや、もし酒呑童子がラインハルトを襲う様なら、わらわらは容赦せんからの。じゃが、敵が人間を襲う存在ではない場合、敵を討つ必要はなかろう。お主は他の人間とは違って、迫害されている魔物を救える男だと思っておる』
『ソロモン王が俺に指輪の使用を許可し、エリカを託してくれた意味は、もしかするとエリカと共に迫害されている魔物を救って欲しい、という事だったのかもしれないな……』
『うむ。じゃから、オーガの様な悍ましい容姿の魔物を見ても動揺せず、敵が人間に害がある存在なのかを見極めるのじゃぞ』
『ああ、わかってるよ』
アナスタシアとの念話を終えると、俺達は一度休憩をする事にした。
レーネに水を飲ませ、栄養を補給しなければならない。
小川でレーネに水を飲ませ、近くに生っていた果実をレーネに与える。
朝にシュルスクの果実を食べさせたから、体力にはまだまだ余裕があるみたいだ。
「ラインハルト、聞き忘れてたけど、お前って強いのか?」
「どうだろう、一応Cランクだけど、万年Dランクだったし、強くはないんじゃないかな」
「Cランクでは酒呑童子の討伐は不可能だろうな……それで、使える属性は何だ? 火属性か?」
「属性は火、聖、地、風の四属性だよ」
「おいおい、嘘言うなよ。四種類もの属性を使いこなせる冒険者がCランクな訳ないだろう? 俺を幼いガーゴイルだと思って馬鹿にしているのか?」
「いや、本当だよ。なんなら魔法を見せようか」
「おう、本当に四種類もの属性が使えるなら、俺は今すぐ爺さんの召喚契約を破棄して、ラインハルトの召喚獣になってやるよ」
サシャが怪訝そうな目つきで俺を見つめると、俺は左手を適当な木に向けた。
「ウィンドショット!」
風の魔力を飛ばして木に当てる。
レーネを封印した際に習得した攻撃魔法だが、使う機会がなかった。
これは攻撃速度も速くて使い勝手が良さそうだ。
続いて右手を地面に付け、魔力を込める。
借りるぞ……アナスタシアの魔法。
「ストーンウォール!」
瞬間、地面から石の壁がせりあがった。
サシャは動揺しているが、まだ二属性しか披露していない。
続いてサシャに両手を向ける。
フローラから学んだ回復魔法を使おう。
「リジェネレーション!」
サシャの体が金色の魔力に包まれ、持続的にサシャを癒し続けている。
傷を負っていない状態で使用しても効果はない。
だが、聖属性の魔力を浴びれば不思議と気分が良くなる。
「おいおい、これで三属性かよ……本当に四属性も使えるのか……!?」
「本当だよ。そしてこれが俺が生まれ持った属性、そしてエリカから学んだ最強の攻撃魔法だ」
上空に両手を向ける。
久しぶりにブラックドラゴンの固有魔法を使おう。
「ヘルファイア!」
両手から途方もない大きさの炎が飛び出した。
爆発的な黒い炎が上がると、周囲からオーガのうめき声が聞こえた。
どうやらこの辺りにオーガが潜んでいるのだろう。
「ヘルファイア!? これってブラックドラゴンの固有魔法じゃないのか!?」
「そうだよ。俺は魔物の固有魔法を使用出来るんだ」
「ありえない……Cランクの冒険者が四属性の使い手で固有魔法まで使えるなんて! よし決めた。俺はラインハルトの召喚獣になる!」
サシャが宣言すると、俺は地面に魔法陣を書いた。
召喚契約を結ぶための魔法陣を書くと、サシャが魔法陣の中に飛び込んだ。
既に召喚契約を結んでいる魔物が再び契約を結ぶと、自動的に契約が破棄される。
サシャが魔法陣に入った瞬間、契約の魔法陣が輝き周囲に眩い光を放った。
これでサシャは俺の召喚獣になったのだろう。
視界に映るサシャのステータスを確認する。
『Lv.21 Dランク・ガーゴイル 好感度:100%』
どうやら召喚契約を結んで好感度が100パーセントを超えた様だ。
通常は封印と同時に、自動的に召喚契約を結ぶ。
今回は召喚契約だけをして封印をしていない。
新たなパターンに戸惑いながらも、サシャに話しかける。
「サシャ、君は人間に憧れた事はあるかい?」
「俺が人間に? 変な質問だな。だけど時々、俺が人間だったらもっと楽にイステルで暮らせるんじゃないかと思う事はあるけどね」
「一度人間の姿になってみないか?」
「俺が人間に? 冗談だろう? 出来るならやってみてくれよ。全くラインハルトは訳が分からない事を言うんだな」
「それじゃ……サシャ・封印!」
瞬間、サシャの肉体が火の魔力に包まれ、十五歳程の少年が現れた。
黒髪のショートカット、目の色はガーゴイルの時と同じ青色。
全裸のサシャが愕然としながら自分の体を触っている。
「俺が人間になってる……!? どうなってるんだ!」
「驚くのも無理はないと思うよ。俺は魔物を人間化、武器化する力を持っているんだ」
「もうラインハルトが何を言っても驚かないよ。俺が人間になるとはな……もう爺さんや冒険者に舐められる事もないんだ。武器化って力も見せてくれよ」
「わかった。サシャ・武装!」
再びサシャの肉体が炎に包まれると、二本の剣が現れた。
どうやらレイピアとマンゴーシュの様だ。
確か右手にレイピアを持ち、左手にマンゴーシュを持って使う。
ギルドカードで武器の名称を確認する。
中級・烈火の双剣(攻撃速度上昇)という武器らしい。
サシャを封印した事により、ファイアボルトの魔法を習得している様だ。
炎の矢を放つガーゴイルの得意魔法。
まさかサシャを封印する事になるとは思ってもみなかった。
「ラインハルトさん! 向こうからオーガのうめき声が聞こえるんですが……冒険者と交戦しているんでしょうか?」
フローラが森を指さした瞬間、冒険者達の悲鳴が聞こえてきた……。




