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第三十五話「温泉に入ったら意外な魔物と知り合えたので、酒呑童子の根城まで案内を頼む事にした」

 宿に戻り、フローラとレーネと共に部屋に入る。

 アナスタシアとエリカは二人で部屋を使う事になっている。


 レーネはすっかり眠たくなったのか、立ったまま目を瞑って眠り出した。

 ウィンドホース時代の名残なのだろう。

 器用な寝方に関心しながらも、レーネの頭を撫でた。


「眠る前にフローラと一緒に温泉に入っておいで」

「うん……温泉入る……」

「フローラ、レーネを任せても良いかな?」

「はい、勿論ですよ」


 部屋にキマイラの素材を置くと、俺はソファに腰を下ろした。

 冒険者達の前で酒呑童子(しゅてんどうじ)を倒すと宣言をしてしまった。

 しかし、どうやってBランクの魔物を狩れば良いのか皆目見当もつかない。


 本当に酒呑童子が危険な魔物なら、エリカは俺に酒呑童子を任せたりはしない。

 だが、城壁にサンダーボルトを落としてイステルを攻撃した事も事実。


 Bランク、雷属性の酒呑童子の固有魔法、サンダーボルト。

 俺自身もメタモールファシスやヘルファイア等の固有魔法を使用出来る。


 オーガを従える酒呑童子と正面から衝突して勝てるのか。

 イフリートの姿で勝負を挑むべきなのだろうか……?


「考えていても埒が明かない……まずは温泉にでも浸かってリラックスしよう」


 浴衣に着替えてから部屋を出る。

 宿の一階にある大浴場の脱衣所に入り、浴衣を脱ぐ。


 脱衣所から大浴場に入ると、広々とした空間に息を呑んだ。

 天井は高く、石に囲まれたダンジョン内の様な雰囲気だ。


 人間以外にもガーゴイルの姿もあり、気持ち良さそうに温泉に浸かる魔物の姿に戸惑う。

 当たり前の様にガーゴイルが温泉に浸かっているのだ。


 体を洗ってから早速温泉に入る。

 どうやらイステルの温泉は硫酸塩泉の様で、傷を癒す効果がある様だ。


 傷を負った冒険者が湯に浸かり、心地良さそうに目を瞑っている。

 硫酸塩泉は火傷や切り傷等を癒す効能がある。


 暫く湯に浸かり、酒呑童子を倒す方法を考える。

 ふと、俺を食い入る様に見つめるガーゴイルが居る事に気が付いた。


 大理石の様な白い肌に青い瞳。

 お尻には尻尾が生えており、頭部からは二本の白い角が生えている。

 四本の爪は非常に鋭利で、背中からは翼が生えている。

 体長は四十センチ程。


 Dランク、火属性のガーゴイルは人間と共に魔物討伐をする事もある。

 火属性を持つ冒険者の中にはガーゴイルと召喚契約を結ぶ者も多い。


「良い湯だね」


 適当に話しかけてみる。


「はっ!? え……? お前はガーゴイル語が話せるのか?」

「そうだよ」

「おいおい……本当かよ。俺が人間と会話をしてるなんて」

「俺も不思議な気分だよ。ガーゴイルと話せるなんて」


 小さなガーゴイルが俺に近付いてきた。

 彼は俺の隣に腰を掛け、握手を求めてきた。


「俺の名前はサシャ。老いぼれの魔術師の相棒をしている」

「俺はラインハルトだよ。旅の冒険者だ」


 サシャの小さな手を握る。

 石の様な触り心地かと思ったら、思いの他柔らかい。


「随分深刻な表情をしていたな。何かあったのか?」

「実は、俺は今日この街に来たばかりなんだけど、酒呑童子を倒す事になったんだ」

「酒呑童子!? おいおい、自殺願望でもあるのか? あんな凶悪な魔物の相手したら命がいくつあっても足りないぞ」

「やっぱり皆そう思うよな」

雷山(かみなりやま)でCランクのオーガと共に暮らすBランクの酒呑童子。俺みたいな低ランクの魔物では勝負にすらならん」

「雷山って場所を根城にしているのか。これからもイステルを襲い続けるなら、早めに叩いた方が良いのだろうか……」


 サシャが青い瞳を見開いて俺を見上げた。


「お前は酒呑童子の恐ろしさを知らないからそんな事が言えるんだ! この街で暮らしていれば誰だって知ってるぞ。人さらいのオーガと酒呑童子の悪行はな!」

「それでも俺は酒呑童子に挑むつもりだよ。良かったら雷山まで案内してくれないか?」

「本気かよ……まぁ案内だけなら良いぞ。決してオーガや酒呑童子には手を出さないって条件なら案内してやる」

「今回はそれでいいよ」


 こうして俺は明日の朝、サシャと共に雷山に行く事が決定した。

 まずは敵情視察。

 ゴブリンロードの方はエリカが目を付けているから大丈夫だろう。


「ところで、ラインハルトって金は持ってるのか? タダでは案内しないぞ」

「ああ。いくら払えば良い?」

「雷山の往復で2000ゴールド!」

「え? 2000ゴールド?」

「いや……! 高すぎたのか!? それじゃ、1000ゴールド!」

「いやいや、むしろ安すぎて驚いていたんだけど。往復1万ゴールドでどうかな?」

「そんなに貰って良いのか!? お前は本当にいい奴だな! 俺のところの爺さんなんて俺が一日中働いても500ゴールドしかくれないんだぞ」

「それは流石に搾取しすぎなんじゃないかな……」


 こうしてサシャに支払う報酬も決まり、俺達は大浴場を出た。

 一階には売店もある様だ。

 温泉饅頭や温泉卵、風呂上がりの飲むフルーツ牛乳まで売っている。


「ラインハルト、フルーツ牛乳をご馳走してくれ」

「いいよ。一緒に飲もうか」


 一本100ゴールドのフルーツ牛乳を二つ購入する。

 サシャにフルーツ牛乳を渡すと、彼は目を輝かせてフルーツ牛乳を飲んだ。


 暫く売店の前で他愛のない話しをしていると、サシャの主が現れた。

 七十代程の白髪の魔術師。


「サシャ! お前はまた冒険者さんからフルーツ牛乳をご馳走して貰ったのか!?」


 サシャが不満げに魔術師を見上げる。

 それから俺の肩に飛び乗ると、魔術師に対して舌を出した。


「これは大変失礼しました。うちのサシャは冒険者さんにたかる癖がありまして……」

「別に気にしていませんよ。ところで、明日サシャをお借りしたいのですが、大丈夫ですか?」

「はい? サシャをですか? それは勿論構いませんよ。ですがサシャは私の召喚獣なので、使用料を払って貰いたいのですが……」

「え? 魔物を借りるのにお金を払わなければならないんですか?」

「はい」


 鋭い視線で俺を見つめ、サシャに仕事を頼むなら金をくれとせがむ魔術師。

 財布から5000ゴールドを取り出し、魔術師に渡す。


 しかし、素性すら知らない俺にサシャを貸してくれるとは。

 あまりサシャの事を大切にしていないのだろうか。


「これで大丈夫ですか?」

「勿論です。こんなに頂けて助かります……」


 サシャが不機嫌そうに魔術師の肩に飛び乗った。


「冒険者にたかってるのはうちの爺さんの方なんだ。だけど気を悪くしないでくれ」

「君も苦労してるんだな」

「ああ。まぁいつか金が貯まったら召喚契約を解除するよ。今は爺さんと居た方が金が掛からないからな」


 俺がガーゴイル語を話しているからか、老人は呆然と俺を見つめた。

 一礼してから売店を後にし、階段を上がってからフローラ達が待つ部屋に向かう。


 扉を開けると、丁度フローラが着替えをしている最中だった……。

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